別 紙
 
琵琶湖宣言2001(未定稿)
 
 湖沼は、水資源として重要なだけでなく、各地域の多様な生態系と水系を維持し、さまざまな文化を育んできた。しかし、「琵琶湖宣言」、「霞ヶ浦宣言」における決意にもかかわらず、湖沼の多くにおいて環境は依然として悪化し続け、湖と人との調和した共存関係が崩壊しつつあるのが、残念ながら現実である。湖沼は私たちにとってかけがえのない存在であることを再認識し、20世紀のとりわけ先進国型の生産・生活様式を批判的に見つめながら、発展途上国の置かれた困難な社会経済状況を認識し、人類と地球の未来のために、持続可能な湖沼環境を保全し、再生していくことが必要である。
 第1回世界湖沼会議の精神にのっとり、住民、芸術家、行政、メディア、研究者、学生、NGO、企業、政治家などさまざまな主体が積極的に参加し、本会議、自主企画ワ-クショップ、自由会議、サイドプログラム等における多彩な活動を通じて、議論を深めることができた。その中で新たに提起されたものは、生態系に基づく湖沼の保全・管理、湖沼の保全・管理と文化・教育との関係などである。
 
 われわれ第9回世界湖沼会議の参加者は、その成果と反省を踏まえ、湖沼にかかわるすべての個人・組織が力を合わせ、以下の点に重点をおいて行動することを決意し宣言する。
 
 
  1. 湖沼にかかわるすべての個人・組織のパートナーシップの構築と充実
  2. 情報の公開と共有、環境教育・環境学習の推進、人材の育成
  3. 調査研究とモニタリングの推進
  4. 統合的流域管理の推進
  5. 国際協力の推進と連帯の確立
  6. 資金調達に関する方式の検討
 2001年11月16日
 
第9回世界湖沼会議
 


琵琶湖宣言2001の背景になる文(未定稿)
 
 世界湖沼会議は1984年8月、琵琶湖畔の大津市(日本・滋賀県)ではじめて開催され、「琵琶湖宣言」を採択した。それ以来17年間、湖沼が水の循環において重要な役割を果たしているだけでなく、地域の生態系を維持し、文化を育むうえでも大きな価値を有しているという認識のもと、私たちは望ましい湖沼環境を再生するために研究、議論そして行動を各地の湖沼において続けてきた。
 そうした努力にもかかわらず、多くの湖沼は人間活動の増大によって依然として環境悪化を続け、湖と人との調和した共存関係が崩壊しつつあるのが、残念ながら現実である。現在および未来の人類・生物・地球のためにいっそうの努力を重ね、湖沼環境を持続可能な状態に再生してゆかねばならない。
 私たち第9回世界湖沼会議の参加者はこのような共通認識にもとづいて、また1984年に採択した「琵琶湖宣言」が現在においても重要な提案であることを認識したうえで、以下のことを実行したい。
 
 
1. 湖沼にかかわるすべての個人・組織のパートナーシップの構築と充実
  • 住民・研究者・企業・行政・NGO・メディアなど異なる立場の個人・組織が、湖沼の環境問題について協働して問題の解決に対処する。
  • 湖沼の保全・管理・利用において、協働を基本とするパートナーシップにもとづいて役割分担を明確にし、主体的に取り組んでいく。
  • とくに水の問題を扱うときのように社会の構造にかかわる場面で、女性・青少年・社会的弱者などの発言の場が少なく、その意思決定にかかわりが少ないことを考慮し、すべての人が主体的で自由な、意義のある参加ができるような社会的しくみをつくる。
2. 情報の公開と共有、環境教育・環境学習の推進、人材の育成
  • 湖沼環境に関する情報の公開を進め、すべての人による情報の共有を推進する。
  • すべての人が湖沼環境に関心を持ち、問題の解決、環境の保全に向けて行動ができるよう、学校教育や生涯学習において、環境教育・環境学習を積極的に進める。
  • 業務として湖沼に関わる人が環境保全に必要な高度な知識・能力・技術を獲得できるよう、研修などによって人材を育成する。
  • 湖沼環境に関する意見交換と普及啓発を一層進めるため、あらゆる立場の個人・組織が積極的に情報の発信と交換に参加する。
3. 調査研究の推進
  • 多くの湖沼が水質・水量、生態系のいずれの面からも危機的状況にあるにもかかわらず、流域全体にかかわる正確な科学的知見、継続的なデータが不十分であることを考慮し、広い視野を持つ研究者の育成をはじめとする調査研究体制を充実する。
  • 以前から問題になっている富栄養化や化学物質汚染に加えて、外来性内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)などによる汚染についても調査研究を進める。
  • 気候変動や大気汚染と湖沼環境との関係について調査研究を進める。
  • 生物多様性、自然生態系の維持に果たす湖沼の役割の重要性を認識し、外来種の侵入、湖浜帯の改変など、とくに脆弱な沿岸湿地生態系が直面している問題について調査研究を進める。
  • 湖沼の環境問題は、集水域における人間活動(住民生活、産業活動)に起因していること、さらに人間文化と生態系・環境との双方向の関係の存在を強く認識し、その担い手である住民とともに研究調査を進める。
  • 今後の湖沼に関わる調査研究をさらに充実するため、モニタリングを推進強化する。
4. 統合的流域管理の推進
  • 湖沼の保全・再生は、流域全体を視野に入れた統合的管理がなければ困難である。そのため、流域にかかわる国家間、国と地方自治体間、地方自治体間、ならびに上下流域間の連携と相互理解のもと、役割分担を明確にし、流域単位で健全な水循環系を確保しつつ、総合的に湖沼環境の再生に取り組む。
  • 定量的かつ系統的なデータと科学的な知見にもとづいて、住民・研究者・企業・行政・NGO・メディアが協働して流域を含めた湖沼環境保全計画を策定し、実施に協力する。
  • 流域の住民や企業などすべての湖沼の受益者が、さらには国や地方自治体など行政が、湖沼保全にどのような責任をもち、負担をすべきかといった現実的な視点をもつ。
  • 湖沼環境の保全に必要な流域の基盤整備を進め、適正に維持管理を行う。
5. 国際協力の推進
  • 湖沼は人類共通の財産であり、湖沼環境問題の多くが世界に共通することを認識し、経験や情報の共有化を進める。
  • 湖沼環境問題は、人口増加、貧困、政治的不安定など多くの課題を抱える開発途上国においてとくに解決困難なことを考慮し、開発途上国への支援を強化する。
  • 開発途上国への支援を進めるうえで、それぞれの国、地域の育んできた文化・生活・歴史を尊重する。
  • 世界湖沼会議とともに歩んできた国際湖沼環境委員会(ILEC)の活動を一層充実させる。とくに「世界湖沼ビジョン」事業が多くの人に賛同され、実施されることを期待する。
  • この会議で得られた成果が、今後開かれる国際会議に十分活かされるよう努力する。とくに、持続可能な開発のための世界サミット(2002年、ヨハネスブルグ)、ラムサール条約第8回締約国会議(2002年、バレンシア)、第3回世界水フォーラム(2003年、京都・滋賀・大阪)において湖沼問題が広く議論されるよう、積極的に働きかける。
  • 世界湖沼会議を継続的に開催し、世界のあらゆる地域における湖沼に関する情報を共有する。
6. 資金調達に関する方式の調査検討
 流域の拡散汚染源対策をはじめ、湖沼環境の改善には多額の資金が必要であるにもかかわらず、その流れは不十分であり、より効果的に資金を動かす必要がある。税方式や民間資金の活用を含め、新しい資金メカニズムを研究開発することが必要である。
 
 
 私たち第9回世界湖沼会議に参加した住民・研究者・企業・行政・NGO・メディアは、過去8回の会議の成果を踏まえて、世界の望ましい湖沼環境のあり方について熱心に議論した。そして、多くの成果を得るとともに、湖沼環境の保全・再生という目標の達成のために、湖沼にかかわるすべての人々がパートナーシップを組まねばならない多くの課題があることをあらためて認識した。私たちは健全な湖沼環境をとりもどすための歩みを、これからも休むことなく続けてゆかねばならない。

 終わりに当たってわれわれ第9回世界湖沼会議参加者は、滋賀県民の心温まるおもてなしとボランティアの支援に深く感謝の意を表する。
 
 
 2001年11月16日
2001世界湖沼会議 参加者一同