資料5-2 技術検討委員会の検討事項に係る過去の議論の整理
[2] 環境影響評価の項目等の選定の方法に関連する記述
[2]−1 環境影響評価の項目等の選定の趣旨に関連する記述

中央環境審議会答申(p6-7)

ア. 事業が環境に及ぼす影響は、当該事業の具体的な内容や当該事業が実施される地域の環境の状況に応じて異なることから、調査・予測・評価の項目及び方法については、画一的に定めるのではなく包括的に定めておいて、個別の案件ごとに絞りこんでいく仕組みとすることが必要である。
このため、事業者が、環境影響評価手続に係る調査を開始するに当たって事業に関する情報や実施しようとする調査等に関する情報を地方公共団体や住民・専門家等に提供し、意見を幅広く聴いて、具体的な調査項目等の設定を事業者が個別に判断する手続(スコーピング手続)を導入することを基本とすべきである。
イ. この場合、手続に長期間を要し、また、調査等の範囲が際限なく拡がる等、かえって非効率となるのではないかとの懸念もあることから、{1}地方公共団体、住民等に意見を求める期間を定めること、{2}地域特性等を勘案する際に基礎となる標準的な調査・予測・評価の項目及び方法を国があらかじめ示しておくこと、{3}事業者の求めに応じ国が技術的助言を行うことができることとすることなどの配慮を行うことが適当である。


総合研究会報告書(p29-31)

 主要諸国では、制度上では調査等の対象とする環境要素や範囲についてその選定の考え方や例示を示すことにより包括的に規定するにとどめ、具体的な評価対象は各案件ごとにその特性に応じて絞り込んでいく手続(スコーピング)が広く取り入れられている。(中略)
 地方アセスでは、対象事業種のすべてに適用される形で、調査、予測、評価等に関する技術的事項を技術指針等としてとりまとめることが一般的に行われており、この中で予測・評価等の対象とする要素を定めている。この場合、具体的に評価等を行う環境要素は個々の事案ごとに各事業内容に応じて取捨選択される。地方公共団体によっては、事業種類ごと又は事業段階ごとに関連する環境要素をマトリックスにして示している場合も多い。その場合、地方公共団体があらかじめ取捨選択の方針を示している場合とそうでない場合がある。(中略)

 スコーピングに関しては、これを行うことにより、その地域において課題となる環境要素の範囲とそれぞれの重要度を早い段階から明らかにすることによって重点的に調査・予測等を行うことができ、論点が絞られたメリハリの効いた予測評価を行うことができることが期待される。また、地域住民、専門家、研究団体等の意見・情報を予め幅広く収集しつつスコーピングを行うことにより、より幅広い情報をもとに調査等が実施できるとともに、関係者の理解が促進され、作業の手戻り等を防止することを通じて、無駄な作業を省いた効率的なアセスメントを行うことができることが期待される。
 一方、スコーピングにおいて、手続にいたずらに時間を要したり、公衆参加を求める場合に際限のない調査等の要求が出る等、かえって非効率となることを懸念する意見がある。この点については、スコーピングのルールをあらかじめ定めておけば有効に機能するのではないかとの意見があり、地方アセスにみられるように、事業種類ごと又は事業段階ごとに一般的に関連すると考えられる環境要素をマトリックスにして示し、スコーピングの目安とするという方法、第三者機関によるガイドラインの提示、類似事例等に係る情報提供等の対応方策がある。


総合研究会技術専門部会報告書(p3)

 国の制度では、実際に予測評価等の対象となる内容は、事業毎の技術指針によって、事業の特性に応じて調査等の対象範囲が具体的に列挙され、予測評価する対象の選択の具体的考え方が示されており、これに従って具体的な影響が選定される。多くの地方公共団体の制度では、技術指針により事業を特定せずに対象範囲を示しており、予測評価の選択については、事業の影響要因を列挙することにより選択するとの考え方を示している。
 調査対象国等では、具体的な対象は個々の事例においてスコーピングにより比較的柔軟に選択されている。スコーピングのやり方はそれぞれの国に特徴があり、既存資料等による簡単な調査、学識経験者へのヒアリング、関連機関との協議、専門家委員会による検討、関心ある民間団体との協議、公衆参加等を行い、事業内容、事業地の特性、地域の関心等により対象が選択されている。これらが、手続きとして制度的に位置づけられている場合もある。例えば、オランダでは、環境影響評価委員会及び環境問題担当、自然保護担当等の法定諮問機関がスコーピングアドバイスを作成し、これに基づいて主務官庁がスコーピングガイドラインを事業者に示している。アメリカでは、まず環境評価書(EA)が作成され、より詳細な環境影響評価の必要性の有無が決定されるが、この段階で簡単な調査や関係機関への問い合わせにより問題の絞り込みがなされ、予測評価すべき具体的な影響等が検討されており、また、環境影響評価の実施が決まれば早期に関係機関や公衆等への意見照会により重点分野が明らかにされる。その他の国でも、事業者と地方計画庁・所管官庁等との事前協議が規定されているところがある。
 また、調査対象国等では、対象とする影響について具体的な例示をあげている制度上のガイドラインや規則が見られたが、国内で見られるような、制度に基づき調査等の対象、内容を具体的に規定するような技術指針は見られなかった。制度には位置づけられていないが、事業別や目的別に技術的ガイドラインが主務省庁、環境担当省庁、関連機関等からだされている場合もあり、特に考慮すべき影響を列挙している場合もあるが、これらはスコーピングの参考となるよう示されているものと思われる。

 

[2]−2 調査・予測・評価の項目の範囲に関連する記述
(1) 対象とする要素の範囲に関連する記述

中央環境審議会答申(p6)

ア. 閣議決定要綱に基づく制度では、環境庁長官が定める基本的事項において、調査・予測・評価の対象を典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、地盤沈下、土壌汚染)及び自然環境保全に係る5要素(動物、植物、地形・地質、景観、野外レクリエーション地)に限定している。さらに、事業別に示された技術指針においては、事業特性に応じ、公害については調査等の対象が具体的に列挙され、調査・予測・評価を行う対象の選定の考え方が示されており、自然環境保全に係る要素については、学術上の重要性、既存法令等の指定状況等をもとに自然環境保全上の重要な保全対象を見いだすこととなっている。
イ. 環境基本法の制定により、公害と自然という区分を超えた統一的な環境行政の枠組みが形成され、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素を良好な状態に保持すること、生物の多様性の確保を図るとともに多様な自然環境を体系的に保全すること、人と自然との豊かな触れ合いを保つことが求められるようになったことを踏まえ、環境基本法の下での環境保全施策の対象を評価できるよう、調査・予測・評価の対象を見直すことが適当である。


総合研究会報告書(p32-33)

 評価対象とする環境要素をどのようなものとするかについては、公害対策基本法及び自然環境保全法のふたつの基本法のもとで講じられてきた環境行政が、環境基本法の制定により公害と自然という区分を超えた統一的な枠組みを持つこととなったことを踏まえて検討する必要がある。
 従来、自然環境の保全については、学術上の重要性、既存法令等の指定状況等をもとに重要な保全対象を見いだすこととされてきたところであるが、環境基本法、環境基本計画、生物多様性条約、生物多様性国家戦略等にみられるように、生物の多様性(生態系の多様性、種の多様性及び種内の多様性)の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全の視点が必要とされるようになり、近年、大きく要請が変化している。
 また、動物と植物との関係、生物とその生育・生息環境である大気、水等の環境の自然的構成要素との関係、野外レクリエーション地等自然との触れ合いの場と環境の自然的構成要素との関係など、要素間の相互関係を考慮に入れる必要性や、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的に水環境として捉え一体的に評価する必要性、健全な水循環機能を維持回復する必要性が求められている。
 さらに、地球の温暖化をはじめとする「地球環境保全」が、環境基本法における「環境の保全」に含まれているところであり、また、廃棄物の発生の抑制や再生資源の利用の促進などに関しても、近年、「環境の保全」のための施策と位置づけられている。
 近年の国際条約には、新たな評価対象を認識するものも現れている。例えば、生物多様性条約には生物多様性への影響に係る環境影響評価、気候変動枠組み条約には気候変動を緩和し又はこれに適応するための環境影響評価が規定されている。
 また、今後、深刻な環境問題が発生するとすれば、これまで認識されてきた環境の分野より、十分には認識されてこなかった環境の分野において発生するおそれがあり、環境影響評価制度はこのような深刻な問題の未然防止に対応できるようにすべきとの意見もある。
 このような新たなニーズに適切に対応できるように、評価対象とする環境要素について検討することが課題となっている。


総合研究会技術専門部会報告書(p4-5)

 実際の環境影響評価では、農薬等化学物質による地下水汚染、公共用水域の水質汚濁及び土壌汚染など環境汚染の広がりに対応して、12要素の範囲においても対象の広がりが認められる。また、地方公共団体の中には、光害、通風障害、二酸化炭素排出量等に対する新たな取り組みも見られる。
 これに関し、海域の富栄養化、農薬、有機塩素系化合物等への対応として水質環境基準に新たな項目が追加されたとともに監視を要する水質調査項目が定められたこと、土壌汚染の広がりに関し土壌の環境基準が定められたこと、地下水汚染への特定地下浸透水の浸透が禁止されたこと、悪臭では排出水中の特定悪臭物質の規制基準が定められるとともに、嗅覚測定法を用いた特定の悪臭物質に限らない悪臭に対する規制が排水を経由するものも含め開始されたことなど、環境問題の広がりに対する行政的対応が、近年行われているものがある。これらについては、既に、実際の環境影響評価において対応がなされている事例があるものの、大部分の技術指針が策定された以降に行政的対応が図られたものも多く、現行の技術指針の大部分はこれらの扱いを考慮したものとはなっていない。
 また、国及び地方公共団体の制度における自然環境保全に係る具体的対象の選定の考え方は、天然記念物や国立公園等、学術的価値や既存法令等での指定の有無等により貴重なものを選定するよう技術指針等で例示されており、実際の事例では、これら以外の要素についても対象とするようにもなってきているものの、学術上の重要性や希少性が重視される傾向にある。
 これに関連し、環境基本法、環境基本計画等にもみられるように、近年は、環境への負荷をできる限り低減すること、大気、水、土壌等の自然的構成要素が良好な状態に保たれること、生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との豊かな触れ合いの確保を旨として、環境影響評価を行うことが求められている。また、動物と植物、生物とその生育・生息環境である大気、水、土壌等の自然的構成要素との関係、景観や野外レクリエーション地等の自然との触れ合いの場と生物や大気、水等の自然的構成要素との関係、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的にとらえ水環境として一体的に評価することなど、要素間の相互関係を考慮に入れることも求められている。さらに、健全な水循環機能の維持・回復も求められている。
 このほか、あまり対象とされていない、微量化学物質による生態系への影響、河口域における塩分濃度の変化による生物への影響、除去基準が定められていない物質による底質汚染、土工事に伴い発生する可能性のある赤水、酸性水、有害物質等の流出、酸性雨の植物への影響、野外レクリエーション地の利用状況等についても検討するべきという指摘もある。
 調査対象国等の事例や指針では、国内で対象とされているようなもののほか、特定の生物種に限らない、湿地、マングローブ林、珊瑚礁等の生態系そのものへの影響、種の多様性の変化、資源採取、遺伝子工学的微生物、放射線、視程の変化、化学物質の使用等にともなうリスク等、多様なものが対象として挙げられている。

 

(2) 対象とする環境要素の区分の方法に関連する記述

中央環境審議会答申(p6)

(直接的な記述はないが、以下の記述がある。)
イ. 環境基本法の制定により、公害と自然という区分を超えた統一的な環境行政の枠組みが形成され、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素を良好な状態に保持すること、生物の多様性の確保を図るとともに多様な自然環境を体系的に保全すること、人と自然との豊かな触れ合いを保つことが求められるようになったことを踏まえ、環境基本法の下での環境保全施策の対象を評価できるよう、調査・予測・評価の対象を見直すことが適当である。


総合研究会報告書(p32)

 このとき国及び地方公共団体の制度における環境要素の分類方法をみると、次の二種類がある(資料1)。
1] 公害等、自然環境、社会・文化環境の区分により要素を列挙する方法(類型[1]:公害・自然区分型)・・・閣議決定要綱及び個別法に基づく国制度並びにほとんどの地方公共団体の制度
2] 地圏、水圏、気圏、生物圏等、環境を構成する圏毎に要素を列挙する方法(類型[2]:環境圏型)・・・地方公共団体のうち3団体(滋賀県、兵庫県及び長崎県)
このとき、1]の「公害・自然区分型」は、公害対策基本法及び自然環境保全法の二つの体系を念頭においた枠組であり、2]の「環境圏区分型」は、大気、水、土壌等環境の自然的構成要素ごとに相互に関連する影響を考慮する枠組である。


総合研究会技術専門部会報告書(p2)

 国及び地方公共団体の制度における対象要素の規定ぶりをみると、資料−2に示すとおり、閣議決定要綱及び個別法に基づく国の制度並びにほとんどの地方公共団体の制度では、公害等、自然環境、社会・文化環境の区分により要素を列挙している(資料−2、類型[1]、公害・自然区分型)が、地方公共団体のうち3団体(滋賀県、兵庫県及び長崎県)の制度では、地圏、水圏、気圏、生物圏等、環境を構成する圏毎に要素を列挙している(資料−2、類型[2]、環境圏型)。
 類型[1]の公害・自然区分型は、回避または抑制すべき環境悪化現象としての公害等を列挙するとともに、自然環境の構成要素のうち、当時の法令等で明確に保全対象として選定されうるものを列挙したものとなっている。前者は「現象」、後者は「要素」という次元の異なるものが並べられてはいるが、後者の技術指針における予測評価の内容をみると、地形、動物等の要素の直接的改変、生物の場合は生息環境の変化といった、やはり環境悪化の現象を列挙したものとなっている。この類型区分は、公害対策基本法及び自然環境保全法の体系を念頭におき、調査等の対象となる環境影響を列挙しているものと考えられる類型[2]の環境圏型は、影響を受ける対象である環境の構成要素を気圏、水圏、生物圏、地圏等の領域毎にまとめたものとなっている。これは、環境を網羅的に捉らえようとする観点と考えられる。類型[1]と比較し気圏では大気質、水圏では水質があげられており、大気汚染や水質汚濁という公害の定義にとどまらない、質の変化を対象にしているのが特徴である。現状では類型[1]と同じく公害や法令等で明確な保全対象になっているものを評価しているのが実態であるが、気象と大気質、水象と水質など密接な関連のある要素を同じカテゴリーにおいており、調査等を連動させることによって相互の影響を考慮し易いものとなっていると考えられる。
 実際の環境影響評価では、水質汚濁等による生物への影響、騒音による野外レクリエーション地への影響など公害が自然環境の要素に与える影響についても対象とされている。また、地形・地質の改変による水質汚濁への影響、植物の改変による動物への影響、水質汚濁による景観への影響等、要素相互の関係による影響も対象とされており類型[1]、[2]ともに必ずしも影響の区分が明確なわけではない。
 例えば、水質汚濁現象により動物の生息環境が影響を受けるなど、公害と自然環境双方に関係する場合については、どちらか一方の区分で対象にされる場合が多い。(例えば、人の生活に密接に関係のある動物・植物については、公害に係る要素において対象とされる。)
 このほか、廃棄物処分場に集まる動物による害など、これらの区分でとらえきれない問題も実際には扱われている。

(参考資料)環境基本法
第一節 施策の策定等に係る指針
第十四条 この章に定める環境の保全に関する施策の策定及び実施は、基本理念にのっとり、次に掲げる事項の確保を旨として、各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ総合的かつ計画的に行わなければならない。
人の健康が保護され、及び生活環境が保全され、並びに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること。
生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られるとともに、森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること。
人と自然との豊かな触れ合いが保たれること。
(参考資料)国内の制度における環境影響評価の対象要素の設定類型


「環境影響評価制度の現状と課題について−環境影響評価制度総合研究会報告書」(平成8年6月)
資料29と同じ

 

(3) 負荷段階で捉える考え方に関連する記述

中央環境審議会答申(p7-8)

イ. したがって、個々の事業者により実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当である。こうした視点から、主要諸国においてみられるように、複数案を比較検討したり、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を、わが国の状況に応じて導入していくことが適当である。
 この場合、複数案の比較検討の内容は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較し検討することを意味するものであり、事業者が事業計画の検討を進める過程で行われるこうした環境保全対策の検討の経過を明らかにする枠組みとすることが適当である。
ウ. 不特定多数の主体の活動による環境への負荷により、長期間かけて環境保全上の支障に至る性質の問題については、個別の事業が環境の状態にどのような影響を及ぼすかを予測・評価することは困難であるが、このような場合には、当該個別事業に係る環境への負荷を予測した上で、上記イの考え方に沿って複数案を比較検討したり、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を用いて評価を行うことが可能である。


総合研究会報告書(p34-35)

 累積的影響の例としては、1]当該事業以外の活動による大気や水質等の汚染の重合、2]染物質の環境中での蓄積や複合化による影響の発現等が挙げられ、また、近年、国際的には、3]大気汚染物質の長距離移動・酸性降下物としての蓄積による影響、温室効果ガス排出による気候変化などの地球規模の環境影響が累積的影響の一つとして認識されるようになっている。
 このような累積的影響の取扱について、まず、1]に関しては、閣議アセスの基本的事項に、「評価に当たっては、必要に応じ、当該事業以外の事業活動等によりもたらされる地域の将来の環境の状態(国又は地方公共団体から提供される資料等により将来の環境の状態の推定が困難な場合においては、現在の環境の状態とする。)を勘案するものとする。」とされており、バックグラウンドの状況の調査・予測に含めて取り扱われているところである。
 一方、2]のように、汚染物質が環境中で蓄積しあるいは複合的に作用する場合に関する累積的影響については、科学的知見が十分でないものも多いため、その複合的作用によって生ずる環境の状態を予測・評価することは困難な場合も多い。また、3]に挙げられた地球規模の環境影響や廃棄物の排出量への影響についても、事業に起因する環境の状態の変化を予測評価することが困難である。
 ただし、環境の状態を予測評価することが困難なものについても、排出される汚染物質の量、資源やエネルギー消費量、再生資源の利用量、廃棄物排出量、酸性降下物原因物質の排出量等、算定手法等の明確な指標により、環境への負荷段階の予測評価を行うことが可能な場合もあり、この点の取扱を検討することが必要となっている。


総合研究会技術専門部会報告書(p10)

 閣議決定要綱では、環境の状態の変化の予測を行うこととなっている(基本的事項)。実際の環境影響評価では、大気汚染、水質汚濁、騒音等では、物質濃度や騒音レベルなどの環境の状態量の予測評価が行われており、人の健康や生活環境への影響の程度を評価するために重要な役割を果たしている。
 一方、土壌汚染、地下水汚染、地盤沈下等では、汚染原因物質の封じ込め、事故漏洩時の緊急対応等の環境保全対策の検討や地下水揚水量等の影響要因の検討に基づき、環境への負荷の有無・程度を予測することが実際には行われており、全ての要素について環境の状態の予測が必ずしも不可欠となっているわけではない。
 また、大気質及び水質の状態は、当該事業及びそれ以外の事業等の影響の累積結果であるが、一般的には、事業以外の影響の予測が困難であるため、排出量や寄与濃度等の負荷による評価が行われる場合がある。

 

(4) 対象とする影響の範囲に関連する記述

中央環境審議会答申

(負荷段階の予測評価に関する記述は見られるが、影響の範囲について直接に論ずる箇所はない → 次項参照)


 総合研究会報告書(p34)

 主要諸国においては、環境影響の範囲を比較的広く把握しており、特に、事業等の累積的影響について取り扱うことが広く行われている。
 アメリカにおいては、NEPA施行規則の「影響」についての定義によれば、「(a)行為によって引き起こされ、同時期に同じ場所で生じる直接的な影響、(b)行為によって引き起こされ、時間的に後になって、あるいは遠く隔たった場所で起こるが、それでもなお十分に予見し得る間接的な影響」の双方が認識されている。このとき、間接的な影響には、「成長を引き起こす影響、土地利用、人口密度、成長率のパターンに及ぼす二次的な影響、大気、水やその他の自然の系(生態系を含む)への関連する影響を含む」とされている。また、環境影響評価書で取り扱うべき影響の範囲を決定するに当たっては、1]直接的影響、2]間接的影響、3]累積的影響の三種類を考慮すべきであるとされている。
 カナダでは、「事業により環境に生ずる可能性がある一切の変化」を対象とすることとしており、「その発生がカナダ国内あるいはカナダ国外であることを問わない」こととしている。
 また、事業が環境に与える影響には、「事業に関連して発生する可能性のある誤動作もしくは事故による環境への影響、並びにこれまでに実施もしくは実施予定であるその他の事業若しくは活動と当該 事業の組み合わせにより生ずる可能性のある累積的な環境への影響を含む」こととしている。さらに、事業が建造物に関連している場合、「当該建造物に関して実施される可能性のあるすべての建設、操業、改造、解体、廃棄又はその他の行為について、環境影響評価を実施するものとする」とされており、建造物のライフサイクルにわたる評価を求めている。
 EC指令では、附属書3]において、事業者が提供すべき環境情報の記載は、事業計画の直接的影響並びに間接的、副次的及び累積的影響、短期、中期及び長期的影響、永久的及び一時的影響、正及び負の影響を対象とすることとされている。


総合研究会技術専門部会報告書(p5-6)

地球規模の影響の取扱い状況

 地球環境に関する配慮としては、いまだ歴史が浅いものの、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの排出量及びその森林等による吸収量、熱帯材等の使用量等を評価の対象としている事例も見られる(港区の制度、オランダの環境影響評価事例、カナダの環境影響評価事例)。

累積的影響及びリスクの取扱い状況

 事業等の影響の空間的、時間的な累積については、調査対象国のいずれの制度でも対象としている。累積的影響の例としては、当該事業以外の活動による大気や水質等の汚染の重合、小規模開発が積み重なることによる野外レクリェーション地や湿地の喪失、化学物質の環境中での蓄積や複合化による影響の発現等が挙げられている。これらの累積的影響については、取扱いが困難なものも多くこれまであまり実質的な予測評価は行われていないようであるが、国際的な場では課題として取り上げられ調査研究が行われている。また、近年、大気汚染物質の長距離移動・酸性降下物としての蓄積による影響、温室効果ガス排出による気候変化などの地球規模の環境影響が、環境影響評価において対象とされる累積的影響の一つとして国際的に認識されるようになっている。
 我が国の場合、大気汚染や水質汚濁の予測評価において、いわゆるバックグランド濃度を考慮すること以外には、当該事業以外の累積的影響を勘案することは、あまり扱われていない。例えば、動植物種の消滅の評価において、周辺地域に当該種がいることをもって影響がないむね述べている事例があるが、この場合、累積的な開発等による周辺地域の動植物相(バックグランド)の将来変化は考慮されていないのが通常である。

 環境へ与えるリスクを扱う事例については、化学物質等の漏洩等によるリスクを念頭におき環境保全対策の検討により対応する事例(滋賀県)、リスクの大きさ(影響の発生の可能性及びその大きさを含む)を予測評価する事例(オランダ)、代替案の比較検討においてリスクの大きさを定性的に比較検討している事例(イギリス)などがある。

 

(5) 対象とする行為の範囲に関連する記述

中央環境審議会答申

(特段の記述はない)


総合研究会報告書(p33-34)

 閣議アセスの体系では、ある事業に関し、調査等を行う行為の範囲としては、1}当該対象事業の実施に係る「工事」(当該対象事業の実施のために行う埋立又は干拓に係るものを除く。)、2}工事が完了した後の土地(他の対象事業の用に供するものを除く。)又は工作物の「存在」、3}土地又は工作物において行われることが予定される事業活動その他の人の「活動」の三つの範囲が認識されている。
 また、調査等の対象とする区域は、「原則として対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む区域又は環境が直接改変を受ける範囲とその周辺区域等とし、予め具体的に定めうる場合はそれを、それ以外の場合には、個別の対象事業に係る調査の実施に際し、当該事業の実施が環境に及ぼす影響の程度について予め想定して設定する」ことととされている。
 また、整備五新幹線アセスでは、「工事の実施、施設の設置と使用及び列車の走行により環境に著しい影響を及ぼす環境影響項目」を対象としており、「調査地域の範囲は、事業を実施する区域及び事業の実施により直接的な影響があると予想される沿線地域とする」とされている。
 さらに、発電所アセスでは、工事中及び運転開始後の双方について環境影響の予測・評価を行うこととされており、調査は「対象発電所の設置の場所及びその工事の場所並びにそれらの周辺」における環境の現状について行われることとされている。
 地方アセスでは、前記のとおり、各事業段階に関連する環境要素をマトリックスにして示し、評価等を行う環境要素を取捨選択する形を採る場合がある(P.30参照)が、その際には、閣議決定アセスのように、「工事」、「存在」、「活動」の三区分を用いている場合と、「自然改変」、「施工」、「供用」等の他の区分を用いている場合がある。また、各区分の細目については、詳細に規定している場合とそうでない場合がある。


総合研究会技術専門部会報告書

(特段の記述はない)


総合研究会技術専門部会報告書(p6)

 国の制度や地方公共団体の技術指針等では、まず地域の環境の基本的特性を認識するため、地域概況調査を行うこととしている。
 地域概況調査では、地形・地質、動物、植物、河川、湖沼、海域、気象、景観、野外レクリエーション地の概況等の地域の自然的状況、行政区画、土地利用の現況及び計画、集落、人口、産業等の地域の社会的状況、環境基準の類型指定、公害防止計画、自然環境保全法に基づく地域指定、条例に基づく地域指定、規制基準等の環境関係法令等などが調査される。
 このうち、自然環境に係る要素においては、次の事情により特に地域概況調査が重要な役割を持っている。
1] 生物の出現状況、景観の見え方、レクリェーション利用の形態等が時期や地域により異なることから、効率的かつ信頼性の高い調査結果を得るには、当該地域の生物の分布、出現時期、気象  概況、観光利用の概要等について事前に概略の情報を得たうえで、調査の対象区域、手法、時期・期間等を適切に設定することが必要であること。
2] 自然環境に係る環境要素は、動物・植物・景観といった範疇の中においても多様な要素から構成され、要素の組み合わせによって多様な性質を持つとともに、各地域により固有かつ多様な特  性を有することから、それだけで自然環境に関し全国一律な評価を行うことのできる基準や指標を示すのが困難である。このため、予測評価等を行う対象要素の選定に際しては、個々の計画ご とに、地域の環境を構成している要素及びその特性を把握したうえで、それらに基づく判断を行う必要があること。
3] 自然環境は一度人為的に改変されると復元が困難な場合が多く、代償措置に関する知見も必ずしも十分ではないことから、事業内容等も含めた対策の検討にあたっては地域特性を考慮することが重要であること。
 また、人の健康や生活環境に関する要素においても、地域概況調査の結果は、予測評価すべき要素の絞り込みに用いることができるとともに、既に汚染等が進行している地域、人口密集地域、学校、病院等の特に配慮を要する地域に関する、事業内容等も含めた環境配慮の検討に用いることができる。

 

(2) 一般意見・地方公共団体意見の反映に当たっての考え方に関する記述


  答申、両報告書とも特段の記述はない。

[2]−4 調査手法に関連する記述


  答申・総合研究会報告書には具体的な記述はない。

総合研究会技術専門部会報告書(p7-9)

 地域概況調査、現況調査とも、調査の方法としては、既存資料の収集及び解析、並びに、現地ヒアリング、現地踏査及び現地測定等の現地調査がある。現地調査の実施は必要に応じて行うとしている指針もあるが、実際には、動植物の詳細な生息状況等、大気汚染や騒音の状況等、既存資料が空間的にも時間的にも十分ではなく現地調査でなければ得られない情報が多いため、何らかの現地調査を行う場合が多い。一方、自然的状況に係る地域概況調査についての指針上の規定は現地調査を想定していないものも多い。実際の現地調査は、事業の内容や地域特性に応じ、専用のモニタリングステーションを設置して大気質や気象を長期間モニタリングする場合から、1年のうち1週間程度をモニタリングする場合まで様々なものが見られる。
 現況調査では、予測評価する内容に従って、調査する項目及び手法が選定される。
 調査時期については、大気質、水質等の時間的変動、動植物の生息・生育状況、景観や野外レクリエーション地の利用状況等を的確に把握し、これを反映できるよう設定することが重要と考えられているが、実際には、調査期間や自然条件等の制約等によりこれらの考慮が十分でない例も見られる。

公害等に係る調査手法

 大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭等の現況については、物質濃度等の物理化学的指標またはこれを感覚補正した指標によって影響の程度が把握され、人の健康や生活環境への影響が推定・評価されるので、これらの指標が調査項目として選定される。これらの指標については、通常公定の計測方法があり、環境影響評価でもこれらの方法が標準的に用いられている。人の生活等への影響については苦情も指標であり調査される場合がある。
 近年の変化としては、微量化学物質による汚染が問題となってきているため、これの計測方法も水質、土壌、大気等で新たに公的に定められた。また、悪臭では客観的な嗅覚測定法が確立し、臭気指数という人間の嗅覚を用いて測定される指標を用いることができるようになった。また、リモートセンシング技術、分析化学技術が発達してきており、前者は、広域的な状況の把握、後者は微量化学物質による汚染の測定等に応用されるようになってきている。
 NOx及びSOxについては、簡易計測法が開発されているが、広く使われるようにはなっていない。この理由としては、NOx及びSOxでは、別途、公定の計測方法がある環境基準との比較で評価が行われるため、計測方法の異なる値は厳密な比較が難しいなどが考えられる。
 既存の情報が十分でない場合、環境影響評価において計測が行われるが、時間的、コスト的制約や気象等の外部条件の制約により、計測地点や期間が限られる場合がある。このため、計測値の代表性が問題になることがある。

自然環境要素に係る調査手法

 生物、景観、地形・地質等については、調査手法は確立されているが、公的な標準とはなっていない。


(生物等に係る調査方法の現状と課題)

 動物及び植物においては、対象地域の動物相及び植物相の把握が行われるが、生息する全種のリストアップという形で主に行われており、種リストが作成されるのが一般的となっている。調査対象の種としては、動物では、ほ乳類、鳥類、両生類、は虫類、魚類、すなわち脊椎動物、並びに昆虫類、クモ類、貝類、甲殻類等があげられる。植物では、木本類及び草本類、すなわち高等植物が中心であるが、きのこ等、地域社会において重要な種などを加える場合もある。水域については、潮間帯生物、プランクトン、底生生物等も水域の生態系や水産生物への影響の観点から調査される場合もある。
 生息種の調査方法は、生息環境や種類毎に応じて、ラインセンサス等の多様な手法があるが、熟練した人手に頼らざるを得ない状況である。特に動植物の種の同定は調査従事者の能力によって信頼性・再現性が左右されるものであるが、一般に専門的に調査に従事できる人材が不足しており、大学等の職員、民間団体等に依頼して実施することもあるため、人材や能力の確保が課題となっている。
 生物の全種調査の場合、季節や生活史による分布の変化のため確認同定できる時期が異なるため、四季や生活史に応じた調査が必要となるが、現実には時間的制約等から困難な場合も多い。特に昆虫などは同定が困難なこともあり、労力をかけても全ての種を網羅することは不可能であるため、目的がレッドデータブック掲載種等の発見か、自然環境の総体的な特性の把握かなどの目的に応じた効率のよい調査方法の選択が必要との考えもある。
 生物の量的な把握は一般にはあまりなされていない。しかし、緑の量、植生区分毎の面積等は、把握が比較的容易であり地域の自然環境の現況の把握に重要なため、調査する事例がある。また漁業への影響の予測が必要となる場合には、プランクトンも含め水生生物の量的把握を行う場合もある。
 地形・地質については、保全対象の内容等が調査されている。多くの地方公共団体では、土地の安定性も地形・地質の調査対象項目となっている。


(景観、野外レクリエーション地の調査手法の現状と課題)

 景観、野外レクリエーション地については、地域概況調査で得た既存法令等の指定状況、観光における利用状況等の情報を基に、保全すべき対象と考えられる具体的な対象が選定され、これらについてその内容等の詳細な調査が行われている。
 調査は、資料調査や現地調査により、対象物の概要や、価値をもたらしている主たる構成要素(植生、稜線、大気や水の清浄さ、静寂さ、レクリエーション資源等)の把握、利用状況等の把握がなされる。
 景観については、視対象である景観資源及び見る視点である展望地点についてそれぞれの位置、分布、特性等が調査されている。
 景観については、国内では特定の保全対象についての調査が行われる場合が多いが、地域の景観や雰囲気を対象としている制度もある。英国の事例では、地域を景観(風土)面から幅広く類型区分し、類型毎の成り立ちや特に留意すべきものを整理分析することを、事業による影響を推計するための調査としている。
 野外レクリエーション地については、単に野外でレクリエーションを行う場ということではなく、環境保全上の観点から環境への依存度が高いものが保全対象として選択され、調査されている一般に、既存法令等や観光情報を基に選定されているので、経済活動と結びつきにくいような、住民の日常的な自然との触れ合いはあまり考えられていない。

 

[2]−5 予測手法に関連する記述



  答申・総合研究会報告書には具体的な記述はない。

総合研究会技術専門部会報告書(p9-10,11-13)

予測対象とする要素/影響

 予測は、事業の影響の恐れがある要素/影響について行われる。調査で得られた地域の環境特性と事業が及ぼす影響要因を勘案して要素や影響が選定される。影響要因があっても影響を受ける対象がないならば選定されないこともある。例えば、技術指針では、騒音の発生が予測されても住居等の受容者がない場合、騒音は選択しなくてもよいとされている場合がある。
 一方、実際の環境影響評価では、航空機騒音の地上騒音の予測、大気汚染等の高さ方向の予測、鉄橋等の特殊音の予測等がなされていない場合に問題となることがある。
 環境基準等の尺度がある場合、予測項目もその尺度に合わせて行われるのが一般的である。一方、この方法は、予測内容/手法から見て不都合が生じる場合がある。例えば、騒音の環境基準は騒音発生源毎(飛行機、新幹線等)に騒音の発生実態を踏まえた測定方法に基づく異なる評価法により定められているため、騒音の合成ができない、現行のCODの計測方法は、内部生産を考慮しないため物質収支上の意味に乏しいなどの点があげられる。


予測する範囲、時期等

 予測は、閣議決定要綱では基本的事項により、一般的な状態について行うこととされているが、地方公共団体の事例では、土地の安定性など地震時を考慮している場合や事業場等では事故時を想定する場合もある。また、風害については、台風時の影響が最も問題にされることがある。
 予測の空間的範囲は一定の影響の及ぶ範囲とされているが、酸性降下物のような長距離の汚染物質の移動は現在あまり考慮されていない。一方、河川横断構造物が水系全体の生態系に及ぼす影響、渡り鳥の採餌地・繁殖地の消滅が渡り鳥の生存に関わる影響など広域的な影響が考慮されるようになってきている。
 予測の時期については、工事、存在、供用の各段階が対象となっており、一般的には、影響が最も大きくなる時期が選択されている。景観や自然環境の代償的措置については、長時間にわたって変化が生じるが、このような長期的変化は考えられていないことが多い。時間経過に従って予測を行うべき事例もあるとの指摘もある。


予測手法
定量的手法と定性的手法

 予測手法には、環境の状態の変化等を定量的に予測する手法(定量的手法)と定性的に予測する手法(定性的手法)がある。
 閣議決定要綱では基本的事項により、公害の防止に係る項目については、可能なものについては定量的予測を行い、定量的予測評価が困難なものについては定性的予測を行うことを基本としており、自然環境の保全に係る項目では、調査地域における重要な自然環境の状態を明らかにし、これら重要な自然環境の状態の変化を定量的又は定性的に予測するとされている。実際の環境影響評価では、自然環境要素については、地形や植生などの改変面積について定量的に予測することが行われているほかは、定性的予測手法が用いられていることが多い。特に、動物の生息分布や行動に関しては定量的な現況把握及び予測が難しく、定性的な予測が多い。
 なお、これらの予測手法の選択については、現在、一律に厳密な手法を求める場合があるが、事業の実績が十分あり影響が少ないと予め分かっている場合には、簡便な方法を用いてもよいいとの指摘もある。


定量的手法

(公害系要素の定量的予測手法)
 大気汚染、水質汚濁、騒音、振動等の環境の状態を表す多くの物理化学的指標については、物理的化学的な現象をモデル化することによって、あるいは、実測値を統計的に解析することによって得られた数理モデルを用いて定量的予測を行う方法が一般的である。なお、地盤沈下量や地下水の流動についても数理モデルがあるが、要因の解析により必要な予測ができ、数理モデルの利用に至らない例も多い。
 このような数理モデルは、一般的な単純化された条件を前提として開発されたものが多く、地形・構造・要素等の条件が特殊で適用が困難なケースも多く残っている。このような場合、新たなモデルの開発や実測による補正等による努力が続けられているが、その一方で、大気汚染の拡散や騒音予測等において、数理モデルがその適用範囲を逸脱して使われていることもある。
 数理モデルについては、現象の解明が進むにつれ、改良が重ねられてきており、内部生産を考慮し富栄養化を扱うことのできる水質予測モデル、道路等の特殊構造の発生源からの騒音予測モデルなどが利用可能になっている。また、近年の急速な計算機利用技術の発展により、数理モデルを解く実際的手法が発達してきており、3次元数値解析等これまで困難であった予測手法が利用可能になってきている。
 数理モデルの入力条件として、汚染物質の排出量や騒音のパワーレベル等が必要となるが、これらは発生原単位に事業活動の規模を乗じて算出することが多い。土工事等における粉じんなど、このような原単位が十分整備されていない場合や、降水による濁りの流出・沈降等、地域の特性によって大きく異なる場合があり、入力条件を求めるため現地実測が行われる場合もある。一方、光化学オキシダントの予測については、ほぼ使えるモデルがあるにもかかわらず、入力に用いる炭化水素の排出量の情報の整備が進んでいないために利用できないなどの予測に必要な情報の整備が課題となっている場合もある。また、数理モデルを補完する手法として大気汚染、水質汚濁、騒音等では模型実験が、大気汚染では現地実験が行われることもある。またこれらの手法は数理モデルの開発や検証においても用いられている。
 以上のような領域のほか、日照阻害、電波障害、風害についても数理モデルにより影響を定量的に予測する手法が、地域分断、交通安全や危険物貯蔵施設の安全等についても定量的な手法が用いられる場合もある。

(自然環境要素の定量的予測手法)
 自然環境要素のうち、森林、草地、開発地域等生態系の種類毎の面積、野外レクリエーション地や景観資源の面積、緑の量や土工量については、事業計画図と植生図等の自然環境の現況図を重ね合わせることにより、定量的に予測する手法がある。景観については、景観資源について類型毎の面積変化を求める方法、対象物が視認できる面積等を把握する方法、公衆の認識変化を把握するためアンケートを活用する方法、視覚像の変化を仰角等の数量的指標を用いて把握する手法等、様々な定量的手法が用いられている。
 アメリカでは、海域等の生態系について、生物量を指標として定量的予測手法が用いられる場合もある。また、藻場、干潟、湿地等の生物の生息域について、生物の多様性及び生産性、レクリエーションや洪水調節等の機能等に着目し、これらをいくつかの指標によって表現し、影響を定量的に把握し、代替案や代償的措置の比較検討に利用する手法が開発され用いられている。
 また、調査対象国等の事例では、野外レクリエーションに関し、車両アクセスのできない面積、狩猟対象動物の生息数等について定量的に予測している例が見られる。
 アメリカ、イギリス等においては、土地利用、生物の分布等に関わる影響の予測を効率的に行うこと、立地に関する複数の代替案の比較分析等の環境保全対策の検討を行うこと、収集した空間的データの管理・処理・分析等を行うことなどにおいて、コンピュータを用いて地理情報を処理する地理情報システム(GIS)の活用が行われている場合もある。


定性的手法

 定性的予測手法としては、専門家が有する影響要因と環境の関係に関する知見により、環境負荷の大きさや影響の有無程度を定性的に推定する方法、類似の事例における観察結果から類推する手法、著しい影響や環境負荷を生じないような環境保全対策を検討する手法などが用いられている。これらの方法の客観性を高めるため、複数の専門家が、学際的なチームを作って検討することも行われている。
 生物への影響予測は、一般的には生物の移動性等の行動や生息条件に関する一般的知見、学識経験者の意見、類似の事例における観察結果に基づき、生息地等の改変による個体の消失・逃避、繁殖への影響、移動阻害等の影響が予測されている。この他、微気象、水象、音環境等の生息環境が変化することによる影響が同様の方法により予測されている場合がある。また、生息環境の改変が特定の生物種に及ぼす影響については、これらの方法のほか観察や実験的手法によって、影響の有無及び程度を推定することも行われている。
 景観、野外レクリエーション地については、その主たる構成要素を整理・分析し、その構成要素の改変に着目して、影響の程度を予測することが行われている。
 具体的には、景観への影響予測は、我が国では、視覚像の変化予測が主に行われ、予測図やフォトモンタージュ等のビジュアルシミュレーション手法が用いられている。ビジュアルシミュレーションの技術はコンピュータグラフィックスの発達により著しく進歩し、視点の変化、色彩・意匠の変化等に応じて視覚像を容易な操作により構成し直すことが容易になっており、環境配慮の検討段階で活用されている。また、動的な視覚像の予測も可能になっており、視覚的刺激に対する人の反応に関する知見についても進展している。景観の予測では、このほか、景観資源や展望地点等景観を見る視点の改変の程度を、これらの位置・分布と事業計画との重ね合わせる方法による予測も行われている。また、イギリスでは、景観資源を幅広く捉え、地域を類型化してそれぞれの地域に与える影響を予測するとしている場合もある。
 野外レクリエーション地への影響予測については、例えば水浴場であれば水質の変化、釣り等であれば釣り対象動物の生息域や生息数の変化による利用条件の変化、当該地域へのアクセス性の変化などが予測される。

 

[2]−6 調査・予測手法に係る個別論点に関連する記述
(1) バックグラウンドの取扱・予測に関連する記述

中央環境審議会答申

(特段の記述はない。)


総合研究会報告書(p44-45)

 対象事業による大気汚染、水質汚濁等の環境への影響を定量的に評価するためには、当該事業が行われる地域における環境の現況を調査し、当該事業以外の活動による環境影響を含んだ環境の状態(バックグラウンド)の推移を併せて予測することが一般に必要とされる。また、動物、植物等では、保全対象と同様なものの事業対象地域以外における分布やその将来動向が保全対象の価値付け、予測結果の評価において重要な意味を持っている。
 この点について、閣議アセスの体系では、「評価に当たっては、必要に応じ、当該対象事業以外の事業活動等によりもたらされる地域の将来の環境の状態(国又は地方公共団体から提供される資料等により将来の環境の状態の推定が困難な場合等においては、現在の環境の状態とする。)を勘案するものとする」とされている。これに関連して、関係都道府県知事及び関係市町村長に対して、事業者の求めに応じ、地域の実情等から準備書又は評価書の作成に必要と認められる範囲において、既に得ている資料を提供し、必要に応じ助言を行うよう、協力を依頼している。
 また、バックグラウンドの状況の調査・予測に関し、我が国の制度では、事業者は、自らの事業に伴う環境影響の予測・評価に当たって、行政主体等他の主体が実施する環境保全対策を勘案することができることとされている。例えば、閣議アセスの体系では、「国又は地方公共団体等が実施する公害の防止及び自然環境の保全のための施策を勘案することができるものとする。」とされており、予測は「国等が行う公害の防止及び自然環境の保全のための措置又は施策を踏まえて行うことができるものとする。」とされている。また、地方公共団体においても、同様の規定が置かれている場合がある。これは、環境基準等の環境保全目標の達成を念頭に置いて評価等を行う場合、例えば自動車排ガス規制の強化等の施策の進展も考慮することが合理的であると考えられたためである。
 一方、主要諸国の制度においても、ゼロ代替案(「事業を行わない」代替案)等の名称で、事業が行われない場合の環境の状態の推移を予測・評価させている場合がみられる。また、制度上の規定は特にみられないが、アメリカやイギリスにおける実際の予測評価に当たっては、他の主体による環境保全対策も勘案されている。
 我が国においては、このようなバックグラウンドの調査・予測については、事業者にとって困難である場合も多く、現況と同じと仮定することも多く行われているところであり、国あるいは地方公共団体による情報提供の一層の充実が必要とされている。

 
総合研究会技術専門部会報告書(p19)

 環境の状態を定量的に予測しようとする、大気汚染、水質汚濁等では、対象事業以外の活動による環境影響を含んだ環境の状態(いわゆるバックグランド)の予測が一般に必要とされる。また、動物、植物、野外レクリエーション地等では、保全対象と同様のものの事業対象地域以外における分布やその将来動向が、保全対象の価値付け、予測結果の評価において重要な意味を持っている。景観においても、対象事業以外の背景や視点場の将来変化も重要な意味がある。
 我が国では、このような、対象事業以外の影響を予測することは事業者にとって困難であることも多く、現況と同じと仮定することも多く行われている。一方、行政等の環境保全対策を勘案して将来バックグランドを設定すること、地方公共団体が地域の将来予測結果や予測モデルを持っている場合は、これを用いて予測することなども行われる場合がある。カナダの制度では、他事業の累積的影響の考慮を求めているが、その指針では既に明らかになっている計画については予測に組み入れることとしている。
 バックグランドの予測については、必要な手法や情報を整理する必要がある一方で、バックグランドの予測が事業者にとって本質的に困難な面もあることを踏まえる必要がある。


中央環境審議会答申(p8)

 準備書・評価書においては、上記の諸点を踏まえ、各種の環境保全施策における基準・目標を考慮しつつ、当該事業に伴う環境影響の程度を客観的に記載するとともに、先に述べたような環境保全対策の検討の経過を記載することが必要である。
 このほか、科学的知見の限界に伴う予測の不確実性の存在に関する記載や、調査等の委託を受けた者の名前の記載を含めることが必要である。


総合研究会報告書(p45)

 閣議アセスをはじめとして、我が国の国レベルの制度においては、調査・予測・評価に係る不確実性の内容や情報の限界を明らかにするよう直接に求めている規定はみられない。

 予測結果には、知見や情報等の限界、手法そのものに起因する不確実性、環境の条件の変化や社会条件の変化等事業者の管理や予測が困難な外部要因があることなどから多かれ少なかれ不確実性や情報の限界が伴うものである。主要諸国の制度では、影響の重大性の判断において不確実性や情報の限界を考慮することを求めている場合もある(資料2)。例えば、アメリカでは、NEPA施行規則において、「環境影響評価書において人間環境に対する予見し得る重大な悪影響を評価中であるにもかかわらず、この分野に関する情報が不十分又は入手不可能な場合には、情報が欠如していることを必ず明らかにしなければならない」とされており、このことは、評価書に記述することが求められている。また、EC指令では、附属書3]において、事業者による情報(評価書)の内容に、「必要とされる情報をまとめる際に事業者が見いだした問題点(技術上の限界及び実務知識の欠如)」を記載するべきであるとしている。

 予測結果の正しい理解、影響の重大性や事後調査の必要性の判断等、意思決定における不確実性を適切に扱うために、不確実性の程度や内容を明らかにすることが重要である。このため、予測の不確実性を踏まえてこそ、信頼性の高い評価が可能となることを関係者が理解した上で、諸外国でみられるような、情報の不足や技術的困難点の評価書への記載、不確実性の要因の分析や感度解析の実施等の方法を検討する必要がある。

 
総合研究会技術専門部会報告書(p14)

 予測手法の精度等があがっても、知見や情報が限られていること、データやモデルによる手法が元来統計的な扱いがなされており予測結果も統計的な推計値であること、自然環境の条件が変わり得ること、多様な地域条件を予め全て勘案することは困難なこと、事業者の管理が困難な要因があること、他の事業に起因する影響の累積は予測困難なこと、面整備事業のような場合など上物が決まらない段階で行われるため、正確な予測が困難なこと、などから予測には一定の不確実性が伴うことは避けられない。特に、一般に定量的予測において特定の値が予測結果として得られた場合、これは特定の条件下に固有な値であって、様々な要因により実際とは異なる可能性があるものである。しかし、国内の事例では、そのような不確実性について環境影響評価書で言及されることは少なく、機械的に数値を基準等と比較する例が見られる。
 このようなことから、予測結果の正しい理解、影響の重大性や事後調査の必要性の判断等、不確実性を適切に扱うために、不確実性の程度や内容を評価することが重要である。その方法としては、我が国ではあまり見られないが、不確実性を持つ予測条件に関し、感度解析を行う方法、予測結果を幅で示す方法、不確実性をもたらす要因とその不確実性の程度を整理して示す方法などがある。また、意志決定において不確実性を適切に扱うため、調査対象国等では、環境影響評価書に情報や技術的困難点の記載を求めている例がある。

 

(3) 調査・予測の前提となった技術的情報の取扱に関連する記述

中央環境審議会答申(p8)

 さらに、データや手法の出典等、調査・予測・評価の基礎となった技術的情報についても記載が行われることが適当である。この場合、調査・予測・評価の基礎となった観測データ等については、通例大部にわたるため、準備書等にすべて記載することは効率的でないが、準備書等の内容の理解の促進に資するため、準備書等に観測データ等の出典を記載する等、こうした情報が必要に応じ利用できるように配慮することが適当である。


総合研究会報告書(p48)

 準備書・評価書については、専門的かつ大部にわたるものが多く、幅広い参加を求めるためには、より平易な記述が行われることが必要である一方、専門的な検討のためには、調査・予測・評価の基礎となる専門的な情報を付属資料等によって十分に提供することが求められるという指摘がある。また、個別のデータの出所について明確にすることが必要であるとの指摘もある。

 
総合研究会技術専門部会報告書(p23)

 アメリカ、イギリスでは技術的な詳細資料を添付することとしている制度もあり、我が国の環境影響評価書に見られるような、技術手法の解説や調査データの詳細は、このような添付資料にまとめている例もある。

 

[2]−4 評価に関連する記述
(1) 評価の視点に関連する記述

中央環境審議会答申(p7-8)

ア. 従来の国内の制度では、あらかじめ事業者が環境基準や行政上の指針値等を環境保全目標として設定し、この目標を満たしているか否かという観点から評価を行うという考え方が基本となっている。環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。
一方、こうした観点からの評価に対しては、{1}環境基準や行政上の指針値が達成されている場合には、それ以上自主的かつ積極的に環境への負荷をできる限り低減しようとする取り組みがなされない場合があること、{2}生物の多様性の確保など、環境基本法が掲げる環境保全の新たな要請については、画一的な環境保全目標を設定することにはなじみ難い場合が多いことなどの問題がある。

イ. したがって、個々の事業者により実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当である。こうした視点から、主要諸国においてみられるように、複数案を比較検討したり、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を、わが国の状況に応じて導入していくことが適当である。
この場合、複数案の比較検討の内容は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較し検討することを意味するものであり、事業者が事業計画の検討を進める過程で行われるこうした環境保全対策の検討の経過を明らかにする枠組みとすることが適当である。


総合研究会報告書(p41-42)

 環境基本法の基本理念では、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること、環境への負荷によって人類の存続の基盤である環境が損なわれるおそれが生じてきていることという二つの認識に基づき、環境の保全が適切に行われなければならないこととされている。この基本理念では、公害の防止等環境保全上の支障を防止することのみならず、環境を健全で恵み豊かなものとして維持すること及び環境への負荷をできる限り低減することについても、「環境の保全」の視野に置かれることとなったものである。環境基本法で新しく示された考え方をどのように環境影響評価制度に反映させていくかが課題となっている。
 また、環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。特に、大気汚染及び水質汚濁については、他の事業による累積的影響をできる限り考慮に入れた予測評価を行い、汚染の重合がもたらす影響の防止に貢献してきた。例えば、環境汚染の進んでいる地域等の事業で、環境影響評価の結果、高い水準の環境保全対策の導入が促進された場合などが指摘されるところである。
 一方、一定の目標を達成するか否かを評価の基準とすることについては、環境影響評価を一種の安全宣言的なものとし、恵み豊かな環境を維持し、環境への負荷をできる限り低減しようとする自主的かつ積極的な取組に対するインセンティブが働きにくいという考え方がある。さらに、環境保全目標の水準を環境基準や行政上の指針値とすることについては、例えば現況で環境基準より清浄な地域において、そこまでは許容される汚染レベルととられることを懸念する指摘もある。したがって、環境基準や地域の環境保全目標等を踏まえつつ、主要諸国にみられるように、実行可能な範囲内で環境への影響を回避し最小化するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが必要との考え方がある。
 生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全や地球環境の保全など、環境基本法等によって認識されている環境の保全に関する新たなニーズについては、画一的な環境保全目標にはなじみ難い場合が多く、この観点から、個別案件に応じて、実行可能な対応がなされているかどうかを評価する手法の導入が効果的であるという考え方もある。また、景観、自然との触れ合い等、環境に接する者の主観に依拠する環境項目については地域住民、学識経験者、関係機関等の意見を集約しつつ目標を形成するべきであるという考え方もある。

 
総合研究会技術専門部会報告書(p14-15)

 国内の制度では、評価は、事業者が、各環境要素毎に環境保全目標を設定し、予測された環境の状態の変化をこれに照らして見解を示すことにより行われている。見解には影響の大きさについての見解、これに対応して環境保全対策や事後調査等の実施についての見解が含まれている。閣議決定要綱では環境保全目標は、公害に係る要素については環境基準や科学的知見に基づく判定条件、自然環境に係る要素については、自然環境の現況の調査、解析に基づき明らかにされた自然環境の重要さの程度に応じた保全水準とするとしている。
 調査対象国の制度を見るとアメリカでは、連邦政府が自らの意志決定を行うに際して環境影響評価を行うものであり、意志決定に必要な情報として代替案による影響の比較が行われるとともに影響の重大性の評価が記述される。代替案には、何もしない案が含まれるとされるが、これは比較に必要とされるものであって我が国においては、予測結果を現況やバックグランドと比較することに相当する。カナダでは環境影響評価書に影響の著しさ及び実行可能な全ての環境保全対策を記述することとしている。EC諸国では、環境影響評価は、意志決定権者が影響を評価して適切な意志決定を行うための事業者からの情報提供と位置づけられ、環境保全対策を記述するとともに影響を評価するために必要な情報を含むものとされている。
 以上のように調査対象国等の制度においては、我が国における環境保全目標に照らして評価を行うことに類するような規定はみられず、代替案の比較検討による相対的評価が含まれているのが特徴的である。環境影響評価の必要性の判断(スクニング)、予測等の対象の絞り込み(スコーピング)、環境影リー響評価書の審査、許認可の判断等において、影響が重大なものかどうかを判断する際に考慮すべき事項としては、規則や指針等でさまざまなものが挙げられている。環境影響の程度とともに、地域の特性、影響の生じる可能性を考慮するとしているところに特徴がある。これらの考慮事項の一つとして、既存の法令、計画、目標、環境基準等との整合性があげられているが、これらは、これに適合しない場合は「重大な影響」と判断するものとして示されているようである。

 また、地球環境に関する配慮を環境影響評価で扱っている場合は、地球的規模で生じる影響ではなく、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの排出量及びその森林等による吸収量、熱帯材等の使用量、エネルギー消費量等の算定手法等の明確な地球環境への負荷の可能性・その大きさについての予測・評価が行われている場合がある。

 

(2) 評価手法に関連する記述
  [1] 環境保全目標設定型の評価手法に関連する記述

中央環境審議会答申(p7)

ア. 従来の国内の制度では、あらかじめ事業者が環境基準や行政上の指針値等を環境保全目標として設定し、この目標を満たしているか否かという観点から評価を行うという考え方が基本となっている。環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。
一方、こうした観点からの評価に対しては、{1}環境基準や行政上の指針値が達成されている場合には、それ以上自主的かつ積極的に環境への負荷をできる限り低減しようとする取り組みがなされない場合があること、{2}生物の多様性の確保など、環境基本法が掲げる環境保全の新たな要請については、画一的な環境保全目標を設定することにはなじみ難い場合が多いことなどの問題がある。


総合研究会報告書 (p37-39)

 国内の制度では、環境の保全上の支障を防止するという観点から、各環境要素毎に得られた予測結果を、あらかじめ事業者によって設定された環境保全目標に照らして事業者の見解を明らかにすることを、準備書・評価書における「評価」の内容とするという考え方が基本となっている。
 閣議アセスでは、公害の防止に係る項目についての評価は、「人の健康又は生活環境に及ぼす影響について、科学的知見に基づいて、人の健康の保護又は生活環境の保全に支障を及ぼすものかどうかを検討することにより行うものとする」とされている。この場合、「公害対策基本法第9条の環境基準が定められている項目にあっては当該環境基準に照らし、人の健康又は生活環境への影響に関する判定条件等を利用し得る項目にあってはそれらに照らし評価を行うことを基本とする」となっている。
 一方、自然環境の保全に係る項目についての評価は、「予測地域における自然環境に及ぼす影響について、科学的知見に基づいて、それが自然環境の重要さに応じた適切な保全に支障を及ぼすものかどうかを検討することにより行うものとする」とされている。
 また、整備五新幹線アセスでは、評価は、自然環境に係る予測評価項目と生活環境に係る予測評価項目のそれぞれについて、事業者が設定する環境保全目標等に照らして評価を行うこととされている。発電所アセスでは、「環境影響の評価は、1}人の健康を保護するうえで支障ないものであること、2}生活環境を保全するうえで支障ないものであること、3}自然環境を適正に保全するうえで支障ないものであることの観点から行うもの」とされている。
 さらに、地方アセスにおいても、評価は、事業者が設定する環境保全目標に照らして行うものとされているのが通例である。
 環境保全目標については、環境基準値等具体的な数値を示す定量的な目標と、「著しい支障を生じないこと」等のように具体的な数値を示さない定性的な目標の二種類が用いられている。
 閣議アセス及び地方アセスでは、環境基準が設定されている項目については、通常、環境基準が環境保全目標とされている。環境基準以外では、保全対象(目的)に合わせて、環境の状態に関する行政上の指針値、水産用水基準、水道水基準など科学的知見に基づいて設定されている基準や指標が用いられている。環境基準がある項目でも、地方公共団体が別途定めた基準や目標を用いる場合もある。悪臭、振動、建設作業騒音等のように環境基準がないものについては、排出口や敷地境界における濃度や振動等のレベルに関する規制基準を環境保全目標としている事例もある。この場合、これを超えれば行政的措置が講じられるようなレベルを目標とすることについて妥当性が問題とされる場合もある。また、地方公共団体等が、公害防止、景観、動植物、緑の量等について計画や目標を策定している場合に、これらとの整合性の確保が環境保全目標とされることも多く行われている。なお、現在の環境基準等の設定状況は、資料3のとおりである。
 一方、生活環境に係る項目において定量的な判定条件によらない場合の環境保全目標は「生活環境に著しい支障を生じないこと」などの抽象的表現であることが多い。
 自然環境要素では、多様な価値軸があり、しかも地域特性により価値付けが異なるような要素については、類型化され全国で一律に利用できるような尺度が求め難い。このため、国内の制度では、個別の事例において、調査結果に基づいて、個々の保全対象を見いだし、その重要度を3又は4段階にランク付けを行い、ランク付けに応じた保全水準を設定して、評価が行われていることが多い。また、これらのランクに加え、地域的な価値を有するものについては別途保全目標を設定するとしている技術指針もある。
 段階的な保全目標でない場合は、「地方公共団体等の自然環境の保全のための指針や目標に合致すること」、「関係法令・条例に適合すること」など既存の概念を保全目標に用いるもの、「貴重な動植物を保全すること」、「良好な自然環境地を保全すること」など特定対象の保全を目標とするもの、「樹林の保水機能に著しい影響を与えないこと」など機能に着目するもの等が地方公共団体の技術指針に示されている。このほか、緑の量に着目した予測評価を行うとしている指針もある。
 具体的な保全目標の設定については、これまでの技術指針では、生物の予測評価では、学術上重要な動植物の種及びその生息・生育環境の保全を重視してきており、景観及び野外レクリエーション地の予測評価では、既存法令等で保全されているものを重視してきている。


総合研究会技術専門部会報告書(p15-17,18)

環境基準・規制基準等による環境保全目標

 閣議決定要綱及び地方公共団体の制度においては、環境基準がある項目の場合には通常それが環境保全目標とされている。環境基準以外では、保全対象(目的)に合わせて、環境の状態に関する行政上の指針値、水産用水基準、水道水基準など科学的知見に基づいて設定されている基準や指標が用いられている。環境基準がある項目でも、地方公共団体が別途定めた基準や目標を用いる場合もある。
 環境基準や環境の状態に関する行政上の指針値等を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。特に、大気汚染及び水質汚濁については、他の事業による累積的影響をできる限り考慮に入れた予測評価を行うことが要求されることとなるため、事業者自身で予測することが難しい面があるものの、汚染の重合がもたらす影響の防止に貢献してきた。一方で、環境保全目標を一律に環境基準とすることについては、例えば現況で環境基準より清浄な地域において、そこまでは許容される汚染レベルととられることを懸念する指摘もある。このような場合においては、実行可能な範囲内で環境影響を最少化するものか否かという視点により、代替案の比較検討を行う方法と、実施可能な最良の技術を用いているかどうかを確認する方法等により最善の努力がなされているかどうかを判断する方法がある。
 悪臭、振動、建設作業騒音等のように環境基準がないものについては、排出口や敷地境界における濃度や振動等のレベルに関する規制基準を環境保全目標としている事例がある。この場合、これを超えれば行政的措置が講じられるようなレベルを目標とすることについて妥当性が問題とされる場合がある。また、例えば、新幹線以外の鉄道の騒音及び振動については、測定方法が定められておらず評価尺度もないため、本来性質の異なる新幹線鉄道の騒音及び振動の基準に準じて行われる場合があること、水質汚濁に係る環境基準では水生生物への影響を評価できない場合があること、低周波空気振動のように適切な評価尺度がなく、調査結果を指標としているものもあるなど、今後、判断条件の設定が望まれるものもある。また、このような場合、地方公共団体が策定した指針を用いている場合もある。
 このような定量的な判定条件がない場合の環境保全目標は「生活環境に著しい支障を生じないこと」などの抽象的表現であることが多い。一方、景観、悪臭等人間の感性や感覚に与える影響を評価する尺度については定量化・客観化の努力が続けられており、適切なものについては、順次成果を活用することが重要である。


自然環境要素における環境保全目標

 自然環境要素のように多様な価値軸があり、しかも地域特性により価値付けが異なるような要素については、類型化され全国で一律に利用できるような尺度が求めがたい。このため、国内の制度では、個別の事例において、調査結果に基づいて、個々の保全対象ごとにその重要度を3又は4段階にランク付けを行い、ランク付けに応じた保全水準を設定して、評価が行われていることが多い。また、これらのランクに加え、地域的な価値を有するものについては別途保全目標を設定するとしている技術指針もある。(資料−9:自然環境要素に係る段階的環境保全目標の例)
 この段階的保全水準の具体的当てはめは、一般には天然記念物等の指定のランク、レッドデータブックにおけるランク、自然環境保全基礎調査等における特定植物群落、指標種、景観資源調査等の結果等、観光情報ファイルによるランクづけ等が参考になされている。これについては、例えば市町村が指定した保全対象は機械的に低いランクとして扱われていることに対し、それぞれの地域の実状に応じて対応すべきとの指摘もある。
 重要度の判断については、要素の範囲においても示した通り、これまで学術上の重要性、希少性が重視されてきているが、今後は、環境基本法等にもみられるように、生物の多様性の保全(生態系の多様性、種間の多様性及び種内の多様性)、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの確保の観点から判断することが望まれている。このような、判断を行う場合の価値軸としては、例えば、親近性、教育性、地域代表性、祭礼や日常における地域社会との関連性、地域の自然の多様性の確保における位置づけ等の多様なものが考えられる。また、例えば植生自然度(1〜10)が重要性の尺度として用いられる場合もあるが、必ずしも適当でない場合がある。例えば、都市近郊の雑木林のように、いわゆる自然度の低いものでも生物の豊かさ、触れ合いの観点から重要なものがある。また、希少な自然ばかりでなく地域の最も普遍的な自然をどのように残すかが課題との指摘もある。
 また、緑の量が予測評価の対象となる場合、緑のマスタープラン等の計画や目標等との整合性が環境保全目標となりうる。この他、自然環境の改変量による評価のため、様々な指標や評価尺度の整備が課題との指摘もある。
 段階的な保全目標でない場合は、「地方公共団体等の自然環境の保全のための指針や目標に合致すること」、「関係法令・条例に適合すること」など既存の概念を保全目標に用いるもの、「貴重な動植物を保全すること」、「良好な自然環境地を保全すること」など特定対象の保全を目標とするもの、「樹林の保水機能に著しい影響を与えないこと」など機能に着目するもの等が地方公共団体の技術指針に示されている。
 景観では、自然景観の保全の観点のみならず、歴史的文化的景観の保全、地域の景観との調和、人工的景観も含め良好な景観の形成といった観点から、地域の特性に応じた必要性に基づき予測評価が行われている場合もある。一般に景観の保全の観点ではネガティブミニマムの考え方に従っているが、良好な景観の形成の観点では、ポジティブマキシマムの考え方が取り入れられているこれらの実状を踏まえ、生活に近い場の景観や対象事業のデザインも含めて対象を整理する必要があるとの考えがある。さらに、人々の記憶の拠り所となっている風景の改変についても対象とすべきとの指摘もある。このような扱いについては、その場合の対象の範囲、目標、判断基準等も含め、今後十分な検討が必要との指摘がある。
 また、景観の評価においては、視対象と視点場の関係が重要であるとともに、影響を受ける主体(住民、来訪者等)の違いを考慮し、専門家による判断により補完することが重要である。
 野外レクリエーション地では、その静穏さ等、保全対象に応じて評価する尺度を適切なものとすることも必要である。
 景観及び野外レクリエーション地は、地形・地質、植物、動物、水、大気等の構成要素から成立しており、様々な要素を総合的に評価するものとなっている。また、動物及び植物についても、これらをその生息環境とともに生態系として捉えることも望まれている。さらに、水域についても、近年、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的にとらえ、水環境として一体的に評価することも望まれている。しかしながら、これらの評価に関しては具体的な目標等の知見は十分でない。


地域の計画・目標、民間の情報等の役割

 地方公共団体等においては、公害防止、景観、動植物、緑の量等について計画や目標を策定している場合には、これらとの整合性の確保が環境保全目標とされることも多く行われている。その他、地域に関する独自のレッドデータブック、環境管理計画、景観形成指針、環境の規制基準や尺度を設定している場合もある。また、民間においても植物や地形のレッドデータブックの作成等の取り組みが行われている。環境保全に関し規制のみならず、自然との触れ合いの増進などの事業が営まれるようになってきている。民間活動でもバードサンクチュアリ、ナショナルトラスト等の保全地域設定、自然観察等の活動が増えている。このような取り組みが保全対象の選定や評価尺度の設定に取り入れられてきているが、技術指針等ではこれらに関する記述は見られない。とりわけ、野外レクリエーション地、地域景観等、地域的特性が強く、全国一律の評価尺度がないような要素については、このような地域的目標等が評価のための情報となりうる。
 調査対象国等の制度の規定においても、環境に関わる既存の政策、地域の計画、目標等との整合性を影響の重大性の判断における考え方の一つとしてあげている。

 

  [2] 実行可能な範囲で環境影響を回避低減するものであるかどうかという観点の評価手法に関連する記述

中央環境審議会答申(p7-8)

ア. 従来の国内の制度では、あらかじめ事業者が環境基準や行政上の指針値等を環境保全目標として設定し、この目標を満たしているか否かという観点から評価を行うという考え方が基本となっている。環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。
一方、こうした観点からの評価に対しては、{1}環境基準や行政上の指針値が達成されている場合には、それ以上自主的かつ積極的に環境への負荷をできる限り低減しようとする取り組みがなされない場合があること、{2}生物の多様性の確保など、環境基本法が掲げる環境保全の新たな要請については、画一的な環境保全目標を設定することにはなじみ難い場合が多いことなどの問題がある。

イ. したがって、個々の事業者により実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当である。こうした視点から、主要諸国においてみられるように、複数案を比較検討したり、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を、わが国の状況に応じて導入していくことが適当である。
この場合、複数案の比較検討の内容は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較し検討することを意味するものであり、事業者が事業計画の検討を進める過程で行われるこうした環境保全対策の検討の経過を明らかにする枠組みとすることが適当である。


総合研究会報告書(p39-40)

 主要諸国の制度においては、我が国のように、「環境保全目標に照らして評価を行うこと」に類するような規定はみられず、評価の力点は、事業者がとり得る実行可能な範囲内で環境影響を最小化するものか否かという点に置かれている。

 実行可能な範囲内で環境影響を最小化するものであるか否かを判断する手法として、主要諸国ではどの代替案がより望ましいかという観点で実行可能な代替案の比較検討を取り入れている場合が多い。例えば、アメリカでは、「提案行為を含む代替案の検討は環境影響評価の核心である」としている。主要諸国における代替案の検討の状況は、資料34のとおりである。アメリカ、カナダ、オランダにおいては義務的に、ドイツにおいては必要に応じて代替案を検討させている。一方、イギリスでは、代替案についての検討を評価書に記載することができるとされ、フランスでは、事業の選択理由を記載することとされているが、代替案の検討を明確に義務づけていない。また、EC指令においては、「必要な場合には、環境への影響を考慮にいれて、開発事業者が調査した主要な代替案の骨組み及び開発事業者の選択の主要な根拠」を、事業者による情報(評価書)に記載させることとしている。なお、EC指令の改正案では、すべての場合について、主要な代替案の概要と、環境影響の観点も含めて、計画案を選択した理由を評価書に記載することを求めている。
 代替案の検討が行われる場合、検討される代替案としては、「事業を行わない」、事業目的を達成する手段そのものの代替、事業位置の代替といったかなりな変更を伴うものから、施設の構造やレイアウトの代替、工法や工期の代替、詳細デザインや環境保全設備の代替まで、大きな幅がある。
 代替案によって比較される内容には、それぞれの案に伴う環境の状態の変化の程度の他に、環境への負荷の程度が比較される場合もある。特に、地球環境への影響や廃棄物の発生量の抑制等については、事業に起因する環境の状態の変化を予測評価することは困難であり、環境への負荷に関して予測評価を行い、代替案による比較検討を行っている事例がある。
 代替案を比較検討する方法としては、評価項目毎に定量的または定性的な評価をマトリックスとして整理する方法、学際的チームの討議により評価する方法、優先すべき評価項目から順に案を比較して各案の優先順位を決定する方法などが用いられている。
 代替案の比較検討に当たっては、代替案がもたらす環境保全上の便益と代替案の費用を比較検討する費用便益分析を採用している例もみられる。

 なお、国内の制度においても、東京都、大阪府等の一部の地方公共団体において、代替案の検討に関する規定を、技術指針に取り入れているものがある。
(中略)

 また、代替案の比較検討によらずに、事業者にとって実行可能な最善の努力が講じられているかどうかを判断する場合もある。例えば、環境への負荷の発生の抑制等に関し適切な環境管理体制が導入されているかどうか、入手可能な最善の技術が用いられているかどうか等の判断が行われる場合がある。


総合研究会技術専門部会報告書(p18,19)

環境保全目標によらない評価

 廃棄物、地球環境影響、リスク、事故時の対応等環境の状態変化を示しがたい場合にあっては、環境負荷の程度、可能性の予測や、環境保全対策の技術レベル等事業者の環境保全上の努力を示すことで対応している事例がある。また、調査対象国の中には、実現可能な複数の代替案を比較検討することにより適切な評価を行っている事例もある。


代替案の比較検討等による評価及び総合的評価

 アメリカ、オランダ等では、よりよい意志決定を行うための作業として代替案の比較検討が環境影響評価の重要な要素と考えられている。検討される代替案としては、「事業を行わない」、事業目的を達成する手段そのものの代替、事業位置の代替といったかなりな変更を伴うものから、施設の構造やレイアウトの代替、工法や工期の代替、詳細デザインや環境保全設備の代替まで、大きな幅がある。事業の計画においては、通常、これら様々な代替案の検討が行われるが、アメリカの制度では、この検討に各機関や公衆の意見を求めるのが特徴である。一方、イギリス、ドイツの環境影響評価では、検討は事業者により行い、検討結果を評価書に示すことにより環境配慮の合理性等を示している事例もある。「事業を行わない(なにもしない)」代替案は、環境影響の比較検討のためにも用いられている。「なにもしない」代替案には、我が国の事例における大気汚染や水質汚濁のバックグランド濃度の推計に相当するものから、事業を行わないことにより生じる影響を予測したものまである
 調査対象国等では、代替案の比較検討が行われる場合、個々の影響の著しさだけではなく、どの代替案がより望ましいかという観点で行われており、様々な環境影響の程度、代替案の経済性や実現可能性、社会的受容性等を総合的に評価しているものであるが、我が国では、個別の要素毎に影響が著しいかどうかを評価することが一般的である。
 また調査対象国では、代償的措置も含めて評価する場合があるが、喪失される環境と創造される環境が異なるため、個別の環境要素ではなく、総合的に評価することが行われる。
 代替案を総合的に比較検討する方法としては、評価項目毎に定量的または定性的な評価をマトリックスとして整理する方法、学際的チームの討議により評価する方法、優先すべき評価項目から順に案を比較して各案の優先順位を決する方法などが用いられている。このほか、事業のコストベネフィット分析を行うものもある。
 環境影響評価の初期の段階では、多数の要素を客観的総合的に比較検討する手法として、定量化・重み付け加算などの方法が提案されていたが、調査した事例、ガイドライン、研究文献等では、このようなものは見られなかった。これは、環境影響評価制度が確立し、関係機関、公衆等の関与手続きが位置づけられ、学識経験者やNGOによる検討プロセスへの参画が進むことによって、より客観的な評価が形成されていることによるものと推察される。
 「なにもしない」場合の予測及び総合的な評価に関連し、バイパス道路の設置、廃棄物処理施設の建て替えなどにみられるように、なにもしない場合に比較して広域的あるいは長期的には環境改善がみられるものがあることから、評価は、なにもしない場合に生じる環境悪化との比較検討を広域的・長期的観点も含めて総合的に行う必要があるとの指摘もある。

 

イ. 環境基本法の制定により、公害と自然という区分を超えた統一的な環境行政の枠組みが形成され、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素を良好な状態に保持すること、生物の多様性の確保を図るとともに多様な自然環境を体系的に保全すること、人と自然との豊かな触れ合いを保つことが求められるようになったことを踏まえ、環境基本法の下での環境保全施策の対象を評価できるよう、調査・予測・評価の対象を見直すことが適当である。


総合研究会報告書(p39)

 環境基本法等にみられるとおり、生物の多様性(生態系の多様性、種間の多様性及び種内の多様性)の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全の視点が必要とされるようになっている。このような新しい視点を保全目標の設定に取り入れる場合、動物や植物といった個別要素毎にとらえるのではなく、生物の生息地や自然との触れ合いの場等の自然環境を一体的にとらえること、特定の保全対象のみに着目するのではなくより広域的見地から体系的にとらえること、自然環境と人との関わりを視野に入れてとらえることなどが必要となる。
 このようなとらえかたとしては、地域の自然環境及びその利用状況等の特性を踏まえ、学術上の重要性や希少性のみならず、親近性、地域代表性、生態学的重要性等の様々な価値軸によって、保全すべき自然環境(例えば、干潟、都市近郊の雑木林・緑地、湧水、緑の回廊等)を抽出し、これを一体の場とみたときの機能や価値に注目して予測評価や環境配慮を行う方法も有効である。
 また、このような場合の予測評価・環境配慮においては、大気、水、土壌等の自然的構成要素の改変が生態系に与える影響、緑の量や改変面積等の量的影響、広域的観点に基づいた保全面積や連続性の確保、生息種の撹乱の回避等の生態学的視点にたった対策、自然との触れ合い等の自然の持つ機能の確保等の対策など、従来あまり考慮されていなかった視点が必要とされる。

 
総合研究会技術専門部会報告書(p17)

 生物多様性の保全のニーズの高まりを背景に、生物多様性を環境影響評価にどのように反映するかについて様々な検討がなされている。
 諸外国を見ると例えば、アメリカでは、開発における生物多様性保全のための一般的原則の整理、情報支援の役割等がまとめられている。また、生物の分布等の情報が重要な役割を果たすため、アメリカをはじめとして国レベルや民間レベルでの情報交換ネットワークが整備されており、また、新に整備されつつあるものもある。また、アメリカでは、生物資源や自然環境の機能に注目して、自然環境の質の評価、代替案の比較検討に用いることのできるような評価方法(HEP、WET、BEST)が開発され、それぞれの特性に応じて用いられている。

 我が国においても、地球環境保全に関わる関係閣僚会議において、我が国の生物多様性に関する基本方針と施策の展開方向を示した生物多様性国家戦略が策定されたところである。また、保全対象を予め明らかにし、開発事業等における環境配慮を推進するため、地域的なレッドデータブック、保全対象リストの作成等が国、地方公共団体、民間で進められている。