2. 環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法の選定 の指針に関する基本的事項
(1)  環境影響評価制度が対象とする項目の範囲
{1} 環境基本法第14条各号に掲げる事項の確保
環境基本法第14条各号に掲げる事項の確保を旨とした環境影響評価の項目等の選定【法第11条第3項】【答申II.4.(1)イ】
一 大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素の良好な状態の保持
二 生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全
三 人と自然との豊かな触れ合いの確保  【環境基本法第14条】
環境基本法の下での環境保全施策の対象を評価できるよう、調査・予測・評価の対象を見直すことが適当。【答申II.4.(1)イ】

[現行閣議決定要綱における基本的事項]
一般的事項
(2)  調査等は、公害の防止及び自然環境の保全について以下のとおり行うものとする。
公害の防止については、人の健康の保護並びに人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む生活環境の保全に係る事項について調査等を行うものとする。
自然環境の保全については、原生の自然地域、学術上、文化上特に価値の高い自然物等のかけがえのないもの、すぐれた自然風景や野生動物の生息地、野外レクリェーションに適した自然地域等の良好な自然等のそれぞれの特性に応じた適正な保全に係る事項について調査等を行うものとする。
調査等の項目とその取り扱い
(1) 対象事業の実施が環境に及ぼす影響を明らかにするために一般的に必要と認められる調査等の項目(以下「対象項目」という。)は、別表に掲げる環境の要素に関し対象事業の特性に応じて必要な項目を指針において定めるものとする。
(別表)  公害の防止に係るもの:大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭
II 自然環境の保全に係るもの:地形・地質、植物、動物、景観、野外レクリェーション地
{2} 環境への負荷で捉える場合
不特定多数の主体の活動による環境負荷により、長期間かけて環境保全上の支障に至る性質の問題については、個別の事業による環境の状態への影響の予測・評価は困難だが、個別事業に係る環境への負荷を予測した上で、建造物の構造・配置の在り方等を含む幅広い環境保全対策についての複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の導入の検討等の手法により評価することが可能。<2(5){1}に再掲>【答申II.5.(2)ウ】
{3} 対象とする影響及び行為の範囲
事業の実施が環境に及ぼす影響
(事業は、特定の目的のために行われる一連の土地の形状の変更(併せて行うしゅんせつを含む。)及び工作物の新改増築をいう。)
(影響は、事業実施後の土地・工作物において行われることが予定される事業活動その他の人の活動が事業目的に含まれる場合は、これらの活動に伴って生ずる影響を含む。)【法第2条第1項】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
一般的事項
(3) 調査等は、対象事業の実施に係る以下の行為等について、調査を行う時点における事業計画等に応じ行うものとする。
埋立又は干拓以外の対象事業にあっては、
{1} 当該対象事業の実施に係る工事(当該対象事業の実施のために行う埋立又は干拓に係るものを除く。)
{2} {1}の工事が完了した後の土地(他の対象事業の用に供するものを除く。)又は工作物の存在
{3} {2}の土地又は工作物において行われることが予定される事業活動その他の人の活動
対象事業である埋立又は干拓にあっては、
{1} 当該埋立又は干拓の実施に係る工事
{2} {1}の工事が完了した後の土地(護岸、堤防、岸壁その他これらに類する工作物を含む。)の存在


(参考)以上の概念の整理
行   為 工  事  存  在 供  用
(1号)環境の自然的構成要素

                       
(2号)生物の多様性及び
  自然環境の体系的保全
     
(3号)人と自然との触れ合い

     
環境への負荷で捉える場合

     



(2)



事業種毎の標準的な項目及び手法の選定
{1} 事業種の特性に応じた標準的な項目及び手法の選定
既に得られている科学的知見に基づき、対象事業に係る環境影響評価を適切に行うために必要と認められる項目及び手法の選定のための指針 <4{1}に再掲>【法第11条第3項】
情報の提供時期、提供する情報の内容等は、事業種等に応じた対応のできる仕組み。【答申II.2.(1)イ】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
一般的事項
(4) 指針においては、既に得られている科学的知見に基づき、対象事業の実施が環境に及ぼす影響を明らかにするために一般的に必要と認められる調査等の項目及び対象事業の実施が環境に及ぼす影響を明らかにするための合理的な調査等の技術的方法を定めるものとする。
調査等の項目とその取り扱い
(2) 対象項目に関する調査等の取り扱いは以下の考え方によるものとする。
公害の防止に係る項目にあっては、調査の結果に基づき、定量的な予測が可能であるものについては定量的な予測を行い、定量的な予測が困難なものについては定性的な予測を行うことを基本とする。
また、評価に際しては、調査、予測及び公害の防止のための措置の検討の結果等を踏まえ、環境基準又は科学的知見に基づく判定条件が利用し得るものについては環境基準又は判定条件に照らして評価を行い、同様な評価を行うことが困難なものについては科学的知見に基づいて判断することにより評価を行うことを基本とする。
自然環境の保全に係る項目については、調査地域における自然環境の現況について調査、解析を行い、その結果を踏まえて調査地域における重要な自然環境の状態を明らかにし、これら重要な自然環境についてその状態の変化を定量的又は定性的に予測し、その重要さに応じた保全の水準を考慮して評価するものとする。
この場合、環境の要素のうち動物については、必要に応じ生態への影響の観点からの配慮を行うものとする。
a) 標準的な項目及び手法
地域特性等を勘案する際に基礎となる標準的な調査・予測・評価の項目及び方法を提示。【答申II.4.(2)イ】
スコーピングのルールをあらかじめ定めておけば有効に機能するのではないかとの意見があり、事業種類ごと又は事業段階ごとに一般的に関連すると考えられる環境要素をマトリックスにして示し、スコーピングの目安とするという方法、第三者機関によるガイドラインの提示、類似事例等に係る情報提供等の対応方策がある。【総合研究会報告書31頁】
b) 具体的な対象項目
農薬等化学物質による地下水汚染等の環境汚染の広がりに対応して、12要素の範囲においても対象の広がりが認められ、また、地方公共団体の中には、光害、通風障害、二酸化炭素排出量等に対する新たな取組も見られる。【総合研究会技術専門部会報告書4頁】
海域の富栄養化、農薬、有機塩素系化合物等への対応として水質環境基準に新たな項目が追加されたとともに監視を要する水質調査項目が定められたこと、土壌汚染の広がりに関し土壌の環境基準が定められたこと、地下水汚染への特定地下浸透水の浸透が禁止されたこと、悪臭では排出水中の特定悪臭物質の規制基準が定められるとともに、嗅覚測定法を用いた特定の悪臭物質に限らない悪臭に対する規制が排水を経由するものも含め開始されたことなど、環境問題の広がりに対する行政的対応が、近年行われているものがある。これらについては、既に、実際の環境影響評価のおいて対応がなされている事例があるものの、大部分の技術指針が策定された以降に行政的対応が図られたものも多く、現行の技術指針の大部分はこれらの扱いを考慮したものとはなっていない。【総合研究会技術専門部会報告書4頁】
動物と植物、生物とその生育・生息環境である大気、水、土壌等の自然的構成要素との関係、景観や野外レクリエーション地等の自然との触れ合いの場と生物や大気、水等の自然的構成要素との関係、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的にとらえ水環境として一体的に評価するなど、要素間の相互関係を考慮に入れることも求められている。【総合研究会技術専門部会報告書4〜5頁】
微量化学物質による生態系への影響、河口域における塩分濃度の変化による生物への影響、除去基準が定められていない物質による底質汚染、土工事に伴い発生する可能性のある赤水、酸性水、有害物質等の流出、酸性雨の植物への影響、野外レクリエーション地の利用状況等についても検討するべきという指摘もある。【総合研究会技術専門部会報告書5頁】
国外においては、特定の生物種に限らない、湿地、マングローブ林、珊瑚礁等の生態系そのものへの影響、種の多様性の変化、資源採取、遺伝子工学的微生物、放射線、視程の変化、化学物質の使用等にともなうリスク等が対象として挙げられている。
【総合研究会技術専門部会報告書5頁】
地球環境に関する配慮としては、いまだ歴史が浅いものの、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの排出量及びその森林等による吸収量、熱帯材等の使用量等を評価の対象としている事例も見られる。【総合研究会技術専門部会報告書5頁】


(3) 個別の事業毎の項目及び手法の選定
{1} 事業内容及び地域環境特性による項目の追加・削除、重み付け
事業者は、都道府県知事の意見を勘案するとともに、環境保全上の見地からの意見を有する者の意見に配意して方法書に示す項目及び手法の内容に検討を加え、対象事業に係る項目及び手法を選定【法第11条第1項】
事業が環境に及ぼす影響は、当該事業の具体的な内容や当該事業が実施される地域の環境の状況に応じて異なる【答申II.4.(2)ア】
項目及び方法は、画一的に定めるのではなく、包括的に定めておいて、個別の案件ごとに絞り込む仕組みとする。【答申II.4.(2)ア】
自然環境、人の健康、生活環境に関する要素において、地域概況調査の結果は、予測評価すべき要素の絞り込みに用いることができるとともに、事業内容等も含めた環境配慮の検討に用いることができる。【総合研究会技術専門部会報告書6頁】
影響要因があっても影響を受ける対象がないならば選定されないこともある。例えば、技術指針では、騒音の発生が予測されても住居等の受容者がない場合、騒音は選択しなくてもよいとされている場合がある。【総合研究会技術専門部会報告書9頁】
予測手法の選択については、現在、一律に厳密な手法を求める場合があるが、事業の実績が十分あり影響が少ないと予め分かっている場合には、簡便な方法を用いてもよいとの指摘もある。【総合研究会技術専門部会報告書11頁】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
一般的事項
(5) 指針は、対象事業の特性及び対象事業の実施が環境に及ぼす影響について調査すべき地域(以下「調査地域」という。)の特性に配慮して、調査等が適正に行われるよう定めるものとする。
「影響の重大性」の意味【海外での事例】
I. アメリカ NEPAの例(参考2−1)
1) 影響を受ける状況(社会(人間、国家)、地域などの状況)
2) 影響の強さ
II. カナダCEAAの例(参考2−2)
1) 環境影響が望ましくないものかどうか
2) 環境への悪影響が大きいかどうか
3) その影響が生じる見込み


(4) 調査手法の選定に関する基本的要件
{1} 調査の目的・視点
現況調査は、予測評価をする内容に従って、調査する項目及び手法を選定。【総合研究会技術専門部会報告書7頁】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
調査に係る基本的事項
(1) 調査は、対象事業の実施が環境に及ぼす影響を予測し、評価するために必要とされる情報を収集し、その結果を整理、解析することにより行うものとし、その技術的方法は指針において定めるものとする。
{2} 調査の手法
調査の方法には、既存資料の収集及び解析、並びに、現地ヒアリング、現地踏査及び現地測定等の現地調査がある。【総合研究会技術専門部会報告書7頁】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
調査に係る基本的事項
(2) 調査は、以下の各号に関し、既存資料の収集、現地調査等を行い、その結果を整理、解析することにより行うものとする。この場合において、予測及び評価を行う項目については、そのための必要な水準が確保されるよう配慮するものとする。
{1} 対象項目に関する環境の現状
{2} {1}の対象項目に関連して情報を収集する必要がある気象、水象等の自然条件及び人口、産業等の社会条件であって指針で定めるもの
(5) 対象項目に関する調査手法又は測定方法は、指針において定めるものとする。この場合において、環境基準を定める告示、その他法令等により調査手法又は測定方法が定められている場合には原則としてその手法又は方法とし、それ以外の場合には指針において適切な手法又は方法を定めるものとする。
{3} 調査に関する留意事項
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
調査に係る基本的事項
(3) 対象項目に関する調査の期間、頻度等又はこれらの設定に関する留意事項は、指針において定めることを基本とする。
a) 調査の地域的範囲
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
調査に係る基本的事項
(4) 対象項目に関する調査地域の範囲は、原則として対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む区域又は環境が直接改変を受ける範囲とその周辺区域等とし、予め具体的に定めうる場合にはそれを、それ以外の場合には、個別の対象事業に係る調査の実施に際し、当該対象事業の実施が環境に及ぼす影響の程度について予め想定して設定することとし、その趣旨を指針において定めるものとする。
b) 調査の地点
計測が行われる際、時間的、コスト的制約や気象等の外部条件の制約により、計測地点や期間が限られる場合がある。このため、計測値の代表性が問題になることがある。<2(4){3} c)に再掲>【総合研究会技術専門部会報告書8頁】
c) 調査の期間・時期
調査時期については、大気質、水質等の時間的変動、動植物の生息・生育状況、景観や野外レクリエーション地の利用状況等を把握し、これを反映できるよう設定することが重要と考えられている。【総合研究会技術専門部会報告書7頁】
計測が行われる際、時間的、コスト的制約や気象等の外部条件の制約により、計測地点や期間が限られる場合がある。このため、計測値の代表性が問題になることがある。 <2(4){3} b)に再掲>【総合研究会技術専門部会報告書8頁】
生物の全種調査の場合、季節や生活史による分布の変化のため確認同定できる時期が異なるため、四季や生活史に応じた調査が必要となるが、現実には時間的制約等から困難な場合も多い。 【総合研究会技術専門部会報告書8頁】
特に昆虫などは同定が困難なこともあり、労力をかけても全ての種を網羅することは不可能であるため、目的がレッドデータブック掲載種等の発見か、自然環境の総体的な特性の把握かなどの目的に応じた効率のよい調査方法の選択が必要との考えもある。【総合研究会技術専門部会報告書8頁】
d) 調査の前提条件の明確化
データや手法の出典等、調査・予測・評価の基礎となった技術的情報についての記載が行われることが適当。<2(5){3}d)に再掲>【答申II.5.(3)】
e) 調査データ等の公開
調査・予測・評価の基礎となった観測データ等は、準備書等にその出典を記載する等、必要に応じ利用できるよう配慮が必要。【答申II.5.(3)】
希少生物の生息・生育情報は、公表により密猟等を誘発する懸念もあることから、種・場所を特定できない形で示す等の公表の手法に関する配慮が必要。【答申II.11.ア】


(5) 予測手法の選定に関する基本的要件
{1} 予測の目的・視点
不特定多数の主体の活動による環境負荷により、長期間かけて環境保全上の支障に至る性質の問題については、個別の事業による環境の状態への影響の予測・評価は困難だが、個別事業に係る環境への負荷を予測した上で、建造物の構造・配置の在り方等を含む幅広い環境保全対策についての複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の導入の検討等の手法により評価することが可能。<2(1){2}に再掲>【答申II.5.(2)ウ】
予測は、事業の影響の恐れがある要素/影響について実施。【総合研究会技術専門部会報告書9頁】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
予測に係る基本的事項
(1) 予測は、調査結果の整理、解析により予測が必要と認められる項目について、対象事業の実施により生ずる一般的な条件下における環境の状態の変化を明らかにすることにより行うものとし、その技術的方法は指針において定めるものとする。
{2} 予測の手法
予測手法には、環境の状態の変化等を定量的に予測する手法(定量的手法)と定性的に予測する手法(定性的手法)がある。【総合研究会技術専門部会報告書11頁】
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
予測に係る基本的事項
(2) 公害の防止に係る対象項目及び自然環境の保全に係る対象項目に関する予測は以下により行うものとする。
なお、事業者又は国等が行う公害の防止及び自然環境の保全のための措置又は施策を踏まえて行うことができるものとする。
公害の防止に係る対象項目に関する予測は、対象事業の特性を勘案して、数理モデルによる数値計算、模型実験、既存事例の引用又は解析等により行うものとする。
なお、予測の方法の選択に当たっては、その特徴、適用条件、調査地域の特性等に留意するものとする。
自然環境の保全に係る対象項目に関する予測は、直接的影響については各項目の特性に応じてその消滅の有無及び改変の程度についてできるだけ定量的に行うものとする。
また、必要に応じ間接的影響について予測を行う場合には、主として定性的に行うものとする。
{3} 予測に関する留意事項
a) 予測の地域的範囲
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
予測に係る基本的事項
(4) 予測すべき地域(以下「予測地域」という。)の範囲は、対象項目に関する調査地域の範囲内で指針において定めるものとする。
予測の空間的範囲は一定の影響の及ぶ範囲とされているが、酸性降下物のような長距離の汚染物質の移動は現在あまり考慮されていない。一方、河川横断構造物が水系全体の生態系に及ぼす影響、渡り鳥の採餌地・繁殖地の消滅が渡り鳥の生存に関わる影響など広域的な影響が考慮されるようになってきている。【総合研究会技術専門部会報告書10頁】
b) 予測の地点
実際の環境影響評価では、航空機騒音の地上騒音の予測、大気汚染の高さ方向の予測、鉄橋等の特殊音の予測等がなされていない場合に問題になることがある。【総合研究会技術専門部会報告書9頁】
c) 予測の時期
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
予測に係る基本的事項
(3) 予測の対象時期は、対象事業の特性に応じ環境影響を的確に把握できるよう指針において定めるものとする。
予測の時期については、工事、存在、供用の各段階が対象となっており、一般的には、影響が最も大きくなる時期が選択されている。景観や自然環境の代償措置については、長時間にわたって変化が生じるが、このような長期的変化は考えられていないことが多い。時間経過に従って予測を行うべき事例もあるとの指摘もある。【総合研究会技術専門部会報告書10頁】
d) 予測の前提条件の明確化
データや手法の出典等、調査・予測・評価の基礎となった技術的情報についての記載が行われることが適当。<2(4){3}d)に再掲>【答申II.5.(3)】
数理モデルは、一般的な単純化された条件を前提として開発されたものが多く、地形・構造・要素等の条件が特殊で適用が困難なケースも多く残っている。このような場合、新たなモデルの開発や実測による補正等による努力が続けられているが、その一方で、大気汚染の拡散や騒音予測等において、数理モデルがその適用範囲を逸脱して使われていることもある。【総合研究会技術専門部会報告書11頁】
数理モデルの入力条件として、汚染物質の排出量や騒音のパワーレベル等が必要となるが、これらは発生源単位に事業活動の規模を乗じて算出されることが多い。【総合研究会技術専門部会報告書11頁】
e) 予測手法の検証
数理モデルを補完する手法としての大気汚染、水質汚濁、騒音等における模型実験、大気汚染における現地実験の手法は数理モデルの開発や検証に用いられている。【総合研究会技術専門部会報告書12頁】
f) バックグランドの設定のあり方
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
評価に係る基本的事項
(4) 評価に当たっては、必要に応じ、当該対象事業以外の事業活動等によりもたらされる地域の将来の環境の状態(国又は地方公共団体から提供される資料等により将来の環境の状態の推定が困難な場合等においては、現在の環境の状態とする。)を勘案するものとする。また、国又は地方公共団体等が実施する公害の防止及び自然環境の保全のための施策を勘案することができるものとする。
大気汚染、水質汚濁等では、対象事業以外の活動による環境影響を含んだ環境の状態(いわゆるバックグランド)の予測が一般に必要とされる。また、動物、植物、野外レクリエーション地等では、保全対象と同様のものの事業対象地域以外における分布やその将来動向が、保全対象の価値付け、予測結果の評価において重要な意味を持っている。景観においても、対象事業以外の背景や視点場の将来変化も重要な意味がある。【総合研究会技術専門部会報告書19頁】
対象事業以外の影響を予測することは事業者にとって困難であることも多く、現況と同じと仮定することも多く行われている。一方、行政等の環境保全対策を勘案して将来のバックグランドを設定すること、地方公共団体が地域の将来予測結果や予測モデルを持っている場合は、これを用いて予測することなども行われる場合がある。【総合研究会技術専門部会報告書19頁】
g) 不確実性の検討
科学的知見の限界に伴う予測の不確実性の存在に関する記載の必要性【答申II.5.(3)】
知見や情報が限られていること、予測結果も統計的な推計値であること、自然環境の条件が変わりうること、多様な地域条件を予め全て勘案することは困難なこと、事業者による管理が困難な要因があること、他の事業に起因する影響の累積は予測困難なこと、面整備事業において上物が決まらない段階での正確な予測が困難なこと、などから予測には一定の不確実性が伴うことは避けられない。【総合研究会技術専門部会報告書14頁】
不確実性の程度や内容を評価するための方法として、不確実性を持つ予測条件に関し、感度分析を行う方法、予測結果を幅で示す方法、不確実性をもたらす要因とその不確実性の程度を整理して示す方法などがある。また、意思決定において不確実性を適切に扱うため、調査対象国等では、アセスに情報や技術的困難点の記載を求めている例がある。【総合研究会技術専門部会報告書14頁】


(6) 評価手法の選定に関する基本的要件
{1} 評価の視点
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
評価に係る基本的事項
(1) 評価は、対象項目に関する調査、予測並びに公害の防止及び自然環境の保全のための措置の検討の結果等を踏まえ、対象事業の実施が予測地域の環境に及ぼす影響について科学的知見に基づいて事業者の見解を明らかにすることにより行うものとし、その技術的方法は指針において定めるものとする。
a) 環境への影響の回避・低減
事業の実施による環境への負荷をできる限り回避し、又は低減することその他の環境の保全についての配慮の適切な実施。<3{1}a)に再掲>【法第3条】
従来の国内の制度は、予め事業者が設定した、環境基準、行政上の指針値等の環境保全目標を満たしているか否かという観点から評価。これは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。一方、こうした観点の評価は、{1}達成されている場合に、それ以上自主的かつ積極的に環境負荷を低減する取組がなされない場合があること、{2}生物の多様性等のように画一的な環境保全目標の設定がなじみ難い場合が多いこと等の問題。したがって、事業者の実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し低減するものであるか否かを評価する視点を導入。【答申II5.(2)ア、イ】
b) 既存の環境保全上の基準・計画等との整合性
各種の環境保全施策における基準・目標を考慮しつつ、事業に伴う環境影響の程度を客観的に記載。<3{1}a)に再掲>【答申II.5.(3)】
{2} 評価の手法
[現行閣議決定要綱における基本的事項]
評価に係る基本的事項
(2) 公害の防止に係る項目についての評価は、人の健康又は生活環境に及ぼす影響について、科学的知見に基づいて、人の健康の保護又は生活環境の保全に支障を及ぼすものかどうかを検討することにより行うものとする。
この場合、公害対策基本法第9条の環境基準が定められている項目にあっては当該環境基準に照らし、人の健康又は生活環境への影響に関する判定条件等を利用し得る項目にあってはそれらに照らし、評価を行うことを基本とする。

[現行閣議決定要綱における基本的事項]

評価に係る基本的事項
(3) 自然環境の保全に係る項目についての評価は、予測地域における自然環境に及ぼす影響について、科学的知見に基づいて、それが自然環境の重要さに応じた適切な保全に支障を及ぼすものかどうかを検討することにより行うものとする。
a) 複数案の比較検討
複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の導入の検討の手法を、わが国の状況に応じて導入。<2(6){2}b)に再掲>【答申II.5.(2)イ】
複数案の比較検討は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較検討することを意味。【答申II.5.(2)イ】
b) 実行可能なより良い技術の検討
複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の導入の検討の手法を、わが国の状況に応じて導入。<2(6){2} a)に再掲>【答申II.5.(2)イ】
c) 既存の環境保全上の基準・計画等との整合性の検討
野外レクリエーション地、地域景観等、地域的特性が強く、全国一律の評価尺度がないような要素については、地域的目標等が評価のための情報となりうる。調査対象国等の制度の規定においても、環境に関わる既存の政策、地域の計画、目標等との整合性を影響の重大性の判断における考え方の一つとしてあげている。【総合研究会技術専門部会報告書18頁】
d) 評価に関する留意事項
重要度の判断については、今後は、生物の多様性の保全、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの確保の観点から判断することが望まれており、このような判断を行う場合の価値軸としては、例えば、親近性、教育性、地域代表性、祭礼や日常における地域社会との関連性、地域の自然の多様性の確保における位置づけ等の多様なものが考えられる。【総合研究会技術専門部会報告書16頁】