研究代表者氏名:蟹江憲史(東京工業大学大学院)
1.研究概要
温暖化対策中長期的目標設定を支援し、評価するための多面的クライテリアの検討と開発を行う。まず既存の中長期計画や目標の形成プロセス及びクライテリアに関する国際比較分析を行う一方で、
気候変動枠組条約第3条で提示する5原則(衡平性・特別な事情への考慮・予防原則・持続可能な発展・環境と貿易)や国際的気候変動対策の基盤となる規範といった理念的・概念的クライテリア、
あるいは、短期的目標(あるいはレジーム)や安定化レベルに関する統合的シナリオとの整合性といった政策指向クライテリアの妥当性、シナリオ及び政策オプションへの適応可能性を提示する。
さらに、多面的クライテリアを総合するための意思決定過程や、多面的クライテリアを満たす目標設定方法自体の妥当性(絶対的数値目標か相対的目標かなど)の検討を行う。
サブサブテーマは次の4つである。
(1)長期目標設定のためのクライテリアとプロセスの国際比較研究
(2)温暖化リスク管理の観点からのクライテリア研究
(3)持続可能な開発と南北問題の観点からのクライテリア研究
(4)規範によるクライテリア研究
2.研究の進捗状況
以下の通り、概ね研究計画通りに進捗していると認められる。
(1)サブサブテーマ(1):モデルAIM/Impact[Policy]の結果に基づきながら、国際的排出分担差異化(バーダンシェアリング)によって、2050年の日本の排出削減分担値を導いた。産業革命以前と比べて地球の平均気温上昇を2℃以下に抑えるには、温室効果ガス安定濃度を475ppm以下に抑える必要があり、そのためには、日本の2050年の排出削減目標値は約68%以上とする必要があることを明らかにした。
(2) サブサブテーマ(2):温暖化の危険なレベルを検討する第1段階として、全球平均気温上昇量でみた場合の影響について整理し、分野別の目安を示した。
(3) サブサブテーマ(3):持続可能な目標設定はいかにして実現しうるかという観点から、まずEUにおいて[2℃以下]という目標の政策決定過程を検証し、EUレベルでの合意を可能にした要因と合意の政策的意味について検討した。続いてEUという枠をこえて政策形成過程における参加型合意形成の手法を検討した。
(4) サブサブテーマ(4):2050年までに国際政治構造に起きる変動を考察するため、競争型の世界、対立型の世界、協調型の世界へ向かう国際政治変動を考えた。これを発展させて、「グローバリズム」、「国際協調」、「勢力均衡」、「勢力分散」の4つの国際政治変動シナリオを作成した。
3.委員の指摘および提言概要
委員の指摘をまとめると、概ねつぎの通りとなる。
まず、このサブテーマは、S-3全体のテーマの中で国際政治面からのシナリオの枠を示すという重要なサブテーマであるが、このレベルでの「枠」とサブテーマ(1)で検討されたシナリオ(A、B)とがどう関連するのか不明である。また、サブサブテーマ間の関連も明確でないので結論付ける道筋を示して欲しい。
研究のテーマが評価基準の検討、目標の設定とあり、全体が異なる切り口からではあっても、同じ目標・方向に向けて、研究を進めて行く必要がある。サブサブテーマ(1)、(2)と(3)、(4)とでの研究の関連性が現段階では明確でない。
サブサブテーマ(1)については、これまでの情報を整理し、さらにAIMによる検討を加えて結果を導き出している。ただし、(1)はこれで答えが出たのであれば、今度の研究の展開がどうなるのか、(4)とのつながりを含めて、明確でない点が不安である。
サブサブテーマ(2)は必要性も高く、着実な手法による研究であり今後の展開も期待できる。
サブサブテーマ(3)、(4)は、評価基準、目標の設定というテーマとしてみた場合に、今後研究がどのように発展・展開してこれに応えることになるのかが、報告の限りでは不明確である。
サブサブテーマ(3)は、このサブサブテーマの趣旨に添って「クライテリア研究」としての筋に軌道修正をする必要がある。これまでの研究は、とくに国内に関して合意形成手法として先行研究でも触れられてきたものの焼き直しの感が強く、新規性に欠け、S3全体の方向と一致しない。また、途上国との関係での研究も、事例研究の域を出ず、汎用性のある結果につながるとの評価が困難である。
サブサブテーマ(4)は、今後、定量的な分析を予定しているかの報告書の記述が見られるが、何をどのように定量化されるのか読みとりにくい。これまでの2年間の研究成果を、今後どこまでS-3全体の研究課題に沿った形で発展させうるかが不明確であり、これまでの成果による寄与は肯定できるものの、これ以上の寄与を期待するためには、他の研究プロジェクトへの移管を含めて、検討する必要がある。
このほかに、次のような指摘にも留意されたい。
・現実の国際社会は国益重視で動いているのに対し、サブサブテーマ(4)で提示され4つのシナリオは理想論の分類としか思えない。現実にある、対立しているシナリオも必要ではないか。
・4つのシナリオの内、最初の2つ(グローバリズム、国際協調)には現実の国際社会変動にあり得る社会と思うが、最後の2つ(勢力均衡、勢力分散)は未来的にも現実味に乏しいのではないか。
・目標と遂行しつつある分析の間に、大きなギャップを感じる。ある程度、定性的な国際政治的ビジョンを中心とするか、数量分析を柱とする定量的な経済的傾向の強いものにするか、目的の見直しをした方がよいと思う。このテーマでは温度目標の相違による分析などはやめた方がよい。
・2つのシナリオで最終的に操作的に用いている指標が、CO2/GDP、CO2/人であることを明示して、その他の要因を3つの時間断面でどのようにとらえることができるのかを社会科学の側面から論じて欲しい。
最後に添えると、原著論文の発表がないサブサブテーマもある、成果の発表に努められたい、との指摘が複数委員からあった。
4.評点
総合評点:b
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