「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響(企業編)」
調査概要


 環境庁国立環境研究所では、地球環境研究総合推進費の研究として実施された「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響に関する国際比較調査」の一環として、(株)住友生命総合研究所に委託して、日本において消費者の行動や態度が企業行動にどのように影響をしているのかを分析するために、平成11年度に日本企業を対象とした調査(以下、「平成11年度企業調査」)を実施した。調査内容は、企業の環境問題に対する認識とその変化、環境行動の現状、企業の環境行動における消費者の位置づけ、企業の環境リテラシー度である。なお、調査方法等については、後半の「参考資料:調査方法等の概要」を参照されたい。

1.高まる環境対策実施の評価
 企業経営からみた環境問題に対する認識を尋ねたところ、上場大企業では、「環境分野はビジネスとして将来性があり、有望な分野である」「環境対策は総合的に見てコストを削減する」という回答が36〜37%と高く、前向きな姿勢が見られる。一方、上場中小企業では、「環境問題への当社の対策費が増大することを懸念している」が45%と最も多く、他の選択肢をしのいだ。また、非上場企業では企業規模別には大きな差は見られず全体として、「環境分野はビジネスとして将来性があり、有望な分野である」の44%についで「環境問題への当社の対策費が増大することを懸念している」が24%と前向きな企業が多勢である。いずれにしろ、「環境対策コストが増大し将来の企業活動を抑制する」は3.5%から10.4%と少ない。総合してみると、「環境分野はビジネスとして将来性があり、有望な分野である」に対する回答は平成8年度調査と比べて9.4ポイントの増加であり、「環境対策コストが増大し、将来の企業活動を抑制する」という意見は18.4%から6.7%へと11.7ポイント減少した。この3年間で、環境分野への対応が企業活動に与える影響を肯定的に評価する企業の割合が高くなったといえる(図1)。

図1 環境対策実施の評価>

 同様に、地球環境問題への認識も高まり、「当社は地球環境問題との関わりについては考えたことはない(全体平均:平成8年度6.5%→平成11年度4.7%)」、「当社の事業は地球環境に負荷を与えていないと認識している(全体平均:平成8年度21.0%→平成11年度14.7%)」とこの2項目の合計で、27.5%から19.4%と8.1ポイントも減少した。企業上場・規模別に見ると(図2)、上場大企業では約70%が「業界団体に働きかけるなど可能なことはできるだけ対応している」と回答しているが、それ以外の上場中小企業、非上場企業では、「一社だけでは対応のしようがないので、特別な対応はしていない」「当社の事業は地球環境に負荷を与えていないと認識している」を含めた3項目に回答が分散した。

図2 地球環境問題との関わり>

2.業種別の環境対策
1)製造業
 省資源・省エネルギー、廃棄物の削減などのために製造過程で実施している環境対策について尋ねた。他の業種と同じく、規模別の取り組みの差がみられ、いずれの対策においても、「上場大企業」→「非上場大企業」→「上場中小企業」および「非上場中小企業」の順に取り組んでいる割合が高い(図3)。製造業全体で平均してみると「製造時の廃棄物の減量化を行っている」(回答全体で73.5%)、「環境負荷の低い製造工程を採用している」(同58.2%)、「原材料などの使用量を削減している」(同50.4%)、「製品の廃棄時に回収・分解しやすい設計を取り入れている」(同23.7%)となった。

図3 製造業の環境対策;複数回答>

2)建設業
 建設業においては、全体に「建設廃棄物の削減・リサイクルに積極的に取り組んでいる」「省エネルギー・省資源化施工に積極的に取り組んでいる」の2つの合計で過半数を占めた。また、図4に示したように上場中小企業において特徴ある分布が見られる。「省エネルギー・省資源化施工に積極的に取り組んでいる」「環境対策を推進する見地から、施主の説得に力を入れている」企業が他に比べて多い。また、上場大企業は全体に積極的である。また「環境負荷の少ない材料の採用を推進している」、「環境負荷の少ない材料の採用を推進している」などでは特に上場大企業とそれ以外の企業に差が見られなかった。

図4 建設業の環境対策;複数回答>

3)運輸業
 ここでも上場大企業とそれ以外で大きく差が現れている。しかし、「環境負荷が小さい運転方法を推進している(アイドリング・ストップなど)」は差があるとはいえ7割以上が行っていると回答した。(図5)。次いで、「環境負荷が小さい輸送機材を使用している」「環境負荷が小さい燃料を使用している」が全体的に多い。「輸送全体の管理をしている(モーダルシフトなど)」は特に上場企業で多く、40%近くが行っているとしている。

図5 運輸業の環境対策;複数回答>

4)金融・保険業
 この業種のもっとも大きな特徴は、「特にない」という回答が他の業種に比べて圧倒的に多いことである。上場大企業でも38%、非上場大企業では71%に達する。実際に行っている環境配慮では、「融資または投資の相手先を審査する際に『環境リスク』を考慮」が多い(図6)。次いで、上場大企業では「専門的に環境を扱う部門がある」「環境問題に関する相談にのったり情報を提供している」が多い。一方、「顧客に対して経営の中に環境監査等の考え方の導入を勧めている」が特に非上場の企業で2割から3割あり、注目される。

図6 金融・保険業の環境対策;複数回答>

3.環境に関する消費者の期待と企業の認識・対応
 ここでは、平成10年度に実施した消費者調査結果と本調査結果を対応させ、消費者が期待する企業の行動と、企業が実際に行っている環境対策の比較を行った。
1)環境に関する消費者の期待と製造業の認識・対応
 消費者が製造業に期待する環境行動は、「廃棄された製品を責任を持って回収・再利用する」が75.2%で一番回答割合が高く、「環境に良い製品を積極的に開発する」が65.5%で、この2者の回答割合が高い。以下、「環境対策を積極的に行う」(44.7%)、「修理体制を整備する」(27.3%)、「製品の消費エネルギーや環境負荷を分かりやすく表示する」(22.2%)の順である(図7)。
 「環境対策を積極的に行うこと」、「自社の環境対策について具体的に情報公開・開示する」等については、消費者の期待を充分に認識しているが、循環型社会をつくるために必要な、「廃棄された製品を責任を持って回収・再利用する」「修理体制を整備する」や「製品の消費エネルギーや環境負荷を分かりやすく表示する」といった項目について、消費者の製造業への期待は大きいにも関わらず企業側の認識は大きく不足しているようである。
 
2)環境に関する消費者の期待と小売業の認識・対応
 平成10年度に実施した消費者調査結果によると、消費者が小売業に期待する環境行動は、「包装を簡素化する」が62.4%で一番回答割合が高い。以下、「ビンやトレイなどのリサイクル活動を積極的に行う」(57.7%)、「省エネ商品・再利用可能な商品などの環境保全型商品の品ぞろえを豊富にする」(54.7%)、「環境に悪い商品を売らない」(53.8%)までが5割以上で、「商品の環境情報を消費者向けに提供する」(27.7%)が続く(図8)。実際に行っている環境対策は、小売業全体では「包装を簡素化する」(58.1%)、「店内の省エネに配慮する」(51.3%)が5割を超えており、「ビンやトレイなどのリサイクル活動を積極的に行う」(40.8%)、「環境に悪い商品を売らない」(40.8%)、「省エネ商品・再利用可能な商品などの環境保全型商品の品ぞろえを豊富にする」(29.8%)が続く。製造業の場合と同様に、消費者が期待する環境行動と小売業の実際の環境対策との間にギャップが見られた。「ビンやトレイなどのリサイクル活動を積極的に行う」ためには社会全体の制度的な対応が必要であり、個々の企業での対応は困難な面もあるようである。

図7 消費者の期待と製造業の認識・対応の相違>

図8 消費者の期待と小売り業の認識・対応の相違>

4.企業による環境に関する情報交換の状況とその内容
1)情報交換の程度
 取引企業や業界団体、グループ企業(親会社、子会社、下請けなど)、消費者(消費者団体、消費者モニター、環境NGOなど)との環境に関する情報交換の実施頻度について尋ねたところ、いずれに対しても「実施していない」と回答した割合が、「定期的に実施している」「不定期に実施している」「取引時に実施している」「その他」などと比べて高い結果となった。特に、取引企業、業界団体、グループ企業対象では、いずれも過半数が何らかの形で情報交換しているのに対し、消費者に対しては、7割弱が「実施していない」と回答しており、環境に関する消費者とのコミュニケーションが進んでいないことが窺える(図9)。

図9 情報交換の程度>

図10 情報交換の内容:経年比較>

2)情報交換している情報の内容
 情報交換を実施している企業に対してその内容を尋ねたところ、取引企業、業界団体、グループ企業それぞれに対しては、「環境に関する業界内企業の動向」と「環境に関する行政の動向」の割合が高い。また取引企業とグループ企業に対しては、「ISO14000シリーズ等環境関連の自主的取り組みの動向」に関する情報交換の割合が高くなっている。
取引企業・業界団体・グループ企業に対する情報交換の内容について平成8年度調査と比較すると、いずれの相手先に対しても、「ISO14000シリーズ等環境関連の自主的取り組みの動向」の割合が大きく上昇しており、それ以外の項目については、業界団体で「環境に関する行政の動向」の割合が2.5ポイント上昇しているほかは、いずれの相手先に対してもすべて割合が低下している(図10)。
 
5.総括
 今回の日本企業を対象とした調査は平成8年度に続く第2回目の調査であった。この3年間に、驚くほど企業の環境対策についての認識や実際の行動が進展していることがうかがえる結果となった。地球環境問題をめぐる認識では「業界団体に働きかけるなど可能なことはできるだけ対応している」が回答全体で10ポイント近く増加し、環境対策に肯定的な企業が増大した。環境ISOと呼ばれるISO14001認証についても数多くの企業が関心を持って情報交換を行っている。
 しかしながら、平成8年度調査結果にみられた、企業規模、上場の有無、またここでは指摘しなかったが業種別の認識および対応の差は未だ歴然と残っており、差は縮まらない。また、消費者とのコミュニケーションについても大きな進展がみられない。特に企業が実際に行っている対策と、消費者が企業に望んでいる対策の食い違いは大きく、企業の環境対策のアピールの難しさを浮かび上がらせているといえよう。


参考資料:調査方法等の概要

1.調査方法
 郵送法
 
2.調査時期
 平成11年10月〜11月
 
3.回収状況の詳細
 調査は、上場、非上場をあわせて6,000社を対象に郵送法で行い、回収数は2,223サンプル(回収率37.1%)であった。サンプルの選定は、次項「4.調査対象の選定方法」を参照されたい。内訳は以下の表の通りである。
≪平成11年度企業調査≫
 標本数有効回答数回収率
上場企業2,41197840.1%
非上場企業
大企業
中小企業
3,559
1,352
2,207
1,245
445
800
30.0%
32.9%
36.2%
合計6,0002,22337.1%

≪平成8年度企業調査≫
 標本数有効回答数回収率
上場企業2,.304 88538.4%
非上場企業
大企業
中小企業
3,696
1,372
2,324
1,193
436
757
32.4%
31.8%
32.6%
不明-15-
合計6,0002,09334.9%

(注)上場企業は規模に関係なくすべて対象としたため、規模別の数は示していない。
 また、回答のあった企業の業種の構成比を、サンプリングのもととなったデータベースのものと比べると次ページの図のようになる。製造業の回答率がもとのデータベースより高い傾向にあり、全体の回答が製造業の傾向を若干強く表している可能性が考えられるが、全体的な代表性は確保していると考えられる。
 
4.調査対象の選定方法
 平成11年度企業調査における調査対象の選定にあたっては、以下のように行った。
[1]1)社会的な影響が大きい、2)アンケート以外のデータが入手できる、3)アンケートの回収数を確保するという点を考慮し、証券取引所1・2部上場企業(地方上場を含む)をすべて調査対象とした(平成11年9月現在:2,441社)。
[2]サンプル総数6,000社から上場企業数(2,441社)を除いた企業3,559社については、「(株)帝国データバンク」に登録されている非上場企業から抽出。非上場の大企業(1,352社)と非上場の中小企業(2,207社)は母集団の比率(29,857:48,746)で抽出した。
[3]非上場の中小企業の母集団を決めるにあたっては以下のように定義した。
1)上限については、「中小企業基本法」の定義のうち従業員数を使用した(資本金の基準については考慮しなかった)。
2)環境に対する様々な取り組みや考え方について、個人としてではなく企業という立場で回答してもらうという観点から、従業員数の下限を「工業・鉱業等」は100名以上、卸売業・小売業・サービス業は30名以上とした。


5.関連調査
 本調査に関連した調査として、平成10年度に日本の消費者を対象としたアンケート調査を行っている。この調査は、平成10年9月〜10月に郵送法により実施した。全国を都市規模により層化(人口50万人以上都市、10万人以上都市、10万人未満市、郡部)した上で、調査地点(全100市区町村)を抽出した。各調査地点の住民基本台帳から抽出した18歳〜74歳の男女を対象にした。標本数は4,986、有効回収数は2,551サンプル(回収率51.2%)であった。調査内容は、消費者の環境意識と環境行動、グリーンコンシューマーとしての企業への働きかけについてである。この調査は、平成9年に実施したドイツ消費者調査との比較も行っている。詳細は、「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響≪消費者編:日独比較」」平成11年3月を参照されたい。

 

<問い合わせ先>
環境庁国立環境研究所 社会環境システム部  青柳みどり
TEL:0298-50-2392 FAX:0298-50-2572 e-mail:aoyagi@nies.go.jp
 
<調査研究委託先>
(株)住友生命 総合研究所 生活部  桂川、鈴木、清水
TEL:03-3272-5888 FAX:03-3272-5911