(別紙1)重点研究分野の研究の方向(案)

重点研究分野研究の方向
1.地球温暖化を始めとする地球環境問題への取り組み
(1)温室効果ガスの排出源・吸収源評価と個別対策の効果評価に関する研究 (1)陸域と海洋による二酸化炭素の吸収量やその他の温室効果ガスの発生量の推定とその変動要因の解析を行い、温室効果ガスの排出/吸収のインベントリー精度の向上及びその将来予測を目指した研究を行う。具体的には、[1]グローバルな温室効果ガスの長期変動の観測、[2]陸域/海洋の二酸化炭素吸収比の推定、[3]地球環境に影響を与える規模を持つアジア・太平洋の重要な地域における亜大陸(数千km)規模での温室効果ガスの吸収/放出量の推定、[4]森林による二酸化炭素吸収量の評価などを行う。
(2)温室効果ガス排出削減や吸収源対策の評価方法の開発および評価を行う。
(2)地球温暖化に伴う地球環境変動の将来見通しに関する観測・解析・モデリングと影響評価に関する研究  地球温暖化の将来見通しの数値シミュレーションを行うため、排出・気候変動・影響の一貫した解析・モデル研究を、観測による検証を行いつつ実施する。具体的には、[1]最新データによる世界の発展シナリオの改定、世界経済モデルの改良、温室効果ガス排出の長期予測、[2]エアロゾルや雲の分布観測・解析とモデル化を行うとともに、地域スケールを考慮した気候モデルの開発、[3]最新データによる温暖化影響モデルの開発・改良、温暖化適応モデルの開発を行い、温暖化影響の予測等を行う。
(3)京都議定書及び第二約束期間への我が国及びアジア諸国の対応可能性の政策研究  COP6を踏まえた京都議定書及び第二約束期間への我が国及びアジア諸国の対応可能性を明らかにするため、温室効果ガスの削減可能性、対策に伴う経済影響、環境投資の経済効果等のシミュレーションを行うとともに、排出量取引・クリーン開発メカニズム等の柔軟措置及び炭素税などの国内的政策パッケージについての効果分析、さらには、地球温暖化問題に関する国際交渉過程の実証分析から今後の政策展開の方向を明らかにする。
(4)オゾン層変動及び影響の解明と対策効果の監視・評価に関する研究  極域オゾン層を中心に、衛星観測、地上モニタリング等によりオゾン層変動の実態把握を行うほか、オゾン層破壊物質濃度以外の要因を含めたオゾン層変動機構の解明、現象解明及び将来予測のための三次元モデルの高度化と物理化学機構の解明等を行う。また、紫外線曝露量及び紫外線量−反応関係の推定を通して、人の健康に対する紫外線影響を評価する。
2.廃棄物の総合管理と環境低負荷型・循環型社会の構築
(1)環境低負荷型・循環型社会への転換支援のためのシステム分析手法と基盤整備に関する研究  資源や廃棄物のフローやストックとこれに付随する環境影響を、マテリアルフロー分析やライフサイクルアセスメント(LCA)などにより、体系的・定量的に把握する手法を開発するとともに、企業・消費者・政府等の各主体による自主的な取り組みの効果評価手法の開発、地域レベルでの資源循環促進策等の研究を展開することにより、環境低負荷型・循環型社会への転換のための施策を支援する手法の開発と基盤整備を行う。
(2)廃棄物の資源化・適正処理技術及びシステムに関する研究  有機性廃棄物を含めた廃棄物の選別・資源化・処理技術の開発や、循環資源の排出者と利用者間での円滑なリサイクル推進を支援するためのデータベースなどのシステム開発を行うとともに、循環型社会に対応した低コスト・長寿命の廃棄物処理・処分施設の構造・システム設計手法の開発を行う。
(3)廃棄物処理に係るリスク制御に関する研究  新たに構築される資源循環・廃棄物管理システムに対応したリスク管理手法の構築を目指して、社会より資源化また最終処分の場に流入する有害物質の予測・評価手法、また、廃棄物処理施設等における有害物質の検知・監視技術ならびに制御技術の開発を行う。
(4)汚染環境の浄化技術に関する研究  有機汚濁、窒素・リン等による富栄養化、重油や有害化学物質汚染等が進んでいる湖沼、河川、内海、内湾、土壌・地下水等の環境を修復し、保全するために,生活由来排水、小規模事業場排水等の液状廃棄物および汚染環境の場を,生物処理工学、生態工学、あるいはこれらの最適な組み合わせにより浄化する技術を開発する。
3.化学物質等の環境リスクの評価と管理
(1)内分泌かく乱化学物質のリスク評価と管理に関する研究  内分泌かく乱化学物質に関する総合的な研究として、高感度で正確な測定手法や生物検定手法の開発、環境中における汚染の実態、野生生物及びヒトへの曝露の状況と影響の評価、実験動物などにおける作用メカニズムや量・反応関係の解明を行う。そしてリスク低減のための対策技術的、情報科学的、及び社会的手法の開発を行う。なお、欧米やアジアの国々とも連携しつつ、国際的な研究展開を行う。
(2)ダイオキシン類のリスク評価と管理に関する研究  ダイオキシンの監視・測定技術を強化するため、分析法の標準化、測定精度管理、簡易測定法やリアルタイム測定法の開発を行う。また、比較的低濃度のダイオキシン類への曝露が、どのような生殖内分泌・免疫系、脳機能・行動に影響するかのメカニズムを検討し、リスク評価に用いることができる指標の確立を行うとともに、ヒトの曝露量評価への応用を検討する。さらに土壌・底質等に残留する環境ダイオキシンの低減技術として、環境にやさしい新たな要素技術の開発を行うとともに、ダイオキシンに関する情報を整理し、総合的な対策に資する。
(3)化学物質の環境動態の解明とモニタリング手法の開発に関する研究  化学物質の既存計測技術について、高感度化、高精度化、あるいは簡易化を図るとともに、加速器MS、バイオアッセイ手法、同位体分析技術等の先導的計測技術の開発を行う。開発・改良した手法を用いて、水・土壌系でのヒ素やホウ素、大気系での有機ハロゲン化合物、地球規模での環境残留性有機物質などを中心に、化学物質の環境汚染実態の把握、環境挙動及び長期的な変動等の解明を進める。
(4)化学物質のリスク評価と管理に関する研究  化学物質の環境リスク評価の精度をあげるため、暴露、健康影響及び生態影響のそれぞれの評価を高精度化し、それらを組み合わせたリスク評価手法を開発する。また、効率的な管理に不可欠となる簡易な影響試験方法や少ない情報に基づくスクリーニング手法を開発するとともに、リスクコミュニケーションの促進手法を確立する。
(5)環境有害因子の健康影響の発生メカニズムの解明とその検出手法の開発に関する研究  化学物質を中心とする化学的環境因子及び電磁波・紫外線・騒音などの物理的環境因子の健康に及ぼす可能性を、遺伝子から行動影響までの指標を用いて量・反応関係に基づきそのメカニズムを解明し、その成果を疫学における野外調査へと応用する技術を確立する。
4.多様な自然環境の保全と持続可能な利用
(1)生物多様性の減少機構の解明と保全に関する研究  生息地の破壊・分断化と侵入生物・遺伝子組換え生物による地域生態系の生物多様性への影響を解明し、保全手法を開発するため、在来の野生生物に関して遺伝子,種,生態系(群集)の3つの多様性レベルで地域の特性並びに多様性と生態系機能との関係を明らかにするとともに、種分布の分断化や侵入生物・組換え生物による撹乱を地図情報化する。さらに、空間情報を用いた種間競争のモデル化によって、在来種を駆逐する危険性の高い生物の特性を明らかにする。また、絶滅の危機に瀕する野生生物の保全や動態把握に不可欠な技術及び手法の開発研究を実施する。
(2)生態系の構造と機能及びその管理手法に関する研究  モデルサイトとして国内および熱帯地域のランドスケープ(森林ー湿原ー河川)を選定し、ランドスケープ管理の履歴に関連する社会・経済的統計資料、植生地理学的資料等の収集及びデータベース化を行うとともに、種及び生態系レベルでの多様性とランドスケープの機能(生物資源生産機能、炭酸ガス吸収機能や分解機能等物質循環機能、多様性保全機能、土壌保全機能、水循環機能、風景評価等文化的機能)の相互関係について、重点的に調査・研究を行い、ランドスケープレベルで生態系のサービス機能評価基準を算定するためのベースを作成する。
5.環境の総合的管理(都市域の環境対策、広域的環境問題等)
(1)浮遊粒子状物質等の都市大気汚染に関する研究  都市大気中におけるPM2.5を中心とした浮遊粒子状物質・ディーゼル排気粒子の発生源特性の把握、環境大気中での挙動の解明を行う。さらに,数値シミュレーション等により、地域濃度分布及び人への曝露量の予測を行う.また,動物曝露実験を行い,肺循環器への影響,喘息様病態への影響等の健康影響と機構の解明を行い,影響の閾値の推定を行う.さらに,疫学調査を行い,人の曝露濃度と影響の関係を把握する.これらの結果をもとに発生源対策シナリオおよびリスク評価について検討する。
(2)酸性雨等の長距離越境大気汚染とその影響に関する研究  硫黄化合物、窒素化合物等の大気汚染物質の長距離輸送・広域汚染の観点から、東アジア−太平洋−北米大陸西岸を含む規模を視野に入れ、中国・日本をカバーする発生量マップの作成、この地域における大気汚染物質の輸送・変質・沈着モデルの精密化、モデル検証のための汚染物質濃度や乾性沈着量データの取得を行う。また、中国中南部における広域光化学大気汚染に関する観測およびモデル研究、硫黄・鉛同位体比測定等による越太平洋大気汚染輸送の実態把握を行う。また、都市汚染地域、北関東山岳地域、世界自然遺産地域等を対象として、森林生態系、土壌、陸水、人工物等の汚染とその影響を明らかにする。
(3)流域圏の総合的環境管理に関する研究  日本及びアジアを対象として,流域圏が持つ生態系機能(大気との熱・物質交換,植生の保水能力と洪水・乾燥調節,水循環と淡水供給,土壌形成と侵食制御,物質循環と浄化,農業生産と土地利用,海域物質循環と生物生産など)を総合的に観測・把握するとともに,そのモデル化と予測手法の開発を行う。さらに、流域圏での開発計画に基づく環境変化の影響予測と,自然循環システムのデザインを含む環境保全対策オプションの環境改善効果予測を行い,持続的発展可能な流域圏管理手法の開発を行う。
(4)湖沼・海域環境の保全に関する研究  河川・湖沼・海域の統一的な有機物指標による評価手法の確立を図るため,湖沼を含む流域圏を対象とし、溶存有機物の特性や水生生態系への影響に関する科学的知見を集積し、有機炭素や溶存有機炭素を指標とした水質管理手法の枠組みを構築する。
また、沿岸域の生態系、特に底生生態系に着目して、その機構を明らかにするとともに,様々な修復技術が生態系に与える影響や効果を評価する手法を開発する。
(5)地下水汚染機構の解明とその予測に関する研究  多様な特性を示す化学物質について、地下水中での挙動を解明し、その広がりを予測する手法を開発する。人為起源と自然起源の共存するヒ素やホウ素などについて、化学形態分析などに基づいてその起源を明らかにする手法を開発する。また、ダイオキシン類など、土壌等に吸着しやすい化学物質の地下水中での挙動を解明する。さらに、硝酸性窒素などによる地下水汚染が土壌中に含まれる成分を溶出させることによって生ずる二次汚染の機構を解明する。
(6)土壌劣化、土壌汚染の機構解明とその予測に関する研究  土壌の酸性化、重金属汚染(特にビスマス、アンチモンなどの次世代技術利用金属による汚染)、有害化学物質汚染、塩類集積などの原因物質の動態と、土壌の化学的・生物的劣化機構を解明するとともに、土壌の劣化(健全度)指数の確立や原因物質の土壌滞留時間の算定・評価を行って、土壌劣化の将来を予測する。また、寒冷地土壌(凍土)の微生物特性と物質代謝(温室効果ガス発生)に対する温暖化の影響機構を解明し、地球規模物質循環の変動を予測する。
6.開発途上国の環境問題
(1)途上国の環境汚染対策に関する研究  開発途上国においては工業化・都市化の進展に伴い、かつて我が国が経験した大気汚染や水質汚濁などさまざまな環境汚染とそれに伴う健康被害に直面していることから、環境汚染の実態の的確な把握手法、適切な健康影響指標の選定及び監視手法、並びに汚染防止や被害防止のための途上国に適用可能な対策技術手法の開発などを、アジア等の国々と共同で行う。
(2)途上国の経済発展と環境保全の関わりに関する研究  アジア途上国の経済発展と環境変化の関わり合いを明らかにし、低環境負荷型経済発展の方策を分析するため、環境変化の総合的把握手法の開発、環境変化のデータベース化を行うとともに、環境−経済モデルの開発・改良を行い、アジア途上国の経済発展シナリオに基づく環境変化のシミュレーションを行う。また、環境対策手段のデザイン、環境対策手段の効果分析により、低環境負荷型経済発展の方策の検討等を行う。
7.環境問題の解明・対策のための監視観測
(1)地球環境モニタリング  温室効果ガスの変動については、地上ステーション、航空機、船舶、遠隔計測など世界に先駆けた新たなプラットフォームを用いて、同位体比など高度で国際的に比較できる高精度な観測を長期に継続し、温室効果ガスの変動要因の解析や変動予測の研究に必要なデータを得るとともに、広く研究等に役立てるためデータベースとして整備する。また、森林による二酸化炭素吸収の長期観測を行い、森林吸収モデルの開発や吸収量評価法の開発などを行う。また、河川や湖沼の水質、土地被覆の変動を監視・観測し、国際的な連携の下にデータベースとして提供する。
 オゾン層変動及び有害紫外線については、地上及び衛星による監視・観測を長期に継続し、オゾン層変動、影響解明、対策効果の監視・評価の研究に有用なデータを提供するとともに、国民への普及啓発活動を行う。
(2)衛星観測プロジェクト  人工衛星を利用した地球大気環境の監視・観測のため、オゾン層観測センサー「改良型大気周縁赤外分光計II型(ILAS-II)」や温室効果ガス観測センサー「傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換赤外分光計(SOFIS)」により取得されるデータを処理し、オゾン層破壊、地球温暖化等に係る研究、監視等の科学的利用を図るためのデータプロダクトとして国内外に向けて提供することを目的として、データ処理アルゴリズム研究、データ処理運用システムの開発及び運用を行う。また、データの検証解析研究、利用実証研究を行い、データの有効性を実証する。ILAS-IIについてはデータ処理運用システムの開発を終え、データ処理アルゴリズムの改訂を行いつつ、ILAS-II機器の運用状況に合わせて、データ処理、検証解析、利用実証、提供を行う。また、SOFISについては、環境省における衛星搭載機器の製作状況に合わせて、データ処理運用システムの整備を行う。