(別添)自主協定検討会報告書の概要


第1章  自主行動計画による自主的取組について
 
 経済団体連合会(以下、経団連という)の自主行動計画について、特に以下の4点について検討・評価を実施。
 
(1)京都議定書の6%削減目標の達成に向けて、産業界に期待される削減目標と して十分か(目標設定過程の透明性も含む)
 
_  個別業種ごとに目標の種類が異なっている点、個別業種の目標の積み上げと経団連統一目標が乖離している点、経団連統一目標と地球温暖化対策推進大綱の目標が乖離している点など、様々な問題点が存在。
  自主行動計画の目標再設定及び強化を行うか、自主行動計画以外での産業界の対策実施が必要。
 
(2)相当数の事業者の参加が確保されているか
 
 今後は、中小企業による行動をどのようにカバーしていくかが課題であるが、現行の自主行動計画には不参加業種の参加を促すインセンティブ措置等が組み込まれていない。
 
(3)電力原単位の改善や不況に伴う生産量減少等の外政的な要因を除いた事業者固有の努力により、どれだけ二酸化炭素排出量の削減効果が上がっているのか
 
 本検討会では、近年の二酸化炭素排出量に関する要因分析を実施。産業部門の二酸化炭素排出量は、若干の減少傾向にあるものの、電力の二酸化炭素排出原単位の改善(主に電力会社の対策による効果)や業種によっては生産量の減少に大きく依存しており、事業者の自主努力による排出削減は不十分である。
 
(4)目標を確実に達成するための履行確保の仕組みが確保されているか
 
 経団連自主行動計画については、経団連によるフォローアップと業界を所管する省庁に設置されている関係審議会によるフォローアップの2つがある。
 経団連自身のフォローアップは、公正中立な第三者によって行われるものではなく、また、第三者がそのフォローアップ・プロセスを検証できるような情報の公開もなされていないため、信頼性に欠ける。
 関係審議会におけるフォローアップは、限られた審議時間の多くを業界からの説明に費し、残りわずかの時間に委員がその場で意見を言う形式となっており、個別企業のデータに基づく詳細な分析・評価がなされているとは言えない。このため、委員の意見も審査・評価というより質問や助言という性格のものが多い。
 したがって、これらのフォローアップは、自主行動計画の履行確保の仕組みとしては不十分である。
 
 以上の分析から、経団連等の自主行動計画を6%削減目標を達成するための措置の一つとして位置付けることは現段階では不十分であると考えられる。
 
 
 
第2章  諸外国の自主協定のレビュー
 
 欧州各国では、環境問題の多様化・複雑化のなかで、従来の規制的手法の実効性に限界があるという認識が1980年代から急速に広まってきた。これを受け、欧州の産業界は、自主協定方式の利点と規制的手法の限界を主な根拠として、規制的手法に代えて自主協定の積極的な活用を求めるようになった。欧州各国政府は当初自主協定に消極的だったが、環境問題の多様化・複雑化に加え、規制緩和、そして行政改革の流れのなかで、1990年代に入ると、自主協定による対策の推進を大きな柱の一つとして位置付けるようになった。
 
 本章では欧州各国のうち、特徴的な自主協定制度を推進している5カ国(ドイツ、オランダ、デンマーク、イギリス、フランス)に焦点を当てて、我が国における自主協定制度の在り方を検討するに当たっての参考とするため、我が国における事業者の自主的取組とも比較を行いつつ、それぞれの国における自主協定制度の特徴を概観した(下記図、一覧表参照)。

   図 欧州15カ国の自主協定数

出所: VOLUNTARY APPROACHES FOR ENVIRONMENTAL POLICY AN Assessment, OECD(1999)


経団連自主行動計画と欧州における自主協定制度との比較

                                            
  地球温暖化対策のための協定の代表例の概要 履行確保手段、法的拘束力 透明性・公正性の確保等
ドイツ 連邦政府とドイツ産業連盟(BDI)の書面による合意という形式をとる協定を締結
      (2000年11月)
法的拘束力はないが、連邦政府とドイツ産業連盟の政治的拘束力を有する協定 ○中央政府と産業界の50%ずつの負担により、第3者機関(RWI:ラインウェストフェリア経済研究所)が、自ら策定した評価基準に基づき毎年評価
○市民参加は制度化されていないが、策定予定や協議結果等を中央政府が公表
英国 40のエネルギー多消費型産業業界団体と政府(環境省)との間で、気候変動税の減税を受けるための法定協定(ただし法的拘束力を持たない)を締結
      (2001年3月)
○協定の中間目標を達成できなかった場合には、気候変動税の減免措置(税額80%を減額)取り消すことで、履行を確保
○目標達成に際して排出量取引の活用を認める予定
○法的拘束力を持たないと解されているが、大臣との紛争の際には、当事者は司法審査手続き請求が可能であり、公法的な性質を持つ
○協定参加企業は、エネルギー使用データ、生産データをモニタリングし、その結果を環境省に報告する義務
○この結果を基にして、環境省により指定された独立監査人(民間機関)が監査を行い、最終的な目標達成の認定は環境省が実施
デンマーク 主にエネルギー多消費型産業との間で策定される協定(個別協定と集団協定の2種類)がある<上記協定は異なるものの、一般的にデンマークでは環境保護法第10条等により、法的拘束力を持つ協定を締結することのできる制度的、法的な根拠がある> エネルギー多消費型の企業は、エネルギー庁と3年間の協定を締結することにより、炭素税を軽減することができる ○個別協定の場合は、各企業はコンサルタントによるエネルギー監査を行い、エネルギー庁によって証明される義務あり
○集団協定には、企業におけるエネルギー効率の改善のための一般的ポテンシャルを確定するとともに、参加する全ての企業は、毎年、エネルギー管理の状況や協定に規定されている各種内容の実施状況等について記述した「成果報告」をエネルギー庁に提出する義務が生ずる
オランダ ○NEPP(国家環境政策計画)の実現手段として、協定を制度化
○エネルギー消費効率化のメモランダム(1990)を達成手段として、エネルギー多消費型産業を中心にエネルギー効率改善のための協定を締結
○原則として、法的拘束力を有する(私法上の契約としての効力を有する旨の規定をおくのが通例)
○裁判上履行請求することが可能であるが、現実には不履行の場合に規制的手法の導入や施設認可条件強化等のサンクションが機能することで担保
○透明性の確保による市民圧力も履行確保機能を持つ
○協定の内容により当事者以外の者に直接利害を有するおそれがある場合には、適切な方法で公表する
○協定で履行の監視・評価システムを規定することが一般的で、委員会(産業界側、中央政府側、地方自治体側から選出)形式の評価・助言委員会が設置されることが多い
○費用は政府負担
フランス エネルギー多消費型産業の一部との間で協定を策定(紳士協定との整理) 協定の締結を補助金交付の要件とするなどの方法(この際は法的拘束力を持つ協定とされる)により、協定の締結を推進 ○業界団体は年次報告書を環境省に提出。
日本
(経団連)
経団連「環境自主行動計画
 (1999.6)を策定。
(本計画は、政府との調整を経ずして宣言された「自主公約」との整理)
○罰則や他の制度とのリンクなど、計画の履行を担保する措置はない。
○経団連自身及び業界を所管している官庁に置かれている関係審議会による進捗状況のフォローアップが実施されているが、透明性、信頼性等の面で不十分。
○経団連自身及び業界を所管している官庁に置かれている関係審議会による進捗状況のフォローアップが実施されているが、透明性、信頼性等の面で不十分。
○進捗状況を客観的に評価するためのデータの提出が不十分。

                       

第3章 京都議定書の6%削減目標を確保するための手法の一つとしての自主的取組の活用の在り方について
 
  自主協定制度は自主的取組の信頼性・透明性・実効性の確保を図るための措置として有用な手法の一つであり、第3章では、我が国において今後自主的取組を京都議定書の6%削減目標を達成するための手法の一つとして位置付けるための方策及びその際の留意事項について、欧州各国における自主協定の活用の在り方を参考としつつ、我が国の法制度に則して検討した。
  具体的には、欧州各国で多義的に用いられている自主協定の活用を、[1]合意により策定された「法定外協定」と、[2]特別の根拠法に基づき策定・合意された「法定協定」という2つのオプションに分類して、主に以下の三点について分析することにより、我が国への適用可能性について検討した。
 
(1) 実効性の確保について
 
_  自主協定制度を実効性を確保するため、以下のような措置を考えることができる。
  [1]  一定期間までに自主協定の目標を達成できない場合には、政府が規制的措置等の導入を検討する旨を協定に盛り込むこと、
  [2]  裁判所を通じた履行強制、損害賠償請求を実施すること、
  [3]  政府、事業者、第三者等から成る組織若しくは審議会により、詳細なデータの分析等に基づき、必要に応じて政府への勧告をさせること、
  [4]  「法定協定」の場合、自主協定の締結と環境税の税額軽減等、他の政策手法とのリンクによる履行確保へのインセンティブを付与すること、
 これらについて、可能性を検討することが必要。
 
(2) 透明性・信頼性の確保について
 
   「交渉によって協定内容を決める自主協定が不透明な裁量行政や不公正な行政につながりかねない」という懸念を招かぬようにするため、透明性・信頼性の確保が必要。
 具体的には、[1]第三者機関による進行管理の仕組みの構築、[2]自主協定の参加事業者からの、比較検証が可能で、かつ、客観的なデータの提出が重要。
 また、「法定協定」の場合には、協定締結の基礎を与える法令に、前述のような措置を制度上規定しておくことで、透明性、信頼性を高めることも可能。
 
(3) その他の留意事項
 
   自主協定制度が、事業者団体による競争の実質的制限等に当たらないか、独占禁止法との関係を整理することが必要。また、協定により優遇措置とリンクさせた場合等、国内製品の優遇の禁止及び輸出補助金の禁止を定めたWTOのルールとの関係も整理する必要がある。
 このため、自主協定制度の検討に当たっては、それぞれの制度の趣旨に抵触しないように配慮しつつ、自主協定制度の構築を進める必要がある。
 
 
おわりに
 
 協定方式は欧州諸国を中心に地球温暖化対策の分野でも導入が広がりつつあり、我が国の国レベルでの環境政策としては新しい考え方であり、我が国法制度に即して導入する場合、さらに検討すべき各種の留意点は残るものの、今後の我が国の地球温暖化対策、あるいは広く我が国の環境対策全般においてもその活用が期待される政策手法の一つである。
 今後は、本検討会が示した検討課題について、他の政策手法との関連等も踏まえつつ、中央環境審議会等において引き続き審議されることを期待する。
 
 
≪自主協定検討会メンバー(50音順)≫
 
(座長)  淡路 剛久  立教大学法学部教授
   岩崎 政明  横浜国立大学経済学部教授
   大塚 直  早稲田大学法学部教授
   加藤 峰夫  横浜国立大学経済学部教授
   白石 忠志  東京大学法学部助教授
   渡邉 理絵  IGES(財団法人地球環境戦略研究機関)研究員
   橋本 博之  立教大学法学部教授
   松村 弓彦  明治大学法学部教授
   村瀬 信也  上智大学法学部教授
   柳 憲一郎  明海大学不動産学部教授