2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価書に対する環境庁長官意見


1 基本的考え方

(1) 事業計画が今後、具体化していく過程にあることに鑑み、前広に環境対策を進めるものとすること。
(2) 環境を重視した国際博覧会として、実験的なものも含め先進的な環境保全に係る対応を図ること。
(3) これから計画熟度が高まるのに応じ、十分な追跡調査を行うとともに、それを活用した継続的な環境管理と情報公開の体制を確立すること。
(4) 関連事業との相互の連携を重視するとともに、関係しあるいは関心を有する多くの主体と更に積極的な情報、意見の交換を図ること。
(5) これまでの計画策定の経緯に鑑み、環境保全重視の立場から、事業成果の継承も含め、更に柔軟な計画の見直し、改善を引き続き追求すること。

2 環境負荷の更なる削減及び先導的な取組の実施

A 総体的事項

(1)  本事業の評価書においては、海上地区のみにおける計画から青少年公園地区等も使用する計画への変更が環境保全措置として行われるものであることを明確に示す必要がある。
 評価書では同時滞在者数を海上地区と青少年公園地区等に二分することにより、大気、騒音、水質等の海上地区への環境負荷を総合的には低減させるものとしている。しかし、全体的に相対的な評価にとどまる上、特に、青少年公園等の影響予測は現在も進行中であることなどから、より明らかに当該事業に係る環境影響の程度の低減を示す必要がある。ただ、評価書中の2案の土地利用を海上地区について比較すると、主要施設地区の面積については1/4程度の低減、フィールド施設検討区域の面積については、1/2程度の低減が認められる。
 青少年公園地区の活用はかなり大幅な計画変更であり、また予測・評価結果の不確実性も大きいことから、上記の内容を整理して明記するとともに、海上地区に関して土地利用や同時滞在者数の精査をはじめ事業計画全般にわたり検討を実施し、同地区における一層の環境負荷の低減を図る必要がある。
 また、青少年公園地区についても、関係者の意見を聴きつつ、土地利用の精査、施設整備内容の検討を進めるとともに、引き続き追跡調査を適切に実施し、結果を計画に確実に反映し、事業全体における環境負荷の低減を確実に図る必要がある。
 上記観点に基づき、更に計画検討を進め、適切に環境影響を把握し、公表すること。
 以上の旨、評価書に記載すること。
(2)  本事業は、事業計画が引き続き検討されている段階で環境影響について予測・評価を行うなど、計画の進め方においては先進的かつ特殊な点がみられるが、その一方、こうした段階における環境影響評価であることから予測の不確実性を伴う環境要素及び効果が不明確な環境保全措置が存在する。
 したがって、環境影響評価の結果を事業計画に反映し、万全の環境配慮、先導的な環境分野の取組を計画に位置づけるとともに、会場計画確定後に、環境影響を把握し、その結果を評価書に記載すること。更に、計画の具体化に応じ環境影響を把握し、環境保全措置等に反映すること。また、評価書に記載された環境保全措置、追跡調査については、計画の策定にあわせて専門家の指導・助言を得ながら具体的検討を進めること。なお、追跡調査結果については、2005年日本国際博覧会環境影響評価要領第22に基づき、関係機関からの意見聴取、結果の公表を行う等、広く外部からの意見聴取の体制を整備するなど、適切な手続を実施すること。
 更に、事業実施に際して当初想定されていなかった環境への影響が確認された場合には、専門家の意見を聴取するとともに、関係機関と調整して事業計画の変更も含めた適切な対策を講じること。この旨、評価書に記載すること。
(3)  本事業地及び周辺地域においては相互に関連する事業が計画されており、複合的な環境影響も懸念されることから、計画の策定に当たっては関連事業者と十分な連携を図ること。また、事業の実施、環境保全措置の実施、追跡調査の実施等のあらゆる段階においても、関連事業者と調整の上、連携を確実に図ること。
 特に、平成17年度までの関連する地域整備事業の事業着手箇所については、工事内容、工事工程、施設整備内容の整合を図る等の事業計画間の調整を確実に行うこと。
 また、以上について、評価書に記載すること。
(4)  事業の実施全体を通じての環境負荷の低減を図る観点から、事業実施中はもとより、事業準備段階、及び事業終了後における跡地整理、事業施設整理における環境影響についても、環境負荷が最小限となるよう事業計画を検討する必要がある。
 また、本事業は、関連する地域整備事業の事業地を先行使用するものであり、本事業の成果を地域整備事業に継承することとされていることから、本事業終了後においては、博覧会事業実施中(評価書の公告後から解体工事終了まで)における追跡調査結果に基づき、評価書の予測結果についてレビューを行い、その結果を地域整備事業者に継承すること。なお、レビュー結果については公表するとともに、広く意見を聴取すること。また、本事業の趣旨、成果を地域整備事業に継承するための具体的体制を整備すること。
 この旨、評価書に記載すること。
(5)  本事業は、環境を重視した国際博覧会として、計画の策定に当たっては、専門家による十分な検討を行い、その結果を踏まえ、環境保全に関する最新の技術、先進的な知見を積極的に取入れ、自然環境をいかすとともに先導的な事業内容とすること。また、その内容を整理し評価書に記載すること。
(6)  本事業については、情報の発信・提供や意見聴取等を幅広く行い、事業計画に反映することが重要であることに鑑み、計画の策定熟度に応じて、広く情報を公開するとともに意見を聴取するシステムの構築に努めること。
 特に、新たに会場候補地に位置づけられた長久手町などの関係市町村住民に対しては、速やかに説明及び十分な意見聴取を行い、事業計画に適切に反映すること。
 以上について、評価書に記載すること。

B 個別的事項

  (1)大気環境関係

1)  計画地域の周辺においては、@現在、多くの大気環境測定局で浮遊粒子状物質に係る環境基準を超過しており、二酸化窒素濃度についても比較的高い水準にある、A多くの地点で道路交通騒音に係る環境基準を超過している、B予測結果についても@、Aと同様の傾向が見られることから、次の対策等を講じること。
 
 工事用車両に関し、導入可能な車種については低公害車を使用すること。
 青少年公園地区等の工事用車両について、ピーク時発生交通量を削減し、かつ、最適なルート配分を設定し、再度、大気、騒音、振動影響に係る予測評価を実施するとともに、結果を評価書に記載すること。
 供用時に使用する場内シャトルバス、ガスエンジン発電機及びガス直焚冷温水発生器に関し、窒素酸化物排出量低減等の観点から、太陽光発電等他方式についても検討し、その結果を踏まえ車種・機種を選定すること。
 供用時の廃棄物車両及び業務用車両についても、場内シャトルバスと同様低公害車を使用すること。また、低公害車の使用に当たり必要となる燃料供給施設等の施設整備を行うこと。
2)  環境基準、規制基準等を考慮すれば、供用時、会場から発生する騒音及び振動は、特に海上西地区周辺において高いレベルになることから、次の対策を講じること。
 
 展示施設、道路及びバスターミナル等主要な発生源と敷地境界の間への環境施設帯の設置、遮音壁の設置等の措置を講じること。
 動く歩道等の代替移動手段の検討等により会場内シャトルバスの通行量を削減するとともに、車種について、騒音・振動レベル低減の観点も踏まえ、選定すること。
 環境モニタリング項目に供用時の騒音及び振動を追加すること。
3)  供用時のアクセス交通による影響については、当該事業における大気・騒音影響として重要であるが、現段階では計画が具体化していないことから、環境影響評価項目とせず追跡調査により検討することとしているが、計画入場者数、地域環境の現況及び周辺道路の混雑状況等を考慮すれば、供用時、重大な大気・騒音影響を生じるおそれがあることから、追跡調査に当たっては、次の対策を前提とすること。
 
 自家用車による来場者数を削減するため、入場料金、駐車料金及び公共交通機関利用料金の設定等により、実効ある対策を講じること。
 自家用車による来場者について、入場料金、駐車料金、駐車場位置の設定等実効ある対策により、低公害車利用及び相乗りを促進すること。
 駅・駐車場シャトル及び団体バスに関し、事業者が運行するものについては低公害車とすること。その他のバスについても、イと同様の実効ある対策により、低公害車利用を促進すること。
 前売入場券の利用等実効ある対策により、ピーク時入場者数を制限すること。
 ア〜エの対策等を講じても環境影響の十分な低減が見込めない場合は、計画基準日入場者数を変更することも含め、適切な対応について検討を行うこと。
4)  供用時の24時間開催については、周辺地域の生活環境等に重大な影響を及ぼす懸念があることから、極力実施しないこと。
5)  会場計画第T案と第U案との比較評価において、工事中及び供用時の大気質並びに工事中の騒音については、海上地区周辺の影響が概ね低減することをもって、第U案の方がやや優れている(+)との評価を行っているが、青少年公園地区等周辺への影響の広がり、及び総発生交通量の増加について考慮の上、評価を再検討すること。
6) 1)〜5)の措置等について評価書に記載すること。

  (2)水環境関係

1)  海上地区から発生する汚水については、瀬戸市西部下水処理場において処理するとしており、短期間と言えども、同処理場に対する流入負荷が著しく高まり過負荷となる恐れがあることから、瀬戸市の下水道整備計画及び同処理場における機能拡充計画と本事業の会場整備との整合を図ることが重要であるため、下水道事業者と十分に調整し、その整合を図ること。また、処理水が放流される矢田川において環境基準が達成されていないこと、及び閉鎖性水域である伊勢湾流域内における事業であること等から、下水道高度処理の早期導入の推進が図られるよう関係事業者に要請する等、適切な措置を講じること。
2)  青少年公園地区等から発生する汚水については、会場内の処理施設において処理するとしているが、放流河川の水質に対し大きな影響を与えることが懸念されることから、汚濁負荷量を更に低減するため、下水道接続の実現性について更に検討を進めるとともに、既存処理施設を活用する場合は、高度処理機能を追加する等その処理能力を向上させること。また、新たな処理施設を設置する場合は、窒素、リンの高い除去能力を有する最高水準の施設を採用すること。
3)  海上地区及び青少年公園地区等においては、雨水浸透施設の積極的な採用、雨水の積極的な活用、中水利用の促進、節水の推進等に努め、水循環に与える影響を低減し、健全な水循環を確保すること。特に、中水利用については、汚濁負荷量を削減する観点からも有効であり、両地区における利用率を更に向上させること。
4) 1)〜3)の措置等について評価書に記載すること。

  (3)自然環境関係(生物多様性の確保及び自然環境の体系的保全)

1)全般的事項
  事業予定区域内には、シデコブシやオオタカなどの絶滅のおそれのある動植物が生息・生育することから、事業の実施に当たっては、これらの動植物及びその生息・生育環境を含めた里地生態系の適切な保全を図ること。
 また、当該地域は里山的な景観を呈しており、様々な触れ合い活動がなされていることから、現状の里山的景観を可能な限り保全し、影響の回避・低減を図るよう十分配慮すること。
 なお、予測の不確実性への対応及び環境保全措置の効果の確認等を目的に行われる追跡調査において、事業による影響が明らかになった場合には、計画の変更も含め、回避・低減のための所要の対策を講じること。
2)植物
 
 シデコブシについては、詳細な施工計画策定段階において、生育地の改変が可能な限り小さくなるよう、工法等について更に検討し、残存する集団の保全を確実に行うこと。また、シデコブシの生育基盤として重要な浅層の地下水文の変化に係る影響に関しては、予測の不確実性が考えられることから、追跡調査を適切に行い、専門家の意見を聴取し、影響の回避・低減を図ること。
 森林体感地区において、水平回廊や里山トレイル等の計画策定に当たっては、希少な種の生育地を回避するとともに、構造や設置方法等について、植物に対する工事中及び供用時における踏圧の直接的及び間接的な影響を十分検討し、支障が生ずるおそれが見込まれる場合には、回避・低減のための措置を講ずること。
 会場全域において、利用者が利用ルートを離れて植生等に影響を与えることがないよう、施設設置に当たり十分配慮するとともに、利用者への注意喚起・情報周知の徹底を図ること。
 二次林については林内相観について調査結果が示されているが、調査結果に基づく予測・評価が示されていないことから、予測・評価を行い、その結果を事業計画の策定に適切に反映させること。
3)動物
 
 ムササビについては、個体の追跡調査から行動圏推定及び行動解析を行っているが、調査を行った個体が少数であり、予測の不確実性が考えられることから、十分な追跡調査を行うとともに、その結果から行動解析を行い、事業の実施に当たっては、ムササビの移動空間や営巣場所の確保等生息に十分な配慮を行うこと。
 オオタカについては、当該事業区域近傍で複数の営巣が確認されていることから、当該営巣個体の保護に関しては、国際博会場関連オオタカ調査検討会における検討内容を確実に反映した適切な保護対策を具体的に明らかにし、繁殖等に支障が生じることのないよう対処すること。特に、博覧会会場候補地内の営巣個体については、本事業による繁殖への影響等について、専門家の意見を十分聴取した上で、事業により営巣に支障が生じるおそれがあると見込まれる区域内における工事等は、上記の保護対策が具体的に示されるまでは着手を控えること。
 また、事業実施に当たっては、追跡調査を確実に行い、その結果を踏まえ、専門家の意見を聴取し、事業による影響が明らかとなった場合は、適切な措置を講じること。
 工事中及び供用時の工事関係者及び利用者の行動等による動物への影響については、予測の不確実性が考えられることから、十分な追跡調査を行い、その結果を計画に反映させること。
4)生態系
 
 里地における生態系の典型性の観点からとりあげたタヌキについては、行動追跡調査がなされ、行動圏の分布状況の把握、各個体の行動分析による生息の維持に必要な環境要素の把握を行っているが、調査を行った個体が少数であり、予測の不確実性が考えられる。このため、事業の実施に当たっては、タヌキを含めた中型哺乳類に係る環境保全措置について、専門家の意見を聴取し、更に具体的な検討を行って十分な追跡調査を行い、その結果をもって影響の回避・低減を図ること。
 当該事業における各種施設の設置に当たっては、タヌキの行動追跡調査の結果等を踏まえ、動物の移動に関して、移動空間の分断を回避・低減するとともに、緑化や工法上の工夫を施し、移動しやすい空間を積極的に整備すること。
5)景観
 
 緑化計画の策定や工法の選定に当たり、現状の里山的な景観を可能な限り保全するよう十分配慮すること。
 会場計画の具体化に際しては、展示施設や道路の設置について景観の保全に十分配慮した色彩、形態、規模等を検討すること。
6)触れ合い
 
 森林体感地区における入込みの影響については、予測の不確実性が考えられることから、十分な追跡調査を行い、その結果を計画に反映させること。
 自然との触れ合い活動の場について、保全重要性が高いルートの環境変化が予測されているが、事業の実施に当たっては、環境保全措置の確実な実施により、人と自然との豊かな触れ合いの場の確保に努めること。
 里山トレイル等については、博覧会会期終了後においても活用が想定されることから、現在の利用者や地域住民の意見を十分採り入れるとともに、関係機関との調整の上、詳細な配置、構造、規模等を検討すること。
7)青少年公園
   青少年公園における生物的環境及び自然との触れ合いへの影響については、「追跡調査の実施を前提として、概ね回避又は低減できるものと判断」されているため、追加調査及び追跡調査を確実に行い、その結果を計画に適切に反映させること。
8)その他
 
 のり面の早期緑化及び早期安定処理に当たっては、事業地内に生育する樹木の種子等を苗木植栽に用いることとし、種子の採取、植栽方法、チップ化した伐採木の散布方法については、専門家の意見を聴取して検討した上で実施すること。
 追跡調査等において、新たに貴重な動植物が確認された場合には、専門家の意見を聴取し、これらの生息、生育環境に対する影響が最小限になるよう、適切な措置を講じること。
 水辺環境の改変による影響が懸念されるため、工事に当たっては、現況の水辺環境を可能な限り保全するよう、施工に際して特に配慮すること。
 特に、青少年公園地区においては、池の上に催事施設を設ける等水辺環境を直接利用することが検討されているが、これら水辺は鳥類等生物の生息・生育の場であることから、その内容を具体化するに当たっては、専門家の意見を聴取し、生物への影響を回避・低減するよう努めること。
9)1)〜8)の措置等について評価書に記載すること。

  (4)環境への負荷

1)海上地区及び青少年公園地区等において工事中及び会期中に発生する廃棄物については、リサイクル・リユース等の推進により減量化を徹底するとともに、先導的な技術を採用することにより会場内において更に減量化し、その発生量の最小化に努めること。また、最終的に処分が必要な廃棄物については、関係自治体と十分に調整し、廃棄物処理計画との整合を確実に図ること。
2)会期終了後の施設撤去時において発生する廃棄物については、施設の具体的な検討段階において、極力再利用が可能であり、かつ、廃棄物の発生しにくい構造を採用する等により、その発生抑制に努めること。
3)自然を極力生かすという観点、及び温暖化防止の観点から、支障木については、事業実施にあたり、伐採量を必要最小限とし、極力樹林地の保全に配慮するとともに、可能な限り移植する等により事業地内の緑化木として活用すること。
4)温暖化防止の観点から、事業実施期間全体を通じた総合的な温暖化防止対策を具体的に計画に位置づけるとともに、その成果についても公表すること。
また、温室効果ガスである二酸化炭素貯留の観点から、木質資源についてバイオマスエネルギー利用、建築物等の構造材としての活用をはじめ、幅広い検討を行い、計画に位置づけること。
5)1)〜4)の措置等について評価書に記載すること。