(仮訳)


AIJから得られた経験・知識に関する情報について
1.AIJジャパン・プログラム
(1)設立の経緯
1995年3月にベルリンで開催された気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP1)において、開発途上国の自発的な参加を認めた共同実施活動(AIJ)のパイロット・フェーズでの開始に関する決定がなされた。
これを踏まえ、我が国においては、世界全体での温室効果ガス排出抑制対策に積極的に貢献していくため、1995年11月、関係省庁の間で、「共同実施活動ジャパン・プログラム」の基本的枠組みについて、政府ベースでの申合せを行った。その目的は、
@気候変動枠組条約第4条2項(a)(b)に基づく共同実施の国際的な枠組みの形成に係る検討作業に貢献するための経験を積むこと
A共同実施による正味の温室効果ガス削減・吸収量を総合的に判断するための手法を確立すること
B共同実施への民間部門からの参加を促進するための方策を検討すること、
である。

(2)AIJジャパンプログラムの構造
AIJプロジェクトの認定にあたっては、各省庁が専門的な知識を活用して個別に認定するとともに、各省庁間の「共同実施活動関係省庁連絡会議」を設置し、省庁間の情報の共有化を図った。

(3)評価ガイドラインの策定
また、1996年1月には、「共同実施活動関係省庁連絡会議」において、プロジェクト担当省庁が個別プロジェクトの評価・認定を行うにあたっての確認事項及び配慮事項等をまとめた「評価ガイドライン」等が了承された。

2.我が国の共同実施活動認定プロジェクト
まず、国内の事業実施主体に対して、AIJ意義、目的等の周知及びAIJプロジェクトの発掘を図るため、国内主要都市において「AIJセミナー」を開催し、国内の実施主体への周知に努めた。1996年4月1日から6月10日まで第1次プロジェクトの公募を行った。本公募期間においては、産業界、地方公共団体及びNGO等の事業主体から計16件のプロジェクト申請がなされ、7月5日には、このうちの11件が認定・公表された。
その後、随時プロジェクトの認定を行い、1999年2月現在、18件が共同実施活動ジャパンプログラムとして認定されている。
(AIJジャパンプログラム認定プロジェクト一覧は別添を参照)
このうち、相手国政府の認定を得られたものは9件あり、気候変動枠組条約事務局には中国との「コークス乾式消火設備モデル事業(”CDQプロジェクト”)」1件のみが通報されているが、そのほかの案件についても通報に向けて相手国政府と準備を進めているところである。

3.AIJプロジェクトから得られた経験
(1)我が国における経験
@ホスト国とのコミュニケーション
多数のAIJプロジェクトが中国、インドネシア、タイ、ベトナム等のホスト国政府、企業等の実施主体との間で実施され、これらの経験を通じて、我が国政府及び実施主体とホスト国政府及び実施主体との間で、気候変動問題に共同で取り組むことの重要性、必要性についての共通認識の醸成を図ることが出来た。特に、中国との間では、CDQプロジェクトを条約事務局へ通報する際に専門家レベルのワーキンググループを設け、Bに述べるような様々な点を議論し、共同で通報フォーマットを作成する作業を行い、有意義な結果を得ることが出来た。そのほか、中国との間では、「ゴミ焼却廃熱有効利用モデル事業」「合金鉄電気炉省エネルギー化設備モデル事業」についても通報WGを設けて、現在議論をしているところである。

Aホスト国政府の認定について
我が国が実施したAIJプロジェクトの多くが、相手国政府の認定を得るのに多大なコストと時間を要した。これは、我々がホスト国にプロジェクトを持ち込んだ段階では、ホスト政府の認定に係る体制が未整備であったこと、認定スキーム、認定基準が不明確かつ不透明であったこと等に起因する。そこで、我が国のAIJの認定スキームや認定基準を制度が未整備なホスト国に示し、体制作りの参考とするよう働きかけ、また、途上国自身も真摯に努力した結果、かなりの改善が見られた。しかし、さらに改善が必要な分野が存在していることも事実である。したがって、今後ともいたずらにコストと時間を浪費することを避けるため、透明かつシンプルであって、予測可能な認定スキーム及び認定基準が整備されることを期待する。

Bベースラインの設定について
AIJはパイロット・フェーズであり、様々な経験を積むことが目的の一つであった。この観点から、特に、ベースラインの設定方法といった技術的な課題も議論された。ここから得られた成果は、京都議定書上の共同実施、CDMのルール策定にあたっても活用可能と考えられる。
排出削減量を算定する前提として、ベースラインの設定の方法論が、国及びプロジェクトによってまちまちであったため、その確定に時間がかかり、手続きも煩雑化してしまった。中国とのAIJプロジェクトであるCDQプロジェクトを通報する際にも、以下の点が議論となった。
(1)CDQ設備の設置による排出削減の対象となる範囲の確定の問題
CDQ設備の設置によって、
a.CDQ設備によるコークス熱回収による蒸気発生(直接的効果)
b.コークス品位向上による高炉操業でのコークス比低下(間接的効果)
の2点の効果が想定される。ベースラインの設定、換言すれば本プロジェクトによる削減効果と考える対象の範囲についてa,b両方を対象とするのか、間接効果であるb.については、効果から除外すべきなのか
(2)技術的進歩に応じてベースラインを変動させるか
将来における技術レベルの向上や燃料価格の上昇等の変動要因をベースラインの設定に加味して、ベースライン・シナリオを変動させるのか
通報WGにおける議論の末、結果的には、
(1)については、a.の直接的効果のみを削減効果とすることを決定した。
(2)については、変動ベースライン設定のための具体的算出方法の提示がなかったため、一定とおくこととした。

また、現在「ゴミ焼却廃熱有効利用モデル事業」の通報WGにおいては、埋め立てゴミから発生するメタンの計算方法につき、IPCCガイドラインの数値を使用するのか、それとは異なる数値を使用するのか等について議論がなされている。

 以上のように、ベースラインの設定の問題については、今後も議論が必要である。その際には、次の視点が重要となる。
(1)トランザクションコストの最小化によるCDMプロジェクトの促進及びベースライン設定の恣意性の排除による検証可能な環境上の利益の確保のためには、ベースラインの設定にあたっては、スタンダード化されたガイドラインが望ましい。
(2)また、スタンダード化が困難な分野については、case by caseの対応とし、ベースラインの設定にかかる根拠を明確にし、transparent でaccountableなものとすべきである。
(3)ベースラインの設定にあたり、技術進歩の加味の仕方などについての一般的方法論は必要ないか。

Cプロジェクトのfinanceについて
民間企業がAIJプロジェクトを実施するにあたって、プロジェクト資金をいかに調達するかが問題となった。プロジェクト数を飛躍的に拡大し、民間レベルでの地球温暖化対策、技術移転、キャパシティ・ビルディングを促進するためには、AIJのスキームが民間企業にとって現状よりも一層魅力的なものでなければならないとの点が明らかになった。また、現状のままでは、プロジェクトの地域バランスを欠く恐れも強い。このような問題を解決し、ホスト国の利益を高めるためには、ODAを中心とする公的資金の導入拡大を含め、如何に利用可能な資金を最大化し、地球温暖化対策を促進するかのスキーム作りを検討する必要があろう。

Dプロジェクトの効果の向上に向けて
「合金鉄電気炉省エネルギー化設備モデル事業」では、ペレタイザーが導入されるため従来に比し粉鉱率の高い安価な原材料が使用可能となる。従って省エネルギー化によるメリットに加えて、原材料費低減メリットも期待できるため、本プロジェクトは相手国企業にとって事業採算性の良い魅力的なプロジェクトとなっている。現在のような、エネルギー価格が低い状況の中での事業展開を図るには、このような魅力的な事業を発掘していくことが重要と考えられる。プロジェクトを推進し、その技術を広く定着させるためには、如何に相手国企業にとって採算がとれるプロジェクトを探し出すかが重要である。

(2)途上国における経験
@途上国の持続可能な発展に対する貢献
 AIJプロジェクトを行うことにより、たとえば、中国とのAIJプロジェクトであるCDQ設備設置プロジェクトでは、二酸化炭素を削減するだけでなく、省エネルギーによる燃料費の節約といった経済的効果、大気汚染の軽減といった社会的効果も期待できる。このように、AIJプロジェクトを実施することによって、ホスト国の持続可能な発展に大いに役立ったと考えられる。

A最新の技術の移転
我が国が実施したAIJプロジェクトによって、途上国では最新の環境・省エネルギー技術が導入された。このように、共同でプロジェクトを実施することにより、より効果的に温室効果ガスの削減を図ることが可能になる。

BCapacity Building
当初、途上国においては、気候変動問題について必ずしも関心が高いとは言えない面が見受けられた。そのため、我が国からのAIJ及び気候変動問題の重要性を繰り返し申し入れるとともに、様々なセミナー、ワークショップを行った。たとえば、我が国の環境庁は1996年6月に大阪において「技術移転とAIJに関するワークショップ」を開催し、また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、1996年7月に米国と共同で、中国において「日米中セミナー」、1997年2月には、インドネシアにおいて「AIJセミナー」を相次いで実施し、本問題の重要性の普及に努めた。また、AIJの認定を働きかけた結果、途上国内においても認定スキームが策定された。このように、AIJは、プロジェクトを実施したことによる直接的なメリットだけでなく、途上国におけるcapacity buildingの形成にも役だったと言える。

C他の環境面への影響(Multi-Benefit)
中国で実施したCDQプロジェクトは、他の環境面、特に、SOx、NOx、ばいじん対策にも役だった。CDQ設備の設置により、石炭使用量が減るため、SOxの排出削減を図るとともに、大気中へのばいじんの飛散を軽減することが出来たのである。特に、石炭に関するプロジェクトなどは、温室効果ガス対策だけではなくて、Localな環境対策にも貢献することが可能となる。このように、AIJプロジェクトの実施によって、温室効果ガスの削減だけでなく、他の環境面への好影響も無視することは出来ない。