平成18年度中間評価結果詳細(戦略的研究開発領域)

研究課題名: S-3
脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト
研究代表者氏名:西岡秀三(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、日本における中長期温暖化対策シナリオを構築することを目的として、2050年までを見越した日本の温室効果ガス削減のシナリオとそれに至る環境政策の方向性を提示する。サブテーマはつぎの5つである。

(1)温暖化対策評価のための長期シナリオ研究
(2)温暖化対策の多面的評価クライテリア設定に関する研究
(3)都市に対する中長期的な二酸化炭素排出削減策導入効果の評価
(4)温暖化対策のための、技術、ライフスタイル、社会システムの統合的対策の研究
-IT社会のエコデザイン-
(5)技術革新と需要変化を見据えた交通部門のCO2削減中長期戦略に関する研究

2.研究の進捗状況

研究は概ね積極的に進められており、各サブテーマともほぼ計画通りの進捗状況と認められる。(各サブテーマの進捗状況は個別に後述する。)
しかしながら、プロジェクト研究としての統合性が十分でないこと、一部にプロジェクトの目的との関連が疑問視される内容の課題も見受けられること、 今後の進展の期待が薄い課題があること、などから研究体制・計画の見直しが必要と考えられる。

3.委員の指摘および提言概要

この研究が目的とする「脱温暖化社会」への長期政策の方向性を提示することの緊急性と重要性は論を待たない。2050年までに1990年レベルより60~80%削減するという目標を設定することで可能性を探求する点は研究として新規性と革新性があり、 個別課題の成果もあがりつつある。
  しかしながら、本研究は戦略的研究開発領域課題なので、サブテーマごとの成果だけでは不十分であり、プロジェクト全体として統合化された成果が要求される。前半期の成果報告の範囲では、シナリオやビジョンなど基礎概念の共通理解が十分でないと思われる点に加えて、 全体とサブテーマ間の相互の関係、系統性、あるいはその結果を総合的、有機的に最終目的である対応策立案にまとめる“総合性”が見られず、個々のサブテーマが個別的に羅列されている印象をぬぐえない。
  例えば、サブテーマ1において論じられている二酸化炭素の削減のシナリオやモデルと、後続のサブテーマにおける検討とが具体的にどう対応するのか相互関係が明確でない。また、削減量のダブルカウントが行われていないかの確認、同じ地球環境研究総合推進費の他の課題、 他省庁の研究やIPCC等におけるシナリオとの関係の明確化等も課題である。
  よって、早い段階で、研究期間前半の成果をふまえながら、プロジェクト全体の目標達成を最優先にして、後半2年間の具体的な研究計画を全体およびサブテーマごとに点検されるようお願いしたい。

なお、点検にあたっては特に次の意見に留意されたい。

(1)現時点で、研究プロジェクトの目的である最後のアウトプットの整合性、総合性が不明確であって成果の全体像がわかりにくい。
(2)従来からの研究成果、データベース、またこのプロジェクトでの個別の研究成果を明示、理解出来る手法を示し、これを整合的、総合的に取り扱える具体的な枠組みを整備する必要があると思われる。
(3)シナリオ、空間、時間などの扱い方において、各課題をつなぎ合わせる論点を明確にして欲しい。
(4)相互連携が重要な段階になっているのでシナリオ、ビジョンなど基本概念については、サブテーマ独自の観点からの検討余地を残すことも必要であるが、共通の理解の基で全体と各サブテーマの調整に留意して欲しい。
(5)産業部門についてはIT以外に検討されていないが、将来の日本の産業構造に対するビジョンを示すことが重要であり、シナリオA、Bでどのような産業になるかを示す必要がある。産業構造のサブテーマ化も検討されたい。
(6)サブテーマ2は、クライテリア(シナリオの目標地点)を示すものとして位置づけられた研究であるが、サブサブテーマによってはこの位置づけに沿った内容とは言えないものがあり、これらは、方向の転換を図るか、打ち切りを検討されたい。
(7)サブテーマ4で取り上げられている研究は、手法と内容からいってこれ以上の高度の発展を期待しがたいため、これまでの形での研究継続は難しいと考えられる。

4.評点
 総合評点:B
 必要性の観点(科学的意義等)             :b
 有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) :b
 効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性) :b
 サブテーマ1:b
 サブテーマ2:b
 サブテーマ3:b
 サブテーマ4:c
 サブテーマ5:b

研究課題名: S-3-1
温暖化対策評価のための長期研究シナリオ
研究代表者氏名:甲斐沼美紀子(国立環境研究所)

1.研究概要

  日本における2050年に向けた脱温暖化政策オプションおよびそれらが統合化されたシナリオを検討する評価手法を開発し、日本における2020年までの中期シナリオと2050年までの中長期シナリオを構築する。中期シナリオは現状から継続性を持たせ、詳細な技術データ、経済データ、社会指標などに基づいた精緻な積み上げ型モデルを用い、短中期に実現性の高い政策オプションに基づいて作成する。中長期シナリオは革新的技術に加えて、制度、社会効率など、客観的に定量化しがたいパラメータやコンセプトなども考慮した幅広い政策オプションに基づいて作成する。長期の気候変動対策において重要な役割を果たす技術進歩と政策のあり方については、内生的技術革新の観点からのGHG(温室効果ガス)排出削減の可能性を検討する。また、産業構造変化について主要な業種を対象としたヒアリング調査による将来動向を調査し、予測に必要な要素を抽出するとともに、これらの情報をモデル解析のインプットデータとして整備する。 サブサブテーマ(2つ)、サブサブサブテーマ(2つ)の構成は次の通りである。

(1) 中長期温暖化対策シナリオの構築に関する研究
 ①中長期温暖化対策モデルの構築に関する研究
 ②内生的技術革新によるGHG排出削減可能性の検討
(2) 産業構造変化要因に関する研究

2.研究の進捗状況

日本の2050脱温暖化社会にむけたシナリオ構築に資する次の研究を行った。これらの進捗状況は、概ね計画に沿ったものである。
(1) サブサブテーマ(1):バックキャスティングの手法に基づき、脱温暖化2050年社会の叙述シナリオ開発、脱温暖化対策の洗い出し、 モデルフレームの構築などを進めた。2050年温室効果ガス排出量を1990年の60~80%削減した脱温暖化社会を目指した将来像を示すためのシナリオと定量的モデルを開発した。 叙述シナリオAとBを構築しシナリオAに近い2050年社会経済像について1990年比で35%から70%(原子力、再生エネルギー使用)の削減が可能であることを示した。また、 2050年脱温暖化社会の実現可能性についてより詳細に経済モデルにもとづいて検討した結果、2050年には1990年水準から約50%削減が可能と評価した。さらに、 低炭素社会の世界的シナリオを描くために、日英共同研究、国際ワークショップなどを行うとともに、日本国内の地域シナリオを構築中である。
(2)サブサブテーマ(2):1970年以降の「脱工業化社会」論に対して、温暖化などの環境制約を受けた産業ビジョンの動向を、欧米を中心に動向を分析した。また、日本の産業の将来像をエコロジー近代化、新自由主義との関連で可能性を検討した。

3.委員の指摘および提言概要

シナリオ研究の現段階での成果、ならびに海外の研究者への情報発信および共同研究への取組みへの動きは評価できる。
主な指摘は次のとおりである。

(1)基本用語や概念(シナリオ、ビジョンなど)の共通化、整合化について努力して欲しい。
(2)研究メニューがアラカルトになっており、相互の関連により得られる具体的な成果が不明、プロジェクトの目標に対しそれぞれのサブサブテーマの役割と達成すべき事項を明記して欲しい。
(3)国際的な市場経済の中での実現可能性に疑問があるので、海外での産業競争力や製品の輸出入の整合性等を明確化し、特に産業部門の分析を明示することで議論を精密化して欲しい。
(4)サブサブテーマ1については、バックキャスティングシナリオAとBの妥当性の論理の明確化の必要性がある。また、フォアキャスティングの40%削減と規範的バックキャスティングの70%削減との差を埋めるのは、「生活スタイル」と「産業構造」のどちらがクリティカルなのか説明が不足している。また、バックキャスティングシナリオAやBの実現を阻害する要因や、予測できない要因に対する復元力の検討の必要性もある。
(5)サブサブテーマ2については、「市民社会」と「科学」が市場に環境規制を強いる可能性が強調されているように思われるが、素材・産業だけでなく特に、エネルギー産業政策(石油と原子力の相互関係)、原子力の廃棄物処理、その超長期的環境・エコロジカル・リスク問題などにも、つっこんだ分析が欲しい。

以上の指摘を考慮の上、今後の計画を検討されたい。なお、産業構造要因に関する研究は、民生部門、交通部門にならんで重要なテーマ群であるため、サブテーマ化することも考えられるとの意見があることに留意されたい。

4.評点

総合評点:b

研究課題名: S-3-2
温暖化対策の多面的評価クライテリア設定に関する研究
研究代表者氏名:蟹江憲史(東京工業大学大学院)

1.研究概要

温暖化対策中長期的目標設定を支援し、評価するための多面的クライテリアの検討と開発を行う。まず既存の中長期計画や目標の形成プロセス及びクライテリアに関する国際比較分析を行う一方で、 気候変動枠組条約第3条で提示する5原則(衡平性・特別な事情への考慮・予防原則・持続可能な発展・環境と貿易)や国際的気候変動対策の基盤となる規範といった理念的・概念的クライテリア、 あるいは、短期的目標(あるいはレジーム)や安定化レベルに関する統合的シナリオとの整合性といった政策指向クライテリアの妥当性、シナリオ及び政策オプションへの適応可能性を提示する。 さらに、多面的クライテリアを総合するための意思決定過程や、多面的クライテリアを満たす目標設定方法自体の妥当性(絶対的数値目標か相対的目標かなど)の検討を行う。

 サブサブテーマは次の4つである。

(1)長期目標設定のためのクライテリアとプロセスの国際比較研究
(2)温暖化リスク管理の観点からのクライテリア研究
(3)持続可能な開発と南北問題の観点からのクライテリア研究
(4)規範によるクライテリア研究

2.研究の進捗状況

以下の通り、概ね研究計画通りに進捗していると認められる。
(1)サブサブテーマ(1):モデルAIM/Impact[Policy]の結果に基づきながら、国際的排出分担差異化(バーダンシェアリング)によって、2050年の日本の排出削減分担値を導いた。産業革命以前と比べて地球の平均気温上昇を2℃以下に抑えるには、温室効果ガス安定濃度を475ppm以下に抑える必要があり、そのためには、日本の2050年の排出削減目標値は約68%以上とする必要があることを明らかにした。
(2) サブサブテーマ(2):温暖化の危険なレベルを検討する第1段階として、全球平均気温上昇量でみた場合の影響について整理し、分野別の目安を示した。
(3) サブサブテーマ(3):持続可能な目標設定はいかにして実現しうるかという観点から、まずEUにおいて[2℃以下]という目標の政策決定過程を検証し、EUレベルでの合意を可能にした要因と合意の政策的意味について検討した。続いてEUという枠をこえて政策形成過程における参加型合意形成の手法を検討した。
(4) サブサブテーマ(4):2050年までに国際政治構造に起きる変動を考察するため、競争型の世界、対立型の世界、協調型の世界へ向かう国際政治変動を考えた。これを発展させて、「グローバリズム」、「国際協調」、「勢力均衡」、「勢力分散」の4つの国際政治変動シナリオを作成した。

3.委員の指摘および提言概要

委員の指摘をまとめると、概ねつぎの通りとなる。

 まず、このサブテーマは、S-3全体のテーマの中で国際政治面からのシナリオの枠を示すという重要なサブテーマであるが、このレベルでの「枠」とサブテーマ(1)で検討されたシナリオ(A、B)とがどう関連するのか不明である。また、サブサブテーマ間の関連も明確でないので結論付ける道筋を示して欲しい。

 研究のテーマが評価基準の検討、目標の設定とあり、全体が異なる切り口からではあっても、同じ目標・方向に向けて、研究を進めて行く必要がある。サブサブテーマ(1)、(2)と(3)、(4)とでの研究の関連性が現段階では明確でない。

 サブサブテーマ(1)については、これまでの情報を整理し、さらにAIMによる検討を加えて結果を導き出している。ただし、(1)はこれで答えが出たのであれば、今度の研究の展開がどうなるのか、(4)とのつながりを含めて、明確でない点が不安である。

 サブサブテーマ(2)は必要性も高く、着実な手法による研究であり今後の展開も期待できる。

 サブサブテーマ(3)、(4)は、評価基準、目標の設定というテーマとしてみた場合に、今後研究がどのように発展・展開してこれに応えることになるのかが、報告の限りでは不明確である。

 サブサブテーマ(3)は、このサブサブテーマの趣旨に添って「クライテリア研究」としての筋に軌道修正をする必要がある。これまでの研究は、とくに国内に関して合意形成手法として先行研究でも触れられてきたものの焼き直しの感が強く、新規性に欠け、S3全体の方向と一致しない。また、途上国との関係での研究も、事例研究の域を出ず、汎用性のある結果につながるとの評価が困難である。

 サブサブテーマ(4)は、今後、定量的な分析を予定しているかの報告書の記述が見られるが、何をどのように定量化されるのか読みとりにくい。これまでの2年間の研究成果を、今後どこまでS-3全体の研究課題に沿った形で発展させうるかが不明確であり、これまでの成果による寄与は肯定できるものの、これ以上の寄与を期待するためには、他の研究プロジェクトへの移管を含めて、検討する必要がある。

 このほかに、次のような指摘にも留意されたい。

・現実の国際社会は国益重視で動いているのに対し、サブサブテーマ(4)で提示され4つのシナリオは理想論の分類としか思えない。現実にある、対立しているシナリオも必要ではないか。
・4つのシナリオの内、最初の2つ(グローバリズム、国際協調)には現実の国際社会変動にあり得る社会と思うが、最後の2つ(勢力均衡、勢力分散)は未来的にも現実味に乏しいのではないか。
・目標と遂行しつつある分析の間に、大きなギャップを感じる。ある程度、定性的な国際政治的ビジョンを中心とするか、数量分析を柱とする定量的な経済的傾向の強いものにするか、目的の見直しをした方がよいと思う。このテーマでは温度目標の相違による分析などはやめた方がよい。
・2つのシナリオで最終的に操作的に用いている指標が、CO2/GDP、CO2/人であることを明示して、その他の要因を3つの時間断面でどのようにとらえることができるのかを社会科学の側面から論じて欲しい。

 最後に添えると、原著論文の発表がないサブサブテーマもある、成果の発表に努められたい、との指摘が複数委員からあった。

4.評点

総合評点:b

研究課題名: S-3-3
都市に対する中長期的な二酸化炭素排出削減策導入効果の評価
研究代表者氏名:花木 啓祐(東京大学大学院工学系研究科)

1.研究概要

 本サブテーマは、主に都市で発生する交通、業務、家庭部門の二酸化炭素の発生状況を理解し、将来予測を行うとともに、その削減方策の効果をシミュレーション等によって予測するものである。そのため、気候条件、人口規模、都市活動の内容が異なる国内の複数都市を選定し、2020年及び2050年までの削減可能量(目標量)を複数シナリオ毎に算出した上、実現のための主体間の協力の必要性を示す。
 サブサブテーマは次の9つである。

(1)都市シナリオの設定と二酸化炭素削減量統合評価
(2)都市エネルギー供給由来の二酸化炭素排出評価と変革による削減効果
(3)都市建築物由来のエネルギー消費と変革による削減効果
(4)都市への燃料電池と太陽電池導入によるエネルギー削減効果
(5)都市圏におけるモビリティ由来のエネルギー消費と変革による削減効果
(6)都市系バイオマスと未利用エネルギーの活用によるエネルギー削減効果
(7)都市における需要変化に伴う誘発二酸化炭素排出量変化
(8)都市への対策導入における各主体間の協力・競合関係の総合的評価とシミュレーション
(9)さまざまな主体の知識共有のための総合ツール開発

2.研究の進捗状況

(1)全国の4都市の土地利用等の空間情報の把握による民生建物部門からの二酸化炭素排出量推定手法を構築し、17年度までに宇都宮等4都市で実施した。
(2)2050年にCO2排出量80%減等の制約条件の下、実現費用が最小となるような将来電源構成(石油、LNG、原子力等の構成)を大規模線形計画問題として定式化し、家庭の電力消費行動をボトムアップ式にシミュレーションするモデルと組み合わせ、ヒートポンプ等導入時の将来の最適電源構成及び二酸化炭素貯留量を算出した。
(3)全国の3都市を対象に、家庭部門の二酸化炭素発生量を説明する重回帰式を作成し、2050年までの発生量を予測するとともに、住宅、家電、ライフスタイル等の対策導入効果を明らかにした。
(4)将来の技術進歩の想定を含めた太陽電池のLCAを実施し、宇都宮と札幌での大規模導入による発電ポテンシャルを検討した。
(5)全国3都市を対象に、職住最適配置モデルと現状との開きを評価するとともに、物資の移動から貨物車交通量を導き出す方法論の構築、那覇を対象として都心部の自動車交通に課金する「ロードプライシング」による二酸化炭素排出削減効果等を検討した。
(6)東京での下水からの熱回収及び横浜での厨芥類メタン発酵によるエネルギー回収について評価モデルを作成し、二酸化炭素排出削減量等を明らかにした。
(7)地域産業連関表により東京及び札幌の二酸化炭素排出状況等を把握するとともに、財の購入に伴う誘発物流による二酸化炭素排出及びモーダルシフトによる削減効果を推計した。
(8)コジェネレーション等の新システムの特性を踏まえてCO2削減可能量を評価できるモデルを構築し、GISデータを用いて宇都宮の中心部及び周辺部への新システム導入効果による各地域の二酸化炭素排出削減率等を推計した。
(9)プロジェクト参加メンバーの情報共有等を可能にするためのウェブページを作成しCO2削減方策等を登録する仕組みを構築した上、特殊なインターフェースの構築により、各メンバーが作成した数値モデルをウェブ上で操作可能とした。

3.委員の指摘および提言概要

 都市の二酸化炭素排出に関わる実態を様々の側面から分析し、得られた知見は政策的にも活用可能性があると評価される。
 ただし、現状では都市形態や社会経済活動の立地のあり方に対する全体的な考察が不十分なままに現状ベースで個別の分析を進めているとの指摘があり、今後は、個々の研究内容を関連付け、統合して全体像を示す必要がある。本研究に求められる中長期的視点からは、例えばコンパクトシティ等、都市圏としての骨太なテーマを組み入れたアプローチの必要があるのではないか。また、本サブテーマは特定の都市や削減技術に焦点を絞って詳細な検討を行っているが、それらの選定理由や位置づけを明確化し一般化可能とする必要があると考えられる。
 さらに、S-3-3内でのデータ精度や分析のレベルをそろえていくことが望まれる。例えば、住宅エネルギー消費については世帯類型ごとの細かい消費パターンを基にしたシミュレーションがなされる一方交通についてはそうしたものがなかったり、二酸化炭素の回収貯留による大幅削減を主とした大胆なシナリオがサブサブテーマ(2)で示される一方、他のサブサブテーマでは非常に線の細い削減方策が検討されていたりする。
 また、本課題は、長期シナリオで検討されている内容を都市という具体的な場に落としていくと理解されるので、S3-1で検討されている「シナリオA、B」と整合のある形で議論を展開する必要がある。これについて、将来の居住形態や都市人口分布まで含めてS-3全体で共通のシナリオづくりをすることが望ましい。一方、個別の分析においては、地域性によるライフスタイルや技術シナリオの違い、意識の高い家庭とそうでない家庭等の多様性を導入すべきとの意見もあった。
 なお、(7)については都市間物流の問題なので全体の中での位置づけを検討すべきとの意見があり、(9)については他のサブサブテーマを統合的に検討するという役割を担うべきではないかとの意見があった。これらのサブサブテーマについては、その内容または位置づけについて再度確認する必要があると考えられる。

4.評点

総合評点:b

研究課題名: S-3-4
温暖化対策のための、技術、ライフスタイル、社会システムの統合的対策の研究 -IT社会のエコデザイン-
研究代表者氏名:藤本 淳(東京大学 先端科学技術研究センター)

1.研究概要

 IT技術の急速な発展は社会の様々な側面に影響を与えつつある。本研究では、IT技術が現在の社会システムを効率化することによる温室効果ガス排出削減量を予測した上、それが提供する新しいシステムが省エネ行動、通勤や買物等の人の移動、産業のあり方等に変化をもたらしより大きな温室効果ガス排出削減がなされると考え、ITによって実現される将来像を描くとともにそれによる削減効果を推計している。
サブサブテーマ構成は下記のとおり。
(1)環境調和型IT社会の設計
(2)ITを媒介とした技術とライフスタイルの統合的対策の概念整理と実証的効果検証に関する研究
(3)低カーボン社会を実現する移動のエコデザインに関する研究
(4)ITによる産業の効率化に関する環境影響調査

2.研究の進捗状況

(1) 既存研究のまとめ等により、ITによる従来の社会システムの効率化によって、2020年までの間に5~10%の二酸化炭素排出削減が期待できることを示した。さらに市民や専門家の意見、映画やアニメ等の分析により2050年のITがもたらす社会像を描き、40%程度の家庭起源二酸化炭素排出量削減が期待されることを示した。
(2) 家庭のエネルギー消費状況を消費者に伝える等の機能を持つ「エコナビゲーションシステム」について既存情報を収集整理するとともに、企業の社員の参加協力を得てその模擬実証実験とアンケート調査を実施した。
(3)公共交通機関の利用や自動車の相乗り等を促進できるような高度な交通情報提供システム及びテレワーク(自宅またはサテライトオフィスでの就労)による将来モデルを構築するとともに、その二酸化炭素排出削減効果を試算した。また、ウェブアンケートにより将来の「移動のエコデザイン」に求められる条件等を明らかにした。
(4)産業分野においてITの影響が大きいと考えられる法人向け電子商取引とSCM(サプライチェーンマネジメント)により廃棄、流通、在庫等の削減が図られるとし、また、電子マネーにより「脱物質化」が行われるとした。これらによる二酸化炭素排出削減効果を推計した。

3.委員の指摘および提言概要

 本サブテーマはタイムリーである一方、大変難しい切り口から問題に取り組んでいると考えられる。これに対し、一部には未来像をわかりやすく描いている等評価する意見もあるが、全般的には厳しい見方が示されている。すなわち、定量的な論拠が不十分であること、関連事項の幅広い整理と研究に用いる変数の取捨選択といった手続きが示されていないことなど、S-3課題の性格から必要とされる現実性や客観性が不足していると指摘されている。また、サブテーマ1のシナリオとの関連、サブサブテーマ(1)と(2)~(4)の関連性にも課題がある。こうした点からS-3全体として本サブテーマに関する研究計画を再検討することが必要と考えられる。
 なお、IT技術にはプラス面がある一方で二酸化炭素排出増等環境面でのリスクがあるが、それが捉えられていないという指摘、社会像を描くよりも参加、啓発等の望ましい社会を実現するための仕組みに焦点を当ててはどうか等の意見もある。

4.評点

総合評点:c

研究課題名: S-3-5
技術革新と需要変化を見据えた交通部門のCO2削減中長期戦略に関する研究
研究代表者氏名:森口 祐一((独)国立環境研究所 社会環境システム領域)

1.研究概要

 本研究は、交通部門のCO2排出量の多くを占める自動車交通由来CO2を中心に、新技術や代替燃料、自動車の保有年数、将来の地域や生活のビジョン、地域類型等を視野に入れ、2020年及び2050年の排出量推計、その削減施策と削減効果の提示を総合的に実施するものである。
サブサブテーマ構成は下記のとおり。
(1)リードタイムを考慮した新技術導入の効果評価と政策手段に関する研究
(2)バックキャスティングによる長期削減シナリオの策定に関する研究

2.研究の進捗状況

(1) 2020年頃に向けて、実用化済もしくはそれに近い技術について、一次エネルギー採掘から走行までを考慮したエネルギー効率分析、燃料転換が行われた場合の最適なスタンド配置の検討等を行った。また、新技術の一つであるハイブリッド車が大量普及した場合のCO2削減効果を推計したが、排出量を1990年レベル以下にするためにはそれだけでは不十分であり、需要面の対策も必要であること等を明らかにした。
(2) 既存の将来交通ビジョンをレビューするとともに、有識者ヒアリングにより交通シナリオに影響する社会的要因を整理した。次に、地域類型化による各類型の排出量の把握や、交通由来のCO2排出要因を整理により、地域特性に応じた削減方策試案を作成している。また、全国の市区町村において乗用車のCO2排出モデルを作成した。

3.委員の指摘および提言概要

 本研究は現実的な問題を取り上げ、着実に成果を上げつつあると評価されている。2020年までを扱ったサブサブテーマ(1)の成果は、ハイブリッド車の大幅普及という具体性のある政策とその効果が示されている。今後については、経済的要因の検討、前提条件のわかりやすい表現、感度分析等を行うとともに、モーダルシフトやITS(高度道路交通システム)等も含めた交通全体のあり方を視野に入れること等が望ましいと考えられる。
 それに対し、2020年以降を扱ったサブサブテーマ(2)は、それらの課題に加えてバックキャスティングによりシナリオづくりを行う必要があり、分析モデルやストーリーづくり等に一層の工夫が必要である。具体的には、基本要因(例えば人口減少等の長期トレンドや都市のコンパクト化、国土計画等の骨太の政策変数)に焦点を当てた分析モデルないしシナリオが検討されるべきではないか、技術上必要な開発目標を導き出す等の研究のストーリーが必要ではないか、等の意見がある。
 他のサブテーマとの関連で、3-3、3-4に交通を扱った部分があることから連携ないし関連の明確化を求める意見、人口や経済活動の地域分布についてS-3として共通の設定を求める意見があった。これらについてはS-3全体として検討の必要があると考えられる。

4.評点

総合評点:b