<添付資料2>


「本報告書サマリー」
〜国際的議論への具体的提案部分〜


<多国間環境協定(MEAs)に基づく貿易措置とWTO協定との関係に関する我が国提案>

1.目 的

 環境保全の分野における法的安定性を確保する観点から、原則として自由貿易体制を維持する必要性を認める一方で、環境保全のための措置、とりわけ多国間環境協定(以下MEAs)に基づく環境保全を目的とした貿易措置が、WTO/GATT協定上の自由貿易を制限する例外として認められることを確保する。
 具体的には、MEAs等の環境関連事項を、WTO/GATT協定の体系の中に、同協定の改正などを通じて明確に位置付けることとする。

2.我が国提案の内容

(1)WTO/GATT第20条(別添)の新規の項((i)又は(k))として、「多国間環境協定(MEAs)」の文言を、現在の(h)項の政府間商品協定関連の規定をモデルとしつつ、同条の中で規定する。具体的規定振りは以下の通り。

○<具体的規定振り>
 「(i)又は(k) 締約国団に提出されて否認されなかった多国間環境協定に基づく義務に従って執られる措置」

(注)本件提案は、あくまでもWTO第20条の「改正」を目指すものであるが、状況により、右改正が困難な場合、理事会や閣僚会議による「決定」という方法も考えられる。

(2)上記(1)におけるWTO第20条改正とともに、締約国団がMEAsを客観的基準に則り承認し、恣意的な判断を避けるために、「多国間環境協定(MEAs)」を締約国団が承認するための要件を設定した「了解(Under-standing)」又は「ガイドライン」を作成する。

   右「了解」又は「ガイドライン」の中では、

 (イ)まず、MEAsの選定については、
  (a)全世界のあらゆる国に開放的であること、
  (b)MEAs加盟国であり、かつ、WTO加盟国である国の数が、WTO加盟国の数の4分の3以上を占めていること、
という2つの形式的要件を設定するとともに、その要件に照らし具体的な   MEAsを選定する(下記(3)(イ)へ)。
 また、選定された個別のMEAsについては、右「了解」又は「ガイドライン」のAnnexに列挙していく。

 (ロ)次に、過去の経緯に於いては、WTOとMEAsの関係についての考え方の整理を行う際に極めて有効であったことに鑑み、WTOとMEAsとの間の十全な協議体制を確立するために以下を規定する。

  「あるMEAsが今後、WTOの規定に抵触する措置あるいは抵触する恐れのある措置を環境保全に不可欠な措置として採択しようとする旨の情報をWTOが入手した場合、WTOより当該MEAsに対し、事前にWTOと協議し、その協議結果を尊重するよう勧奨する旨規定する。」

    更に、右協議の内容は、次のことを併せて含む旨も規定する。
  「(a)当該環境保全措置が、WTO協定の抵触を不可欠とするほど重要であるかどうか(必要性のテスト)
   (b)WTO規定に抵触しない代替措置がないかどうか(代替的手段の不在のテスト)
   (c)WTO規定に抵触する措置が環境保全に必要な限度を超えないかどうか(必要最小限の制限のテスト)」

(3)上記(1)のWTO第20条改正、同(2)の「了解」又は「ガイドライン」の設定とともに、今後の中長期的課題として以下も提案する。

 (イ)具体的MEAsの選定については、まず、「事前に」関係者が合意の上で、上記(1)の適用を行い、代表的なMEAsであるワシントン条約、モントリオール議定書、バーゼル条約の3つにつき、MEAsとして承認する(否認しない)ための手続きをとる。
    なお、右承認後は、上記(2)(イ)のとおり、上記「了解」又は「ガイドライン」のAnnexに列挙する。

 (ロ)最後に、長期的課題として、上記(イ)のように実績を一つずつ積み重ねた上で、これを基に、上記(2)(イ)の形式的要件に加え、どのよう   な実質的要件が整えば、WTOの例外になるかを論議し、今後、他のMEAsを選定するか、選定する場合には、どのMEAsを選定するかについて引き続き検討することとする。その検討の際には、その措置が、MEAs締約国間で執られる場合とそうでない場合、MEAsに明記されている場合といない場合などに場合分けした上で、第20条により認められる実質的要件を設定する。
    これについては、設定次第、上記(2)の「了解」又は「ガイドライン」に加えていく。

(4)以上は、WTO法の中の、GATT第20条の改正に関する提案であるが、今後、GATS第14条に関してもGATTの改正に準ずることとする。

3.まとめ

(1)西暦2000年から始まるWTO次期交渉で、「農業」と「サービス」が大きな議題となることが予測されている事態に鑑み、「環境」は、この2つのイッシューとも密接に絡む問題であることから、「貿易と環境」の問題は、ホット・イッシューとして取り上げられる可能性も大きい。

(2)このような状況の中、我が国が、何らかの具体的対応を積極的且つ迅速に行うことは極めて重要なことであり、本年度調査に於いてこれまでの調査結果を纏めつつ、それを踏まえた我が国としての内外に於ける対応策を考察した。このうち、国際社会へ提案するべく対応策は、WTO第20条の改正ということになったが、これについては、検討会委員の総意として、可能な限り早期に提案していくことが望ましいという結論となった。

(3)WTOの99年の動きを考察してみると、「WTO貿易と環境に関するハイレベルシンポジウム」が3月に開催され、更に、11月には第3回WTO閣僚会議が開催されることから、これらの機会を積極的に活用して、本提案をプレゼンテーションしていく必要がある。現在、CTEは、何らかの具体的提案を生むという方向性が見えず、また、その方向に向けて動くという機運に非常に乏しい。他方、現在未だ有効である94年の「貿易と環境に関するマラケシュ決定」にもあるとおり、CTEのマンデートとしてWTOとMEAsの関係を整理するということは依然として重要事項である。

(4)今回の提案が、これらの必要事項に的確に応え、貿易と環境を巡る議論を活性化する事が望まれる。
以 上