[4] 意見具申の要旨 [1] 経済社会の状況の変化と公害防止計画の基本的考え方 1 公害防止計画制度の経緯と現状 (1)公害防止計画制度の経緯              ア)公害対策基本法の下での公害防止計画制度  ( 省 略 ) イ)環境基本法の下での公害防止計画制度 平成5年に環境基本法が制定されたことに伴い公害対策基本法は廃止されたが、公 害防止計画は環境基本法に引き継がれるとともに環境基本法・環境基本計画の理念と施策 を含んだものとなった。 (2)公害防止計画制度が果たしてきた役割及びその効果 ア)公害防止対策の総合調整 ( 省 略 ) イ)公害防止対策事業の推進 ( 省 略 ) ウ)規制対策等の推進 ( 省 略 ) エ)公害の状況の改善 ( 省 略 ) オ)公害の未然防止 ( 省 略 ) (3)社会経済条件及び環境問題の態様の変化 ア)経済構造の変化が環境に及ぼす影響 ( 省 略 ) イ)都市問題としての環境問題 ( 省 略 ) ウ)社会資本整備と環境問題 ( 省 略 ) エ)環境に対する広い関心の高まり ( 省 略 ) オ)地球環境問題と地域環境問題 公害防止計画に基づき実施されている大気汚染対策や緑化推進対策は酸性雨問題や地球温 暖化問題の解決に資するものであり、公共用水域の水質改善は海洋汚染防止に結びつくも のである。 公害防止計画地域は、我が国の大都市地域及び主要工業都市を網羅しており、地域内の諸 活動は世界の環境資源に支えられているとともに、地球環境にも大きな負荷を与えてい る。したがって、地域における公害防止計画の推進を通じて、地域の環境ひいては地球環 境の保全に努めることは重大な責務である。 カ)環境基本法の制定と環境基本計画 公害防止計画は、環境基本法第17条第2項の規定により、環境基本計画を基本として基 本方針を策定することとなっており、同法第14条の規定に基づき、同法の基本理念に基 づき、同条に掲げられた事項の確保を旨として、環境基本計画の長期的な目標に資する公 害防止計画の策定が必要である。 (4)公害防止計画の必要性及び問題点 公害防止計画地域における環境問題を解決するためには、個々の発生源に対する規制のみ ならず、公害防止施設の整備や土地利用対策、自然環境の保全対策等を総合的計画的に推 進していく必要があり、地域を特定し、総合的な公害防止施策の推進を図るという公害防 止計画制度は今後の環境保全対策の展開に当たっても引き続き有益である。 国民の環境に対するニーズは、公害の防止にとどまらず、快適な環境の形成等を求めるも のとなっているので、自然環境の保全は公害の防止にも資するものであることから、自然 環境の保全に関して公害防止計画制度の中で可能な限り積極的な対応を図る必要がある。 さらに、地球環境保全に係る施策は公害の防止にも資するものであることから、地域から の行動を必要とする地球環境保全についても同様の対応を図るべきである。 2 今後の公害防止計画の基本的考え方 (1)諸条件の変化への適切な対応 公害防止計画をさらに効果的に推進するためには、地域における公害の状況について評価 分析を行い、問題点等に係る要因分析を可能な限り行い、国、地方公共団体、事業者、国 民の責務を明らかにした上で、各種施策を積極的に展開する必要がある。 (2)各種施策の総合調整 公害防止計画地域の開発に係る諸計画及び環境整備、水資源の利用等に係る諸計画は公害 の防止に関しては、公害防止計画と調和が図られることが重要であり、これらの開発に係 る諸計画等が公害防止計画と連携を図りつつ策定され又は推進されるよう配慮されなけれ ばならない。 (3)新たな環境政策に応じた施策の展開 ア)環境への負荷の低減 公害防止計画地域は、人口や社会経済活動が集中している地域であり、環境基準の達成・ 維持を図るためには、事業活動及び日常活動全般にわたって環境への負荷の低減に努める 必要がある。このため、廃棄物・リサイクル対策や地球環境保全に係る施策等の公害防止 に資する施策についても可能な限り積極的な対応を図る必要がある。 イ)地球環境の保全 公害防止計画地域は、地球環境にも大きな負荷を与えている地域であるため、地球環境保 全についても特に配慮し公害防止計画を定める必要がある。さらに、地球環境保全のため の施策であって公害防止にも有効な施策は、公害防止計画に積極的かつ適切に位置づける べきである。 ウ)自然と人間との共生 自然環境保全施策のうち公害防止に資するものは公害防止計画に位置づけ、公害防止施策 の立案に当たっては、自然環境の保全に寄与するよう十分な配慮が必要である。 さらに、公害防止計画地域は動植物やその生息・生育環境に与える影響が相対的に大き く、生物多様性の確保への一層の配慮が必要である。 エ)各主体の環境保全への取組 各主体が環境への負荷を認識し、自主的積極的に取り組むために、各主体の役割の明確 化、環境教育・環境学習等の推進、情報の提供をはじめとして、各主体が自主的かつ積極 的に環境保全への取組を促進するための施策を講ずる必要がある。 オ)防災都市づくりへの取組 公害防止計画において実施される環境関連施設の整備等は、公害防止と防災都市づくりの 両面から推進する必要がある。 (4)今後の重点課題 都市・生活型公害を中心として都市地域の大気汚染、交通公害、都市内河川等の水質汚濁 等今後引き続き重点的な取組を要する課題も多い。 また、環境への負荷の少ない持続可能な社会を実現するために、廃棄物・リサイクル対策 の推進、化学物質の環境リスク対策の推進が必要であるとともに、地球温暖化をはじめと した地球環境の保全等にも配慮していく必要がある。 これらの重点課題の解決に向けては、各主体の取組とともに、地域の実情に応じて適切な 主要課題を設定し、各種施策を積極的に展開することが重要である。 [2] 今後の公害防止計画の具体的進め方 1.今後の公害防止計画が対象とすべき地域 (1)策定要件 ア)公害の著しさの判断 環境の状況、環境基準の設定状況や達成状況等を勘案し、また、気象条件等の自然的要因 の影響とも考えられることから、ある程度の期間にわたる環境の状況をも勘案して、公害 の著しさの判断を行うことが適当である。 イ)公害が著しくなるおそれの判断 廃棄物の排出量や廃棄物の有害性等の環境への負荷や人の健康や生態系に影響を及ぼすお それのある化学物質による環境への負荷等を考慮する必要がある。 なお、これらの公害が著しくなるおそれの判断の具体化や評価の方法について、引き続き 考え方を整理していく必要がある。 ウ)総合的施策の要件 特定の分野の発生源のみに着目して対策を実施しても、必ずしも効果的な解決が図られな い課題等については、地域の実情を踏まえ、主要課題として適切に設定し、一貫性が保た れた施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。 (2)今後の地域選定 地域の特性や公害の発生状況、発生源の分布状況等、さらに、公害の未然防止の観点等を 勘案することにより、重点課題の内容に即した適切な地域選定を実施する必要がある。 2.今後の公害防止計画が重点的に取り組むべき施策、事業等 (1)都市地域の大気汚染対策 二酸化窒素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント等の環境基準の達成率が低い状況にあ り、発生源が多種多様にわたることから、各種施策を総合的計画的に講じていかなければ ならない。 (2)交通公害対策 交通に起因する騒音・振動及び大気汚染に対して、発生源対策、交通施設構造対策、周辺 土地利用対策等を実施してきたが、国等の関係機関、地方公共団体等の施策実施主体が各 地域の特性に応じ、なお一層の対策を総合的計画的に推進する必要がある。 (3)都市内河川の水質汚濁対策 水質が改善されていない河川もあり、公害防止計画策定地域においても特に大きな課題と なっている。そのため、その原因を分析するとともに、水環境への負荷を低減させるため の施策を、汚濁負荷の発生形態に応じ適切に推進する必要がある。 さらに、周辺地方公共団体や国とも連携、協力しつつ、流域を考慮した水環境の保全の取 組を推進する等の広域的な対応を図り、環境基本計画に示された施策及び視点を可能な限 り公害防止計画に盛り込むことが重要である。 (4)閉鎖性水域(湖沼、内湾・内海等)の水質等汚濁対策 湖沼、内海、内湾等の閉鎖性水域は、他の水域に比較して環境基準の達成率が低いことに 加えて、富栄養化の進行がみられる。湖沼水質保全計画が策定されている湖沼が公害防止 計画の対象地域に含まれる場合は、湖沼流域の公害防止事業や公害関連事業、水質保全に 資する自然環境保全のための土地利用制度の適切な運用等の施策を公害防止計画に位置づ け、総合的計画的に推進を図る必要がある。 また、閉鎖性海域における水質汚濁対策は、今後とも広域的な観点からの対策を中心に進 める必要がある。 (5)地下水汚染対策 平成8年6月の水質汚濁防止法の改正により、汚染原因者に対する浄化措置命令、汚染源 の特定のための立ち入り検査等が規定されるとともに、平成9年3月13日、新たに環境 基準が設定されたところである。 公害防止計画策定地域においても、これらの規制が遵守されるよう指導を徹底するととも に、地下水の常時監視や浄化対策を講ずることが必要である。 また、地下水は、災害時・緊急時において貴重な水源となる場合も想定されることから、 汚染の未然防止に努めるよう防災都市づくりの取組の中で配慮される必要がある。 (6)地盤沈下対策 全体として地盤沈下面積は減少傾向にあり、地盤沈下の進行も鈍化・沈静化の傾向にある が、一部地域においては依然として地盤沈下の継続している地域がみられる。地盤沈下の 防止のため、地下水保全対策として、工業用水法、建築物用地下水の採取の規制に関する 法律及び地方公共団体の条例等に基づいて、地下水採取量の規制を行うほか、監視測定の 強化や代替水源の確保等を推進する。さらに、地盤沈下防止等対策要綱に基づく総合的な 施策のより一層の推進が必要である。 (7)土壌汚染対策 土壌への有害物質の排出を規制するため、水の地下浸透禁止措置及び地下水浄化措置、ば い煙の排出規制措置、土壌残留性農薬の規制措置、廃棄物の適正処理確保のための規制措 置等の対策を講じるほか、事業者、土地所有者等に対する環境基準の趣旨の徹底、啓発・ 指導を行うとともに、土壌汚染対策技術の確立や適正な汚染対策の指導を推進する。 また、農用地の土壌汚染地域については農用地土壌汚染対策計画を策定し、各種施策を総 合的計画的に推進しているところであるが、残余の汚染地域について早急な対策の推進が 望まれる。 (8)化学物質の環境リスク対策 化学物質による環境の保全上の支障を生じさせるおそれ(環境リスク)を減らすために は、その有害性の程度に応じた製造・使用の管理、代替技術・代替製品の開発・普及、回 収された有害化学物質の適正な処理等を実施するとともに、事業者が適正な使用・管理に 努めることが重要であることから、事業者による自主管理の徹底を基本として、事業者に 対する安全管理の指導の徹底等の取組が必要である。 (9)廃棄物・リサイクル対策 廃棄物・リサイクル対策は、国、地方公共団体、事業者及び住民の協力体制が不可欠であ ることから、すべての主体の参加を促進しつつ、公平な役割分担のもとに各種施策が推進 されることが必要である。 公害防止計画は、これまでも各地域の廃棄物・リサイクル対策に重要な役割を果たしてき たが、今後とも地域における環境問題の主要な部分を占める廃棄物・リサイクル対策を適 切かつ計画的に推進することが必要である。 (10)地球温暖化対策 地球温暖化問題は、環境問題の中でも極めて重要度の高い課題であり、国のみならず、地 方公共団体、事業者、住民等のそれぞれが、地球温暖化対策に取り組むことにより、将来 世代及び世界の国々に対する責務を果たすことが重要である。 我が国の地球温暖化防止のための対策については、地球温暖化防止行動計画が定められて おり、その中では地方公共団体が行動計画に沿った可能な取組を行うことが期待されてい る。また、環境基本計画の中でも、地方公共団体は国に準じた施策やその他の独自の施策 を総合的に展開することが期待されている。 公害防止計画策定地域は、社会経済活動が集積しており、産業、民生、運輸の各部門とも 二酸化炭素排出量の多い地域と類推されることから、公害防止に資する地球温暖化対策を 現行の公害防止計画制度の中で適切に位置づけ、公害防止計画の策定・実施を図る必要が ある。 (11)土地利用対策 公害防止計画においては、従来から、土地利用対策の推進を図ってきたが、今後とも積極 的な土地利用対策の推進が必要である。 また、土地利用対策の推進に当たっては、当該地域における自然の再生産能力あるいは環 境保全能力の維持・回復に配慮する必要がある。 都市計画等の開発計画との関連においては、各種調整の機会に、可能な限り計画のフレー ムや内容と公害防止計画との整合を図るとともに、都市計画等の土地利用に関する計画の 適切な運用が重要である。 3. 大都市地域における広域的取組 大都市地域においては、計画の同時策定、施策の共同実施、測定基準の統一等新たな手法 導入を含めた施策推進体制の強化及び効率化が図られることが重要であり、こうした連携 体制や広域的な施策の立案及び共同実施等について公害防止計画に適切に位置付け、地域 の総合的な公害対策を推進することが必要である。 4.公害の未然防止の徹底 ( 省 略 ) 5.公害防止計画の円滑な策定及び実施 ( 省 略 ) [3] 今後への課題 公害防止計画は、環境基本法第17条に掲げられているとおり公害が著しいまたは著しく なるおそれのある地域に対して、内閣総理大臣が基本方針を示して計画の策定を当該知事 に指示するという、重い意味を持った制度であり、公害防止計画制度発足当初に問題と なっていた深刻な産業公害の解消を主として目指したものであった。しかしながら、近年 では産業公害の克服に伴って、都市・生活型公害が大きな比重を占めるようになってきて おり、また、地球規模の環境問題への対応ともあいまって、新たな公害防止計画の枠組み が必要と考えられてきており、公害への対応も従来のエンド・オブ・パイプ的なものか ら、よりその原因にさかのぼったものへと対応を変えていくことが期待されている。 今後、地域の公害の防止に対して各省庁が横断的な支援を行うという公害防止計画制度本 来の主旨をさらに生かしつつ、環境基本法や環境基本計画に沿った、環境への負荷の少な い循環を基調とする経済社会システム実現の一翼を担った計画として位置付けるととも に、環境基本計画に掲げられた多様な施策を活用しつつ、本意見具申を実現することによ り、公害の抜本的解決を目指したより効果的な計画にしていくことが期待される。このた めには、これまでにも増して柔軟な豊かな発想が不可欠であるため、公害防止計画の策定 に当たっては、地方公共団体が各地域の特性に応じて、創意と工夫をこらした施策を盛り 込む等、的確な対応が必要である。 また、環境基本計画が見直される際等には、公害防止計画のあり方について再度見直す必 要があり、公害防止計画が対象とすべき施策の範囲や実施手段についても的確な対応が必 要である。 [5] 今後の予定 環境庁は本意見具申を受け、首都圏、近畿圏等12地域の平成9年度計画見直しから意見 具申の内容を反映させる所存です。また、関係各省庁及び公害防止計画策定地域の都道府 県にも意見具申の内容を連絡し、公害防止計画の実施・推進に反映させるべく努めてまい ります。