1. はじめに
     

     全国規模での環境中のダイオキシン類調査については、平成9年4月に施行された改正大気汚染防止法に基づき、平成9年度から地方公共団体により大気環境モニタリングが実施されているほか、旧環境庁においても、平成10年度に「ダイオキシン類全国緊急一斉調査」(以下「10年度調査」という。)で大気、公共用水域水質、地下水質、公共用水域底質及び土壌について、平成11年度に「平成11年度公共用水域等のダイオキシン類調査」(以下「11年度調査」という。)で公共用水域水質、地下水質及び公共用水域底質について調査してきているところである。
     その後、平成11年7月にダイオキシン類対策特別措置法(以下「法」という。)が制定され、平成12年1月に施行されたが、法では、都道府県知事及び法の政令市(以下「政令市」という。)の長は、大気、水質(水底の底質を含む。)及び土壌のダイオキシン類による汚染の状況を常時監視し、その結果を環境大臣に報告することとされた。
     これにより、法に基づく常時監視として、平成12年度から全国的に、大気、公共用水域水質、地下水質、公共用水域底質及び土壌のダイオキシン類に係る調査が実施されている。
     これは、平成12年度に実施されたダイオキシン類常時監視の結果として、都道府県知事等から環境大臣に報告されたダイオキシン類環境調査結果等を取りまとめたものである。
     
     
  2. 調査地点数及び検体数
     

     平成12年度の各環境媒体における調査地点数及び検体数を表1に示した。いずれの媒体においても、これまでにない大規模な調査となった。
    (1) 大気
     平成12年度の大気調査は、全国961地点、3,605検体について行われた。
     これらの調査地点は、平成9年度から大気汚染防止法に基づきダイオキシン類のモニタリングが実施されてきた地点を考慮して、都道府県及び政令市により選定され、調査が実施されたもののほか、環境省自らが定点調査している地点及び大気汚染防止法政令市が独自に調査している地点を含んでいる。
     また、961地点のうち920地点において、夏期及び冬期を含む年2回以上の調査が実施された。
     なお、大気調査における地域分類(一般環境、発生源周辺及び沿道)別の都道府県別調査地点数(環境省の定点調査地点数及び大気汚染防止法政令市が独自に実施した調査地点数を含む。)は別表1のとおりである。
     
    (2) 公共用水域水質
     平成12年度の公共用水域の水質調査は、全国2,116地点(河川1,612地点、湖沼104地点、海域400地点)、2,424検体について行われた。
     これらの調査地点は、水域を代表する地点を原則としつつ、ダイオキシン類の発生源及び排出水の汚濁状況、水域の利水状況等を考慮して、都道府県及び政令市により個別水域ごとに効果的な監視のできる地点として選定され、都道府県、政令市、水質汚濁防止法政令市のほか、一級河川のうち国の直轄管理区間については国土交通省地方整備局等によって調査が行われた。
     なお、都道府県別調査地点数は別表2のとおりである。
     
    (3) 地下水質
     平成12年度の地下水質調査は、全国1,479地点、1,486検体について行われた。
     これらの調査地点は、ダイオキシン類の発生源周辺及び地下水の利水状況等を考慮して、都道府県及び政令市により地域の地下水質の概況を把握できる地点として選定され、調査が行われた。
     なお、都道府県別調査地点数は別表2のとおりである。
     
    (4) 公共用水域底質
     平成12年度の公共用水域の底質調査は、全国1,836地点(河川1,367地点、湖沼102地点、海域367地点)、1,887検体について行われた。
     これらの調査地点は、公共用水域の水質調査地点と同一地点を原則としつつ、都道府県及び政令市により水域を代表する地点等として選定され、都道府県、政令市、水質汚濁防止法政令市のほか、一級河川のうち国の直轄管理区間については国土交通省地方整備局等によって調査が行われた。
     なお、都道府県別調査地点数は別表2のとおりである。
     
    (5) 土壌
     土壌の常時監視では、地域における土壌中のダイオキシン類濃度の状況を効率的に把握するとともに対策の実施が必要な地域を早期に発見するために、以下のような調査を通じ汚染の実態を把握することとしている。
     
     ア  地域概況調査
    (ア) 一般環境把握調査
     一般環境における土壌中のダイオキシン類濃度の状況を把握するための調査
    (イ) 発生源周辺状況把握調査
     廃棄物焼却施設等のダイオキシン類を発生し排出する施設(発生源)周辺において、一般環境の土壌への影響を把握するための調査
    (ウ) 対象地状況把握調査
     既存資料等の調査により、ダイオキシン類による汚染のおそれが示唆される対象地の状況を把握するための調査
    調査指標確認調査
     調査指標値(250pg-TEQ/g)以上の地点が判明した場合、その周辺におけるダイオキシン類濃度を把握するための調査
    範囲確定調査
     土壌環境基準(基準値;1,000pg-TEQ/g以下)を超える地点が判明した場合、環境基準を超える土壌の範囲及び深度を確定するための調査
    対策効果確認調査
     汚染の除去等の対策を実施した場合、その効果を確認するための調査
    継続モニタリング調査
     調査指標値以上の地点において、土壌中のダイオキシン類濃度の推移を把握するため、3〜5年間をおいた後に実施する調査
     
     平成12年度は、これらの調査のうち、地域概況調査、調査指標確認調査及び範囲確定調査が全国3,187地点、同数の検体について実施された。これらの調査地点は、都道府県及び政令市により選定され、調査が行われた。
     このうち、一般環境把握調査及び発生源周辺状況把握調査が3,031地点において実施された。
     なお、都道府県別調査地点数は別表3のとおりである。
     
     
  3. 測定対象物質及び測定結果の表示方法
     

     ダイオキシン類(PCDD、PCDF及びコプラナーPCBのうち参考に示す異性体)を測定対象とし、測定結果は毒性等量(TEQ)で示した。各異性体の毒性等価係数(TEF)はWHO−TEF(1998)によった。
     毒性等量の算出方法は、媒体ごとに以下のとおりである。
    (1) 大気、公共用水域水質、地下水質及び公共用水域底質
     定量下限以上と定量下限未満で検出下限以上の値はそのままその値を用い、検出下限未満のものは検出下限の1/2の値を用いて各異性体の毒性等量を算出し、それらを合計して毒性等量を算出する。
    (2) 土壌
       定量下限以上の値はそのままその値を用い、定量下限未満の値は0として各異性体の毒性等量を算出し、それらを合計して毒性等量を算出する。
     
     
  4. 測定方法
     
    (1) 大気
     「ダイオキシン類に係る大気環境調査マニュアル」
     (平成12年6月 環境庁大気保全局大気規制課)
    (2) 公共用水域水質及び地下水質
     JIS K 0312
     (工業用水・工場排水中のダイオシン類及びコプラナーPCBの測定方法)
    (3) 公共用水域底質
     「ダイオキシン類に係る底質調査測定マニュアル」
     (平成12年3月 環境庁水質保全局水質管理課)
    (4) 土壌
       「ダイオキシン類に係る土壌調査測定マニュアル」
     (平成12年1月 環境庁水質保全局土壌農薬課)
     
     
  5. 調査結果
     
     平成12年度の各環境媒体における調査結果を表1に示した。
    (1) 大気
     大気については、夏期及び冬期を含む年2回以上の調査が実施された地点についてのみ、年間平均値を環境基準により評価することとしている。これらの調査地点は全国
     920地点あり、ダイオキシン類濃度の平均値は0.15pg-TEQ/m3、濃度範囲は0.0073〜1.0pg-TEQ/m3であった。
     大気環境基準(基準値;年間平均値 0.6pg-TEQ/m3以下)と比較すると、一般環境については705地点中4地点、発生源周辺については189地点中6地点で環境基準を超過していたが、沿道26地点についてはすべて環境基準を達成しており、合計すると、920地点中10地点(1.1%)で環境基準を超過していた。 また、平成11年度の大気環境モニタリング調査結果(463地点中7地点(1.5%)で環境基準を超過)と比較すると、環境基準超過地点の割合は0.4ポイント減少した。
     なお、961地点中41地点については、夏期及び冬期を含む年2回以上の調査が実施されていないため、年間平均値を算出して環境基準により評価することが適当ではないが、ダイオキシン類の大気中の濃度を把握する上で貴重な情報となる。このため、これらの地点も含めた濃度分布を図1に示した。  
     大気汚染防止法に基づく大気環境モニタリング以降のダイオキシン類の大気調査の推移を表2に示した。 全国のダイオキシン類濃度の平均値の経年変化をみると、平成9年度0.55pg-TEQ/m3、平成10年度0.23pg-TEQ/m3、平成11年度0.18pg-TEQ/m3、平成
     12年度0.15pg-TEQ/m3となっており、平成10年度以前はダイオキシン類のうちPCDD及びPCDFのみの調査であり、かつ毒性等量の算出方法が異なり、また、同一地点の経年変化ではないものの、ダイオキシン類濃度には低下傾向が見られる。
     PCDD及びPCDFについて、平成9年度から平成12年度にかけて環境省及び地方公共団体が継続して調査を実施している地点における濃度の推移を表3及び図2に示した。
     継続調査地点は全国43地点あり、これらの地点における平成12年度のPCDD及びPCDFの平均値は、平成9年度の0.53pg-TEQ/m3に比べ大幅に減少し、0.23pg-TEQ/m3であった。
     なお、毒性等量の算出にあたっては、平成11年度以降の調査分については、WHO−TEF(1998)を、平成10年度以前の調査分については、I−TEF(1988)を用いている。
     
    (2) 公共用水域水質
     公共用水域の水質については、全国2,116地点 で調査が行われ、ダイオキシン類濃度の平均値は0.31pg-TEQ/l、濃度範囲は0.012〜48pg-TEQ/lであり、 83地点(3.9%:河川80地点、湖沼2地点、海域1地点)で水質環境基準(基準値;年間平均値 1pg-TEQ/l以下)を超過 していた。濃度分布を図3に示した。  
     11年度調査結果(全国568地点、平均値0.24pg-TEQ/l、濃度範囲0.054〜14pg-TEQ/l、10地点(1.8%)で環境基準を超過)と比較すると、調査地点数の大幅な増加により濃度範囲は広がり、平均値も高くなった。また、環境基準超過地点の割合も 2.1ポイント増加した。
     
    (3) 地下水質
     地下水質については、全国1,479地点で調査が行われ、ダイオキシン類濃度の平均値は0.097pg-TEQ/l、濃度範囲は0.00081〜0.89pg-TEQ/lであり、全地点で水質環境基準(基準値;年間平均値 1pg-TEQ/l以下)を達成していた。濃度分布を図4に示した。
     11年度調査結果(全国296地点、平均値0.096pg-TEQ/l、濃度範囲0.062〜0.55pg-TEQ/l)と比較すると、調査地点数の大幅な増加により濃度範囲は広がったが、平均値は概ね同程度であった。
     
    (4) 公共用水域底質
     公共用水域の底質については、全国1,836地点で調査が行われ、ダイオキシン類濃度の平均値は9.6pg-TEQ/g、濃度範囲は0.0011〜1,400pg-TEQ/gであった。濃度分布を図5に示した。
     11年度調査結果(全国542地点、平均値5.4pg-TEQ/g、濃度範囲0.066〜230pg-TEQ/g)と比較すると、調査地点数の大幅な増加により濃度範囲は広がり、平均値も高くなった。
     
    (5) 土壌
     土壌については、一般環境把握調査及び発生源周辺状況把握調査が全国3,031地点において実施され、ダイオキシン類濃度の平均値は6.9pg-TEQ/g、濃度範囲は0〜1,200pg-TEQ/gであり、1地点(0.03%)で土壌環境基準(基準値;1,000pg-TEQ/g以下)を超過していた。濃度分布を図6に示した。
     10年度調査結果(全国286地点、平均値6.5pg-TEQ/g、濃度範囲0.0015〜61pg-TEQ/g)と比較すると、調査地点数の大幅な増加により濃度範囲は広がったが、平均値は概ね同程度であった。
     一般環境把握調査(1,942地点)では、平均値は4.6pg-TEQ/g、濃度範囲は0〜280pg-TEQ/gであった。また、発生源周辺状況把握調査(1,089地点)では、平均値は11pg-TEQ/g、濃度範囲は0〜1,200pg-TEQ/gであった。
     この他に、対象地状況把握調査(9か所76地点)及び調査指標確認調査(6か所27地点)が実施され、2か所において環境基準を超過する地点が判明し、このうちの1か所を含む2か所53地点において範囲確定調査が行われた。
     
     
  6. まとめ
     
    (1) 調査結果の評価
     地下水質では、すべての地点で環境基準を達成していたが、大気、公共用水域水質及び土壌では、それぞれの環境基準を超過した地点が、また、公共用水域底質では比較的高濃度の地点が明らかとなった。このほか、土壌では環境基準は達成しているものの調査指標値以上であった地点も判明した。
     大気については、過去の調査結果と比較すると平均値に低下傾向が見られた。
     公共用水域水質及び底質並びに土壌については、いずれも最大値が過去の調査結果より高い値となっていたが、これは調査地点数が大幅に増加したためと考えられた。また、  公共用水域水質及び底質については、平均値や水質環境基準超過地点率も高くなっていたが、これは一部の調査地点が、これまでの調査の結果からダイオキシン類汚染が明らかとなった地点を考慮して選定されていることも影響していると考えられた。
     これらのことから、大気以外の媒体については、単純に過去に実施された全国調査結果と比較して経年的な濃度変化を論ずることはできない。
     
    (2) 今後の取組
       現在、法に基づきダイオキシン類の排出規制等が実施されており、今後とも法の適切な運用により、ダイオキシン類の環境中への排出の一層の低減に努めることとしているが、常時監視についても、その適正かつ効果的な運用を図り、環境中のダイオキシン類濃度の実態及びその推移を的確に把握することを通じて、対策の効果の確認、未知の発生源の把握等に資する必要がある。
     環境基準を超過した地点等については、各地方公共団体において、現在、所要の調査、対策が検討され、一部地点では既に取組が行われているところであるが、平成13年度以降の常時監視においても、これらの地点を考慮して、環境調査が実施されることとなる。
     なお、公共用水域底質については、現在、底質環境基準の設定について検討中であるが、本調査結果も参考とすることとしている。