平成30年9月27日
保健対策

平成29年度 大気中水銀バックグラウンド濃度等のモニタリング調査結果について

 環境省では、国内外の水銀対策に資するため、国内の発生源による影響を直接受けにくい地点(バックグラウンド地点)である沖縄県辺戸岬及び秋田県男鹿半島において、水銀の大気中濃度等のモニタリング調査を実施しています。
 平成29年度の調査においては、辺戸岬及び男鹿半島における大気中水銀濃度及び降水中水銀濃度は、指針値等を十分下回るとともに、これまでの調査結果と大きな乖離はありませんでした。
 また、辺戸岬では、水銀以外の大気中金属濃度についても調査を行ったところ、水銀と同様に、これまでの調査結果と大きな乖離はなく、指針値が設定されている金属元素については、その指針値を十分下回る値でした。

1.背景

 環境省では、国内外の水銀対策に資することを目的として、国内の発生源による影響を直接受けにくい沖縄県の辺戸岬において、平成19年度より水銀の大気中濃度(バックグラウンド濃度)等に関するモニタリング調査を行い、平成22年度以降は、毎年その結果を公表しています。また、平成26年8月からは、秋田県の男鹿半島においてもモニタリング調査を実施しています。

2.調査概要

(1)水銀の形態別測定及び粒子状物質中の水銀以外の金属の測定について

 大気中の水銀には多くの種類(形態)が存在し、その大部分を占める元素状水銀(金属水銀)のほか、酸化態水銀、粒子状態で浮遊する水銀(粒子状水銀)等の形態があります。こうした様々な形態の水銀は、大気中において異なる挙動を示すことが知られています。

 本調査では、国際的な水銀の排出状況及び濃度レベルの推移、それらが我が国の環境に及ぼす影響の把握等に資することを目的に、国内の発生源による影響を直接受けにくい地点(バックグラウンド地点)である沖縄県の辺戸岬において、大気中にガス状で存在する金属水銀及び酸化態水銀、並びに粒子状水銀の濃度と、降水中の総水銀濃度について測定を実施しました。あわせて、大気中水銀濃度や降水中水銀濃度の変化傾向を確認するため、大気中粒子状物質中の金属類等についても測定を行いました。(表1参照)

 また、北日本における水銀バックグラウンド濃度を測定するため、秋田県の男鹿半島においても形態別水銀と降水中水銀濃度の測定を実施しました。

(2)測定地点

  • 沖縄県辺戸岬

国立研究開発法人 国立環境研究所 辺戸岬 大気・エアロゾル観測ステーション

(沖縄県国頭郡国頭村大字宜名真)

  • 秋田県男鹿半島

秋田県船川測定局隣接地

(秋田県男鹿市船川港船川字泉台)

(3)測定方法、調査項目及び測定頻度

 大気成分については、形態別水銀連続測定装置を用いて測定を行いました。

 降水成分については、降水捕集装置により試料を採取し、米国環境保護庁(EPA)が定める方法に準じて濃度分析を行いました。

表1 調査項目及び測定頻度

区分

調査項目

測定頻度

測定地点

大気成分

ガス状

金属水銀

連続測定(16回/日)

辺戸岬・男鹿半島

酸化態水銀

連続測定(8回/日)

粒子状水銀

粒子状物質中のその他金属

(有害17成分、指標6成分)

週1回測定(7日間連続サンプリング)

辺戸岬

降水成分

降水中の水銀濃度

週1回測定(7日間連続サンプリング)

辺戸岬・男鹿半島

※本調査における「金属水銀」とは、大気中にガス状で存在する水銀元素(Hg0)のことを指します。また、「酸化態水銀」は、大気中にガス状で存在する酸化された水銀(Hg2+)を、「粒子状水銀」は、大気中の粒子状物質に含まれる又は吸着している水銀を、それぞれ表しています。

※大気汚染防止法に基づいて行われている有害大気汚染物質モニタリング調査における水銀濃度のモニタリングと本調査では測定方法が異なります(別添参照)。

3.調査結果の概要

(1)大気中水銀濃度

 大気中の形態別水銀の合計の年平均値は、辺戸岬において1.6 ngHg/m3、男鹿半島において1.6 ngHg/m3であり、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値。年平均値40 ngHg/m3)を十分下回る値でした。

 また、大気中の水銀は、そのほとんどが金属水銀であり、酸化態水銀及び粒子状水銀は平均で1%未満でした(別添表3及び別添表6参照)。

 辺戸岬における形態別水銀の合計の濃度及び形態別の水銀濃度の年平均値は、概ね横ばいで推移していました(詳細は表2及び別添表4参照)。

2 辺戸岬における大気中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)

(単位:ngHg/m3

測定項目

平成

19年度

平成

20年度

平成

21年度

平成

22年度

平成

23年度

平成

24年度

平成

25年度

平成

26年度

平成

27年度

平成

28年度

平成

29年度

金属水銀

1.5

1.8

2.2

1.9

2.1

2.0

1.7

1.7

1.6

1.7

1.6

酸化態水銀

0.001

0.002

0.002

0.001

0.002

0.002

0.001

0.002

0.002

粒子状水銀

0.002

0.002

0.002

0.002

0.004

0.004

0.002

0.003

0.002

合計

2.2

1.9

2.1

2.0

1.7

1.7

1.7

1.7

1.6

※平成19年度については、測定を開始した10月16日以降のデータを用いて平均値を算出しています。酸化態水銀と粒子状水銀は、平成21年10月以降に安定した測定が実施できるようになったことから、同月以降合計濃度を算出しており、そのデータを年度別平均値の算出に用いています。

※平成21年度までは試行期間であり、測定日数が限られる等の点に留意する必要があります。

 男鹿半島における形態別水銀の合計の濃度及び形態別の水銀濃度の年平均値は、昨年度、一昨年度と概ね同等の値となりました(詳細は表3及び別添表7参照)。

3 男鹿半島における大気中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)

 (単位:ngHg/m3

測定項目

平成26年度

平成27年度

平成28年度

平成29年度

金属水銀

1.6

1.6

1.6

1.6

酸化態水銀

0.002

0.003

0.002

0.003

粒子状水銀

0.009

0.009

0.011

0.009

合計

1.6

1.6

1.6

1.6

※平成26年度については、測定を開始した8月8日以降のデータを用いて平均値を算出しています。

(2)降水中水銀濃度

 平成29年度の辺戸岬における降水中の水銀濃度の年平均値は4.8 ngHg/Lでした。降水中の水銀については指針値等が設定されていませんが、参考として、水銀に関する水道水の水質基準値である500 ngHg/Lと比較すると、測定値は十分低い値でした(詳細は表4及び別添表9参照)。

 なお、降水中水銀濃度の分析手順は、「平成27年度有害金属モニタリング調査検討会」の議論を踏まえ、平成28年度から新しい手順に変更しました。(この新しい手順による測定値は、比較試験の結果、従来の手順による測定値に比べ1.3~1.4倍程度高い値となっていることが確認されています。(詳細は別添(参考3)参照))

表4 辺戸岬における降水中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)

(単位:ngHg/L)

測定項目

平成28年度

平成29年度

水銀濃度

6.6

4.8

(参考 従来の手順による辺戸岬における降水中水銀濃度の年度別測定結果)

(単位:ngHg/L)

測定項目

平成

20年度

平成

21年度

平成

22年度

平成

23年度

平成

24年度

平成

25年度

平成

26年度

平成

27年度

平成

28年度

水銀濃度

3.4

3.1

2.4

3.0

1.9

2.2

1.4

2.0

4.3

 

 男鹿半島における降水中の水銀濃度の年平均値は5.7 ngHg/Lでした。参考として、水銀に関する水道水の水質基準値(500 ngHg/L)と比較すると、測定値は十分低い値でした(詳細は表5及び別添表11参照)。

表5 男鹿半島における降水中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)

 (単位:ngHg/L)

測定項目

平成28年度

平成29年度

水銀濃度

6.3

5.7

(参考 従来の手順による男鹿半島における降水中水銀濃度の年度別測定結果)

 (単位:ngHg/L)

測定項目

平成26年度

平成27年度

平成28年度

水銀濃度

2.5

2.9

4.7

※平成26年度については、測定を開始した8月25日以降のデータを用いて平均値を算出しています。

(3)大気中粒子状物質における水銀以外の金属元素の濃度

 本モニタリング調査では、水銀の発生源・挙動等を解析するため、大気中の粒子状物質に含まれる、又は粒子状物質に吸着した、ニッケル、ヒ素、鉛、カドミウム等の金属元素(有害17成分、指標6成分)の濃度を、辺戸岬において測定しています(詳細は別添表13、表14参照)。

 辺戸岬におけるニッケル、ヒ素及びマンガンの平成29年度の年平均値はそれぞれ0.98 ngNi/m3、0.73 ngAs/m3、4.0 ngMn/m3であり、いずれも環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針値(年平均値 ニッケル25 ngNi/m3、ヒ素6 ngAs/m3、マンガン140 ngMn/m3)を下回る値でした。

 また、同指針値が設定されていない鉛、カドミウム及びクロムについては、平成29年度の年平均値はそれぞれ2.9 ngPb/m3、0.11 ngCd/m3、0.91 ngCr/m3でした。

 鉛とカドミウムについては、測定開始以来最も低い値、ヒ素については、二番目に低い値でした。また、ニッケル、マンガン及びクロムについては、平成28年度よりもやや高い値でした。

表6 辺戸岬における粒子状物質中の金属類の濃度の年度別測定結果(年平均値)

(単位:ng/m3

測定項目

指針値

平成19年度

平成20年度

平成21年度

平成22年度

平成23年度

平成24年度

平成25年度

平成26年度

平成27年度

平成28年度

平成29年度

ニッケル(Ni)

25 0.76 0.59

0.87

0.95 0.99 1.1 1.8

1.5

1.1

0.74

0.98

ヒ素(As)

6

1.4

0.68

0.85

0.83

0.76

0.99

0.98

1.1

0.74

0.73

0.73

マンガン(Mn)

140

6.0

3.4

6.7

5.5

4.6

7.4

4.9

6.6

3.7

2.9

4.0

鉛(Pb

12

4.6

5.2

5.7

5.0

7.3

6.9

6.5

3.4

3.1

2.9

カドミウム(Cd

0.25

0.13

0.17

0.16

0.12

0.17

0.19

0.20

0.13

0.13

0.11

クロム(Cr

0.83

0.52

1.1

1.1

0.87

1.3

1.2

1.4

0.69

0.65

0.91

4.今後の対応

 本モニタリング調査のデータは、アジア太平洋地域における大気中の水銀の状況についての基礎資料として重要であり、また、水銀に関する水俣条約の有効性評価にも資することから、今後も継続的にモニタリング調査を実施し、広く国内外へのデータの提供や結果の発信を行う予定です。

添付資料

連絡先
環境省大臣官房環境保健部環境保健企画管理課水銀対策推進室
代表 03-3581-3351
直通 03-5521-8260
室長    西前 晶子(内線 6353)
室長補佐  斉藤 貢 (内線 6368)

環境省大臣官房環境保健部環境安全課
代表 03-3581-3351
直通 03-5521-8261
課長    瀨川 恵子(内線 6350)
保健専門官 藤井 哲朗(内線 6361)
担当    松本 純一(内線 6370)