有害大気汚染物質に関する自主管理計画の評価について
 
平成13年12月19日
中央環境審議会大気環境部会
排出抑制専門委員会
 
1. 背景
 
   平成8年5月に改正された大気汚染防止法により導入された有害大気汚染物質対策の推進に関する制度の一つとして実施されてきた事業者による自主管理などの取組につき、中央環境審議会において、これまでの実績を評価し、今後の対策の在り方について審議され、「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(第六次答申)」(以下「答申」という。)が平成12年12月にまとめられた。
 答申においては、事業者の自主管理による取組は、数多くの企業の参加により、利用しうる対策技術に応じた柔軟な排出削減対策が促進されたこと、全国レベルでは環境濃度の低減が見られたこと、といった点で大きな成果を挙げたという評価がなされた。その一方、業界単位による実績報告であったこともあって、必ずしも、環境リスクの高い地域で適切な排出削減が行われたとは限らず、地域の状況に応じた対応を図るという面では課題が残るという評価がなされた。
 これらの評価に基づき、事業者による自主管理については、これまでどおり全国を単位として業界ごとに排出量削減を実施し、その状況を行政が評価するという形で、その取組を継続することに加えて、環境基準に照らし高濃度状態が継続している地域が顕在化しているベンゼンについて、これまで実施してきた全国を単位とした業界ごとの事業者による自主管理に加え、工場・事業場からの排出が相当程度寄与して高濃度となっている地域を単位とした事業者の自主管理による取組を行っていくこととされた。
 この具体的枠組みとしては、一定地域内の事業者が単独に又は共同して排出抑制に係る自主管理計画を策定し、この計画の中で排出削減目標量及びその達成のために講じる措置等を明示すること、それぞれの事業者による取組の成果の報告と、これについての地方公共団体及び国による評価を毎年実施すること、並びに自主管理計画及びその実施状況の公表とリスクコミュニケーションの実施を行うことが答申において掲げられている。
 答申の内容を具体化するため、環境省及び経済産業省により、平成13年6月に「事業者による有害大気汚染物質の自主管理促進のための指針」(以下「指針」という。)が改正され、経済産業省を通じて関係業界団体に示されるとともに、環境省を通じて地方自治体に通知された。指針では、平成15年度の排出削減目標量を明示した自主管理計画を策定することのほか、5地域を対象としてベンゼンに係る地域自主管理計画を策定すること等が盛り込まれている。
 今般、答申及び指針に沿って業界団体の自主管理計画及び地域を単位とした自主管理計画が提出されたことを受けて、これらの自主管理計画について評価を行った。
 
 
2. 業界団体の自主管理計画の内容及び評価
 
  自主管理計画の策定等
     指針において自主管理を行うこととされた12物質※を対象として、業界75団体から合計36の自主管理計画が提出されている。自主管理計画における各物質ごとの排出量等を別紙1に、各物質ごと各業界団体ごとの排出量等を別紙2に示す。
 各業界団体の自主管理計画についてチェック・アンド・レビューを行ったところ、排出削減目標量は、第1期(平成9年度から平成11年度)のように、基準年に比べて各物質とも削減率で概ね30%を目標としたものではなく、これまでに措置した対策の内容、大気への排出量の削減実績等を踏まえて、第2期(平成13年度から平成15年度)の目標を設定しており、物質ごとで大きく異なるものとなっているが、各自主管理計画の内容は概ね妥当なものと評価する。
 自主管理対象事業所全体でみると、対象12物質の平成15年度の大気排出量目標値は、単純加算で約2.3万トンであり、基準年度(平成11年度)の大気排出量約3.8万トンと比較して、約1.5万トンの削減量(削減率で約40%)となっている。
 既に第1期に当初の排出削減目標量を大きく上回る実績(削減率で41%)をあげ、さらに、第2期において第1期の削減率実績と同程度の目標を掲げ、引き続き排出削減に向けた取組を行うことは、第1期と同様に全国的なレベルでの有害大気汚染物質の環境中濃度の低減が期待できるものと評価できる。
 しかし、ジクロロメタンのように排出量の絶対量が多い物質があること、事業所によって排出量に格差があり得ること等、特定の事業所からの排出が周辺地域における高濃度の状態を引き起こすこともあり得ることから、事業所の周辺地域の大気環境を考慮した有効な対策として、ベンゼンに係る社団法人日本化学工業協会のように業界団体内において各事業場の排出量の上限を設ける等の対策目標を示すことが望まれる。
 
   
アクリロニトリル、アセトアルデヒド、塩化ビニルモノマー、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,3-ブタジエン、ベンゼン、ホルムアルデヒド及びニッケル化合物(二硫化三ニッケル・硫酸ニッケル)の12物質
 
  排出抑制対策の実施
     各業界団体の自主管理計画においては、有害大気汚染物質が多種多様な業種・取扱い工程から排出(飛散を含む。)することを踏まえ、取扱設備の密閉構造化、代替物質の採用、回収・除去装置の導入等、多岐にわたる排出削減対策を講じる旨の記載がなされていた。
 このうち、特に代替物質の採用による対策については、塩素系炭化水素を有害性が懸念される別の塩素系炭化水素等に代える事業者があることから、当該代替物質の物理化学的性状、有害性及び排出の状況、並びに経済性等を総合的に評価し、その結果に基づいて当該物質を適切に使用することを事業者に求めるとともに、当委員会でも、そのチェック・アンド・レビューに努める。
 
 
3. 地域自主管理計画の内容及び評価
 
  自主管理計画の策定等
     ベンゼンに係る環境基準に照らし高濃度状態が継続し、かつ工場・事業場からの排出が相当程度寄与して高濃度となっている地域の事業者による自主管理計画が5地域を対象に策定された。これらの地域内に事業所を有する事業者が単独に又は当該地域の他の事業所と共同して地域自主管理計画を策定している。
 当該計画における平成15年度大気排出量目標値の単純加算は約150トンであり、当該計画の基準年度である平成11年度の約1,050トンと比較して約900トンの削減量(削減率約86%)と大幅な削減を行うこととなっている。
 また、対象地域ごとの削減率でも、表1のとおり約72%から約98%となっており、業界団体全体での削減率に比べていずれも高い削減計画となっている。
 
 表1 地域自主管理計画策定5地域のベンゼンの大気排出量及び削減率
対象地域 平成11年度排出量
(基準年)
トン/年
平成15年度排出量
(目標年)
トン/年
削減率
 
 室蘭地区   122.8    23.9  81
 鹿島臨海地区   211   59.6  72
 京葉臨海中部地区   378.907   43.4  89
 水島臨海地区   132   19  86
 大牟田地区   200.01    3.21  98
 総計  1,044.717   149.11  86*
*:5地域総計での削減率を示す。
 
 
  排出量等の情報の把握等
     地域自主管理計画が策定された地域においては、当該地域の計画を策定した事業所から大気中へのベンゼンの排出量を把握することに加えて、事業所の敷地境界や事業場周辺での対象物質の測定、排出量と大気濃度との関係を把握するためのシミュレーションの実施等、地域の大気汚染状況に配慮するための様々な手法を採用することも予定されている。
 特に大牟田市地域の計画においては、敷地境界濃度を予測するための拡散計算が実施されており、これに基づいて敷地境界において環境基準を達成するための方途が示されている。移動発生源等の影響にも配慮する必要があるが、他地域においてもこのような手法を用いることにより、環境基準達成に向けた、より効果的な方策が検討されることを期待する。
 また、自主管理計画及び毎年の対策評価の公表や、地元自治体との連携の下に、地域住民への理解の増進を図るため意見交換会等を検討すること等が示されており、今後、各事業所からの排出量等必要な情報をより積極的に公開するよう努めること等により、適切なリスクコミュニケーションが実施されることを期待する。
 
4. 事業者による自主管理を推進するために考慮すべき事項
 
 今後自主管理計画の実施状況のチェック・アンド・レビューを行うに当たって、評価を円滑に行う観点から、主要な排出削減対策に要したコスト及び技術的検討結果等の情報が積極的に提供されることが望まれる。
 また、排出源や高濃度地域の見極めが行われ、排出削減対策に適切に結びつくよう、更に、排出源における排出抑制対策が的確に把握・評価できるよう、有害大気汚染物質の物質ごとの特性に応じたモニタリングを効果的・効率的に実施する必要があり、測定場所等の再検討を含め、必要な見直しを図るべきである。
 特に地域自主管理計画を策定した地域においては、モニタリングを重点的に実施し、これを通じて排出削減が一層効果的に促進され、かつ、その効果が的確に把握できるようにしていくことが必要である。
 地域の大気汚染については、自主管理対象事業所からの排出だけでなく、これら以外の事業所及び移動発生源からの排出によって環境濃度が影響を受ける場合がある。このような場合に対応して、国等は各発生源の環境濃度への寄与について調査するとともに、調査結果については、量的な関係をわかりやすく公表することが望まれる。
 排出抑制対策については、各事業者の有害大気汚染物質の取扱い実態、これまでの実績等に即して適切な排出抑制技術を導入することとなっているが、業界団体により排出削減の目標値には差異がある。今後も有害大気汚染物質の削減を実施していくため国が排出抑制技術に関する情報の集積と普及をより積極的に進めていくことを期待する。