微生物を用いた環境浄化の実施に伴う環境影響の防止のための指針
第一 基本的事項
本指針は、微生物を注入して実施するトリクロロエチレン等の揮発性有機化合物による地下水汚染の浄化を対象とする。
微生物を用いて揮発性有機化合物による地下水汚染浄化対策を実施しようとする者は、個別の浄化作業毎に、本指針に定められた項目について調査を行った上で、環境影響評価を行い、これに基づいた現場試験及び浄化作業を行うことにより、微生物を用いた環境浄化の実施に伴う環境影響の未然防止を図ることとする。
第二 定義
本指針における用語の定義は次のとおりとする。
- 1.
- 「微生物を用いた環境浄化」とは、微生物(遺伝子組換え体及びウィルスを除く。以下同じ。)を地中に注入して地下水汚染を浄化する対策をいう。
- 2.
- 「揮発性有機化合物」とは以下のものをいう。
(1)ジクロロメタン
(2)四塩化炭素
(3)1,2−ジクロロエタン
(4)1,1ージクロロエチレン
(5)シス−1,2−ジクロロエチレン
(6)1,1,1−トリクロロエタン
(7)1,1,2−トリクロロエタン
(8)トリクロロエチレン
(9)テトラクロロエチレン
(10)ベンゼン
(11)1,3−ジクロロプロペン
- 3.
- 「感染性」とは、微生物が動植物において増殖する性質又は生存する性質をいう。
- 4.
- 「病原性」とは、微生物が動植物に感染した結果、当該動植物に病気を起こさせる性質をいう。
- 5.
- 「毒性」とは、微生物の産生する毒素若しくは毒物又は当該微生物を増殖させるために用いた基材が動植物に対し有害な何らかの反応を起こさせる性質をいう。
- 6.
- 「浄化作業区域」とは、微生物を用いた環境浄化の実施に当たり、個別の浄化作業毎に設定され、管理される区域をいう。
第三 微生物を用いた環境浄化の実施に伴う環境影響
微生物を用いた環境浄化を実施する者は、環境影響の防止に関し、次の各項目に示す事項が満たされるように行うものとする。
- (1)利用微生物が人の健康に与える影響
- 既存情報及び動物試験の結果において、人に対する感染性、病原性及び毒性が認められないこと。
- (2)利用微生物が生態系に与える影響
- 水生生物影響試験及び追加試験の調査項目で選定された生物への有害な影響が認められないこと。
また、既知見において、ある動植物に有害な影響が認められている場合には、微生物を用いた環境浄化の実施方法、有害な影響の程度及び周辺の土地利用等を十分検討した上で、当該微生物の利用の可否を判断する。
- (3)利用微生物の環境中での残留
- 作業の完了後において、利用微生物が環境中で増殖する可能性が低く、かつ高密度に残留することがないこと。
浄化作業区域外においては、当該作業の実施中においても影響が認められないこと。
- (4)栄養分等として注入する物質の影響
- 作業の完了後において、当該作業を実施する前の濃度レベルを超えないこと。
浄化作業区域外においては、当該作業の実施中においても影響が認められないこと。
- (5)有害な分解生成物の影響
- 浄化作業区域内において有害な分解生成物の濃度が環境基準等を超えないこと。環境基準等の設定されていない分解生成物が生成する可能性が考えられる場合には、その分解生成物が人及び生態系に与える影響、残留性等を踏まえ、個別に評価を行う。
- (6)作業(現場試験又は浄化作業をいう。以下同じ。)の実施に係る環境影響の防止
- 微生物の輸送、保管も含め、作業の実施中における環境影響を防止する措置が講じられていること。
- (7)その他
- 作業の実施中における偶発的な事故の発生時等の緊急時の措置が明らかにされ、対応のための施設が設けられていること。
第四 環境影響評価の手順
微生物を用いた環境浄化を行おうとする者は、次に示す順序により、事前に現場試験及び浄化作業の環境影響評価を行うものとする。
(1)第五に掲げる事項の調査を行った上で、現場試験の環境影響評価を行う。
(2)第五に掲げる事項の調査を行った上で、浄化作業の環境影響評価を行う。
第五 環境影響評価に必要な事項、環境影響評価の実施等
現場試験計画の策定に当たっては、1〜3の事項及び現場試験の計画の案に基づく環境影響評価を実施し、浄化作業計画の策定に当たっては、1〜4の事項、現場試験の結果及び浄化作業の計画の案に基づく環境影響評価を実施するものとする。
環境影響評価においては、第三に掲げる各項目に関し、当該項目に示す事項を満たすかどうかの検討を行った上、総合的な評価を行うものとする。
また、合理的な理由がある場合には、次の各事項中に示す項目の一部を省略し、又は他の資料に代替することができる。
- 1.適用現場に係る調査
- 現場試験及び浄化作業の環境影響評価に必要な情報並びに現場試験計画及び浄化作業計画の策定に当たって必要となる情報を収集するため、適用現場に係る調査を行う。調査項目は、別紙1に掲げるものとする。
- 2.利用微生物に係る調査
- 利用微生物による地下水汚染物質の分解性並びに利用微生物が人の健康及び生態系に与える影響を評価するために、利用微生物の一般特性及び利用微生物による汚染物質の分解特性、利用微生物が人の健康に与える影響並びに利用微生物が生態系に与える影響について調査する。調査項目は、それぞれ、別紙2、別紙3及び別紙4に掲げるものとする。
- 3.室内模擬実験
- 現場試験に先立ち、あらかじめ、現場の環境条件下における利用微生物の残留性、栄養分の残留性等について知見を得るため、現場の環境条件を模した実験条件下でライシメータ試験、カラム試験等の室内模擬実験を行う。室内模擬実験での調査項目は、別紙5に掲げるものとする。
- 4.現場試験計画
- 1〜3の調査結果を踏まえ、現場試験の計画の案を明らかにし、現場試験の環境影響を予測し、評価した上で、現場試験計画を策定する。現場試験計画に記載する事項は、別紙6に掲げるものとする。
- 5.浄化作業計画
- 1〜4の調査結果及び現場試験の結果を踏まえ、浄化作業の計画の案を明らかにし、浄化作業の環境影響を予測し、評価した上で、浄化作業計画を策定する。浄化作業計画に記載する事項は、別紙7に掲げるものとする。
第六 現場試験及び浄化作業の実施
現場試験を行う者は、現場試験計画に基づいて現場試験(モニタリングを含む。)を実施し、また、浄化作業を行う者は、浄化作業計画に基づいて浄化作業(モニタリングを含む。)を実施するものとする。
第七 微生物を用いた環境浄化の実施体制等
1.浄化実施機関の長
浄化実施機関の長は、浄化従事者が行う作業における環境影響の防止の確保について責任を負うものであり、次の任務を行う。
- (1)環境管理主任者(仮称)及び浄化実施責任者を任命すること。
- (2)環境管理委員会を設置し、その委員を任命し、環境影響の防止に関して諮問すること。
- (3)浄化従事者の健康管理を行うこと。
- (4)環境管理委員会の助言を得て、作業における環境影響の防止の確保に必要な事項を実施すること。
2.環境管理主任者
(1)環境管理主任者(仮称)は、本指針を熟知するとともに、微生物を用いた環境浄化の実施に伴う環境影響を防止するための知識、技術等に習熟した者であり、浄化実施機関の長を補佐し、次の任務を負う。
- {1}作業の計画が本指針に適合していること及び作業が本指針に従って適正に遂行されていることを確認すること。
- {2}浄化実施責任者に対して指導助言を行うこと。
- {3}その他作業の実施に当たり環境影響の防止の確保に関して必要な事項を実施すること。
(2)環境管理主任者は、その任務を果たすに当たり、環境管理委員会と十分連絡をとり、必要な事項について環境管理委員会に報告するものとする。
3.浄化実施責任者
浄化実施責任者は、本指針を熟知するとともに、微生物を用いた環境浄化に係る環境影響を防止するための知識、技術等に習熟した者であり、次の任務を行う。
(1)作業の計画の立案及び実施に当たっては、本指針を遵守し、環境管理主任者との連絡の下に作業全般において適切な管理・監督に当たること。
(2)その他作業の実施に当たり環境影響の防止の確保に関して必要な事項を実施すること。
4.浄化従事者
浄化従事者は、作業の計画の立案及び実施に当たっては、環境影響の防止の確保について自覚し、必要な配慮を行う。
5.環境管理委員会
(1)浄化実施機関に環境管理委員会(仮称)を置くものとする。
(2)環境管理委員会は、高度に専門的な知識及び技術並びに広い視野に立った判断が要求されることを十分に配慮し、適切な分野の者により構成するものとする。
(3)環境管理委員会は浄化実施機関の長の諮問に応じて作業における環境影響の防止の確保に関して調査・審議し、及び助言又は勧告するものとする。
第八 地域の理解
微生物を用いた環境浄化を実施しようとする者は、作業に関する情報を提供すること等により、関係する地方公共団体、地域住民等の理解を得た上で、当該作業を実施するものとする。
第九 その他
1.環境庁長官による確認
微生物を用いた環境浄化を実施しようとする者は、環境影響の未然防止の確保を期するため、その者が実施しようとしている微生物を用いた環境浄化の現場試験及び浄化作業が、それぞれ、本指針に適合していることの確認を環境庁長官に求めることができる。
2.モニタリング結果等の連絡
微生物を用いた環境浄化を実施する者は、環境に影響が及ぶおそれのあることを示すモニタリング結果が得られた場合、事故が発生した場合等には、環境影響を防止するために必要な措置を講じるとともに、その旨速やかに環境庁及び関係する地方公共団体に連絡する。
3.微生物の菌株の保存
利用微生物の菌株を保存する。
別紙1
現場状況の調査 |
備 考 |
○ 地下水汚染の原因 |
|
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・適用現場の汚染原因
・汚染機構 |
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○ 地下水の水質 |
|
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・浄化の対象とする汚染物質の濃度分布、推
移
・利用微生物の生育に関連する栄養分等の濃
度
・浄化の対象とする汚染物質以外の汚染物質
の濃度分布 |
|
○ 地層の状況 |
|
|
・微生物を導入する井戸を設置する場所を中
心に、汚染地下水の存在する深度までの間
の地層の状況
・土壌汚染物質の分布状況 |
・必要に応じ土壌ガス調査を行う。 |
○ 地下水の流動等の状況 |
|
|
・地下水帯水層の位置(深さ)
・帯水層毎の地下水位、地下水流の方向及び
流速 |
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○ 地下水利用の状況 |
|
|
・地下水の利用状況
・湧水、周辺の河川の状況 |
|
○ 周辺環境の状況 |
|
|
・周辺の土地利用状況
・周辺における動植物の生息の状況
・周辺に生息する希少種の分布状況
|
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別紙2
利用微生物の一般特性及び汚染物質の分解特性 |
備 考 |
○ 利用微生物の一般特性 |
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・学名及び分類学的位置
・由来
・一般的特性
・生育条件
・検出方法
・生活史
・自然界における分布
・これまでの利用経験
・人への病原性、毒素産生性等に関する既存
情報
・生態系に与える影響に関する既存情報
|
・変異を起こさせている場合には、
その内容を含む。
・温度、pH、栄養条件等の微生物
の生育条件。環境中での残留性を
評価できる情報を収集し、現場環
境中での残留量を予測評価できる
ようにする。
・利用微生物のモニタリングを実施
するため、利用微生物に特異的な
検出方法を明らかにする。
・これまでの取り扱いにおいて発生
した過敏性反応に関する資料を含
め、既存情報を把握する。
・動植物及び微生物への影響につい
て、既存情報を把握する。 |
○ 利用微生物による汚染物質の分解特性 |
|
|
・汚染物質の分解状況と分解条件
・分解経路と分解生成物の状況
|
・分解経路をできるだけ明らかにす
るとともに、分解生成物を同定し
及びそれらの残留状況を明らかに
する。また、分解生成物が人及び
生態系に与える有害性に関する情
報を把握する。
|
別紙3
人の健康に与える影響 |
備 考 |
○ これまでの利用経験(再掲) |
|
○ 人への病原性、毒素産生性等に関する既存
情報(再掲) |
|
○ 単回投与試験 |
|
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・経口投与による動物試験
・経気道投与による動物試験
・経皮投与による動物試験
・静脈内投与による動物試験 |
|
○ 眼一次刺激試験 |
|
○ 皮膚感作性試験
|
・利用微生物が細菌又は真菌の場合
に実施する。 |
○ 反復投与試験
|
・単回投与試験において、病原性及
び毒性がなく、感染性が認められ
た場合に実施(同一の動物種及び
投与経路)。
|
別紙4
生態系に与える影響 |
備 考 |
○ 生態系に与える影響に関する既存情報(再
掲) |
|
○ 水生生物影響試験 |
|
|
・淡水魚影響試験
・淡水無脊椎動物影響試験
・藻類影響試験 |
|
○ 追加試験
|
・上記の水生生物試験に加え、利用
微生物に対する暴露が考えられる
生物がある場合に、生物の生息状
況等を考慮し、主要な生物種を選
定し、影響試験を実施する。
|
別紙5
室内模擬実験 |
備 考 |
○ 汚染物質の分解特性、分解生成物及びその
残留性
|
・現場模擬環境条件下での分解状況
を明らかにする。分解特性等が「
利用微生物の一般特性」で把握さ
れた結果と異なる場合には、現場
模擬環境条件下での分解生成物並
びその残留性を明らかにする。ま
た、現場が浄化の対象とする汚染
物質以外の汚染物質によって汚染
されている場合には、その物質の
分解生成物並びにその残留性を明
らかにする。 |
○ 水・土壌生態系変化 |
|
|
・微生物数の変化
・微生物活性の変化
・pH及び酸化還元電位の変化 |
・細菌、糸状菌、放線菌、大腸菌群
の数の変化を調査する。
|
○ 利用微生物の残留性 |
|
○ 栄養分等として注入する物質の残留性
|
|
別紙6
現場試験計画 |
備 考 |
○ 現場に関する事項 |
|
○ 利用微生物に関する事項 |
|
○ 利用微生物、栄養分等の注入に関する事項
|
・利用微生物等の培養(培地組成等
)、注入期間、注入量等に関する
事項。 |
○ 現場試験の実施方法
|
・現場試験の実施方法の検討にあた
っては、利用微生物と汚染物質と
の接触の促進、利用微生物、栄養
分及び分解生成物の周辺への拡散
防止、及び汚染物質の攪乱防止の
ため、地下水流のシミュレーショ
ン等を行い、これに基づき実施方
法を定める。
・現場試験計画には、利用微生物、
添加する栄養分等の周辺への拡散
及び残留を限定する方策、汚染物
質の拡散防止策、揚水した水の処
理方法を記述する。また、利用微
生物の輸送及び保管方法、関連す
る法規、揚水の処理方法・放流方
法等について記述する。また、現
場における有効性について明らか
にしておく。 |
○ モニタリングの実施方法
|
・モニタリングは、現場試験の影響
範囲内及びその周辺の地域につい
て、汚染物質の分解や環境影響の
把握等に関する現場管理の有効性
が確認できる位置を選定し実施す
る。項目は、以下のうちから室内
模擬実験による残留性等の検討結
果を踏まえて選定する。また、利
用微生物、栄養分等の注入を停止
した後のモニタリング方法につい
ても記述する。
なお、利用微生物、栄養分等の
残留について、モニタリングを継
続する基準を定め、当該基準に達
するまでの間、利用微生物の注入
終了後も現場の管理やモニタリン
グを継続する。
|
現場試験計画 |
備 考 |
|
・汚染物質
・利用微生物
・栄養分等として注入する物質
・分解生成物
・水・土壌生態系変化及び物理
化学的特性変化 |
○ 作業の安全性
|
・作業者の安全性確保、事故防止等
に関することを記述する。 |
○ 緊急時の措置、緊急時対応のための施設
|
・利用微生物が漏出した場合等、事
故が生じたり、予測と異なる結果
の生じた場合の措置、施設等につ
いて検討の上、記載する。 |
○ 現場試験と浄化作業との関連性
|
・現場試験と浄化作業について比較
を行い、現場試験が浄化作業にお
ける影響等を予測評価するために
適切なものであることを示す。 |
○ 総合的な安全性
|
・各項目についての評価を踏まえ総
合的に評価を行う。 |
|
・利用微生物が人の健康に与える影響
・利用微生物が生態系に与える影響
・利用微生物の環境中での残留
・栄養分等の注入する物質の影響
・有害な分解生成物の影響
・作業の実施に係る環境影響の防止
・その他
|
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別紙7
浄化作業計画 |
備 考 |
○ 現場に関する事項 |
・各事項の基本的な内容、考え方は
現場試験計画の場合と同じである。
|
○ 利用微生物に関する事項 |
○ 利用微生物、栄養分等の注入に関する事項 |
○ 浄化作業の実施方法 |
○ モニタリングの実施方法 |
○ 作業の安全性 |
○ 緊急時の措置、緊急時対応のための施設 |
○ 現場試験の結果とその評価 |
○ 総合的な安全性
|