産業公害と開発に伴う自然の減少を中心とする高度経済成長期までの環境問題とその後の環境問題との間には、大きな態様の変化が見られます。
今日の環境問題の第一の特徴は、環境問題の多くが国民の日常生活や通常の事業活動に起因し、不特定多数の者が原因者になっているという状況や、原因者が同時にその影響を受ける者にもなっているということが一般化していることです。例えば、地球温暖化の主要な原因物質である二酸化炭素は、私たちの生産活動や消費活動のあらゆる場面から排出されています。大都市における交通などに起因する大気汚染問題は、私たちの社会経済システムや活発な生産、消費活動と深く結びついています。閉鎖性水域の水質汚濁の大きな原因は、わが国が大量に輸入した食料品、肥料、工業原料などを用いて行っている生産や消費活動に伴い、それらに含まれる大量の窒素やリンが環境中に放出されていることにあります。さらに、廃棄物問題の根本には、大量生産、大量消費、大量廃棄型の事業活動や生活様式があります。
第二の特徴は、地球環境問題や内分泌かく乱化学物質に対する懸念に見られるように、影響の発現までに長期間を要する問題やその影響が長期間にわたる問題、また、発生の仕組みや影響の科学的解明が十分でない問題が増えていることです。
第三の特徴は、人間活動の規模の拡大や広がりが人と環境との関係に大きな変化をもたらし、自然の物質循環や生態系に深刻なかく乱が引き起こされていることです。
例えば、自然環境の保全に関しては、様々な人間活動の拡大や人と自然との関係の希薄化などに伴い、森林、湿地、農村、都市など様々な生態系において、生息・生育地の縮小や分断化、また、それらの質の低下による野生生物種の個体群の絶滅の危機の進行、本来の分布域でない地域へ生物が導入されたことによる生態系などへの影響(移入種問題)の顕在化、中山間地域などにおける野生鳥獣による農林業被害の発生などの問題が生じています。
また、水循環を環境保全の観点から見た場合、人間活動の都市への集中と都市域の拡大による不透水性域の拡大、都市内河川の排水路化、生活用水の利用や排出の増加、過疎化や高齢化などに伴う農地や森林の管理水準の低下などを生じ、それにより、水質、水量、水辺環境に係る問題が生じています。
特に、今日、人間活動の急速な拡大に伴い、地球温暖化問題やオゾン層の破壊問題のように、その影響が国境を越えて地球規模の広がりを持つ環境問題が発生しています。地球環境は、大気、水、土壌、生態系などが相互に絡み合った複雑な系をなしています。このため、例えば、熱帯雨林の破壊が生態系への影響にとどまらず、大気中の二酸化炭素の増加を通じ気候変動にも影響を及ぼしうることが指摘されているように、人間活動が環境を構成する要素の一部に影響を与えた場合、その影響が他の要素にも波及し、ひいては、地球環境全体の安定性が損なわれるおそれがあります。