2005年の国際博覧会に係る環境影響評価手法検討委員会報告書<概要>

平成10年3月

2005年の国際博覧会に係る

環境影響評価手法検討委員会

I はじめに

2005年の国際博覧会(以下「本博覧会」という)については、その開催申請に際して閣議了解において、「環境影響評価を適切に行うこと。」とされている。

本委員会は、本博覧会に係る環境影響評価の基本的な実施方法を、平成9年6月に公布された環境影響評価法の趣旨を踏まえ、また、関連する長期的地域整備事業の環境影響評価との連携を考慮し、通商産業省が「2005年の国際博覧会環境影響評価要領(仮称)」(以下「本要領」という)として策定するに際し、専門的な観点から助言を行うことを目的として、平成9年10月8日に発足し、これまでに6回の委員会の開催、現地視察、途中段階での作業経過の公表等を経て、この度最終報告書をとりまとめたものである。

本報告書に記載の環境影響評価の評価の項目と手法については、現時点で博覧会事業として考え得るものを網羅的に示したものであり、今後、博覧会の環境影響評価の実施段階においては、(財)2005年日本国際博覧会協会(以下「博覧会協会」という。)が要領に基づき、本博覧会事業の内容に鑑みて、適切に項目と手法を選定のうえ環境影響評価を適切に行うことが必要である。

 

II 本博覧会における環境影響評価の基本的考え方

本博覧会は、「新しい地球創造:自然の叡智」をテーマとするものであり、本環境影響評価はこのような博覧会の理念にも合致する必要がある。

また、会場候補地は、古くからの治山・砂防等人間の営力の積み重ねによって、復旧・育成されてきた自然があり、豊かな生態系が賦存しているとともに、都市近郊における身近な自然との触れ合いの場としての重要性も指摘されている。

以上を踏まえ、博覧会協会が本博覧会に係る環境影響評価を実施するに当たっては、次に示すような基本的考え方にたち、先駆的な取り組みを行うことを期待する。

1 環境影響評価法の趣旨を先取りする新しい環境影響評価のモデルを示す

本環境影響評価は、環境影響評価法の趣旨を先行的に取り込み、事業に関する情報を国民に広く提供し、これに対する意見を的確に把握、事業計画に適切に反映できるものを目指す。また、生態系や環境への負荷の観点にも配慮した、環境への影響の回避・低減に努力するものを目指す。

2 本博覧会の「人と自然の共生」という理念の実現に資する環境影響評価を目指す

本環境影響評価においては、 環境影響の回避、低減及び代償措置を検討するに当たって、「人と自然の共生」という本博覧会の理念の実現を図ることを目指す。

3 博覧会会場計画策定と連動した環境影響評価を導入する

本環境影響評価においては、 環境影響評価の過程で、計画策定上の制約条件等を明らかにし、予見し得る環境への悪影響を極力未然に回避できるよう計画づくりに反映するといった、博覧会会場計画策定と連動した取り組みを目指す。

4 地域整備事業に係る環境影響評価との連携を図る

本博覧会は実態上、会場候補地において都市計画手続が進められる長期的地域整備の事業地を先行使用して行うものである。愛知県からは、これらの環境影響評価の実施に際して、本委員会の検討結果を尊重し、博覧会協会とも連携を図りつつ実施する旨の表明がなされているところであり、全体として適切な環境影響評価の実施を目指す。

 

III 本博覧会における環境影響評価の手続について

1 総論

(1)環境影響評価法の趣旨を先取りした手続

本博覧会の環境影響評価における手続きは、環境影響評価法の手続を踏まえた、以下の要点を骨格とする要領に基づいて実施すべきである。従前の手続と比較した特徴は、{1}手続のより早期の段階からの情報の提供、{2}住民の関与。

(2)評価書の内容遵守

博覧会協会は、要領に従って作成された評価書の内容の遵守に努めるべきである。

(3)幅広い意見聴取

本博覧会に関する住民への情報発信・提供や意見聴取を幅広く行うことが重要であることに鑑み、要領に基づき聴取される意見はもとより、その他の機会に寄せられる各種の意見についても積極的に耳を傾けたり、インターネットを活用するなど、博覧会協会が誠実に対応することが望まれる。

(4)地域整備事業に係る環境影響評価との連携

本博覧会に係る環境影響評価の実施に当たっては、地域整備事業(新住宅市街地開発事業及び道路事業)の環境影響評価との連携を手続の面においても確保する必要がある。例えば準備書の提出時期を合わせる、全体として統一された資料を作成するなど、本博覧会に係る環境影響や保全のための措置が一体のものとして分かりやすく住民や関係機関に提示できるよう努める。    

2 手続の要点 

(1)実施計画書

博覧会協会は、環境影響評価実施計画書を作成し、これを愛知県知事及び関係市町村長に送付するとともに、実施計画書の公告・縦覧を行い意見書の提出を求める。さらに寄せられた意見書の概要を愛知県知事及び関係市町村長に送付し、関係市町村長の意見を勘案した愛知県知事の意見を求める。

(2)準備書

博覧会協会は、実施計画書についての愛知県知事の意見及び意見書の内容を踏まえて、環境影響評価の項目及び調査・予測・評価の手法を選定し、これに基づいて環境影響評価を行い、その結果を準備書としてとりまとめる。これを愛知県知事及び関係市町村長に送付するとともに、公告・縦覧、説明会の開催等を行い、意見書の提出を求める。さらに、寄せられた意見書の意見の概要及び当該意見についての博覧会協会の見解を愛知県知事及び関係市町村長に送付し、関係市町村長の意見を勘案した愛知県知事の意見を求める。

(3)評価書

博覧会協会は、愛知県知事及び意見書の意見を踏まえ準備書の記載事項について必要があれば修正を行い、評価書を作成する。これを通商産業大臣に送付、通商産業大臣は環境庁長官の意見を勘案して評価書についての意見を博覧会協会に述べる。博覧会協会は、通商産業大臣の意見を勘案して評価書を修正し、関係機関に送付するとともに、公告・縦覧を行う。また、博覧会協会は、実施計画書の公告から評価書の公告を行うまでの間に、事業内容の修正(軽微な修正は除く)を行った場合には、環境影響評価その他の手続を再実施する。

(4)追跡調査等

博覧会協会は、評価書の公告を行った後、環境保全についての適正な配慮を行い事業を実施するとともに、評価書に記載された追跡調査計画に基づき追跡調査を実施した後、適切な時期に公表し、関係機関に送付する。これに対し、関係機関からの助言があった場合や住民等の意見が寄せられた場合には、これらに配意して、必要に応じて新たな環境保全措置の検討等を行う。

 

 

IV 本博覧会における環境影響評価の技術について

1 総論

(1)環境影響評価法の趣旨を先取りした手法

本博覧会に係る環境影響評価のうち技術的な事項については、環境影響評価法の趣旨を踏まえ、また、計画策定に当たり、参加国の意向を反映していくことが重要等の博覧会事業の特性等も勘案し、以下に記載する内容を主旨とする技術に係る要領に基づいて実施すべきである。

(2)実施計画書の作成

博覧会協会においては、できる限り早期の段階から、会場候補地の概況を把握し、実施計画書を作成する必要がある。この段階における会場計画の諸元は、骨格となる要素により構成される。

(3)環境影響評価の項目選定

環境影響評価の項目は、環境基本法制下の、環境の自然的構成要素の良好な状態の保持、生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全等の新たな枠組に対応する一方、本博覧会の事業の特性及び地域環境の特性を勘案しつつ、適切に選定する。

(4)調査・予測・評価の実施

{1}調査

調査は、各項目の現況並びに対象地域の自然条件及び社会条件に関して、既存資料、現地調査等により行うこととし、特に留意が必要な項目については、重点的な調査が必要である。

また、客観的な調査データを取得し、管理を適切に行うとともに、信頼性のある既存資料の活用を図る。一方、調査の実施そのものにより環境への影響が懸念されるような調査については極力避けるよう配慮する。

{2}予測

事業実施に伴う環境影響の程度を定量的な変化量に置き替えて示す等の方法を選択することにより、できる限り影響の程度が比較・対照し易いような手法を導入する。その際、環境影響の予測には科学的知見の限界や計画の熟度等によって相当程度の不確実性を伴う場合もあることから、予測の不確実性について、その程度及びそれに伴う環境への影響の重大性に応じて整理をすることに留意する。

{3}評価

会場の機能配分、レイアウト、工事の方法等会場計画に係る幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、環境への影響が回避・低減されているかについて評価する。

また、環境基準や県の環境基本計画等における環境保全上の目標と調査及び予測の結果との整合性について検討する。

(5)環境保全措置の検討

環境保全措置は、博覧会協会が実行可能な範囲で検討されるもので、環境影響の回避・低減のための措置と、損なわれる環境要素に対する代償措置とがある。環境保全措置の検討に当たっては、回避・低減のための措置が優先されるべきであり、代償措置については、必要に応じて慎重に検討した上で採用する。

(6)追跡調査の実施

過去において類似の措置が取られた事例が少ない技術を導入するなど既存の知見の集積が不十分であるなどの場合には、予測の不確実性は大きくなる。

このような予測や保全措置の効果等における不確実性に対しては、評価書が公告・縦覧された後に(工事中及び供用後から解体工事終了まで)、評価書に記載された追跡調査計画に基づき追跡調査を実施し、各時点における環境の状態等を把握するとともに、予測結果や保全措置の妥当性を検証する。

(7)環境情報の整備

本環境影響評価の全過程で得られた情報については、希少生物の保護に留意しつつ、公表等を前提として、今後の活用に資するよう配慮されることが望まれる。

2 項目選定

環境影響評価の項目は、環境要素―影響要因マトリクスの標準例や類似例を参考に、本博覧会事業において想定される影響要因と、それによって影響を受けると想定される環境要素を明らかにした上で、適切に選定することとする。マトリクスは、一般的に博覧会において生じる可能性のある影響要因を網羅的に想定し、既存資料等によって把握できる会場候補地及び周辺の地域環境を念頭において作成した。

従って、閣議決定に基づく環境影響評価で通常の場合に対象としているよりも相当程度幅広い環境要素が対象となっているため、博覧会協会が実際に環境影響評価の項目選定を行うに当たっては、本博覧会事業の特性及び地域環境の特性、実施計画書の公告・縦覧により得られた環境の保全の観点からの情報等により、必要に応じて項目の削除(又は追加)を行う。

3 項目別の調査手法

現在の科学的知見を踏まえて、既存の調査データが相当程度蓄積されている会場候補地における一般的な博覧会事業を想定した調査手法の標準例の概要は次ページのとおり。

本博覧会事業の特性及び地域環境の特性、実施計画書の公告・縦覧により得られた環境の保全の観点からの情報等により、この標準例に示された手法に検討を加え、適切に調査手法を選定する。

4 項目別の予測手法

調査手法と同様、予測手法の標準例の概要は次ページのとおり。

調査によって得られた情報の整理・解析結果を踏まえ、事業計画に基づく影響要因をもとに、この標準例に示された手法に検討を加え、適切に予想手法を選定する。

その際、地域特性及び事業特性に応じ、予測の対象及び予測指標、予測地域、予測地点、予測対象時期を適切に設定する。また、予測の前提条件について明確にするとともに、予測の不確実性についても整理する。

5 評価手法

評価は、調査及び予測の結果を踏まえ、事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、事業者により実行可能な範囲内で回避され、又は低減されているか否かについての事業者の見解を明らかにすることにより行う。この時、国又は地方公共団体によって、選定項目に係る環境要素に関する環境の保全上の基準又は目標が示されている場合は、これらとの整合が図られているか否かについても検討する。

なお、選定項目ごとの調査、予測及び評価の結果の概要を一覧できるように取りまとめること等により、他の選定項目に係る環境要素に及ぼすおそれのある影響について、検討が行われるよう留意する。

6 環境保全措置の考え方

(1)環境保全措置

環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、これらの検討結果を踏まえ、必要に応じ代償措置を検討する。

代償措置は評価書の公告後できる限り早期に実施し、博覧会事業中に追跡調査によりその予測と効果の検討に努める。なお、動植物の移植等の代償措置を検討する場合には、対象となる生物の特性や、生息・生育地及び移植実施場所の環境条件、類似事例等について、調査を十分実施した上で慎重に行うものとする。

(2)追跡調査

追跡調査計画では、追跡調査の項目及び手法、追跡調査結果の公表時期及び公表方法並びに追跡調査の結果により環境影響が著しいことが明らかとなった場合の対応方針等を明らかにする。追跡調査計画の策定に当たっては、環境影響評価の検討結果との比較検討が可能なように設定するとともに、極力環境への影響の少ない調査手法を選定する。また、本博覧会会場を会期終了後に引き継ぐこととなる各主体との協力又は各主体への要請等の方法及び内容について明らかにする。

 

[項目別調査・予測手法の概要]

(1)大気環境:会期中の諸活動、アクセス交通及び工事により影響が想定される地域の、大気中の汚染物質濃度、騒音レベル、振動レベル、悪臭(臭気指数等)、低周波音のレベルについて、既存資料の収集・解析及び現地調査により把握し、数値計算等により、それらの変化の程度及び広がりを予測する。

(2)水環境:会期中の諸活動及び工事により影響が想定される河川及び湖沼の水質及び底質の汚染濃度、地下水の水質や水位等について、既存資料の収集・解析及び現地調査により把握し、数値計算、既存事例の引用又は解析等により、それらの変化の程度及び広がりを予測する。

(3)土壌環境、その他の環境:工事等により影響が想定される地域の地形・地質(活断層含む)、地盤、土壌の状態等について、既存資料の収集・解析及び現地調査により把握し、既存事例の引用又は解析等により、変化の可能性や程度について予測する。

(4)植物:主に既存資料に基づきフロラリストを整理するとともに、注目すべき植物種、植生、注目すべき植物群落に関する分布状況、生育条件等について、現地フィールド調査、資料調査、ヒアリング調査により把握し、植生、注目すべき植物種及び注目すべき植物群落への影響を予測する。

(5)動物:主に既存資料に基づきファウナリストを整理するとともに、注目すべき動物種に関する分布状況等を把握する。さらに、注目すべき動物種の中から、調査対象地域内での繁殖可能性や当該地域の環境特性等に照らしムササビ、アオゲラ、ギフチョウ等複数種を選定し、生息状況及び生息環境について現地フィールド調査、資料調査、ヒアリング調査により把握する。その結果から、注目すべき動物種への影響を予測する。

(6)生態系:当該地域を特徴づける里地生態系における上位性(オオタカ・フクロウ、カワセミ・カイツブリ)、典型性(キツネ等中型哺乳類、ゲンジボタル)及び特殊性(シデコブシ、ウンヌケ)の観点からそれぞれ()内の種を基本として選定し、他の生物種との相互関係及びそれらの生物が依存している生息・生育環境の状況について現地フィールド調査、資料調査、ヒアリング調査により把握する。その結果から、生態系の構造や関係性に与える影響について予測する。

(7)景観:景観特性、注目すべき景観資源及び注目すべき視点の現況について現地調査、資料調査、ヒアリング調査により把握するとともに、映像情報を取得する。その結果から、注目すべき景観資源及び注目すべき視点からの眺めの変化とそれらがもたらす心理的影響の程度を予測する。

(8)触れ合い活動の場:注目すべき触れ合い活動の場、注目すべき立地ポテンシャルを有する場及び触れ合い活動に関する地域住民の意識と歴史について現地調査、資料調査、ヒアリング調査により把握し、触れ合い活動の場の変化の程度とそれによる利用者への影響について予測する。

(9)廃棄物等:会期中の諸活動及び工事により使用する物質量、発生する廃棄物量等を把握することにより予測を行う。その際、減量化率、再利用率等を踏まえるとともに、廃棄物等の処分方法を明らかにする。

10)温室効果ガス等:会期中の諸活動及び工事に関連して発生する二酸化炭素量、その他温室効果ガスの量等を把握することにより予測を行う。その際、排出抑制策、使用量抑制策を踏まえるとともに、樹木の伐採による二酸化炭素吸収量の減少等を勘案する。

 

                             (参考)

委員会の検討の経緯

 〜平成 9年12月19日

 

本検討委員会委員名簿

(座長)  森嶌 昭夫 (民法・環境法):(上智大学法学部教授)

(副座長) 武内 和彦 (緑地環境学・地域生態学):(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

 (以下50音順)

(委員)  阿部 學  (動物生態学):(新潟大学農学部教授)

      植田 邦彦 (植物自然史学):(金沢大学理学部教授)

      奥田 重俊 (植生学):(横浜国立大学環境科学研究センター教授)

      芹沢 俊介 (植物分類学・地域環境)(愛知教育大学教育学部教授)

      内藤 正明 (環境システム工学):(京都大学大学院工学研究科教授)

      原科 幸彦 (社会工学・環境計画):(東京工業大学工学部教授)

      松尾 友矩 (都市環境工学):(東京大学工学部教授)

      松田 裕之 (数理生態学):(東京大学海洋研究所助教授)

      柳沢 紀夫 (鳥類):((財)日本鳥類保護連盟理事)

      山中 芳夫 (経営環境論・環境マネジメント):(大阪学院大学経営科学部教授)

      油井 正昭 (風景計画学・緑地環境学):(千葉大学園芸学部教授)