(別紙3)政策対応型調査・研究の研究の方向と到達目標(案)

政策対応型調査・研究研究の方向と到達目標
1.循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究  
(1)循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究 資源、製品や廃棄物に係る「マテリアルフローとこれに伴う環境影響、安全性の評価」、企業・消費者・政府等の「各主体の行動の促進策」、地域に即した資源循環の実現を支援するための「地域循環診断システム」の3つの方向を軸に研究を展開することにより、循環型社会形成推進基本計画の策定・運用管理など、環境低負荷型・循環型社会への転換のための施策を支援する手法を開発する。具体的には、
[1]産業連関表と連動したマテリアルフロー分析手法を確立し、循環資源関連部門を含め数十程度に分割した経済部門ごとに主要資源の消費と環境負荷に係る物的勘定表を延べ10項目程度について作成することにより、環境負荷低減効果把握のための情報基盤を整備する。
[2]ライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方を適用して、循環資源の利用促進による環境負荷の低減効果を定量的・総合的に評価する手法を開発する。また、この手法を用いて、企業、消費者、政府等の各主体の行動促進策に係る5種類程度のシナリオについて、廃棄物処分量など主要な10項目程度の環境負荷の低減効果を評価する。
[3]地域の産業基盤、物質・エネルギー需給、循環資源・廃棄物に係る施設立地等に関する情報を、地理情報システム等の情報技術を活用して統合的に分析する手法を開発する。これを用いて、地域に適合した資源循環システムの高度化を図るための統合型地域循環診断システムを関係主体と協力して開発する。
[4]廃棄物を原料としたリサイクル材料あるいは製品の安全性の評価方法について研究する。都市ごみ溶融スラグと焼却灰を対象として、リサイクル製品の用途ごとに環境中利用条件を想定した新たな溶出試験方法を確立し、国際的調和も考慮して公定法、ISOあるいはJISなどにおける標準化のための基礎資料を提供する。

これらの研究を進めるに当たっては、地域での実態把握や解析が必要なため、地方自治体の研究機関との研究協力態勢を組む。また、学会等の場を積極的に利用し、国内外の大学や調査研究機関の研究者との情報交換を行い、開発した手法の提案と改善をはかる。
(2)廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究 廃棄物の循環資源化技術、適正処理処分技術およびシステムについて、施設や処分場周辺の安全性の確保や長寿命化をはかる技術の開発を行う。また、有機性廃棄物の排出やリサイクルの特性を構造的に解析し、環境保全やコストからみて地域にあったリサイクルシステムの構築をめざして、下記の研究を行う。
[1]循環型社会における循環資源製造技術や廃棄物処理技術の適合性評価手法を開発する。具体的には、都市ごみ焼却技術、都市ごみ燃料(RDF)製造技術およびガス化溶融技術について、微量汚染物質や炭酸ガス排出特性、費用などを評価パラメータとした総合評価手法を提案する。
[2]埋立廃棄物の中間処理技術等を援用した質的な改善、覆土材や覆土施工技術の改良、ならびに遮水技術システムの見直しにより、埋立地容量の増加が可能な新しいシステムを提案する。とくに、既存埋立地の掘削−選別−資源回収による埋立地寿命延長技術システムを開発する。
[3]廃棄物最終処分場の閉鎖ならびに廃止を判定する安定化の程度を地温、内部貯留水、埋立地ガス、浸出水等より非破壊で診断する指標と現場での緊急点検や長期監視に対応した計測法を開発する。これらの診断に基づき、必要な安定化促進技術ならびに不適正処分場の修復法を開発・評価する。
[4]有機性廃棄物の資源化技術として、乳酸化、炭化、および飼料化などの炭素回収技術、ならびにアンモニア回収技術を取り上げ、それらの資源化システムの地域適用を試みる。また地域における有機性廃棄物の排出構造やリサイクル製品の需要構造を明らかにし、資源化システムの評価を行う。

これらの研究を進めるに当たっては、地方自治体や民間の協力のもとで共同研究態勢を敷き、実証実験、モデル事業等を行う。研究の成果は国立環境研究所の公開研究発表会や関連学協会での研究発表で逐次公開する。
(3)資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究 循環資源や廃棄物に含有される有害化学物質によるリスクを総合的に管理する手法を開発することにより、資源再生利用や中間処理施設、最終処分場における安全確認と再生利用量の拡大をめざす。ダイオキシン類などの分解処理技術の開発を行うともに、液体クロマトグラフ/質量分析(LC/MS)を用いた未知物質の同定手法開発などにより監視測定技術を高度化し、厳正な排出監視確保に資するため、以下の研究を行う。
[1]循環資源や廃棄物、土壌、排水、排ガスなどに含有される重金属類やPCBなどの有害物質を、バイオアッセイ法により包括的に、かつ簡易に検出する測定監視手法を開発する。また、ダイオキシン類縁化合物把握にむけたバイオアッセイ手法の適用と未知物質の探索を行うことにより、循環廃棄過程における塩素化ダイオキシン類以外の制御対象物質群候補をスクリーニングする。
[2]有機臭素化合物を緊急の検討対象物質とし、その主たる発生源、環境移動経路をフィールド研究から確認し、その制御手法を検討する。とくに臭素化・塩素化ダイオキシン類は分析手法が確立されていないため、現行の塩素化ダイオキシン類の公定法と同等の精度を持つ測定分析手法を確立する。
[3]循環資源や廃棄物に含まれる物質の多くは不揮発性物質および不安定物質と考えられるが、現在の分析手法では把握できないものも多い。そこで、LC/MSによる系統的分析システムを完成させ、廃棄物埋立地浸出水中の不揮発性物質を分析する。とくに浸出水の処理過程で生成する有害物質に着目し、その同定と定量を試みる。
[4]廃棄物および関連試料中に含まれる有機塩素系化合物(PCB、ダイオキシン類など)を高効率で抽出、無害化する手法を開発する。また、こうした技術開発をふまえ、ダイオキシン類や重金属類などの有害物質の種類と量を追跡評価する物質フロー解析を行い、システムとしての制御方策を提言する。

これらの研究を進めるに当たっては、大学等の他の試験研究機関や地方自治体等の協力を得て実施する。現場施設での実証を通して技術や手法の有効性を評価した結果等は、当研究所の公開研究発表会や関連学協会での研究発表会で逐次公開するとともに、試験法の標準マニュアル等を通じて、現場への普及・定着を図る。
(4)液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究 し尿や生活雑排水等の液状廃棄物に対して、膜分離活性汚泥法、浄化槽等の活用、土壌・湿地等の生態系に工学を組み込んだ生態工学の活用、及び物理化学処理との適正な組み合わせにより、地域におけるエネルギー消費の低減および物質循環の効率化を図るため、バイオ・エコエンジニアリング研究施設等を活用し、開発途上国も視野に入れつつ、以下の研究を行う。
[1]窒素、リン除去・回収型高度処理浄化槽、消毒等維持管理技術システムの開発、
[2]浄化システム管理技術の簡易容易化手法の開発、
[3]開発途上国の国情に適した浄化システム技術の開発、
[4]バイオ・エコエンジニアリングと物理化学処理を組み合わせた技術システムの開発
[5]地域特性に応じた環境改善システムの最適整備手法の開発

中期的には第5次水質総量規制に対応する浄化槽を核とした窒素、リンの高度除去可能な環境改善技術、循環型社会形成に必要とされる有害物質処理技術、汚泥、植物残渣、生ゴミ等の廃棄物の処理、処分、再資源化技術を組み合わせたシステムの対費用効果、対処理効率を踏まえた適正化技術の活用方策の提案を行う。開発途上国への適正技術移転と国内外への環境教育、環境技術の啓発を核とした環境低負荷・資源循環型環境改善システムについて、ソフトとハード両面からのマニュアル化の基盤構築を重要な達成目標として実行する。
2.化学物質環境リスクに関する調査・研究  
効率的な化学物質環境リスク管理のための高精度リスク評価手法等の開発に関する研究 化学物質による暴露、健康影響及び生態影響のそれぞれの評価を高精度化し、それらを組み合わせた環境リスク評価手法を開発するとともに、効率的な管理に不可欠となる簡易な影響試験方法によるスクリーニング手法や少ない情報に基づく暴露量推定手法、さらにリスクコミュニケーションの促進手法を開発するため、以下の研究を行う。
[1]暴露評価においては、過去のわが国での平均的な暴露濃度の経年変化を推定するモデルを試作し、これを用いて長期累積暴露量を推定し、暴露量の変動を踏まえて環境リスク評価を行うシステムを構築し、ダイオキシン類やベンゼン等を例として検証を行う。また、化学物質の性状データと環境濃度データ等を統計的に解析し、その結果に基づいて、入手可能な少ない情報から化学物質の暴露量を推定する手法を開発し、化審法の事前審査の効率化を図る。さらに、これらの成果を活用して、住民の環境リスクへの理解の促進を目指して、分かりやすい情報を提供するための情報加工・伝達方法を開発する。
[2]健康リスク評価においては、ヒトの化学物質感受性に係る要因を主要な数種類の遺伝子多型情報を基に解析し、それを踏まえた安全係数の設定方法など、より高度な化学物質健康影響評価手法の開発を進める。また、化学物質の有害性を作用メカニズムに基づいた評価する試験法を開発し、実用化に向けてその簡便化、標準化を試みる。[3]生態リスク評価においては、水圏生物への毒性試験データを収集し、生物種毎に解析することによって、個別生物に対する毒性に基づく生態リスク評価手法の高度化を図り、化学物質の審査や水質モニタリングへの適用を目指して、化学物質動態モデルと組み合わせた生態リスク評価モデルを構築する。