3. 保全及び持続可能な利用のための施策の基盤
(1) 関連する主な法律・指針等

 生物多様性国家戦略の策定目的の一つは、関連施策の推進と相互の有機的な連携を促すことである。我が国には生物多様性の保全及び持続可能な利用に関連する現行法制度が多数あり、これに基づき様々な施策が実施されている。例えば、環境の総合的・計画的推進に関する環境基本法、自然環境保全の総合的推進に関する自然環境保全法、自然公園の保護と利用に関する自然公園法、野生動植物の保護と狩猟の適正化に関する絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律や鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律、天然記念物の指定と保護管理に関する文化財保護法、森林の保全と利用に関する森林法や林業基本法、水生生物の保護と利用に関する漁業法や水産資源保護法、都市における緑地の保全と創出に関する都市緑地保全法や都市公園等の設置と管理に関する都市公園法などがある。
 また、これらの法律に基づいて、環境基本計画、自然環境保全基本方針、希少野生動植物種保存基本方針、森林資源に関する基本計画等が策定されており、いずれも生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用に密接に関連する国の基本方針や計画となっている。


(2) 施策推進のための組織的枠組み

 生物多様性条約の実施促進を目的として1994年1月に関係省庁連絡会議が設置された。この連絡会議は生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用に特に関係の深い主な省庁の局長クラスで構成され、議長は環境庁自然保護局長が務めている。
 1997年7月現在の構成省庁は環境庁、外務省、内閣内政審議室、科学技術庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、建設省、国土庁の12省庁となっている。生物多様性国家戦略の原案作成や国民からの意見聴取はこの連絡会議が主体となって行った。今後は国家戦略に基づく各種施策の実施状況の点検等を実施していくこととしている。


(3) 国家戦略の策定

国家戦略策定の目的
 地球上には1,300万から1,400万種といわれる多くの生物が生息・生育し、人類の生存基盤である多様な生態系を形づくっており、それは人間生活にさまざまな恵みをもたらすかけがえのない存在である。現在、世界的に人間活動による生物多様性の著しい減少が懸念されており、その保全は地球環境を守るために各国が協調して取り組むべき緊急の課題となっている。
 上述の通り、我が国は変化に富んだ自然環境に恵まれ、そこに生息・生育する野生生物も多様であるが、一方では開発の進行等による野生生物の生息・生育地の消滅や減少が進んでおり、多くの種がその存続を脅かされている。我が国の豊かな生物多様性を確実に将来に伝えて行くことは、我が国が生物多様性条約においてまず果たすべき責務であり、同時に世界の生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用にも貢献していくことにつながる。
 我が国は、1993年に生物多様性条約を受諾し、この条約に基づく生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用を促進するための取組を進めることとなった。
 我が国においては、生物多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用に関係する施策は、政府の幅広い機関に及んでおり、また、国のみならず自治体、企業、民間団体など幅広い主体が、関係する取組を行っている。
 従って、我が国において生物多様性条約に基づく各種の取組を効果的に推進するためには、国の各機関が相互の連携を図りつつ、総合的かつ計画的に取組を進めることがまず必要であり、また、国のみならず、地方公共団体、事業者、国民が、生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用の推進のために、共通の認識の下に互いに協力して行動することも重要である。
 そのためには、政府としてこの問題に取り組むにあたっての基本方針とそれぞれの分野における施策展開の基本方向を明らかにすることが不可欠であり、このため、生物多様性条約第6条を受けた生物多様性国家戦略を策定し、政府の各省庁の関連施策の推進と相互の有機的連携を促すとともに、併せて、生物多様性の保全への国民の関心と理解を深め、地方公共団体、事業者、民間団体等国以外の主体の取組を促すこととしたものである。

国家戦略の性格及び対象
 国家戦略は、生物多様性条約に基づき、生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用という観点から、各種の関連する施策を体系的に取りまとめたもので、我が国としてこの問題に取り組むに当たっての基本方針と各分野における今後の施策展開の基本的方向を示すもので、関係省庁が連携を図りつつ総合的計画的に生物多様性条約に基づく取組を進めるための政策の基本的枠組みとなるものである。
 国家戦略は、基本的には、生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な利用に関連する政府の施策を対象としたものであるが、併せて地方公共団体、民間団体等各主体との連携や支援の方向についても明らかにし、これらの主体による取組の促進も図ることとしている。

国家戦略の策定経緯
 国家戦略の策定は、生物多様性条約関係省庁連絡会議を母体として進められた。
 関係省庁連絡会議では、1995年2月から原案作成作業を開始、関係省庁での調整を経て7月末に原案が取りまとめられた。原案は8月に公表され、国民の意見が聴取された。
 提出された230件の意見の検討を経て、原案の修正を行い、最終案が作成され、同年10月31日に開催された地球環境保全に関する関係閣僚会議の場で決定された。