低公害車開発普及アクションプラン

平成13年7月11日
経済産業省
国土交通省
環  境  省

1.基本的考え方
 21世紀は「環境の世紀」と言われ、温室効果ガスに代表される地球温暖化問題、大気汚染等の生活環境問題を解決していくことが急務となっている中で、21世紀にふさわしい環境負荷の小さい自動車社会を構築し、もって環境制約を成長要因に転じていくため、新しい技術の活用等により、著しく環境負荷の低減を実現した低公害車に関しその普及を図るとともに、技術によるブレークスルーを促し、その成果の普及に向けた施策を講じていくことが重要である。
 こうした観点から、本年5月に総理のイニシアティブにより決定された政府による低公害車の導入促進対策を着実に実施するとともに、これを起爆剤として我が国における自動車の環境負荷低減をさらに加速化するため、経済産業省、国土交通省及び環境省は、相互に緊密に連携し、それぞれの施策の整合性を図りつつ、低公害車に対する開発、普及に関する措置について、以下の総合的、包括的なアクションプランを策定し、積極的に推進する。
 なお、本アクションプランについては、今後必要に応じ、見直しを行うこととする。
 
 
2.アクションプランの対象となる低公害車
(1) 実用段階にある低公害車
   本アクションプランにおいては、政府として普及に取り組むべき環境に優しい自動車として、環境負荷の小さい以下の自動車を実用段階にある低公害車とし、今後、各種施策を通じその普及を図る。
[1]

天然ガス自動車(CNG自動車)

※CNG:Compressed Natural Gas(圧縮天然ガス)

[2] 電気自動車
[3] ハイブリッド自動車
[4] メタノール自動車
[5]

低燃費かつ低排出ガス認定車

「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づく燃費基準(トップランナー基準)早期達成車で、かつ、「低排出ガス車認定実施要領」に基づく低排出ガス認定車。

(2) 燃料電池自動車等の次世代低公害車
[1]

燃料電池自動車

[2] 技術のブレークスルーにより新燃料あるいは新技術を用いて環境負荷を低減する自動車
   
 
3.低公害車の普及目標
(1)

実用段階にある低公害車については、2010年度までのできるだけ早い時期に1000万台以上の普及を目指すこととする。

(2) 燃料電池自動車については、2010年度において5万台の普及を図ることを目標とする。
 
 
4.実用段階にある低公害車の普及策
 CNG自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、メタノール自動車(以下「CNG自動車等」とする。)は、官民挙げた取り組みによる技術的ブレークスルーにより実用化が進んできたが、既存車と比べて高価格である、航続距離が短い等一部性能が劣る、燃料インフラが未整備であることなどにより、需要が伸び悩んでいる状況にある。このため、市場が拡がらず、結果として量産効果が働かない、競争原理が働かず車種の多様化が進まない、インフラ整備のインセンティブが少ない等の悪循環に陥っている。また、低燃費かつ低排出ガスのガソリン車については既に実用化されているが、一層の普及を図る必要がある。  
 また、大都市地域においては、自動車排出ガスに起因する大気汚染問題が依然として深刻であることから、自動車NOx法が改正・強化されたところであり、同法の対策地域においては、低公害車のより重点的な普及が急務となっている。  
 低公害車の普及のためには、マイナスの循環をプラスへと転換するといったことが必要であり、政府をはじめとした公的部門による低公害車の率先導入や、民間事業者等への低公害車の導入に対する支援制度の充実・強化を図る等の施策を展開することにより、国がイニシアティブを発揮する。
  
(1)

公的部門による率先導入

 
政府等による総理イニシアティブの着実な実施
   政府は、総理指示に従い、平成14年度以降3年間で原則として全ての一般公用車を、グリーン購入法に基づく基本方針に従い切り替える。
 また、特殊法人等に対しても、政府の方針に従って切り替えを進めていくよう要請する。     
 国会、裁判所においても率先して切り替えが行われるよう依頼する。
地方公共団体における公用車の低公害車への率先切り替えの要請
   地方公共団体に対して、政府における一般公用車への切り替え方針を基本としつつ、利用ニーズに応じて、グリーン購入法に基づく基本方針に適合する環境性能の優れた自動車への切り替えを要請する。     
 また、CNG自動車等を利用した事業等、地方公共団体が行う低公害車導入に関する取組みを積極的に支援するため、よりインセンティブ効果を高める観点から、地方公共団体に対する現行の支援制度の充実を図る。
 
(2) 民需への本格的普及支援
 
[1] 低公害車の導入支援
 
CNG自動車等の車両導入支援の拡充
   今後、CNG自動車、ハイブリッド自動車等の需要が車種数増加等により大幅に拡大することが見込まれることに対応し、市場自立化に向けた動きを一層加速化するため、支援措置の大幅拡充を目指す。     
 特に三大都市圏を中心にNOx、PMの削減を図るため、環境負荷の大きなバス・トラックをターゲットに、支援措置の大幅拡充を目指し、CNGトラック、LPGトラック等、既に実用段階にある低公害な車の短期集中的な導入に取り組む。なお、大中型トラック・バスを中心に、ディーゼル自動車の代替が困難なセグメントについては新長期規制適合トラック等が前倒しで供給されることが重要である。    
税制及び金融支援による普及促進
  グリーン税制、低燃費車に係る特例措置等の既存の税制の活用や、日本政策投資銀行等による低利融資の実施などにより、低公害車の普及促進に取り組む。
[2] インフラ整備への支援
 
CNG自動車等のインフラ整備支援のより効果的な実施
  電気、天然ガス等の供給設備の整備をより効果的に推進する観点から、関係省庁が連携し、各地域毎にCNG自動車等の導入計画を集約し、導入台数が多く見込まれる重点地域については優先的に支援を行う。
税制及び金融支援による普及促進
  電気、天然ガス等燃料供給設備に係る固定資産税等の特例措置を活用するとともに、日本政策投資銀行による低利融資を実施する。
 
(3) 物流業者におけるグリーン経営の推進
  物流事業者のグリーン経営普及及びグリーン経営認証制度導入に関し、民間ベースで進められている動きを支援し、低公害車の積極的導入やエコドライブ、適正な自動車整備の推進等と合わせ、物流部門の環境負荷低減を図る。
 
(4) 電気自動車の活用に向けた環境整備
 
共同利用システムの実用化支援
   電気自動車については、情報技術の活用によって、複数の利用者が1台の車を共有し必要に応じて使用するといった共同利用システムの実現が可能となり、この導入によって電気自動車の急速な普及促進が図れられることが期待されている。     
 しかしながら、システムの導入に際しては、システム導入事業者の運用コストの低減が最大の課題となっており、貸出・管理業務の無人化によるコスト削減を実現し、平成14年度からの電気自動車共同利用システムの円滑な実用化を実現するため、支援措置等必要な環境整備を行う。
モニター事業を通じたニーズ開拓等
   一般市民を対象に電気自動車のモニター事業を実施し、市民の生活の場における電気自動車ニーズの開拓等を行う。
 
(5) 普及・広報
 
低公害車フェア等の実施
   各種低公害車を一同に集めて展示・試乗を行う「低公害車フェア」の開催、低公害車の技術開発、車種等に関する情報を取りまとめた「低公害車ガイドブック」の発行等、普及・広報を推進する。
地方における普及活動、広報活動
 

 本省及び地方出先機関(地方経済産業局、地方運輸局等)が中心となり、地方自治体、関係団体及び産業界が連携し、各地でCNG自動車等の普及啓発を行うための体制整備を行い、低公害車の展示会・試乗会、シンポジウム等を開催するとともに、低公害車導入支援事業やエコ・ステーションの整備状況等の情報提供を行うなど、低公害車の普及啓発・広報活動を積極的に推進する。
 

(6) その他
 
産業界における積極的取り組み
   環境問題に関する国民的な関心が高まっており、環境問題に積極的に取り組む企業に対する社会的評価も年々高まっている。こうした中で、産業界においては、低公害車の積極的な導入に取り組むことが期待される。
 
 また、上記の施策がより大きな効果をあげることを確保する観点から、低公害車のより一層の普及を図るためには、自動車メーカーから供給される多様な車種の中から、ユーザーが性能・価格等の比較検討を行い、要求に見合った車を選択できる環境を提供することが必要である。
 このため、自動車メーカーにおいては、積極的に車種の多様化を推進するとともに、コストの低減、省エネ法に基づく燃費基準の前倒し達成による低燃費車の早期供給、メーカー毎の低公害車出荷動向の自主的な公表に取り組むことが期待される。
 
 
5.次世代低公害車の開発
(1) 燃料電池自動車
   水素と酸素の反応により発生する電気を動力源とする燃料電池自動車は、理論的には排出ガスを出さず、また高いエネルギー効率が期待できるため、将来的には次世代低公害車の本命と目されており、世界の自動車メーカーにおいて開発が進められている。しかしながら、燃料電池自動車は、従来の内燃機関による自動車とは動力についての仕組みが全く異なることから解決すべき課題が多く、ようやく一部のメーカーで公道での試験走行が始められたばかりである。
  このため、適切な役割分担の下、産学官の連携により技術のブレークスルーを目指すとともに、大規模な実走行実証試験の実施、性能評価手法や燃料性状の標準化、安全基準の策定等を推進し、早期実用化を目指す。    
燃料電池技術開発戦略の策定と産学官による実施
   産学官の役割を明確化し、それぞれが取り組むべき技術開発を有機的・体系的に推進するため、燃料電池技術開発戦略を策定し、産学官により実施する。
大規模実証試験の実施
   燃料供給方法を含めた燃料電池自動車の環境性能、エネルギー総合効率、燃料インフラとのインターフェースの確保、技術課題等のデータ・事例など、燃料電池自動車の普及や民間企業が開発競争を進める上で必要となる基礎的情報を得るため、技術の進展を踏まえつつ、燃料供給から自動車走行まで一貫した燃料電池自動車の実走行実証を平成14年から実施する。併せて、燃料電池自動車の意義についての普及啓発を図る。
安全基準の策定、性能評価手法・燃料性状等の標準化等
   燃料電池自動車の適正な開発競争や、普及段階において必要となるソフトインフラ整備の観点から、燃費、排ガス、出力等の性能評価手法の確立、燃料性状等の標準化と安全基準等の策定を相互に連携しつつ推進する。
 
(2) 現行の大型ディーゼル車に代替する次世代低公害車の開発
 

地球環境問題や深刻な大気汚染問題を考えれば、大型車分野について、新燃料や新技術の積極的な活用を含め、排出ガスがゼロ又はゼロに近く、また超低燃費の次世代低公害車の技術開発の促進が急務であり、国際的な動向を踏まえながら、必要に応じ産学官の適切な連携をとりつつ、以下をはじめとする次世代低公害車の技術開発を、早急に進める。

  • DME(ジメチルエーテル)を用いた自動車
    クリーンで軽油に代替する可能性がある天然ガスなどから作られる合成燃料
  • 次世代ハイブリッド自動車
    車の走行状態に応じてエンジンとモーター使い分ける自動車技術について、より高効率な減速時のエネルギー回生システムや高性能リチウム電池の開発も含めた新たな蓄電システムを開発する。
  • スーパークリーンディーゼル車(排出ガス性能が飛躍的に向上したディーゼル車)

また、中小型車分野についても、上記の次世代低公害車に加え、以下をはじめとする技術開発を促進する。

  • 高性能天然ガス自動車
  • 次世代LPG自動車