事例1.廃棄物処理計画に関する事例(オランダ)

 特定施策に関するSEAとして、オランダの廃棄物管理・処理に関する計画段階のSEAを取り上げ、第1次及び第2次国家廃棄物管理10ヶ年計画(国家レベルの計画SEA)、第3次ゲルトランド廃棄物管理5ヶ年計画(地方レベルの計画SEA)に用いられたSEA手法を分析した。また、計画段階から具体的な処理施設の環境アセスまでの一連の流れを追うことで、計画段階における環境配慮の視点と事業段階における環境配慮の視点の違いを明らかにすることを目的として、オーバーアイセル州廃棄物処理施設の建設(地方における廃棄物処理施設設置に関する事業アセス;ただし、「ゲルトランド廃棄物管理5ヶ年計画」の下位に位置付けられた事例ではない。)に関する事業アセスも参考に取り上げた。

  1. SEAの手法


    第1次国家廃棄物管理10年計画(1992-2002)
    (計画の概要)
     1992年に、全国規模での廃棄物処理政策の基本となるものとして策定され、廃棄物処理容量の規模、処理容量と廃棄物発生量との関係、廃棄物埋立処理場選定の際の基礎的条件等が定められた。

    (複数案の設定)
     複数の最終処理に関するオプションが設定され、既存政策の他、@全て焼却処理をする参考案、A焼却処理を最小限にする案、B投棄を最小限にする案、C焼却処理を最小現にし事前分別は最大限とする案、が設定された。

    (スコーピングと指標の設定)
     全国規模の状況把握に主に重点が置かれ、重金属の拡散、酸性雨、エネルギー等12項目の環境指標が設定された。

    (環境負荷の推計及び評価)
     有害物質排出量や環境への影響の原単位を用い、各複数案毎の環境負荷予測値が算出/比較された。比較に当たっては、各指標毎の重み付けなどは行われていない。

    第2次国家廃棄物管理10年計画(1995-2005)
    (計画の概要)
     上記第1次計画が、3年後を機に(1995年に)見直されたもの。

    (複数案の設定)
     ゼロ代替案(第1次計画の対策を継続)の他、@新しい総合的技術の適用、Aバイオ技術の導入、B分離技術の導入、の3つの複数案が設定された。

    (スコーピングと指標の設定)
     各複数案について、4つの廃棄物フロー(可燃性廃棄物、不燃性廃棄物、可燃性の部分フロー、有機廃棄物)の廃棄物処理技術を選択し、その技術についての環境への影響をライフサイクル分析(LCA)により検討。LCAが適用できない技術は、環境影響を定性的に分析している。

    (環境負荷の推計及び評価)
     各複数案毎に、対応する技術で廃棄物を処理する際に生じる環境への影響を評価して排出原単位を算出。それを処理する廃棄物量を積算することにより環境影響を算出/評価した。

    第3次ゲルトランド廃棄物管理5ヶ年計画
    (計画の概要)
     1993年にゲルトランド州が州廃棄物管理5ヶ年計画として定めたもの。廃棄物発生抑制・処理の目標は、第1次国家計画を参考に設定された。

    (複数案の設定)
     所管官庁と環境専門家等との協議の結果、現状の政策を変えない案、計画に示されている政策を行う案、最も環境に優しい政策を行う案、の3つが設定された。

    (スコーピングと指標の設定)
     オランダの環境影響制度ではスコーピングの段階において、具体的な評価項目や調査すべき複数案について、主務官庁が、個別案件ごとに、事業者、環境省、農業省等のアドバイザー、公衆、事業アセス委員会の意見を踏まえ、ガイドラインを作成することとされている。環境指標として、廃棄物量、リサイクル量、焼却量及び埋立量が採用され、ガイドラインでは、大気、土壌、自然及び景観等の11の環境項目に対する環境影響評価が実施された。

    (環境負荷の推計及び評価)
     各複数案について、廃棄物発生量、リサイクル、処理、埋立の環境影響が評価された。

    オーバーアイセル州廃棄物処理施設の建設(参考:事業アセスの例)
    (事業の概要)
     1993年、トエンテ地方政府とオーバーアイセル州の地域電力会社が提案した廃棄物処理施設の建設事業。年間230,000tの処理能力を有し、廃熱を発電、さらに住宅用として供給しようとするもの。

    (複数案の設定)
     廃棄物処理方法等の技術的な複数案や、廃棄物輸送、廃棄物処理施設の容量等に関する事項が検討されるとともに、それら複数案を併せた環境に最も優しい案も作成された。

    (スコーピングと指標の設定)
     一般的状況、土壌、地表水、地下水、等7事項に関して影響を評価するものとされた。

    (環境負荷の推計及び評価)
     各複数案について、各環境項目の視点からマトリックス形式の比較検討が行われた。

  2. 各レベルによるアセスメントの比較

    (計画レベルの違い(国と地方)によるSEAの役割の違い)
     計画の意志決定のレベルを反映し、複数案の考え方、対象とする環境項目の分析のレベルなどが異なる。つまり、国家レベルの計画が、最も適切な廃棄物処理容量や効率性を国レベルの視点で検討するのに対し、地方レベルでは、国の計画に基づく目標の下、地方における具体的な廃棄物処理の実施を定めるものである。そのため、地方レベルのSEAでは、対象とする環境の範囲も、より詳細に定められているようである。

    (計画に対するSEAと事業に対する事業アセスの違い)
     計画に係るSEAと廃棄物処理施設設置に係る事業アセスは、環境影響を評価する視点や、分析のレベルが異なる。後者の方が、設定される複数案、対象環境項目のレベルが、詳細かつ具体的なものになる。

 

事例2.総合開発計画に関するSEAの事例(アメリカ)

 面的開発施策に関するSEAとして、アメリカ(カリフォルニア州)の総合開発計画を取り上げ、サンホアキン郡総合計画プログラム2010に用いられたSEA手法を分析した。また、同総合開発計画と一連の流れとして採択された地域開発計画における環境影響評価の内容を整理することにより、SEA及び事業アセスに求められる役割の違いを明らかにすることを目的として、マウンテンハウス宅地開発の事業アセスに関する事例を取り上げた。

  1. SEAの手法

    サンホアキン郡総合計画プログラム2010
    (計画の概要)
     米国カリフォルニア州中部のサンホアキン郡で、1991年より検討が開始された、2010年に向けての新規住宅、商業、工業の開発を含む総合計画。本計画の中で、5つの新規/拡張地域開発が提案されている。

    (スコーピングと環境項目の設定)
     大気質、交通、景観等の20環境項目が選定された。また、郡及び周辺で計画されているすべてのプロジェクトを考慮した累積的影響についても簡単に示されている。

    (環境影響の分析及び緩和措置の検討)
     それぞれの環境項目について、環境の現状がまとめられた後、総合計画の提案内容に対する分析が行われた(分析手法は、項目毎に異なる)。さらに、その結果に基づき、規制緩和措置が検討された。

    (複数案の設定/評価)
     総合計画プログラムでの提案内容に加え、市中心成長型案(新規/拡張住宅地は作らない)、分散発展型案(新規/拡張住宅地を提案より縮小)等、6つの複数案が検討された。それぞれの複数案の及ぼす環境影響について、総合計画における提案内容との比較評価が行われた。

    マウンテンハウス地域開発(参考:事業アセスの例)
    (計画の概要)
     1993年にサンホアキン郡総合計画プログラムが一部修正された際、新規/拡張地域計画の一つとして位置付けられたもの。住居地域、商業地域、オープンスペース等の土地利用計画を内容とする。

    (スコーピングと環境項目の設定)
     「サンホアキン郡計画との整合性」及び「電話」が追加された以外、サンホアキン郡総合計画プログラムと同様。

    (環境影響の分析及び緩和措置の検討)
     それぞれの環境項目について、環境の現状がまとめられた後、総合計画の提案内容に対する分析が行われた(分析手法は、項目毎に異なる)。さらに、その結果に基づき、規制緩和措置が検討された。

    (複数案の設定/評価)
     提案内容(マスタープラン)のほかに、立地場所をずらす、開発規模を縮小する等、6つの複数案について検討が行われた。評価書では、各案に伴う環境影響をそれぞれの環境項目毎に簡単に整理され、比較・評価された。

  2. 各レベルによるアセスメントの比較

    (総合開発計画に係る環境影響評価(SEA)と地域開発に係る環境影響評価(事業アセス)の比較)

     評価している環境項目はほぼ共通しているものの、SEAでは簡便なマクロ的分析手法を用い各項目について幅広く分析が行われているのに対し、事業アセスでは一部項目についてより具体的な調査・分析が実施されている。
     上記の差は、@SEAが広い地域における環境影響全般を幅広くチェックする役割が期待されるのに対し、事業アセスではより限定的な地域における具体的で詳細な検討が必要とされ、A事業アセスでは、先行事例であるSEAで構築した分析手法の基本的考え方を援用し、その上で、重点を置くべき項目についてメリハリの効いた評価を行っている、ためと推察される。

 

事例3.河川総合計画に関するSEAの事例(アメリカ)

 線的開発施策に関するSEAとして、アメリカ(カリフォルニア州)の河川総合計画を取り上げ、カルフェッドベイデルタ総合計画に用いられたSEA手法を分析した。なお、本計画に基づく下位の具体的事業はまだ行われていないため、事業レベルの事業アセスとの比較は行っていない。

カルフェッドベイデルタ総合計画
(計画の概要)
 米国カリフォルニア州のサンフランシスコ湾に流れ込むサンホアキン川とサクラメント川の流域全体に及ぶ地域において、水供給及び絶滅危惧種の保護等に関する取組みの改善を図るとともに、ベイデルタの生態系の健全性回復や水源管理の改善を図る長期的かつ包括的な整備計画。本計画は、フェーズI〜IIIの3段階に分かれているが、2000年夏に完了したフェーズIIを、今回の事例として取り上げた。

(スコーピングと環境影響項目の設定)
 計画の対象地域が広範であるため、まず計画地域が地形的特性に応じて4つの対象地域に分割されるとともに、水供給及び水資源管理、漁業及び水圏生態系等、25の環境評価項目が設定された。さらに、各地域ごとに、注目・注力すべき累積的な負の影響を明らかにした。

(複数案の設定)
 フェーズIから持ち越された3つの基本的な複数案から、まず17の複数案が設定された。2段階にわたる絞込みを経て、望ましい案及び3つの複数案が策定された。これにゼロ代替案を含めて、各影響項目に対する評価が実施された。ただし、複数案の内容は、計画の目的に沿うよう幅広いアプローチを定義しているものであり、各場所に見合った特定事業を定義するものではない。

(複数案の比較)
 各複数案に対して、環境影響項目毎に対応する分析手法が適用され、比較/評価が実施された。複数案の評価においては、総合計画レベルの評価であるため、一部には定量評価がなされていたものの、定性的評価にとどまる環境項目も多く存在した。

 

事例4.道路計画に関するSEAの事例(イギリス)

 線的開発施策に関するSEAとして、イギリスの交通分野における上位計画を取り上げ、イギリス道路計画(A New Deal for Trunk Roads in England)に用いられたSEA手法を分析した。本計画には、新たな環境影響評価の仕組みNATA(The New Approach to Appraisal)が導入されたことにも着目した*注)

イギリス道路計画
(計画の概要)
 1998年に公表されたイギリス道路計画は、幹線道路事業についての政府の戦略的な展望を示したもので、交通分野の白書である "A New Deal for Transport: Better for Everyone"(1998) の考え方を幹線道路についてより具体化したもの。具体的な道路事業としては、37事業、1,400万ポンドの道路事業が7年以内に着工するものとして選定されている。

(評価手法)
 透明性の高い開かれた枠組みとして、NATA手法が開発され、イギリス道路計画の策定に際して用いられた。
 NATAは、1998年のイギリス道路計画で初めて導入された評価制度で、環境影響をその他の社会的経済的な影響とともに客観的な基礎情報として取りまとめ、意思決定者に提供する取組。今後は、全ての幹線道路計画に適用される予定であり、他の交通手段に適用できるよう改良が行われている。

(NATAを用いた評価の概要)
 環境影響、安全性、経済性、アクセス性、総合交通政策の5つの評価指標について広く考慮するため、1枚の総括表(AST:Appraisal Summary Table)に幹線道路事業に伴う経済影響、環境影響、社会影響などについて記述する。評価指標それぞれについて、定性的及び定量的影響とともに、影響の方向(プラス/マイナス)及び影響の大きさが「評価」として示される。なお、考えられる複数案毎にASTを作成して比較評価することが可能。

(分析手法)
 ASTに記載される情報は、環境、経済、社会への影響を評価する既存の技術を用いて求められる。その主要な技術は、費用便益分析手法と事業アセスで用いられる手法である。

(NATAによる事業の選定)
 候補となる事業についてASTが作成され、その比較/評価の結果、道路計画に位置付けられる37事業が選定された。
 NATAは、環境影響を含む様々な基礎情報を客観的に整理する取組であり、それぞれの影響側面を相対的にどの程度重要視するかの判断は意志決定者にゆだねられている。


*注)NATAでは、@環境影響と他の社会的経済的影響とが同等に取り扱われており、A国全体の道路計画という戦略的レベルで実施されているものの内容的には個々の道路事業に対する評価である、というやや特殊な傾向が見られるが、イギリス政府の見解としては、交通分野におけるSEAの取組として本事例は位置付けられている。

【参考】

戦略的環境アセスメント海外事例調査に関する検討会 委員名簿

倉阪 秀史千葉大学法経学部総合政策学科助教授
松村 弓彦明治大学法学部教授(座長)
柳 憲一郎明海大学不動産学部 大学院不動産学研究科教授