平成18年度中間評価結果詳細(地球環境問題対応型研究領域)

 

研究課題名: B-051
アジアにおけるオゾン・ブラックカーボンの空間的・時間的変動と気候影響に関する研究(H17-19)
研究代表者氏名:秋元 肇(地球環境フロンティア研究センター)

1.研究概要

エアロゾル・オゾンなどの短寿命温暖化関連物質は、長寿命温室効果ガスに比べ、その温暖化影響研究が大きく立ち遅れているのが現状である。これら短寿命温暖化関連物質の内でも、特に正の温暖化影響の大きいと考えられている対流圏オゾンとブラックカーボンのアジアにおける空間的分布と時間的変動を明らかにし、これらの地域的気候変動への影響を評価することは、我が国の気候変動予測の面からも急務である。本研究では中央アジアから東アジア域を対象に、オゾン・ブラックカーボンの地上における通年観測・集中観測、及び衛星データ利用によるアジア全域の観測を通じて、アジア域におけるこれらの空間的・時間的変動を明らかにする。また、2000-2020年のアジア域におけるオゾン前駆体物質・ブラックカーボンの放出量の将来予測を行い、この期間のオゾン・ブラックカーボンの空間的・時間的変動を再現・予測する。さらに、これらのデータを元にこれら短寿命温暖化物質による地域的気候変動への影響を化学・気候モデルを用いて評価し、長寿命温室効果ガスの地域的気候影響との違いを明らかにする。サブテーマはつぎの5つである。
(1) 東アジア・中央アジアにおけるオゾン・ブラックカーボンの空間的・時間的変動に関する地上観測
(2) 対流圏化学衛星データによるオゾン及び前駆体物質の空間的・時間的変動の解析
(3) アジアにおける大気汚染物質放出量の推定と将来予測
(4) 化学輸送モデルによる半球規模オゾン・ブラックカーボン汚染の解明
(5) 化学気候結合モデルによるオゾン・ブラックカーボンの気候影響の評価

2.研究の進捗状況

(1) 対流圏オゾンの東・中央アジアでの測定とその解析、対流圏化学衛星データの解析などは、今まで観測が空白であった地域で新たな知見が得られつつある。
(2) エアロゾル中のブラックカーボンに関しては、測定手法の高度化から出発して、研究計画の最終目標にわずか3年間で到達できるかどうか危ぶまれる。
(3) アジアにおける大気汚染物質放出量の推定に関しては、NOxの推計手法の詳細な検討に比べると、ブラックカーボンの検討が遅れ気味である。
(4) 化学輸送モデルと化学気候結合モデルによる検討については、オゾンについては順調に進んでいるが、ブラックカーボンについては、現時点では新たな進展はみられない。
これらの結果から、当初の研究目標に対して、研究の進捗状況は、オゾンは概ね順調であるが、ブラックカーボンについては、研究計画の見直しが望まれる。

3.委員の指摘および提言概要

地球温暖化にかかわる放射強制力の評価において、不確定性が大きくかつ影響の大きいブラックカーボンと時空間変動性の大きい対流圏オゾンをテーマにとりあげたことは時宜にかなっている。しかし、現時点での世界的な研究の到達状況を考慮すると、オゾンに比べるとブラックカーボンは、まだ基礎データの集積段階であり、両者の研究目標を同次元にとり扱うことはできない。また、エアロゾルの気候への影響を研究対象にするならば、エアロゾルの研究対象がブラックカーボンだけでは不十分である。本研究課題は3年間なので、ブラックカーボンに関しては、この3年間で可能な、基礎データの集積などの研究計画に、変更する必要がある。

また、個々のサブテーマでは、人工衛星GOMEの解析で対流圏オゾンのカラム濃度の広域分布の算出に成功し、また測定器(MAX-DOAS)を独自に開発し対流圏NO2のスラントカラム濃度の推定など、それぞれ成果をあげているが、それら相互の具体的な関連性と最終目標であるサブテーマ(5)への結びつきがはっきりしないので、それらの役割分担を明確にする必要がある。たとえば、ブラックカーボンのフィールド測定の結果を、放出量推定に反映させるのか、また、大気汚染物質放出量推定データベースをモデルに組み込んで感度解析をするのかなど、あいまいな点を明確にする必要がある。

一つの選択肢ではあるが、対象をオゾンとその前駆気体に絞って研究の完成度を上げる道もあるのではないか。
さらに、別の視点だが、この研究ではモデルが多用されているがモデルの検証については一層意を尽くして頂きたい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  

研究課題名: B-052
アジア太平洋統合評価モデルによる地球温暖化の緩和・適応政策の評価に関する研究(H17-19)
研究代表者氏名:甲斐沼 美紀子(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究では、地球温暖化問題に関連の深いエネルギーのみならず、水や土地など他の環境問題と経済発展の両面を分析できるモデルを開発することを、第一の目的とする。  また、ミレニアム開発目標に示されるような短・中期的な環境保全、開発目標と、経済発展を損なわない長期的な温暖化対策としての緩和策、適応策の整合的な政策の評価を、中国、インド、タイといったアジアの途上国および世界全体の両面から行うことを、本研究の第二の目的とする。さらに、日本との関係を定量的に分析するために、日本からのCDM(クリーン開発メカニズム)をはじめとする技術支援等の政策が、受け入れ国の経済発展、環境保全に及ぼす影響ついて評価することを第三の目的とする。
サブテーマ構成は次の2つである。
(1) 国別モデルの開発と政策評価及び比較分析先進都市における交通施策と交通行動に関する研究
(2) 緩和・適応政策評価のための世界モデルの開発

2.研究の進捗状況

次に示すとおり、概ね当初計画通りの進捗状況といえる。

(1)サブテーマ(1):日本、韓国、アジアの発展途上国である中国、インド、対等の国を対象としてモデル構築のための環境、経済、技術に関するデータの収集と人口、経済発展、技術発展など将来シナリオの整備を実施した。また、開発する国別モデル(AIM/Country)のために「環境要素モデル」と「環境政策モデル」を改良した。さらに、AIMの結果を基にIPCC等への貢献をした。

(2)サブテーマ(2):国別モデルの政策評価において不可欠と思われる世界モデルとして、経済モデルである応用一般均衡モデルの改良と、世界各国のエネルギー需要に焦点を当てたエネルギー時術選択モデル(AIM/Enduse[Global])、大気汚染の評価を行う大気汚染物質濃度評価モデル(AIM/Air)の構築を行った。また、水環境を評価するための流域データベースや、環境政策評価モデルに用いる将来シナリオの整備などを行った。

3 .委員の指摘および提言概要

委員の意見は次のように概ね好意的であった。 アジア各国大学の協力を得て、日本が誇るAIMの精度を高めるため、国別モデルを作成、統合する試みは、野心的であり、成果を期待したい。アジア地域の温暖化対策を明らかにしていく上でプロジェクトのモデル開発は極めて重要である。モデル開発に関しては日本がアジア地域ではイニシアティブを取らざるを得ないため、研究を継続し優れた成果を期待する。サブテーマ(2)についての成果は今後の研究努力に依存する。
しかし、次のような指摘もあった。

・全体的なこととして、各モデルの構造等についても報告書でもう少し詳しい言及、説明(検討や議論の余地なども合わせて)を加えて欲しい。
・中国やインドなどの人口大国とその他のアジア諸国の位置づけの違いなどが明確でない。また、中国の炭素税導入による削減のシミュレーションは、どのような意味があるのか気になる。
・各種のモデルについて、複数のチーム/グループ間の比較ができればモデルの妥当性の客観的な判断ができる。このような試みは不可能だろうか。
・結果の分かりやすい表現を常時考えてほしい。(政策決定に役立つ使いやすい解と形を抽出する)

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  

研究課題名: B-053
ロシア北方林における炭素蓄積量と炭素固定速度推定に関する研究(H17-19)
研究代表者氏名:沢田治雄((独)森林総合研究所)

1.研究概要

ユーラシア大陸の北部に東西6000キロにわたる国土を持つロシアは広大な森林地帯を擁しており、ロシアの北方林における炭素蓄積量と炭素固定速度を正確に推定することの意義は大きい。しかしながら80年代末からの旧ソ連崩壊後、経済混乱や研究資金の削減により、森林資源データの基礎となる長期固定試験地の再測定やデータ改訂が困難な状況にあるばかりでなく、近年多発している森林火災や伐採による森林面積減少が懸念されている。本研究では、ロシア北方林の様々な森林タイプの典型的な場所を選定し、炭素蓄積量を地上部(葉・枝・幹)と地下部(根系)、堆積した有機物(腐植・枯死木)、土壌の各部分について求め、森林の成長量とあわせて炭素固定速度を推定する。また、森林火災や伐採による森林面積の変化を衛星データから算出し、ロシア北方林が炭素の吸収側に作用しているのか、あるいは地域によっては放出側になっているのか、広域評価することを目的としている。サブテーマはつぎの4つである。

(1) 凍土地帯の森林生態系における炭素蓄積量と炭素固定速度
(2) 非凍土地帯の森林生態系における炭素蓄積量と炭素固定速度
(3) 森林火災による炭素蓄積量・炭素固定速度への影響
(4) 炭素蓄積量と炭素固定速度の広域評価

2.研究の進捗状況

(1) 本研究課題の申請時からロシア側の状況が大きくかわり、採取土壌を日本に持ち帰ることが不可能になったこと、また、現地のフィールドが森林火災で焼失したなど、とくにサブテーマ(1)と(2)は当初の研究計画を大幅に変更せざるを得なくなった。
(2) 一方、凍土地帯の森林では、地上部と地下部のバイオマス現存量の比が1-3と、これまでの推定値と大きく異なっていることが明らかになった。
(3) 地上測定と衛星データを解析して、森林火災の影響の様々な林分について、NEPを葉面積指数と植皮率の関数で表現できることを明らかにした。
これらから、サブテーマ(3)をのぞき、当初の研究目標に対して進捗状況は不十分であり、ロシア側の状況変化をふまえて研究計画の大幅な変更を、早急に具体化する必要がある。

3.委員の指摘および提言概要

ロシア側の事情で分析用の土壌を持ち帰れなくなったなど、当初の研究計画を大幅に変更せざるを得なくなったので、ロシア全体を目標にするのではなく、対象の森林地域を絞って確実に成果があがるように、早急に研究全体の具体的な変更計画を作成する必要がある。その際、サブテーマ(1)-(3)で得られて成果をどのようにサブテーマ(4)にまとめていくのか、明確な道筋を示すこと、さらに、京都議定書対応を目標とするのではなく、この研究課題で新たに得られた科学的研究成果をIPCCなどへ大きく貢献できるような方向で進める必要がある。
すでに、凍土地帯での森林の地上部と地下部の現存量比が、これまでの推定値と大きく異なるという成果をあげているので、現状のなかでも、これまでの既存資料と本課題で得られつつある貴重なフィールドデータを比較検討し、精度の高い新たな科学的知見が得られるように進めること、また、日本では戦略的研究開発領域課題のS-1と連携をとっていくこと、さらに、アラスカの北方林との共通性と違いを明らかにしていくことも、検討する必要がある。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

②酸性雨越境大気汚染、海洋汚染(地球規模の化学物質汚染を含む)
研究課題名: C-051
アジア大陸からのエアロゾルとその前駆物質の輸送・変質プロセスの解明に関する研究
研究代表者氏名:畠山史郎(国立環境研究所)

1.研究概要

 東アジア地域においては中国を筆頭とする開発途上国の経済発展が著しく、それに伴う化石燃料使用量の急増により、酸性雨原因物質の増加にとどまらず、窒素酸化物放出の増大による対流圏オゾン濃度の上昇や、粒子状大気汚染物質の増加などがいずれも深刻になりつつある。本研究はそのような状況を考慮して、大規模発生源である中国、および風下に位置して輸送途上あるいは受容地域となる日本を主要研究対象地域として、中国上空での航空機観測と日本における地上観測の集中的な実施や、輸送経路に沿った数値モデルの開発と観測結果に基づく検証などを通して、ヨーロッパや南・東南アジアの影響をも視野に入れた広域的な解析を進めることにより、エアロゾルとその前駆体である大気汚染物質のユーラシア大陸東部全体における輸送・変質の挙動を総合的に把握することを目的とするものである。
・サブテーマ構成
(1) 地上観測・航空機観測による大気汚染物質・エアロゾルの広域分布と輸送プロセスの解明に関する研究
(2) 沖縄におけるバイオマスエアロゾルのトレーサー(CO、VOC)の観測と輸送プロセスの解明
(3) 福江・沖縄・小笠原における大気汚染物質・エアロゾルの変動の観測と放射強制力の推定
(4) 中国大規模発生源地域における大気汚染物質・エアロゾルの観測と解析
(5) 南アジア~東南アジア~中国~日本における輸送と化学変化に関するモデル研究
(6) バックグラウンド地域(北部ユーラシア)からの輸送と影響に関する研究

2.研究の進捗状況

サブテーマ (1)
・中国~東シナ海~沖縄の輸送経路に沿った中国航空機観測、福江・沖縄(辺戸岬)における地上観測を行った。2005 年 11 月、辺戸岬において汚染気塊と黄砂をほぼ同時に観測した。初めは硫酸塩や有機物が多かったが、これらが減少した後にも粒子重量濃度は高く、人為起源汚染よりわずかに遅れて黄砂が到達したことが判った。
・辺戸岬においてライダーによる連続観測を開始、強風に伴う海塩粒子の増加、台風によると思われる対流圏エアロゾル層、大陸から輸送される大気汚染性エアロゾル、黄砂、バイオマス燃焼起源と考えられるエアロゾル層などを観測した。
・シベリア~日本海~本州の輸送経路に沿った新潟県巻における地上観測により、ガス成分および粒子状成分濃度の季節変動等を調べ、非海塩性硫酸塩濃度が夏季に高く冬季に低くなるなどの結果を得た。
・観測結果を統一的に解析するためモデルの整備を進め、日本周辺での元素状炭素(EC)/有機炭素(OC)比を再現したほか、EC と OC の地上濃度に占める国内・中国・東南アジアからの排出寄与を推定した。

サブテーマ (2)
・辺戸岬における O3 および CO 濃度の解析を行い、濃度変動は主に空気の流入経路の違いで説明できることを明らかにした。
・植物体燃焼起源とされている CH3Cl および CH3CN 濃度の観測結果より、前者は海洋から、後者は都市における燃焼以外の過程からの発生の可能性があることが判り、指標として問題があることが明らかとなった。

サブテーマ (3)
・配置測定点の中で最も風下(東端)にある小笠原父島においてエアロゾルの地上観測を実施した。夏季~秋季の清浄状態から冬季の汚染状態への遷移以降、SO42- と黒色炭素(BC)が同期して変動する状況が観測された。また、寒冷前線の後面に引き連られた帯状の汚染物輸送に伴う BC および SO42- 濃度の変動が時間単位で測定され、その際のエアロゾル光学的特性との対応が初めて捉えられた。

サブテーマ (4)
・アジアの代表的メガシティである北京において、エアロゾルの主要成分である EC と OC 濃度を、燃焼過程で同時に排出されるCO および CO2 と並行して観測した。EC、OC の平均濃度は東京やアメリカの大都市に比べて 4~5 倍であった。弱風時にはこの平均値よりさらに高濃度となり、多くの国で採用されている環境基準を超えた。強風時には逆に低濃度になり、中国東北部のバックグラウンド濃度が得られた。

サブテーマ (5)
・全球エアロゾルモデルを用いて、2001 年 2 月~ 3 月のシミュレーションを行い、中国各地の都市および日本の2都市について、計算値を観測結果と比較した。中国北部諸都市おける土壌粒子の相対的割合、南部内陸都市でのバイオマス燃焼起源粒子の寄与、日本の都市でのエアロゾル組成の特徴などが概ね再現された。

サブテーマ (6)
・大気汚染の長距離輸送を評価する上で極めて重要な地域である東シベリアおよび沿海州の4地点で大気および降水成分濃度を通年観測するとともに、降雨・積雪中の鉛濃度とその同位体比を測定した。その結果から、酸としては硫酸が、中和物質として塩基性カルシウム粒子とアンモニアガスがそれぞれ降水の酸性度に直接関係しているものと考えられた。また鉛同位体比は、大部分がロシア地域から流入した気団がもたらした日本国内の積雪に対する値とよく一致し、東シベリアと日本の大気環境が密接に関係していることが判った。
・アジアと欧米から8つのグループの参加を得て、広域輸送モデルの相互比較を行った。月平均 SO2 濃度の計算値を EANET 観測値と比較したところ、モデルは各地点における濃度の特徴をよく再現していた。しかし、日本の測定点における過小評価や中国における過大評価も見受けられた。

3.委員の指摘および提言概要

・研究の内容が多岐にわたっており、個々のサブテーマの担当者は十分努力して水準の高い結果を得ていることは評価できるが、最終的には課題代表者がリーダーシップを発揮して全体的な成果を収斂させ、わかりやすい「完成図」を作り上げることが必要である。何が研究の一番のポイントであるかを明確にして欲しい。
・集中観測により学術的に重要なデータが得られていることは認められる。今後の課題はその知見をどれだけ一般化できるかということ、また行政的な面にどれだけ寄与できるか、ということであろう。例えば、モニタリングの方針(何をどこで測ればよいかなど)や対策について何らかの提言ができるか。
・上記に関連して、モデルが単なる「現状理解」という範囲を超えてどれだけの役割を果たせるかが問題。
・サブテーマ (3) のタイトルに現れている「放射強制力」は、基本的には地球温暖化に関わるものであり、この研究における位置づけが不明確。また、広範な観測が必要とされ、現在の研究体制で十分な成果が得られるとは考えられない。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
  サブテーマ6:  
 

研究課題名: C-052
酸性物質の負荷が東アジア集水域の生態系に与える影響の総合的評価に関する研究
研究代表者氏名:新藤純子(農業環境技術研究所)

1.研究概要

東アジアは急激な経済発展や人口増加にともなう食料増産などにより、近年エネルギーや肥料の消費量の増加が著しい。このような人為活動の活発化は、酸性・酸化性物質の排出の増大を招き、環境への影響も顕在化している。酸性物質の中で、窒素は制御が困難で、生態系内での挙動が複雑であるため、アンモニア、硝酸など生物が利用可能な形態の窒素の循環量増加は世界的にも大きな関心を集めている。本研究は、中国の広州周辺、長春周辺やタイ南部において渓流水、土壌、大気質、降水などに関する現地調査を行い、さらにASEAN+3 と呼ばれる東アジア 13カ国を対象領域として社会・経済的データを収集して、それらの結果に基づいて総合物質循環モデルを構築することにより、現実的なシナリオの下で酸性物質負荷の実態と将来の動向、およびそれによる流域の物質循環の変化を広域的に推定することを目的とするものである。
・サブテーマ構成
(1) 大気沈着量の簡易測定手法の開発と東アジアにおける沈着量の測定
(2) 東アジアの異なる森林生態系における生態系構成要素の測定に基づく酸性物質循環の解析
(3) タイ熱帯季節林集水域における物質収支解析に基づく酸性沈着の生態系影響評価
(4) 東アジア諸国の人口移動、エネルギー消費等の変化に基づく排出源変化の予測
(5) 東アジア集水域の酸性物質による生態系影響総合評価モデルの開発

2.研究の進捗状況

サブテーマ (1)
・イオン交換樹脂カラムを用いる無機態窒素沈着量の測定法を開発し、バルク採取と同等の捕集効率が得られることを確認した。この方法により中国の4地点(長春、長白山、北京、広州)において観測を行い、窒素沈着量は長白山や北京で少なく、長春と広州で多いという結果を得た。また、いずれの地点でもアンモニアの寄与が硝酸より大きいことが明らかとなった。長春や広州では樹林外よりも樹林内での沈着量が多く、その傾向は針葉樹で顕著であった。

サブテーマ (2)
・中国の長春、長白山、広州、および日本の八王子(対照地)において、森林土壌、渓流水を採取し化学組成を分析した。長春、長白山では土壌の交換性塩基成分が豊富で、酸性化は初期の段階にあったが、広州では土壌層の最下部にいたるまで交換性塩基はほぼ枯渇しており、また、土壌と渓流水の pH がほとんど同じで 4.1 と著しく低く、高濃度の溶存 Al も含まれていて、重度の酸性化が進んでいることが判った。

サブテーマ (3)
・タイのサケラートを物質循環調査の対象地として、大気汚染質濃度の測定、降水、土壌、渓流水等の化学分析を行い、既存データもあわせて対象地の物質循環特性を検討した。渓流水 pH は 5.6 程度と比較的低く、集水域内に分布する酸性土壌の影響が示唆された。また、表層土壌の pH(H2O) と pH(KCl) は空間変動が大きく、地形や森林構造の影響を受けている可能性があることが判った。

サブテーマ (4)
・東アジア各国の人口変動をコホートモデルで推定し、農村から都市への人口の移動、農村と都市の所得格差、所得ごとの家電製品所有率などに基づくと、2020 年の家庭用電力消費量が現在の3倍以上となると予測された。この他インドの農業畜産からの窒素負荷、中国、フィリピンなどの自動車からの NOx 発生量の推定および予測を示した。

サブテーマ (5)
・東アジア 13カ国を対象として、統計データに基づいて家畜と肥料からのアンモニア発生量分布およびその経年変化を推定した。対象領域での 2002 年の総発生量は880万tN で、同地域のNOx 発生量の約2倍と見積もられた。中国については、地区(省・直轄市・自治区の下の行政単位)毎の発生量分布を推定したところ、東部の広い地域、広東省など南部、四川省など内陸部、と広範囲にわたって発生量が大きいことが判った。また、1kmグリッドでの発生量分布はサブテーマ (1) の沈着量測定と対応していた。人口とGDPの将来推計シナリオのもとで、2020年には発生量が約 1.4 倍となると予測された。また、森林域での窒素循環を広域で推定するためNPPなどのGISデータを整備中である。

3.委員の指摘および提言概要

・初年度の進捗状況から判断すると、研究終了時の目標を達成できるか心配である。
目標の一つは、「東アジアにおける酸性物質の負荷量と流出量の実態、および気候、土壌、植生による影響の違い等の地域特性について明らかにする」となっているが、限られた地点(中国4点、タイ1点)における観測からどのようにしてこの目標にたどり着くか道筋がはっきりしない。
・サブテーマ (1), (2)(中国)とサブテーマ (3)(タイ)とで観測対象および手法を統一し、相互の比較が容易にできるように調整することが望ましい。また、生態系への負荷量を評価できるような観測設計が必要である。
・もう一つの目標として、東アジアを対象とする、酸性物質の負荷による生態系影響の「広域推定モデル」あるいは「総合評価モデル」の作成が挙げられているが、サブテーマ (4) あるいは (5) の現状では、残された時間内に目標が達成できるようには見えない。
・とくにサブテーマ (4) の位置付けが明確でない;サブテーマ (1), (2), (3) とどのように結びつけるのか。成果を サブテーマ (5) にインプットする仕組みも必要であろう。このサブテーマは別個の社会科学分野のテーマとなるのではないか? ただ、人口やエネルギーなど酸性物質負荷と一見因果関係がなさそうな諸要素との結びつきに注意するという発想は、地球環境問題を考える上で必要ではあるが。
・サブテーマ (5) のエミッションインベントリー、将来予測については先行する研究が多い。この研究でさらにそれらを扱うのが適当かどうか再検討が望ましい。物質収支解析および総合評価に重点を置くのがよいのではないか。
・森林の窒素循環モデルとして、日本に対する適用が成功したモデルを改良して東アジアに拡張しようとしているが、日本に比べて格段に多様性の大きいフィールドなので「改良」というレベルでうまく行くかどうかは問題があり十分な検討が必要である。
・中国を対象とする場合、とくに統計データの信頼性に十分注意する必要がある。また、予測計算においては条件設定を変えて感度解析をすることも必要であろう。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
  
③自然資源の劣化(熱帯林の減少、生物多様性の減少、砂漠化等)

研究課題名: E-051
森林-土壌相互作用系の回復と熱帯林生態系の再生に関する研究
研究代表者氏名:鈴木 英治(鹿児島大学理学部)

1.研究概要

2006年のFAOによる報告では、アジアの森林面積は2000年以降増加している。しかし、熱帯林の減少はいまだに止まらない。その原因として、大規模森林火災、違法伐採、無秩序な開発などが挙げられる。アジア地域では、特に、インドネシアの熱帯林が問題となっている。森林火災や違法伐採で劣化した熱帯林を再生するには、再生課程の詳細な調査が重要である。特に、植物?土壌?土壌微生物の相互作用系に焦点を当てた研究が必要である。
本研究では、森林と土壌の相互作用系を通じて、多様性に富み健全な熱帯林を再生させる方法を明らかにするため、ボルネオ島、ブキットバンキライの重度火災被害地域から無被害地域まで5地区に、各1haの調査区と西スマトラ州パダンに6.5haの違法伐採森林を研究対象地域として研究を行った。

サブテーマの構成は下記のとおりである。
(1) 熱帯林における樹木群集の構造と機能の再生課程に関する研究(鹿児島大学)
(2) 土壌環境と微生物群集の回復が熱帯林再生に果たす役割の研究(東京大学)
(3) 根粒菌による窒素固定が熱帯林再生に果たす役割の研究。(鹿児島大学)
(4) 熱帯林における腐生菌類の遷移とその森林再生に果たす役割の研究。(森林総合研究所)
(5) 熱帯林の生物多様性評価と再生指標に関する研究。(国立環境研究所)
(6) 熱帯林生態系の再生/回復モデルの構築と森林管理に関する研究。(鹿児島大学)

2.研究の進捗状況

(1)東カリマンタンの森林火災被害地と西スマトラのパダンの違法伐採地において、植生の回復調査を行った。種の多様性は森林火災7.5年後でも140種もあった。再生林は先駆性の種が多く、元の組成にもどる年数は予測できないが、完全に回復するまで200年は必要である。再生林でも種数が多いので、農地やオイルパーム園などに転換するのではなく、種の保全の観点から、森林の保全策を考える必要がある。
(2)火災後の土壌の理化学性の変化とそこの根圏細菌類の種と遺伝的多様性の解析を行うと共に、樹木の生育を促進する菌根菌と樹木の相互関係を調べた。その結果、火災被害地と無被害地では土壌環境に違いが見られた。特に、有機物量の変化と撥水性に火災の影響を受ける事がわかった。被害や再生の程度が異なる熱帯林において、土壌中の優占菌類の多くは分類学的に共通であっても、機能や発現において差が見られた。森林火災跡地においては菌根菌の検出頻度が極めて低かった。
(3)根粒菌とマメ科樹木の分布パターンについて、再生途上の森林で調査を行った結果、火災被害の少ない場所ではマメ科植物の種類は少なく、火災被害度の高い地域ではマメ科幼木の種類が多い。また、根粒数や根粒着生頻度も高く、根粒菌は森林再生初期に活性が高いことがわかった。
(4)有機物の分解を通して森林の健全化に貢献する腐生菌類が、森林再生に伴いどのように遷移するか調査した結果、軟質菌類の標本数と硬質菌類の出現種数の傾向は、枯死材供給量と一致していたが、落葉分解菌標本数は落葉量と一致しなかった。被害林ではそれを分解するキノコは無被害林より多かった。
(5)森林再生に伴う微環境と多様性の変化を樹木、微生物、着生植物等について調べ、森林再生に伴う相互関係を解析し、再生指標を抽出する研究を行った。この結果、森林火災からの再生課程での蘚苔類の多様性が明らかになった。また、地衣類を用いた森林再生評価手法が提案され、検証が進められた。
(6)森林再生モデル作成のため、樹木群集の動態に関する既存のデータを解析し、熱帯樹林の再生特性に関する基礎データベースの作成を行った。

3.委員の指摘および提言概要

樹木群集、土壌、土壌中の微生物群集の相互関係に着目した斬新な基礎的研究である。貴重なデータが集まりつつあり、熱帯林再生技術に対して貢献できる。また、DNA解析を取り入れた生態系機能の解析は世界的に類を見ない研究である。しかし、サブテーマ間の連携が見えず、特に、サブテーマ(2)~(6)では森林火災地域に集中しているが、(1)では行っているスマトラでの研究の意義が不明確である。
 土壌に関しては土壌浸食など物理的、地理学的な状況を考慮した研究が必要ではないか。森林再生過程の動態を解析することも重要である。さらに、土壌環境についての研究を(1)、(5)、(6)に対してどのように貢献できるかよく検討する必要がある。
 この種の調査研究は継続性が重要で、現地調査等を継続して欲しい。また、日本側の行政担当者に対する働きかけも念頭において研究を進めて欲しい。
 成果の公表、論文発表等に対しても努力して欲しい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
  サブテーマ6:  
 

研究課題名: F-051
脆弱な海洋島をモデルとした外来種の生物多様性への影響とその緩和に関する研究
研究代表者氏名:大河内 勇((独)森林総合研究所)

1.研究概要

 海洋島は固有の生態系を発達させてきた。そこでは今でも進化が起こっており、科学的価値も極めて高い。しかし、海洋島の生物は長らく天敵などの脅威にさらされてこなかった上、環境収容能力が小さいため、侵入生物による補食や種内競争の影響を受けやすいことから、その生態系は極めて脆弱であり、人間の移住による乱獲、生息地の減少、外来種などにより存亡の危機にある。
 本研究は、小笠原諸島における外来種管理戦略を構築し、国際的な保全プログラムや条約、世界遺産への登録、国内の外来生物法や自然再生法の実行などに貢献することを目的として、小笠原諸島の外来種の現況解明、系統及び遺伝情報の保存手法の開発、外来種による影響の緩和手法の開発、根絶手法の開発研究を行う。
 サブテーマ構成は下記のとおりである。

(1) 小笠原諸島における侵略的外来植物の影響メカニズムの解明と、その管理手法に移管する研究。 (首都大学東京)
(2) 小笠原諸島における侵略的外来動物の影響メカニズムの解明と、その管理戦略に関する研究。 (森林総合研究所)
(3) 固有陸産貝類の系統保存に関する研究。(東北大学)
(4) 侵略的外来種グリーンアノールの食害により破壊された昆虫相の回復に関する研究。(神奈川県)
(5) グリーンアノールの生息実態と地域的根絶手法に関する研究。(自然環境研究センター)
(6) 侵入哺乳類が小型海鳥類の繁殖に与える影響評価。(小笠原自然文化研究所)

2.研究の進捗状況

本研究の目的は小笠原諸島を対象に、外来種の現況調査、系統及び遺伝情報の保存手法の開発、外来種による影響の緩和手法の開発、根絶手法の開発研究である。
(1)遷移初期における外来種ギンネムの侵入・定着がその後の植生遷移に与える影響の課程を明らかにした。有害性が高く、排除が容易な種を優先的に排除する戦略が有効である事を示した。
(2)グリーンアノールにより繁殖が阻害されている植物は昼行性の花粉媒介者に大きく依存している種であることがわかった。ニューギニアヤリガタリクウズムシは3日で50%、11日で90%以上の貝類を死亡させる高い補食圧が明らかになった。種子散布に関して、メジロが果たしている役割が大きいことがわかった。移入アリが花外蜜線を介して植物と埴食性昆虫の関係に影響を与えている事を明らかにした。
(3)兄島の陸産貝類は極端な生息密度の減少が観察された。また、カタマイマイなどの大型陸貝類はネズミによる補食が激増している。外来種陸貝の新たな侵入や分布が観測された。母島において、絶滅したと考えられていた5種の陸貝が再発見された。陸貝の人工繁殖方法を確立した。母島のカタマイマイ類についてDNA分析を行い、遺伝的構造について解明した。
(4)固有昆虫相の調査を行い、絶滅の危険性を判断した。人工池でオガサワラアオイトトンボなどの繁殖に成功した。人工環境下でオガサワラハンミョウに幼虫が得られ、人工飼育による系統維持の可能性を示した。オガサワラシジミ保全のため「オガサワラシジミ保全連絡会議」を立ち上げ、また、「オガサワラシジミの会」の設立を行った。
(5)グリーンアノールは高密度に生息するため、地域を限定した防除を行う。捕獲には季節的な適季があり、初夏から秋に駆除することが有効である。誘引捕獲ではなく、高密度にトラップ等で捕獲する事が有効。
(6)イエネコ由来の野生化したネコによる海鳥類の補食被害が甚大である事がわかった。早急に野生化したネコの排除対策をとる必要がある。

3.委員の指摘および提言概要

小笠原諸島を対象として、生物相の現況、絶滅危惧種の緊急保全策、生態系の影響緩和策、根絶手法などの研究を行っている。こうした方面から研究することはこの研究課題を成功させた要因である。
  生物群ごとに生態系の中での役割を評価し,その対策を提案している。グリーンアノールや野ネコの駆除に関する具体的な駆除方法など、本研究の研究目的に向かって成果を挙げている。今後に期待できるが、この研究成果をどの程度一般化できるかがこれからの課題である。
  サブテーマ(4)の研究は具体的な対策につながる研究として評価できるが、(1)は基礎的な研究で、具体的な対策の提案がない。空間スケールを拡大し、多様な試みを比較できるような研究計画が求められる。また、カタマイマイの遺伝的変異の研究は研究の位置づけが不明確である。
  植物の研究ではモクマオウなど顕著な影響が認められる種の有効な駆除方法の研究に重点化する必要がある。
  本研究のような研究成果は専門誌等に投稿、掲載されるほうがインパクトは大きい。
 

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み): a
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  
  サブテーマ5:  
  サブテーマ6:  
 

研究課題名: F-052
生物相互作用に着目した高山・亜高山生態系の脆弱性評価システムの構築に関する研究
研究代表者氏名:占部 城太郎(東北大学大学院生命科学研究科)

1.研究概要

温暖化による生態系変化が懸念されている。特に高山・亜高山生態系は温暖化に対して脆弱な生態系として危惧されている。しかし、高山・亜高山の特有で多様な生物群集が維持されている生態学的な諸過程は殆ど判っていない。また、水系に関しても、高山・亜高山帯の研究は行われていない。特に、高層湿原や高山湖沼の生物群集は周囲の森林や植生と一体となっているため、周囲からの影響を受けやすい。こうした高山・亜高山帯生態系の脆弱生や環境変化に対する応答を予測するため、生物多様性とそれを維持している種間相互作用を包括的にとらえる研究が必要である。
本研究は、高山・亜高山帯の生態系を対象に、温暖化に対する生物種の機能的・生理的応答とその多様性を把握し、種レベルの応答が種間相互作用によって個体群や群集レベルの応答を増幅あるいは緩和するかを調べる。また、これらの集団が食物網や空間構造により異なるかを明らかにし、どの様な生態系が脆弱で危険度が高いか評価するシステムを提示する。研究対象地域として八甲田山系の田代平湿原、高田谷地湿原、田茂湿原と大雪山系、阿寒山系を選んだ。
サブテーマ構成は下記のとおりである。
(1) 八甲田山系における高層湿原生態系の研究。(東北大学)
(2) 大雪山系・阿寒山系における高山生態系・亜高山針葉樹林生態系の研究。(北海道大学)
(3) 陸系?水系間の物質フローが水系の食物網構造に及ぼす影響の解析(山梨大学、京都大学)

2.研究の進捗状況

本研究の目的は高山・亜高山帯の生態系を対象に、温暖化に対する生物種の機能的・生理的応答とその多様性を把握し、種レベルの応答が種間相互作用によって個体群や群集レベルの応答を増幅あるいは緩和するかを調べる。また、これらの集団が食物網や空間構造により異なるかを明らかにし、どの様な生態系が脆弱で危険度が高いか評価するシステムを提示することである。 (1)高層湿原の植物群集では、低標高ほど常緑種の種数や現存量は高層湿原を占める割合は少なく、山岳湖沼型群集は高緯度地域ほど常緑種の分布域の高度が低くなる事が明らかになった。得られたデータから植物群集の脆弱生を予測するシミュレーションの枠組みを完成した。高山・亜高山湖沼に特徴づける種が明らかになった事で、その種のバイオマスの増減に対して、どの要因が影響するかを予測するモデルの構想も得られた。
(2)低温によるストレスが強い風衝地群落では、温暖化により一部の種が急速に成長を促進し、他の植物を圧する傾向が見られた。また、雪田群落では温暖化による成長期間の延長を伴わないため、温暖化はほとんど影響をもたらさなかった。温暖化が雪解け時期に影響を与えれば雪田群落にも影響が出るだろう。高山帯湖沼に生育する微生物群集の遺伝分析研究では、高山帯湖沼のバクテリア群集は特定の種ではなく、機能的な分類群の出現パターンによって特徴づけられる。その多様性は湖沼によって異なる。
(3)高山・亜高山帯の表面積の小さな湖沼ほど周囲の陸上植生と密接に結びついている。こうした湖沼では、陸上有機物を起点とする腐食連鎖が動物プランクトン及び補食生の無脊椎動物を維持する主なエネルギー経路となっていた。食物網全体に陸上由来の炭素が強く流入している事が明らかになった。高山・亜高山帯の湖沼生物群集は陸上からの炭素補給によって維持されていると予想され、温暖化による陸上植物群の変化が水界生態系へ影響を及ぼす事が予測される。

3.委員の指摘および提言概要

高山・亜高山帯の生態系を対象に、温暖化に対する生物種の機能的・生理的応答とその多様性を把握し、種レベルの応答が種間相互作用によって個体群や群集レベルの応答を増幅あるいは緩和するかを調べている。概ね順調に成果が出ているが、この成果をどのように社会還元し,政策活用するか明確でない。
今後の調査結果、特にNの利用効率やC同位対比の研究は期待がもてる。しかし、個別の研究は成果が上がっているが、全体としての焦点がぼやけている。また、研究成果は必ずしも新規性に富むものではなく、環境変動に対応する生態系レスポンスの変化メカニズムやプロセスも明らかにされていない。
システムの脆弱性を議論するのみでなく、個々の生態系現象を明確、明快に提示できるような研究成果を挙げられたい。温暖化対策にどのような面でどのように寄与するかを十分に考慮しながら、今後の発展の方向性を定めていただきたい。さらに、国際的な議論の場で重視されているデータを提示することも重要である。今後はこれらの点を考慮して研究を行って欲しい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: H-051
環境負荷低減に向けた公共交通を主体としたパッケージ型交通施策に関する提言
研究代表者氏名:青山 吉隆(広島工業大学環境学部))

1.研究概要

運輸部門のCO2削減は地球温暖化対策において重要な意味を持っているが、そのためには自動車への過度の依存を改め、公共交通機関の積極的な整備・利用を進める必要がある。また、交通弱者対策、中心市街地の活性化等の面からも公共交通機関のメリットは大きいと考えられている。
 本研究は公共交通機関のうちLRT (Light Rail Transit:低床式の新型路面電車) を中心に、ロードプライシング(混雑する地域を通る自動車からの料金徴収)やトランジットモール(中心地の街路を歩行者とLRTの専用道路とすること)等、様々な施策を組み合わせた「パッケージ型交通施策」のあり方を提示し、環境負荷低減等に対する有効性及び実現の可能性や方策を探るものである。
 サブテーマ構成は下記のとおり。

(1)先進都市における交通施策と交通行動に関する研究
(2)環境負荷低減に向けたパッケージ型交通施策に関する研究
(3)LRT導入による効果検証に関する研究
(4)LRT導入を推進するための法制度や行財政に関する研究

2.研究の進捗状況

近年LRTが積極的に導入されているフランスにおいて導入済み及び導入予定の都市にアンケートを行い、19都市から回答を得て、ヒアリングとも合わせフランス都市の取組状況、方針、合意形成プロセスの特徴等を明らかにした。LRTは比較的規模の小さい自治体でも多く導入されており、交通だけでなく福祉等多目的な位置づけがなされていること、合意形成を短期間に集中的に実施していること等、様々な知見が得られている。
 また、LRT導入による効果を明らかにするため、フランス・ドイツの既存資料の分析を行うとともに、フランスにおいて導入済及び導入予定の各1都市について住民アンケート調査を行い、導入済都市のほうが公共交通機関利用の意識が高いこと等を明らかにした。
 日本では京都市をモデルとして取り上げ、LRTとトランジットモールを導入した場合には中心市街地への来訪者が増加すること、LRTと他の施策を組み合わせて導入すれば、施設整備も含めたトータルでのCO2排出量を減らすことができること等を示した。これにあたっては、既存の交通関係データの分析、市民へのアンケート調査、交通シミュレーション等を行っている。
 さらに、わが国で「パッケージ型公共交通施策」を導入する上で法制度、行財政等の課題があるが、それらを整理するための作業として、都市ビジョンを実現するための都市交通施策という視点の明確化、他国の公共交通に関する財政制度の情報収集等を行っている。
 研究内容については、土木学会の企画セッション、約280名の参加を得た国際シンポジウム、ホームページ等により情報発信を行っている。

3.委員の指摘および提言概要

本研究は、社会的重要度の高いテーマに意欲的に取り組んでおり、政策へのフィードバックが期待できる。また、フランスでの調査等は達成度が高く関係者に貴重な情報を提供できるものと考えられる。
 今後の研究に必要な点は、まず、研究領域と達成目標を明確にすることである。財政、制度、市民意識、市民参画等の幅広い問題に関連する課題であるだけに、残り1年半の研究成果を確実にするためには論点の整理が必要である。その上で、「LRTありき」ではなく中心市街地活性化や持続可能性を目指した公共交通施策におけるLRTという位置づけを明確にすること、フランスやドイツの成功事例について制度等の背景を踏まえて調査結果を解釈するとともに、日欧の制度や都市の状況を踏まえ、日本での実例について取り上げて政策提言に結びつく実践的な研究成果をまとめることが求められる。
 上記以外に望まれる点として、フランスやドイツ等の研究者及び研究状況の把握と連携、市民合意形成に関する焦点を絞った研究(例えば専門家の役割とその育成)、LRT導入効果の測定・評価方法の精査等の意見が出されている。
 なお、サブテーマ(4)は(1)~(3)の成果を具体的な提言に結びつけることが期待されるテーマと思われるが、ドイツの制度をまとめた部分以外は新しい知見に乏しいと指摘されている。今後の研究にあたっては、この部分の進め方について再確認する必要があると考えられる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: H-052
ライフスタイル変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する研究
研究代表者氏名:青柳 みどり((独)国立環境研究所)

1.研究概要

地球温暖化防止のためには、家庭におけるライフスタイルの見直しを通じた排出抑制が重要であることはいうまでもない。そのためには、一般の人々の温暖化問題に関する理解と具体的な行動が促進されるような情報伝達が不可欠であり、本研究はそのためのより効果的な方法を見出すためのものである。
 具体的には、世論調査の方法により市民の環境問題に対する意識の変化を時系列的に観察するとともに、1,000名以上を対象とする面接調査によって詳細に環境意識、行動、社会的ネットワークや相互の信頼の状況(ソーシャル・キャピタル)、信頼を置く情報源等を把握する。この面接調査は日本とともに中国の3都市でも実施し比較研究を行う。合わせてマスメディアの記事や番組内容の分析を実施し、地球環境問題の取り扱われ方、報道内容と市民意識との関係等を明らかにする。これらの知見により、ライフスタイル見直しのための有効な情報伝達手法について政策的示唆を得るものである。
 サブテーマ構成は下記のとおり。

(1)生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する国際比較研究
(2)中国における生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する研究

2.研究の進捗状況

環境問題に対する意識の変化については、専門会社の世論調査に項目を加える形で毎月実施しており、平成18、19年度も継続する予定である。日本にとって最も重要な問題は環境問題だと考えている市民の割合は0.5-2.5%程度しかないが、世界で最も重要な問題と考えている市民の割合は20%程度あること等がわかった。
 面接による市民意識調査は日本(全国)と中国(上海)について行った。環境問題についての情報源は新聞とテレビが中心であること、中国のほうが日本より他者への一般的信頼感が高く、政府への信頼も高い一方、日本ではジャーナリストや環境保護団体等への信頼感が高いこと等の知見が得られた。平成18年度は日本と中国の別の都市について実施する予定である。
 マスメディアの内容分析については、現在、データベースを作成中であり、18年度から分析作業を実施する予定である。

3.委員の指摘および提言概要

平成17年までの内容の一つは日中の市民意識の比較調査であるが、環境問題における中国の存在は今後ますます大きくなると考えられるので、こうした研究は重要である。市民意識調査の海外での実施には困難が伴うと考えられるが、その中で研究を推進し情報を得ていることは評価される。もう一つの内容は環境問題の顕著性に関する時系列調査であり、途中段階であるものの評価する意見があった。
 一方、現段階ではライフスタイル変革のための情報伝達手段の「有効性」を捉える枠組みやストーリー、測定の方法論等が明確でないとの指摘があった。今後の研究を進めるためにそれらの点を検討し、研究の目指す着地点とそこに至る道筋を明らかにする必要がある。
 研究の実施にあたっては、他地域(ドイツ、アメリカ等)での既存研究との比較可能性の検討、欧米で作られた理論がアジア地域に本当に適用可能であるか再検討した上での現状に即した解釈、市民意識調査で市民が必ずしも本音を答えないことを前提とした上での説得力ある知見のとりまとめが望まれる。また、日中比較の意味は疑問でありむしろ中国の現状について緻密なデータを得ておくことに意義があるとの意見もあった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2: