第11回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー
2001年8月28~31日 福岡県北九州市

議長サマリー(仮訳)

 
1.  第11回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーは、2001年8月28~31日に、福岡県北九州市で開催された。同セミナーは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、外務省及び経済産業省の協力を得て、環境省、福岡県、北九州市、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)及び地球環境戦略研究機関(IGES)により主催された。
 
I.参加者
 
2.  セミナーには以下の18カ国(オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、日本、カザフスタン、キリバス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、パキスタン、韓国、タイ、ツバル、米国、ウズベキスタン、ベトナム)の専門家が出席した。また、セミナーには13機関(ESCAP、経済開発協力機構(OECD)、南太平洋環境計画(SPREP)、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)、地球環境ファシリティ(GEF)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、世界気象機関(WMO)、国際自治体環境協議会(ICLEI)、国際開発銀行(JBIC)、国際協力事業団(JICA)、国立環境研究所(NIES)、IGES)の代表が参加した。これに加え、研究機関、大学及び企業から多くの専門家が出席した。
 
 
II.セミナーの主な目的
 
3.  セミナーの主な目的は、アジア太平洋の国々における情報、経験及び意見の交換を行うとともに、気候変動に対処するための更なる行動に資することであった。特に以下の点を目的とした。
  (1)  気候変動枠組条約第6回締約国会合(COP6)再開会合の結果について討議するとともに、IPCC第3次報告書を踏まえ、気候変動に関する科学的知見を参加者の間で共有し、今後の気候変動政策への活用について議論する。
  (2)  京都メカニズムを活用してアジア太平洋地域の国々の持続可能な開発を図る観点から、クリーン開発メカニズム(CDM)に焦点を当てた意見交換を行う。
  (3)  途上国における適応対策について、国際機関による取組や途上国、特に南太平洋地域諸国における取組の事例についての知見を共有する。
  (4)  非付属書I国による通報の作成事例や、通報作成に対する支援の事例を紹介し、気候変動枠組条約の重要な要素である通報の充実に資する。
  (5)  アジア太平洋地球温暖化情報ネットワーク「APNET」(Asia-Pacific Network on Climate Change)の実施状況についてレビューし、今後の展開について意見交換を行う。
  (6)  自治体による温暖化対策と地域協力の実例を紹介し、意見交換を行う。
 
 
III.セミナーの議事
 
4.  はじめに、山田範保氏(環境省大臣官房審議官)が開会挨拶を行った。審議官は温暖化問題はきわめて深刻であり、アジア太平洋地域において気候変動問題に対応する効率的なメカニズムを追求することはきわめて重要になりつつあることを述べた。審議官は、気候変動に対応するための情報の共有と普及及び協力関係の発展に関して、セミナーが成功することを期待する旨を述べた。更に、COP6再開会合でのボン合意に対する日本政府のコミットメントを確認した。
 
5.  長澤純一氏(福岡県副知事)は、参加者を歓迎し、温暖化対策に向け、地域・国・国際レベルで各国が一緒に活動する必要性について強調した。また、副知事は、一層の努力と、資源循環型の社会の確立、人と自然の調和を図る必要性について述べた。副知事は、アジア太平洋地域における環境問題の解決を支援するために福岡県が貢献することを約束した。
  副知事の挨拶は、麻生渡福岡県知事の挨拶を代読したものである。
 
6.  末吉興一氏(北九州市長)は、北九州市がセミナーを開催できる機会を得たことに感謝し、環境問題に対する北九州市の今までの取り組みについて紹介した。市長はまた、エコタウンプロジェクト、昨年北九州で開催された第4回ESCAP環境と開発大臣会合について述べ、また、今後開催予定の第1回「クリーンな環境のための北九州イニシアチブ」ネットワーク会合や今後の様々な取り組みについても紹介した。市長は、ESCAP環境大臣会合で採択された「クリーンな環境のための北九州イニシアチブ」はアジア太平洋地域の都市をよりよい環境に導くのみでなく、地球温暖化対策を推進するためにも寄与するものであることを述べた。
 
7.  セミナーでは、井村秀文氏(名古屋大学工学部教授)が議長に選出された。副議長には、ワニ・サンファンタラク氏(タイ科学技術環境省環境政策・計画局次長)及びレアズディン・モハマンド氏(バングラデシュ環境省課長)が選出され、ピーター・ブリスベーン氏(オーストラリア温室効果オフィス国際気候変動室)が書記に指名された。議長が不在の間、山田環境省審議官、ワニ・サンファンタラク氏及び市村雅一氏(ESCAP環境天然資源開発課環境政策専門家)がいくつかのセッションの議長を勤めた。
 
 
IV.基調講演
 
8.  基調講演において、ジョージ・マンフル氏(UNFCCC事務局実施プログラム計画官)は、COP6再開会合の結果とCOP7において解決が必要な課題について紹介した。ボン合意を踏まえ、マラケシュ(モロッコ)で2001年に開催されるCOP7を成功させる必要性と、それによって京都議定書の早期批准と効果的な実施が促進されることを強調した。
 
9.  市村雅一氏(ESCAP)は、2002年に開催される持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)に向けたアジア太平洋地域における準備プロセスについて概説した。氏は、このプロセスは2001年から2005年にかけての地域行動計画(RAP)、特に気候変動と持続可能なエネルギー開発の分野での実施の加速と強化のための機会であることを強調した。氏はまた、各個別地域での協議や2001年11月にカンボジアのプノンペンで開催される地域準備会合を通じて、これらの地域準備プロセスがその地域での政府やステークホルダーの幅広い参加を促進すべく計画されていることを強調した。
 
10.  京都議定書の施行に向けて日本の国内的な体制の準備の状況については、高橋康夫氏(環境省地球環境局温暖化国際対策推進室長)から説明がなされた。氏は、特に国内での温室効果ガスの排出削減のための国内体制の構築、京都メカニズムの実施及び対策のフォローアップと評価のための体制作りについて言及し、日本はすでに京都議定書の実施が可能となるよう準備作業を開始したことを紹介した。
 
 
V.IPCC第3次報告書(TAR)における最新の科学的知見
 
11.  2001年4月に承認されたIPCC第3次報告から第1作業部会(WG1)、第2作業部会(WG2)、第3作業部会(WG3)報告の概要が近藤洋輝(気象研究所気候研究部長)、原沢英夫(国立環境研究所環境計画研究室長)、森田恒幸(国立環境研究所社会環境システム領域長)の3氏によってそれぞれ報告された。
 
12.  近藤氏は、WG1報告に基づき、地球大気中の温度、二酸化炭素等の温室効果ガス濃度の歴史的トレンドを示すとともに、様々な気候パラメータの観測値の変動、21世紀中の気候のシミュレーション実験結果及び将来の気候変動予測結果について報告した。氏はまた、WMOが地域レベルの気候センターの設立をしようとしていることも紹介した。
 
13.  原沢氏は、WG2報告に基づいて、気候変動による天然資源への影響、気候変動への適応能力、アジア・太平洋地域における脆弱性を報告した。氏は、アジア・太平洋地域での気候変動による影響の研究を一層推進していくことが重要であることを強調した。
 
14.  森田氏によりWG3報告の主要なメッセージが報告され、特に持続可能な開発と気候変動対策との強い関連づけの必要性、低コストの気候変動対策が高い技術的ポテンシャルを有していること、そして実行可能な技術へのバリアの除去などが特に重要な点として指摘された。
 
15.  これらのIPCC報告書の発表に対して、参加者から、気候変動への適応及び対策コストの推定方法に対していくつかの質問が出された。更に、IPCCの結果を政府部門及び民間部門に周知していくことの重要性が指摘された。
 
16.  別の参加者からは、開発途上国における気候変動対策は、その国の政治的、経済的、社会的な事情に大きく左右されることが言及され、GEF、UNEP、UNDP、UNFCCC事務局等による国際的な協同作業の重要性が強調された。加えて、持続可能な開発と気候変動に関するIPCC特別報告書の作成において、開発途上国からの研究者の参加が重要であることが強調された。
 
 
VI.持続可能な開発と京都議定書:クリーン開発メカニズム(CDM)の可能性
 
17.  松尾直樹氏(IGES気候政策プロジェクト上席研究員)からは、CDMの可能性と役割について総論が示された後、CDMのルールと様式について議論がなされた。CDMは既に実行段階に入っており、CDMの有する複合的な便益を最大化できるような具体的な制度が必要とされていることが強調された。
 
18.  CDM事業のベースラインの設定について可能性のある方法論がジェーン・エリス氏(OECD環境局、気候変動担当官)によって展開された。氏はエネルギー、産業、交通部門におけるCDM事業でのベースラインの標準化に関する問題を明示し、ベースラインの標準化はCDM事業の早期開始に資することを示唆した。
 
19.  山田和人氏(パシフィックコンサルタンツ(株)、環境部地球環境グループリーダー)は、環境省により設置された作業部会の予備的検討結果に基づいて、CDM・JI事業展開のための技術的手順を示した。氏はCDM事業手続きの標準化を検討することが重要であり、将来のベースライン設定のための技術的作業に貢献しうることを強調した。
 
20.  参加者からは、開発途上国においては、CDMに対する理解及びCDMが持続可能な開発の達成に貢献する可能性が十分認識されていない、従ってGEF、UNEP、UNDPには、CDMに関するキャパシティー・ビルディング活動の実施を支援してもらいたい、との意見が出された。
 
21.  環境省委託によるCDM事業の実行可能性の検討実例から2つの結果が紹介された。松田文一氏((株)ジャパンエナジー・リサーチ・センター、技術コンサルティング担当部長)より「ベトナムにおけるサトウキビからのバイオマスエタノール含有ガソリンの製造に関する調査結果」が報告された。そして、このCDM事業による持続可能な開発への便益や二酸化炭素の潜在的な排出削減量が明らかにされた。
 
22.  続いて、鈴木泰伍氏(住友林業(株)、環境事業部長)からは、インドネシアにおける再植林事業の主要な特色について説明がなされた。植林事業は非常に長期間に亘る継続事業でありCDM事業としての実行可能性のアセスメントには様々な困難があることが示唆された。さらに、CDM事業の成果への地域住民の理解を得ることの重要性が強調された。
 
23.  参加者からは、CDM事業を民間ベースで円滑に実行するためには、ホスト国において法的あるいは制度的な枠組を構築する必要があることが指摘された。さらに、地域住民の理解と協力がCDM事業には不可欠であることから、地域社会への影響に十分留意すべきことも重要であると指摘された。
 
24.  アルカ・ケラー氏(タタ・エネルギー研究所地球環境センター研究員、インド)より再生可能エネルギーのCDM事業への活用について説明がなされた。再生可能エネルギーによるCDM事業が持続可能な開発に資する様々な将来性を有していること、及び異なる技術タイプに対する削減コストなどが報告された。そして、CDM事業はホスト国が中心となって運営されることが望ましいこと、などが強調された。
 
25.  アラン・ケシャップ氏(UNDP環境持続可能な開発・気候変動CDMアドバイザー)は、貧困撲滅や持続可能な開発のフレームワークの中で、開発途上国における気候変動対策を促進するためのUNDPの様々な活動や役割を紹介した。CDM事業を実行に移すためには、持続可能な開発に向けたホスト国の政策優先度を反映した活動を推進するため、現場でのキャパシティー・ビルディングや技術移転を支援することがとりわけ重要であると氏は強調した。
 
26.  マシュー・メンディス氏(国際資源グループ、副代表)は、CDM事業のスクリーニング、評価及び承認のクライテリアや手順に焦点を当てたカザフスタンにおける事例研究を紹介した。氏は、CDM事業を促進するために、各ホスト国において、省庁間組織の設立、フォーカルポイントの設置及びCDM事業を運営実施するためのルールやガイドラインの作成を行うことを提案した。カザフスタンからの出席者は、本事例研究で紹介されたガイドラインは、カザフスタンにおいて実際に運用されていることを付け加えた。
 
27.  参加者からの質問に対してメンディス氏は、潜在的な投資を促進するために、CDM事業のルールは明確で、高い透明性を有し、かつホスト国におけるリスクを最小化できるようなものにすべきであると論じた。さらに、認証に先立っての買い手とホスト国のCERsの所有権に関するルールづくりもまた重要であり、明確化すべきであると付け加えた。参加者からはCDM事業からのCERsの所有権についての質問が出されたほか、ベースライン設定や認証は多くのCDM活動において中心的なファクターになろうとの指摘もなされた。
 
 
VII.途上国における適応対策について
 
28.  西岡秀三氏(GEF科学技術アドバイザリーパネル委員、国立環境研究所理事)は、特にIPCCの第3次報告書の発表及びCOP6再開会合以降の適応関係活動への関心の再度の高まりについて注意を喚起した。氏は、様々な国際機関の活動と既存及び計画中の資金提供メカニズムについて紹介した。また、ある程度の地球温暖化は避けられなくなりつつあるという事実があるため適応戦略の確立が急務であることを指摘した。
 
29.  ラビ・シャルマ氏(UNEP政策開発及び法規課・気候変動対応活動・タスクマネージャー)は、アジア太平洋地域における気候変動の影響の可能性を強調し、適応策と脆弱性評価に関連するUNEPの活動について紹介した。彼は、GEF-UNEP-IPCCが共同で実施している新たなプロジェクトである「複数地域及びセクターにおける気候変動の影響評価と適応(AIACC)」について紹介した。氏は、さらに、この活動についての情報を普及し、プロジェクトの予備提案に応募するように途上国の参加者に対して促した。また、質問に答えて、例えばGEFやAIACCの下で行われている資金提供メカニズムに関連する手続きや締め切り等の多くの詳細について明確にした。
 
30.  三村信夫氏(茨城大学教授)は、環境省が支援している南太平洋における適応性評価の概要について発表した。氏は、脆弱性評価、各種適応対策の選定と実施ならびに技術移転について、必要性と問題点の指摘を行った。また、能力育成、脆弱性評価及び実際的な適応計画の策定が将来のために重要であることを強調した。
 
31.  ポンティ・ファーヴ氏(ツバル天然資源環境エネルギー省気候変動調整官補佐)は、実例に基づきツバルでの適応対策についての経験を述べ、ツバルが、南太平洋において気候変動に対して最も脆弱な国の一つであることを指摘した。氏は、気候変動への適応について、先進国が交渉においてより建設的な役割を果たすよう求めた。
 
32.  アンドレア・オラブ・ビン・ボレントラス氏(SPREP法律事務官)は、SPREPによって2001年6月に実施された、「気候変動に関する太平洋島嶼国地域会合」の結果について説明した。
 
33.  参加者は、沿岸地域におけるマングローブ林の役割、気候変動への適応に関する調査・研究が不十分であること、実際的なガイドラインや参考図書が必要であることを等を議論した。台風などの異常現象の影響に対応するための対策の重要性も提起された。
 
 
VIII.気候変動枠組条約に基づく非附属書I国における通報の作成の促進
 
34.  ジョージ・マンフル氏(UNFCCC事務局)は、非附属書I国の通報作成の現状について概説するとともに、通報作成のための各種支援策について紹介した。氏は、非附属書I国146ヶ国のうち55ヶ国が既に第一次通報を、1ヶ国が既に第二次通報を提出していることを述べた。また、各国が通報を作成するに当たってはいくつかの困難な点があること、特に土地利用変化及び林業(LUCF)における活動量データや排出係数の必要性について強調した。
 
35.  田辺清人氏(IGES主任研究員、IPCCインベントリプログラムテクニカルサポートユニット)から、アジア太平洋地域における温室効果ガス排出目録作成に対する支援活動、特にGHG排出目録データベース改良のためのアジア太平洋ネットワーク(NAPIID)を通じて行われている支援作業について説明があった。氏は、NAPIIDに対する同地域からの積極的な専門家の参加を求めた。また、非付属書I国における信頼できるGHG排出目録の作成を支援するために、現在IPCCが行っているGHG排出係数についてのデータベース設立のためのプロジェクトについて紹介した。
 
36.  ナンディータ・モンギア氏(UNDP/GEFアジア太平洋担当気候変動地域マネージャー)が、UNDPの温暖化対策に向けた持続可能な開発活動と、GEFの窓口を通じて行われている気候変動イニシアチブ(CDI)との連携について説明した。彼女はUNDP/GEFの、これまでのアジア太平洋地域における温暖化対策活動の経験について紹介し、アジア太平洋地域においては25ヶ国が第一次通報を提出済みであり、16ヶ国が引き続き準備を進めていることを紹介した。彼女は、現在実施されているCO2排出削減プロジェクトが、将来のホスト国でのCDMの効果的な実施を促進するであろう事を説明した。
 
37.  アガス・ヒダヤト氏(インドネシア環境省気候変動ユニット長補佐)は、インドネシアにおける通報作成の経験を紹介した。専門家の不足と不十分なデータベースが主な問題であるため、氏は、気候変動問題に関するデータや情報についての、国内及び国際的なクリアリングハウスの設立を推奨した。
 
38.  ワニ・サンファンタラク氏(タイ)から、タイにおける第一次通報作成の経験が紹介された。彼女は、IPCCの1996年改訂ガイドラインは、タイのような熱帯地域のいくつかの分野では効果的に適用することが出来ないことを指摘し、それぞれの地域の状況や環境に応じてガイドラインを修正することを推奨した。
 
39.  多くの参加者は 非附属書I国の通報作成を支援するためには、さらなる財政的、技術的な支援が求められていることについて、見解を共有した。また、通報の完成を促進するために、インターネットによって意志疎通のためのネットワークや共働作業を拡大することも不可欠と考察された。
 
 
IX.APNET
 
40.  日比保史氏((株)野村総合研究所(NRI)、国土・環境コンサルティング部副主任研究員)は、APNETに関連する活動について発表した。APNETは、インターネットによる情報ネットワークであり、第8回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーでの合意に基づいて、環境省が立ち上げ、運営しているものである。NRIはAPNETの事務局の役割を果たしている。氏の発表では、この地域の諸国によるAPNET活用の現状、2001年に実施された情報技術に関する能力開発プログラムの結果、APNETを活用し強化するための新たな活動に関する提案が行われた。CDMのクリアリングハウスとしての機能を持たせるとの提案を示した。また、APNETが独自の情報、例えばCDMのための能力開発に貢献する情報、について発信していくべきと強調した。
 
41.  本セミナーは、APNETを運営し、情報技術に関する能力開発へ貢献している環境省に対して、謝意を表明した。参加者は、この地域における気候変動に関する専門家同士が、彼らの専門知識を交換するために、ネットワークを形成すること及び“南南協力”を実現していくことの重要性について指摘した。参加者は、APNETが気候変動に関するこの地域における様々なプロジェクト、イニシアチブ、重要なウェブサイト(TERIによって集められた情報を含む)に関する情報を提供していくことへの期待を表明した。APNETが、他のイニシアチブのための作業と重複することなく、この地域におけるCDMの仮想クリアリングハウスの一つになっていくことが期待された。
 
 
X.温暖化防止と地域協力に向けた地方自治体による取組
 
42.  井上正治氏(北九州市環境局環境保全部長)が、過去数十年に亘って、クリーン技術(CP)プロジェクトを含む様々な対策によって、北九州市がどのように経済発展、環境汚染の克服、省エネルギーを同時に達成してきたのかについて説明した。また、北九州市がアジアの多くの都市と協力してきていることについても説明があった。
 
43.  参加者からは、開発途上国にとってはクリーン技術による対策にかかる初期投資コストが最も重要な障壁であることが述べられた。しかしながら、適正な維持管理プログラム等、低い投資コストで達成できる多くの活動があることが指摘された。
 
44.  渡辺章氏(福岡県リサイクル総合研究センター副センター長)が、リサイクル技術の研究開発や情報交換の促進のために、福岡県によって設立された当センターの機能について概説した。当センターが、アジア太平洋地域におけるリサイクル・システムの促進に貢献することが期待された。
 
45.  金子慎治氏(IGES都市環境管理プロジェクト研究員)は、現在実施している、アジアのいくつかの大都市におけるエネルギーに起因する環境問題についての政策の統合に関する研究についての説明を行った。本研究の目的は、地域における大気汚染問題及び温室効果ガス排出削減に対処するための、政策指向の分析手法を開発することである。
 
46.  ウェイン・ウェスコット氏(ICLEIオーストラリア・ニュージーランド事務所長)は、オーストラリアの地方議会によって実施されている「気候保全のための都市(CCP)プログラム」について説明した。氏はCCPプログラムがワークショップの開催や、研修の提供、広報支援、情報交換の促進等によって、各都市に対する支援を行っていることについて報告した。本プログラムは、都市に対して、CCPの設定した指標の枠組みに基づいて、目標設定を行うこと決議することを要求するものである。これらの指標としては、排出量目録の作成、削減目標の設定、地方における温暖化対策戦略の策定・実施、その結果についての監視と点検が含まれる。氏は、それほど複雑でない、小規模の取組の積み重ねによって大きな便益を達成できる能力が自治体にあることを強調した。
 
47.  パメラ・ギャラレス-オプス氏(ICLEI 気候変動都市キャンペーン東南アジア地域マネージャー)が、フィリピンで行われている温暖化防止キャンペーンの事例について紹介した。氏は、開発途上国の都市が、地域環境を改善してかつ温暖化防止を行うことが出来るのかについて示した。
 
48.  オーストラリア及びフィリピンにおけるICLEIの活動に対する様々な質問に対して、追加的な情報が提供された。具体的には、資金提供、自治体政府との協力の発展方法、彼らの経験や活動の国レベル及び地方レベルの政策形成への統合(例えばそのようなイニシアチブを通報で報告すること)であった。
 
 
XI.結び 
 
49.  今回のセミナーの主要な成果は、本年10月に日本の東京都で開催されるエコアジア2001で報告すべきことが勧奨された。また、セミナーの議長サマリーは、できる限り広範に配布されるべきである。
 
50.  参加者は、ESCAPが、タイ国科学・技術・環境省と協力して、2002年夏にバンコクで第12回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーを開催するという提案を歓迎した。ICLEIからの参加者は、来年の本セミナーと協力したいとの意向を表明した。参加者の一人は、本セミナーへの参加国を拡大することの必要性に言及した。
 
51.  参加者は環境省、福岡県、北九州市、ESCAP、IGESに対し、本セミナーを開催したことに対する謝意を表明した。
 
 
2001年8月31日  日本国福岡県北九州市にて
 第11回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー議長
井 村  秀 文