資料5-3 技術検討委員会の検討事項に係る過去の議論の整理
 [3] 環境の保全のための措置に関連する記述
  (1) 環境保全措置を考える視点に関連する記述

中央環境審議会答申(p8)

エ. 環境保全対策の中では環境への影響をできる限り回避し低減することを優先すべきである。


総合研究会報告書(p45-46)

 環境影響評価手続の中で明らかにされる情報に基づいて環境保全対策を検討することは、環境影響評価制度の本旨である。この点については、環境基本法第20条においても、事業者が、調査・予測・評価の結果に基づき、その事業に係る環境の保全について適正に配慮することを国が推進することとされている。
 閣議アセスでは、予測は事業者が行う公害の防止及び自然環境の保全のための措置又は施策を踏まえて行うことができるものとされている。また、整備五新幹線アセスでは、「現状の把握、予測及び評価の結果、必要に応じ工事の実施、施設の設置と使用及び列車の走行時における環境保全対策を検討する」こととしている。発電所アセスでは、「対象発電所の設置及びその工事に関し、環境保全のために講じようとする対策を踏まえた影響の予測及び評価を」行うこととしている。地方公共団体の制度でも、必要な環境保全対策を検討することとしているものがほとんどである。
 このように、わが国の制度では、環境影響評価の手続の中に環境保全対策の検討が位置づけられている。
 主要諸国の制度でも、環境への影響を緩和するための措置の検討が環境影響評価に含められている。
 例えば、アメリカでは、NEPA施行規則において、緩和手段の定義が次のように置かれており、下記の(a)から(e)の順で緩和措置に優先順位を設けている。
(a) 行為の全部又は一部を実行しないことによって影響を回避すること(回避)
(b) 当該行為及びその履行の程度あるいは規模を制限することによって影響を低下させること(最小化)
(c) 影響を受けた環境を修復、復興、回復することによって影響を取り除くこと(修正)
(d) その行為が続く間、保護及び維持活動によって影響を低下させるかあるいは除去すること(軽減)
(e) 代わりとなる資源又は環境と交換するか、あるいはこれを提供することによって影響の埋め合わせをすること(代償)

 また、カナダでは、「技術的及び経済的に実行可能であり、事業が環境に与える深刻な悪影響を緩和するための措置」を検討することとされている。さらに、EC指令では、「著しく重大な不利益をもたらす影響を回避し、削減し及び可能な場合には修復するために予定する措置」について評価書に記載するよう事業者に求めている。


総合研究会技術専門部会報告書(p20)

 我が国の制度では、評価において必要に応じて環境保全対策の検討を行うこと、この場合、予測評価の前提として、事業者や行政が行う環境保全対策を前提としてよいことが定められている。実際には、地域概況調査、予測等の段階でも、必要に応じ環境保全対策の検討が行われている。
 調査対象国等の制度では、代替案の検討が位置づけられており、これにより様々な環境保全対策の比較検討がなされていると考えられる。検討する代替案の内容としては、事業位置の変更のみならず、事業内容、建築物等の構造及び配置、環境保全設備、工法、実施時期、供用時期・時間・形態等の提案・変更などさまざまな範囲が含まれており、我が国における「環境保全対策の検討」と同様な意味を含んでいる。例えば、アメリカ国家環境政策法では、影響の緩和措置(環境保全対策)を「回避、最少化、回復、軽減、代償」に分けており、この順に優先度が高いとしている。またイギリスでは、回避を旨として環境影響評価制度が組み立てられている。
 これと同様に、廃棄物を要素として予測評価をする場合、その環境保全対策としては発生抑制、再使用、再利用、適正処分の順に優先度があるべきことから、対策の内容についても、その優先度に応じて評価する必要がある。


中央環境審議会答申(p8)

 損なわれる環境を他の場所や方策で埋め合わせる代償的措置を検討する場合には、事業者が、他の優先すべき対策をとることが困難であることを明らかにするとともに、保全または回復すべき価値に照らして、損なわれる環境と代償的措置によって創造される環境とを総合的に比較し、適切にその内容を評価することが必要である。


総合研究会報告書(p46)

 近年開発事業に際しては、沿岸域埋立における干潟、海浜の整備、陸域土地改変におけるビオトープの整備などが行われるようになってきている。環境基本計画にもみられるとおり、これら事業における自然的環境の整備、または、環境の回復が環境保全上の課題となっている。これに対応し、事業の環境影響評価においてもこれらの代償的措置をどのように評価するかが課題となる。
 環境基本法に見るように、環境への負荷を低減し、環境保全上の支障を未然に防止することが重要である。この観点からは、アメリカの事例のように、回避や最小化が最も優先すべき対策であり、代償的措置は他の対策がとれない場合の措置として考えるべきものとなる。
 また、代償的措置の検討に当たってはその内容を適切に評価することが求められる。このためには、他の優先すべき対策が困難であることを明らかにするとともに、保全または回復すべき価値に照らして失われる環境と創造される環境を総合的に比較し、評価することが求められる。これについては、アメリカで開発されているような生物の生産性、多様性の維持、レクリエーション機能等の様々な観点から環境の状態を指標化して比較することなどの方法がある。また、実効性の確認・担保方策が評価の時点で重要であるが、これについては、既存事例等による効果の確認、事後調査による確認、到達目標の設定や維持管理計画の策定などの方法がある。また、代償の実効性を確保するためモニタリングや代償効果の確認を事業の許可要件とすることも行われている。


総合研究会技術専門部会報告書(p20)

 アメリカでは、例えば水質浄化法等で、埋立事業等においては喪失される湿地の代償が許可等の要件として義務づけられているなどの背景があり、環境影響評価においても、代償的措置が計画される場合、それを含めた評価がなされている。代償的措置の評価においては、生物の多様性、生物の生産性、自然との触れ合いの機能など代償とする目的・内容の明確化が行われ、これらについて量的な評価を行い代償の実効性の確認が行われている。また、代償の実効性を確保するためのモニタリングや代償効果の確認を事業の許可要件とすることも行われている。
 我が国においては、環境基本計画にもみられるとおり、社会資本整備にあたっての緑地、親水空間の整備、干潟・藻場等の環境保全能力の維持、沿岸域埋立における必要に応じた干潟、海浜の整備、快適な環境の確保等、事業における自然的環境の整備、または、環境の回復が環境保全上の課題となっている。これに対応し、事業の環境影響評価においてこれらの代償的措置を適切に評価することが求められている。一方で、代償的措置については、対策の内容や効果が十分に明らかにされないまま評価がなされる事例があること、効果に関する知見が不足していることが指摘されている。

 

(3) 環境保全措置の検討の経過に関連する記述

中央環境審議会答申(p7-8)

 個々の事業者により実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当である。こうした視点から、主要諸国においてみられるように、複数案を比較検討したり、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を、わが国の状況に応じて導入していくことが適当である。
 この場合、複数案の比較検討の内容は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較し検討することを意味するものであり、事業者が事業計画の検討を進める過程で行われるこうした環境保全対策の検討の経過を明らかにする枠組みとすることが適当である。


総合研究会報告書(p42)

 画一的な基準による評価になじまない要素について、実行可能な複数の案の環境への影響の相互比較により比較する手法として、主要諸国においてみられる代替案の検討については、多くの評価対象要素を総合的にどのように評価するのか、立地決定の以前に立地に係る代替案を含めて公表して議論を行うことは、我が国の場合、環境影響以外の利害関係を含んだ議論をより際だった形で誘発するおそれや事業内容によって地域間の対立を生じ混乱を発生させるおそれがあるのではないか等から実際問題として難しいという意見がある。
 一方、これに対し、立地決定に至る過程で事業者によって複数の案が環境保全上の観点を含めて検討されることが必要であり、このため検討された代替案の内容、環境への影響等について、準備書等に記載することが重要であるという指摘もある。
 なお、主要諸国において代替案が検討される場合、代替案の内容としては、事業位置の変更のみならず、事業内容(建築物等の構造及び配置、環境保全設備、工法、実施時期、供用時期・時間・形態等)の提案・変更などさまざまな範囲が含まれており、わが国における「環境保全対策の検討」と同様な意味を包含したものである。


総合研究会技術専門部会報告書

(代替案の比較検討等による評価及び総合的評価に関する記述は見られるが、環境保全措置の検討の経過を明らかにするという考え方は現れていない。→)

 

(4) 評価後の調査等に係る記述

中央環境審議会答申(p11)

ア. 新規又は未検証の技術や手法等に伴う予測の不確実性にかんがみ、評価書が公告・縦覧された後において、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、工事中や供用後の環境の状態や環境への負荷の状況、環境保全対策の効果を調査しその結果に応じて必要な対策を講ずることが重要である。
このような評価後の調査等は、予測の不確実性を補うものであるので、環境影響評価制度の中に位置づけることが適当である。
イ. 評価後の調査等の必要な項目、範囲、調査手法、期間等については、個別の事業ごとに異なると考えられるので、柔軟な対応ができる仕組みとすることが必要である。このため、事業者において、評価後の調査等に関する事項及びその結果の公表に関する事項を検討し、これらを準備書・評価書に記載することとし、個別にその内容を審査する仕組みが適切である。
ウ. 評価後の調査等については、予測の不確実性を補うという範囲内で、事業者が評価書の記載内容にしたがって実施することが適当である。ただし、地方公共団体等が行う環境モニタリング等を活用する場合、事業に係る施設が他の主体に引き継がれることが明らかである際に管理主体に要請することとする場合など、他の主体との協力又は他の主体への要請により評価後の調査等を行う場合もあることに留意する必要がある。
エ. また、評価後の調査等の結果に関する情報を収集・整理し、継続的に技術的評価を行い、その情報を提供することを通じて、環境影響評価の技術的向上を図っていくことが適当である。

 総合研究会報告書(p66-68)

 事後調査は、工事中や供用後の環境の状態、環境への負荷、事業やその環境保全対策の実施状況を調査することであるが、予測の不確実性に鑑み、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、予期し得なかった影響を検出し、必要に応じて対策を講ずるため、このような事後調査が、内外で広く行われている。
 閣議アセスでは、事業者は、評価書に記載されているところにより対象事業の実施による影響について考慮すると定められており、事業着手後の手続については具体的に定められていない。ただし、事業所管省庁が策定した技術指針の中には、必要な場合には追跡調査の実施方法等について検討しておくことなど事後調査について記述している例がある。なお、主務大臣が事業の実施決定又は許認可等の決定を行う際の環境庁意見においては、意見を述べた20案件のすべてにおいて事後調査等の必要性について触れている。
 一方、その他の国レベルの制度には、何らかの事後手続が規定されている。発電所アセスでは、事業者は、環境影響調査書において、環境保全上重要な項目について環境監視に関する計画を明らかにすることとされている。また、整備五新幹線アセスでは、環境影響評価報告書において、環境管理という項目のもとに、工事中及び開業後の環境の状態を把握し、適切な環境管理を行い得るよう、その措置、方針を明らかにするよう求めている。

(中略)

 主要諸国においては、その半数において、事後手続に関する規定を環境影響評価手続の中に規定している。
 例えば、アメリカにおいては、主導連邦政府機関は、最終環境影響評価書(FEIS)の縦覧期間満了後、当該行為を実施するかどうかの最終的な意思決定を行い、一連の行為、手続等を記録することとされており、その記録(ROD:Record of Decision)に、環境影響評価後の環境保全対策の実行計画及びモニタリングを含めることとされている。この場合、政府機関は重要な事案については、モニタリングを行わなければならないとされている。

(中略)

 また、カナダでは、包括的調査及び公開審査における環境影響評価において、主務省庁は、フォローアップ計画の必要性又はその要求があるかについて検討し、必要と認めた場合に、フォローアップ計画を策定することとされている。策定されたフォローアップ計画は、主務省庁の許認可等に際して、許認可等の内容とともに公開され、事業者に実施させた結果についても主務省庁により公開されることとされている。なお、カナダにおいて、フォローアップ計画の実施が適切と考えられる場合は、次のような場合であるとされている。
事業が新規又は未検証の技術を含んでいる場合
事業が新規又は未検証の環境保全対策を含んでいる場合
経験が豊富であるか日常的な事業であっても、新規又は未経験の環境において実施することが提案された場合
環境影響評価の分析が新しい環境影響評価技術又はモデルに基づいて実施された場合
事業のスケジュールが環境影響次第で変更される場合

(中略)

 一方、事後調査については、その目的、その調査手法や期間の考え方、事業主体が変更・消滅した場合の対応等を明確にする必要がある。


総合研究会技術専門部会報告書(p21-22)

事後調査の位置づけ・役割

 事後調査は、工事中や供用後の環境の状態、環境への負荷、事業やその環境保全対策の実施状況を調査することであるが、これは環境影響評価時点の予測の不確実性を補い、主に、予期し得なかった事態に対し、必要に応じて対策を行うために行われている。また、事後調査は事前の予測評価を適切に行うためのデータの蓄積という意味においても重要であり、例えば、得られたデータを解析等することにより予測手法等の技術手法の向上に役立てることができる。

事後調査の実施状況

 我が国では、制度的位置づけの有無をとわず、事後調査はかなりな割合で行われていると考えられる。平成6年の環境影響評価事例のうち約半数に事後調査の計画があった。これらの事後調査では、交通量等事業の内容、水質汚濁、大気汚染、騒音、植生、動物等の環境影響、植栽等の環境保全対策の実施状況が調査されている。地方公共団体の制度の中には東京都のように、事後調査計画書の作成・提出、調査結果の公表を義務づけているところもある。
 調査対象国等においても、オランダではEC指令に基づき事後調査の実施、必要な対策措置の実施及び調査結果の公表が、カナダでは必要な場合におけるフォローアップ計画の策定及びその結果の公表等が制度において位置づけられているなどの例がある。

事後調査の手法

 事後調査の内容は、予測評価した項目の内、予測の不確実性が大きいもの、環境影響評価段階では実施計画等が詳細に定まっていないため保全対策が十分検討できなかったもの等であって、環境への影響が懸念されるものが選択され、これについて、環境の状態(影響の程度)、環境保全対策の実施状況・効果、事業の実施状況等の調査が行われる。
 事後調査の方法は、事前の調査方法に準拠しているのが一般的と考えられる。その時期については、植栽木等の生育、漂砂による海岸線の変形、交通量等事業による活動の増加等、変化に時間を要するものもあるので、長期に渡って実施されるものもある。
 事後調査が環境影響評価において一体的に計画されれば、事後調査の実施を考慮した調査、予測、対策の内容(調査・予測地点や調査予測手法等)の決定が可能である。

事後調査結果の収集、整理・解析、提供

 事業による動植物への影響、代償的措置等のあらたな環境保全対策の効果等、知見が十分でないものについては、事後調査結果の集積、整理により知見を充実することが可能である。またある程度予測手法が確立している領域であっても、予測結果の検証、適合しない場合の原因解明により、予測手法の信頼性・精度を向上することが可能である。しかし現在このような取り組みは余りなされておらず、また、情報も系統だって集められていない。