議長サマリー(仮訳)

第7回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー
1997年7月7〜10日 山梨県富士吉田市

議長サマリー(仮訳)

−京都に向けた決断の時−

 

1.第7回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーが、環境庁、山梨県、富士吉田市及び国連アジア太平洋地域経済社会委員会(ESCAP)の主催、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、国連大学(UNU)、日本の外務省及び通商産業省の後援/協力により、1997年7月7〜10日、山梨県富士吉田市で開催された。


[1].参加者
2.このセミナーには、中国、フィジー、インドネシア、日本、キリバス、マレーシア、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パプア・ニューギニア、フィリピン、韓国、スリランカ、タイ、ツバル、米国、ウズベキスタン及びベトナムの18ヶ国の専門家が出席した。ESCAP、地球環境ファシリティ(GEF)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)/経済協力開発機構(OECD)、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(国際環境技術センター及びアジア太平洋地域事務所)、UNU、及びUNFCCC事務局の代表者も出席した。全ての参加者は、気候変動問題に関するセミナーを、この適切な時期に開催した主催者に対して感謝した。


[2].セミナーの主な目的
3.セミナーの主な目的は、以下のとおりであった。
(a) 非附属書[1]締約国の第1回通報の作成について、経験の交換及び討議を通じて、地域内各国の国別報告書の作成を促進すること。
(b) 共同実施活動(AIJ)の進捗状況のような地域内各国が関心のある事項について、情報を交換すること。
(c) 最新の科学、技術、研究及び制度に関する情報へのアクセスを促進する地域ネットワークを含め、地域の各国間の気候変動枠組条約の履行についての情報や意見の交換を促進する地域メカニズムについて討議すること。


[3].セミナーの運営
4.セミナーは、石井道子環境庁長官の開会挨拶で始まった。引き続き、天野建山梨県知事、栗原雅智富士吉田市長及びESCAPの代表であるリザウル・カリム博士が歓迎挨拶を行った。続いて、インドネシアのアチャ・スガンディ環境省副大臣が「インドネシアにおける気候変動枠組条約の実施状況」と題する基調講演を行った。次いで、加藤久和教授を議長に、インドネシアのアチャ・スガンディ環境省副大臣及びニュージーランドのマレー・ワード氏を副議長に、国連気候変動枠組条約事務局のクリスチン・ズムケラー女史を書記に選出した。


[4].全般意見
5.これまで多くの附属書[1]締約国が温室効果ガス排出量を2000年までに1990年レベルに安定化させるという約束を達成するために、行った努力は未だ十分ではない。参加者は、約束を履行するためになお一層努力するよう附属書[1]締約国に求めた。

6.参加者は、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が、ベルリンマンデートを達成し、議定書その他の法的文書に合意することが重要であると考えた。国連環境開発特別総会(UNGASS)の成果を考慮し、参加者は、附属書[1]締約国がCOP3で相当の削減目標に合意することを望んだ。これに関し、日本がCOP3の議長国として、できる限り早く、望むらくは第7回ベルリンマンデート・アドホックグループ会合(AGBM7)までに将来のコンセンサス作りの基礎を構築すべく、具体的なイニシアティブをとる必要があることを表明した。

7.非附属書[1]締約国からの多くの参加者は、条約上の義務の効果的な履行、特に国別報告の作成は、引き続き国際的な協力が必要としていることを繰り返し述べた。全締約国が条約の究極的な目標を達成するために、最大限の努力を行うべきであり、このために、さらなる国際協力が重要であることを強調した。これに関し、参加者は、途上国がその報告する義務を満たすために行っている努力を支援するために、日本と米国がこれまでカントリースタディなどの実施により行っている取組を歓迎した。また、途上国への実質的に追加的な資金に関し、国連環境開発特別総会において、日本の橋本首相により提案されたグリーンイニシアチブと、米国のクリントン大統領の演説を歓迎した。これらのイニシアチブは、ともに途上国にとって極めて重要なものであると参加者は感じた。参加者は、本地域の国は着実に条約の履行を推進していると認識するとともに、今後、国別報告書を作成し、必要に応じ、気候変動問題を推進する措置を含む国家計画/戦略を策定する努力をさらに行っていくことに留意した。このため、参加者は以下のパラグラフに示される具体的な行動が有益であるとともに、附属書[1]締約国と非附属書[1]締約国間の協力をさらに増大させていくものと信じた。

8.参加者は、気候変動対策として国民意識の向上やキャンペーンの促進が重要であることを強調した。全ての関係者は、これらの活動に参加することが奨励される。とりわけ、マスコミや環境NGOは、これらの活動を効果的、効率的に実行する上で重要な役割を果たすことができる。各国の環境ジャーナリスト団体やアジア太平洋環境ジャーナリストフォーラムとの適切な連携が求められる。


[5].通報作成
9.参加者は、気候変動枠組条約事務局、GEF、UNDP、IPCC/OECD及びUNEP/IETCにより提供された情報に留意した。参加者は、促進措置(enabling activities)の検討、承認のためのGEFの手続きが迅速化されたことを歓迎した。参加者の理解を深める、この手続の具体的な説明がなされた。GEFの手続きやGEF一般に関する明確な理解が開発途上締約国にとって重要であることが指摘された。

10.参加者は、アジア太平洋地域では、温室効果ガスの排出目録、脆弱性の評価、国別報告書及び国の制度の整備の分野でかなりの進捗がなされたことに留意した。これに関連し、非附属書[1]締約国におけるカントリースタディの実施や国別報告書の作成に対し、提供された多国間及び二国間の支援を評価した。しかし、非附属書[1]締約国が温室効果ガスの目録データを毎年作成することは、必要ではないことが指摘された。温室効果ガスの目録データの提供の頻度を確立する手助けすべく、IPCCなどの適切な科学団体とのさらなる協議が求められる。

11.参加者は、対処能力の向上及び非附属書[1]締約国の義務の達成にはさらなる支援が必要であることを認識し、以下の行動が推進するよう勧告した。
国別報告に関する経験の交換を、地域ワークショップなどを通じて増大させること
研修活動を実施すること
プロジェクトの実施に当たり地域の専門家や専門知識の活用を促進させること
最新の情報を常に確保するため、学術団体との密接な連絡を維持するとともに、気候変動の影響の組織的、包括的な評価を促進すること
脆弱性評価の経験を交換し、地域にとって適切な方法論をさらに開発すること(参加者は温暖化に対応した適応措置の実施に関する二国間プロジェクトを必要であると考えた。)


[6].共同実施活動(AIJ)
12.参加者は、AIJプロジェクトには相当の機会があると認識した。いくつかの国々は、AIJの促進に活発に積極的に取り組んできている。しかし、実際にこの地域でAIJプロジェクトを既に承認した国はわずかである。その理由の一つは、政府機関と民間セクターの双方において、AIJに対する理解が不足していることである。初期の段階では、政府機関や企業、NGO等の様々な関係者のために国がセミナーやワークショップを開催し、AIJのコンセプトを広めていくために相当の努力をしていく必要があることが指摘された。AIJプロジェクトの促進するに当たっては、気候変動枠組条約締約国会議(COP)の決定、特にCOP1の Decision 5が、厳格に遵守されなければならないことが考えた。

13.AIJを促進するためには、投資国と受入国の双方の対処能力の向上が、AIJを促進する上で非常に重要である。AIJプロジェクトの承認を行うための省庁間委員会のような制度上の仕組みが確立される必要がある。また、AIJプロジェクトを承認するための手続の透明化も重要である。国及びアジア太平洋地域レベルでの研修の実施は、AIJプロジェクトの立案、モニタリング、検証、報告やレビューを適切に実施していくために重要である。

14.投資国と受入国及び潜在的なプロジェクトの提案者の間の情報交換が促進されるよう、クリアリングハウスの仕組みを設置することが必要である。このような情報交換は、多国籍の企業やNGOを通じて促進することもできる。

15.AIJプロジェクトを推進するための手続を明確にすべきである。これに関して、参加者は、インドネシアにより提案された段階的手続とUS/IJIにより発表されたプロジェクトの開発と評価に関する手続に留意した。多くの参加者は、AIJプロジェクトを進めるためには、事前にフィージビリテイスタデイを行う必要があることを指摘した。受入国においてAIJプロジェクトのプロポーザルを作成するためには、先進国からの技術的な支援が必要であることが強調された。

16.排出量算定のベースライン、モニタリング、検証、承認などのAIJプロジェクトに関連した方法論に関し、さらなる検討が必要である。参加者たちは、これらの問題を解決するため、UNFCCC事務局が実施しているイニシアティブを歓迎した。


[7].アジア太平洋地域における気候変動に関する地域協力
17.参加者は、ADB、ESCAP、UNEP/ROAP及びUNDPが本地域で行っている気候変動に関する活動の報告を歓迎した。特に、ESCAP、日本の環境庁及び国連大学により共同で実施される気候変動に関する地域ネットワークプロジェクトに留意するとともにESCAPが専門家会合を開催することを歓迎した。

18.セミナー参加者は、日本の環境庁によって配布された、本地域の各国の条約の実施状況に関する包括的な報告書の作成を目的とした調査票の案に留意した。本セミナー参加者は、この調査にコメントし、協力することに合意した。


気候変動に関する地域情報ネットワーク
19.参加者は、情報へのアクセスを改善し、より役に立つものとするためには、調整されたアプローチが必要であることを強調した。

20.エコアジアNET、AITのデータベース、maESTro、環境技術情報の交換に関するAPECバーチャルセンター、米国カントリースタディプログラム(USCSP)等のような、気候変動に関連する、あるいは潜在的に気候変動に関連し得る多くの情報ネットワークが既に存在する。これらの既存のネットワークを最大限活用することが必要であり、それ故、気候変動情報のために新たな組織は必要ないかもしれない。

21.気候変動に関する地球規模及び地域的規模の情報ネットワークがそれぞれ果たす役割や機能については、相互に比較可能かつ補完的となるよう、今後さらに検討される必要がある。気候変動枠組条約事務局が作成し、世界最大規模の気候変動関係ウェブであるCC:INFO/Webの活動に特に注意を払う必要がある。

22.本地域では、気候変動に関連する多くの活動が実施され、又は計画されている。そのような既存のプログラムや活動の持つ全てのギャップや重複を明らかにする必要がある。アジア太平洋地域のニーズに合った気候変動の地域情報ネットワークを開発する第一歩として、誰が何をしているのかを明らかにするため、これらの活動の目録(directory)を作成する必要がある。当該目録の進捗報告が次回のアジア太平洋地域セミナーに提出されることが望まれる。参加者は、日本の環境庁及び国連大学の地球環境情報センター(GEIC)が、本件に関し中核的役割を担うとの意向を表明したことに感謝した。

23.地域情報ネットワークの目的しては、(i) 特に気候変動に関連するプログラムやプロジェクトに関する情報交換、(ii)政策対話及び協議、(iii) 意識の向上及び教育、(iv)環境に優しい技術(EST)の機会を適用する機会を促進することが考えられる。これらの目的を、一つのデータベースで満たすことは可能ではないであろう。

24.この地域情報ネットワークは、(i) 各国のフォーカルポイント、各国のGHG目録、国別報告書、AIJ、普及啓発キャンペーン及び教育、利用可能な資金源等に関する情報を提供すること、及び(ii)例えば環境にやさしい気候変動の緩和や適応技術に関する科学的、技術的情報へのアクセスを容易にするためのクリアリングハウスとなることが示唆された。

25.地域情報ネットワークの設置に当たっては、ターゲットグループが明確に定められるべきである。主要なターゲットグループは政策決定者であるが、研究者や産業界、NGO等も対象として含まれるべきである。

26.地域情報ネットワークの運用に当たっては、インターネットやCD/FDなどの新しいトゥール並びに、ニュースレターやセミナー/ワークショップなどの従来の手法などをうまく組み合わせ、情報交換やコミュニケーションを促進する必要がある。地域情報ネットワークに関し、アジア太平洋地域において幾つかのフォーカルポイントを創設する可能性も検討する必要がある。


地方自治体による国際協力
27.山梨県及び富士吉田市による、気候変動問題に取り組む活動やキャンペーンに関する発表は、本セミナー参加者によって好意をもって受け止められた。これらの模範的な活動は、中央、地方を通じ、政府のあらゆるレベルで行われるべきである。また、ICLEI(国際環境自治体協議会)日本事務所より、地方自治体により行われている気候変動関連対策に関する最近のイニシアチブについて報告があった。
ICLEIのローカルイニシアチブとしては、気候変動対策・都市(CCP)アジア太平洋キャンペーンと本地域における気候変動対策に係るローカルアクションプランのためのガイドラインがあげられる。気候変動に関するコミュニティーベースの活動を継続的に行っていくために地方自治体が果たし得る役割は重要であることに鑑み、本セミナー参加者はこれらの地方レベルの活動を積極的に評価したい。また、地方レベルの活動の今後の進捗状況に関し、引き続き情報提供されることを希望した。

28.本セミナーで報告された地方自治体の取り組みの進展や、各国において気候変動対策の推進に当たり地方の活動が有する大きな可能性に鑑み、参加者は概ね以下の点について合意した。
(a) 幾つかの先進的な地方自治体が地域に根付いた気候変動関連キャンペーンを実施することを通じて得られた経験は、提案された地域情報ネットワーク等を通じてアジア太平洋地域の他の地方自治体に可能な限り共有されるべきである。
(b) 気候変動への取り組みを目的としたアジア太平洋地域の地方自治体間の直接の協力や連携は、今後さらに促進されるべきである。この点に関し、先進的な自治体やICLEIが果たす役割には重要なものがある。
(c) 各国政府は、地方レベルの取り組みが開始されるよう、地方自治体を奨励し支援すべきである。


[8].本セミナーの今後のあり方と機能
29.参加者は、条約に先じ1991年の第1回会合以来、本セミナーが果たしてきた積極的な役割と機能を考慮し、本セミナーは概ね現在の構成を維持するが、COP3の後、その構成を強化すべく検討する必要があると指摘した。また、今後の会合では、産業界、環境NGO、地方自治体さらに他の各種の団体からの代表を含む関係者を関与させるなど、より広範な参加について検討するよう示唆した。

30.このセミナーの成果は、できる限り広く配布されることが必要である。

31.参加者は、第8回地球温暖化アジア太平洋セミナーを、タイ王国政府及びESCAPの協力により、1998年後半にタイにて開催するという提案を歓迎した。


富士吉田 1997年7月10日

加藤久和
第7回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー議長
名古屋大学教授