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第二次環境基本計画の概要



前文


  • 産業公害に象徴される著しい公害を第一の環境の危機とするならば、現在、私たちは、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした社会のあり方そのものを変えない限り解決のできない第二の環境の危機に直面している。
  • 私たちは、環境の制約を前提条件として受け入れ、その制約の中で資源やエネルギーを効率よく利用する努力を行いながら、これまでの生産と消費のパターンを見直し、これを持続可能なものに変えていく道を選択する。
  • すなわち、これまでの資源・エネルギーの大量使用に依存した大量生産、大量消費、大量廃棄型の生産と消費のパターンから脱却するため、生活様式や事業活動の態様など社会全体にわたる変革を達成する。また、意識面の転換を図り、生活の豊かさや社会の成長を環境への影響を踏まえて評価する姿勢を確立する。さらに、世界全体を持続可能な姿に転換していく国際社会の試みに積極的な役割を担う
  • こうした考えの下、本計画は、21世紀半ばを見通しながら、持続可能な社会(環境への負荷ができる限り低減された社会経済活動が営まれ、自然との豊かなふれ あいが保たれた社会。すなわち、「循環」と「共生」を基調とし、現在世代及び将来世代が共に環境の恵沢を享受できる社会。)の構築のための環境面からの戦略を示し、21世紀初頭における環境政策の基本的な方向と取組の枠組みを明らかにする

第1部 環境の現状と環境政策の課題


環境の現状

 環境問題は、産業公害などを中心とする高度経済成長期までの環境問題から、地球温暖化や廃棄物問題などのように通常の事業活動や国民の日常生活に起因するものへと変化。

(環境問題の変化)
  • 環境問題の多くは、地球温暖化や廃棄物問題などのように通常の事業活動や国民の日常生活に起因。同時に、不特定多数の者が原因者であるケースや原因者が同時に被害者であるケースが一般化
  • 化学物質問題などのように長期的スケールでの影響をもたらすおそれがあり、また、発生メカニズムや影響の科学的解明の十分でない問題の増加
  • 森林、湿地、農村、都市等様々な生態系において生物の多様性が失われつつあるなど、種々の問題の発生
  • 人間活動の都市集中等による水質の悪化や、水量の減少、水辺環境の喪失などの問題の発生
  • 地球温暖化問題やオゾン層の破壊問題に見られるような地球規模の広がりを持った環境問題の発生

環境基本計画策定後における環境政策の進展

 平成6年の環境基本計画策定以降、今日までの間に、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策、化学物質対策、生物多様性保全など個別分野における総合的な政策推進のための枠組みが整備されたことや政策手法の進展が見られたことなど、いくつかの重要な前進が見られた。しかし、対策を上回る速度で問題が深刻化しており、なお前進を図ることが必要。

(今後、前進を図る必要がある事項)
  • 地球温暖化対策に関しては、国際交渉の進展を見定めながら、現行施策の評価も踏まえ、京都議定書の締結に必要な国内制度に総力で取組
  • 廃棄物・リサイクル対策の推進の枠組みについては、その実施のための実効ある計画を策定
  • 化学物質対策に関しては、従来の施策の中心であった人の健康の保護の視点に加えて、化学物質の生態系に対する影響の適切な評価と管理を推進
  • 生物多様性国家戦略については、それに基づく施策の一層の実効性の確保等を目的とした見直し
  • 交通に起因する大気汚染問題や環境保全上健全な水循環などの分野においても、必要な施策をさらに総合的に推進

21世紀初頭の環境政策の課題

 持続可能な社会の構築に向けた国民的な合意形成などを通じ、各主体の取組の強化を図るため、国民や事業者における環境に対する意識の高まりが環境保全に向けた具体的な行動につながっていくような環境を整備すること。また、社会経済活動のあり方やライフスタイルを環境への負荷の少ないものへと転換するため、環境政策の基本的考え方を示しながら、優先順位を明確にして重点的かつ効率的な政策展開を図ること。これらが、今後の環境政策の展開における中心的課題。
  このため、本計画においては、第2部において持続可能な社会を目指して環境政策の総合的な展開を図っていくための考え方を示すとともに、第3部において、これを重点的、効果的に達成するため、計画期間中において戦略的に取り組むべき重要な取組を示す。


第2部 21世紀初頭における環境政策の展開の方向


持続可能な社会を目指して

 環境基本法の理念を実現するため、目指すべき持続可能な社会のイメージを提示して、現在の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会から持続可能な社会への転換を図る。

(持続可能な社会のイメージ)
  • 環境が人類の生存基盤であることを前提に、環境はもとより、経済、社会の側面からも高い質の生活を保障する社会
  • 自然資源を利用する社会経済活動が生態系の構造と機能を維持できる範囲内で行われるなど、環境を構成する大気、水、土壌等の諸システムと社会経済活動の間の健全な関係が保たれ、かつ、社会経済活動がそれらのシステムに悪影響を与えない社会
  • 資源やエネルギーの使用が効率化され、生産活動や消費活動の単位当たりの環境負荷が低減された社会。
  • 資源やエネルギーの消費に伴う環境負荷の低減を図るため、物質の循環的利用を基調とした社会経済システムや社会基盤が形成される社会
  • 国土の多様な生態系が健全に維持され、人と自然との豊かなふれあいが確保される社会
  • 環境を大切にする考え方が社会全体に広がり、社会の中で環境配慮に関するルールなどが浸透し、各主体が自然で容易に環境保全の取組を実行できる社会
  • わが国固有の能力と経験を活かし、よりよい地球環境の形成に向けてリーダーシップを発揮しうる社会

持続可能な社会を実現するための長期的目標

 現行計画の考え方を継承し、「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」の4つを長期的目標として掲げる。

【循環】 物質循環をできる限り確保することによって、環境への負荷をできる限り少なくし、循環を基調とする社会経済システムを実現
【共生】 社会経済活動を自然環境に調和したものとしながら、自然と人との間に豊かな交流を保つなど、健全な生態系を維持、回復し、自然と人間との共生を確保
【参加】 あらゆる主体が環境への負荷の低減や賢明な利用などに自主的に取り組み、環境保全に関する行動に主体的に参加する社会を実現
【国際的取組】 地球環境の保全のため、わが国が国際社会に占める地位にふさわしい国際的イニシアティブを発揮して、国際的取組を推進

持続可能な社会に向けた環境政策

 このような社会を実現するため、「循環」、「共生」、「参加」、「国際的取組」の4つの長期的目標の達成のための基本的考え方として以下を採用する。

(環境政策の基本的考え方)
  • 社会の諸側面を踏まえた環境政策
     →社会経済活動が必ず有する経済的側面、社会的側面、環境の側面を総合的にとらえ、環境政策を展開していく(「統合的アプローチ」)。
  • 生態系の価値を踏まえた環境政策
     →すべての社会経済活動は、生態系の構造と機能を維持できるような範囲内で、また、その価値を将来にわたって、減ずることのないように行われる必要があるとの考え方の採用。
  • 環境政策の指針となる四つの考え方
     →「汚染者負担の原則」「環境効率性」「予防的な方策」「環境リスク」を環境政策の基本的指針として採用。
  • 環境上の「負の遺産」の解消
     →有害物質による土壌や地下水の汚染、難分解性有害物質の処理問題、地球温暖化問題やオゾン層の破壊問題など、環境上の「負の遺産」については、現在世代の責務として将来世代に可能な限り残さないことを目指す。

こうした基本的な考え方に基づき、次のような方向で取組を行う。

 このような社会を実現するため、「循環」、「共生」、「参加」、「国際的取組」の4つの長期的目標の達成のための基本的考え方として以下を採用する。

(環境政策推進の方向)
  • 「あらゆる場面における環境配慮の織り込み」
     →国民、事業者等の意識や行動の転換と税財政等の経済社会システムや国土利用、社会基盤の環境配慮型のものへの転換を並行的に推進
  • 「あらゆる政策手段の活用と適切な組み合わせ」
     →規制や経済的手法などの社会経済の環境配慮のための仕組み、環境投資、環境教育・環境学習及び科学技術の4つの政策手段を最大限活用
  • 「あらゆる主体の参加」
     →国民、事業者、民間団体、地方公共団体、国などがそれぞれ持続可能な社会への取組を自主的、積極的に推進
  • 「地域段階から国際段階まであらゆる段階における取組」
     →国内において持続可能な社会を地域から構築。その経験を用いて、国際社会で地球環境の保全に貢献。

21世紀初頭における環境政策の重点分野

 このような方針の下に、限られた資源の重点的・効果的活用を図るため、計画期間中における重点分野を定め、問題の性質や構造を明確にした上で、問題解決のための方策や道筋を提示(第3部の戦略的プログラムの記述)。


第3部 各種環境保全施策の具体的な展開


戦略的プログラムの展開

 本計画期間中に、次の11の戦略的プログラムについて、現状と課題、目標、施策の基本的方向、重点的取組事項を明らかにし、特に重点的・戦略的に取り組む。

(11の戦略的プログラム)
  • 環境問題(分野別)
  • 地球温暖化対策の推進
     京都議定書の締結に必要な国内制度への総力を挙げた取組。規制的手法や経済的手法、自主的取組等あらゆる政策手法を組み合わせた対策の推進。
  • 物質循環の確保と循環型社会の形成に向けた取組
     自然界における物質循環をできるだけ阻害しない循環型社会の構築。そのため、循環型社会の構築のための基本的枠組みとなる循環型社会形成推進基本計画の基本的方向性を提示。
  • 環境への負荷の少ない交通に向けた対策
     都市部の大気汚染と地球温暖化対策の双方を念頭に置き、交通からの環境負荷を低減するため、都市構造、事業活動や生活様式も含めた総合的対策を推進。このため、地域レベルの総合的計画の策定等を進める。
  • 環境保全上健全な水循環の確保に向けた取組
     水循環の観点からの対策を関係者の連携の下に推進し、根源から環境負荷の低減を図る。このための枠組みとして、流域を単位として、水循環計画を作成。
  • 化学物質対策の推進
     化学物質による環境リスクを管理するための基本的な考え方を提示。
  • 生物多様性の保全のための取組
     生物多様性の保全とその持続可能な利用を図ることを自然環境保全施策の中心的課題に位置づけ。そのための基本となる考え方と施策の方向性を提示。
  • 政策手段
  • 環境教育・環境学習の推進
     環境教育・環境学習を環境政策全体に係る主要な政策手段として位置づけ。各政策分野において政策立案から実施の段階に至るあらゆる段階で活用。
  • 社会経済の環境配慮のための仕組みの構築に向けた取組
     規制的手法や税等の経済的手法、自主的取組などを用いる際の考え方を整理。それらの最適な組み合わせ(政策のベスト・ミックスによる政策パッケージ)の形成を推進。
  • 環境投資の推進
     あらゆる投資への環境配慮の織り込み。環境上の「負の遺産」の解消や省エネルギー、省資源を含む環境分野の投資を社会資本投資の重点分野として位置づけ。ITの活用と森林の保全を特に重視する。
  • あらゆる段階の取組
  • 地域づくりにおける取組の推進
     持続可能な社会への転換を地域レベルから進めるため、循環と共生の考え方を地域づくりに織り込む。このため、関係主体の共通の視点となる考え方や取組の基本的方向性、推進の仕組みなどを提示。
  • 国際的寄与・参加の推進
      国際社会における環境面の取組にイニシアティブを発揮。特に、アジア太平洋地域を重視。このため、国際協力における知的貢献とそのための戦略と基盤づくりの強化等を推進。

環境保全施策の体系

 各省庁で実施し、または実施を予定している環境基本計画の推進に係る主要な具体的施策を、環境問題の各分野、各種政策の基盤、各主体の自主的積極的取組、国際的取組について、網羅的に記述。

(環境保全施策の体系)
  • 環境問題の各分野に係る施策
    ・地球規模の大気環境の保全
    →地球温暖化対策に関し、国、地方公共団体、事業者、国民が実施すべき対策を地球温暖化対策推進大綱等を踏まえ、網羅的に記述。また、オゾン層保護対策の推進について記述。
    ・大気環境の保全(地球規模を除く)
    →酸性雨対策、光化学オキシダント対策、窒素酸化物対策、浮遊粒子状物質対策及びディーゼル排気粒子対策、スパイクタイヤ粉じん対策、騒音・振動対策、悪臭対策、観測・監視体制の整備などを網羅的に記述。
    ・水環境、土壌環境、地盤環境対策
    →流域の視点から見た水環境の保全対策、水利用の各段階における負荷の低減対策、閉鎖性水域などにおける水環境の保全対策、海洋環境の保全対策、水環境の監視等の体制整備について記述。また、土壌環境の安全性の確保のための対策、地盤環境の保全のための対策について記述。
    ・廃棄物・リサイクル対策など物質循環に係る施策
    →廃棄物の発生抑制対策、資源の適正な循環的利用の推進、廃棄物の適正な処理の推進などについて記述。
    ・化学物質対策
    →科学的知見の充実及び環境リスクの評価の推進、環境リスクの低減及び情報の交換の推進などについて記述。
    ・自然環境の保全と自然とのふれあいの推進
    →原生的な自然及びすぐれた自然の保全、二次的自然環境の維持・形成、湿地の保全、自然の減少が顕著な地域における自然的環境の回復、野生生物の保護管理、自然とのふれあいの推進などについて記述。
  • 各種施策の基盤となる施策
    ・ 環境影響評価や調査研究、観測・監視等の充実、適正な技術の振興、国における調査研究基盤の整備などについて記述。また、環境情報の整備と提供、公害防止計画の推進、環境保健対策、公害紛争処理、環境犯罪対策について記述。さらに、快適な環境の確保などについて記述。
  • 各主体の自主的積極的取組に対する支援施策
    ・ 各主体(国民、民間団体、事業者、地方公共団体、国)の取組について整理して記述。また、各主体の取組の促進に係る施策として、環境教育・環境学習の推進、環境管理システム等環境保全の具体的行動の促進、情報の提供などについて記述。さらに、主要な経済社会分野における各主体の役割について、資源採取、生産、販売、消費及び廃棄、エネルギーの供給と消費、運輸・交通などの各分野毎に整理して記述。行政活動への環境配慮の織り込みについても記述。
  • 国際的取組に係る施策
    ・ 地球環境保全に関する国際協力の推進、国際的な調査研究、監視・観測等に係る連携の確保、地方公共団体又は民間団体などによる国際協力活動の推進、国際協力の実施にあたっての環境配慮、国際協力の円滑な実施のための国内基盤の整備、国際的な枠組みの下での取組と新たな国際的な枠組みづくりへの貢献などについて記述。

第4部 計画の効果的実施


 環境基本計画を踏まえた環境配慮方針を各府省毎に策定することや、政府への環境管理システムの導入の検討、政府レベルの計画の実施状況の点検及び点検の事後の対応の強化などを記述。

(環境政策推進の方向)
  • 計画の推進体制の強化
    ・政府への環境管理システムの導入の検討
    ・各府省における環境配慮方針の策定
  • 計画の進捗状況の点検
    ・各府省による自主的な点検の実施
    ・これを踏まえた中央環境審議会の点検、政府への報告
    ・政府からの点検結果の国会への報告(環境白書)、予算編成への反映(環境保全に関する経費の見積もり方針段階における調整への活用)