Ⅰ.経緯
主要国非公式環境大臣会合は、1993年以来毎年1回、その時々の主要な環境問題について討議するため、環境担当の閣僚レベルの出席を得て開催される非公式のハイレベル会議である。第6回目に当たる今次会合は、「持続可能な開発のための地球的課題及び
CSD6の準備に関するブダペスト会合」として3月13日~15日、ハンガリーのブダペストで開催された。ハンガリーのスィリ環境保護・地域開発省政務次官及びドイツのメルケル連邦環境大臣が共同議長を務めた。
Ⅱ.今次会合のテーマ
昨年の国連環境開発特別総会(
UNGASS)のフォローアップと持続可能な開発委員会第6回会合(CSD6)の準備、地球環境ファシリティ(GEF)の将来、気候変動枠組条約の状況、国連環境計画(UNEP)の改革等についての意見交換を行った。
非公式な会合であるので、具休的に何かを決定するという性格のものではな〈、自由な意見交換を通じて将来の国際コンセンサスの内容についての共通認識(相場観)を高めるのが狙い。
Ⅲ.参加者
18カ国(アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、カナダ、エストニア、フランス、ドイツ、ガーナ、ハンガリー、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ポーランド、ロシア、スウェーデン、イギリス及び米国)及び
ECが出席した。このうち、オーストリア、カナダ、ドイツ、ガーナ及びイギリスの5か国から環境大臣が、また、工ストニア、ハンガリー、日本、ボーランド及びロシアの5か国から副大臣、次官級が出席した。この他、国連経済社会局、国連環境計画(UNEP)、地球環境ファシリティ(GEF)の3国際機関からの代表者が出席した。
我が国からは、山本公-環境政務次官、鈴木地球環境部温暖化国際対策推進室長他が参加した。
Ⅳ.主な討議結果
今次会合の主な討議結果は次のとおりである。
セッション1 国連環境開発特別総会のフォローアップと国連持続可能な開発委員会第6回
会合(
CSD6)の準備
主に
CSD6の主要テーマである「淡水管理」及び「産業と持続可能な開発」について討議が行われた。本セッションでは、デサイ国連事務次長が冒頭のプレゼンテーションを行うとともに、同セッションの司会及び議論のとりまとめを行った。討議結果の主なポイントは以下のとおりである。
全般
- 1997年の国連環境開発特別総会は、今後実施すべき課題が山積していることを明らかにした。アジェンダ21の実施促進のため、より強固な政治的意思が示される必要がある。
- 国連環境開発特別総会の成果の一つは、新たな
CSDのワークプログラムが作成されたことである。この新たなプログラムにより、CSDの議論が、より各セクター間の統合されたものとなることが期待される。
CSDの議論により多くの環境以外の部門の大臣、ハイレベルの官僚が参加することを支持する。しかし、CSDの議論に際しては、持続可能な開発における環境的側面が軽視されないよう、環境担当大臣が積極的に参加し続けることが必要である。
淡水管理への戦略的アプローチ
- 淡水管理は、持続可能な開発において最も優先順位の高い課題である。
UNCED以降状況は悪化しており、現在の傾向を逆転しない限り淡水を巡る問題は持続可能な開発を脅かす状況になる。
最も挑戦的な仕事は、淡水資源を経済資源とみなすアプローチと、希少な環境資源とみなすアプローチや基本的な人間の二一ズを満たすために淡水が果たす役割との統合である。
淡水管理への戦略的なアプローチに関しては、持続可能な淡水管理に関する統合的アプローチ、国家戦略の形成、国連システムにおける連携の強化、リージョナルなアプローチ、全ての関連セクターの参加、女性の参加の促進等が重要である。
CSDでこの問題を扱う方法としては、2OOO年にレビュー会合を開催する方法、天然資源委員会で議論を行う方法及びアドホック・プロセスとする方法の3つのオプションが提示された。これに関する各国の反応は多様なものであつた。
産業と持続可能な開発
- 政府と産業界、労働組合、市民の代表の間の建設的な対話が、産業と持続可能な開発に関連する様々な課題に対する長期的な解決策を見いだす上で極めて重要である。
- 持続可能なビジネスの実施及びエコ効率の向上に関する情報の普及が重要である。エネルギーやその他の資源の利用効率の向上は、製品やサービスの競争カの強化、生態系への生産活動による影響の軽減に寄与する。
- 循環型社会の形成も重要である。政府は、自らグリーン調達やリサイクルを進めることにより、積極的な事例を作り出すことができる。エコラベルやグリーン認証はさらに推進すべき事項である。
CSD6において、持続可能な開発に関する文脈において、産業と国際貿易との関係や、産業と淡水管理との関係について適切な考慮が行われることを期待する。また、CSDにおいて大企業、中小企業の双方が持続可能な開発に果たす役割や女性が持続可能な産業開発に果たす役割についても適切な考慮が払われることを期待する。
消費者保護のガイドライン
CSD6では効果的なフォローアップのプロセスが決定され、CSD7で消費・生産パターンの変更が議論される際に、本問題に関する迫加的なガイドラインが採択されることを希望する。
セッション2 地球環境ファシリティ(
GEF)
現在進行中である
GEFの増資交渉、国際条約とGEFとの関係、インドで今月未に予定されるGEF総会について議論された。本セッションでは、GEFのエル・アシュレイ事務局長が冒頭のプレゼンテーションを行うとともに、同セッションの司会及び議論のとりまとめを行った。討議結果の主なポイントは以下のとおりである。
GEFの増資交渉が行われているが、目標である27.5億ドルに対して1億85OO万ドル程度のギャップがある。気候変動枠組条約の通報作成や生物多様性条約の国家戦略形成への二一ズや、京都議定書の約束の実施を考慮すれば、十分な資金が用意される必要がある。
GEFの全体的なパフオーマンスや実施の経験を検討する独立の調査研究が行われていることを歓迎する。
以下に示すように、重要な課題や鍵となる勧告が含まれているGEFの事務局長の報告を高く評価する。
GEFプロジェクトの実施国におけるイニシャティブが重要であり、ローカルな専門家の参加やフォーカルポイントの強化が必要である。
現在のGEF実施機関であるUNEP、UNDP及び世界銀行に加え、他の国際機関、特に地域開発銀行のGEFへのアクセスを改善すべきである。
GEFの資金を用いることにより、他の資金が用いられるようになることが重要である。持続可能な開発の実現に向けて、環境が投資の主流の中に含められることが重要である。
特に、投資及び技術移転に関し、民間部門の関与を強化すべきである。
将来のパフォーマンスの改善に向けて、モニタリングと評価が重要である。
全てのGEFの活動分野において追加的費用の見積もり方を簡略化することが極めて重要である。
京都議定書のクリーン開発メカニズムについては相当の検討と議論が必要である。クリーン開発メカニズムはGEFとは相互補完関係にあるべきであり、衝突するようにはすべきでない。クリーン開発メカニズムの認定業務は、基金の管理とは別の業務である。
GEFは、関係条約の機関と密接に連携・協カすべきである。
4月初めにインドで開かれるGEFの第1回総会は極めて重要である。また、リオで合意された条約の実施のための途上国への正しいシグナルとして、GEFの増資は極めて重要である。援助国に対し、増資交渉を成功させるために適切な頁献を行うよう求める。
セッション3 国連気候変動枠組条約:ポスト京都の取組
気候変動問題に絞って、京都会議の成果の評価と今後の課題について集中的な討議が行われた。本セッションでは、山本環境政務次官が冒頭のプレゼンテーションを行うとともに、同セッションの司会及び議論のとりまとめを行う等、中核的な役割を果たした。討議結果の主なボイントは以下のとおりである。
- 京都議定書の採択は21世紀の気候変動対策に向けた大きな第一歩である。
- 京都議定書の早期署名は、現在進行中のプロセスを示す重要なシグナルとみなされる。
- 今後詰めるべき多くの課題が残されている。それらは、(i)附属書l国間の排出量取引や共同実施、クリーン開発メカニズム、遵守規定、吸収源の算定手法等に関する詰め、(ii)条約の究極の目的の達成に向けた全ての締約国のより積.極的な取り組みの推進、(iii)より長期的な戦略の形成等を含む。
- 温室効果ガスの排出量とその大気中の温室効果ガス濃度との関係を反映するようなクライテリアの確立に向けた努カがなされるべきである。
- ブエノスアイレスでは、京都で既に終了した議論を再開するのではなく、京都議定書の実施に向けた実際的な議論が行われる必要がある。
- 議定書の早期批准と実施のために、3つの新しいメカニズムの詰めを優先課題とすべきである。これらの新しいメカニズムは、抜け道をつくることのないような形で、条約の目的と持続可能な開発に貢献するようデザインされなければならない。国内における対策が京都議定書の約束を達成するための主要な手段でなければならないとの意見も述べられた。
- 排出量取引については、公共、民間両部門が参加でき、透明性があり、検証可能でアクセスしやすいシステムとすることが重要である。このシステムは、全世界的な温室効果ガスの排出量の削減に資するものでなければならない。
- クリーン開発メカニズムについては、明らかにすべき多くの事項がある。このメカニズムは基金ではなく、先進国、途上国間の協カを促進するためのプロジェクトベースのアプローチである。
- 京都議定書の約束を実施するため、政策措置、特にエネルギー及び交通・運輸部門における対策を改善強化する必要がある。
- 全ての締約国の参加の促進に関し、多くの途上国が既に自発的な気候変動対策を国内的に進めつつある。そのようなイニシャティブ促進し、途上国が直面している資金的、技術的困難を克服するために、新たなパートナーシップを確立すべきである。
- いくつかの国は、将来的に、途上国の自発的な約束に関する考え方を検討すべきとの意見を表明した。
セッション4 国連環境計画(
UNEP)
テッファー事務局長は、冒頭のプレゼンテーションにおいて、
UNEPの改革、財政の立直し及びナイロビ宣言に基づく活動分野の絞り込みが喫急の課題であり、改革に関しては事務総長の主導による国連システム内の持続可能な開発に向けた取組体制を検討するためのタスクフォース(議長:テッファー事務局長)の検討結果が6月中旬にまとめられる予定である旨紹介するとともに、同セッションの司会及び議論のとりまとめを行った。討議結果の主なポイントは以下のとおりである。
- 会議参加国は、一様に、テッファー新事務局長の就任を歓迎すると共に、国連システム内の環境分野の中核的機関としてテッファー事務局長の下、
UNEPがリーダーシップを発揮することに強い期待を表明した。
UNEPの優先的活動分野として、各条約事務局との協カ・調整による地球的課題への取組ととともに、地域的な課題への取組が重要である。その他、貿易と環境、環境法施行の促進、環境指標、淡水管理、京都会議のフォローアップへの取組も必要である。
UNEPの脆弱な財政基盤の強化のためには民間も含め環境基金への拠出を広く求めてい〈こと、年度当初に拠出することが必要である。
Ⅴ.その他
ガーナは、次回会合を1999年にガーナで開催することの可能性を検討する旨表明した。