我が国と中国とのAIJプロジェクトである「CDQ設備設置モデルプロジェクト」を条約事務局に通報する際に、日中間で専門家レベルの通報WorkingGroupを設けた。そこでは、通報フォーマット(Uniform Reporting Format(URF))に記載する内容、通報方法等について議論し、合意の形成を図った。この場での議論を元にして、URFについての意見を述べる。 1.A. 4) Costについての記述 URFでは、プロジェクトに係るコスト及びAIJ Componentのコストを記述することになっている。日中の通報WGでは、この欄を埋めるのに多くの時間が費やされた。そこでの主要な論点としては、 @CO2あたりのコストについて、初期投資(設備費用、建設費用等)のみならずランニングコスト(CDQ設備を動かすために必要な水道料金、電力料金、人件費等)も加えた額で計算するのか A日本側の資金は政府資金から出されているわけだが、日本政府の予算は毎年決定されるため、後年度の負担額が必ずしも確定出来ない中で、如何に記述するのか BAIJ Componentの概念が不明確な中で、どの範囲までAIJ Compomentの対象とするか。具体的には、CDQ設備にかかる全てのコスト(CDQ設備費用、建設費等)を対象とするのか、直接的にはCO2の削減に寄与しないが、CDQ設備の稼働のためには必要な機器にかかるコスト(ダスト排出装置等)は対象外とするのか これらは、双方の考え方に隔たりがあったが、WGでの交渉の結果、本件については以下のように決定した。 @CO21トンあたりのコストの欄には、初期投資額を排出削減量で除した数値(19.6$/ton)を記入し、ランニングコストを含めた数値(30.0$/ton)はかっこ書きで記入した。 A後年度の負担額は不明だが、予測できる範囲内で記入した。 BAIJ Componentをダスト排出装置等CDQ設備が稼働するために必要な全ての機器・建設にかかるコストと考えた。 以上のように、コストの記述については、今後とも議論が必要である。その際には、次の視点が重要となる。 @コストを記述させる理由、目的は何か。 Aコストを記述させるとした場合、その理由、目的に照らして適切なコストの定義は何か。かかる定義は、技術的に可能か(特にAIJcomponentが投資全体のコストと分離困難な場合もあると思われるが、そのような場合にどう対応するか)。またその定義は、プロジェクト参加者、特に民間セクターの営業上の秘密の必要性や政府の将来の予算等の不確実性に考慮し得るものか。 2.E. GHG削減量の計算について 排出削減量を算定する前提として、ベースラインを設定の方法論が、国及びプロジェクトによってまちまちであったため、その確定に時間がかかり、手続きも煩雑化してしまった。中国とのAIJプロジェクトであるCDQプロジェクトを通報する際にも、以下の点が議論となった。 (1)CDQ設備の設置による排出削減の対象となる範囲の確定の問題 CDQ設備の設置によって、 a. CDQ設備によるコークス熱回収による蒸気発生(直接的効果) b. コークス品位向上による高炉操業でのコークス比低下(間接的効果) の2点の効果が想定される。ベースラインの設定、換言すれば本プロジェクトによる削減効果と考える対象の範囲についてa,b両方を対象とするのか、間接効果であるb.については、効果から除外すべきなのか (2)技術的進歩に応じてベースラインを変動させるか 将来における技術レベルの向上や燃料価格の上昇等の変動要因をベースラインの設定に加味して、ベースライン・シナリオを変動させるのか 通報WGにおける議論の末、結果的には、 (1)については、a.の直接的効果のみを削減効果とすることを決定した。 (2)については、変動ベースライン設定のための具体的な算出方法を見出せなかったため、一定とおくこととした。 また、現在「ゴミ焼却廃熱有効利用モデル事業」の通報WGにおいては、埋め立てゴミから発生するメタンの計算方法につき、IPCCガイドラインの数値を使用するのか、それとは異なる数値を使用するのか等について議論がなされている。 以上のように、ベースラインの設定の問題については、今後も議論が必要である。その際には、次の視点が重要となる。 (1)トランザクションコストの最小化によるプロジェクトの促進及びベースライン設定の恣意性の排除による検証可能な環境上の利益の確保のためには、ベースラインの設定にあたっては、スタンダード化されたガイドラインが望ましい。 (2)また、スタンダード化が困難な分野については、case by caseの対応とし、ベースラインの設定にかかる根拠を明確にし、transparentでaccountableなものとすべきである。 (3)ベースラインの設定にあたり、技術進歩の加味の仕方などについての一般的方法論は必要ないか。 |