第3部 各種環境保全施策の具体的な展開
第1章 戦略的プログラムの展開
第1節 地球温暖化対策の推進
地球温暖化問題は、人間活動に伴う温室効果ガスの排出量の増加と二酸化炭素の吸収量の減少により、大気中の温室効果ガスの濃度が高まり、地球の気候システムに危険なかく乱を生じさせるものであり、その予想される影響の大きさや深刻さから見て、まさに人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つです。
19世紀末以降、地球全体の平均気温が0.3~0.6℃上昇し、海面水位も10~25cm上昇しています。これは人間の活動による気候への影響が既に地球規模で現れていることを示唆しています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の中位レベルの影響予測によると、2100年には、1900年と比較して地球全体の平均気温が2℃上昇し、海面水位は約50cm上昇すると予測されています。また、産業活動の活発化に伴い、産業革命以前の段階では280ppmv程度であった大気中の二酸化炭素濃度が、石油や石炭などの燃焼や森林伐採などによって、1999年には約368ppmvにまで上昇しています。
このような地球の温暖化は自然生態系に大きな影響を与えるおそれがあり、人間生活についても、洪水と高潮の頻発、干ばつの激化、地下水の塩水化などに伴う水資源の劣化や減少、食料生産への影響、熱帯病の発生率の増加などの健康影響などが生ずる可能性があります。
その後の国際的な動きとしては、平成9年(1997年)12月に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)において、先進国及び市場経済移行国各国の二酸化炭素等6種類の温室効果ガスの排出量について法的拘束力のある数値目標を盛り込んだ「京都議定書」が採択されるとともに、目標達成のための手段の一つとして京都メカニズムの導入が合意されました。
また、平成10年(1998年)11月に開催されたCOP4においては、「ブエノスアイレス行動計画」が採択され、その中で京都メカニズムの具体的なルールや遵守等の問題についてCOP6での決定を目指して検討を進めることが合意されました。
さらに、平成11年(1999年)10月から11月にかけて、ボンで行われたCOP5においては、わが国及び多くの欧州諸国が2002年(平成14年)までの京都議定書発効の必要性を訴えました。
平成12年(2000年)11月にオランダのハーグで行われたCOP6においては、京都議定書の早期発効を目指し、各国が京都議定書を締結可能とするべく、議定書の実施に係るルール作りについて、精力的に交渉が行われましたが、最終的な合意には至りませんでした。COP6は一旦中断されましたが、平成13年(2001年)に再開される予定です。
一方、国内的な動きとしては、温室効果ガスを大量に排出してきた先進国の一員として、わが国は積極的な対策の推進に努めてきました。
COP3終了直後の平成9年12月には、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化対策推進本部が設置され、同推進本部は平成10年6月に「地球温暖化対策推進大綱」を決定しました。「地球温暖化対策推進大綱」では、京都議定書の目標を達成するための当面の地球温暖化対策が示されており、平成12年9月には第2回目のフォローアップを実施しました。
平成10年10月には「地球温暖化対策の推進に関する法律」が成立し、平成11年4月には「地球温暖化対策に関する基本方針」が閣議決定され、これらに基づき、わが国のすべての主体が地球温暖化対策の推進に取り組むこととされました。
また、温暖化対策の重要な柱の一つであるエネルギー需給の両面の対策を中心とした二酸化炭素排出抑制対策に関しては、エネルギー需要面の対策として、平成10年に「エネルギー使用の合理化に関する法律」の改正が行われ、エネルギー消費効率の改善や省エネルギー基準の強化等の対策が推進されています。また、エネルギー供給面の対策としては、同9年に「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」が制定され、新エネルギーの開発と導入が積極的に推進されているほか、原子力の開発利用については、同11年原子炉等規制法の改正、同12年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の制定が行われるなど、放射性廃棄物の処理処分対策等を充実させながら、安全性の確保を前提として、国民的議論を行い、国民の理解を得ながら進められています。
(ア)6%削減目標については、当面、地球温暖化対策推進大綱に位置づけられた対策により達成していくこととします。これらの対策が遅れれば遅れるほど、京都議定書の目標達成のために短期間で大幅な削減を達成しなければならなくなることから、今日の段階で実施可能な地球温暖化対策は直ちに実施し、早期に減少基調への転換を図ります。
(イ) 京都議定書の2002年(平成14年)までの発効を目指すことが政府の基本的方針です。わが国としては、わが国を含む関係国による議定書締結を可能なものとするため、国際交渉に積極的に臨み、京都議定書の2002年までの発効に向けた国際的熱意が失われないよう努めます。この国際交渉の進捗状況を見定めながら現行施策の評価を踏まえて所要の見直しを行い、わが国経済及び国民生活への影響について十分に配慮し、国民の理解と協力を得て、締結に必要な国内制度に総力で取り組みます。
(ウ)京都議定書において、附属書Ⅰの締約国(先進国及び市場経済移行国)は2005年(平成17年)までに京都議定書の削減目標達成について、明らかな前進を示すと規定されていることを踏まえ、国内対策の着実な進展に向けて準備を進めます。
(エ)京都議定書に定められた温室効果ガスの発生源による人為的な排出量及び吸収源による吸収量の算定に係るデータの信頼性を向上させるため、これらのデータの品質保証、品質管理のための取組を引き続き進めます。
(ア)京都議定書の目標の達成を図り、さらなる長期的、継続的な排出削減へと導きます。このためには、個々の対策を計画的に実施していくと同時に、21世紀のわが国の社会経済動向を踏まえ、各分野の政策の整合性を図りながら、温室効果ガスの排出削減が組み込まれた社会を構築します。
(イ)京都議定書において附属書Iの締約国のその後の期間に係る約束については、第1約束期間が満了する7年前までに次の約束期間に係る約束の検討を開始するものとされており、これに従い、わが国としても第2約束期間における約束に関する検討を開始するとともに、国際的な議論にも積極的に参画します。
(ウ)究極の目標である大気中の温室効果ガス濃度の安定化に向けて、気候系に対する危険な人為的影響を及ぼすこととならない水準の研究など地球温暖化に係る科学的知見の一層の充実を図ります。また、長期的な視点に立って、温室効果ガス削減のための革新的な技術開発を進めるとともに、長期に継続して温室効果ガスを削減しうる社会経済システムのあり方について検討を進めます。
イ 国内対策の着実な推進と全地球的な削減への貢献
地球規模の課題である地球温暖化への対応は、先進国のみならず、開発途上国の参加が不可欠ですが、これを促すためには、先進国が京都議定書上の目標を確実に達成する具体的道筋を明らかにしておくことが極めて重要です。
また、京都議定書で定められたわが国の排出削減目標の達成にあたっては、国内対策を基本としながら、あわせて、補足的に京都メカニズムの活用を図ります。その際には、クリーン開発メカニズム、共同実施の活用を通じわが国の優れた技術力と環境保全の経験を生かして諸外国における温室効果ガスの削減に対しても積極的に貢献します。
ウ ポリシー・ミックスの活用とすべての主体の参画
温室効果ガスは社会経済活動のあらゆる局面で排出されることにかんがみ、その効果的・効率的な削減のために、規制的手法、経済的手法、自主的取組などあらゆる政策措置の特徴をいかして、有機的に組み合わせるポリシー・ミックスの考え方を活用します。また、温室効果ガスの発生源は多種多様であることから、幅広い排出抑制効果を確保するために、技術の開発、排出抑制、対策の導入を誘導するとともに、多くの経済主体が対策に参加するよう、各種の政策手段について検討します。
特に、経済的負担を課す措置については、(ⅰ)その有効性についての国民の理解の進展、(ⅱ)措置を講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響等についての調査研究結果、(ⅲ)諸外国における取組の現状等、措置を取り巻く状況の進展を踏まえ、幅広い観点から検討が必要です。
わが国としては、わが国を含む関係国による議定書締結を可能なものとするため、国際交渉に積極的に臨み、京都議定書の2002年までの発効に向けた国際的熱意が失われないよう努めます。この国際交渉の進捗状況を見定めながら現行施策の評価を踏まえて所要の見直しを行い、わが国経済及び国民生活への影響について十分に配慮し、国民の理解と協力を得て、締結に必要な国内制度に総力で取り組みます。
具体的には、規制的手法、税や排出量取引などの経済的手法、自主的取組等の有効と考えられるあらゆる政策措置を適切に組み合わせることなど温暖化対策を推進します。また、対策を適切に実施していくため、排出量の削減と吸収量の増大を着実に進めるとともに、その進捗状況を的確に把握し、必要に応じて対策を見直します。
温暖化対策の推進にあたっては、人類の生存基盤である地球の気候システムに危険なかく乱を生じさせないよう率先して取り組むとともに、あわせて、わが国経済及び国民生活への影響について十分な配慮を行います。
このような取組を通じて、「エネルギー需給両面の対策を中心とした二酸化炭素排出削減対策の推進」、「その他の温室効果ガスの排出抑制対策の推進」、「植林等の二酸化炭素吸収源対策の推進」、「革新的な環境・エネルギー技術の研究開発の強化」、「地球観測体制の強化」、「国際協力の推進」といった地球温暖化対策を積極的に推進します。
第2節 物質循環の確保と循環型社会の形成に向けた取組
現代の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動により、社会経済システムから生ずる大気環境、水環境、土壌環境などへの負荷が自然の浄化能力を超えて増大し、自然の物質循環を阻害し、公害や自然破壊をはじめとする環境問題を生じさせています。
このような環境問題の解決のためには、自然の物質循環を健全な状態に回復させるとともに、その状態を維持することが必要であり、このためには、特に、自然の物質循環に大きな負荷を与えている社会経済システムにおいて、いかにして適正な物質循環を確保していくかが緊急に対応すべき重要な課題となっています。
平成10年度におけるわが国の物質収支を概観すると、約20.2億トンの総物質投入量に対し、全体の4割強(約8.5億トン)がエネルギー消費や廃棄物という形態で環境中に排出されています。他方、再生利用量は約2億トンと全体の一割に過ぎません。
今後、総物質投入量の抑制、資源採取量の抑制、廃棄物等の発生量の抑制、エネルギー消費の抑制及びリユース、リサイクルの適切な推進を図り、環境負荷の低減と天然資源の消費の抑制を目指した取組を進める必要があります。
特に、廃棄物・リサイクル問題をめぐっては、近年、廃棄物の排出量の高水準での推移、リユース、リサイクルの停滞、最終処分場の残余容量のひっ迫、不法投棄件数の増大、化石燃料や鉱物資源など再生不可能な資源の使用量の増大といった問題が顕在化しており、早急な対策を講ずることが重要かつ早急に取り組むべき課題となっています。
このような状況に対応するため、「循環型社会形成推進基本法」が制定されました。
また、同法と一体的に、(ⅰ)改正廃棄物処理法、(ⅱ)資源有効利用促進法(再生資源の利用の促進に関する法律の改正)、(ⅲ)建設リサイクル法、(ⅳ)食品リサイクル法、(ⅴ)グリーン購入法などが成立しました。
このことにより、既存の容器包装リサイクル法、家電リサイクル法などと併せて、循環型社会の形成に向けた取組を推進できる基盤が整備されつつあります。
今後は、「循環型社会形成推進基本法」に示された基本的な考え方に沿って、個別法の適切な運用を確保していくことが重要となります。この場合、各府省間の連携を十分に確保するとともに、各種施策の有機的な連携を確保し、政府一体となって対応していく必要があります。
社会経済システムから生ずる大気環境、水環境、土壌環境などへの負荷が自然の物質循環を損なうことによる環境の悪化を防止する必要があります。このため、資源採取、生産、流通、消費、廃棄などの社会経済活動の全段階を通じて、資源やエネルギーの利用の面でより一層の循環と効率化を進め、再生可能な資源の育成や利用を推進するとともに、廃棄物等の発生抑制や循環資源の循環的な利用及び適正処分を図るなど、社会経済システムにおける物質循環をできる限り確保することによって、環境への負荷をできる限り少なくし、循環を基調とする社会経済システムを実現します。
特に、喫緊の課題である廃棄物をめぐる問題の解決のため、第一に廃棄物等の発生の抑制、第二に循環資源の循環的な利用の促進、第三に適正な処分の確保によって、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される「循環型社会」の形成を目指します。
なお、「廃棄物等」とは、廃棄物に加えて使用済物品等や副産物も含む概念です。「循環型社会形成推進基本法」では、このような廃棄物等について発生抑制を図るべき旨を規定しています。
また、「循環資源」とは、廃棄物等につき、その有用性に着目して資源として捉えなおした概念です。循環型社会形成推進基本法では、このような循環資源について循環的な利用(再使用、再生利用、熱回収)を図るべき旨を規定しています。
(1)自然の物質循環と社会経済システムの物質循環とは相互に密接な関係にあり、その両方の適正な循環が確保されることが重要です。
このため、その両方を視野に入れ、自然環境の保全や環境保全上適切な農林水産業の生産活動など自然界における物質の適正な循環を維持、増進する施策を講じます。また、社会経済システムにおいて発生する環境への負荷を低減させていく施策及び廃棄物等の発生の抑制を基本としながら、適切なリユース、リサイクルの促進を図るなど社会経済システムにおける循環機能を高める施策を講じていきます。
(2)廃棄物・リサイクル問題については、施策相互の有機的な連携を図りつつ各種施策を総合的かつ計画的に推進していく必要があります。
(3)平成12年5月、「循環型社会形成推進基本法」と一体的に各種の個別法が制定され、既存の法律と併せて、循環型社会の形成に向けた取組の推進基盤が整備されつつあります。今後は、各府省間の連携を十分に確保するとともに、政府一体となって、個別法の適切な運用を確保します。
(4)循環型社会の形成に際しては、一国のみにとらわれないグローバルな視点や地域の視点、都市の設計段階での配慮、動脈産業と静脈産業が適切に結びついた経済構造の実現など、様々な観点から物質循環を捉え、対策を講じることとします。
(5)真に循環型社会を形成していくためには、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会に慣れた国民や事業者の価値観、意識及び行動を、循環型社会を指向したものへと変革していく必要があります。このため、環境教育・環境学習の振興、あるいは民間団体などによる自発的な活動の促進のための施策を幅広く、きめ細かく、継続的に行うこととします。
(6)循環型社会の形成に向け社会経済の実態を踏まえた適切な政策展開を図っていくためには、廃棄物等に関するデータの迅速かつ的確な把握、分析及び公表が不可欠です。このような認識に立ち、近年におけるIT化の進展も踏まえ、わが国の物質収支並びに循環資源の発生、循環的な利用及び処分の実態の迅速かつ的確な把握と分析などのため、ミレニアム・プロジェクトの活用を図りながら、大局的かつきめ細かな統計情報の整備を図ります。
(ア)対策の優先順位
廃棄物・リサイクル対策については、「循環型社会形成推進基本法」の定める優先順位に基づき推進します。
すなわち、第一に廃棄物等の発生の抑制を図ります。第二に発生した循環資源は製品や部品としての再使用を図ります。第三に再使用されない循環資源は原材料としての再生利用を図ります。第四に再使用及び再生利用がされない循環資源については熱回収を図ります。第五に循環的な利用が行われない循環資源は適正に処分します。ただし、この順位によらない方が環境への負荷を低減できる場合には、この優先順位にこだわることなく、より適切な方法を選択します。
(ア)教育・学習の振興
事業者や国民が、自らの通常の事業活動や日常生活に伴って廃棄物問題が生じていることを正しく認識するとともに、循環型社会の形成に向けてそれぞれが担うべき責任と果たしうる役割について理解を深めることを通じ、循環型社会の形成の方向性に沿った行動を促します。
このため、環境教育・環境学習などを、子供から高齢者までのすべての年齢層を対象として、学校、地域、家庭、職場、野外活動の場など多様な場において互いに連携を図りながら、総合的に推進します。
カ 地方公共団体の施策
循環型社会形成のためには、地域における取組が重要であり、そのような取組において地方公共団体の果たす役割は大きいといえます。地方公共団体は、その区域の自然的社会的条件に応じて、物質循環の促進のための目標の設定とその実現のための施策の策定など、国、事業者、住民及び周辺地方公共団体と連携して、健全な物質循環の促進のための取組を自主的かつ積極的に推進することが必要です。
国は、地方公共団体が講ずる施策に対し、必要な財政的及び技術的支援を講じます。
第3節 環境への負荷の少ない交通に向けた取組
自動車交通量は、今日まで一貫して増加してきました。自動車保有台数、走行距離及び燃料消費量も一貫して増加傾向にあり、輸送機関別の分担率についても、貨物輸送(トンキロベース)で見ると、自動車が鉄道や海運を抜き、主要な交通手段となっています。
さらに、人口や経済活動の都市への集中などにより、交通基盤の整備の進展を上回る勢いで交通量の増加、集中が進み、自動車交通量が道路の交通容量を超えることにより、恒常的な交通渋滞が発生しています。
交通に起因するわが国の環境問題を概観すると、特に大都市地域、幹線道路沿道で深刻な状況にあります。さらに、この傾向は、地方中枢都市圏にも広がりつつあります。
大都市を中心とする自動車による大気汚染については、排出ガス規制の強化を図り、自動車NOx法による総合的対策を進めています。しかしながら、自動車交通量の増加や交通渋滞などにより、同法に基づく総量削減計画が定める「特定地域において二酸化窒素に係る大気環境基準を概ね達成する」という目標の達成は厳しい状況にあります。
浮遊粒子状物質についても、環境基準の達成状況は低い水準で推移しています。近年、国際的な研究などにもあるように、特にディーゼル排気粒子(DEP)による健康影響が懸念されています。なお、光化学オキシダントについても、全国のほとんど全ての測定局で環境基準が達成されていません。
地球温暖化問題に関しては、運輸部門から排出される二酸化炭素の量はわが国における二酸化炭素排出量全体の約2割を占めており、その割合は増加傾向にあります。また、運輸部門からの二酸化炭素排出量を輸送機関別に見ると、自動車からの排出量が運輸部門の約9割を占めています。
騒音に係る環境基準の達成状況は、幹線道路周辺を中心に依然として低く、改善が見られません。
以上のように、交通に起因する環境問題は、主として自動車交通によって引き起こされています。
このため、自動車単体対策の強化、自動車交通需要の調整・低減も含めた総合的な対策を講じ、抜本的な対策強化を推進していきます。
自動車交通に伴う環境問題を改善するため、様々な施策が実施されているにもかかわらず、自動車交通量の増加や自動車の輸送分担率の上昇などによって、その効果が減殺されています。このような現状を踏まえ、今後、燃料対策を含む自動車単体対策の一層の強化や交通流の円滑化に加え、物流や人流の効率化や、公共交通機関の利用の促進などの自動車交通需要そのものの低減につながる対策など、環境負荷の少ない交通を実現するために効果の大きい対策に重点を置いて、総合的かつ計画的な施策の推進を図ります。
また、都市政策においては、環境保全を主目的の一つとして位置づけ、環境への負荷の少ない都市構造を作ります。さらに、自動車への過度な依存を低減する方向で、事業活動や生活様式の変革に取り組みます。
ウ 交通による環境負荷の少ない都市、交通システムの整備
都市における自動車交通需要は、居住、業務等の諸機能や公共交通機関等の交通基盤の配置などに大きく左右されることを踏まえ、自動車交通需要の調整・低減を考慮した計画的な都市の形成を進めます。
自動車交通需要そのものの調整・低減を目指す交通需要マネジメント手法の積極的な活用を図り、徒歩や自転車利用のための安全かつ快適な交通環境や施設の整備、公共交通機関の整備やサービスの改善等を積極的に推進します。
また、交通渋滞による環境負荷を低減させるため、交通流の円滑化を図ります。都市部において、地域全体の環境負荷の低減などを推進するよう、沿道環境の保全に配慮した交通の分散・円滑化のための環状道路やバイパスの整備、交差点改良等の道路構造の改善等を行います。さらに、交差点における信号システムの改善や高度な情報通信技術を活用した最適な交通管制、道路交通情報のより細やかな提供(VICS)、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)の整備等高度道路交通システム(ITS)の活用を図ります。
また、幹線道路の沿道で騒音等が著しい地域について非住居系の用途地域の指定を行うなどの環境負荷低減にも配慮した土地利用の適切な誘導等を図ります。
大都市を中心として、大気汚染が深刻な地域においては、自動車単体規制をはじめとする全国的な対策だけでなく、それぞれの地域段階で一層の対策を進めることが必要です。
地域において環境基準等の目的を達成するためには、様々な主体の参加の下、自然的社会的条件に応じて、目標を設定し、各種制度の設定や社会資本整備等の基盤づくりなどの様々な施策の体系を適切に組み合わせた交通に起因する環境問題に対する総合的な計画を策定し、実施することが有効です。その際には、計画の実施状況を点検することにより、適切に対策の推進を図ることが必要です。
国は、各主体の参加により社会全体として環境への負荷の少ない交通が実現されるよう、必要な枠組みを構築するとともに、全国的観点及び都府県域を超える大都市圏の観点から取り組むべき規制等の対策を実施します。
このため、自動車排出ガスの単体規制等の規制措置を強化し、軽油の低硫黄化を促進するとともに、低排出ガス・低燃費の自動車の普及を一層促進するため、経済的手法を含め、幅広い観点から効果的な措置について検討します。また、ITSの推進、交通管制システムの高度化、自動車利用の効率化、貨物輸送や旅客輸送の効率化、マルチモーダルの促進、徒歩や自転車利用促進のための安全かつ快適な交通環境や施設の整備、公共交通機関の整備、利用促進を図ることなどにより、自動車交通需要の調整・低減、交通流の円滑化を一層推進するとともに、環境負荷低減に資するよう沿道対策を推進します。さらに、地方公共団体、事業者、国民、民間団体への情報提供や普及啓発、自動車排出ガスに関する健康影響等の調査研究を行います。なお、国自身が大きな事業者、消費者であることから、率先して環境負荷の少ない自動車を積極的に導入します。
第4節 環境保全上健全な水循環の確保に向けた取組
水は、環境中において蒸発、降水、浸透、貯留、流下、海洋への流入、蒸発という過程を繰り返すことにより自然的に循環し、その過程で、汚濁物質が浄化されます。一方、水は、水資源として社会経済活動を通じ様々な形態で循環利用されており、利用の各段階で水環境への負荷が発生しています。
水質汚濁に係る環境基準に照らして見ると、公共用水域の水質は、人の健康の保護に係る項目については環境基準の達成率が次第に高まっていますが、有機汚濁などの生活環境の保全に係る項目については、特に湖沼や内湾・内海といった閉鎖性水域において改善が進んでいない状況にあります。また、地下水については、有機塩素系化合物や硝酸性窒素などによる汚染が見られます。一方、地盤環境については、長期的には地盤沈下が沈静化する方向に向かっていますが、一部地域では依然として沈下が続いており、また、渇水時などの急激な地下水の汲み上げによって地盤沈下が発生する潜在的なおそれも存在しています。
これまでの環境政策においては、このような状況への対策として、良好な水環境の保全に関しては、汚濁負荷の低減を中心とした対策が、また、地盤沈下の防止に関しては、地下水採取の規制、表流水への転換を含めた代替水対策が講じられてきました。
これらの取組は、それぞれの地点において水環境や地盤環境の質を判断し、汚濁負荷の低減などを通じて環境の保全を図ろうとする、いわば「場の視点」からの取組であり、有害物質による水質汚濁問題の改善などに大きな成果を上げてきています。このような「場の視点」からの取組は、今後とも、ダイオキシン類などの化学物質による水環境の汚染問題への対応、閉鎖性水域の水質改善、水生生物への影響にも留意した環境基準の検討など、水環境や地盤環境の保全のための基本的な対策として、さらに各般の取組を進める必要があります。また、上流での負荷が下流、ひいては湖沼、内湾、内海の汚濁につながることを認識しながら、各主体の取組を進める必要があります。
しかしながら、今日の水環境の悪化の背景には、汚濁負荷の増加と並んで水循環の変化があり、地盤環境の問題にも地下水を通じ水循環が深く関わっています。したがって、水環境や地盤環境の保全を図ろうとするならば、この2つの要因のいずれに対しても適切に対処する必要があります。しかし、これまでの環境政策においては、「場の視点」からの取組に比べて、水環境や地盤環境を水循環との関連においてとらえる、いわば「流れの視点」からの取組は必ずしも十分ではありませんでした。
自然の水循環は、一般に、森林、農地、宅地などへの降雨が土壌に保水されつつ、地表水及び地下水として相互にやりとりしながら徐々に流下し、河川、湖沼及び海域に流入し、また、それぞれの過程で大気中に蒸発して再び降水となる連続した水の流れです。
このような自然の水循環は、人の生活や自然の営みに必要な水量の確保、水質の浄化、多様な生態系の維持、バランスのとれた地下水の流動による地盤の支持など様々な機能を有しています。また、洪水や渇水の発生など、人間活動に障害をもたらすこともあります。
わが国においては、急峻な地形や狭小な国土という地理的特徴があるため、河川の流量の変動が大きいなどの厳しい条件下において水利用が行われてきました。
現在の水循環は、古来、水田耕作、水害防止、生活用水などのために、様々な工夫を加えながら、人間が長時間かけて造りあげてきたものであり、人為的な水循環系と自然の水循環系とが有機的に結びついたものになっています。この過程は、基本的には自然の水循環がもたらす災害などの負の要素を減少させ、あるいは、水の安定的供給など正の要素を引き出すことを目指して行われてきましたが、自然の水循環に支えられた健全な生態系などに影響を与える場合があったことも否定できません。
特に、わが国においては、戦後、高度経済成長期を通じ、都市への急激な人口や産業の集中と都市域の拡大、産業構造の変化、過疎化の進行などの社会経済の変化を背景として、水循環系が急激に変化し、生態系への悪影響、湧水の枯渇、河川流量の減少、地盤沈下、都市における水害や渇水、水質汚濁、親水機能の低下、水により育まれてきた文化の喪失などの問題が発生しています。
このような中にあって、水循環の変化がもたらした諸問題を解決していくため、「場の視点」からの取組に比べて立ち遅れている「流れの視点」からの取組の前進を図り、水循環の全体を通じて、人間社会の営みと環境の保全に果たす水の機能が適切なバランスの下に共に確保され、自然の水循環の恩恵を享受し、継承しうるような政策の枠組みを構築し、環境保全上健全な水循環の確保という視点に立った施策展開を図ることが重要な課題となっています。
「環境保全上健全な水循環」については、流域ごとに、現在及び将来の社会経済の状況、技術レベル、生活の質の維持を考慮した上で、災害や健康リスクを最小限にしながら、自然の水循環の持つ恩恵を最大限享受できるような新しい水循環の形を構築することを目指します。この場合、自然の水循環の持つ恩恵に関して目標とする姿は、それぞれの流域の特性を踏まえて設定することが適当です。なお、このような目標の姿の設定にあたっては、社会経済の変化に伴い高度経済成長期以降に水循環が大きく変化したことを踏まえれば、高度経済成長始動時の昭和30年頃の水循環が持っていた恩恵が参考となります。
環境保全上健全な水循環の目標の設定にあたっては、各流域において、水収支(地下水と地表水との間の移動の状況、降雨の地下浸透など)の変化を可能な限り定量的に把握した上で、関係主体の意見を集約し、それぞれの流域の状況に応じた目標を設定します。
環境の保全に果たす水の機能と利水・排水などの人間社会の営みとがともに確保されるよう、流域全体を総合的に捉え、効率的かつ持続的な水利用を推進していきます。このため、農業用水の循環利用の促進などによる効率的利用、工業用水の循環利用の促進などによる使用の合理化、節水器具の普及や下水処理水の再利用などによる生活用水の効率的利用、雨水の生活用水としての利用などを進め、水源への負担を軽減するとともに、必要に応じて流量確保のための様々な施策を行います。また、河川水を取水、利用した後の排水については、可能な限り下流での水利用にいかせる形で河川に戻すことを基本とし、河川水の流下にしたがった反復利用の推進を図ります。
なお、海域においては、自然海岸、干潟、藻場、浅海域の適正な保全を推進するとともに、自然浄化能力の回復に資するよう、必要に応じ、人工干潟・海浜などを適切に整備します。
環境保全上健全な水循環を構築するため、流域を単位とし、流域の都道府県、国の出先機関などの所轄行政機関が、流域の水循環系の現状について診断し、その問題点を把握して、環境保全上健全な水循環計画を作成し、実行することが重要です。
この計画は、治水や利水との整合を図りながら、環境保全の観点から、現状の水循環の診断、流域全体及び流域の地域特性に応じた望ましい水循環像とその実現に向けた施策体系、流域の地域区分に応じた環境保全上健全な水循環の構築やそのための施設整備などに関する具体的な目標の設定、その目標の実現のため実施すべき施策や事業などによって構成します。
計画の作成にあたって、水循環保全の目標と取組の多様性を計画にいかせるよう、関係行政機関、流域住民などから構成される流域協議会を設置し、流域住民などの意見を積極的に取り入れていく仕組みを検討するとともに、施策の展開にあたって、住民、利水者、企業、学識経験者、NGOなどの流域における関係者の協力体制を確立することが望まれます。
また、関係府省が連携して、森林、緑地、農地などや雨水貯留・浸透施設が持つ地下水涵養機能を定量的に把握するための手法をはじめとする水循環の診断・評価手法を確立するとともに、流域の保水浸透機能の強化、水の循環利用の促進などを図るための制度や情報提供のシステムを整え、環境保全上健全な水循環構築のための地方公共団体の施策を支援します。
さらに、水循環に関する技術開発を進め、また、民間による技術開発についても支援するとともに、各種の施策の費用対効果、施策の浸透効果や効果の継続性に係る研究を行い、その成果の関係主体間における共有化を推進します。
第5節 化学物質対策の推進
現在の社会経済は、多様な化学物質の利用を前提としており、その成長は化学物質に支えられてきた部分が大きいといえます。その反面で、化学物質の開発、普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、極めて多くの化学物質に人や生態系が複合的に長期間暴露されるというこれまでの長い歴史に例を見ない状況が生じています。
今後、将来にわたって持続可能な社会を構築していくためには、一方で生活や経済活動において用いられる化学物質の有用性を基盤としながら、他方でそれらの有害性による悪影響が生じないようにすることが必要です。
(1)環境中には、物の製造、使用、廃棄の過程で排出された様々な化学物質、それらの過程において非意図的に生成された化学物質、環境中において他の物質が化学的に変化して生成した化学物質などが混在していることもあり、何らかの化学物質にさらされたことによる影響が疑われても、その原因の特定が困難であるという問題が生じています。このような多様な化学物質に暴露されることにより生じるおそれがある影響の監視や評価のあり方について早急に検討しなければなりません。
(2)環境リスクの定量的な評価や検討を進めるためには極めて多くの時間と費用を要しますが、このことを理由として手をこまねいていることは許されません。このため、産業界・事業者及び行政が協力し、かつ、国際的な連携を図りながら対応することが特に必要となってきます。加えて、1992年(平成4年)の国連環境開発会議(地球サミット)において採択された、環境を保護するための予防的方策を広く適用すべきであるという原則にのっとり、定量的な環境リスク評価ができていない段階であっても、国民、産業界・事業者及び行政が化学物質に関する情報を共有しながら、全ての者が各々の立場でより環境リスクを低減できるようにしていこうという流れが国際的に定着しつつあります。また、わが国においても、様々な観点から予防的方策の具体的な推進を求める声が高まっています。
ア 生体内に取り込まれた場合に正常なホルモン作用に影響を与える内分泌かく乱化学物質については、科学的に未解明な点が多く、試験方法や評価方法も確立していません。しかしながら、次世代への影響が疑われている物質の中には日常生活において身近に使用している製品に含まれているものがあることから、国民の不安が高まっています。行政及び産業界・事業者が科学的知見や関連情報の収集や蓄積に努めながら科学的な解明を図るとともに、これらの情報をわかりやすく提供することが求められています。
イ ダイオキシン類については、従来よりも格段に高度な技術レベルが環境保全対策において必要であり、今後とも排出削減対策や既に生じた汚染土壌の浄化対策などを進めるとともに、調査研究や技術開発の一層の推進を図ることが必要となっています。
また、ダイオキシン類以外の有害な物質をも視野に入れた汚染土壌の浄化対策や、既に原則として使用が禁止されて保管されているPCBなどの廃化学物質の処理についても、その方法についての研究や技術開発を推進するとともに、費用負担を含めた対策の推進に関する社会的な合意を形成していくことが求められています。
(4)化学物質による影響やそれが発生する仕組みは多くの人々にとって極めて難解ですが、化学物質そのものやそれらを含む製品自体は私たちの日常生活に非常に身近なものです。このような中で、国民の安全と安心の確保を図ることが喫緊の課題となっています。
このような観点から、化学物質に関するリスクコミュニケーションを推進することにより、情報を共有化して広く各主体間の共通理解を促進し、環境リスクの管理に関する政策決定についての社会的な合意形成のための基盤を構築することが極めて重要となっています。なお、このような考え方は、国際的にも定着してきています。
(5)化学物質と生態系の関係については、既に諸外国の化学物質関連法制度において人の健康に加えて環境の保護が目的とされ、また、化学物質の野生生物への内分泌かく乱作用の疑いが見られる影響が注目されるなど、人の健康だけでなく、生態系への化学物質の影響(生態系を構成する生物に対する影響を含む。)の重要性が認識されつつあります。このため、農薬を含めた様々な化学物質による生態系に対する影響の適切な評価と管理を視野に入れて化学物質対策を推進することが必要です。
(6)「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づく対象物質の排出量などの把握が平成13年度から開始され、その結果が平成14年度から集計、公表される予定です。これによりわが国におけるPRTR制度が本格的に始動します。また、事業者間での化学物質の取扱に関する情報を提供するための化学物質等安全データシート(MSDS)の交付が平成13年から義務付けられる予定となっています。さらに、同法に基づき、対象物質やそれを含む製品を取り扱う事業者には自主的な化学物質管理の改善の促進や国民の理解の増進を行う責務が課せられています。
欧米においても、高生産量の化学物質などについては、それを製造する事業者自身が物質の有害性などに関する調査を行い、その結果を公表しなければならないという考えが広がってきています。
このように、化学物質対策における事業者自身による取組が今後ますます重要になってくることが予想されます。
(7)現在、PCB、DDT、ダイオキシン類など、残留性が高い有機汚染物質(POPs)による地球規模の汚染を防止するため、このような物質の製造と使用の禁止、使用の制限、排出の削減、保管されているPCBなどの処理、汚染土壌の浄化などを盛り込んだ条約(いわゆるPOPs条約)の検討が進められており、2001年(平成13年)に採択される見込みです。また、使用が禁止または厳しく規制されている化学物質の貿易時における情報交換の手続き及び輸出先国の事前のかつ情報に基づく同意の手続(PIC)を定めたロッテルダム条約が1998年(平成10年)に採択されています。このように、地球規模の汚染対策の観点からも化学物質対策の充実強化が求められており、その推進が重要な課題となっています。
(1)人や生態系に対する影響を早期に発見する手法の開発を含め、化学物質対策に資する研究や技術開発を一層推進し、科学的知見の集積に努めます。この科学的知見に基づき、環境リスクの定量的評価を推進し、それと併行してリスク低減のための様々な取組を促進します。
(2)国民が化学物質の持っている有用性及び有害性並びに環境リスクの意味を正しく認識し、行政、事業者などが環境リスクの管理を適正に行うことができるよう、環境リスクなどに関する情報の適切な提供に努め、国民などの理解の増進と情報の共有化を進めます。これを踏まえて、環境リスクの低減に資する政策決定のため、各主体間の合意の形成を推進し、さらに、事業者による自主的な化学物質の管理の改善の促進など、各主体が適切な役割分担の下に、連携しながら化学物質対策を推進します。
人の健康を損なうおそれまたは動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれのある化学物質、分解性が良く環境中での残留性が小さいと考えられるものも含め、生産量が大きく環境中に排出される可能性の高い化学物質などについて、人の健康や生態系に対する影響などの有害性に関するデータや排出量などの暴露に関するデータを整備します。また、これらの化学物質の環境中における存在実態の把握(環境モニタリング)及び挙動の解明、人や生態系に対する影響の実態の把握(疫学調査、生態学調査など)の充実を図ります。
化学物質の分析、環境リスクの評価、管理などを行う科学者、技術者を養成します。
環境リスクの評価については、人の健康に関するリスク評価を一層充実するとともに、生態系に関する環境リスクの評価を充実します。
産業界・事業者の協力の下に、環境リスクの評価に必要なデータなどを効率的に収集し、高生産量化学物質、PRTR制度対象物質などの環境リスク評価を加速化します。
内分泌かく乱作用を評価するための手法の開発や、内分泌かく乱作用があると疑われている化学物質の有害性の評価などを国際的な協力の下で推進します。
環境リスクの評価や管理を促進するため、人の健康や生態系に対する影響を早期に発見する手法の開発を含め、化学物質対策に資する研究や技術開発の一層の推進を図ります。
例えば、化学物質の構造から有害性などの性状を定量的に予測するQSAR(定量的構造活性相関)や化学物質の環境中における分布や人への暴露量を予測する暴露予測モデルなどを活用したリスク評価手法、化学物質を用いた製品のライフサイクル・アセスメント(LCA)などの研究開発を推進します。また、環境試料や食材を長期継続的に保管し、技術進歩や新たな環境問題の顕在化に対応して将来活用するスペシメン・バンキングの推進などを検討します。
環境リスク評価の結果などについては、事業所周辺、地域段階、及び国段階における環境リスクの管理に適切に活用します。
個々の問題に即し、化学物質対策に資する研究や技術開発の推進、PRTR制度やMSDSの活用、化学物質を製造、使用する事業者が自主的に化学物質のすべてのライフサイクルにわたって環境の保全などの確保を公約し対策を実行するレスポンシブルケアなどによる自主的な取組の促進や規制的手法の活用などの様々な手法を用いて、環境リスクを低減させるための措置を講じ、より効率的かつ効果的に環境リスクの管理を進めます。この際に、大気汚染防止対策や水質汚濁防止対策などとの連携を強化し、体系的な環境リスク管理の実施を目指します。
化学物質の安全性などに関連した情報を正確かつわかりやすく公開することや技術開発などにより、より安全な化学物質への代替や、安全性の高い製造プロセスへの転換を促進します。
化学物質の有害性や暴露に関する情報を充実するとともに、データベースを整備し、その利用を促進することにより、化学物質関連情報を国民に提供します。
また、化学物質のリスクコミュニケーションを推進するため、環境リスクに関して国民にわかりやすく説明できる人材や、話し合いを仲介できる人材の養成を進めつつ、PRTR制度に基づく排出量データなどの関連情報を国民に正確でわかりやすい形で公表するとともに、広報活動や環境教育・環境学習などを推進します。
さらに、国民や事業者など様々な主体の意見を採り入れながら、環境リスクの低減に資する政策を決定するための手法を検討し、その展開を図ります。
地球規模での化学物質対策を図るため、いわゆるPOPs条約やロッテルダム条約に対応する国内措置の推進及びそのために必要な体制の整備を図ります。
OECDやIFCS(化学物質の安全性に関する政府間フォーラム)の国際的枠組の中で必要とされる国内的対応や国際的な連携の強化を図るとともに、重要なプロジェクトを積極的にリードし、国際会議の開催などによりその進展を図ります。
化学物質対策に関する先進国間での研究協力を推進します。
わが国の研究機関について、アジア太平洋地域において標準機関(リファランス・ラボラトリー)としての機能を持たせるなど、アジア太平洋地域の化学物質に関する調査、研究の拠点となるようその充実を図ります。また、わが国において開発された簡易分析手法、排出抑制技術、環境リスク管理手法などについて、アジア太平洋地域などの開発途上国に対し、それぞれの実状に応じた形での技術移転などを図ります。
第6節 生物多様性の保全のための取組
地球上の生物は、誕生から約40億年の進化の歴史を経て様々な環境に適応してきました。長い歴史の結果生み出された生物の多様性は、それ自体として尊重すべき価値を持つものです。
多様な生物は生態系の中でそれぞれ役割を担って相互に影響しあい、人間の生存にとっても欠かすことのできない生態系のバランスを維持しています。また、多様な生物とそれを中心として構成される多様な生態系は、様々な恵みを人間にもたらすとともに、すべての生物の生存の基盤となっています。
今後、いかに科学技術が発展しようとも、このような生物多様性のもたらす様々な恵みなしに人間が生き続けることはできません。健全な生態系を維持、回復し、自然と人間との共生を確保するという本計画の目標を達成するためには、生物多様性を将来にわたって損なうことのないよう持続可能な利用を図り、継承していかなければなりません。そのためには、人間は、自らが生態系の一員であることを自覚し、生態系の健全性を損わないことを基本として様々な活動を行うべきであるという認識に立たなければなりません。
このような認識を踏まえ、1992年(平成4年)に生物多様性に関する条約(生物多様性条約)が採択され、国際的に重要な課題として生物多様性の保全に関する取組が進められることとなりました。わが国では、平成7年(1995年)に「生物多様性国家戦略」を策定し、生物多様性保全の取組を進めています。
わが国の主要な生態系について、主として第3回自然環境保全基礎調査(昭和58~62年度(1983~1987年度))と第4回基礎調査(昭和63~平成4年度(1988~1992年度))の比較により、また、一部第5回基礎調査(平成5~10年度(1993~98年度))の結果を含めて、植生、藻場、干潟などの変化の状況を見ると次のとおりです。
陸域では、植生の量的な改変は近年減少傾向にありますが、人間の活動域周辺での二次林の改変は続いています。沿岸域における1970年代末から1990年代初めまでの変化としては、藻場の面積はマイナス3.1%、自然海岸の延長はマイナス4.5%、干潟の面積はマイナス7%となっています。
また、森林の連続性について、第3回基礎調査と第4回基礎調査のデータから解析した森林連続性指標で見ると、全国で森林のかたまりの平均面積が3%弱減少しており、生息地の減少や分断が進んでいることが推測できます。
一方、種レベルでの絶滅の危険性を、平成12年(2000年)8月までにまとまったレッドデータブック、レッドリストで見ると、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧Ⅰ類及びⅡ類)としてランクされている種が、動物で668種、植物等で1,992種あげられています。汽水・淡水魚類などでは、絶滅のおそれがあるというランクにあげられた種が全体の種数の4分の1以上を占め、また、メダカに代表されるように、身近な存在と考えられていた種にも、絶滅の危険が生じていることが明らかとなりました。
また、すべての種は種内に遺伝的多様性を保持しており、同一の種に分類されていても、島しょや山地など、地理的に隔離された地域個体群の間では、一般に地域ごとに適応した異なる遺伝子を持ち、種内における遺伝的多様性を保持しています。種内の遺伝的多様性を保全するためにはこのような地域個体群を保全することが重要ですが、現在、さまざまな人間活動の影響により、地域個体群の消滅が進行しています。
生息地の減少、分断、劣化にともなう生物多様性の減少を防止するためには、生物多様性の保全上重要な地域を保護地域として適切に保全するとともに、保護地域間の連携のあるべき姿やそれを実現するための手法についての具体的な検討を進め、保護地域間の連携を積極的に推進していく必要があります。
人間活動との関わりの中で形成されてきた二次的自然環境の保全のような、これまでの保護地域化という手法でカバーできなかった課題に関し、社会経済情勢や人間活動の変化を踏まえ、様々な主体が取り組むべき施策の方向性を示すことが急務です。
野生生物の種に着目した施策として、絶滅のおそれのある種について、その保全のための施策を着実に展開する必要がありますが、一方で、多数の生物種を絶滅の危機に追い込んでいる人間活動を改善していくための具体的な取組が必要です。
国外あるいは地域外からの生物種の移入は、他の種を捕食することや生息場所を奪うことにより在来種を圧迫すること、在来の近縁な種と交雑することなどによって生態系をかく乱し、生物多様性の減少をもたらすこととなります。わが国では、南西諸島のマングース、湖や池沼に放たれたブラックバスなど、生物多様性への影響が各地で指摘されています。
生物多様性の保全とその持続可能な利用を図っていくためには、生息地の減少や分断及び劣化の防止、移入種による影響の防止など、生物多様性の減少をもたらす様々な要因に対応するとともに、生物多様性保全の基盤となる情報の整備、生息地の復元や回復のための事業など生物多様性保全のための条件整備を図っていくことが重要です。
自然資源の管理と利用に関しては、人間がその構成要素となっている生態系が複雑で絶えず変化し続けているものであることを認識することが大前提です。その上で、生態系の構造と機能を維持できるような範囲内で、その価値を将来にわたって減ずることのないよう、自然資源の管理と利用を順応的に行うことが原則です。また、自然資源の管理と利用は、科学的な知見に基づき、関係者すべてが広く自然的、社会的情報を共有し、社会的な選択としてその方向性が決められる必要があります。これらのことは、平成12年(2000年)の生物多様性条約締約国会議で合意されたエコシステムアプローチの原則を踏まえたものです。
なお、森林、都市、農村などを対象とする各種計画で、生物多様性の保全に影響を及ぼすおそれのあるものは、生物多様性国家戦略の基本的な方向に沿ったものとなる必要があります。
生息地の減少、分断、劣化による生物多様性の減少に関しては、全国規模から地域規模まで様々な段階において、生物の生息・生育空間の確保とそのネットワーク化を図ることにより対応します。
保護地域での保全に関しては、生物多様性保全上重要な地域を特定し、その保護地域化を図ります。また、保護地域間の連携化の検討を進め、これを積極的に推進します。このため、自然環境保全基礎調査をはじめとする各種調査の結果を基に一定の基準を設け、生物多様性保全上重要な地域を特定し、それがどれだけ保護地域とされているのか、また、その管理方法は適当であるのかという観点から、現行の保護地域の制度及び保護地域の設定の再点検を行うことを検討します。
また、このような保護地域での保全を進めるほか、森林、湿地、農地、都市など様々な生態系において、各種手法による保全のための取組を推進します。特に、森林の連続性、水系などの観点から、生物の生息・生育空間の回復や復元事業を行い、そのネットワーク化を進めます。
里山をはじめとする二次的自然環境については、多様な生物の生息・生育空間、自然とのふれあいの場、都市域の緑地などとして様々な機能をもっていることから、稀薄化した人と自然との関係の再構築という観点に立った保全の取組を推進します。
さらに、二次林、干潟などの生息地のタイプのうち、減少傾向が大きいものについては、その面積の減少により生物の多様性が損なわれる可能性が高いという観点から、全国的、あるいは一定の地域ごとに量的な減少をとどめ、回復していくための方策を早急に検討します。
生物多様性の保全は、国の行政機関のみならず地方公共団体、土地所有者、民間団体、国民といった、自然資源の管理と利用に関係する立場にある様々な主体が、わが国の自然的社会的特性を踏まえながら、生態系のもたらす様々な価値を損なうことなく管理し、利用することによって初めて達成されます。このような取組の基礎とするため、エコシステムアプローチの原則を実際の自然資源の管理と利用の上でどのようにして具体化して適用していくかということについて検討を行い、生物多様性の保全に関する関係主体の共通認識を形成します。
また、特に、二次的自然環境などに見られるように、人間活動が生態系の中で重要な要素となっている場合にあっては、それらの人間活動に対する経済的な奨励措置が生物多様性の保全に有効であると考えられることから、そのような奨励措置に関する積極的な取組が求められます。
さらに、生息環境の維持、復元や回復のための事業が、生物多様性を保全する上で重要な役割を果たすことから、社会的な投資としての意義を明確にし、その推進を図ります。
移入種問題に関しては、生物多様性条約締約国会議で横断的な検討事項として検討が進められ、生態系、生息地、種を脅かす外来種に関する決議がなされ、「外来種の予防、導入、影響緩和のための中間的原則指針」に沿った取組が求められています。
移入種による生物多様性への影響についての対応については、この指針も踏まえ在来の種や生態系を脅かす種に関し、その定着の段階に応じて、(ⅰ)侵入の予防、(ⅱ)初期の撲滅による定着と拡散の防止、(ⅲ)抑制や長期的制御措置という、3段階のアプローチをとることとします。そして、関係府省が連携を図りながら、とりうる対策を早急に検討し、侵入の段階に応じた効果的な対応を図ります。
生物多様性の保全と持続可能な利用のための施策の基盤として、生物多様性の現状の的確な把握と遺伝的な多様性に関する調査、研究などを推進します。
また、関係するすべての主体が生物多様性の保全のための基礎情報として利用できるよう、生物種に関する情報を体系的に整理し、広く提供します。このため、国内の生物多様性に関する一体的な情報データベースを確立し、強化するとともに、国際的な情報のネットワーク化に積極的な役割を果たします。
さらに、動植物の分類、標本の収集、整理のような基礎的な活動とこのような基礎的な調査研究を行う人材の養成と活動の場の確保が長期的に保全施策を展開するための基盤として重要であることを踏まえ、そのために必要な取組を推進します。
(政策手段に係る戦略的プログラム)
第7節 環境教育・環境学習の推進
環境教育・環境学習は、各主体の環境に対する関心を喚起し、共通の理解を深め、意識を向上させ、参加の意欲を高め、問題解決能力を育成することを通じ、各主体の取組の基礎と動機を形成することにより、各主体の行動への環境配慮の織り込みを促進します。また、個別政策分野においても政策推進のための有効な政策手段となります。
このような観点から、これまで学校における指導の充実、学習拠点の整備、学習機会の提供、人材の育成と確保、教材と手法の提供、広報の充実などの施策が実施されるとともに、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策などの個別政策分野において有効な政策手段として活用されてきました。
環境教育・環境学習をめぐる状況を見ると、学校以外の教育・学習施設の増加などを背景とした教育・学習の場の多様化や、これらを行う民間団体や事業者の増加などに伴う担い手の変化などの注目すべき変化が生じています。このようなことから、今後、学校以外の公的施設、自然のフィールドなどが環境教育・環境学習の場として重要な役割を担うことや、これらの担い手としての民間団体、事業者などの役割の重要性がさらに増すことが考えられます。
また、環境教育・環境学習は、就学年齢層のみならず、青壮年層、高齢者層まで含めて広く国民全体を対象として実施すべきものですが、必要性が高く効果も大きい対象を絞って施策を推進することも必要となります。
さらに、環境教育・環境学習に関する施策により、いかなる行動が導かれたか、いかなる環境改善効果がもたらされたかという観点で施策を評価する手法は今後の課題です。このため、具体的な事例を継続的に追跡調査することによって、効果を的確に把握することのできる評価手法の検討を行う必要があります。
また、地域の行政が、それぞれの地域において、学校、民間団体、事業者などとのパートナーシップの下で互いに連携を図りながら施策を展開できるよう、国は、人材の育成、プログラムの整備など、取組の基盤となる施策を推進します。
環境教育・環境学習を推進するためには、地域における自主的、自発的な活動を支える人材が必要です。このため、環境教育・環境学習の具体的な企画を行う役割を担う人(プランナー)、活動の場で参加者の自発的行動を上手に引き出したり促進したりする役割を担う人(ファシリテーター)、様々な人や組織の間の調整やネットワーク作りを行う役割を担う人(コーディネーター)の育成を推進します。
これらの人材の育成にあたっては、教育施設や行政、企業などに属する人材の活用と並んで、地域における環境保全活動の実践リーダーを、環境に関する知識と倫理を有し豊かな感受性を持った存在に育成していくことが重要です。このため、国の研修施設におけるプログラムの充実などを図りながら、地方公共団体の学習ネットワークを支える人材や自然の仕組みの学習に関する指導者、環境教育を職業とする専門家などを育成するとともに、技術士などの公的資格を持つ者の参加や環境カウンセラーを含め、このような人材の活用を図ります。
環境教育・環境学習のプログラムについては、都市・生活系の分野など、充実が求められている分野について、体系的な整備を図る必要があります。また、プログラムの整備にあたっては、全体の枠組みの中で、「関心の喚起→理解の深化、意識の向上→参加意欲、問題解決能力の育成」という段階を経て具体的な行動を促すという一連の流れを踏まえ、プログラム相互間の連携を図ることを重視していく必要があります。
このような観点から、地方公共団体におけるモデル的な環境教育・環境学習プログラムや国の施設における先進的なプログラム、理科や社会科、技術・家庭科などの各教科や総合的な学習の時間などにおいて活用可能な教材などの整備を推進します。なお、このような教材の整備にあたっては、実践の現場からの積み上げに十分配慮するものとします。
自主的、自発的な環境学習や実践行動を促進するためには、環境に関する正確な情報を必要なときに必要な形で入手できるよう、情報基盤を整備していくことが必要です。
このため、環境教育・環境学習を進める上で基盤となる情報の収集及び提供、環境ラベリング、グリーン購入関連情報など消費者や事業者の製品選択に必要な情報の提供などを推進します。なお、このような情報提供に際しては、幅広く意識啓発を進めるため、各種の集中的なキャンペーンの実施やマスメディアを含む様々な媒体の活用に留意します。
地域の人々が気軽に訪れることのできるところに、環境学習や実践活動の場や機会が多様な形で存在することが必要です。また、全国的な行事やキャンペーンなど、環境学習が広範囲に連携した形で効果的に実施される機会を提供することも重要です。
このため、環境教育・環境学習の拠点として地域の各種施設の活用を図るとともに、里山、水辺などの多様な自然環境を保全し、自然とのふれあいを通じた環境教育・環境学習の場としての活用を図ります。また、先進的な各主体の交流事例を国の施設において紹介し、普及を図るとともに、こどもエコクラブ事業などの全国的及び広域的な観点からの学習機会の提供、さらに、学習や実践活動の成果を発揮できる場や機会の充実を図ります。
自主的、自発的な環境学習を可能とするための条件整備を効果的に推進するためには、行政、民間団体、事業者など各主体の連携が深められ、地域に根ざし、地域から広がる形で環境教育・環境学習が推進されていくことが必要です。
このような取組においては、地方公共団体の役割が重要であり、国はそれを支援するための基盤整備を行います。
また、民間における各主体の連携を促進します。さらに、国においては、パートナーシップの考え方に基づく先進的なモデル事業の実施、環境教育・環境学習に関する組織の拡充強化、関係府省の連携を図る場の常設化などを推進します。
企業内教育は、環境教育・環境学習の重要な構成要素であり、事業者の自主的取組の中でも重要な事項の一つです。また、事業者が提供する環境保全に係る事業活動や製品・サービスの情報は、各主体が環境教育・環境学習によって向上した意識をグリーン購入活動などの具体的な行動につなげていくために不可欠なものです。さらに、野外体験などの場や学習機会を提供する事業者や民間団体は、環境教育・環境学習の実施主体として重要な役割を担っています。
このような観点から、企業内教育のためのプログラムの整備や情報提供に努めるとともに、環境報告書の作成と公表や環境ラベリングなどの事業者における自主的取組を促進します。また、野外体験、自然体験、エコツアーなどの様々な体験学習活動機会を提供する事業者などとの連携を図ります。
第8節 社会経済の環境配慮のための仕組みの構築に向けた取組
従来、公害対策においては、環境負荷の生ずる過程の末端において負荷を低減しようとするエンド・オブ・パイプ的な対策が主に行われてきましたが、環境問題の構造の変化に伴い、そのような対策のみでは不十分であることが認識されました。そして、社会経済システムそのものを持続可能なものに見直していくという、環境と経済の統合的アプローチに立脚した環境政策への転換が図られつつあります。これを具体化するには、政策手法の多様化とその最適な組合せ(政策のベスト・ミックス)が必要となっています。
このような中で、環境政策の政策手法については、経済的手法、自主的取組手法、情報的手法、手続的手法の分野を中心に新たな環境政策手法の開発や普及が進みつつあります。しかし、これらの政策手法については、なお形成過程にあるものが多く一層の整備が必要です。
また、直接規制的手法など従来からの政策手法についても、環境問題の構造変化を踏まえ、改善のための検討を行っていく必要があります。
環境問題の構造変化に対応し、社会経済システムへの環境配慮の織り込みを図る「社会経済のグリーン化」を進めていくため、環境利用のコストが価格を通じて十分市場に反映されることに留意しながら、新たな政策手法の開発と普及を図っていきます。
環境政策への各政策手法の適用にあたっては、可能な限り各主体の創意工夫を尊重しながら、自主的な取組を助長していくことを重視し、当該政策手法の効果に加え、国民経済への影響、制度の運用に要するコスト、環境保全に関する意識への影響、技術革新など他の側面への波及効果などを考えながら、各主体の最適な選択につながるものとなるよう留意します。
また、政策のベスト・ミックスの考え方を踏まえ、当該問題の解決に適した複数の政策手法の適切な組合せと有機的な連携とを図り、適切な政策パッケージとして、相互補完的な効果や相乗的な効果を発揮させることに特に留意します。
個別具体の環境問題に対する具体的行為の禁止、制限や義務付けなどを行う直接規制的手法について、この手法を用いることの適否を判断するためのチェックシートのあり方の検討や環境保全効果と経済的効率性の両側面から、他に採りうる政策手法との比較考慮を含めた規制効果分析を行うための考え方について検討します。
さらに、規制をより柔軟なものとしながら高い効果を挙げるため、規制の対象者に達成手段などの選択の幅を許容する枠組規制的手法に移行するための条件や、直接規制的手法と他の政策手法との組合せのあり方について検討します。
(ア)環境報告書
様々な規模、業種を含め幅広い事業者に環境報告書の作成と公表の取組を広げ、関係者との意思疎通を促進していくため、ガイドラインの策定や表彰制度などを通じた取組支援を行います。
また、情報内容の充実など環境報告書の質の面での向上を図るため、環境会計や環境パフォーマンス評価のための指標について一層の検討を進めるとともに、第三者による検証や意見の付記など、信頼性を確保するための手法のあり方についても調査検討を進めます。
(イ)環境ラベリング
購入者が、製品やサービスに関連する適切な環境情報を入手できるよう、環境ラベリングその他の手法による情報提供を進めていきます。このため、エコマーク制度や国際エネルギースタープログラム、省エネラベリング制度について一層の充実を図ります。
また、自己宣言による環境ラベルの普及や製品の定量的環境情報の開示を行う新たな環境ラベルについて検討を進めるとともに、グリーン購入の取組を促進する民間団体による情報提供の取組を促進します。
さらに、事業者や民間団体が行う情報提供の状況を整理、分析して提供するとともに、適切な情報提供体制のあり方について検討します。
ア 環境管理システム
環境管理システムの導入を幅広い事業者に広げていくため、ISO14001について、引き続き情報提供、研修などの支援を行い、取得の促進に努めます。また、中小規模の事業者などが環境管理システムの導入に向けた取組を始めることを促す手段として、低利融資、研修をはじめとする取得促進のための支援、簡易な手法である環境活動評価プログラムの普及などの取組を進めます。
なお、国においても、通常の経済活動の主体としての活動以外の政策立案などの活動についても積極的に環境配慮を織り込んでいくため、環境管理システムの導入を進めます。
ウ 戦略的環境アセスメント
環境基本法第19条にもあるとおり、個別の事業の計画、実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)や政策についても環境の保全に配慮することが必要です。
上位計画や政策における環境配慮のあり方について、現状での課題を整理した上で、内容、手法などの具体的な検討を行うとともに、国や地方公共団体における取組の実例を積み重ね、その有効性、実効性の検証を行います。それを踏まえて、環境配慮のあり方に関するガイドラインの作成を図ります。
このような検討や取組の状況を見つつ、必要に応じて制度化の検討を進めます。上位計画や政策に対する環境配慮として、内容や制度に差異はありますが、諸外国で「戦略的環境アセスメント」と呼ばれる仕組みや、わが国の一部地方公共団体において上位計画等における環境配慮の取組が開始されており、これらも参考にして検討を行います。
第9節 環境投資の推進
わが国の社会資本は、公共部門においては、主要先進国に比べれば、なお整備が遅れているものも見受けられますが、戦後50年を経て相当の進捗が見られ、投資全体に対する維持管理の比重が高まるとともに、高度経済成長期に大量に整備された社会資本が更新期を迎えようとしています。
また、平成12年度末の推計で、国の公債残高は約365兆円、対GDP比73%、国、地方の長期債務残高は642兆円にも達する見込みとなるなど、国、地方の財政状況は急速に悪化してきており、今後高齢化などに伴う財政需要の増大も見込まれます。この結果、財政の対応力は、相当長期間にわたって低下せざるを得ず、社会資本整備についても、限られた財源の一層の重点的、効率的配分が求められるものと考えられます。
このような中において、環境問題に対する認識の高まりや社会の高齢化などを背景として、国民の価値観も多様化しています。また、国民の社会資本に対するニーズも生活をより重視する方向あるいは単なる量的充足から個性豊かで活力に満ちた地域社会を求める方向へと大きく変化してきています。社会資本の整備についてもこのような国民の価値観の多様化や社会資本に対するニーズの変化へ的確な対応を図ることが必要とされています。
わが国が持続可能な社会を構築していくためには、このような社会資本をめぐる情勢を踏まえ、社会資本整備における環境の保全のための、あるいは環境保全に資する投資の推進を図るとともに、投資に際して環境配慮を行う機会を適宜設けることなど投資全体に環境配慮をシステム的に織り込んでいく努力を行う必要があります。
他方、民間投資に関しては、これまでどおり、投資の利益率、効率性の高さが前提とされる一方で、消費者のニーズが循環と共生が実現された社会に、より大きな豊かさを認める方向に変化しつつあることを踏まえて展開していくと考えられます。また、企業が経営方針を決定する際に、環境を考慮すべき主要な要素の一つと考える傾向が強まってきていることなどからも、持続可能な社会にふさわしい市場への質的変化が期待されます。
また、地球環境問題の観点から国際的に資源・エネルギーの制約が強まる見通しの下、資源の効率的利用や再利用など資源効率性の向上や、再生可能な資源の育成や利用の推進が極めて重要な社会経済的な課題となると考えており、このようなことも、市場の変化を促進するものと考えられます。
しかしながら、環境のように外部不経済性が強く現れる分野について全面的に市場に委ねる場合には、いわゆる「市場の失敗」が生じることになります。このため、必要に応じ、環境利用コストの市場価格への内部化のための措置など適切な政策的対応を行った上で、資源・エネルギーの使用の削減、効率化、再生可能なものへの転換などのための投資を推進することが必要とされています。
21世紀に向けて、持続可能な社会を築き上げていくためには、国民の間に生まれつつある新たな豊かさの観念や消費の傾向、それを可能にする市場の質的変化を定着させていくことが必要です。また、環境に対する投資は、社会発展の基盤である環境の破壊の防止や環境制約の緩和を通じ、社会経済の発展を持続させるための条件を整えるほか、新たな需要の喚起や技術や生産プロセスの革新を通じて産業の発展基盤や国際競争力を強化する効果があることにも留意する必要があります。
このため、あらゆる投資に環境配慮を織り込んでいくとともに、それを先導する役割を担うものとして、特に次のような分野における環境投資を社会資本投資の重点分野の一つとして推進を図ります。
○環境負荷の低減、処理のための投資
○環境の維持、復元、創造及び健全な利用のための投資
○資源・エネルギーの使用の削減、効率化、再生可能なものへの転換などのための投資
○持続可能な社会に関する技術開発、モニタリングのための投資
また、環境上の「負の遺産」についても、その解消を図るための取組を行います。
このような環境投資の推進にあたっては、次のような方向性を踏まえ、公共部門は、次世代の社会資本を環境配慮型のものにしていくため、自らの投資への環境配慮の織り込みと環境投資を適切に推進するとともに、民間部門における投資への環境配慮の織り込みやエコビジネスの成長を行いやすくする環境を整える役割を担います。民間部門は、これを受けて、自発的に投資行動や消費行動に環境配慮を織り込み、環境保全型の市場形成を図っていくことが期待されます。また、これらの取組に共通する環境投資のための基盤整備を図るため、環境研究及び環境技術開発、情報基盤の整備を推進するとともに、地域段階における関係主体の連携の強化を図ります。
国、地方公共団体などの公共投資における環境配慮の適切な織り込みを推進していきます。
また、既存ストックの有効活用を図るとともに、今後、高度経済成長期に大量に整備された社会資本が更新期を迎えることに伴う社会資本の整備にあたっては、環境配慮型のものの整備を適切に推進します。なお、更新により生じる廃棄物の有効利用にも留意します。
循環型社会構築のための取組が推進されていることにかんがみ、循環型社会の実現のために必要とされる社会資本については特に整備の推進を図ります。
PFIなどの民間活力の導入にあたっては、環境面に十分配慮してそれらの施設などの運営に努めることとします。
行政の関与、特に規制は必要最小限度にとどめることを基本とし、環境に係る外部不経済性が強く現れる場合などには、可能な限り、環境コストの市場価格への織り込みなど適切な条件整備を図ります。
循環型経済システムの構築の観点から、今後、廃棄物の発生抑制(リデュース)、部品などの再使用(リユース)、原材料としての再利用(リサイクル)が行われるための投資を促進することに資する制度の着実な実施を図るとともに、必要に応じて適切な制度の整備を行います。
比較的市場に乗りやすいものについては、行政の関与は必要最小限度とし、市場に任せた場合には十分な実施が期待できないものについては、行政の直接的な実施、あるいは支援の枠組みなどを検討します。
環境負荷の低減に直接つながる研究開発のほか、公共投資、民間投資を促進する基盤となる研究開発について幅広く促進を図ります。この場合、新技術の開発のみならず、既存技術の普及や新たな組合せ、地域の自然的、社会的、経済的な状況に適した技術の開発についても十分配慮します。
また、環境面における技術革新を効果的に推進するため、環境政策の方向性や目標を明確にした上で、技術を適用した場合の効果や環境への影響などに十分配慮しながら、科学技術基本計画を推進するとともに、産業界との連携の下に国家産業技術戦略などの着実な実施を図ります。
(ア)企業における環境経営の促進
民間部門における環境投資の促進を図るため、企業が環境保全の観点を企業の経営方針に組み込むとともに、環境保全のための取組を企業目標や経営戦略の一部として明確に位置づけ、企業内部における業績評価に際しても環境保全のための取組に対して適切な評価を行っていくよう促します。
このため、ISO14000シリーズなどによる環境管理システムの導入の促進、環境適合設計の考え方の確立、環境会計、環境報告書の普及を図るとともに、環境パフォーマンスの評価やライフサイクル・アセスメントなどの環境負荷の総合的な評価のための手法の開発などを推進します。
また、企業の環境に配慮した経営を行おうとする努力が市場において適切に評価され、消費者や投資家など様々な主体からそのような企業の財・サービスや有価証券などが好ましいものと考えられるようになることにより、さらに環境経営が進められていく環境経営促進のプロセスを確立していきます。このため、環境パフォーマンス評価を含め、企業の環境保全対策に関する情報を消費者を含む関係者に対して適切に提供することを通じ、環境コミュニケーションを促進していくための方策について検討します。
なお、環境コミュニケーションの重要な手段である環境報告書や環境会計、環境ラベリングなどについては、企業の環境経営に対する評価をより適切かつ客観的に行うため、情報の客観性と標準性を担保しながら比較可能性や精度の向上を図ることや第三者による意見の提出あるいは評価を行うことについて検討します。
(ウ)需要面からの環境投資の促進
環境投資が促進されるためには、環境負荷の少ない財・サービスに対する需要が存在することが重要であることにかんがみ、そのような財・サービスに対する消費者の選好を高め、グリーン購入を助長するための施策を講じます。
このような需要面からの環境投資の促進のための施策を講ずるにあたっては、生産者の対応を含む幅広い施策を相互に連携させながら適切に組み合わせ、政策パッケージを形成していくことが重要です。このような観点に立ち、関係主体の連携の下に、国民に対する環境教育を通じて消費者の環境に対する理解を深めること、環境ラベリングの促進などを含め、財・サービスなどに関する環境情報をわかりやすく提供することに努めること、国や地方公共団体などの公的主体が率先してグリーン購入に努めること、企業などの大口需要者のグリーン購入の動きを助長すること、最も優れた性能を達成した製品に合わせて製品規格を考えるトップランナー方式などによる企業側の商品開発の促進などによりグリーン購入の選択の幅を拡大すること、などを推進します。
ア 環境研究及び環境技術開発
環境研究及び環境技術開発は、それらを行うための施設の整備のための投資が環境投資の一環として位置づけられるとともに、環境投資が推進されるための基盤となるものでもあります。
環境研究及び環境技術開発については、このようなことを踏まえながら、環境変化の仕組みの解明、環境影響の把握及び環境保全対策の3点を重点事項として取組を行います。
なお、民間部門においては、環境研究及び環境技術開発のうち環境保全対策に係る研究及び技術開発であって、開発コスト面や開発リスクの面から企業が実施することが難しいものについては、それらの促進を図る方法などについて検討する必要があります。
一方、公的部門においては、環境研究及び環境技術開発は、わが国の研究・技術開発の重点分野の1つとして位置づけられ、多くの政府関係機関が、それぞれの所管との関連で様々な観点から多くの取組を行っています。このような取組について、全体を通じた明確な戦略の下に、相互間の十分な連携を図りながら、限られた資金を重点的かつ効果的に活用し、環境研究及び環境技術開発の充実に努めていく必要があります。
イ 環境に関する情報基盤の整備
環境に関する情報は、環境保全のための基盤であるとともに、環境配慮型の商品などの将来の需要の見通しや消費者の環境問題に関する意識の変化などに関する情報は、事業者にとっても今後の市場動向についての予測を行うための基礎の一つとなるものです。
このような観点から、公共部門、民間部門の双方において、環境に関する情報の積極的な整備とデータベース化を図るとともに、可能な限り情報の公開と社会的な共有化を図ります。
環境に関する情報基盤の整備に関しては、次のような分野に重点を置いて検討します。
○技術・研究開発の基盤となる科学的知見の充実及び地球観測データなどの情報ネットワーク基盤の整備
○環境保全型の製品、技術、サービスなどに対する内外の需要やその将来予測についての情報、利用可能な再生資源などの発生状況や発生予測に関する情報、環境関連産業の現状に関する情報など、環境保全に関連する産業活動に必要な情報の整備
○環境投資の状況に関する基礎的な情報及び国土環境情報などの整備
大量生産、大量消費、大量廃棄型の生活様式や事業活動の見直しは、社会経済システムの改善や資源・エネルギーの利用効率の向上などの取組により具体化されていくものです。これら取組の推進において、ITのもたらす新たな技術的発展には、直接的、間接的に環境に寄与する技術を飛躍的に進歩させるとともに、生産管理などの制御技術やモニタリング技術の高度化を通じ、社会経済システムを環境負荷の低減により、きめ細かく配慮した形で運営していく上で障害となってきた情報面の隘路を打開することが期待されます。生活様式の面においても、ITは、財の所有を前提としてきた行動をサービスを前提とした行動に置き換えることなどにより、物質への依存度のより低い生活様式をもたらす可能性があります。
また、環境は様々な要素が絡み合った複雑な系をなしているため、人間活動の影響を把握し、これへの対応を短時間のうちに図っていくことには大きな困難が伴ってきました。ITの活用は、このような面の改善にも大きく寄与することから、より正確で豊富な情報を基に、即時性の高い対策を講ずることが可能になることと期待されます。
このような観点から、ITの活用を環境投資の重点分野と位置づけ、社会経済システムの高度化、生産や流通システムの効率化、環境に配慮した製品やサービスの提供、消費行動の合理化、資源の循環的利用など、社会経済活動のあらゆる場面において環境負荷を低減していくためにITの活用を推進するとともに、エコビジネスの育成にあたっても、ITの活用に留意します。また、環境の監視・観測、分析のためのモニタリングやシミュレーションの実施、それにより得られた情報を社会的に共有化していくための情報システムの構築、運営など、環境行政の基盤をより高度化し、充実させていくためにもITを活用していきます。
わが国の国土の約7割の面積を占め、環境の保全に極めて重要な役割を果たしている森林については、近年、林業の採算性の悪化などを背景とした人工林の管理水準の低下などにより、多面的な環境保全機能が損なわれるとの懸念が生じています。このことを踏まえ、森林の多面的な環境保全機能を維持するために必要な森林の維持、保全、整備のための投資及び木材資源の有効利用推進のための投資を環境投資の重点分野と位置づけ、山村地域の高齢化が進む中における今後の森林の管理のあり方について森林の恩恵に係る受益と負担のあり方を含めて検討しながら、その推進を図ります。
(あらゆる段階における取組に係る戦略的プログラム)
第10節 地域づくりにおける取組の推進
今日の環境問題は、交通に起因する環境問題、地球温暖化問題、環境保全上健全な水循環の確保、騒音・振動、悪臭問題、ヒートアイランド問題、光害問題、廃棄物・リサイクルなどの物質循環に係る問題、生物多様性の保全などに見られるように、地域における取組が極めて重要です。また、持続可能な社会を構築していくためには、環境基本計画の長期的目標である「循環」と「共生」の考え方を地域づくりに反映した「『循環』と『共生』を基調とした地域づくり」を目指し、各般の施策を統合的視点から展開していくことにより、地域段階からこれに取り組んでいくことが必要です。
このような取組を推進する観点から見た場合、地域づくりに関しては、地方分権の推進に伴い、地方公共団体への各種権限の委譲が進められており、地方公共団体が様々な権限を総合的観点から行使し、住民の参画の下、地域づくりを総合的に推進する環境が整いつつあること、都市部を中心に、地域コミュニティへの帰属意識の希薄化が見られる反面で、市民活動が活発化し、行政や企業とのパートナーシップを担う主体となっていく傾向が見られることなど、注目すべき動きが見られます。
しかしながら、このような取組においては、関係者が共通の方向性をもって自らの行動に環境配慮を織り込んでいくための関係者共通の指針となる考え方が確立していることが必要ですが、そのような考え方は十分に確立しているとはいえません。また、取組の基礎となる情報の共有化や推進メカニズムなどについても、十分とは言えない状況にあります。
オ 地域における情報の共有化と社会的合意の形成
自然資源等の持つ環境保全機能の評価と分析を行い、自然資源等と環境に関する情報を充実させて公開していくことにより、地域の環境に関する情報の共有化を図ります。また、「循環」と「共生」の考え方に基づき、地域内の自然資源等の持つ機能が全体として最大化される方向で、地域づくりやまちづくりが行われるよう、計画的な自然資源等の利用についての社会的合意の形成に努めるとともに、その具体的な展開のために必要な関係者間における調整を促進します。
とりわけ、森林や農地の管理水準の低下に伴う環境保全機能の低下への対応策を検討します。
カ 開発行為に対する慎重な姿勢の保持
各種の開発行為については、特に規模が大きい場合には、生物の多様性や水循環、大気環境、気候などへの影響をもたらす可能性があることから、極力慎重に行われる必要があることを踏まえ、開発を行う側で開発に伴う環境に対する影響の程度を把握しなければならないという姿勢を保持していきます。
また、開発行為を行う場合には、ミティゲーション(環境影響の回避、最小化と代償)の考え方に基づき、環境影響評価の実施などを通じて適切な対策を講じます。
地域づくりにおける環境配慮の織り込みを推進するために、各主体がそれぞれ次のような役割を担います。
住民は、日常生活において環境に配慮した行動をとるとともに、地域の環境保全のための取組に積極的に参加し、協力することが期待されます。
また、地方公共団体は、地域の取組の調整者及び主たる推進者としての役割を担うとともに、地域における情報の共有化の中核としての役割が期待されます。
民間団体は、地域づくりにおける環境配慮のあり方などに関して積極的に提案したり、地域づくりにおける環境配慮の方向性をチェックする役割を果たすことが期待されます。また、特に、環境に関する専門的な知識、経験を集積し環境情報などの意味を住民にわかりやすく伝える役割や地域づくりの合意形成過程における住民側の主張の結節点としての役割を果たすことが期待されます。
国は、各種事業の推進にあたって地域における取組に配慮するとともに、地域づくりにおける環境配慮のガイドラインを提示するなど、地域づくりに環境配慮を織り込んでいくための支援手段の開発及び情報の提供などを行います。
地域づくりへの環境配慮の織り込みのための取組を関係者が共通の理解を持って行うため、国においては、環境に配慮した諸施策などを通じて形成されてきた関係者の環境に関する共通理解を踏まえ、地域づくりへの環境配慮の織り込みの考え方や、地域が環境から見て持続可能な方向を目指しているかどうかを判断する視点などを含むガイドラインを示します。これにより、地方公共団体等が策定する地域づくりに関する各種計画における環境配慮の織り込みの考え方に指針を与えるとともに、関係者間の考え方の整合性を図っていきます。
また、国においては、地域づくりに活用できるような普遍性を持つ施策のメニューの例や取組事例の紹介、優良事例を踏まえた地域づくりへの環境配慮のモデルの提示などを行います。
地方公共団体等においては、このようなガイドライン等を参考としながら、地域固有の事情に即した検討を行い、「地域づくり環境配慮指針」のような形で取りまとめ、関係者の取組の基礎としていくことが期待されます。
地域の関係者の共通理解の基盤とするため、地方公共団体は、地域の環境情報の結節点としての役割を果たし、環境情報の共有化を推進していくことが期待されます。
このため、国においては、地域づくりに活用しうる国が保有する環境情報をわかりやすく整理してデータベース化し、積極的、システム的に提供します。また、地方公共団体における取組事例を踏まえ、地図情報化、各種情報のオーバーレイ(地図上の重ね合わせ)を可能とする手法など地方公共団体が地域の環境情報の結節点としての役割を果たすために必要とされる基本的な手段の開発、提供に努めます。さらに、地方公共団体等による地域環境計画などの進行管理や取組の評価への活用に供するため、地方公共団体との連携の下に、総合的環境指標の開発の成果を活用しながら、地域の環境の状況や環境から見た持続可能性を評価しうる地域環境指標の開発と整備を行います。
地方公共団体には、地方公共団体が策定する基本構想や総合計画をはじめとする地域づくりに関する各種計画の策定段階からその実施及び事業成果の評価の段階に至るまで、関係者が地域の持続可能性の観点から経済、社会、文化などの要素を総合的にとらえ、共通の認識の下に環境配慮のための必要な取組を行いうるよう、これらの計画における環境配慮の織り込みを促進することが期待されます。国はこれらの取組を支援します。
また、地方公共団体は、「環境影響評価法」や地方公共団体の条例に基づく環境影響評価の適切な活用を進めます。
さらに、国は、地域における戦略的環境アセスメントの取組の支援を行うとともに、地方公共団体等が「地域づくり環境配慮指針」等の形で地域における環境配慮の基準を定め、これに基づき地域づくりに関する各種計画における環境配慮をチェックする仕組みを検討します。
また、国においては、広域的な環境保全のための枠組みが十分提供されているとは言い難い状況にあることを踏まえ、環境問題の状況を踏まえながら、広域的な環境問題に対する計画的な対応のあり方について検討します。
さらに、国においては、環境保全の効果が行政区域を越えて広域に及ぶことを踏まえ、農地、森林、水源などの保全に係る地域の取組の実状を踏まえた支援の仕組みを検討します。
第11節 国際的寄与・参加の推進
地球温暖化やオゾン層の破壊の問題など、地球規模の環境問題が顕在化するとともに、開発途上国における環境問題が激化しています。特に、近年、経済のグローバル化の進展に伴い、貿易や国際的な投資が拡大する一方で、開発途上地域の経済活動の活発化や国際的な競争の激化を背景に、さらなる環境の悪化が懸念されています。
このような状況に対し、1992年(平成4年)の地球サミットにおいて国際的な合意となった持続可能な開発に向けた取組が様々な主体によって様々な段階で行われており、とりわけ、近年、政府以外の各主体が国際世論の形成や環境保全事業に果たす役割が増大しています。
このような中において、国際的な取組に係る各分野におけるわが国をめぐる現状と課題は、次のとおりです。
国際的な連携の確保や枠組みづくりの分野においては、京都議定書など世界的規模の環境条約・議定書の作成が進展しており、各国際機関、条約体制間の連携、協力の強化への関心も強まっています。また、2002年(平成14年)には、地球サミット以降の取組の進捗状況をレビューするための会議(リオ+10:リオプラステン)の開催が予定されており、これに向け、世界的に環境問題に対する政治的関心が高まることが期待されています。このため、わが国については、環境関係の広い分野で、わが国自らが一層積極的に課題設定(アジェンダ・セッティング)を行い、議論をリードしていくことを含め、わが国の国際的な地位と能力に照らして十分な人的、知的貢献を行っていくことが課題となっています。
また、世界的な枠組みづくりに加え、地域的な取組が一層重要になっており、アジア太平洋地域においても多様な取組が進展しています。わが国としては、今後とも地理的に隣接する地域から環境共同体意識を醸成し、世界にパートナーシップを拡げていくなどの観点から、アジア太平洋各国の多様性を考慮しながら、着実に取り組んでいくことが必要とされています。
開発途上地域の環境保全のための支援の分野においては、わが国の環境ODAは、質量両面における充実を通じ、ODA全体の中での大きな柱に発展しています。また、共通の理解の下に政策を推進することが重要との考え方の下、政策対話の充実などを通じてODA事業の内容にわが国の支援政策を反映する共同形成主義が進みつつあります。さらに、途上国の対処能力の向上を重視するアプローチをとり、環境研修センターの整備をはじめとした協力実績を挙げるほか、地球環境保全にも資するような自然保護、森林保全、省エネルギーなどに関する取組も強化しつつあります。
さらに、近年、地方公共団体、民間企業、NGOなどを含めた様々な主体が環境協力に積極的に参加する動きが見られ、これに対する政府の支援措置も拡大しています。なお、現在急速に進みつつある経済のグローバル化は開発途上地域の経済に重要な変化をもたらしており、開発途上地域に対する支援もこれを踏まえたものとしていく必要が生じています。
国際協力などにおける環境配慮の分野においては、「政府開発援助に関する中期政策」において、ODAの実施に際しての環境配慮が一層明確に位置付けられました。また、国際協力銀行や国際協力事業団の行う主要なODAについては、環境配慮手続きが定められています。さらに、新たに貿易保険を含む輸出信用においても環境配慮ガイドラインが策定され、運用されるようになりました。これら環境配慮の手続、方法などについては、国内外の取組の進展に配慮しながらその充実が図られるとともに、実施体制の整備が図られてきています。
また、国際協力銀行においては、ODAと輸出信用の両方に係る統合された環境ガイドラインを策定することとなっていますが、それぞれの目的の相違を踏まえながら、整合性ある基準とするよう取り組む方針です。
さらに、民間海外投資における環境配慮については、経済団体連合会などで自主的取組がなされており、民間融資、民間保険においても自主的取組の兆しが見られます。
地球環境研究の分野においては、世界気候研究計画(WCRP)など国際的なレベルで地球環境研究を推進するプログラムの活動が盛んになりつつあります。また、IPCCなど、条約の運用への知的な貢献を目指した国際的な活動も盛んになっています。他方で、アジア太平洋地域においては、研究成果の発信が少ないこと、政策的な研究の推進基盤が弱体であることなどが指摘されています。
わが国は、多様な観点から環境研究や環境技術開発を推進してきていますが、一方で研究課題の固定化、人材面の制約などにより、必ずしも新たなニーズに対応できていない面があります。また、わが国の地球環境研究やモニタリング全体を俯瞰した総合的な評価の取組は行われておらず、明確な戦略や相互間の連携を十分に図るとともに、研究体制を充実させる必要があります。
人類社会の持続可能な発展を図ることが国際社会における合意事項になっている今日、わが国の大規模な経済活動が地球環境に大きな負荷を与えてきていることにかんがみ、わが国の持つ環境面の卓越した技術や経験を活用し、国際社会において環境面からの積極的な寄与・参加を行うことは、わが国の国際社会に対する重要な責務となっています。
また、国際的寄与・参加をする上では、他国の範となるべく、自ら率先して社会を持続可能なものへと転換するための国内対策を一層充実、強化していくことが重要です。
このような認識の下、国際社会での持続可能な開発のための取組にイニシアティブを発揮することを目指し、国際的寄与・参加のための体制の充実強化を図るとともに、国際的な枠組みづくりや世論形成、開発途上国における持続可能な開発のための取組に対する支援、地球環境研究などの戦略性の強化に積極的に取り組むことにより、国際協力における知的貢献とそのための戦略づくりを強化していきます。
特に、わが国と地理的、経済的に密接な関係を有し、今後の急速な経済成長とそれに伴う環境への負荷の増大が見込まれるアジア太平洋地域については、地域の環境管理は同じ地域に属する国々が協働して推進すべきであるとの考え方の下に、地域内の密接な連携を図ります。
ア 世界的政策課題の設定と国際的な世論形成
21世紀初頭の世界的政策課題の設定と先進国、途上国双方にわたる国際的世論形成に積極的に取り組みます。
このため、地球温暖化、生物多様性、砂漠化防止などの国際約束が相当程度形成されている分野については、既に発効している条約の締約国として、その実施に今後とも一層貢献していきます。
化学物質、海洋環境、水資源、森林の分野については、国際的枠組み・連携の強化を促していきます。
また、関係する国際機関間の協力とその取組の効率化を図るべく、各条約体系間の共通施策分野における連携の強化(シナジー)を促していきます。
さらに、世界的な政策形成と実施に多様な主体が参加できるよう、ITを活用した参加・開放型政策の形成と実施の環境整備を進めます。
イ 経済のグローバル化を踏まえた持続可能な開発支援の強化
経済のグローバル化を踏まえ、わが国の開発途上国に対するあらゆる協力分野に関して、持続可能な開発のための支援のあり方を調査、検討します。また、ODAの環境配慮にあたっては、戦略的環境アセスメントの考え方に基づいて上位計画段階から代替案の検討を進めることなどにより、開発計画自体が開発と環境保全の両立を図る持続可能な内容となるよう支援に努めます。
また、環境保全に関するODAを透明なプロセスの下で真に実効あるものとするため、各事業における事前・中間・事後の一貫した評価を適切に行うとともに、環境改善効果を含めた評価のための客観的な手法を開発します。
さらに、協力の実施にあたっては、政策対話の積極的展開などにより、各国の特性への配慮の強化を推進します。
また、開発途上国の自立的取組の促進のため、民間団体、地方公共団体、事業者などの役割を踏まえた多元的パートナーシップの形成による厚みのあるきめの細かい協力を推進します。
さらに、途上国の膨大なニーズに対応するためには、途上国自身における環境対策の産業化が不可欠であることを踏まえ、わが国の官民の技術、資本などを積極的に活用しながら、開発途上国におけるエコビジネスの育成を図ります。
なお、開発途上国の国民一人一人の意識と行動力が重要な役割を果たすことから、学校教育、社会教育その他の多様な場において、環境教育・環境学習の支援を強化します。
ウ 知的貢献の基盤づくり
わが国の課題設定能力の向上に向け、中長期的視点からの環境保全の戦略策定につながるような調査研究や、そのような知的貢献の基盤となるべき地球環境の総合的なモニタリングなどを今後一層充実していきます。また、このための研究体制の整備を図ります。
さらに、21世紀型の環境保全技術の開発と評価の推進体制を整備します。具体的には、地域の多様性に応じた適正技術の開発、環境効率性、資源効率性が高く、かつ、小規模分散型、労働集約型、長期使用型、リサイクル型、維持管理簡便型などの技術を推進します。
アジア太平洋地域に重点をおいた取組を進めるため、衛星情報とモデリング技術などの情報技術を用いた環境の統合的モニタリングを推進するとともに、革新的な戦略オプションの評価とそれを踏まえた政策立案の支援を推進します。
また、海洋環境、酸性雨、砂漠化、渡り鳥等野生生物の保護などの課題について、地域協力の枠組みづくりとODAの活用を進めます。
さらに、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)などアジア太平洋地域で進められている様々な協力を通じ、環境政策対話とプロジェクト形成機能の強化を図ります。
国際会議における専門的、技術的議論の進展と国際世論づくりに一層貢献していくため、専門家の養成、活用と政策基盤の強化を進めます。また、外国政府、国際機関の環境政策情報の迅速な収集と提供に一層努めるとともに、わが国の環境政策についての英語情報の提供を一層進めます。
さらに、わが国の環境政策の形成と実施について、内外のNGO、学術研究機関・団体、産業界などとの多様な政策対話の場を強化し、参加・開放型の政策の形成と実施を強化します。
わが国が持つ知見と経験を有効に国際的な環境協力に活用していくため、国際機関への邦人職員の派遣と勤務の支援を推進します。