マングース駆除モデル調査(島しょ地域の移入種駆除・制御モデル事業)
調 査 結 果 概 要


環      境       庁
鹿    児    島    県
(財)自然環境研究センター

I. 調査の目的と構成
 

 本調査は、島しょ地域にみられる希少種を含む特有の生物相を保護する観点から、移入種の駆除・制御方法を確立することを目的として、平成8年度から11年度までの4年間、奄美大島のマングースをモデルケースに、環境庁が鹿児島県に委託して進められた。既存情報のとりまとめと現地調査により、マングースの生息状況、生物学的特性、在来種に及ぼす影響等を把握し、現在の生息数を推定するとともに、駆除の方法等を検討した。調査は、環境庁が設置した専門委員会(座長:小野勇一九州大学名誉教授)による内容の検討を経た上で実施された。

 

II. 調査結果
 

1.奄美大島におけるマングースの生息状況

(1) 分布の現状と動向
  奄美大島のマングースは1979年頃、名瀬市赤崎に30頭ほどが放逐されたものに由来するといわれている。聞き取りおよび現地調査の結果、分布情報は奄美大島の全市町村から得られた。マングースが定着していると考えられる地域は、1983年以前は名瀬市北部に限られていたが、1997年までに名瀬市全域、大和村および住用村の東半部、龍郷町南部まで拡大した(図1)。分布は、シイ・カシ二次林、山地の自然林で多く確認された。
(2) 生息密度分布
  生息密度の分布状況を把握するために、平成8・9年度、島内18箇所において、50個のワナをライン状に設置し、捕獲調査を実施した(ワナライン調査)。その結果、名瀬市西部、大和・住用村の名瀬市境界付近が高密度地域、大和村・住用村東部、名瀬市北西沿岸部、龍郷町南端部が中密度地域、宇検村東部、大和村・住用村中央部、名瀬市北部および龍郷町南部が低密度地域と考えられた(図2)。また捕獲数は、自然林より二次林に、林内より林道沿いや農地など開けた環境の方に多い傾向がみられた。
  正確な生息密度を明らかにするため、平成10年度、大和村の森林に約1km2の方形区を設け、200個のワナによる捕獲を行った(方形区調査)。その結果、調査対象地区の生息密度は26.5頭/km2と推定された。
  連続捕獲の効果をみるために、名瀬市金作原にワナラインを設定し、平成8年度から11年度まで、捕獲作業を計8回行った。その結果、生息密度は、2回目の捕獲時には1回目の約1/5に低下していたが、3回目以降は1回目の1/3〜1/4程度を維持した。
 
2.マングースの生物学的特性等
(1) 系統分類
  専門家による鑑定等の結果、奄美大島に生息するマングースは沖縄島のものと同じくジャワマングース(Herpestes javanicus)であることが追認された。この種は元来、東南アジアから中近東に至る地域に分布している。
(2) 食性
  捕獲したマングース計187頭の消化管内容物を分析した結果、本種は昆虫食主体の食性ではあるが、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類も確実に捕食していることが明らかになった。消化管内容物からは哺乳類4種、鳥類2種、爬虫類4種、昆虫類2種が同定された。これらの中には、アマミトゲネズミ(絶滅危惧IB類)、ワタセジネズミ(準絶滅危惧)、アカヒゲ(絶滅危惧II類)、バーバートカゲ(II類)、キノボリトカゲ(II類)が含まれていた。一方、ハブの捕食は確認されなかった。なお、山田(森林総合研究所)ほかによる調査では、マングースの糞からアマミノクロウサギ(IB類)とケナガネズミ(IB類)の体毛が確認されている。
(3) 繁殖状況・病理
  繁殖期や出産数などの繁殖特性を明らかにするため、捕獲個体を解剖し、生殖器の状態や胎仔数を調べた。その結果、オスでは2月〜5月頃に繁殖状態にある個体が多く、メスでは3月〜6月に妊娠個体がみられることが分かった。妊娠個体6頭の胎仔数は2〜4、平均3.0頭であった。また、病理解剖を行った30個体に病変等は認められず、寄生虫も確認されなかった。
 
3.マングースの行動圏

  マングースの行動圏サイズ、個体間関係、活動性などを明らかにするために、平成9年度は沖縄県大宜味村で、平成10・11年度は名瀬市(農耕地周辺)と住用村(森林)で、テレメトリー法による個体追跡調査を実施した。
  農耕地周辺での調査の結果、行動圏の大きさは平均約20haであるが、行動圏内の利用位置の95%は約10haに収まった。行動圏の大きさに性差は認められなかった。また、昼行性であること、夜間や悪天候時の巣穴の利用が確認された。森林内の行動については十分なデータを得ることができなかった。この他、直線距離で約3kmを移動する個体の存在が確認された。
 

4.マングースの生息数推定

  ワナライン・方形区調査の結果および行動圏サイズからマングースの生息密度を推定した。次に、生息密度分布に基づいて区分された3地域(図2)の密度平均値に各地域の面積を乗じることにより、平成9年時点での総個体数を算出した。また、分布域の拡大傾向(図1)から年増加率を約30%と推定した。そして、平成11年時点でのマングースの生息数を、増加分等を考慮して5,000〜10,000頭前後と推定した。
  この数は従来言われていたよりも少なく、捕獲によりマングースを撲滅できる可能性を示唆しているが、1年当たり数千頭規模の駆除を実施しなければマングースの増加を食い止めることはできないと考えられた。
 

5.マングース駆除方法等の検討
(1) 一斉駆除の試行
  今後行われる希少種保護のための駆除方法・体制を検討するために、平成11年12月から12年3月までの期間、名瀬市、大和村、住用村において、試験的一斉駆除を実施した。農作物被害防止のためマングースの有害駆除が毎年行われている農耕地周辺を除くほぼ全域にわたり、1名1日当たり原則50個のワナを設置する方法で、のべ 412人日の作業により792頭を捕獲した。
(2) 駆除方法等の検討
  異なる3タイプのワナおよび数種の餌を用いて捕獲を行った結果、カゴワナと魚肉ソーセージの組み合わせにより、比較的安価で効率的な捕獲ができることがわかった。
  奄美大島におけるマングースの駆除は、まず、できるだけ早期かつ短期間に広範囲での一斉捕獲を行うことにより生息数を大幅に低減させ、その後、絶滅を確認するまで長期にわたり捕獲を継続する、という2段階で行うことが適当と考えられた。
  試験的一斉駆除の結果を踏まえ、本格的駆除を実施する場合の捕獲体制、スケジュール等を検討した。特に、環境庁・鹿児島県・関係市町村、地元住民、専門家等が協力して駆除事業を推進することが重要であると考えられた。
  なお、マングース駆除の必要性について、一般の人々、特に地元住民の理解と協力を得ることを目的として、この問題に関するリーフレットを作成することとした。
 
6.その他(海外におけるマングースの影響事例)

  ジャワマングースが移入地域において在来種に及ぼす影響に関する既存情報を収集整理した。本種は、クマネズミや毒蛇の駆除を目的として、西インド諸島をはじめとする多くの島嶼に移入され、多くの在来種の減少・絶滅、農作物や家畜・家禽の食害などの問題を引き起こしている。特に奄美大島(719km2)と同規模の島々(300〜1,000km2)で、中小型のネズミ類、地上性の鳥類、ヘビ・トカゲ類の絶滅が生じていることから、奄美大島の在来種への影響も大きいと考えられた。