※この記事は、2024年12月7日に開催された第12回グッドライフアワード表彰式における環境大臣賞受賞プレゼンテーションに基づいて作成されています。
日本の森林は飽和状態になっている
四国の右下木の会社の吉田と申します。私は、10年ぐらい、過疎地を中心に、全国の地域活性化の支援をしてきました。そこで、たどり着いた結論があります。
森で食えなくなったことが、日本の過疎を進めた。
「これをなんとかしたい」という想いで、事業に取り組んでいます。
私たちの事業の拠点は、徳島県美波町です。社名の通り、四国の右下からやって参りました。非常に緑が多く、海と山が迫った地域です。
ここで、森について知っていただきたいと思います。日本の森の面積は、ほとんど変わっていません。ところが、日本の森の木の総量が、どんどん増えています。今や、森林飽和状態とも言える日本です。
これは、江戸時代、明治時代、大正時代、昭和時代の日本の山です。木がほとんどありません。なぜでしょうか。それは、日本が森林エネルギーに頼ってきた国だからです。生まれた時の生湯、亡くなった時の火葬、3度の飯、お風呂など、日本人の生活には森林から得られる燃料が必要でした。
ところが、もう木を使わなくなりました。燃料として、森林を必要としなくなったのが、今の日本です。
日本の森は、杉・檜の人工林と、広葉樹を中心とした天然林に大別されます。今、森の問題に対する様々な取組がありますが、ほとんどは人工林が対象です。一方、天然林は、放置状態が進んでいます。なぜならば、炭や薪を使わない時代だからです。
では、今、日本の森は、健康なのでしょうか。広葉樹であれば、元気なのでしょうか。 これは、広葉樹の森です。木が多すぎて、真っ暗です。循環が停滞していますし、決して生物多様でもありません。
それから、今、深刻な問題として「ナラ枯れ」というものがあります。この木の中央部分は、ナラ枯れの病気で、もうほぼ死んでいる状態です。これは、木の育ちすぎが一因となった病気です。
そして、山の値打ちがなくなった結果、山主さんも山に興味を失って、非常に乱暴な林業が増えてしまっています。時には、盗伐というようなことも起こっています。「ここをなんとかしたい」というのが、私どもの会社の取組です。
樵木林業で“食える”里山産業を創出する
冒頭の話に戻りますが、とにかく「森で食える」を取り戻す必要があります。里山の経済価値の再興が必要です。そこで、私どもが着目したのが、地域伝統の林業と備長炭です
里山、里山経済、それから里山を支える地域は、非常に密接な関係にありますので、里山を取り巻く問題は同時に解かないと解けない問題だと考えています
私どもの取組を取材いただいた動画がありますので、ご覧ください。
私たちが木を伐採している場所は、太平洋が目の前にあります。本当に里山と里海がつながった場所です。
伐採を始める前に、ご覧の通り、まずは道づくりが必要です。
樵木(こりき)林業という技法で、木を伐採します。幹が成長しきらないうちに伐採し、炭に使いやすいサイズを確保するのが特徴です。
ここから、伐採した木を運びます。
そして、炭を焼きます。この備長炭を焼くという技術は、非常に職人性が強いので、私たちは新しいアプローチを採用しています。炭づくりの再現性を高めるために、備長炭の窯は、一般の材で設計・建築できるように取り組んでいます。
職人の勘と経験頼りから脱却するために、IoTを使ったスマート化にも取り組んでいます。これによって、窯に寝泊まりするというような厳しい働き方からも解放されます。労働基準法にも準拠した持続可能な働き方を実現しています。
これは、炭窯の様子です。
今、備長炭の生産量は、最盛期の3分の1まで落ち込んでいますので、市場では備長炭不足になっています。国内外の高級店では、備長炭の奪い合い状態です。 私どもの備長炭は、1箱12キロで2万2000円です。決して安くはありませんが、ミシュランに選ばれるような高級店からご購入いただいております。 また、今年はジェトロさんと一緒に、海外輸出にもチャレンジしています。
新・燃料革命で全国の里山を復活させる
私たちの地域活動は、“地域の食を地域の炎で”という「地炎地食」です。地元の農産品を炎、炭、薪で食べます。
里山の大切さを学べる教育活動にも協力しています。
また、里海回復に向けて、私どもの資材を提供しています。
私たちの目標は、日本の里山の復活です。これまで培ってきた「備長炭で食える里山林業」を全国に広げていきます。現在、神戸市では、私どものノウハウが活用されるということで話が進んでいます。
私たちの社会は、燃料革命で便利さを手に入れましたが、その結果、里山が荒廃してしまいました。四国右下木の会社は、「全国で備長炭を作ることができる」という技術を広げることによって「新・燃料革命」を起こし、もう一度、里山を、里山経済を、そして地方を、回復させたいと思っています。
環境大臣政務官を務める五十嵐清氏から表彰される吉田基晴氏(株式会社四国の右下木の会社 代表取締役)