[3].答申の概要
 はじめに
 昭和46年に設定された現行の騒音に係る環境基準では、騒音の評価手法として騒音レベルの中央値(L50,T)によることを原則としてきた。しかし、その後の騒音影響に 関する研究の進展、騒音測定技術の向上等によって、近年では国際的に等価騒音レベル(LAeq,T)によることが基本的な評価方法として広く採用されつつある。このような 動向を踏まえると、騒音に係る環境基準における騒音の評価手法の在り方について再検討が必要となる。
 また、騒音の評価手法の再検討に関連して、環境基準の基準値等の在り方を検討するに当たっては、現行基準値を単に換算するのではなく、新たな科学的知見に基づいて望ましいレベルを検討するとともに、平成7年3月の中央環境審議会の答申「今後の自動車騒 低減対策のあり方について(総合的施策)」に示された今後の自動車騒音低減対策の基本的な考え方を具体化する見地から、道路に面する地域の実態に即した効果的な沿道対策を 促す視点を加えるなど、道路交通騒音対策の推進に環境基準が目標としてより効果的に機能しうるものとする必要がある。

(1) 騒音の評価手法の在り方
 騒音の評価手法としては、あらゆる種類の騒音の総暴露量を正確に反映できること、住民反応との対応が良好であること、予測計算が明確化、簡略化されること、国際的にもLAeq,Tが主流であること等から、これまでの騒音レベルの中央値(L50,T)に代 えて等価騒音レベル(LAeq,T)を採用することが適当である。
(2) 評価の位置及び評価の時間等
1. 環境基準の評価の原則
 a 評価の位置
 現行の環境基準においては、地域の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じやすい地点で評価することとされているが、騒音の影響は、騒音源の位置、住宅の立地状況等の諸条件によって局所的に大きく変化するものであるため、その評価は、個別 の住居、病院、学校等(以下単に「住居等」という。)が影響を受ける騒音レベルによることを基本とすることが適当である。
 また、住居等の建物の騒音の影響を受けやすい面における騒音レベルによって評価することが適当である。
 b 評価の時間
 ア)評価の期間
 評価の期間は、一般的には1年程度を目安として、そのうち平均的な状況を呈する日を選定して評価することが適当である。
 イ)一日における評価の時間 時間帯区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルによって評価を行うことが原則である。測定を行う場合、時間帯を通じての連続測定を行うことが考えられるが、連続測定した 場合と比べて統計的に十分な精度を確保しうる範囲内で実測時間を短縮することも可能である。
 c 推計の導入
 必要な実測時間が確保できない場合や地域として環境基準の達成状況を面的に把握する場合等においては、積極的に推計を導入することが必要である。
2. 環境基準の達成状況の地域としての把握の在り方
 一般地域(道路に面する地域以外の地域)においては、地域における平均的な騒音レベルをもって評価することとし、原則として一定の地域ごとにその地域を代表すると思われる地点を選んで評価することが適当である。
 道路に面する地域においては、一定の地域ごとに面的な騒音暴露状況として地域内の全ての住居等のうちの基準値を超過する戸数、超過する割合等を把握することによって評価することが適当である。また、そのための推計方法の確立等が必要である。
(3)

評価手法の変更に伴う環境基準値の再検討に当たっての考え方
 今回の評価手法の変更に伴う環境基準値の再検討に当たっては、騒音影響に関する科学的知見について、睡眠影響、会話影響、不快感等に関する等価騒音レベルによる新たな知 見を検討するとともに、建物の防音性能について、最近の実態調査の結果等を踏まえて適切な防音性能を見込むことが適当である。

1. 地域補正等
 環境基準の指針値を導くに当たっては、土地利用形態に着目した地域補正等を行うことが適当である。
2.

騒音影響に関する屋内指針の設定
 屋内において睡眠影響及び会話影響を適切に防止する上で維持されることが望ましい騒音影響に関する屋内騒音レベルの指針(以下「騒音影響に関する屋内指針」という。)を 表1のとおりとすることが適当である。

表 1 騒音影響に関する屋内指針

 
昼間[会話影響]
夜間[睡眠影響]
一般地域 45dB以下 35dB以下
道路に面する地域 45dB以下 40dB以下

 

3. 建物の防音性能
 建物の防音性能については、窓を開けた場合の平均的な防音効果は10dB、窓を閉めた場合におおむね期待できる平均的な防音性能は25dB程度であると考えられる。
4. 時間帯の区分
 現行の環境基準では、昼間、夜間に加えて朝、夕の時間帯を設けているが、特に朝、夕の時間帯に固有の騒音影響に関する知見がないこと等を考慮して、朝、夕の時間帯の区分 は設けないこととすることが適当である。
(4)

一般地域における環境基準の指針値
 (3)に示した考え方により、主として住居の用に供される地域(A地域)について望ましいレベルを導くとともに、これに地域補正を加えて検討した結果、一般地域の環境基準 の指針値を表2のとおりとすることが適当である。

表2 一般地域の環境基準の指針値

 
昼間
夜間
特に静穏を要する地域
(AA地域)
50dB以下
40dB以下
主として住居の用に供される地域
55dB以下
45dB以下
相当数の住居と併せて商業、工業等の
用に供される地域(B地域)  
60dB以下
50dB以下

 

(5)
道路に面する地域の環境基準の指針値
1. 道路に面する地域の環境基準の類型区分等
 a. 土地利用形態による類型区分
 道路に面する地域の類型区分については、我が国の都市の一般的な構造を踏まえ住居の
用に供される地域(C地域)並びに、主として住居の用に供される地域(C地域を除く。)及び相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域(D地域)とすることが適
当である。
 b. 幹線交通を担う道路に近接する空間(以下「幹線道路近接空間」という。)に特例の必要性
  欧米諸国と比較して狭隘な国土に高密度の人口集積がある我が国の国土条件の下ては、土地利用形態による類型区分にかかわらず、道路交通や地域の状況によっては屋外の騒音低減対策に物理的あるいは技術的な制約があることに加え、現実に幹線道路近接空間にお いて居住実態がある以上、行政としてはその生活環境を適切に保全することが必要である。このため、幹線道路近接空間について、その特別な条件を前提とした上で、固有の目標 を環境基準の指針値の特例として定め、これによって幹線道路近接空間の特別な条件に対応した具体的な施策の推進を促すこととすることが適当である。
 c. 幹線道路近接空間における指針値の特例
 幹線道路近接空間の指針値の特例については、その居住実態等を踏まえ、窓を閉めた屋内において騒音影響に関する屋内指針が確保されるよう屋外の指針値を導出することとす る。この場合、昼間70dB以下、夜間65dB以下とすることが考えられ、このレベルが確保されていれば、ある程度窓を開けた状態でもかなりの程度の会話了解度が確保でき ると考えられること、不快感等に関する知見に照らしても容認しうる範囲内にあると考えられること等から、住居全体としては生活環境を適切に保全することができるものと考え られる。また、このレベルは土地利用形態による類型区分にかかわらず設定するものであるが、結果として、幹線道路近接空間全体として現行の環境基準値と同等の範囲内である と考えられる。
 d. 屋内へ透過する騒音に係る指針値 幹線道路近接空間においては、主として窓を閉めた生活が営まれている場合には、必要な防音性能を確保することにより、屋外の指針値が達成された場合と実質的に同等の生活 環境を保全することができると考えられる。 幹線道路近接空間においては、地域の状況によっては屋外の騒音低減対策のみでは早期に十分な改善を図ることが困難であると考えられることから、環境基準は屋外の騒音レベ ルで示すことを原則としつつも、幹線道路近接空間については、その特別な条件にかんがみ建物の防音性能の向上等の沿道対策の推進も視野に入れた対策の目標として環境基準を 機能させるため、その指針値の特例の中で屋内の指針値を位置付け、これを適用できることとすることが適当である。 屋内へ透過する騒音に係る指針値は、以上の趣旨で導入するものであり、生活環境の保全を図る見地からその適切な運用を図る必要がある。
2.

道路に面する地域の環境基準の指針値
  3.に示した地域補正等の考え方及び(1)を踏まえ検討した結果、道路に面する地域の環境基準の指針値を表3のとおりとすることが適当である。

   表 3 道路に面する地域の環境基準の指針値
 
昼間
夜間
専ら住居の用に供される地域(C地域) 60dB以下 55dB以下
主として住居の用に供される地域(C地域を除く)及び相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域(D地域) 65dB以下 60dB以下


この場合において、幹線交通を担う道路に近接する空間については、道路に面する地域の指針値の特例として上表にかかわらず次表の指針値のとおりである。

幹線交通を担う道路に近接する空間
昼間
夜間
70dB以下 65dB以下
騒音の影響を受けやすい面において、主として窓を閉めた生活が営まれていると認められる場合については、透過する騒音に係る指針値(屋内へ透過する騒音が昼間45dB以下、夜間40dB以下であることをいう。)によることができる。
(6) 環境基準の指針値の達成期間等
1. 一般地域の環境基準の指針値の達成期間
 一般地域においては現行環境基準と同様に、環境基準設定後直ちに達成又は維持されるよう努めることとすることが適当である。
2. 道路に面する地域の環境基準の指針値の達成期間
 新たに設置される道路においては、道路に面する地域の環境基準の指針値が供用後直ちに達成されるよう努めることとすることが適当である。
 既設道路においては、10年を目途として達成されるよう努めるものとし、幹線交通を担う道路に面する地域であって、交通量が多くその達成が著しく困難なものにおいては、 10年を超えて可及的速やかに達成されるよう努めることとすることが適当である。
3. 幹線交通を担う道路の著しい騒音が直接到達する住居等の達成評価
 幹線道路近接住居等に準ずるものとして、幹線道路近接空間の背後に立地する中高層の集合住宅等で、幹線交通を担う道路の著しい騒音が直接到達する住居等については、騒音 の影響を受けやすい面において主として窓を閉めた生活が営まれていると認められる場合にあっては、その屋内で透過する騒音に係る指針値を満たす場合には、環境基準達成とみ なすことが適当である。
 このような達成評価は、以上の趣旨で行うものであり、生活環境保全の観点からその適切な運用を図る必要がある。
4. 高騒音地域における対策の優先的実施
 夜間等価騒音レベル73dBを目安として、これを超える地域における騒音対策を優先的に実施するものとすることが適当である。
(7) 今後展開するべき施策
1. 道路に面する地域について今後展開するべき施策
 平成7年3月の中央環境審議会答申「今後の自動車騒音低減対策のあり方について(総合的施策)」及びその後の社会情勢の推移等を踏まえ、道路交通騒音対策を強力に推進するとともに、新たな環境基準の達成を図るために、特に以下の施策を早急に展開する必要がある。
 ア) 自動車単体対策の促進と低騒音な自動車の普及
 更なる自動車単体の騒音低減に努めるとともに、低公害車の大量普及を促進する必要がある。
 イ) 高騒音地域にプライオリティを置いた対策の段階的かつ計画的な実施
 騒音の状況が深刻な地域における関係機関の対策協議を一層促進し、高騒音地域の解消を図り、次いで環境基準の達成を目指して、総合的かつ計画的な対策推進 を図るための枠組みを強化する必要がある。
 なお、一般国道43号及び阪神高速道路(県道高速神戸西宮線及び県道高速大阪西宮線)に係る訴訟における最高裁判決は、個別の事案における民事賠償責任について、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の 必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察した結果示された判断であると考えられ、全国的には本報告に示す環境基準の指針値を対策の目標として、その達成に向けて施策の段階的かつ計画的 な実施が必要である。
 ウ) 沿道対策の推進強化
 「幹線道路の沿道の整備に関する法律」について、その充実と適用拡大を図る他、既設住居についての防音工事助成の抜本的な拡充を図るとともに、沿道耐騒音化対策のための規制や助成のスキームを整備すべきである。
 また、敷地の騒音状況に関する情報提供や住宅の防音性能を入居者に対して明示させる方策等を確立するべきである。
 エ) 新環境基準に対応したモニタリング体制の確立
 道路に面する地域の環境基準について示した道路交通騒音の基準超過戸数等による評価を実施するに当たっては、騒音レベルの推計方法の開発や沿道土地利用に関する各種デー タベースの整備等多くの課題があるため、地方公共団体における適切なモニタリングの実施のための支援措置を講じるとともに、的確で効率的なモニタリングを行うための技術開 発を促進する必要がある。
2. その他の騒音対策等
 a. 道路交通以外に起因する騒音の対策
 法に基づく現行の規制を適切に実施するとともに、技術開発の促進、移転に対する支援等の土地利用対策等を進めることが必要である。また、近隣騒音を防止するため、普及啓発等の対策を進める必要がある。
 b. 科学的知見の充実
 環境基準の指針値は、現時点で得られる科学的知見に基づいて設定されたものであるが、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされるべき性格のものである。このためには、騒音の睡眠への影響、騒音に対する住民反応等に関し、特に我が国の実態に基づく知見の充実に努めることが必要である。

 

むすび
 以上に示した新たな環境基準の検討結果においては、騒音の評価手法について等価騒音レベルに変更するとともに、個別の住居等の騒音レベルによる評価を基本とすることとし ており、これにより、騒音のより適切な評価が可能となるとともに、環境基準が生活環境保全の目標としてより効果的に機能を果たすことが可能となる。 また、環境基準の指針値については、騒音影響に関する等価騒音レベルによる新たな科 学的知見等に基づいて導いたものであるが、一般地域及び道路に面する地域ともに現行の環境基準値に比べ全体として強化されたものとなっている。 幹線道路近接空間における指針値の特例は、我が国の国土条件、自動車交通の状況等の 下で、このような空間に現実に住居等が多数立地し、また、対策面での制約等があることを踏まえ、その生活環境を適切に保全するために設けたものであるが、これは、環境基準 の対策の目標としての性格を重視し、効果的な沿道対策等を促すものとすることが重要と判断したものである。 政府は、以上のような趣旨を踏まえ、その適切な運用を図りつつ、環境基準の達成に向 けて制度的枠組の拡充を含め総合的な騒音対策の推進に取り組むべきである。