瀬戸内海環境保全基本計画(昭和53・5・1)(総告11)

改正 平6総告24


 この計画は、瀬戸内海環境保全臨時措置法(昭和四十八年法律第百十号)第三条の規定に基づき、瀬戸内海の環境の保全に関し、長期にわたる基本的な計画として策定したものである。

第一序説
 計画策定の意義
 瀬戸内海が、我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝の地として、また、国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民が等しく享受し、後代の国民に継承すべきものであるという認識に立つてそれにふさわしい環境を確保し維持することを目途として、環境保全に係る施策を総合的かつ計画的に推進するためこの計画を策定するものである。
 計画の性格
 この計画は、国民に対して瀬戸内海の環境保全の目標を示し、その理解と協力を得て、国、地方公共団体及びその他の者がその目標を達成するために講ずべき施策等の基本的方向を明示するものであり、瀬戸内海の環境保全に関連する諸計画に反映させるとともに、諸施策の実施に当たつて指針となるべきものである。
 計画の範囲
 この計画は、瀬戸内海(瀬戸内海環境保全特別措置法第二条第一項に規定する瀬戸内海をいう。)における水質の保全、海面及びこれと一体をなす陸域における自然景観の保全並びにこれらの保全と密接に関連する動植物の生育環境等の保全について定める。

第二計画の目標
 この計画の目標については、自然的要素と人文的要素が一体となつて形成された内海多島海景観ともいうべき特有の自然景観を有し、貴重な漁業資源の宝庫である瀬戸内海がその周辺に産業及び人口が集中し、海上交通もふくそうする閉鎖性水域であり、その利用も多岐にわたる海域であるなどの特性を踏まえ、次のとおり定める。
 水質保全等に関する目標
(1) 瀬戸内海において水質環境基準が未達成の海域については、可及的速やかに達成に努めるとともに、達成された海域については、これが維持されていること。
(2) 瀬戸内海において、赤潮の発生がみられ、漁業被害が発生している現状にかんがみ、赤潮発生の機構の解明に努めるとともに、その発生の人為的要因となるものを極力少なくすることを目途とすること。
(3) 水銀、PCB等の人の健康に有害と定められた物質を国が定めた除去基準以上含む底質が存在しないこと。
また、その他有機物の堆積等に起因する悪臭の発生、水質の悪化等により生活環境に影響を及ぼす底質については、必要に応じ、その悪影響を防止するための措置が講ぜられていること。
(4) 魚介類の産卵生育の場となつている藻場及び魚介類、鳥類等の生態系を維持するうえで重要な役割を果たすとされている干潟が減少する傾向にあることにかんがみ、水産資源保全上必要な藻場及び干潟並びに鳥類の渡米地、採餌場として重要な干潟が保全されていること。
(5) 海水浴場、潮干狩場等の海洋性レクリエーションの場として多くの人々に親しまれている自然海浜等が、できるだけ、その利用に好適な状態で保全されていること。
 自然景観の保全に関する目標
(1) 瀬戸内海の自然景観の核心的な地域は、その態様に応じて国立公園、国定公園、県立自然公園又は自然環境保全地域等として指定され、瀬戸内海特有の優れた自然景観が失われないようにすることを主眼として、適正に保全されていること。
(2) 瀬戸内海の島しょ部及び海岸部における草木の緑は、瀬戸内海の景観を構成する重要な要素であることにかんがみ、保安林、緑地保全地区等の制度の活用等により現状の緑を極力維持するのみならず、積極的にこれを育てる方向で適正に保護管理されていること。
(3) 瀬戸内海において、海面と一体となり優れた景観を構成する自然海岸については、それが現状よりもできるだけ減少することのないよう、適正に保全されていること。
(4) 海面及び海岸が清浄に保持され、景観を損傷するようなごみ、汚物、油等が海面に浮遊し、あるいは海岸に漂着し、又は投棄されていないこと。
(5) 瀬戸内海の自然景観と一体をなしている史跡、名勝、天然記念物等の文化財が適正に保全されていること。

第三目標達成のための基本的な施策
 水質汚濁の防止
(1)水質総量規制制度の実施
 水質総量規制制度に基づき、産業排水対策と併せて生活排水対策を充実すること等により、化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量の計画的かつ総合的な削減対策を講ずるものとする。
(2)富栄養化による被害の発生の防止
 瀬戸内海の富栄養化による生活環境に係る被害の発生を防止するため、瀬戸内海の関係地域において発生する窒素及び燐の負荷量について、自然的、社会経済的条件を踏まえ、水質汚濁防止法に基づく排水規制との整合性を保ちつつ、計画的にその削減を図る措置を講ずるものとする。この措置を推進するに当たつては、特に次の施策を総合的に講ずるものとする。
(イ) 生活排水については、窒素及び燐の負荷量の削減を図るため下水道の整備を一層促進するほか、地域の実情に応じ、コミュニティプラント、農業集落排水施設、合併処理浄化槽等の各種生活排水処理施設の整備を一層促進する。また、必要に応じ高度処理の導入を図る。
(ロ) 産業排水については、窒素及び燐の負荷量の軽減のため、水質汚濁防止法に基づく排水規制を遵守するとともに、処理施設等の改善整備及び維持管理の適正化に努める。
(ハ) 魚介類の養殖漁場の底質の悪化を通じて富栄養化が生じないよう漁場管理の適正化に努める。また、農業排水中の窒素及び燐の負荷量の軽減及び家畜ふん尿の適正処理に努める。
(ニ) 河川等の直接浄化を推進するとともに、自然環境が有する水質浄化機能の積極的な活用を図る。また、底質の改善を推進する。
(ホ) 洗剤中の燐の削減及び使用量の適正化に努める。また、富栄養化防止に係る普及啓発を推進するとともに、排水処理技術の開発等に関する調査研究を引き続き進める。
(3)油等による汚染の防止
 瀬戸内海の油等による汚染の実態にかんがみ、廃油処理施設の整備及び施設の高度活用、監視取締りの強化等を図るとともに、事故による海洋汚染の未然防止を図るためコンビナート等の保安体制の整備、海難の防止のための指導取締りの強化等必要な措置を講ずるものとする。また、油回収船、オイルフェンス等の防除資材の配備等により排出油防除体制の整備を図るものとする。さらに船舶からの廃棄物の排出を極力抑制するとともに、その受入施設の整備に努めるものとする。
(4)その他の措置
 瀬戸内海の水質保全については、上記のほか、特定施設の設置等の許可制の適切な運用等により、水質環境基準の達成維持を図るものとする。
 また、個別海域の特性に応じ、国の排水基準の設定されていない項目について、必要な措置を講ずるものとする。
 自然景観の保全
(1)自然公園等の保全
 瀬戸内海全域について調査を行い、国立公園及び国定公園の区域等の見直しを行うとともに、必要に応じ、県立自然公園の指定及び見直し並びに自然環境保全地域等の指定を進め、これらの保全すべき区域において保護のための規制の強化等に努め、民有地買上げ制度等の現行制度の活用を図るものとする。
(2)緑地等の保全
 良好な自然景観を有する沿岸地域及び島しょにおける林地の開発に係る規制の適正な運用及び土石の採取に係る規制の運用の強化を図るとともに、沿岸都市地域においては、都市公園及び港湾の緑地の整備並びに緑地保全地区、風致地区等の指定を進めるものとする。
 また、適切な処置による松くい虫の防除、保安林の整備、造林及び治山事業の実施等適正な森林、林業施策の実施により、健全な森林の保護育成に努めるものとする。
 なお、開発等によりやむを得ず緑が損なわれる場合においては、植裁等の修景措置により緑を確保するよう努めるものとする。
(3)史跡、名勝、天然記念物等の保全
 瀬戸内海の自然景観と一体をなしている史跡、名勝、天然記念物等については、その指定、管理等に係る制度の適正な運用等によりできるだけ良好な状態で保全するよう努めるものとする。
(4)ごみ、油等の除去
 海上に浮遊し、あるいは海浜に漂着するごみ、油等については、海面、海浜における投棄に対する取締りの強化を図るとともに、民間活動を含め清掃事業の実施の推進を図るものとする。
(5)その他の措置
 開発等により、自然海岸が減少し、海岸の景観が損なわれている場合もあることにかんがみ、これらの実施に当たつては、景観の保全について十分配慮するものとする。また、海面及び沿岸部等において、施設を設置する場合においても、景観の保全について十分配慮するものとする。
 藻場及び干潟の保全等
 藻場及び干潟等水質の保全、自然景観の保全に密接に関連する動植物の生育環境に関する科学的知見の向上を図るとともに、水産資源保全上必要な藻場及び干潟並びに鳥類の渡来地及び採餌場として重要な干潟について、保護水面の指定、鳥獣保護区の設定等により極力保全するよう努めるものとする。
 なお、他方、水産資源増殖の見地から積極的に魚介類の幼稚仔育成場の整備の施策を推進するほか、適地に養浜事業による干潟の造成を行うものとする。
 また、海底の砂利採取に当たつては、動植物の生育環境等の環境の保全に十分留意するものとする。
 自然海浜の保全等
 海水浴場、潮干狩場等の海洋性レクリエーションの場や、地域住民のいこいの場として多くの人々に利用されている自然海浜については、その隣接海面を含めて地区指定を行う措置を講ずること等により、できるだけその利用に好適な状態で保全し、また、養浜等により海浜環境を整備するように努めるものとする。
 埋立に当たつての環境保全に対する配慮
 瀬戸内海における埋立てについては、瀬戸内海環境保全特別措置法第十三条第一項の埋立てについての規定の運用に関する基本方針に沿つて、引き続き環境保全に十分配慮するものとする。
 下水道等の整備の促進
 瀬戸内海の特性等にかんがみ、水質総量規制制度の実施、富栄養化対策の推進等汚濁負荷量の削減の見地から特に重要な役割を有する下水道につき重点的な投資を図ること等により引き続きその整備の促進に努めるものとする。また、地域の実情に応じ、同様な役割を有するコミュニティプラント、農業集落排水施設、合併処理浄化槽等の各種生活排水処理施設についても、重点的な投資を図ること等によりその整備の促進に努めるものとする。
 さらに、必要に応じ高度処理の導入を図る。
 廃棄物の処理施設の整備及び処分地の確保
 廃棄物の再生利用の促進、処理施設の整備等の総合的施策を推進することにより、廃棄物としての要最終処分量の減少等を図るとともに、廃棄物の海面埋立処分によらざるを得ない場合においても、環境保全と廃棄物の適正な処理の両面に十分配慮し、このような観点から整合性を保つた廃棄物処理計画及び埋立地の造成計画によつて行うものとする。
 海底及び河床の汚泥の除去等
 水銀又はPCB等人の健康に有害な物質を含む汚泥の堆積による底質の悪化を防止するとともに、これらの物質につき国が定めた除去基準を上回る底質の除去等の促進を図るものとする。
 また、その他有機物の堆積等に起因する悪臭の発生、水質の悪化等により生活環境に影響を及ぼす底質については、所要の調査研究を進めるとともに、必要に応じ、除去等の適切な措置を講ずるよう努めるものとする。
 水質等の監視測定
 水質総量規制制度の実施等に伴い、水質の監視測定施設、設備の整備及び監視測定体制の拡充に努めるとともに、引き続き水質等の保全のための監視測定技術の向上等について検討を進める。
10 環境保全に関する調査研究及び技術の開発等
 国、地方公共団体、民間関係機関等の連携の下に、海象等の基礎的研究、瀬戸内海の特性に対応した大規模浄化事業に関する調査検討、赤潮の発生のメカニズムの解明及び防除技術の向上並びに環境影響評価手法の向上に関する調査研究等を推進するとともに、多発している油濁事故等に対処するため、船舶内の油の処理及び流出油の処理に関する技術の開発等を促進するものとする。
11 思想の普及及び意識の高揚
 瀬戸内海の環境保全対策を推進するに当たつては、生活排水等も含めた総合的な対策が必要であり、その実効を期するためには、国、地方公共団体等がその責務を果たすことはもちろんのこと、瀬戸内海地域の住民及び瀬戸内海を利用する人々の協力が不可欠であり、このため公益法人の活用等により瀬戸内海の環境保全に関する思想の普及及び意識の高揚を図るものとする。
12 国の援助措置
 国は、この計画に基づき地方公共団体等が実施する事業について、その円滑かつ着実な遂行を確保するため必要な援助措置を講ずるよう努めるものとする。