平成18年度事後評価結果詳細

①オゾン層の破壊、地球の温暖化

 

研究課題名: B-1
大気中の水・エネルギー循環の変化予測を目的とした気候モデルの精度向上に関する研究(H15-17)
研究代表者氏名:神沢 博(名古屋大学)

1.研究概要

主にエアロゾル、オゾンおよび雲・降水過程に着目し、全球気候モデルを用いた地球温暖化予測に伴う不確実性の幅を明らかにすることを目的とする。開発済みのエアロゾル・オゾン等の反応・輸送モデルを基礎とし、同モデルに存在する不確実性を明らかにすると共に、その幅を狭めるためのモデルの改良、高度化を行う。従来から行ってきた、現在気候の再現性の検討だけでなく、モデルにより表現される気候変動・気候変化の妥当性についても議論するため、雲・降水-エアロゾル相互作用を考慮した全球気候モデルを開発する。モデルの検証には衛星観測、客観解析などによるエアロゾル分布の長期解析や降水要因別の寄与率の解析などを用いる。また、気候変化に伴う降水量変化のメカニズム解析には、単純化した水惑星モデルなどを援用し、気候モデルによる降水量変化について理論的に考察する。
 サブテーマの構成は次の2つである。

(1)対流圏エアロゾルおよびオゾン過程モデルの高度化に関する研究
(2)気候変化に伴う大気中の水循環過程の解析

2.研究の達成状況

 2つのサブテーマは、全球気候モデルにおいて不確定性の高いプロセスの内、エアロゾル循環、水循環の2つの過程に焦点をあてたもので、2つの過程はエアロゾルの間接過程をとおして結びついている。
 本研究は2つのサブテーマの実施により成果を挙げている。
 サブテーマ(1):主にエアロゾル・オゾンの過程に着目し、全球気候モデルを用いた予測に伴う不確定性の幅を検討した。
 サブテーマ(2):気候モデルにおける水循環過程の再現性と不確定性を検証するために衛星データとの比較を行った。
 本研究は、各サブテーマでまとまっており、多くの最先端の成果を上げたと言えよう。一方で全球気候モデルの不確定さを狭める問題を考えるとき、最大の不確定さは雲の扱いであり、本研究の成果から雲の取り扱いについての知見が多く得られたといいがたく、依然として気候モデル全体の不確定さの幅は狭まったことに成らないという考えもある。対象が高度に困難な問題であるので致し方ないと言えばそれまでであるが、本研究の当初計画で「水蒸気、雲過程などによってもたらされる気候変化・気候変動の不確定性を明らかにするとともにその幅も狭める」旨記載されていることからすると、プロジェクトとしての本研究の目的は達成されたとは言い難いのではないか。

3.委員の指摘および提言概要

本研究への委員の評価は分かれた。肯定的評価意見は次のとおり
地球温暖化予測研究において排出シナリオに応じ変化する人為起源エアロゾルや対流圏オゾンがもたらす気候変化への効果と、気候変化が起こす大気中水循環過程の変化について、それぞれの個別の対象の考察をするとともに、雲をめぐるエアロゾル間接効果という従来非常に不確定性の大きな過程を通して両者を結んで考察するという、最先端の困難な本格的研究に取り組み、学術的にも、政策的にも、大きな成果を得た。また、全球化学気候モデル、エアロゾル気候モデル、エアロゾル輸送モデルを用い、衛星観測データでの検証を通して、再現実験の中からエアロゾル間接効果などに関する重要な知見を得て気候変化予測モデル改善に貢献した。
さらに、水循環過程に関しては、衛星の大気水蒸気データ解析では、西半球における熱帯季節内振動(MJO)の伝播特性や、MJOと西風バーストによるエルニーニョ発生との関連などを明らかにするとともに、大気大循環モデルでは、積雲対流パラメータリゼーションの扱いを通して積雲対流と赤道波の構成モードとの関連についての新たな知見を得るなど、雲降水過程の適切な表現の重要性を明確にしている。これらの本課題の成果は、IPCC第4次評価報告書に大きく寄与する可能性が極めて高い。

一方で次のような批判的意見があった。
この研究は前駆研究「気候変動の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の過程のモデル化に関する研究」を発展させるべく実施されたもので、全体としてはかなりの時間と経費が投入されている。研究の問題意識は正しく、世界の共有するところとなっているが、得られた成果は乏しいといわなければならない。その背景に問題そのものが極めて難度が高いものであるという事情があることはいうまでもない。この研究の場合に限らず、わが国には第一級の問題に解決を謳い、実際には関連した部分的な研究をそれぞれの研究者の個人的な問題意識で研究してそれを取りまとめるだけという研究が横行しているように思われる。評価のあり方を考えていく必要がある。
さらに、手法的な問題点として、モデルに観測値を取り入れる際にナッジングが多用されていることに課題が残ると言う意見があった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  

研究課題名: B-9
太平洋域の人為起源二酸化炭素の海洋吸収量解明に関する研究(H13-17)
研究代表者氏名:野尻幸宏 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

海洋は、人為起源二酸化炭素の吸収源として年間約2Gtの炭素を吸収していると推定されており、炭素循環の将来予測モデルによれば、2000年代中盤まで二酸化炭素吸収量の増加が見込まれている。しかし、現時点の予測精度は十分なものではなく、現代の炭素循環の正確な解明を出発点として将来予測を再検討すべきとの考えから、炭素循環観測研究が世界各国で重点的に進められようとしている。具体的には、将来予測モデルの基礎となる現状説明型炭素循環モデルへの寄与として、その精度向上に必須となる海洋・大気観測から得られる観測量、特に海洋の二酸化炭素吸収量とその年々変動を明らかにすることが求められており、このためのグローバルデータセットの確立と解析、および分析方法の標準化などが国際的に緊急の課題となっている。 そこで本研究では、わが国で行われてきた太平洋域の二酸化炭素に関わる各種海洋観測データを用いて統合的な解析を行い、特に北太平洋の二酸化炭素吸収量を解明し、地球規模の炭素循環の解明に貢献することを目的とする。サブテーマはつぎの5つである。

(1) 太平洋の海洋表層二酸化炭素データ解析による二酸化炭素吸収放出の解明に関する研究
(2) 太平洋の海洋中深層データ解析による長期的二酸化炭素吸収量の解明に関する研究
(3) 海洋生物データのデータ統合化技術と炭素循環解明への活用に関する研究
(4) 海洋二酸化炭素データ統合に関する分析標準化に関する研究
(5) 海洋表層二酸化炭素観測統合データの利用による太平洋・大西洋の比較解析(平成14-16年度のEFF)

2.研究の達成状況

本研究では、これまでにとられた多くの観測データ(貨物船による長期の表層の二酸化炭素、中深層の二酸化炭素やフロンのデータ、および栄養塩類とクロロフィルなどの生物化学データ)を解析し、おもに北太平洋域での表層と中深層での長期的な二酸化炭素吸収量を解明した。また、北大西洋と北太平洋で同一測定手法による表層の二酸化炭素分圧測定を実施し、両地域の違いを解析した。さらに、世界で別々に行われている二酸化炭素分析の標準化に向けて、相互比較を行いその後のワークショップでそれらの違いの原因と今後の共通化に向けて提言した。これらの成果から、当初の研究目標がほぼ達成された。しかし、サブテーマ(1)と(4)では、延長した後期2年間に解析の遅れが見られ、前期に比べて必ずしも十分な成果は得られなかった。

3 .委員の指摘および提言概要

貨物船や調査船を用いた海洋表層の定期観測などの二酸化炭素フラックスや海洋生物データを用いて、北部太平洋における二酸化炭素吸収量の長期変動およびその制御要因を明らかにし、また、中深層における人為源二酸化炭素蓄積量を評価したこと、さらに北太平洋と北大西洋での二酸化炭素吸収量を比較検討したことなどは、全球的人為源二酸化炭素吸収量評価に貢献する重要な研究成果である。さらに、分析方法の標準化やデータの品質管理、およびグローバルデータベースの作成など、国際的な連携を保ちながら、研究が行われたことなども重要な成果である。なお、本研究のタイトルは「太平洋域」だが、解析は北太平洋域が中心であり、南太平洋域における二酸化炭素蓄積量評価に関しては、海域、データソース、方法等に関して具体的に記述する必要があり、また解析が不十分だった。さらに、整理された各種データベースは、本研究終了後の1-2年後までに、できるだけはやく、公開することが望まれる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
 

研究課題名: B-14
動物プランクトン群集組成の長期変動データに基づく海洋生態系の気候変動応答過程の解明(H15-17)
研究代表者氏名:杉崎宏哉 (水産総合センター東北区水産研究所)

1.研究概要

生態系の長期変動に関するきわめて希少なモニタリング情報である、西部北太平洋域で50年以上にわたって収集された大量の動物プランクトン標本(通称:小達コレクション)の種組成を検証することにより、数十年規模の海洋生態系変動を把握し、海洋物理や基礎生産変動を関連づけて解析して、変動のメカニズムを解明することを目的とする。さらに海洋プランクトンの炭酸ガス固定により生産された有機物や炭酸塩が深層に沈降することによる、大気中の温室効果ガス濃度抑制機能など、生態系の機能変化が地球環境へフィードバックする過程を明らかにすることを目的とする。サブテーマはつぎの4つである。

(1) 小達コレクションのデータベース化
(2) 北西太平洋における気候/海洋環境変動の研究
(3) 海洋物理構造変化が低次生物生産に影響を及ぼす機構の解明
(4) 動物プランクトン群集構造変動の実態解明と生物ポンプ機能の変化の評価

2.研究の達成状況

(1) 小達コレクションの動物プランクトン標本を用いてカイアシ類の種組成解析を終了し、データベースを完成させた。
(2) それらのデータ解析により、生物生産量の長期変動が潮汐18.6年振動に伴っていることを明らかにした。
(3) 動物プランクトンの季節的鉛直移動により表層から中深層への年間炭素輸送量を推定した。
(4) 海洋生態系内で生物生産と分布様式に基づく生物プランクトンによる炭素輸送過程が、海洋や気象の物理変動の影響を受けて変動していることが実証された。
 なお、サブテーマ間の連携は、データや解析結果の受け渡しなどを通して順調に行われ、全体として当初の目標はほぼ達成された。

3.委員の指摘および提言概要

過去40年間に採取された動物プランクトン試料の解析データを中心にして、生物と物理モデルのチームが相互に連携して、動物プランクトン群集の変動が海洋生態系変動を調べる上で有用であること(特に生物生産量の長期変動が潮汐18.6年振動に伴っていること)、カイアシ類動物プランクトンの鉛直移動から、表層から1000m以深の中深層へプランクトンに固定された大気中の二酸化炭素輸送量を新しく推定したことなどの新しい成果は評価できる。これらを通して、気候変動と海洋の生物生産および二酸化炭素の下方輸送を総合的に結びつけた研究として、その新規性は高く評価できる。
 なお、栄養塩濃度変動や生物生産量変動などの解析結果でサブテーマ間に見られる非整合性を再検討すること、また、動物プランクトン現存量そのものにケタ数を超えた大きな変動があるのでCO2貯留量に関して統計処理による信頼度検定が、必要である。本研究でまとめられた小達コレクションのデータベースを、研究終了後1-2年後以内にできるだけはやく公開することが望まれる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: B-58
家庭用エネルギー消費削減技術の開発および普及促進に関する研究(H15-17)
研究代表者氏名:澤地 孝男 (国土交通省国土技術政策総合研究所)

1.研究概要

京都議定書の目標の実現には、ライフスタイルの変革、生活者の協力による民生部門の二酸化炭素排出量の削減対策が不可欠であり、特にわが国の4分の1を占める建物でのエネルギー消費起因の二酸化炭素排出量は、家庭における暖冷房・給湯や様々な設備機器の使用による部分が大きく、家庭用エネルギーの消費削減は緊急の課題となっている。そのため、生活者に対して、家庭におけるどのような行動について、どのように工夫をしたら効果的であるかに関して、具体的、定量的で信頼性の高い情報提供を行うべきであり、そのための科学的な知見を整備することが必要不可欠である。本研究は、ほぼ同一条件の一対の実験住宅において、冷暖房換気、給湯、調理等の家庭内エネルギー消費形態を機械的(ロボット的)に再現する実験的手法を確立し、建物・設備・機器の特性、気象条件、生活様式等が住宅のエネルギー消費構造に与える影響・効果を実証的に計測することにより、二酸化炭素排出量へのライフスタイルの係わりを系統的、定量的に明らかにすることを目的とする。また、研究成果の普及の一環として生活者向けのガイドブックを作成する。
サブテーマはつぎの3つである。

(1) 人間のエネルギー消費行動に関する実証実験
(2) 主要住宅設備及び機器類の特性に関する実験
(3) 家庭におけるエネルギー消費に及ぼすライフスタイルの影響に関する情報発信ツールの開発

2.研究の達成状況

(1) エネルギー消費行動の理論的モデル作成とロボットの製作を行い、それらを用いてエネルギー消費量削減効果の検証を行った。
(2) ルームエアコンと冷蔵庫を対象として、それらの電力消費と動作特性を明らかにし、その他の主なエネルギー消費機器に関してアンケート調査や実験を行った。
(3) 家庭内のエネルギー消費を生活状況によって試算できるソフト開発を実施した。
個々のサブテーマは概ね当初の目標を達成したが、それらまとめた総合的な考察と提言が欠けていた。

3.委員の指摘および提言概要

膨大な統計情報の収集・分析による家庭内生活者のエネルギー消費に関するモデル化およびそのロボット化と、それらを用いてライフスタイルを構成する日常生活の細部にわたる実証的検討は、今後の家庭内エネルギー消費削減策を検討するのに役立つ有力な成果になるものと、評価できる。しかし、個々の検討は従来の研究の踏襲の部分が多く、地球環境研究の総合推進という統合的なフレームからの検討が乏しかった。また、あらたなモデル化・ロボット化と実証実験結果を総合的にまとめて検討し、具体的な実効ある削減策を提案するなどの考察部分が欠けており、政策との関連が不十分であった。
 なお、研究計画に記載されている、「研究成果の普及の一環として生活者向けのガイドブック作成」に関して、早急に行われることが望まれる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: B-62
2013年以降の地球温暖化対策促進に向けた国際合意のための方法に関する研究(H15-17)
研究代表者氏名:亀山康子(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、京都議定書が排出抑制義務を明示している2008-2012年以後の将来の気候変動関連の国際制度のあり方について、特に政策的観点から分析を行い、いくつかのオプションの形で提案を行うことを目的とする。 サブテーマ構成はつぎの通り。

(1)地球温暖化対策の促進を目的とした国際制度に関する研究
(2)2013年以降の地球温暖化対策に対する国の意思決定に関する研究
(3)農村地域における炭素収支の定量的評価と費用対効果に関する研究

2.研究の達成状況

本研究は、当初目的を達成したと言える。
サブテーマ(1)では、京都議定書を含めた将来枠組みの提案、排出量取引制度等の枠組みを構成する主要制度の今後のあり方、取り組みの基盤となる諸原則の考え方、他の多国間許定との関連性、森林の扱いなどの方法論的問題等、幅広い観点から制度全般に関する分析を行った。
サブテーマ(2)では、地球温暖化対策に対する主要先進国および途上国の国内意志決定について、その過程や手続き、要因を分析することにより、気候政策に関する国際協調への参加のインセンティブとそれを阻害する要因を同定し、主要国に受け入れられる国際枠組みを提示するための検討を行った。
サブテーマ(3)では、いくつかのシナリオについて途上国の畜産業に適用したときの効果を分析した結果、畜産業に伴って発生するメタン量の抑制をCDMや政策・措置の対処として取り扱うことが、ある一定条件を満たす途上国については参加インセンティブとして働くが、国によっては、参加インセンティブとは成りにくいことを明らかにした。結果的に農業分野のガスを政策的の取り込むことで米国や途上国の参加インセンティブとなる可能性があることを示した。しかし、本分野を取り込むには今後のデータの整備に待つところが大きいことも明らかになった。
なお、この課題の研究成果は、誌上発表に加えて、国内外のシンポジウム、ワークショップを自ら多数開催する中で発表している。

3.委員の指摘および提言概要

サブテーマ(1)について:次の指摘があった。
・国際制度の研究として、とりわけ既存の情報の整理を試みた研究としての完成度には高いものがある。このうちの将来の枠組みに関する提案部分は、動向を踏まえた現実的な提案が含まれており、これをどのように展開すべきか、国内での取組みを含めた合意形成のあり方を含んだ研究の発展展開が期待される。
・本研究は、各国の複雑な利害関係を克服して、共通の土俵として、炭素クレジット銀行制度、トラックアプローチ、技術+補償基金の3つのシナリオを提案している。2013年以降の国際的な枠組みづくり進めるための具体的なたたき台を示した点で、評価できると思う。
・EUの自主協定の有効性についても調査し、排出量取引と合わせて評価してほしい。
サブテーマ(2)について:次の指摘があった。
・観念的な論議に流れることなく、事実を踏まえた情報の整理として、政策形成の現場にも有用な成果が示されている。今後の枠組みづくりに向けたリーダーシップのあり方は、これを活かすことができる次の受け皿がこの国には不十分であることが惜しまれる。
サブテーマ(3)について:次のように評価が分かれた。
・B-62との研究とのつながりがいま一つ不明確であるものの、個別テーマの研究としての高い水準に達しているものと評価されるとともに、途上国の温暖化対策への現実的な参与の技術的可能性を示唆するものとして、発展させ、活用される必要がある研究成果とであるといえる。
・このサブテーマの内容はCDMのケーススタディになっていて、本研究のテーマからはずれているように思える。むしろ、現在実施されている、あるいは計画中のCDM案件を調査し制度上の問題点や今後のあり方をまとめて欲しい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
②酸性雨越境大気汚染、海洋汚染(地球規模の化学物質汚染を含む)

研究課題名: C-5
中国北東地域で発生する黄砂の三次元的輸送機構と環境負荷に関する研究
研究代表者氏名:西川雅高(国立環境研究所)

1.研究概要

 中国大陸の砂漠・乾燥地帯や黄土高原から発生する黄砂現象は、中国国内で砂塵暴という言葉で表されるほど自然環境、農業、交通に重大な影響を与え、健康被害も懸念されている。近年その発生回数が増えてきたことが問題となり、黄砂の発生機構解明と防止に関する中国国家的重点プロジェクトが開始され、日本の協力が期待された。本研究はこのような状況を踏まえて、中国との共同研究により、レーザーレーダーを中心とする黄砂モニタリングネットワークを整備し、中国内陸部での黄砂発生状況、北京への輸送経路、大気中での動態的変化などを観測するとともに、現象を理論的にシミュレートするための数値モデルを開発して、それを多点観測データに基づいて検証することにより、予測精度の向上など黄砂対策に資する基本データを提供するほか、科学技術分野からの日中相互交流や技術移転にも貢献することを目指すものである。

・サブテーマ構成
(1) 黄砂の三次元的動態把握に関する研究
(2) 黄砂の輸送過程中での化学的動態変化に関する研究(H13~15)
(3) 黄砂の三次元的輸送モデルの構築と負荷量推定に関する研究(H13~15)
(3') 黄砂モデリングシステムの開発と応用に関する研究(H16~17)
(4) ライダーおよび光学的計測手法による黄砂の輸送の研究(H13~15)

2.研究の達成状況

サブテーマ (1)
・中国3局、韓国2局、日本8局からなるライダー観測網を構成し、北京経由で日本に飛来する黄砂粒子の鉛直分布を5年間にわたり継続観測した。その結果、黄砂発生の頻度や量に関係する要因の1つは内モンゴルにおける降水量であるなどの知見を得た。主な事例について化学輸送モデル(CFORS)との比較に基づいて、発生源・輸送経路などに関する解析を行い、ライダーネットワークデータがモデルの検証・改良に有効であることを示した。
サブテーマ (2)
・北京を要とする扇状の観測網を構築して、粉塵濃度計による常時監視や化学分析のための試料採取を行った。土壌系粒子の骨格をなす成分である Al を基準とする組成比により、黄砂本来の成分と輸送中に付加された成分とを分離定量し、風送過程で SO4 や NO3 が粒子表面に取り込まれると推定されるデータを得た。
・黄砂粒子への SO2 の取り込みと酸化に関する室内実験を行い、水分は取り込みを促進、HNO3 は抑制すること、また酸化に関してはすべての共存成分が促進に寄与することを明らかにした。
・Sr 同位体比により黄砂の発生源を特定する方法を開発し、北京に飛来する黄砂は北京周辺あるいは中国北部土壌起源であって、黄土高原やタクラマカン地域とは明らかに異なることなどを明らかにした。
サブテーマ (3)
・特性の異なる2つの黄砂数値モデルを開発した;それらは、国立環境研究所で開発した領域気象モデルと大気質モデルをオフライン型で結びつけたモデル(N モデル)および、九州大学で開発した領域気象モデルのオンライントレーサー機能を用いた黄砂モデル(R モデル)である。
・N モデルは、黄砂を発生地域によって複数の別変数として計算できる。この機能を用いて、北京における黄砂地上濃度に対して、モンゴル、中国西部3地域、中国東部、それ以外、の6地域の寄与を計算した。その結果、5割強がモンゴル、約 1/3 が中国東部、残りがタクラマカン砂漠を含む中国西部を起源としていることが判った。
・R モデルを用いた解析では、1972~2004 年の 33 年間の春季を対象に黄砂の発生・輸送シミュレーションを行い、中国・韓国・日本における長期的な砂塵あらしや黄砂観測データに基づいてモデル結果を検証したところ、黄砂の長期的変動が概ね再現されることが確認された。また、さまざまな気候インデックスとゴビ砂漠域のダスト発生量の相関を調べた。
サブテーマ (4)
・ライダーで得られる消散係数と地上のサンプラーによるエアロゾル質量濃度とを比較して、前者から後者を求めるための換算係数を決定し、一方、ライダーで測定される偏光解消度から全エアロゾル濃度に占める黄砂の割合を求めた。これらの手法を用いて北京における黄砂濃度鉛直分布の時系列変化を求め、北京で観測される黄砂を4つのタイプに分類した。
・ライダーデータから、黄砂および大気汚染エアロゾル濃度の時系列変化を独立に求め、両者の相関から、多くのケースで黄砂時に大気汚染エアロゾルが減少するが、双方が同時に高濃度となる場合もあることを明らかにした。
 以上各サブテーマの結果から、北京における黄砂現象の近年の状況を整理し、発生源と輸送経路、気象条件の影響、輸送途上での変質過程などに関する総合的理解を深めることが出来た。

3.委員の指摘および提言概要

・中国との共同研究を長期間円滑に実施して、ライダーを用いた黄砂の定量的評価手法を確立するとともに、年々変動を含む黄砂の実態把握を行い、さらに数値モデルも開発して黄砂の輸送過程について、地球環境保全政策的な面でも有用な知見を得た業績は世界レベルのものであり高く評価される。
・化学的動態変化やモデリングの点では、研究はまだ初期的な段階にあるのでさらに継続して進展させることが望ましい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ3':  
  サブテーマ4:  
 

研究課題名: C-7
東アジアにおける酸性・酸化性物質の植生影響評価とクリティカルレベル構築に関する研究
研究代表者氏名:河野吉久(電力中央研究所)

1.研究概要

 本研究では、日本をはじめとする東アジアの植生に対する大気汚染の影響の防止・軽減に資することを目指して、汚染物の濃度・接触時間と植物の反応との関係を明らかにすることにより、植物の種の感受性を考慮した酸性・酸化性物質のクリティカルレベルの暫定値を構築・提案する。これは植生面から大気汚染物質の排出削減の必要性を判断する基礎情報となることが期待される。また東アジアで大気汚染物モニタリング技術が遅れている地域が多いことを考慮し、指標植物を用いて大気質を簡易に評価する手法を開発し、普及のための諸条件を検討する。さらに、東アジアを対象として、汚染物濃度、沈着量およびクリティカルレベルの広域マッピングを行うことにより、大気質と影響との関連性を定量的・視覚的に表現して、植生影響への効果的な対策に貢献することを図る。
・サブテーマ構成
(1) 酸性・酸化性物質に対する植物の感受性評価に関する研究
(2) 簡易な植生影響評価手法の構築に関する研究
(3) クリティカルレベルの暫定値算出とマッピング化に関する研究

2.研究の達成状況

サブテーマ (1)
・30樹種を対象としてオープントップチャンバー(OTC)を用いた SO2 および O3 の暴露実験を行い影響発現レベルを求めた。その結果、わが国に生育する感受性の高い樹木を対象とした SO2 あるいは O3 の影響発現レベルは1成長期(4月~11月)でそれぞれ平均 5~13 ppb あるいは AOT40 として11~20 ppmh であると考えられた。
・わが国の代表的 6樹種(コナラ、ブナ、 スダジイ、カラマツ、アカマツ、スギ)を対象として OTC を用いSO2 および O3 それぞれ4段階濃度で連続処理実験を行った。その結果、スギ以外の 5 樹種では20~40 ppb の SO2 により葉の可視障害、落葉促進や生長抑制が現れること、外気の 1.5~2 倍のO3 濃度で 6 樹種いずれについても葉の可視障害や落葉促進が生ずることがわかった。
・土壌への窒素負荷(硝酸アンモニウム溶液添加)による複合影響実験では、カラマツで SO2 あるいは O3 の影響が緩和され、ブナでは O3 の影響が増大する傾向が認められた。
・上記 6樹種に対する O3 または SO2 暴露と土壌への窒素負荷の単独および複合影響の実験結果に基づいて、わが国の代表的森林構成樹種の個体乾物成長に関する感受性の樹種間差異に対する指標として葉の純光合成速度と葉量が適当であるとの結論を得た。
サブテーマ (2)
・東アジアの開発途上国などで、測定機器がなくてもSO2 や O3 による大気汚染の評価が可能となるように、適当な指標植物を選抜するための暴露実験を行った。東アジアで栽培可能であり、短期間にある程度の成長量が得られ、栽培管理が容易な 29 品種について実験を行い、SO2 に対してはタアサイ、O3 に対しては レッドチャイムが指標植物として適当であるとの結論を得た。またこれら指標植物の、浄化区および非浄化区における乾物重量の比などから一日あたりの平均蓄積オゾン濃度を推定する実験式を得た。
サブテーマ (3)
・大気質モデル CMAQ により東アジアの SO2 濃度、わが国の O3 濃度と AOT40、 および窒素沈着量の分布をそれぞれ計算した。SO2 濃度計算値を EANET 測定局における観測値と比較した結果、低濃度域においては観測値がよく再現されたが、高濃度域に対する予測精度は高くなかった。一方、わが国を対象とする O3 濃度、AOT40 および窒素沈着量についてはいずれも観測値によく整合する計算結果が得られた。
・環境省の大気環境長期モニタリング結果、林野庁の森林衰退モニタリング結果などの資料を収集・整理し、定量的・視覚的に評価できる GIS データベースを構築した。その結果、光化学オキシダントの AOT40 は、1980 年代初頭 4 ppmh であったものが次第に上昇し、2003 年には約3倍に達していることが明らかとなった。
・サブテーマ (1) の暴露実験結果等を踏まえて、O3 のAOT40 に対するクリティカルレベル暫定値として 20 ppmh を設定し、アカマツなどについて、クリティカルレベル超過域のマッピングを作成した。これにより、超過域が経年的に拡大する傾向が明らかになった。
・複雑地形上における酸化性物質の乾性沈着量評価に適したモデルを新たに構築し、丹沢山地などを対象とした風況・オゾン輸送の数値解析を行った。その結果、風速の大きな地点は衰退地点とよく対応し、O3 濃度も上昇する傾向があることが判った。
・上記の結果を総合して、東アジア圏を対象とした SO2 のクリティカルレベルとして年平均濃度 20 ppb、O3 については4月~9月の6ヶ月間の AOT40 として 20 ppmh を提案した。

3.委員の指摘および提言概要

・研究の内容でいくつか疑問点が指摘される:
i) 苗木実験の結果は成木や森林にも適用できる、ということが研究の前提となっており、その妥当性に関する検討に進歩がない。
ii) 東アジアには黒ぼく土、褐色森林土以外にも多様な土壌が存在するが、それらについての検討が不足している。
iii) 東アジアの森林植生には常緑針葉樹林から熱帯多雨林まで大きな幅があるにもかかわらず、一つのクリティカルレベルで十分なのかどうかについて、妥当性あるいは今後の方向性を示す必要がある。
iv) 指標植物を用いる評価式が実際に「簡易に」利用できるものとはなっていない。
・また、O3 のクリティカルレベルを AOT40 で表すことが、東アジア全域に対して有効か否かに 関する検討も十分とはいえない。
・上記のような問題点はあるが、初めての試みとしてSO2 および O3 のクリティカルレベルに関する提案をしたことの意義は評価される。問題点についての検討を進めることにより、この研究の成果は今後の環境政策に有効に活用され得ると期待できる。
・成果の学会発表は多く、活発に研究が行われたことがうかがわれるが、現時点で出版すみの論文は2編なので今後さらに多くを発表していただきたい。また、成果を解りやすく概説したパンフレットなどの作成と配布を期待する。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: D-2
有害化学物質による地球規模海洋汚染の動態解明と予測に関する研究
研究代表者氏名:功刀正行(国立環境研究所)

1.研究概要

 農薬、残留性有機汚染物質、重金属など人為起源有害化学物質による海洋汚染は広域化し、海洋生態系ひいては地球環境そのものへの影響が懸念されている。こうした中、2001 年に残留性有機汚染物に関するストックホルム条約が成立し、対策とともにこれらの化学物質の地球規模での監視が重点施策として指摘された。このような状況に対応するために以下の内容により本研究を構成する:1) 商船を利用する極低濃度の海洋汚染物質観測システムを確立し、主として太平洋を対象海域とする調査により汚染の動態を把握する。2) 室内実験を含めた手法により化学物質の海洋中での変質過程を調べまた毒性を評価する。3) 海洋大循環と海洋生態系とを結合した数値モデルを開発し、汚染の発生と分布の関係をシミュレートする。これらの結果を総合して、有害化学物質による地球規模海洋汚染に対処する上で有効な知見の獲得を目指す。
・サブテーマ構成
(1) 有害化学物質による地球規模海洋汚染観測の最適化と動態解明に関する研究
(2) 有害化学物質の環境中での分解・変質と有害性評価に関する研究
(3) 有害化学物質の海洋における起源・輸送・拡散および予測に関する研究

2.研究の達成状況

サブテーマ (1)
・本来観測目的で運航されていない石炭運搬船、コンテナ船、客船などを利用するために、積み下ろしが簡単でかつ空きスペースに設置可能な小型の海水採取装置を開発した。
・上記のような篤志船舶利用により、当初主要対象海域と設定した太平洋の日米および日豪航路における試料採取を行い、さらに客船の不定期周航を利用して、南太平洋-南極海-大西洋側南米大陸沿岸、および地中海-東部大西洋沿岸-北極海-北部大西洋、の海域においても試料採取をすることが出来た。その結果、ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH) の濃度分布は3種の異性体によって異なり、また異なる海域でそれぞれ異なるパターンを持つことなどが判った。

サブテーマ (2)
・多環芳香族炭化水素水酸化体(OH-PAH)の極微量分析法を開発し、検出限界0.01 ng/L を達成した。その結果、サブテーマ (1) で採取した南極海の海水からも 0.07~0.45 ppt の水酸化体が検出された。また、この分析法を用いて、田子の浦、東京湾における OH-PAH 濃度を調べた。
・太陽光シミュレーターを用いて 10 種の PAH の光分解生成物(OH-PAH など)を同定し、また分解速度を測定した。さらに、光分解におよぼす共存物質や置換基の効果を明らかにした。
・酵母を用いる in vitro バイオアッセイにより、OH-PAH や PAH 光分解生成物のエストロジェン様活性を評価した。 ・駿河湾において実海水を採取して 25 種のPAH、OH-PAH を検出・定量した。これで得られた濃度と、上記バイオアッセイによる評価結果とに基づいて海水のエストロジェン様活性に対する種々の化学物質の寄与率を求めた。

サブテーマ (3)
・海洋における汚染化学物質の起源・挙動を予測することを目的として、海洋大循環と海洋生態系を結合し、さらにデトリタスによる吸脱着過程を取り込んだ輸送・拡散モデルを構築した。
・上記モデルを用い、東シナ海、南シナ海、セレベス海、北米大陸沿岸などに発生源を設定して太平洋における汚染物濃度分布を計算し、観測結果と比べることにより発生源からの寄与を推定した。

3.委員の指摘および提言概要

・篤志船舶を利用する超高感度観測態勢を確立し、報告書には現れないような多大の努力を払って当初の計画を越え、真に「地球規模」の名に値する広範な海域で試料採取を実行した業績は評価できる。
・しかし、得られた結果は濃度分布の段階にとどまっており、汚染物の放出からいかにして観測される分布にいたるのか、その動態に関する解析が十分でない点で所期の目標が達成されたとは言えない。
・総じて分析化学的技術開発というべき内容の割合が大きく、タイトルの「動態解明」とは整合しない。 技術開発は先行の課題「有害化学物質による地球規模の海洋汚染評価手法の構築に関する研究(平成12~14年度)」で終わっていたはずである。
・当初計画で「動態解明」の手段となるはずであったサブテーマ (3) のモデルは、構成や検証に不備な点が残されていて、シミュレーションモデルとして不十分な段階にとどまっている。また、欧米などで先行する研究の成果を解析し、それに対して特徴や新規性を主張する努力が十分になされていないのでこの研究の価値が不鮮明になっている。
・3つのサブテーマの間の連携が薄く、課題全体をまとめるストーリーが見えない。とくにサブテーマ (2) の位置づけが不明確である。最低限、研究領域を外洋に拡大することが必要である。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
③自然資源の劣化(熱帯林の減少、生物多様性の減少、砂漠化等)

研究課題名: F-1
野生生物の生息適地から見た生物多様性の評価手法に関する研究
研究代表者氏名:永田 尚志((独)国立環境研究所)

1.研究概要

 地球上の野生生物種の絶滅はかつてない速度で進行しており、少なく見積もっても、現存する種の25%が今後50年のうちに絶滅すると予想されている。世界の生物多様性を保全する目的で、1992年に生物多様性条約が採択され、1993年には日本も生物多様性条約に加盟した。この条約に基づき、わが国でも、生物多様性の保全と持続的可能な利用を目的とする「生物多様性国家戦略」が1995年に策定され、生物多様性を保全することが環境行政の重点施策として位置付けられている。
 生物多様性の減少に関して、その最も大きな原因は、自然環境の破壊による生息地の破壊であるが、環境改変に伴う生息場所の質の変化や生態系の変化を定量的に評価する手法はまだ確立されていない。
 本研究は、まず、動植物の分布情報、植生図、地形などから野生生物が生息できる要因を抽出し、野生生物の生息確率記述したモデルを用いて、生息適地を推定することを目的とした。次に、本モデルを用いて、環境改変が生息確率をどのように変化させるかを明らかにし、その影響を定量的に予測することを試みた。また、生態系を代表する野生生物種の分類群(ほ乳類、鳥類、両生類、昆虫等)ごとに、地理情報システムを用いて生息地の好適性を表す生息確率関数式を作成し、生息場所の重要性を評価し、生息適地の評価関数を開発する。さらに、欧米の生態系評価制度の比較研究を行い、生物多様性の保全に関する最適な精度を提案することを目的とした。また、米国のハビタット評価手続きや欧州の生態系評価手法について調査し、日本を含む東アジア諸国における定量的生態系評価手法の確立に資する事を目的とした。
 サブテーマは次の3つである。

(1)野生生物種の生息適地評価関数の開発に関する研究
 ①鳥類・昆虫類の生息適地モデルの開発に関する研究(国立環境研究所)
 ②小動物の生息適地モデルの開発に関する研究(大阪府立大学)
 ③大型哺乳類の生息適地モデルの開発に関する研究(北海道環境研究センター)
(2)生物群集にとっての生息地の評価手法の開発に関する研究(国立環境研究所)
(3)生物多様性の評価手続きに関する研究
 ①ネットワークを用いた評価システムの研究(国立環境研究所、みずほ情報総研(株))
 ②米国の評価ハビタット評価手法におけるハビタット適正指数モデルの現状分析と日本における課題検討に関する研究(武蔵工業大学)
 ③欧州における生態系影響評価手法の比較研究(みずほ情報総研(株))

2.研究の達成状況

(1)環境省自然環境基礎調査の植生図、国土地理院の数値地図、50mメッシュ標高、国土数値情報、気候値メッシュ、気象年報、人工衛星データ等を地理情報システムに統合して、エゾシカ、ニホンジカ、79種の鳥類、カヤネズミ、サンショウウオ4種、カエル類8種、トンボ類等の生息適地を解析した。
 ①H15年度はオオヨシキリとオオセッカの生息適地モデルを構築した。H16年度からは77種の繁殖鳥類を対象に生息適地モデルを開発し、その有効性を評価した。79種のうち,58種では説明力の高い生息適地モデルが得られた。
 ②止水性サンショウウオ4種、イモリ、カエル8種、両生類13種、カヤネズミについての生息適地モデルを開発した。カスミサンショウウオについては景観スケールでの生息地モデルを開発し、個体群存続可能性分析を行い絶滅緩和の効果を予測した。本研究により、里山のような土地被覆が複雑な生息地の評価が可能となった。
 ③エゾシカの生息分布モデルから、最大積雪深、ササ、針葉樹が生息分布に大きく影響していることが明らかになった。また、北海道を除く東日本におけるニホンジカの生息分布モデルから、積雪が少なく、標高が高い地域の生息確率が高いことが明らかになった。
(2)H15年度は野生生物の生息適地を、日本全国2次メッシュで推定する手法を考案した。H16年度以降は、分布情報の質を評価する方法を考案し、質の高いデータだけを抽出することで無脊椎動物に適用可能な生息適地評価法を開発した。
(3)①Web-GISを用いた生物多様性定量評価システムのプロトタイプを構築した。このプロトタイプは、生息適地マップの閲覧機能、生息情報の入力機能を装備し、ユーザへの操作性の配慮とシステムの負荷の軽減を考慮してシステムを構築した。本システムを用いて、トウキョウサンショウウオの分布情報について検討した結果、システムの有効性が明らかになった。
②H15年度は米国のハビタット評価手続き(HEP)の基本的メカニズムと社会的背景を明らかにした。H16年度からはハビタット適正指数(HIS)モデルについて日米のモデルを比較するとともに、ケーススタディーとしてアサリのHISモデルを構築し、広島県尾道糸崎港人口干潟の評価を実施した。さらに、HEPを用いた干潟造成などの自然再生事業の評価手法を提案した。
③欧州におけるHEPに類似した生態系影響評価が運用されているか調査した。英国では種の生息地と分布がデジタル化され、データベースが積極的に開示されていた。一方、生息地の調査に関してはボランティア活動が大きな貢献をしていることが特徴として挙げられる。ドイツでは希少となったビオトープタイプのレッドデータの情報整備が進んでいた。欧州では、EUハビタット指令、野鳥指令に基づく保護地域、国レベル、州レベルの保護地域が明確に指定されていたことが明らかになった。

3.委員の指摘および提言概要

 報告書は専門的な用語が多く理解しづらい。特に、サブテーマ(1)と(2)は専門外の人にもわかりやすい報告書を書く工夫が必要である。サブテーマ(3)では新しい切り口に欠ける点もあり、研究成果もより具体的な記述が必要であった。
 研究に用いた生物種の採用根拠が明らかでなく、説得力に欠けてしまっている。
コンピュータ利用によるシミュレーション等に基づく研究の場合、具体的な使用データの説明、結果を説明する努力が重要である。
 研究成果を政策課題にのせてみる必要もある。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: F-5
サンゴ礁生物多様性保全地域の選定に関する研究
課題代表者氏名:渋野 拓郎((独)水産総合研究センター西海区水産研究所)

1.研究概要

 今日、世界的な規模でサンゴ礁の減少・衰退が進んでおり、サンゴ礁の保全は国際的にも重要な研究課題となっている。
 沖縄県八重山諸島の石垣島と西表島の間には石西礁湖と呼ばれる世界的にも貴重なわが国最大のサンゴ礁地帯がある。この海域は4つの海中公園地区を含む西表国立公園区域に指定されているが、1970年以降、陸域から流入する赤土、オニヒトデによる大規模食害、水温上昇によるサンゴ白化現象によって大きな被害を受けてきた。
 近年、石西礁湖でオニヒトデの再度の大発生を予見する調査結果も示されており、サンゴ礁保全地域の選定を含む保全対策の実施が緊急課題となっている。
 本研究では八重山諸島周辺地域から、環境の大きく異なる3つの調査地域を選定し、サンゴ、魚類、海藻といったサンゴ礁生物群集とそれらの生育場所の物理・化学的環境要因を同時に調査する野外合同調査を実施した。得られた結果から、サンゴ礁生物群集構造と環境要因との関係を解明し、サンゴ礁保全のための必要な科学的資料を得た。また、石西礁湖において、オニヒトデの個体群動態をモデル化して、オニヒトデの順応的管理方策などを含めたサンゴ礁保全施策への提言を行った。さらに、生物粒子の輸送トラジェクトリーに関してシミュレーションモデルを構築し、石西礁湖における幼生の供給源となり得る適切なサンゴ礁保全地域に関する資料を得た。
 最終目標としては、どのような生物・物理・化学的環境を備えた場所が高い生物多様性を維持しサンゴ礁生態系が保全できるかを提示することである。

  サブテーマは次の3つである。

(1)保全すべきサンゴ礁生物多様性の探索(水産総合研究センター、東京海洋大学、東京大学、島根大学、自然環境研究センター)
(2)保全すべきサンゴ礁環境の探索
 ①保全すべきサンゴ礁の水質・光環境条件に関する研究(産業技術総合研究所)
 ②サンゴ礁の海水流動と懸濁物の挙動に関する研究(産業技術総合研究所)
(3)サンゴ礁の変遷
 ①石西礁湖のサンゴ被度変遷モデル(横浜国立大学)
 ②水中画像時系列に基づいたサンゴ幼生輸送のトラジェクトリー解析(国立環境研究所)

2.研究の達成状況

(1) 環境の大きく異なる3調査地域(宮良湾、カタグヮー、シモビシ)の223地点で、サンゴ礁生物群集(サンゴ・魚・海藻)の調査を行い、それぞれの生物群集の分布特性(着生、基質、種組成、生息密度、被度)を明らかにすると共に、生物群集のそれぞれのサンゴ礁環境の利用の仕方について比較研究を行なった。
 サンゴ礁については全体で15科54属297種出現した。被度は岩礁の割合の高い浅い場所ほど高かった。魚類について出現個体数はシモビシが、出現種数はカタグヮーが最大であった。海藻類は宮良湾で最も多く出現した。
223地点で置換不能度の解析をした結果、サンゴ類ではカタグヮーに多く、海藻類は宮良湾に多く、魚類は3地点にまんべんなく分布していた。また、藻場はサンゴ礁域に見られない魚類の生育場となっていることが明らかになった。
(2)①石西礁湖全域を対象とした水質調査では、各種の栄養塩濃度と濁度は岸寄りの海岸で高いが、岸から200~300mの間に急激に減少していた。また、礁湖内はクロロフィルや各種栄養塩濃度が外洋に比べて高いことが分かった。
 ②宮良湾サンゴ礁で観測された表層濁度と底質のデータを解析し、その相関性について検討した。SPSS(底質中件濁物質含有量)は表層濁度を説明可能であり、底質環境の傾向を大別するには主成分分析が有効であることが分かった。
(3)①113地点におけるサンゴ礁被度データおよびオニヒトデ発見数データを用い、時系列解析により、将来のサンゴ礁の被度およびオニヒトデ大発生リスクを予想する数値モデルを開発し、その問題点を検討した。
 ②サンゴの卵・幼生粒子が海水中に放出された後に何処に着床するかシミュレートするためのモデルを開発した。この結果から、粒子の軌跡は潮汐による往復流、連吹風による定向流および小スケールの水平渦動によるランダムな動きの3要素に影響されていた。最も支配的な要素は風であり、生物粒子は風下に輸送されることが確認できた。

3.委員の指摘および提言概要

 サンゴ礁に関する基礎的なデータが収集されたことは評価できる。サンゴ礁保全施策に対しても重要な知見を与える。(3)のシミュレーションモデルと(1)、(2)の現地調査結果が統合されればよりよい成果となるだろう。成果を早く論文にしてほしい。保全政策でこの結果が利用されることを望む。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: F-7
遺伝子組換え生物の開放系利用による遺伝子移行と生物多様性への影響評価に関する研究
研究代表者氏名:矢木 修身(東京大学大学院工学系研究科)

1.研究概要

 今日、農業、食品、工業、環境分野において、種々の組み換え生物が創生され、除草剤耐性、病虫害耐性、ウイルス耐性の組換え植物、また、低温発酵性組換えパン酵母、酵素製造、医薬品製造組換え微生物等が実用に供されている。しかしながら、一方では、組換えトウモロコシの標的外生物への毒性、組換え遺伝子の野生生物への定着等に起因する組換え生物のリスクが大きな関心事となっている。わが国では、組換え生物の開放系利用のリスク評価に関しては、人間に関するものが中心であったため、生物多様性への影響評価に関する知見はほとんどなく、生物多様性への影響評価手法が確立していないのが現状である。
 現在、組換え生物の開放系利用に関しては、宿主、導入遺伝子、組換え体のヒトへの毒性、毒素の生産性、雑草化等が評価項目として設定されている。本研究ではこれらの項目以外に、生物多様性への影響評価項目として、遺伝子の環境拡散リスクならびに地域野生生物個体群への影響および健全な生物相維持への影響等についての新たな評価方法の開発を目的とする。特に、微生物と植物に着目し、微生物に関しては、組換え微生物の環境中での挙動を明らかにするマーカー遺伝子の開発等を行い生物多様性への影響を評価する。植物に関しては、野外における遺伝子移行の頻度とそのモデル化、導入遺伝子の近縁野生種への長期的拡散と定着性等についての研究を行なう。
サブテーマは次の3つである。

(1)遺伝子組換え微生物の多様性への影響評価手法の開発に関する研究
 ①マーカー遺伝子を導入した組換え微生物演出法の開発(産業技術総合研究所)
 ②遺伝子発現応答の解析による迅速な微生物多様性の影響評価手法の開発(国立環境研究所)
 ③導入遺伝子の挙動解明と微生物多様性に及ぼす影響に関する研究(東京大学)
 ④微生物多様性に及ぼす組換え魚の影響に関する研究(国立環境研究所)
(2)遺伝子組換え植物の導入遺伝子の環境拡散リスクと植物多様性影響評価に関する研究
 ①自生集団内および集団間における遺伝子移行の評価法の開発-1.他植生作物について(筑波大学)
 ②自生集団内および集団間における遺伝子移行の評価法の開発-2.自植生作物について(農業生物資源研究所)
 ③導入遺伝子の近縁野生種への移行頻度に関する研究(国立環境研究所)
 ④遺伝子移行に及ぼす環境因子の影響に関する研究(農業生物資源研究所)
 ⑤ダイズとツルマメの雑種後代の適応度に関する研究(植物グループ)
(3)組換え生物の生物多様性への総合的影響評価手法の開発(東京大学)

2.研究の達成状況

(1)①汚染物質を分解する性質を付与した組換え微生物に、標識(マーカー)となるような特徴的な配列、および遺伝子を導入し、環境中、特に、類似の微生物や遺伝子が存在する状況においても特異的検出およびその動態の追跡が可能となる手法を確立した。宿主の染色体にはgfp遺伝子マーカーを導入し、機能遺伝子を含むプラスミドにはdsred遺伝子を導入することによって、宿主、およびそのプラスミドの保持/非保持は、蛍光色の変化で識別が可能となった。
 ②わが国では組換え微生物の野外での利用はなされていないが、将来環境浄化微生物等の有用な組換え微生物が開発あるいは海外より輸入され利用されると予想される。こうした組換え微生物の生態系影響をなるべく短期間に評価する技術の開発を行なった。模擬環境中に組換え微生物を接種し、土着の環境微生物細胞数およびその遺伝子に及ぼす影響の解析を行なった。
 ③水環境および土壌環境中における組換え微生物から他の微生物への水平移行の有無および頻度、水平移行に及ぼす環境要因の影響について検討した。
 ④遺伝子導入ゼブラフィッシュを用いて、遺伝子導入魚から外来性遺伝子が腸内細菌に移行する可能性を検討した。腸内細菌はフンとして排泄されると考えられるが、フンから抽出されるDNA中に導入遺伝子が検出された。死んだ遺伝子導入魚から導入遺伝子が出てくる可能性についても検討した。
(2)①植物における集団内・集団間遺伝子流動に及ぼす生殖様式の影響を明らかにするため、普通ソバとナタネをモデル植物として、集団内、集団間遺伝子流動の実態把握を行なった。また、拡散リスク評価法の確立を目指してアズキとツルマメの各種情報に基づいた適応度を考慮した組換え遺伝子の拡散シミュレーションモデルの構築を試みた。他植生の場合は6m以上離れると遺伝子の流動はほとんど見られなかった。開花時期も2週間違うだけで、遺伝子の交換は妨げられることが分かった。
 ②ダイズおよびアズキを対象に遺伝子拡散のモニタリングに利用可能なマイクロサテライトマーカーの開発を行なった。ダイズおよびアズキとも栽培種から野生種への自然交雑率は野生個体間より明らかに低かった。アズキでは栽培種から野生種への遺伝子流動により生じた形態的中間体や雑種型が頻繁に認められた。
 ③導入された遺伝子が近縁野生種に移行し野生種集団内で拡散する可能性を解明した。
 ④様々な環境ストレスを在来ナタネに与え、非組換えナタネであるセイヨウナタネを花粉親として用いた時の交雑親和性および得られた雑種の環境適応度を調査した。根圏の制御という環境ストレスを与えると交雑親和性を検討するために重要な結莢率および一莢あたりの種子数の値が高まる可能性が示された。
 ⑤ツルマメとダイズの雑種後代の適応度を明らかにするため、栽培特性の異なる国内産品種とツルマメとの雑種を人工的に作り出し、環境適応度に関する形質の調査を行なった。開花時期については両親の開花期が大きく異なっていても、F2雑種後代で交配親のツルマメと開花期が完全に重複する固体が遺伝的に分離することが分かった。このことから、一旦F1雑種が形成されるとツルマメと雑種後代との間で2次的な自然交雑が生じる可能性が示唆された。
(3)組換え生物の生物多様性への影響評価に際しての評価項目として、微生物では導入遺伝子の伝達性の有無と頻度、導入遺伝子の濃度と生残性、受容体の濃度、環境条件が重要であり、植物では、生殖形態、開花時期、野生種との栽培距離、雑種後代の適応性、昆虫の存在等が重要であることが明らかになった。

3.委員の指摘および提言概要

 こうした研究は異常事態の発生に対して大変有効である。めざましい成果が得られたとは言いがたいが、一定の成果は得られた。本研究はこうした研究の萌芽が形成されたといえる。
 サブテーマ(2)は栽培植物から野生生物への遺伝子移入への問題であり、GM植物のリスクとは直接関係しない。サブテーマ(3)については、報告書にほとんど触れられていない。
 今後の研究発展のためにも、学術誌などへの成果発表を強く望む。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性): c+
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
④地球環境保全のための社会・政策研究

研究課題名: H-3
サヘル農家の脆弱性と土壌劣化の関係解明および政策支援の考察
課題代表者氏名:櫻井 武司(農林水産省農林水産政策研究所)

1.研究概要

 サハラ砂漠の南縁(いわゆるサヘル地域)に位置する国であるブルキナ・ファソは従来から世界の最貧困国の一つとされている国であり、多くの農民が国外(主として隣国のコートジボアール)への出稼ぎや国外居住の親類縁者からの送金を重要な収入源としてきた。しかし2002年にコートジボアールで発生した内乱によりそれが困難となり、送金の停止とともに帰国した出稼ぎ者による家計支出の増大は農家の経済的危機をもたらしたと考えられる。
 本研究は、こうした経済状況の悪化を受けた農家の行動、例えば短期的な収入を求めての地力収奪的な農業が土壌劣化ひいては砂漠化につながる可能性があると考え、その因果関係を現地調査によって実証するものである。
 具体的には、経済学、土壌学、リモートセンシング学の各分野の専門化が共同し、農家への聞き取り調査、現地踏査、衛星データ解析等を行い、農家家計や地域社会の状況、土壌保全技術の使用状況、土地利用や植生の状況等を把握、分析した。その結果、コートジボアール危機の結果、耕作面積の拡大、家畜頭数の減少、面積あたりの厩堆肥投入量減少等の状況を明らかにした。合わせてNGOなど外部組織とのネットワーク及び村落のソーシャルキャピタル(人々が共同で物事に取り組むことを可能にする地域社会の規範やネットワーク)の重要性等も示された。

  サブテーマは次の4つである。

(1)環境変動に対する農家家計の脆弱性の評価
(2)農家の土壌保全技術採用の規定要因の解明とその評価
(3)村落レベル・地域レベルの土地利用、植生の時系列解析
(4)サブテーマの総合化と政策支援の考察

2.研究達成状況

(1)村の代表者等にグループインタビューを行って全般的状況を把握する広域村落調査を208の村を対象に実施するとともに、地域性の異なる8つの村を対象として世帯の家計状況を把握する詳細家計調査を256世帯について実施した。その結果について統計解析を行い、帰村者による人口の増大と送金受け取りの減少が経済的危機をもたらしていること、売却により家畜が減少していること等を見出した。特にスーダン・サバナ地帯南部では経済危機に起因する土壌劣化が生じる可能性があり、選択的な政策支援が必要と考えられる。
(2)地域性の異なる4つの村について概略調査を行ったあと、そのうち経済危機の影響が顕著に見られた村を1ヶ所選定して集中的な調査を行った。この地域は養分保持能力が低く土壌が薄いなど長期の休閑を要する地域であるにも関わらず、地域住民は休閑地の耕作地化や連続耕作の長期化によって経済危機に対処しており土壌保全に向けた対処行動が鈍いため、今後の危機に対する緩衝力や復元力が脆弱化したことが示された。
(3)本地域のような天水農業地域を対象として衛星リモートセンシングデータを用いた耕作地の判別手法を開発し、2000~2004年のデータを解析した。危機から1年後の2003年には各地で土地利用に変化が見られたが、その状況は各地域で多様であった。その後2004年には土地利用変化は収束に向かい、従来の耕作パターンに戻ったと考えられる。
(4)他のサブテーマの成果を総合するとともに、現地調査により前回調査後の最新状況を把握するとともに、ソーシャルキャピタルの現状把握と分析等を行った。その結果、こうした地域の経済危機が土壌劣化ひいては砂漠化につながることを阻止するには、短期的には所得補償、中長期的には土壌保全技術の普及と所得機会の拡大が必要であること、ソーシャルキャピタルは支援の効果を高める効果を持っていること等を明らかにした。

3.委員の指摘および提言概要

 当初の計画はほぼ遂行され、農家家計、土地利用、土壌保全の取組み等についてデータが得られ、学術的貢献の要素が多数あると考えられる。ただし、それらの個別研究がサブテーマ(4)の総合的な政策分析に有効に結びついているかについては課題がある。特に(4)ではソーシャルキャピタルについて取り上げているが、これは欧米の理論の適用に止まっており、(1)~(3)を十分踏まえての理論展開でなく、また得られた知見を政策提言に結びつける論理的必然性が十分でないとの指摘がある。これらは、調査結果をもとに具体的な支援方策の提言を行うという本課題の趣旨に対して、惜しまれる点であると考えられる。その他、人々の行動や村単位の行動の構造的変化をモデル化できないかとの意見もあった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: H-4
東アジア諸国での日本発の使用済み自動車及び部品の不適切な使用・再資源化による地球環境負荷増大の実態とその防止策の検討
課題代表者氏名:鹿島 茂(中央大学)

1.研究概要

近年、わが国は年間500万台以上の使用済み自動車を輸出しており、そのうち約半数は東アジアを中心に中古車、部品、材料として利用されていると考えられており、地球環境や現地の地域環境に与える影響が懸念されている。本研究は、まずわが国から東アジア諸国へ輸出している使用済み自動車の流動、使用、再資源化の現状を定量的に把握する(サブテーマ(1)(2))。次に、自動車の利用形態は国によって異なり、そのまま中古車として利用したり部品を取り外して利用するのが主である国、素材として再資源化するのが主である国、その両方を行っている国がある。それら3つのパターンを代表する対象国(タイ、中国、インドネシア)について、具体的な状況を把握し、環境負荷を削減するために必要な制度、技術、情報を明らかにする(サブテーマ(3)(4)(5))。さらに、上記を踏まえた施策代替案について評価、提案を行う(サブテーマ(6)(7))。

 サブテーマは次の7つである。

(1)日本からの使用済み自動車及び部品の発生量とその適切な使用・再資源化に向けた取り組みの原状
(2)東アジア諸国での日本からの使用済み自動車及び部品の使用・再資源化状況の現状把握
(3)自動車及び部品としての使用の詳細把握と地球環境負荷発生量への影響分析
(4)再資源化の現状とその技術的な問題点の抽出と改善策の作成
(5)自動車及び部品の使用・再資源化の現状と使用段階における改善策の作成
(6)LCAによる日本からの使用済み自動車及び部品の適切な使用・再資源化システムの設計
(7)日本からの使用済み自動車及び部品の適切な使用・再資源化実現のための政策の検討

2.研究の達成状況

(1)使用済み自動車輸出の概念整理を行うともに、税関支署へのヒアリング・アンケート等により輸出総量の推定、輸出量に対する自動車NOx法の影響推定、携帯輸出(船員等が自己の携帯品として持ち出すもの)の実態把握とその禁止措置の影響検討等を行った。また、海外の自動車リサイクルに関わる現状や制度等の把握と整理に基づき、日本の自動車リサイクル法の評価を行った。
(2)使用済み自動車の国際流動と再使用・再資源化の状況、関連する環境負荷を包括的に把握及び評価できるデータベース「アジア国際自動車リサイクル産業連関表」の雛形を作成した。また、使用済み自動車に関する貿易統計を利用する手法を確立し、それらの既存データを加工してその数値を特定した。
(3)タイにおいて、自動車の保有と使用のモデル化を行い、車検制度等運輸政策についてのシミュレーションを行うとともに、サブテーマ(2)の成果をもとにした産業連関モデルにより、日本からタイへの使用済み自動車の輸出を禁止した場合、輸出を自由にしてタイで再資源化を行う場合、輸出は自由にするが日本での再資源化を義務付ける場合、等の評価を行った。
(4)中国でのヒアリング調査、統計調査等によって、現地の自動車保有、使用、整備、廃棄の状況を把握するとともに、中国における金属屑や中国のAプレス(使用済み自動車から有用部品等を回収した後、プレス加工したもの)の輸入状況等を整理した。これに加えサブテーマ(2)(3)の成果等に基づき、中国のAプレス輸入政策の影響分析を行った。
(5)インドネシアでのヒアリング、統計資料等により、使用済み自動車輸入の制度、実態等の状況を把握した。また、インドネシアで実験的に行われているバスの車検制度の評価、自動車一般に対する車検制度のコストと環境負荷削減効果の把握、再資源化の上での問題としてバッテリーの不適切処理状況の把握等を行った。
(6)日本から使用済み自動車が東アジア諸国に輸出され、そこで第2、第3のライフサイクルを送っているという現状を踏まえたLCA評価を、インドネシアを例に産業総合研究所が開発したLIME法に基づいて実施した。
(7)各国の使用済み自動車輸入政策について整理するとともに、タイ、インドネシア、中国の研究者と協力体制を築いた上、それらの国の自動車の使用・再資源化に関する政策課題とその改善策をとりまとめた。

3.委員の指摘および提言概要

 これまで実態が不明であった本テーマについて、国際的協力体制により現地調査を行い把握するとともに、データの整備、解析、モデル化を行った。政策に活用可能性のある基礎研究として評価される。一方、モデルの信頼性についてはさらなる検証が必要、環境負荷防止策はやや突っ込み不足等の意見もあり、こうした点に今後の課題があると考えられる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
  サブテーマ6:  
  サブテーマ7:  

研究課題名: H-5
企業の技術・経営革新に資する環境政策と環境会計のあり方に関する研究
研究代表者氏名:天野 明弘((財)地球環境戦略研究機関)

1.研究概要

 環境問題に対する企業の対応を考える上で、技術革新とともに経営革新、さらに政府による政策革新の必要性も近年重視されるようになった。特に多くのステークホルダーとの情報共有化による技術革新・経営革新を実現するため、環境会計の制度の拡充と各企業によるその積極的な取組みが必要とされるとともに、企業の取組みを促進するような環境政策も重要である。
 本研究はこうした必要性のもと、企業に対するアンケート調査の実施、アンケート結果及び既存資料を用いた統計分析、ヒアリング調査に基づく事例分析等の手法を用いて、環境会計の考え方、その導入状況、情報開示の状況、企業業績との関係等を検討した。
 サブテーマは2つであり、それぞれ2つ及び3つのサブサブテーマごとに研究を進めた。
(1)環境会計による環境イノベーション促進に関する研究
 ①環境イノベーション促進手法としての環境管理会計手法の研究
 ②外部環境会計の環境イノベーション促進作用の研究
(2)環境政策と環境イノベーションに関する研究
 ①環境イノベーションの事例分析
 ②環境イノベーションの類型化
 ③環境政策のあり方の提示

2.研究の達成状況

(1)企業の本社及び事業所に対するアンケート調査により、環境管理会計(企業自らの管理のための環境会計)の普及状況、有効性等、本社と事業所の環境会計への関わり等を明らかにした。また、環境管理会計手法の一つであるマテリアルフローコスト会計について、導入企業の事例分析を行い、LCAとの統合評価を実施した。
 また、外部環境会計(社外に報告するための環境会計)について、多数の企業の環境報告書を分析し、開示内容の動向、環境省及び英国規格協会等の環境会計ガイドラインの評価、情報表示方法(例えば金額への換算表示等)の分析等を実施した。
(2)9業種16社に対する詳細なインタビュー調査を実施し、環境規制や自主的取り組みについての考え方、環境パフォーマンスから財務パフォーマンスへの影響、それらの業種による違い等を明らかにした。また、環境保護と企業の競争力向上の両者を実現するイノベーションの類型化及び事例分析を行い、これを具体化する「エコサプライシステム」の概念提示を行った。
 さらに、いわゆるポーター仮説(環境規制が技術革新を誘発し企業の利潤を高める可能性がある)に関連して、公開されている企業の財務データをグレンジャー因果性分析手法により検証し、企業の環境パフォーマンスと財務パフォーマンスが互いにプラスの影響を及ぼす傾向を見出した。

3.委員の指摘および提言概要

 貴重な情報を提供しているとともに、環境規制や政策がイノベーションを引き起こすメカニズム等は、この分野の研究を深める上での先駆的な問題提起と考えられる。一方、環境会計に関する定量分析、事例分析や類型化、環境と財務のパフォーマンスに関する実証分析等、このテーマを捉えるにあたってバランスの取れた調査ではあるものの、それぞれの連関が必ずしも明確でなかったと考えられる。さらに個別には、事例研究については、数が少なく整理や分析も限定されていること、環境イノベーションの類型化についてはなぜサービサイジングが強調されるのか不明であること、アンケート調査についてバイアスの評価がなされていないこと等、アカデミックな視点からは物足りなさがあるとの意見がある。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2: