資料5-1 技術検討委員会の検討事項に係る過去の議論の整理
[1] 第二種事業の判定基準に関連する記述
 (1) スクリーニングの考え方に関連する記述

中央環境審議会答申(p5)

 事業者にとっては、対象事業があらかじめ定められていることが望ましいが、環境に対する影響は、個別の事業により、また、事業の行われる地域によって異なることから、個別判断の余地を残すことが必要である。
 したがって、上記の対象事業の選定の考え方により一定の事業種を列挙した上で、{1}規模要件によって必ず環境影響評価を実施すべき事業を定めるとともに、{2}その規模を下回る事業についても一定規模以上のものは、事業の規模、事業が実施される地域の環境の状況等によって、環境影響評価を実施するか否かを個別の事業ごとに判断する手続(スクリーニング手続)を導入することが適当である。スクリーニングの判断は、事業者が提出する事業計画の概要をもとに、当該地域の状況等に関する基本的情報を考慮して、地方公共団体の意見を聞きつつ国が行うことを基本とすべきである。なお、あらかじめスクリーニングの審査期間や基本的な判断基準を明確にしておくことが必要である。


総合研究会報告書(p20-23)

 閣議アセスでは、国が実施し、又は免許等を行う事業で、規模が大きく環境に著しい影響を及ぼすおそれのあるものを対象事業とし、閣議決定要綱に掲げられた事業種に関し、主務大臣が環境庁長官に協議して規模要件等を定めることとされている。具体的な規模要件等は全国一律に決められ、地域差は考慮されていない。こうして定められた対象事業は、そのすべてについて詳細な環境影響評価を行うことが求められている。
 一方、主要諸国においては、個別の事業ごとに、事業の内容、地域の特性等に関する情報を踏まえて、環境影響の程度を簡易に推定して、詳細な環境影響評価を実施する対象とするかどうかを、関係機関等への意見照会により判断する手続(スクリーニング:ふるい分け)を導入している例がみられる。
(中略)
 また、我が国の制度においても、一種のスクリーニングを導入している例がみられる。例えば、閣議アセスの体系の中の建設省の実施要綱及び発電所アセスにおいて、対象規模に満たない事業についても、特に環境保全に配慮する必要があると認められる事業について環境影響評価を行うことができるとしている例がみられる。また、地方アセスにおいても、長崎県等において、対象事業に満たない事業について、環境影響評価が実施できるとしている団体がみられる。ただし、あらかじめ定められた対象事業以外の事業について個別に判断を行い詳細な環境影響評価を求めるか否かを決定するためには、何らかの形で当該事業についての情報を入手することが必要となるが、これらの制度には、そのための手続は規定されていない。
(中略)
 環境影響評価が必要な事業を限定列記する方式は、事業者に対して予見可能性を与えることができる。一方、環境影響の重大性は個別の事業ごとに異なり、また、事業の行われる地域によって大きな差があることから、あらゆるケースについて単純に見極めることのできる基準を作るのは困難であり、個別判断の余地を残さないことは、環境影響が重大な場合を見過ごしてしまうおそれがある。また、個々の開発計画は基準以下であるものの累加すると基準を超えてしまうという場合や、規模要件ぎりぎりに事業を切りつめあるいは分割して環境影響評価手続の実施を回避するという行為に対処するためにも個別判断の余地を残す必要があるという指摘もある。


 総合研究会技術専門部会報告書(p22)

 我が国の制度では、環境影響評価の対象事業は事業種類及び規模により定められているが、調査対象国等の制度では、ある事業が環境影響評価を必要とするかどうかを決定する方法として様々な方法がとられている。これには、環境影響評価を必要とする、あるいは、不要とする事業及び規模を予め定めたリストに照らして決定する方法と、個別事業毎にその影響を考慮して判断する方法とがある。また、双方の方法を組み合わせる場合もある。
 個別に判断する方法は、事業の内容、地域の特性等に関する既存の情報や関係機関等への意見照会により、環境影響の程度を簡易に推定して、重要な影響が考えられるものにつき、より詳細な環境影響評価を行うというものである。この方法は、あらゆるケースで必要性を単純に見極めることのできる境界線を作るのは不可能であること、一つ一つの開発は基準以下であるものの、累加すると基準を超えてしまうという問題に対処できないとの認識に基づいている。

 

(2) 環境影響特性の捉え方に関連する記述

 中央環境審議会答申

(特段の記述はない。)


総合研究会報告書(p24-25)

 閣議アセスにおいては、主に事業の物理的な規模によって環境影響を判断しているところであるが、内外の他の制度には、事業立地計画地点の環境特性、生ずる環境影響の性質等、その他の要素を加味して環境影響を判断している事例がみられる。
 例えば、主要諸国の制度では、EC指令において、環境影響について、事業の規模のみならず、その性質や立地にも着目すべきこととしている。事業の性質については、付属書Iに放射性廃棄物施設、アスベスト関連工場、有害廃棄物処理施設、付属書IIに各種の製造工場を掲げているように、汚染物質の排出等の事業の性質を重視していると考えられる。また、イギリスでは、著しい影響を及ぼすかどうかの判断基準については、イギリス環境省が指針により、[1]事業の物理的規模が地域的な重要性を上回るものかどうか、[2]事業が国立公園地域等の重要な地域に立地するものかどうか、[3]事業が汚染物質の排出等により複雑な又は悪い影響を引き起こすかどうかという3つの基準を示している。なお、具体的に環境影響評価が必要か否かはこの指標を参考としつつ都市・農村計画法に基づき地方計画庁が個別に判断することとなる。さらに、アメリカでは、詳細な環境影響評価を求める場合の判断の基準となる「重大な」影響という場合、状況(影響を受ける地域等)と強さ(影響の程度)の双方を意味するとされている。
 また、国際的取組においても、越境環境影響評価条約、世界銀行・環境評価に関する業務指令書4.01、OECD・開発援助環境影響評価勧告等において、事業が行われる地域、環境影響の性質を加味して対象事業を判断する考え方が示されている。例えば、越境環境影響評価条約では、(a)規模(大規模な計画活動)、(b)位置(環境上重要な地域等)、(c)影響(複雑で潜在的な悪影響を伴う計画活動等)の3つの基準が示されている。また、世界銀行・業務指令書では、計画事業のタイプ、場所(環境上脆弱な地域への近接等)、不安定度(不可逆的な影響、強制移住にかかわる影響等)及び規模、並びに、その潜在的影響の性質及び大きさによるものとしている。さらに、OECD・開発援助環境影響評価勧告では、「特定のプロジェクト又はプログラムが環境に大きな影響をもたらすおそれがあるか否かの判断に際しては、何よりも、当該プロジェクト又はプログラムの所在地として計画されている地域の生態学的条件を考慮することが必要である」とされており、湿地、珊瑚礁等一定の脆弱な環境においては、常に詳細な環境影響評価が必要とされるとしている。


総合研究会技術専門部会報告書(p22)

 例えば、環境保全に係る指定等を受けた地域、固有の動植物種が生息する地域、湿地、サンゴ礁、マングローブ帯、急傾斜地域、水源地域等、環境上脆弱な地域において事業を行う場合は環境影響評価を行うとしている場合がある。

 

(参考資料)

越境環境影響評価条約 「附属書[3] 附属書[1]に掲げられない活動の環境に対する重大性を決定する際に手助けとなる、一般的クライテリア」

1. 第二条5が適用される計画活動を考慮するに際して、関係当事者は、当該活動が重大な越境悪影響をもたらすおそれがあるかどうかを、とりわけ以下のクライテリアの一ないしそれ以上に基づいて、考慮することができる。
(a)規模 その活動の型としては大規模な計画活動。
(b)位置 (ラムサール条約によって指定される湿地、国立公園、自然保護区域、特別な科学上の関心が払われる場所、又は考古学上、文化上、歴史上重要性のある場所のような(特別に環境上敏感な又は重要な地域内に又はそこに近接して所在する計画活動。また、計画された開発の特性がその住民に重大な影響をもたらすおそれのあるような場所での計画活動。
(c)影響 人類又は重要性の高い種や生物に重大な影響を引き起こす計画活動、影響を受ける地域の現行の又は潜在的な利用を脅かす計画活動、及び、環境の受容量にによって維持され得ない追加的負荷をもたらす計画活動を含む、特に複雑でかつ潜在的な悪影響を伴う計画活動。

2. (略)

世界銀行・環境評価に関する業務指令書4.01 「附属書E 環境スクリーニング」 (抜粋)

 計画プロジェクトの分類分けは、計画プロジェクトのタイプ、場所(環境上脆弱な地域への近接等)、不安定度(不可逆的な影響、強制移住にかかわる影響等)及び規模、並びに、その潜在的影響の性質及び大きさによる(注1)。

(注1) 「場所」とは、マングローブ林、湿地及び多雨林のような、環境上脆弱な地域への隣接またはその侵食をいう。「規模」は、国内の状況に応じてタスク・マネージャーによって判断される必要がある。大規模な場合には、プロジェクトはカテゴリーAプロジェクト「完全な環境評価が要求される」になる可能性がある。「不安定度」とは、不可逆な影響、被害を被りやすい少数民族への影響または強制移住にかかわる影響のような問題をいう。

OECD・開発援助環境影響評価勧告 「附属書 環境影響評価の必要性が最も高い プロジェクト及びプログラム」(抜粋)

 特定のプロジェクト又はプログラムが環境に大きな影響をもたらすおそれがあるか否かの判断に際しては、何よりも、当該プロジェクト又はプログラムの所在地として計画されている地域の生態学的条件を考慮することが必要である。
 一定の非常に脆弱な環境(例えば、湿地、マングローブの沼沢地、サンゴ礁、熱帯林、準乾燥地)においては、常に詳細な環境影響評価が必要とされる