地下水汚染に係るバイオレメディエーション環境影響評価指針の
基本的な考え方について
平成11年3月
バイオレメディエーション環境影響評価手法検討会
はじめに
(1)対象とする浄化事業
(2)対象とする汚染物質
(3)対象とする微生物
(1)事前の評価と段階的な実施
(2)各段階において必要な項目及び留意点
1)適用現場に係る調査
2)利用微生物に係る調査
3)室内模擬実験
4)現場試験計画の策定
5)現場適用計画の策定
(3)評価の考え方
1)利用微生物の人の健康に対する影響
2)利用微生物の生態系に対する影響
3)利用微生物の環境中での残留
4)栄養分等の注入物質の影響
5)有害な分解生成物の残留
6)作業の安全性
7)その他の影響
バイオレメディエーション環境影響評価手法検討会委員名簿
(敬称略)
(座長)大井 玄 国立環境研究所所長
加藤 順子 (株)三菱化学安全科学研究所横浜研究所部長研究員
木村 真人 名古屋大学農学部教授
佐治 光 国立環境研究所生物圏環境部分子生物学研究室長
田中 克彦 神奈川県環境部水質保全課長
中杉 修身 国立環境研究所化学環境部長
西村 実 (株)日本総合研究所事業企画部主任研究員
平田 健正 和歌山大学システム工学部教授
矢木 修身 国立環境研究所新生生物評価研究チーム総合研究官
渡辺 治雄 国立感染症研究所細菌部長
はじめに
トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物等で汚染された地下水の浄化技術の一つとして微生物を利用した環境修復技術(バイオレメディエーション技術)がある。
バイオレメディエーション技術は、微生物を利用して汚染物質を直接分解する方法であり、処理に伴う二次廃棄物の発生がないこと、処理に要するエネルギーが少ないことなどが期待される新しい環境修復技術として注目されている。
一方、バイオレメディエーション技術は、微生物の栄養分等の注入や、微生物の注入が行われることから、これらによる新たな環境影響も懸念されるところであり、環境汚染修復技術の一つとしてバイオレメディエーション技術を推進し、環境汚染の浄化を図って行くためには、技術の利用に当たっての環境影響評価の手順を定め、環境保全を確保することにより、関係者の共通の理解を図っていくことが不可欠である。
このため、環境庁の委託を受けて社団法人環境情報科学センターでは、平成10年3月に「地下水汚染に係るバイオレメディエーション環境影響評価の基本的な考え方(試案)及び同評価指針(試案)」を取りまとめた。環境庁では、その試案を公表し、一般からの意見を募集するとともに、平成10年6月、当検討会に地下水汚染に係るバイオレメディエーション影響評価指針の考え方について検討を依頼した。これを受けて、バイオレメディエーション技術、地下水汚染、微生物、医学等に係る専門家から構成された当検討会においては、試案をもとに、環境影響評価指針の基本的な考え方について検討を行った。
本報告書は、現在得られる知見をもとに取りまとめたものであり、今後のバイオレメディエーションに係る知見の蓄積、微生物利用に係る科学的知見の進展に応じて見直しが図られることが必要である。
今後、この考え方をもとに指針が策定され、適正なバイオレメディエーションの実施が図られ、地下水環境の保全に資することを当検討会は期待するものである。
1 検討の対象
本検討では、天然の微生物を地下水に注入するバイオレメディエーション技術(注)を対象とする。この技術は、現場の状況等によってその形態が様々であることが考えられ、又、今後の技術開発も期待される。バイオレメディエーションの環境影響評価に当たっては、その技術的な内容を踏まえることが必要であることから、以下にバイオレメディエーション技術の例を述べる。
バイオレメディエーションにおいては、注入した微生物と汚染物質との接触を高めることが重要であることから、例えば、地下水を一旦汲み上げ、別の井戸から再注入することにより、地下水の流れを生じさせる手法が考えられる。その一例を図ー1に示す。地下水は、地下水流の下流側の揚水井から汲み上げられ、微生物及び栄養分等が添加された後、地下水流の上流側の注入井から再度地下還元される。揚水と注入が適切に管理されれば、これにより地下水流を形成し、地下水の中に一定の管理された区域を形成することが可能となる。
このようなことにより、地下水中での微生物や栄養分等の拡散を制限するとともに、汚染物質の拡散を抑えることができると期待される。
実際の地下水浄化事業に当たっては、このような地下水の揚水及び注入を一つの実施単位として考え、汚染地下水が広域にわたり、浄化事業が広域に及ぶ場合には、この実施単位を複数設けることにより、広域を対象とする浄化事業計画とすることになる。
なお、この例で示した方法以外の方法をバイオレメディエーション環境影響評価指針の対象から排除するものではない。
微生物、栄養分等
↓ ┌─────┐
注入 ← │ 処 理 │ ← 揚水
↓ │ │ ↑
│ │ └─────┘ │ │
───────┼─┼───────────────┼─┼─────
│ │ 地下水位 │ │
──────│ │───────────────│ │────
│井│ │井│
│戸│ │戸│
→ │ │→ ┌────┐ → │ │
地下水流 │ │→ │ 汚染 │ → │ │
→ │ │→ └────┘ → │ │
│ │ │ │
──────│ │───────────────│ │────
不透水層
図ー1 バイオレメディエーションの模式図例
- (注) バイオレメディエーション技術には、現場に生息する汚染物質の分解微生物を活性化するため、窒素や燐などの栄養分や空気等を地下水中に注入する方法(バイオスティミレーション:biostimulation)と、栄養分や空気とともに、微生物を地下水中に注入する方法(バイオオーギュメンテーション:bioaugmentation)とがある。
また、汚染物質を分解する位置の観点からみると、地下水を汲み上げた後、あるいは汚染土壌を一度掘り起こした上で、外部において、浄化する方法(原位置外バイオレメディエーション)と、汚染の原位置に微生物等を注入し浄化する方法(原位置バイオレメディエーション)とに分類することができる。
本検討は、原位置において、地下水中に微生物を注入する方法を対象としている。
2 環境影響評価に当たっての基本的な考え方
地下水汚染のバイオレメディエーションは、適用する現地の状況、あるいは微生物を注入する技術等が様々であると考えられる。また、一方、微生物の地下水中での移動は、土壌の種類や性質によっても異ってくるものの、それほど大きくなく、更に、浄化事業を終了する段階では、栄養分等の供給がなくなり、また、他の微生物との競合状態から、注入する微生物の残留性はそれほど高くないと考えられる。しかしながら、地下水は、井戸水として飲用、農業、養殖等に利用されるほか、地下水の流動は時間的、空間的に複雑であり、湧水として湧出し、河川水や湖沼水などとなることが考えられことや、バイオレメディエーションの作業者が利用微生物に暴露される可能性があることにも配慮する必要がある。
このような、バイオレメディエーションに利用された微生物に人及び環境生物が暴露される可能性は、微生物の生育特性や現場の地下水の構造等によって異なってくると考えられる。
このような点を踏まえ、環境影響評価に当たって、考慮すべきバイオレメディエーションの特徴は以下のとおりである。
- 微生物及び窒素成分や燐酸等の微生物の栄養分等を地下水に注入することから、微生物や注入する物質に人や水生生物等が暴露される可能性があること
- 汚染物質を分解する過程で有害な分解生成物が残留する可能性があること
- 揚水や注入を行うことに伴い汚染物質を拡散させてしまうおそれがあること
- 地下水へ微生物を注入し、汚染物質と微生物との接触を図る必要があることから、微生物の注入方法等の技術が重要となること
- 地下環境中における微生物を活用した新しい技術であり、これまでの技術的経験が少ないこと
以上のことを踏まえ、バイオレメディエーション技術の環境影響評価に関しては、基本的に以下の手順によることが適当である。
- 個別の事業毎に環境影響評価を行うこと
- あらかじめ、現場の状況や利用微生物に関する情報収集や室内模擬実験による情報収集を行った上で、現場への適用に当たっては、事前に環境影響を評価し、段階的に進めること
また、微生物の評価等に当たっては、以下の点に留意する必要がある。
- 微生物の人の健康及び生態系に対する影響に関して安全性を確認すること
- 微生物の環境中での残留性に関し、増殖の可能性等のないことを確認すること
- 微生物や汚染物質の周囲への拡散の防止に資するため、地下水の揚水を適切に行う等により地下水の流れを管理すること
- 微生物の注入等の終了後においても微生物の残留状況等の必要なモニタリングを実施すること
なお、この技術は、地下水という環境中への微生物の散布を伴うものであることから、実施に当たっては、地域の関係者への的確な情報提供を行い、その理解を得ながら進めることが必要である。
3 対象の範囲
(1)対象とする浄化事業
本検討においては、汚染された地下水の浄化を対象とする。
(2)対象とする汚染物質
本検討においては、地下水の水質汚濁に係る環境基準の設定されている揮発性有機化合物であるジクロロメタン、四塩化炭素、1,2ージクロロエタン、1,1ージクロロエチレン、シスー1,2ージクロロエチレン、1,1,1ートリクロロエタン、1,1,2ートリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼン及び1,3ージクロロプロペンを対象とする。
これらの揮発性有機塩素系化合物は、比重が水よりも大きいこと、水に溶けにくいこと、土壌に吸着しにくいこと、粘性が低いこと、揮発性であること、及び分解されにくい性質を有しており、これらは、地下水汚染の原因となりやすい性質といえる。ベンゼンについても、比重が水よりも小さいことを除いて類似の性質を有している。
(3)対象とする微生物
本検討において、汚染された地下水の浄化に用いられる微生物は、天然の微生物を対象とする。ウイルスが汚染物質の分解能を有することは考えられないことからウイルスは対象外とした。微生物が、変異株の場合には、その変異の内容を明らかにする。また、外国由来の微生物も検討の対象となる。
一方、現在、微生物の安全性評価は、分離同定されたものを対象に行われることから、未同定の菌の混合体は対象としない。
4 環境影響評価に必要な項目及び評価
環境影響評価に当たって必要な項目及び評価の考え方は、(2)以下のとおりである。
なお、これらの項目は、合理的な理由がある場合には、省略あるいは、他の資料によるこ とができる。
(1)事前の評価と段階的な実施
2の基本的な考え方において述べたように、バイオレメディエーションに関する現在の知見の状況から考えると、実施に際しては、あらかじめ適用現場に係る調査、利用微生物に係る調査、室内における模擬環境下での実験を行い、必要な情報を収集の上、現場への適用を行う必要がある。また、現場への適用に当たっては、事前に環境影響を評価するとともに現場試験、現場適用と段階的に進めることが適当である。
(2)各段階において必要な項目及び留意点
1)適用現場に係る調査
バイオレメディエーションに当たっては、その有効性の検討はもとより、環境影響の未然防止の観点から、適用現場に関する十分な情報を収集把握することが必要である。
(適用現場に係る調査項目)
○ 地下水汚染の原因
適用現場の汚染原因、汚染機構を把握する。
○ 地下水の水質
汚染物質の濃度分布・汚染の推移、微生物の生育に関連する栄養分等の濃度を把握する。
○ 地層の状況
微生物を注入する井戸を設置する場所を中心に、汚染地下水の存在する深度までの間の地層の状況を把握する。なお、必要に応じ、土壌ガス中の汚染物質濃度を把握する。
○ 地下水の流動等の状況
地下水帯水層の位置(深さ)、帯水層毎の地下水位、地下水流の方向及び流速を把握する。
○ 地下水利用の状況
周辺の地下水の利用状況、湧水、周辺の河川の状況を把握する。
○ 周辺環境の状況
周辺の土地利用状況、周辺の動植物の分布状況、生息する希少種の分布状況を把握する。
2)利用微生物に係る調査
利用微生物については、利用微生物の一般特性、人の健康に対する影響及び生態系に対する影響に関する情報を把握する。特に、利用微生物のこれまでの利用経験や既存の知見は、重要な情報であり、その収集を図る。
{1}利用微生物に係る調査項目
○ 利用微生物の一般特性
・学名及び分類学的位置
・由来(変異を起こさせている場合には、その内容を含む。)
・一般的特性
・生育条件
温度、pH、栄養条件等の微生物の生育条件、環境中での残留性を評価できる情報を収集し、現場環境中での残留性を予測評価できるようにする。
・利用微生物の検出方法
利用微生物のモニタリングを実施するため、利用微生物に特異的な検出方法を明らかにする。
・生活史
・自然界における分布
・利用微生物のこれまでの利用経験
・人への病原性、毒素産生性等に関する既存情報
これまでの取り扱いにおいて発生した過敏性反応に関する資料を含め、既存情報を把握する。
・生態系に対する影響に関する既存資料
動植物への影響について、既存情報を把握する。
○ 汚染物質の分解特性
・汚染物質の分解状況と分解条件
・分解経路と分解生成物の状況
分解経路をできるだけ明らかにするとともに、分解生成物の同定及びそれらの残留状況を明らかにする。また、分解生成物についての人及び生態系に対する有害性情報を把握する。
{2}人の健康に対する影響
利用微生物の一般特性に記載されている既存情報の把握に加え、動物試験を実施する。
なお、既存情報、又はこれまでの利用経験等により安全であることが明かな場合には、動物試験は省略することができる。
○ これまでの利用経験(再掲)
○ 人への病原性、毒素生産性等に関する既存資料(再掲)
○ 単回投与試験
経口、経気道、経皮及び静脈内投与による動物試験を実施する。
○ 眼一次刺激試験
動物試験を実施する。
○ 皮膚感作性試験
皮膚感作性試験は、微生物が細菌又は真菌の場合に実施する。
○ 反復投与試験
単回投与試験において、病原性及び毒性がないものの、感染性が認められた場合に、同一の動物種及び投与経路で動物試験を実施し、病原性、毒性及び感染性についての知見を得る。
{3}生態系に対する影響
利用微生物の一般特性に記載されている既存情報の把握に加え、生物試験を実施する。
○ 生態系に対する影響に関する既存資料(再掲)
○ 水生生物影響試験
淡水魚、淡水無脊椎動物及び藻類に対する影響試験を実施する。
○ 追加試験
上記の水生生物影響試験に加え、利用微生物に対する暴露の考えられる生物がある場合に、生物の生息状況等を考慮し、主要な生物種を選定し、影響試験を実施する。
3)室内模擬実験
バイオレメディエーションを現場に適用するに際しては、現場の環境条件下における利用微生物、栄養分の残留性等について知見を得るため、現場の環境条件を模した実験条件下でライシメータ試験、カラム試験等の室内模擬実験を行う。
(室内模擬実験の対象項目)
○ 汚染物質分解性、分解生成物及びその残留性
現場模擬環境条件下での分解状況を明らかにする。分解特性等が「利用微生物の一般特性」で把握された結果と異なる場合には、現場模擬環境条件下での分解生成物及び残留性を明らかにする。また、現場が浄化の対象とする汚染物質以外の汚染物質によって汚染されている場合には、当該微生物によるその物質の分解生成物及び残留性を明らかにする。
○ 水・土壌生態系変化
・微生物数の変化
細菌、糸状菌、放線菌、大腸菌群の数の変化を調査する。
・微生物活性の変化
・pH及び酸化還元電位の変化
○ 利用微生物の残留性
○ 栄養分等の注入する物質の残留性
4)現場試験計画の策定
1)〜3)の調査結果を踏まえ、現場試験の内容を明らかにするとともに、現場試験に伴う環境影響を予測、評価して、現場試験計画を策定する。
なお、現場への微生物の注入を現場試験、現場適用と、段階的に行うこととしているのは、最初に、4)の現場試験として、微生物を試験的に注入した結果を一旦評価し、その結果を踏まえ、5)の現場適用を行うべきであるとの考え方による。
(現場試験計画への記載事項)
○ 現場に関する事項
○ 利用微生物に関する事項
○ 微生物、栄養分等に関する事項
利用微生物等の培養(培地組成等)、注入期間、注入量等に関する事項。
○ 現場試験の実施方法
現場試験方法の検討に当たっては、微生物と汚染物質との接触の促進、微生物、栄養分及び分解生成物の周辺への拡散防止、及び液状汚染物質の攪乱防止のため、地下水流のシミュレーション等を行い、これに基づき実施方法を定める。
現場試験計画には、利用微生物、添加する栄養分等の周辺への拡散及び残留を限定する方策、汚染物質の拡散防止策、揚水した水の処理法を記述する。また、微生物の輸送及び保管方法、関連する法規、揚水の処理方法・放流方法等について記述する。
なお、現場における有効性について明らかにしておく。
○ モニタリングの実施方法
モニタリングは、現場試験の影響範囲内及びその周辺の地域について、汚染物質の分解や環境影響の把握等に関する現場管理の有効性が確認できる位置を選定し実施する。項目は、以下のうちから室内模擬実験による残留性等の検討結果を踏まえ選定する。また、微生物、栄養分等の注入を停止した後のモニタリング方法についても記述する。
なお、微生物、栄養分等の残留について、モニタリングを継続する基準を定め、当該基準に達するまでの間、微生物の注入終了後においても現場の管理やモニタリングを継続する。
・汚染物質
・利用微生物
・栄養分等の注入物質
・分解生成物
・水・土壌の生態系変化及び物理化学的特性変化
○ 作業の安全性
作業者の安全性確保、事故防止等に関することを記述する。
○ 緊急時の措置、緊急時対応のための施設
利用微生物が漏出した場合等、事故が生じたり、予測と異なる結果の生じた場合の措置、施設等について検討の上、記載する。
○ 現場試験と現場適用との関連性
現場試験と現場適用について比較を行い、現場試験が現場適用における影響等を予測評価するために適切なものであることを示す。
○ 総合的な安全性
以下の各項目についての評価を踏まえ総合的に評価を行う。
1)利用微生物の人の健康に対する影響
2)利用微生物の生態系に対する影響
3)利用微生物の環境中での残留
4)栄養分等の注入物質の影響
5)有害な分解生成物の影響
6)作業の安全性
7)その他の影響
5)現場適用計画の策定
現場適用にあたっては、現場試験の結果を踏まえ、現場適用の内容を明らかにし、それに伴う環境影響を予測、評価し、現場適用計画を策定する。項目の基本的な内容、考え方は現場試験計画の場合と同様である。
(現場適用計画への記載項目)
○ 現場に関する事項
○ 利用微生物に関する事項
○ 微生物、栄養分等に関する事項
○ 現場適用の実施方法
○ モニタリングの実施方法
○ 作業の安全性
○ 緊急時の措置、緊急時対応のための施設
○ 現場試験の結果とその評価
○ 総合的な安全性
(注1)本報告書では、「土壌」とは、地下水の帯水層の地質を含む言葉として使用している。
(注2)微生物を対象にした試験方法としては、微生物農薬の安全性評価に係る試験方法がある。(「微生物農薬の登録申請に係る安全性評価に関する試験成績の取扱いについて」農林水産省農産園芸局長通知 平成9年8月29日9農産第5090号)
(3)評価の考え方
以下の項目についての基本的な考え方を踏まえ、総合的に評価を行う。
1)利用微生物の人の健康に対する影響
既存情報及び動物実験の結果において、人に対する病原性、毒性及び感染性が認められないこと。
2)利用微生物の生態系に対する影響
水生生物その他の調査項目として選定された生物への有害な影響が認められないこと。
また、既知見として、ある動植物に対する影響が認められている場合には、バイオレメディエーションの実施方法、有害な影響の程度等、微生物の特性や土地利用に十分配慮した上で、利用の可否を判定する。
また、この技術は、微生物を活性化させることにより汚染物質の分解を促進させるものであることから、その実施に伴い、土壌微生物相や土壌微生物の呼吸活性、土壌の物理化学的特性が変化することとなる。なお、この変化は、利用する微生物による影響と言うよりは、栄養分等の注入に伴う影響が大きいと思われる。
したがって、土壌微生物相及び物理化学的特性の変化については、直ちに評価の対象とすることは困難な場合もあるが、的確な評価を行うためには、知見の集積を図る必要があり、このため、当面はモニタリングを実施し、その結果を取りまとめる必要がある。
3)利用微生物の環境中での残留
作業完了後、利用微生物の環境中での増殖の可能性が低く、かつ高密度で残留することがないこと。
浄化作業区域外(浄化作業区域とは、バイオレメディエーションの実施に当たり、個別の浄化作業ごとに設定され、管理される区域をいう。以下、同じ。)においては、浄化作業中も影響が認められないこと。
4)栄養分等の注入物質の影響
浄化作業区域内では、作業完了後、浄化作業実施前の濃度レベルを超えないこと。
浄化作業区域外においては、浄化作業中も影響が認められないこと。
5)有害な分解生成物の残留
浄化作業区域内において有害な分解生成物が環境基準値等を超えないこと。環境基準等の設定されていない分解生成物が生成する可能性が考えられる場合には、その分解生成物の人及び生態系に対する影響、残留性等を踏まえ、個別に評価を行う。
浄化作業区域外においては、浄化作業中も影響が認められないこと。
6)作業の安全性
微生物の輸送、保管も含め、作業の安全性が確保されていること。
7)その他の影響
偶発的な事故の発生時などの緊急時の措置、対応のための施設が設けられていること。
5 実施体制
バイオレメディエーションの安全で的確な実施を確保するために、実施体制を整備することが必要である。このため、浄化従事者が行う浄化における安全確保について責任を負う浄化実施機関の長、浄化計画の立案や浄化事業の適切な管理・監督を行う浄化実施責任者及び浄化従事者の任務を明らかにする。また、浄化作業の安全確保に関して、適正に実施されているかどうかを確認するとともに、浄化実施責任者に対して指導助言を行い、浄化実施機関の長を補佐する安全主任者を任命する。更に、浄化実施機関に、浄化における安全確保について、勧告等を行う安全委員会を設置する。
また、バイオレメディエーションに用いた微生物の菌株を保存する。
6 地域の理解
本検討で対象とするバイオレメディエーションは、地下水汚染の浄化を図る事業であって、環境中における微生物の利用であることから、バイオレメディエーションに係る情報を的確に提供しつつ、地方公共団体、地元住民等の理解を得ながら進めていくことが必要である。
7 環境庁による確認
バイオレメディエーションの環境影響評価は、実施者において責任をもって行わなければならない。一方、環境影響の評価は、微生物や地下水汚染等に係る広範な知見が必要であることから、環境庁が設置する専門家からなる委員会において審査し、実施者の行った環境影響評価の結果について環境庁が確認できるようにすべきである。
実施者は、バイオレメディエーションの実施に当たって環境に影響を及ぼすおそれのあるモニタリング結果や事故等が発生した場合には、速やかに環境庁に連絡する。
また、モニタリングが終了した場合にも同様とする。
8 その他
この基本的な考え方においては、個別事業毎に評価を実施していくこととしているが、バイオレメディエーションに係る経験を積み重ねることによって、事前の評価に係る負担を軽くすることも期待される。このためには、微生物の病原性等に関する情報や生態系に対する影響等の情報の収集・整理や情報源リストの整備などを図ることが必要である。さらに、バイオレメディエーションに係る情報を収集・整理・提供していくことが、技術の普及を図るためにも重要である。
また、本検討は、これまでの知見を踏まえ検討を行ったものであり、今後の知見の充実等を踏まえ、必要に応じ見直しを行う必要がある。
なお、遺伝子組換え技術を用いた汚染物質分解菌の研究も進められており、今後、遺伝子組換え体を利用したバイオレメディエーションの環境影響評価について検討することが必要である。