・ 本報告書は、昨年10月の環境研究技術基本計画の策定に関する環境庁長官からの諮問に対し行われるものである。
・ 折しも、2001年の省庁再編に伴い、国の研究機関の在り方も変わろうとしている。多くの機関が独立行政法人化することにより、一般的に、研究機関としての独立性が高まり、研究体制の多様化や研究の効率化が進んでいくことが期待されている。
・ また、地球温暖化に対する京都議定書策定の例のように、世界のすべての国が英知を集めて、新しい体制で様々な環境問題に取組もうとしている。このような中、「知恵や知識の体系」としての環境研究や環境技術開発の重要性が、21世紀に向かいさらに増大していくのは明らかである。
・ この報告書では、現在までのシステムの検討及び海外での推進体制の動向も勘案しつつ、環境研究及び環境技術開発の推進体制の改革の基本的方向を提言することとした。
・ この計画の環境基本計画の見直しへの反映の仕方やこの計画の今後の具体化に当たっては、財政的、制度的制約など諸条件を、十分に勘案していく必要がある。
・ 21世紀における我が国の基本的な知的基盤の一環をなし、戦略的にも重要な環境研究及び環境技術開発を、我が国の占める国際的地位にふさわしいレベル及び形態で進めていくことが必要である。
(1)環境研究及び環境技術開発を取り巻く全般的状況
・ 環境研究や環境技術開発の役割は、(i)環境問題の発掘、原因の同定、(ii)環境問題の性質、規模、影響の程度などの究明、(iii)環境問題への効果的な取組み方策の分析、提案、(iv)技術開発などによる環境問題への対応方策の多様化 などである。
・ 環境研究や環境技術開発は現在までも進められてきたが、環境問題が局地的問題から地球規模の問題へと拡大し、内分泌攪乱物質による汚染で代表されるように、次世代にも影響を及ぼすなど時間的空間的にも拡大しつつある。
・ 今後21世紀に向かい人間活動の総量がさらに増大し多様化すると予測される中、人類の生存基盤である地球の希少な自然資源の破壊や改変がさらに深刻化すると考えられる。これらの問題に効果的に対応していくため必要な環境研究や環境技術開発の重要性は、21世紀に入り地球的規模で飛躍的に高まることは確実である。
・ 環境研究や環境技術開発は、21世紀における我が国の最も重要な知的資産の一つを構成するものとして、戦略的にも重要である。広く地球益の推進にも寄与するのみならず、エコビジネスなど新たな事業や雇用の創出に貢献するからである。
(2)環境研究及び環境技術開発の現状
・ 地球環境問題に関しては、「地球環境保全に関する関係閣僚会議」が、毎年度「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、政府全体として体系的に、関連する研究や技術開発を進めている。環境庁は、この閣僚会議が定めた「総合推進計画」に基づき、毎年「地球環境研究計画」を策定し、「地球環境研究総合推進費」制度により、政府の関係省庁の研究機関が一体となった地球環境研究を推進してきた。
・ 公害防止や自然環境の保全など地球環境以外の研究や技術開発については、関係省庁の試験研究機関の公害防止等に関する試験研究費を環境庁が一括して予算計上するなどし、総合的に推進してきた。この制度の下では、当面する問題のみならず、中長期的な視野に立った対策推進の基礎を確保するよう配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してきた。また、関係省庁においても、それぞれの所管行政との関連で、環境保全に資する様々な研究及び技術開発を実施してきた。
・ 地方公共団体においては、環境保全に係る試験研究機関において、化学分析・環境モニタリング分野に加え、生態系の保全に係る生物学的な分野や地下水の汚染物質の浄化に関する研究も進められてきた。また、民間においては、各産業ごとに環境保全に向けた「自主行動計画」を策定し、関連する環境研究や環境技術開発に取り組んできた。
・ 欧米先進国では、環境研究や技術開発に関する国家的戦略を立て、推進している例が多い。例えば、米国の国家科学技術会議は、1997年に「持続可能な未来のための技術」と題する報告書をまとめ、今後の環境技術の研究開発の方向性を打ち出している。この報告書は、環境を改善し維持しながら、雇用の創出につながる長期的経済成長を実現していくため、米国は、これまでの汚染対策・修復技術から、汚染の防止や監視・アセスメントに重点を移しつつ、ライフサイクルの視点を取り入れた新しい「産業エコロジー」を展開していかなければならないと指摘している。また、ドイツや英国なども、環境研究や技術開発の戦略的重要性を認識し、環境研究や技術開発に関する国家戦略を策定している。環境研究や環境技術開発は、新たなビジネスや雇用を生み出す重要な活動の一つとして位置づけられている。
・ 政府全体を俯瞰すれば、多くの省庁が、それぞれの所管との関連で、様々な観点から多くの環境研究や環境技術開発を推進している。しかし、全体を通じた明確な戦略や相互間の連携が十分でないなどの問題も指摘されている。
・ 環境庁では、上述の「地球環境推進費」や「一括計上」などで関連研究を進めてきたが、課題の固定化、予算面の制約、人材面の制限などあり、量的質的に新たな研究ニーズに対応し切れていない。
・ 一方、欧米では、環境研究に関する取組みを格段に強化してきている。環境研究に関する戦略的重要性を踏まえ、国家的戦略を策定するなど国全体で優先的環境研究の企画、立案、推進、及び評価を柔軟かつ強力に推進している。
(3)計画策定の意義
・ 21世紀を見通した環境研究及び環境技術開発の方向性、重要課題、課題推進のための施策等を示すとともに、環境研究及び環境技術開発を総合的、一体的に推進していく必要。
・ 現行の環境基本計画においても、環境保全に係る共通基盤的施策の重要な柱として、調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の推進等を位置付けたところであり、環境行政を推進していく上で、今後とも環境研究及び環境技術開発を積極的に推進していくことが重要。
・ 本報告書は、上記の全般的状況、さらには2001年に予定されている省庁再編なども踏まえ、新たな環境基本計画の策定に先立ち、戦略的重要性の増す環境研究及び技術開発に関し、新たな枠組みを提案しようとするものである。
・ 環境研究技術基本計画は、今後10年程度を見通した、今後5年間の環境研究・環境技術の推進政策を具体化するものとして策定するものであり、その目的は次のとおり。
①今後の環境研究及び環境技術開発の方向性を示す指針とする。
第1章 計画策定の背景と意義
第2章 環境研究技術の基本的方向
第3章 環境研究技術の重点課題
第4章 環境研究技術の推進方策
②今後の取組が必要とされる環境研究及び環境技術開発に関する重点課題を明らかにする。
③環境研究及び環境技術開発を総合的・計画的に推進していくための施策を示す。
環境研究及び環境技術開発は、社会経済情勢と密接に関連した目的志向型の研究であり、学際的かつ国際的視野を持ちつつ、大規模集中的ではなく、分散型でかつネットワーク参加型の展開を図っていく必要のあるものであり、21世紀には経済活性や雇用確保の観点からも戦略的重要性を有するものである。このような特性を踏まえて、以下の基本的方向に沿って各般の施策を実施する。
(1)環境政策との連携強化
環境研究及び環境技術開発は、新たな環境問題を発見し、環境変化の機構を解明し、人間活動と環境との相互作用を明かにするとともに、環境保全に関する施策の立案等への貢献を通じて、環境問題の解決に資することを求められている。すなわち、環境研究や環境技術開発は、学術や科学技術そのものの振興ではなく、環境問題の解決に貢献するという明確な目的を持ち、環境政策との密接な連携の下に推進されなければならない。
(2)社会経済情勢への迅速な対応
環境研究及び環境技術開発に対する主要なニーズは、環境問題解決の道筋を明らかにするものとして発生するものであり、国際的な枠組みの規定や新たな科学的知見の集積、社会経済状況、国民の生活様式などに依存しており、それに応じて変化する。オゾン層破壊や地球温暖化に関する国際的枠組みの策定により、新たな研究開発テーマが創造され推進されてきたのはその例である。従って、環境研究や環境技術開発は、これら関連する社会経済条件の変化に対し、迅速かつ柔軟に対応して推進されていくことが不可欠である。
(3)体系的・総合的な視点の重視
地球温暖化を始め、最近の環境問題は、特に、多くの要素が複雑に絡み合った複合的な問題である。実際、中には、気圏・水圏・地圏・生物圏と多岐の領域に関連し、地域から地球規模までの空間的な広がりと、将来世代にわたる時間的な広がりを有するものも多い。このため、環境問題に効果的に対応するには、生態学、化学、物理学、工学、農学、人文科学、社会科学など多くの学問分野の知見の総合化が必要である。特に、最近は、社会経済問題、人口問題、食糧問題、安全保障問題等の大規模かつ深刻な諸問題と複雑に絡み合い、環境問題がより多様化してきていることから、分野横断的、学際的な取り組みが一層重要視されている。
(4)各主体間の連携・交流の促進
近年、環境問題は、問題の原因及び被害の両面において、国、地方公共団体、大学、事業者、国民、民間団体、さらには諸外国や国際機関といった、多くの主体の様々な活動と密接に関係している。どの問題をとっても、環境研究や環境技術開発のみでは解決できないし、また、環境研究や環境技術開発抜きでも解決できない。つまり、環境研究や環境技術開発は、知恵や知見や技術をこれら様々な主体間で共有され、これらの主体の参加・連携・協力の下に、環境問題への効果的な取組を促進するものでなければならない。そのため、関係する各主体間の連携・交流を促進し、企画、立案、実施、評価、成果の共有、実際の応用に至るそれぞれの段階で、適切な関与を積極的に行っていく必要がある。
(5)世界へ向けた成果の発信
地球環境問題は、我が国だけでは解決できない人類共通の課題であり、各国が協力して取り組むべきものである。また、地域的な問題であっても、他の国にも同様な問題が存在しているケースが多いため、研究成果や経験を世界的に共有することは、一般に極めて有用である。言うまでもなく、世界の国々は、経済社会的状況や環境問題への関わりなどが大きく異なっているのが常であり、地球温暖化などの問題への対応で明らかなように、各国が共通の枠組みで協力するのは決して容易なことではない。環境研究や環境技術開発は、このような各国間の違いを埋め、いわば各国間の共通の言葉として議論の土台を創る上で、極めて重要な役割を持ってきている。このため、他の国の研究機関や国際研究ネットワークとの連携を促進し、世界に向けた成果を発信していくことが必要である。
(6)地域の特性の活用
一般に、環境問題は、当初地域において顕在化し、解決の糸口もその中から見出され得ることが多い。また、地球環境問題と言っても、それに対処するためには、結局は、地域の環境保全努力の積み上げによる部分が大きい。このため、環境研究や環境技術開発を、地域の自然・社会条件などを考慮し、併せて、地域にある色々な資源を最大限に活用することを念頭に、展開していくことは極めて重要である。特に、地域の環境を熟知している地方公共団体、地域における社会経済活動への影響力も大きい事業者、民間団体等の研究開発ポテンシャルが十分に発揮される体制の構築が必要である。
(7)環境技術の開発、普及、移転
環境技術の開発は、環境保全対策の選択肢を広げるものであり、効果的な対策を推進していく上で、最も重要な活動の一つである。しかし、環境技術は生産には直結していないため、公共の関与がない状態では、一般に優先順位の低いものとして扱われ兼ねない。そのため、環境保全のための技術開発の推進を目的とした、国などによる適切な環境づくりや支援体制の整備が求められる。
また、地域の自然的社会的条件への適応を考慮した技術開発や、事業者、民間団体等の自主的積極的な取組の促進等により普及に努めることが必要である。開発途上地域との関連で考えれば、それらの地域の自然的、社会的、経済的な状況に適合した、いわゆる「適正技術」の開発や普及、移転を図ることが重要である。
(8)環境ビジネスの振興・雇用の創出
環境保全に関する事業活動(環境ビジネス)の振興は、環境への負荷の低減に資する技術や製品等の開発・提供を通じて、効果的でかつ効率的な環境技術の普及を可能とするものであり、環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会を形成する上で重要な役割を担うものである。特に、今後、地球環境保全に関する努力が本格化する中、世界的に環境に関する技術や知見に対する需要が高まると考えられることから、21世紀に向かい、我が国に新たな産業及び雇用をもたらす大きな契機の一つとすべきである。
環境問題への対処は、地球規模の環境問題、化学物質の環境汚染、自然生態系の破壊などの顕在化している諸問題への対応とともに、今日の環境問題の大きな要因となっている大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済システムを持続可能なものへと転換していくことが不可欠となっている。このため、環境保全の取り組みの科学的な根拠となり、また対策の基盤となるべき、以下の環境研究及び環境技術開発の重点的な推進が必要である。
(1)環境変化の機構解明
環境問題に対応するための研究は、その基盤的情報として環境の状況を把握し、環境変化の機構を解明し環境変化を予測することから始まる。
この研究は、環境対策の出発点ともなる基盤的な研究であるが、学術や科学技術の振興そのものではなく、環境問題の解決に資するという明確な目的の下に、関連する調査や研究との関連を踏まえつつ、明確な戦略に基づいて行なわれるべきものである。
具体的には、ダイオキシン・外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)などの化学物質の環境中での挙動の解明、地球温暖化をはじめとする地球規模の環境変化の機構の解明・予測、野生生物の生態の把握や生態系の実態解明、生態系の構成要素間の相互関係の解明などの重点的な推進が必要である。
また、環境の監視・観測に不可欠な監視技術の開発も重要であり、革新的な計測技術やモニタリング手法に関する研究開発などの重点的な推進が必要である。
なお、これらの研究は長期間にわたる場合も多いことから、持続的な実施体制の確保に留意するとともに、常に研究の評価を行うなど的確で戦略的な推進が要求されるものといえる。
(2)環境影響の把握
人間活動による環境への負荷は、環境の変化をもたらし、それは人も含めた生態系にさまざまな影響を及ぼす。これらの影響は、その影響の生じる蓋然性、影響の深刻さ及び影響を受ける対象の範囲の観点から評価し理解することが必要であり、これらは、環境リスクとして捉えることができる。
このため、化学物質による環境汚染、地球規模の環境変動の及ぼす影響、生態系の破壊による野生生物の種の絶滅などの諸課題について、それらの環境影響の把握、すなわち環境リスクの評価研究を重点的に推進する必要がある。また、不確実性の残る中で政策を進める必要から、政策の合意形成上重要な環境リスクの評価手法やコミュニケーション手法などの研究も重要である。
また、このような視点は、物質循環を考慮した河川流域全体あるいは、都市圏域全体として環境を把握することにもあい通じるものである。
なお、これらの研究の推進にあたっては、海外における取り組みや国際的な枠組との関連に配慮することが必要である。
(3)環境保全対策
環境制約が21世紀における我が国のありようを左右する大きな要件の一つであることが明らかとなりつつある。このため、社会経済システム及び生活スタイルを持続可能で自然と共生するものへと再構築することが不可欠となっている。
したがって、対策の基盤となる技術の開発とともに、政策の選択肢を提示しうるような研究の推進が重要である。
・ 本章では、2章に定めた基本的方向に沿って、3章に掲げた具体的課題についての研究開発を推進するための施策のあり方を検討する。 ・ そのためには、まず、さまざまな環境研究技術の課題の特質を捉え、各課題のタイプに応じた的確な制度を構築し、その運用を図ることが基本となる。すなわち、環境研究技術推進制度の構築と運用を通じ、基本的方向にそった対応が、それぞれの制度にふさわしい形で採られることが望ましい。 ・ 一方、課題のタイプにかかわらず、横断的・共通的に推進すべき施策課題も少なくない。 ・ このため本章では、まず、第1節で異なった制度の構築が求められる環境研究及び環境技術開発の課題のタイプを分類し、それぞれのタイプに応じた施策のあり方を検討した。その上で、第2節において横断的・共通的に実施すべき政策課題を取り上げた。
第1節 環境研究及び環境技術開発の推進の基本的枠組み
異なった制度を構築すべき必要性などを考慮した場合、環境研究及び環境技術開発の課題を(1)基盤的・先導的研究課題(2)問題対応型研究課題(3)政策提言・政策対応型研究課題(4)環境技術開発の4つに分類することが考えられる。 ここでは、これらの4つの課題のタイプごとに検討した。今後、こうした施策のあり方を念頭に置きつつ、的確な制度の構築と運用に向けた施策を展開していくことが必要である。
(1)基盤的・先導的研究課題
環境問題に対応するためには、問題の未然防止もしくは早期発見が最も望ましいことは言うまでもない。また、環境問題が顕在化した場合にも、それに即答し得るよう、基礎的知見を充実しておくことが重要である。こうした未だ顕在化していない問題を検出しこれを未然防止するための研究や、今後の環境研究の基盤となりうる先導的な役割を果たすための研究は、問題が明らかとなっていないがゆえの特性を有しており、その他のタイプの推進施策とは異なる施策の実施が求められる。すなわち、これらの研究は、基盤研究的な色彩が強く、創造的かつ先進的な取り組みが求められることを踏まえる必要がある。 すなわち、その推進に当たっては、(i)さまざまな主体が参画し、独創性を発揮できるものとなっていること、(ii)研究の企画や実施は研究者の自主性を保証したものとなっていること、(iii)研究成果の科学的評価に重点を置いたものであること、などの条件が重要となる。
(2)問題対応型研究課題
対処すべき環境問題が同定されれば、その問題の因果関係や原因を究明するとともに、環境影響の地理的範囲や程度の解明、対策をとらない場合など特定のシナリオの下での将来予測、劣悪化した環境の修復の可能性などについて調査して問題の全体像を解明し、さらにはそれらに的確に対応するための政策や政策手段を研究することが必要となる。多様化・複雑化する環境問題に対応するためには、こうした課題に対する取り組みを一層充実する必要がある。 また、こうした取り組みには、行政分野や学問分野などについての既存の組織や体制にとらわれず、多分野・多領域にわたる体系的かつ学際的な検討が必要となることも少なくない。実際、先に見たように、こうした分野間の連携の重要性が特に大きくなっている現状を踏まえると、こうした調整的役割を果たすための制度についても充実が必要である。 従って、この種の研究の推進に当たっては、(i)主要研究項目や研究体制など、研究のデザインを問題の性質に応じ適切なものとすること、(ii)特に、既存の組織や体制の枠組みの下で進めるべき研究とそれらの枠組間の連携・調整を念頭に置いた研究とを分け、それぞれに適した制度の下で研究を推進すること(iii)最大3年程度の時間的制約の中で集中的にかつ体系的に研究を実施すること、(iv)比較的規模の大きい資金を確保すること、(v)評価は、外部の専門家も加え、多角的かつ客観的に行うこと、などの要件が満たされる必要がある。
(3)政策提言・政策対応型環境研究課題
一般に、対処すべき環境問題の因果関係や全体像が明らかにされた場合、まず、全体的な対応の枠組みが構築され、その枠組みの下での具体的な施策の構築が求められる。したがって、たとえば、一定期間内に環境汚濁負荷を一定量以下に低減することが全体的な枠組みとして定められた場合、あるいは最終的な目標達成に向けて一定期間内に解明すべき研究課題等が定められた場合、期間内に具体的な政策の選択肢の効果の評価や新たな政策手段の開発等を実施することにより、目標達成に資することが不可欠となる。 この種の研究は、経済的ないしは社会的側面からの分析を含め、通常、政策の設定や実施に大きく関連するため、(i)厳しい時間的制約で実施するなど緊急な要請に対応可能なものであること、(ii)研究資金は、短期集中的に使用が可能で、予測できない費目への支出にも柔軟に対応できるものであること、(iii)データの解釈や条件の設定、結果の捉え方などについて、外部の専門家も含めた広範な評価が必要であること、などの要件が満たされる必要がある。
(4)環境技術開発
環境技術の開発は、ある問題に対しとりうる政策の選択肢を拡大し、より効果的な施策の推進に資する。その意味で、環境技術の開発は極めて重要である。しかし、環境技術の開発は、市場原理のみで十分に推進されることは少なく、環境問題に対処するための政府の政策や助成策が一つの前提となって、その範囲で推進されるのが常である。従って、これらの技術を推進する上で、政府や国際機関など公共サイドの機関の果たす役割には大きなものがある。 技術開発には、通常、(i)基礎研究、(ii)実証研究、(iii)実用化研究、(iv)技術移転及び普及など、いくつかの段階があり、関与する研究者の数や必要な資金額も、これらの段階に応じ変化する。技術開発には相当程度の準備期間があるのが通常であり、特定の技術が特定の政策の前提となっていて、目標年次などが設定されている場合には、計画的かつ集中的な投資が必要となる。環境技術開発を進めるに当たっては、環境以外の技術開発の場合に行われてきたように、基礎研究から実用化、普及研究に至るまで、それぞれの段階に応じたきめ細かな研究支援システムを整備する必要がある。 他の分野の技術開発と比べ、環境技術開発の推進では、国など公共サイドの果たす役割が大きいため、(i)将来の技術的ブレークスルーの契機となり得るような独創性の高い基礎的な研究については、競争的環境の下で、国などの積極的な奨励策ないしは直接の関与が必要であること、(ii)実証研究の段階では、産官学や民間の専門家などを巻き込んだ、共同研究が必要であること、(iii)従来の技術開発の基本的な概念とは異なる、小規模、分散型で地域特性に敏感な、労働集約的な技術の開発にも重点を置く必要があること、(iv)開発された環境技術が、市場で必要とされるような政策環境を作り出す必要があること、などの要件を十分満たした環境技術開発推進体制が整備される必要がある。
第2節 横断的・共通的に推進すべき施策
上述した各課題タイプ毎の具体的な施策の推進とあわせ、横断的あるいは共通的に実施すべき施策を以下に取りまとめる。
(1)環境研究及び環境技術開発の総合的な推進
(2)連携と協同
・ 研修及び留学制度の拡充:語学や他分野の基本的事項の修得など研究者を対象にした研修プログラムの整備、途上国を含む諸外国の大学への短期留学、国際的な研究ネットワークでリーダーとして活躍できる研究者の育成を目的とした研修制度の整備などの施策を推進する。 ・ フェローシップ制度の拡充: 国内外の若手の学位取得者を主な対象に、特定の研究プロジェクトを、一定期間、共同で実施することを前提に、国の研究機関などに招聘する。これは、民間や諸外国にある知見や活力を短期的に活用するために有効であり、既存のシステムの強化を含め、その充実を図る。 ・ 人材交流の推進: 国や独立行政法人の研究者と行政官や民間の研究者さらには外国や国際機関の研究者や専門家との人事交流の促進を図る。これを促進するため、任期付きで外部の研究者などを雇用するシステムを整備、強化する。また、国や独立行政法人の研究者が、一定期間、民間や外国など他の研究機関が推進する研究プロジェクトに参加できるようにする。 ・ 流動性のある研究制度の構築:環境研究の取り組むべき課題が膨大になってきており、かつその内容も学際的かつ分野横断的なものが多くなってきている。またその一方で、人材確保は、徐々にしか進み得ないという現実がある。したがって、このような性格を有する環境研究を、限られた人的資源もとで的確に推進していくためには、従来の研究体制に加え、特定の研究プロジェクトを期限付きで立ち上げ、集中的に人材を投入して研究を推進するような流動性のある研究の仕組みが必要である。 ・ 研究支援者の確保:研究開発を円滑に推進するためには、高度な技能を有する外部の人材を、研究補助者又は技能者として招聘するなどの研究開発を支援する体制を構築することが重要である。特に、大学院学生を研究補助者として活用することは、人材の育成といった観点からも有用である。 ・ 研究プロジェクトへの自由なアクセス:公募型研究プロジェクトについては、原則として、一定の資格を有していれば、国や独立行政法人以外の研究者でも応募できるものとする。このような競争的環境の中で、人材を育成する。
・ 研究の性格に応じた資金メカニズムの創設:第1節に詳述したように、環境研究や環境技術開発には、かなり本質的にタイプの異なるものが存在する。また、国際協同を進める上では、異なった資金的要件が存在する。したがって、こうした異なる需要に柔軟にこたえる資金メカニズムを創設することが重要である。その際、広く国内外の人材を結集し、柔軟かつ弾力的な予算の運用が可能となる特殊法人等の活用を図ることが考えられる。 ・ 資金の柔軟性の確保:研究資金は単に量的に充足しているだけでは十分でないことが多い。研究目的を最も効果的に達成できるよう、資金が柔軟に活用できることが重要である。そのためには、特定の費目あるいは予算年次に縛られることなく、研究環境の変化に応じて、研究資金を柔軟に使用していくことが重要となる。この措置は、研究者に研究実施に当たってより多くの裁量を与えることになる。これは、研究の効率的実施を図る上で重要であるが、研究成果の適正な評価など事後的評価の強化とあいまった措置である。 ・ 資金分担の推進:多くの環境研究が、地域の自然的社会的条件に応じて企画されるものであり、あるいは、国際的な視野の下で推進されるという特性を有したものであるならば、国だけでなく、地方公共団体や国際的な研究プログラムやネットワークと共同で資金負担をしていくことが重要である。また、研究内容によっては、民間企業など公共セクター以外の主体にも利益をもたらすものがあり、そのような場合には、共同研究などの方式による資金分担も必要となる ・ 補助金、税制措置など: 民間企業やNGO、さらには途上国の研究機関などが環境に関する研究や技術開発を実施し、それが環境保全という公共目的の達成に資すると考えられる場合には、逆に、国から、それらの主体に対し、適切なレベルで補助ないしは税制上の措置を講じる必要がある。少なくとも、環境に関する研究を、他の生産に直接関係する研究などと同レベルで、民間企業などで推進させていくためには、このような措置が必要である。結果として、民間などに存在する活力やノウハウを環境研究に還元していくことになる。
・ 共同利用施設及び装置: 特定の施設ないしは装置を共同利用することにより、研究がより効率的に推進される場合がある。衛星、船舶、大型コンピューターの利用など、特に、大型の施設や装置が必要な研究にそのような場合が多い。そのような装置ないしは施設の利用は、適切な費用負担の下、できるだけ外部の研究者や研究機関にも、アクセスを確保するよう措置していく必要がある。 ・ 外国での共同利用施設: 特定の施設や装置が外国に設置されている場合や、たとえば熱帯林の研究プラットフォームのように外国にしか設置できない場合がある。日本の研究者がこのような外国の特定施設や装置を活用して、研究を実施できるような環境を整備していく必要がある。外国の政府や機関が設置した施設や装置を利用する場合には、たとえば、共同研究プロジェクトの実施などにより、日本から何らかの具体的貢献をしていくことが有効な場合が多い。一方、途上国にしばしば見られるように、必要な施設や装置を、日本自身が整備しなくては研究が実施できない場合は、政府開発援助資金(ODA)の利用も含め、資金的ニーズにいかに対応できるか検討する必要がある。
・ 環境モニタリング:環境問題を同定し、それに対する何らかの対応策をとれば、その対応策がどの程度有効であったのか、今後対応策を変更する必要があるのかなどを決定するのに、環境モニタリングが不可欠となる。特に、近年、温暖化やオゾン層の破壊、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)による影響などが問題になり、地球規模での効果的かつ経済的な観測手法やシステムなど、合理的なモニタリング体制の整備に関する需要が高まってきている。温暖化に関する京都議定書のように、温室効果ガスの排出や吸収に関するモニタリング結果が、排出量取引などの経済的仕組みとも関連してくる場合には、環境モニタリングは戦略的重要性を帯びてくる。また、モニタリングデータそのものが、多くの環境研究にとって不可欠であることから、モニタリングは環境研究の基礎としての重要性を有する。 環境モニタリングは、その目的により、どのような頻度で、どのような地理的範囲で、どのような方法で行うべきであるかによって変化する。したがって、既存のシステムの利用、外国も含め他の主体との協力、データの標準化による互換性の確保などを図りつつ、必要なデータを継続的に取得していくためのモニタリングの戦略作りが求められる。
・ 普及・啓発活動の促進: 環境保全対策を効果的に実施するためには、環境研究や環境技術開発の知見を普及し、社会経済活動や生活様式を環境負荷低減型のものへと転換させるように誘導することが重要である。また、今後、環境保全に向けた研究開発を推進するに当たり、国民の研究開発に対する関心を喚起し、理解を増進するとともに、積極的な参加を促すことが不可欠である。このため、成果を一般向けの分かりやすい形に変換し、シンポジウム、環境雑誌、インターネット等の情報提供手段を十分に活用し、普及・啓発活動に努めることが必要である。
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