1.温室効果ガス排出量と削減量の算定方法

 本検討では、排出量、削減量等の算定については、透明性、検証可能性を確保することに留意して検討・整理した。
 ケース設定は、2001年11月末までに条約事務局に提出することとなっている第3回国別報告書の作成のためのガイドラインを参考(図1参照)とし、表1のように設定した。


表1 ケース設定
名称 基本的な考え方 具体的な設定方法
固定ケース 起点となる年までに導入されている政策・対策の効果を考慮し、それ以降は新たな政策・対策の効果がないとした場合の将来予測。ガイドラインの"Without measures"に相当。 各技術の普及状況、または、買い換え時に新規に導入される技術の効率(排出係数やエネルギー消費原単位等)を起点の年のまま一定として設 定。
計画ケース 現時点までに決定された確実性の高 い政策・対策の実施を前提とした将来予測。ガイドラインの"With measures"に相当。
現状の政策・対策の延長の下における将来の各技術の普及状況と効率等を想定して設定するケース。
強化ケース 更なる政策・対策が追加された場合の将来予測。ガイドラインの"With additionalmeasures"に相当。 政策・対策が強化された場合の将来の各技術の普及状況と効率等を想定して設定するケース。

 また、温室効果ガスは、様々な社会経済活動に伴って排出されるものであるため、その将来の排出量を推計するにあたっては、主要な社会経済活動についての想定として、主として関係省庁で発表している将来予測等を参考として、表2のとおり設定した。


図1 温室効果ガスの排出に関する計画(出典:国連気候変動枠組条約国別報告書の作成ガイドライン)

表2 関連する活動量のシナリオ

 上記項目のうち、大綱策定時には原子力発電所の増設数を20基としたが、今回は13基(ケース1)と7基(ケース2)の2ケースを想定して算定結果を示した。また、自動車の旅客輸送量の想定が、今回は大綱策定時と比べて24%少なくなっており、これにより概算で基準年の約3.3%相当分の排出量が減少すると推計される。

2.温室効果ガス排出量増減とその要因分析

 1990年度から1998年度までの8年間でエネルギー起源の二酸化炭素の総排出量は、66,874千トン(1990年比6.4%増)増加した。部門別の内訳をみると、運輸部門(44,372千トン増)、民生部門(32,974千トン増)が増加に大きく寄与しているのに対し、産業部門(15,521千トン減)は減少している。
 各部門の増減要因は、図2に示すとおりである。これによると、業務用床面積や世帯数の増加の他、運輸、産業部門等のエネルギー消費原単位の増大により排出量が増加した一方、電力の二酸化炭素排出係数の改善、産業構造変化が排出量の減少に寄与している。

(注1) 1990年から1998年の間で二酸化炭素は66,874[千トンCO2]増加した(対90年比6.4%増)。各部門の増減量は[]の中に示した。
(注2) 各部門の要因分析によって生ずる交絡項は省略しているため、各部門の要因毎の増減値の合計と各部門の増減量とは一致しない。
(注3) 産業部門の産業構造項は、第1、2次産業の総生産額に占める各業種の割合で表される。生産額項は、第1、2次産業の総生産額。
(注4) 各部門のエネルギー効率項は、需要要因項(総生産額、総旅客輸送量、総貨物輸送量、業務床面積、世帯数)当たりのエネルギー消費量で表される。
図2 エネルギー起源の二酸化炭素排出量の増減要因(1990-1998年度)

(1)エネルギー転換部門
 1990年以降のCO2排出原単位(単位発電量当たりのCO2排出量)は改善されており、電力消費に伴う排出量削減に寄与している。


図3一般電気事業者及びその他電気事業者のCO2排出原単位の推移

(2)産業部門
 産業部門の排出量は減少したが、これは産業構造変化とCO2排出原単位の改善による減少分が大きく寄与しており、逆にエネルギー消費原単位は悪化している。
 これは、1980年代半ば以降のエネルギー価格の低迷で、この10年間、期待された省エネ設備の導入が進んでおらず、多くの業種で1990年代にむしろエネルギー消費原単位が増大していることによると考えられる。


注)エネルギー消費量は、IIP(付加価値額ウエイト生産指数)当たりのエネルギー消費量.
(出典:「エネルギー・経済統計要覧2000」日本エネルギー経済研究所)

図4製造業全体と主要4業種のエネルギー消費原単位の推移[1973年を100とする]

(3)運輸部門
 運輸部門のうち旅客部門の増加が著しいが、主として自家用自動車分が増加しており、特に自動車の大型化、渋滞等による実走行燃費の悪化等のためエネルギー消費原単位が悪化したこと、旅客輸送量が増加したことによる。
 また、貨物部門も増加しており、その要因は、海運や鉄道など輸送量当たりの排出量の少ない輸送手段から自動車・航空という排出量の大きい輸送手段にシフトしたことによる。

 


図5旅客自動車走行キロ燃費の推移(出典:「運輸関係エネルギー要覧」運輸省より作成)

(4)民生部門
 民生部門のうち、業務部門では、産業構造の変化による業務部門床面積の増加によって急増している。また、家庭部門では、単身世帯の増加や核家族化等による世帯数の増加によって増加しており、電力消費機器の増加を背景とした1世帯当たりのエネルギー消費の増加も排出量の増加に寄与している。


図6民生家庭部門における1世帯あたりエネルギー消費量の推移
(出典「家庭用エネルギー統計年報平成12年版」住環境計画研究所、平成12年3月)

(5)非エネルギー起源のCO2及びその他の温室効果ガス
 非エネルギー起源の二酸化炭素については、工業プロセスにおけるCO2排出量が大きく減少していることが顕著であるが、これは主にセメント製造工程からの排出量が減少したことに起因している。また、廃棄物の焼却に伴うCO2については著しい伸びを示している。

(注1) 1998年度のエネルギー起源のCO2以外のGHGs排出量(「土地利用、土地利用変化および林業」を除く)は基準年比で547[千トンCO2換算]増加した(対基準年比0.26%増)。各部門の増減量は[]の中に示した。
(注2) 「土地利用、土地利用変化および林業」部門は、1995年度以降温室効果ガス排出・吸収目録に計上されていないため除いてある。
(注3) エネルギー(非CO2)は燃料の燃焼に伴うCH4、N2Oの排出および、燃料の漏出に伴うCH4排出が含まれる。
(注4) CO2,CH4,N2Oの基準年は1990年度。HFCs,PFCs,SF6の基準年は1995年度とし、潜在排出量で示した。

図7非エネルギー起源の二酸化炭素及びその他の温室効果ガス排出量の増減
(基準年〜1998年度)

 その他の温室効果ガスのうち、HFCについては、オゾン層破壊物質であるCFC、HCFCの代替物質として、冷媒、発泡剤、エアゾール、溶剤・洗浄剤と幅広い用途において用いられ、近年生産が増大している。PFCについては、1980年代後半からのハイテク関連産業の成長とともに、電子部品等の洗浄用途、半導体・液晶のエッチング、CVDクリーニング用途として使用量が増加している。SF6は従来、電気絶縁用として、密閉型ガス開閉装置、遮断器及び変圧器等の電力用機械器具に使用され、半導体・液晶のエッチング、CVDクリーニング用途としても利用され、使用量が増大している。

3.2010年の排出量予測

 各部門における固定ケース、計画ケースについて、2010年の排出量予測を行ったところ、基準年の排出量を100とすると1998年の総排出量は106であり、固定ケースでは、2010年には120、計画ケースでは105(ケース1)、108(ケース2)となった。したがって、京都議定書で我が国に課せられた6%削減の目標を達成するためには、計画ケースからさらに、吸収源の活用及び京都メカニズムの活用も含めて11〜14%相当分の追加的対策が必要であるということになる。

表3 2010年の排出量予測結果
(注1) 下段の()内は、1990年を100とした時の割合を示す。
(注2) HFC等3ガスは潜在排出量で示す。



(注) HFC等3ガスは基準年を1995年とすることができるため、1990年〜1994年までの排出量にHFC等3ガスの排出量は加えていない。また、1995年以降は、実排出量により算定している

図8温室効果ガス排出量の将来予測

4.2010年の削減ポテンシャル表8民生部門

 資金的、社会的、制度的な条件が一定程度整ったと仮定した場合の、2010年時点の最大限の削減ポテンシャルは、各対策別に次のとおりとなった。
(「低位」「高位」については10ページ注2参照)

表4 エネルギー転換部門

表5 産業部門


表6 運輸部門

表7 民生部門

表8 HFC等3ガス部門

表9 生物資源等部門

表10 生物資源等部門の間接効果


表11 2010年の部門別削減ポテンシャル
(注1) 削減ポテンシャルは2010年の計画ケースで想定された状況における潜在的な最大削減可能量を推計したものであり、不確定要素が多く、推計値にある程度の幅を持って示さざるを得ないため、直接排出分削減量と電力消費削減量については、その上限を「高位」、下限を「低位」として示している。
(注2) 総削減量の「低位」と「高位」は、直接排出分の低位と高位のそれぞれに対して、電力消費削減量の低位と高位の換算値を加えた数値を示している。なお、電力消費削減量の「低位」については全電源平均排出係数、「高位」については石炭火力排出係数を用いて換算を行っている。

  各部門で見積もった削減ポテンシャルを含めて排出量を算定した結果を表13に示す。
 計画ケース1では、低位の場合、総排出量は11億5,200万トンとなり、基準年の排出量に対して5%減となる。また、高位の場合の総排出量は10億5,000万トンであり、基準年の排出量に対して13%減である。
 計画ケース2では、低位の場合、総排出量は11億8,500万トンとなり、基準年の排出量に対して2%減となる。また、高位の場合の総排出量は10億8,200万トンであり、基準年の排出量に対して11%減である。
 今回の削減ポテンシャルを参考として、今後、6%目標達成のための追加的な対策強化の在り方について検討していく必要がある。


表12 削減ポテンシャルを含む温室効果ガス総排出量[百万トンCO2]
 
1990
計画1
計画2
計画ケースにおける温室効果ガス総排出量推計値
1,210
1,270
(105)
1,303
(108)
    低位 高位 低位 高位
削減ポテンシャルを含む温室効果ガス総排出量
1,210
1,152
(95)
1,050
(87)
1,185
(98)
1,082
(89)

(注)()内は基準年の排出量を100とした時の数値

5.まとめ

 本検討会では、1998年(平成10年)6月の大綱策定以後の情勢変化を踏まえて、大綱策定以降既に決定されていた地球温暖化対策を実施した場合の2010年時点での削減見込み(計画ケース)、さらに、追加的な対策技術について、その導入のための資金的、社会的、制度的な条件が一定程度整ったと仮定した場合の2010年時点の最大限の削減ポテンシャル量について推定を行った。

 その過程で、その算定方法に関して透明性と検証可能性を確保することを心がけ、定量的なフォローアップを可能とする枠組みを整備した。これにより、今後、国民の各界各層からの批判、意見を取り入れて、より確実な推計とするとともに、国民一人一人の負担をできる限り公平にし、経済的にも優れた効率的な削減を可能とし、かつ我が国の求めるべき将来像に合ったシナリオへと継続的に改善できるようにしている。

 このうち、削減ポテンシャルの中には、比較的容易に実現できる対策から、相当程度の厳しい対策まで含まれるが、政府においては、今後、この削減ポテンシャルとしての推計を基に、現実にどの部門のどのような対策でどれだけの削減を図って目標の達成を行うかについて、さらに検討していく必要がある。
また、今回の目標年とした2010年以降の我が国の社会経済の将来像についても視野に入れて、エネルギー供給、産業構造、交通・物流システム等どのような方向へと進路を取るべきかについて、今後、各界各層における更なる議論が必要であり、このような政策にも温室効果ガス削減目標を織り込ませていくことが重要である。

 一方、今回の推計では、データが十分でないために、効率、活動量、排出係数変化、普及率等の推計の前提となる数値を専門家の判断により設定して推計した場合も少なくない。温室効果ガスは、あらゆる社会経済活動に伴って排出されるとともに、その算定にはある程度高い精度が要求されるため、データの集計・解析・公表については、政府においてより組織的に実施する体制を整備することが急務であると言える。

 今回の検討は、技術的な観点から6%達成に向けたシナリオについて考察した結果であるが、政府においては、京都議定書に定められた温室効果ガスの削減目標を確実に達成するため、技術的対策の開発・導入に強力なインセンティブを与え、国民全体が削減に積極的に取り組むことのできる対策推進メカニズムの導入に向けて検討を引き続き実施していく必要がある。

温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会委員
(敬称略。○は座長。)
氏名
所属・役職
○平田賢 芝浦工業大学システム工学部教授
 鮎川ゆりか (財)世界自然保護基金(WWF)日本委員会温暖化防止キャンペーン担当
 内山洋司 筑波大学機能工学系教授
 浦野紘平 横浜国立大学工学部教授
 甲斐沼美紀子 国立環境研究所地球環境研究グループ温暖化影響・対策研究チーム総合研究官
 熊崎實 筑波大学名誉教授
 大聖泰弘 早稲田大学理工学部教授
 槌屋治紀 (株)システム技術研究所所長
 寺田武彦 日本弁護士連合会
 中上英俊 (株)住環境計画研究所所長
 西岡秀三 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
 藤井美文 文教大学国際学部教授
 谷津龍太郎 アジア太平洋地球変動研究ネットワークセンター長
 山地憲治 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授