【別表3】
環境研究・環境技術の5つの基本的視点
 
基 本 的 視 点 内           容
1新たな価値観の創造  価値観の転換は、環境問題の抜本的な解決にとって不可欠である。環境研究・環境技術は、世代間・南北間の関係を調整し得るような政策手法の提示や技術的基盤の提供等を通じて、現在の社会経済システムやライフスタイルの見直し等に貢献することが求められる。
2複雑性・不確実性への挑戦  環境は、その構成要素が極めて複雑な系であり、また環境への影響要因である人間活動の予測にも幅が生じざるを得ない。環境研究・環境技術は、複雑な事象の解明や不確実性の低減に資するものであるが、同時に、こうした複雑性・不確実性を踏まえた予見的なアプローチやリスク管理の考え方による施策にも貢献し得るものである。
3認識のギャップの低減  環境問題の解決に向けた取組が円滑に進まない原因の一つは、その問題に対する関係者の認識のギャップの存在が合意形成を遅らせることにある。環境研究・環境技術には、環境問題に係る諸事象を可能な限り明らかにし、また、具体的な対策手段を提供することにより、こうした認識のギャップを低減することに寄与することが期待される。
4地域・各主体の取組  持続可能な社会づくり基礎は地域の環境保全であり、地球環境問題の解決も地域の取組の積み重ねに還元され、また、こうした地域の取組には、それを構成する個人、NGO、企業、自治体等の協力・連携が必要となる。環境研究・環境技術は、地域の発想に根ざしたものであるとともに、各主体の環境 保全に係る役割分担のあり方を提示することが求められる。
5国際的な(特にアジア太平洋地域に対する)貢献  地球環境保全の推進には国際的な施策の連携が不可欠であり、国際的な共同研究計画・観測計画に積極的に参加・貢献するとともに、国際的にも高く評価されるような研究を実施することが必要である。特にアジア太平洋地域の環境問題の解決のための共同研究・共同技術開発を関係国が相互に協力して推進することが重要となる。




【別表4】

環境研究・環境技術の7つの重点目標
 

重 点 目 標

内           容

1戦略モニタリングの実施
(環境研究は観測から)

 環境研究は、環境の状況を適切に把握することから始まるが、そのための監視・観測は、他の調査研究との関連を踏まえつつ、目的を明確に設定した上で、測定対象物質、測定位置、測定頻度等を具体化し、持続的な実施体制を確保するといった明確な戦略に基づいていることが重要となる。
 こうした明確な戦略に基づいた監視・観測によって、人の健康影響や生態系への影響の未然防止(影響の早期発見や危機に対する早期警報)に大きな成果をあげることが期待され、また、事故等緊急時の適切な対応に役立つようなデータの蓄積が可能となる。

2生物多様性の解明
(生態系は研究の宝庫)

 野生生物の種や生態系の実態を長期に把握し、その動態及び有形無形の価値を明らかにし、生物多様性の保全と持続可能な利用の手法を確立するための調査研究と技術開発を進めることが急務である。
 また、有害物質による生物多様性への影響については、有害物質が野外の生物にいったいどれだけの直接影響を及ぼしているのかをはじめとして、ほとんど知見が得られておらず、既存の情報も影響評価・予測に用いるようには整理されていないため、その充実に早期に取りかかる必要がある。

3地球環境変化の予測
(将来の生存基盤の確保)

 飛躍的な人口の増加や社会経済活動の拡大により、人類及びその他の生物の存続の基盤である地球環境に危機が生じている。こうした問題に適切に対応するため、現象の解明、影響の把握や評価、将来予測等に係る科学的知見の蓄積による地球環境変化の不確実性の大幅な低減や技術システムの変革等が求められている。
 地球環境の変化は多様な原因によって起こる等の理由から、一定期間継続した研究等を実施しなければ有用な知見が得られないものが多い。また、地球全体を研究対象とするため、諸外国との連携による研究の実施も重要である。こうした点を考慮しつつ、研究・技術開発を推進する必要がある。

4環境の総合的管理
(環境の全体的理解へ)

 公害問題への対応に見られるように、従来の環境保全対策は、環境基準、排出基準等の設定を含め、個々の物質・項目ごとに行われてきた。しかしながら、人間活動が地球レベルで環境に影響を与えるようになってきた状況に対応するためには、今後は、複数の物質による環境影響や大気、水等の複数の環境要素を通じた環境影響等、環境を総合的に捉えることが必要となる。 そうした取組は、例えば、世界的にも今後一層深刻となることが予想される都市の環境問題の改善や物質循環を考慮した河川流域全体の環境問題への対応においても有効となる。

5環境リスクの低減
(より安全な環境の確保)

 環境リスクは、現代社会における重要なリスクの一つと位置付けられる。特に化学物質は、種類が膨大であり用途も広範であるという特徴を持つが、それらの中には、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものや有害性に関する情報が少ないものもある。また、有害性についても、免疫毒性、生殖毒性等の新たな問題も注目されている。さらに、化学物質以外にも、電磁波による健康影響等新たな技術等に伴う環境影響も懸念されている。このような環境リスクの増加は、我々のクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)を低下させる原因になる。環境研究・環境技術は、環境リスクの評価及び低減対策に貢献するものであり、その推進を図る必要がある。

6環境低負荷型社会の構築
(物質・エネルギー多消費型システムからの脱却)

 環境低負荷型の社会を構築するため、物質やエネルギーの消費量の少ない生産技術や製品、廃棄物処理・リサイクル技術、環境負荷処理技術、環境修復 技術等の一層の開発普及、さらには、原理的にもこれまでと異なる技術の探求等により、環境低負荷型システムを目指す技術開発が必要である。
 こうした環境保全のための技術に関しては、先端的なエネルギー技術、新素材、バイオテクノロジー、情報技術等の新しい技術に重要な役割を期待し得ることから、こうした技術による環境影響に十分留意しながら、その環境保全上の有効性を活用していくことが望まれる。

7環境政策手段の提示
(自然科学的手法と人文社会科学的手法との融合)

 持続可能な社会を構築するためには、価値観の転換という政策的合意の実現が不可欠である。このため、環境負荷を減らすための経済社会システムに関 する法制度的手法や経済的手法等の研究を推進する必要がある。また、世代間の関係を考えるために、将来の人間活動状況を予測し、配分ルールを検討し、現世代の環境負荷削減のための環境マネジメント技術等の開発を行っていかねばならない。さらに、政策合意形成のための研究が、環境教育や国際的枠組み作りも含めて行われる必要がある。
 こうした環境政策の提示は、自然科学的研究の成果と人文社会科学的研究の成果とを適切に融合させることによって一層的確に実施し得る。