「21世紀の地球環境と人間社会を考える研究会」報告書の要旨

 

 

・(持続可能な開発の概念の再検討)

 「持続可能な開発」の概念は、現状では様々な立場の人により様々な意味で用いられている。リオ・サミットにおいて支持された持続可能な開発の考え方は、従来型の経済成長を前提として環境保全と両立させようとするものであり、開発サイドと環境サイドを繋ぐ一つの政治的な産物であったといえよう。このような状況からこの概念を救い出し、環境と経済とを統合していくべきものととらえ、21世紀に向けて経済社会を有限な地球環境の中で持続しうるものに変革していくことで、持続可能な開発(発展)の実現・具体化を図っていく必要がある。

 

・(人口問題及び開発途上国の経済成長と地球環境)

 人口問題は地球環境問題と密接な関係にあり、開発途上国の貧困に伴う人口増加の圧力は不適切な農地の拡大や森林の伐採による環境破壊を招き、貧困を助長するという悪循環の様相を呈している。したがって、途上国への開発援助等にも人口抑制の観点を織り込んでいくなどの対応が必要となっている。

 21世紀に向けて途上国の経済成長に伴う環境負荷は急増しており、途上国の従来型の開発志向を環境負荷の少ない新たな開発パターンに変革し得るかが今後の大きな課題となろう。途上国に対しても環境保全対策や経済成長の質的転換を要求するとともに、それを可能にするだけの支援をしていくべき時期に来ているが、先進国は途上国の手本となるような自らの対策強化やその方向での経済社会の変革を実行していかなくては、途上国を本格的に動かすことは不可能であろう。

 

・(環境革命という考え方)

 人口増加や途上国の経済成長などにおいて顕在化している有限な地球環境の問題に対し、無制約的に自由な経済活動を基本に環境をその外側の制約条件としてのみとらえる従来の考え方を超えて、経済社会の持続可能性を追求していくためには、環境と経済は相互依存的(共存共栄的)に調整統合されるべきものとする考え方の転換及びこれに基づく経済発展の質的変革が重要である。これを、産業革命以降の経済社会システム及び自然観等からの脱却を図るための「環境革命」と呼ぶこととする。地球環境にとっての人間の近代以来の活動の拡大は、地球を人体にたとえれば、ばい菌やガン細胞のように有限な地球環境を一方的に利用し改変し、その結果として多様な環境のバランスを崩し大きな破壊をもたらしてきたが、環境革命においては、地球環境と人間活動は相互依存的な連関の中で自然の恵みを損なうことなく最大化していくような共生関係を創っていく必要がある。

 

・(価値観の変更)

 環境革命の基本として、物質的な欲望の無制約的な増大に歯止めをかけ、その一部を自然とのふれあいや芸術等を探求する欲求に転化させるなどにより、心の豊かさなど自己管理し得る多彩かつ交響的な欲求を基礎に据えた価値観への転換を図ることが重要である。これは近代の機械論的・自然支配的自然観の共生的自然観への転換にも繋がる。新しい価値観がさらに広く人々に共有されるようになるための条件整備として、ライフスタイル変革の基礎となる技術開発、価値観やライフスタイルに対応した制度への変革などが重要である。価値観と技術と制度は、相互に影響し合い補強し合う三位一体ともいえる関係にある。

 

・(技術の変化と制度改革)

 環境革命を推進するためには、環境の方向を向いた技術の開発が不可欠であり、環境への配慮を技術の開発に織り込んでいくとともに、環境保全型技術革新を誘導する制度的措置を合わせて講じることにより、社会システムとして技術の転換をサポートしていくことが必要である。また、価値観の転換や技術の変化を長期的に維持し、進展させるためには、経済社会の制度の改革や生活基盤等を支えているインフラ等の整備が必要であろう。

 

・(経済発展の質的転換)

 21世紀の世界は、更なる従来型の量的拡大を行ってはならない時代に入る。少なくとも先進国では、量的には一面において減少しなければならない必要すら生じるかもしれない。開発途上国においてもわずかな量的拡大の余地を人口増加で相殺しないようにしなければならない。したがって、産業革命以降の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システムに基づく一面的で量的な経済発展からは明確に脱却し、質的な経済発展をめざす社会を創っていくことが、環境革命の実現過程といえよう。この21世紀の質的な経済発展は、ゼロエミションの追求等を基礎とする循環・共生型の経済社会システムの構築、同経済社会を支える情報コミュニケーションネットワークの形成を進める情報化社会の進展、既存産業のエコビジネス化の3つの要素を持ちつつ、社会活動の充実化や生活の質が追求され、地球環境と共生した持続可能性が確保されていくものと考えられる。

 

・(開発途上国支援の改革)

 環境革命は最終的には世界全体で行われなければ意味をなさない。したがって、先進国は自ら実践するとともに、途上国を環境革命に引き込まなくてはならない。そのためにも先進国と途上国の格差是正のための抜本的な支援措置を講じていかなければ、途上国の同意は得られないだろう。これは、先進国の存在自体が途上国の量的な経済発展の可能性を摘み取っているという現状からくる先進国の義務ともいうべきものと考えられる。この所得再分配的な開発支援は、人口問題の軽減と合わせて行われるべきであり、途上国が人口の抑制に適切な配慮を行うための条件整備をも含めたものである必要がある。

 

・(環境革命の担い手)

 環境革命の担い手は、民間企業、地方自治体を含む政府及び市民全体である。市民が主体となったNGOは、現時点では一般の市民の生活実感とはややと離れたところにあることは否めないが、市民との実生活面における接点を拡大していくことなどにより、市民の意識や活動を活性化させ有効なものにしていく上での触媒として大きな役割を担う可能性を持っている。このため、NGOの組織自体への資金的援助や適切な法人格の付与なども含め、NGO活動に対する本格的な支援の枠組みを構築していく必要がある。