[3].調査結果の概要

1. 土壌汚染事例の実態
 都道府県等が把握している次のような土壌汚染及び土壌に係る環境問題(以下「土壌汚染」という。)の事例で,昭和50年4月1日から平成9年3月31日までに判明したものを対象として調査した。
{1} 土壌環境基準に適合しないことが判明した事例
{2} {1}以外で,土壌中に重金属等が検出された事例(基準設定以前の事例,基準項目外の物質による事例,基準項目物質が検出されたが基準適合の事例)
{3} 地下水汚染が認められた地域で,土壌汚染のおそれがあると考えられた事例
{4} 土壌汚染が地域で問題となった,あるいは苦情が寄せられた等の事例

(1) 土壌汚染事例数
 平成9年3月31日までに都道府県等が把握した土壌汚染事例の総数({1}+{2}+{3}+{4})は782件で,このうち土壌中から何らかの重金属等が検出された事例({1}+{2},以下「検出・超過事例」という。)は375件,さらにこのうち土壌環境基準設定後に環境基準に適合しないことが判明した事例({1})は102件であった。
なお,平成6年度の調査においては,検出・超過事例を対象としており,その件数(平成6年9月末までの累積)は232件であった。
 
表1 土壌汚染事例数(累積)
  件数
総事例数({1}+{2}+{3}+{4})
うち,土壌中から重金属等が検出された事例数({1}+{2})
うち,土壌環境基準設定後に判明した事例で,
環境基準に適合しないことが判明した事例数({1})
782
375
102
 

(注)土壌環境基準は,平成3年8月にカドミウム等10項目について設定され,さらに平成6年2月に一部改正されて合計25項目となっている。

(2) 年度別土壌汚染事例判明数
 土壌汚染事例の判明数を年度別に見ると図1のとおりであり,都道府県等が把握した事例の中では,土壌環境基準に適合しないことが判明した事例数が増加傾向にある。

(3) 業種別と項目別の事例数
 検出・超過事例(累積)375件について,検出された項目と都道府県等により汚染原因者と推定された業種の関係を見ると表2のとおりである。項目としては鉛,テトラクロロエチレンが多く,環境基準項目以外では亜鉛,ニッケル,油分等が検出されている。業種で見ると金属製品製造業,洗濯・理容・浴場業,化学工業,電気機械器具製造業が多い。

(4) 汚染事例判明の経緯
 土壌汚染事例総数(累積)782件及びそのうち検出・超過事例(累積)375件について,汚染事例判明の経緯を見ると表3のとおりである。総数で見ると,行政による地下水・表流水水質調査により判明する場合が多いが,検出・超過事例では,行政による土壌調査が多い。また,住民・土地所有者等からの訴え,相談を経緯とするものも相当数ある。
 
表3 汚染事例判明の経緯(複数回答有)
  件数
総数 検出・超過事例
行政による土壌調査 175 169
 
うち, 条例,要綱等による土壌調査
任意の土壌調査
131
45
126
43
行政による立入検査 34 19
 
うち, 水質汚濁防止法に基づく立入検査
条例,要綱に基づく立入検査
その他の法に基づく立入検査
21
9
4
9
9
1
行政による地下水・表流水水質調査 414 118
 
うち, 水濁法に基づく測定計画による地下水調査
水濁法に基づく測定計画による表流水調査
測定計画外の地下水調査
測定計画外の表流水調査
173
7
233
4
17
5
94
3
住民,土地所有者等からの訴え,相談等 170 101
 
うち, 住民からの苦情
住民等による調査
建設作業者等からの異常の訴え
土地使用者からの異常の訴え,相談等
土地所有者からの相談等
廃棄物の不法投棄の発見
88
15
18
20
28
3
32
10
13
18
27
3
その他 75 46
合計回答事例数 772 367

(5) 土壌汚染とともに見られた他の影響
 検出・超過事例(累積)375件のうち,土壌汚染に伴って,又は同時に見られた他の影響(土壌汚染との因果関係が確認されたものとは限らない)について回答があったのは146件であり,表4のとおり地下水・伏流水汚染が多く見られている。また,ひとつの事例で複数の影響が見られているものがある。
 
表4 土壌汚染とともに見られた他の影響
(複数回答有)
  件数
地下水・伏流水汚染
表流水汚染
悪臭
大気汚染
動植物への影響
その他
129
14



合計回答事例数 146

(6) 土壌汚染の原因行為
 土壌汚染事例総数(累積)782件及びそのうち検出・超過事例(累積)375件の中で,土壌汚染の原因行為が都道府県等により推定された事例として回答があったものについて内訳を見ると,表5のとおりいずれも汚染原因物質の不適切な取扱による漏洩と考えられたものが多い。
 
表5 土壌汚染の原因行為 (複数回答有)
  件数
総数 検出・超過事例
施設の破損等による汚染原因物質の漏洩事故
汚染原因物質の不適切な取扱による漏洩
汚染原因物質を含む排水の地下浸透
廃棄物の埋立処分
廃棄物の不法投棄
残土の埋立処分
その他
98
260
60
54
19

74
75
156
22
39
12

45
合計回答事例数 489 304
不明と回答,又は無回答 293 71

(7) 土壌汚染対策の進捗状況
 検出・超過事例(累積)375件についての,対策の進捗状況は表6に示すとおりであり,対策を完了しているものが251件ある。なお,「対策不能,不要」は,例えば環境基準を超えない,自然由来と判断された,資金力がなく不能などがある。また,「その他」は例えば応急対策実施,土地改変時に対策予定などがある。
 
表6 土壌汚染の進捗状況
  件数
恒久対策完了
恒久対策実施中
恒久対策検討中
対策不能,不要
その他
無回答
251
62
15
16

22
合計 375

(8) 対策の実施状況
 応急対策及び恒久対策の概要をみると表7,表8のとおりである。土壌汚染調査対策指針で示されている重金属等に対する封じ込め,有機塩素系化合物等に対する吸引等のほか,現場外処理も行われている。
 
表7 応急対策の実施状況 (複数回答有)
対策の種類 件数
地下水飲用指導,水源転換
立入禁止柵・立て札の設置
防風ネットの設置
植栽工
舗装工
シート等による被覆
バリア井戸の設置
集水渠,沈砂池等の設置
その他
37



10
15


20
合計回答事例数 76

表8 恒久対策の概要(複数回答有)
対策の種類 件数
封じ込め
遮断工
遮水工
不透水シート
綱矢板
連続地中壁
粘土層
85
52
44
24
16
11
13
飛散防止
履土工
植栽工
舗装工
84
67
11
27
吸引等
土壌ガス
地下水揚水処理
低温加熱
98
70
49
7
固化・不溶化
化学的不溶化処理
セメント固化
その他の不溶化
90
45
46
6
現場外処理
焼却
廃棄物として埋め立て処分
その他
150
33
98
38
合計回答事例数 321

 

2. 地方公共団体における対応状況
 47都道府県及び水質汚濁防止法に定める78の政令市,合計125都道府県等を対象に対応状況を調査した。
(1) 条例等の制定状況
 地方公共団体における条例,要綱,指導指針等(以下「条例等」という。)の制定状況は表9から表11のとおりであり,現在16都道府県・政令市及び25市区町村で条例等を制定している(地方公共団体の名称は別添に示す)。
 
表9 都道府県等における条例,要綱,指導指針等の制定状況(複数回答有)
  団体数
工場跡地等の用途転換・再開発等の際に土壌汚染の有無の確認
及び所要の対策等を事業者に実施させるための条例等
10
土壌汚染の調査,対策,未然防止に係る条例等
合計回答団体数 16

表10 都道府県等における今後の条例等の改正・制定予定
  団体数
具体的に検討している
具体的予定はないが必要である
現在は必要ない
無回答

34
85
合計 125

表11水質汚濁防止法政令市以外で,条例等を制定している市区町村数
団体数
条例等を制定している市区町村数
制定を検討している市区町村数
25
合計 29

(2) 事業者の協力の状況
 土壌汚染の対策指導にあたっての事業者の協力の状況をたずねたところ,表12のとおり,一部に協力が得られなかった経験を持つ団体がある。
 
表12 事業者の協力の状況(複数回答有)
  団体数
自治体が実施しようとする私有地内の土壌の調査に協力が得られなかった
土地の履歴等,土壌に関する情報の提供を求めたが協力が得られなかった
土壌の汚染に係る調査の実施を指導したが協力が得られなかった。
土壌の汚染に係る対策の実施を指導したが協力が得られなかった。
土壌の汚染に係る情報の保管,承継を求めたが協力が得られなかった。
その他
 ・すべて協力が得られている
 ・特になし/事例なし
無回答







40
70

(3) 調査対策指針の活用状況
 土壌汚染の調査対策手法について示した調査・対策指針の都道府県等における活用状況は表13のとおりであった。
 
表13 調査対策指針の活用状況(複数回答有)
  団体数
条例,要綱,調査・対策指針等の制定,改正の際に活用した。
市街地土壌汚染対策の指導の際に活用した。
独自の条例,要綱,調査・対策指針等があるので活用していない。
調査対策指針の存在は知っているが,実際の活用事例はない。
調査対策指針の存在を知らない。
10
48

74

(4) 土壌汚染対策の実施に係る情報の管理状況
 地方公共団体に対し,土壌汚染対策の実施に係る記録の作成・保管に努めるよう指導していることから,土壌汚染対策の実施に係る情報の管理状況についてたずねたところ,表14のとおりであった。担当部局又は事業の実施者が情報を保有している例が多かった。
 しかし,情報の保有状況を把握していない例もみられた。なお,都道府県等によっては対策を指導した,あるいは指導を完了した事例がない場合があり,情報はない,あるいは無回答も多くみられる。

表14 土壌汚染対策の実施に係る情報の管理状況
*添付ファイルを参照。

(5) 国への要望
 国への要望を項目をあげて聞いたところ,表15のとおりであった。具体的には,表16のような要望があった。
 
表15 国への要望(複数回答有)
  団体数
1環境基準の見直し
2調査対策指針の見直し
3事業者等への啓発事業
4自治体への土壌汚染調査・対策に関する情報提供の充実
5調査・回復技術の開発普及
6その他
11
14
56
26
27
15

表16 具体的記述の主な内容
汚染対策事例の情報提供
どこでどのような事例があったかが簡単に検索できる仕組
他の自治体での事例等,調査・対策を実施する際に参考となるような具体的な情報の提供

環境基準の見直し
緊急性のある汚染レベルの設定
自然由来の判断の明確化

調査・対策指針の見直し
低コストで簡便な,零細事業者向けの調査・対策技術
封じ込め以外の,汚染物質の除去技術
小規模事業場が汚染源とみられる地下水汚染の汚染源調査の方法
油分等,対象物質の追加

その他
市街地土壌汚染対策の法制度化
インターネット等を通じて随時活用できるよう情報提供の充実,多様化
土壌汚染調査・対策に関する事例発表,講習会の実施