別紙2
 
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づく「「げっ歯類を用いる小核試験」(長期毒性等試験、変異原性試験の一部)」改正最終案
 
VI.変異原性試験
 
目的
 比較的簡便な短期間の試験により被験物質の遺伝毒性を検出し、それに基づくがん原性及び次世代への遺伝的影響について予測することを目的とする。
 
試験法の選択
 変異原性試験には種々の方法(注1)があるが、このうち遺伝子突然変異誘発性を指標とする試験として、「1.細菌を用いる復帰突然変異試験」、及び染色体異常誘発性を指標とする試験として、「2.ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」を行い、両者いずれかで陽性の結果が得られた場合には、「3.げっ歯類を用いる小核試験」を行う。
 
1. 細菌を用いる復帰突然変異試験
   「「新規化学物質等に係る試験の方法について」の一部改正等について」(平成9年10月31日環保安第287号、衛生第127号及び平成09・10・31基局第2号、環境庁企画調整局長、厚生省生活衛生局長及び通商産業省基礎産業局長名通知(以下「平成9年一部改正通知」という。))の別添「III.変異原性試験」の「1.細菌を用いる復帰突然変異試験」に準ずる。
 
2. ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験
   平成9年一部改正通知の別添「III.変異原性試験」の「2.ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」に準ずる。
 
3. げっ歯類を用いる小核試験
  1)  動物及び観察細胞
     若い成熟げっ歯類を用い、骨髄又は末梢血の幼若赤血球を観察対象とする。一般的にはマウス又はラットが用いられるが、ラットについては、骨髄を用いた場合に肥満細胞の顆粒による疑似小核の出現、末梢血を用いた場合に脾臓で小核を持つ赤血球が除去されることに注意し、より適切な観察方法を用いる。
 
  2)  動物の性及び数
     1群、性あたり5匹以上とする。
 ただし、毒性に明らかな性差が見られない場合には、片性のみ(5匹以上)の使用で十分である。
 
  3)  被験物質の調製
     被験物質が固体の場合には適切な溶媒に溶解又は媒体に懸濁させ、液体の場合には直接投与するか又は適切な溶媒で希釈して調製する(注2)。被験物質が気体の場合には清浄な空気等を用いて希釈する。
 調製後の安定性が判明している場合には、安定な期間内に使用し、不明な場合には用時に調製する。
 
  4)  対照群
     陰性対照(注3)としては溶媒又は媒体を、陽性対照としては適切な既知小核誘発物質(注4)を、それぞれ設定する。
 
  5)  投与経路
     強制経口投与又は腹腔内投与を原則とする。
 ただし、特定の暴露経路(吸入暴露等)が想定される等、科学的な理由がある場合にはこの限りでない。
 
  6)  投与回数
     単回又は反復投与とする。
 
  7)  用量段階
     最高用量は、幼若赤血球の減少等、骨髄で細胞毒性が認められる用量、何らかの毒性兆候が認められる、若しくはそれ以上で致死が予想される用量又は技術的に投与可能な上限の用量とする(注5)。
 また、毒性兆候が現れない場合の最高用量は、単回又は 14 日以内の反復投与については 2,000 mg/kg/日、それを超える長期反復投与については 1,000 mg/kg/日とする。
 なお、被験物質が気体の場合は、安全に暴露できる濃度を最高用量とする(注6)。
 適切な間隔(公比2を原則とするが、公比√10以下であればよい。)で3段階以上の用量を設定する。
 
  8)  標本作製時期
    [1] 骨髄を用いる場合
       単回投与では、投与後24~48時間の間に適切な間隔をおいて最低2回の標本作製時期を設定し、動物を屠殺、骨髄塗沫標本を作製する(注7)。また、反復投与を行った場合には、最終投与後18~24時間の間に1回、標本作製を行う。(注8)
 
    [2] 末梢血を用いる場合
       単回投与では、投与後36~72時間の間に適切な間隔をおいて最低2回の採血時期を設定し、標本を作製する(注7)。また、反復投与を行った場合には、最終投与後24~48時間の間に1回、標本作製を行う。(注8)
 
  9)  観察
     観察前に、陰性対照及び陽性対照を含め、すべてのスライド標本をコード化して、処理条件がわからない状況で観察を行う。
 個体当たり 2,000 個以上の幼若赤血球を観察して、小核を有する細胞の出現頻度を求める。
 また、骨髄細胞の増殖抑制の指標として、全赤血球に対する幼若赤血球の出現頻度を、個体当たり、骨髄を用いた場合には 200 個以上、末梢血を用いた場合には 1,000 個以上の赤血球を観察することにより求める。(注9)
 
  10)  結果の表示
     個体ごとに、観察した幼若赤血球に対する小核を有する細胞の出現頻度及び全赤血球に対する幼若赤血球の出現頻度を、表形式にて表示するとともに、群ごとの平均値についても表示する。
 
  11)  結果の判定
     被験物質が充分な高用量まで適切に投与され、かつ陰性及び陽性対照群で期待どおりの結果が得られていることを前提とし、陰性対照群の背景データの利用を含め、適切な統計処理を用いることにより結果の判定を行う(注10)。なお、両性を用いた場合の結果に明確な性差が認められなければ、両性のデータをまとめて統計処理を行ってもよい。
明確に陰性又は陽性と判断できない場合には、統計的な有意性のみが判断基準ではないので、実験条件を考慮して再試験を実施し、最終的な判断をすることが望ましい。
 
  12)  結果の評価
     いずれかの in vitro 試験で陽性結果が認められ、かつ本試験で陰性結果となった被験物質については、生体内運命に関する入手可能な知見等を利用して、判定結果を考察する。
 
 

 
(1)  ここで得られる結果は、化学物質の変異原性に関する最少情報である。
 がん原性及び次世代への遺伝的影響を予測する試験方法には、以下に例示する各種の短期試験法がある。
 
 DNA損傷を指標とする試験
 in vitro 及びin vivo 試験系
1) 32Pポストラベル法
2) 酸化的DNA損傷を検出する試験
3) 単細胞ゲル電気泳動法(コメットアッセイ) 
 DNA修復を指標とする試験
A. in vitro 試験系
1) 枯草菌を用いるDNA修復試験
2) ネズミチフス菌を用いるumu試験
3) 大腸菌を用いるSOS試験
4) ほ乳類培養細胞を用いる不定期DNA合成試験(UDS)
B. in vivo 試験系
1) げっ歯類を用いる不定期DNA合成試験(UDS) 
 遺伝子突然変異誘発性を指標とする試験
A. in vitro 試験系
1) ネズミチフス菌(Ames試験)、大腸菌等を用いる復帰突然変異試験
2) ほ乳類の培養細胞(マウスリンパ腫L5178Y、ヒトリンパ球TK6、チャイニ-ズハムスタ-細胞株V79, CHO等)を用いる遺伝子突然変異試験
B. in vivo 試験系
1) ショウジョウバエを用いる伴性劣性致死試験、翅毛スポット試験
2) トランスジェニック動物を用いる試験
3) マウスを用いる特定座位試験、毛色スポット試験
4) ほ乳類の内在性遺伝子(hprt等)を用いた突然変異試験
 染色体異常誘発性を指標とする試験
A. in vitro 試験系
1) 酵母を用いる異数性を含む染色体異常試験
2) ヒト培養リンパ球を用いる染色体異常試験
3) チャイニ-ズハムスタ-等細胞株を用いる染色体異常試験
4) ほ乳類培養細胞を用いる小核試験
B. in vivo 試験系
1) げっ歯類を用いる小核試験
2) げっ歯類骨髄細胞を用いる染色体異常試験
3) 優性致死試験
4) 相互転座試験
 その他の試験
A. in vitro 試験系
1) 酵母を用いる体細胞組換え試験
2) 酵母を用いる遺伝子転換試験
3) ほ乳類培養細胞を用いる姉妹染色分体交換試験
4) ほ乳類培養細胞を用いる形質転換試験
B. in vivo 試験系
1) げっ歯類を用いる姉妹染色分体交換試験
2) げっ歯類を用いる精子形態異常試験
 
(2)  溶媒又は媒体については、被験物質と反応しないものを選択し、毒性を示さない用量で使用する。一般に、生理食塩液などの水系溶媒の使用が推奨される。
 
(3)  末梢血を用いる短期試験(1~3回投与)の場合、投与前サンプルを陰性対照とすることができる。
 
(4)  陽性対照物質の例
 メタンスルホン酸エチル
 マイトマイシンC
 シクロフォスファミド
 トリエチレンメラミン
 なお、投与用量としては、極端に高くはないが、明確な小核誘発性を示す用量が推奨される。
 
(5)  媒体が水を主成分とする場合は 20 mL/kg、それ以外では 10 mL/kgを最大の投与液量とする。
 
(6)  暴露可能な最大濃度あるいはミストとダストでは5mg/L、ガスと蒸気では適切な酸素濃度(19~21%)を維持でき、安全に暴露できる技術的に可能な最高濃度を用いる。
 
(7)  単回投与の場合でも、予備試験によって標本作製時期を検討した結果、最も感受性の高い時期が確認され、陽性の結果が得られることが認められる場合、この時期1回のみの標本作製とすることができる。この場合の標本作製時期は、小核誘発頻度の最も顕著な上昇が認められる時期とする。
 ただし、いずれの時期においても明白な小核誘発頻度の上昇が認められない場合には、骨髄を用いる場合は投与後24~30時間、末梢血を用いる場合は36~48時間を標本作製時期とする。
 
(8)  陽性対照については適切な時期に1回、標本作製を行う。
 
(9)  標本の染色は、骨髄標本に対しては、通常、アクリジン・オレンジ蛍光染色法又はギムザ染色法を用い、末梢血標本の場合には通常アクリジン・オレンジ超生体染色法を用いる。
 
(10)  被験物質が充分な高用量まで適切に投与され、かつ陰性及び陽性対照群で期待どおりの結果が得られた場合で、すべての処理群において陰性対照群との間に統計学的な有意差が認められない場合には、陰性と判定する。
 一方、小核を有する細胞数に統計学的な有意差があり、用量依存性があるか、又は結果に再現性がある場合に陽性と判定する。