平成17年度事後評価結果詳細

 

研究課題名: B-6
東アジアにおけるハロカーボン排出実態解明のためのモニタリングシステム構築に関する研究
研究代表者氏名:横内陽子 (国立環境研究所)

1.研究概要

  フロン等の長寿命ハロカーボン類は強力な温室効果気体であり、その温暖化への寄与は二酸化炭素全量の約25%に匹敵している。このうち、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、PFC(パーフルオロカーボン)とSF6(六フッ化硫黄)については、地球温暖化防止の観点から京都議定書によって先進国における削減が求められている。しかし現状では、大気中におけるこれらのガスの総濃度は年間数%の割合で増加しており、また、日本を取り巻くアジア諸国では今後の経済的発展に伴ってこれらのガス排出量がむしろ増加することが懸念されている。本研究では、東アジアの影響を検出するのに適した沖縄県の波照間観測ステーションにおいて、HFC等ハロカーボン類の連続観測を立ち上げる上で必要なシステムを開発するとともに、日本沿岸上空における航空機観測を実施して東アジア/日本におけるこれらのガス濃度のトレンドとその影響を把握し、さらに化学輸送モデルを用いた解析によってハロカーボン排出量を推定する。サブテーマはつぎの3つである。
(1) 波照間におけるハロカーボンの連続観測と発生源解析に関する研究
(2) 日本沿岸上空におけるハロカーボンの鉛直分布モニタリングに関する研究
(3) 化学輸送モデルを用いた東アジアにおけるハロカーボン排出量の推定に関する研究

2.研究の達成状況

(1) ハロカーボン類(PFC3種、HFC4種、SF6, HCFC5種、CFC6種、ハロン2種およびその他7種)の濃度を連続測定するシステムを開発し、既存の波照間観測ステーションで、平成16年2月から毎時間の測定を開始し、良好な観測を継続し多数のデータを得ることが出来た。そしてそれらの季節変動を明らかにし、後方流跡線解析により東アジアの発生源地域を推定した。
(2) 相模湾上空で大気中ハロカーボン濃度の鉛直分布を、航空機観測により月1回実施した。相模湾周辺地域におけるハロカーボン排出割合が日本全体を代表し季節変動はないと仮定して、それらから得られた対流圏下層での濃度増加をもとに、HFC類やPFC類の国内発生量を推定した。
(3) ハロカーボンの1種のHCFC-22について、その東アジアでの排出量分布を与えて、産総研で開発された大気輸送モデル(STAG)を用いてその濃度を計算し、波照間での観測データと比較した。波照間で観測された濃度の時系列の低濃度側については、STAGの計算結果との差は5ppt以下とほぼ一致したが、高濃度側ではSTAGの計算値は観測濃度よりも低く、その差は最大で90pptに達した。
これらから、当初計画した研究目標をほぼ達成できたが、サブテーマ3の達成度は、モデルが観測結果をまだ精度よく再現できなかったところもあり、不十分と判断される。

3.委員の指摘および提言概要

 地球温暖化防止およびオゾン層保護などで対象となっているハロカーボン類に関して、東アジアにおけるその実態を把握できたことは、高く評価できる。具体的には、サブテーマ1で、波照間の観測ステーションで、ハロカーボン濃度を高精度で連続測定するシステムを開発して長期モニタリングを行っていること、サブテーマ2で、ハロカーボン濃度の相模湾上空の鉛直分布の解析により、HFC類やPFC類の国内排出量をはじめて推定できたこと、サブテーマ3で化学輸送モデルの有効性がある程度検証されたこと、などである。ただし、3つのサブテーマから得られた成果について、観測結果、モデル計算、および排出実態を、相互に関連づけた詳しい説明が不十分であった。またサブテーマ3では、モデルによる計算値が高濃度側では観測値より大きくずれたことの原因解明、また、モデルの水平分解能の向上など、東アジアでのハロカーボンの排出量推定とともに、今後さらに取り組むことを期待する。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: B-8
有機エアロゾルの地域規模・地球規模の気候影響に関する研究
研究代表者氏名:畠山史郎 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

  地球温暖化研究において、エアロゾルは、地域・地球の気候を支配する放射収支に大きな影響を持っているにもかかわらず、二酸化炭素などの温室効果ガスに比べて、その実態とモデルによる解明が遅れている。アジア地域には、南アジアから東南アジア、および東アジアの広い地域において、大気中のエアロゾル濃度が高いヘイズ(Asian Brown Clouds(ABC)とUNEPによって命名された))がかかっており、炭素質粒子や硫酸塩、硝酸塩、有機物などが、発生源地域から長距離輸送され、越境大気汚染を引きおこしている。本研究では、ABCに含まれる有機エアロゾルを主要な対象として、アジア地域を覆うヘイズについて、その生成機構、広域空間分布と輸送過程、および気候変動に与える影響などを、エアロゾルの輸送モデルの開発とおもにアジア太平洋地域での観測とから明らかにする。サブテーマはつぎの2つである。
(1) 有機エアロゾルの輸送と放射強制力に関する研究
(2) 有機エアロゾルのキャラクタリゼーションに関する研究

2.研究の達成状況

(1) 人間活動および自然起源から発生し、さらに大気中で輸送されながら生成および乾性・湿性沈着するエアロゾル濃度の全球分布を予測するモデル(AGCTM)を開発した。このモデルを用いて、2001年2-3月にNASAが実施したTRACE-Pキャンペーン観測時を対象とした数値シミュレーションを行い、観測結果と定性的によく合う結果を得た。また、小笠原諸島の父島でエアロゾルの複素屈折率虚数部や散乱係数・吸収係数などの光学特性を測定し、今後の放射伝達計算に必要なパラメータを得ることが出来た。さらに、バイオマス燃焼で発生する一酸化炭素の輸送と広域分布の観測も行った。
(2) エアロゾルの化学的性状に関する測定を、長崎県福江と沖縄県辺戸岬(後者では通年観測)で実施し、東アジア地域や東南アジア地域から輸送されてきた高濃度のエアロゾル中の、有機物や硫酸塩、硝酸塩、また、多環芳香族炭化水素(PAH)、モノカルボン酸(MCA)の動態を明らかにした。さらに、インドシナ半島や日本の南西諸島に設置したレーザーレーダー(ライダー)の観測結果を解析して、エアロゾルの時空間分布から、有機エアロゾルの広域に及ぶ水平および鉛直輸送過程とその季節変化などを明らかにした。
なお、サブテーマ2ではほぼ当初の目標をほぼ達成されたが、サブテーマ1は放射強制力に関する研究成果が不十分であった。

3 .委員の指摘および提言概要

  エアロゾルの気候変動に及ぼす影響は、IPCCでも不確定性が非常に大きいと指摘されており、またUNEPなどからも研究協力が求められているので、時宜を得た研究課題であったが、研究課題名およびサブテーマ1にかかげられた、地球規模の気候変動および放射強制力という研究に関しては、エアロゾルの光学的厚さや粒径分布、複素屈折率の時空間分布の把握やGCMによる影響のシミュレーションが必要であるにもかかわらず、それらの一部しか研究されておらず、十分な成果が得られなかったと判断する。しかしサブテーマ2では、辺戸岬でエアロゾルに関する長期モニタリングが開始されたこと、また、福江や辺戸岬での観測から、東アジアを覆うヘイズの化学的性状が次第に明らかになりつつあり、よい成果が得られた。ただし、サブテーマ間の連携で不十分な点は、サブテーマ1で開発されたエアロゾルの全球モデルが、サブテーマ2で観測された地域のエアロゾルの時空間分布に適用されておらず、モデルと観測の統合的な研究がなされていないことであり、今後、それらの比較を行ってモデルの改良に結びつける研究が必要である。なお、サブテーマ1の③「バイオマス燃焼に伴う一酸化炭素の輸送と分布に関する研究」は、有機エアロゾルとどのように結びついているのか説明されていないので、この調査研究が本研究全体の中に占める位置づけと重要性が不明確であった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
 

研究課題名: B-11
地球温暖化の高山・森林・農地生態系への影響、適応、脆弱性評価に関する研究
研究代表者氏名:原沢英夫(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、IPCCの新たな排出シナリオ(SRESシナリオ)に基づく気候シナリオを用いて、植生全般、高山生態系、森林生態系(自然林・人工林)、農地生態系への影響を予測、評価できる方法(モデル)を開発することを目的とする。特に、各生態系への影響予測結果は、地理情報システムを用いて地図化し、脆弱な生態系や地域を特定する方法を開発する。さらに、高山生態系や森林生態系において深刻な影響が予測される場合は、リスクを低減する適応策を検討する。サブテーマ構成は次の通り。
自然、人工生態系の総合影響予測と適応策の総合評価に関する研究
高山生態系の脆弱性評価と適応策に関する研究
自然林・人工林の脆弱性評価と適応策に関する研究
影響の変動性・地域性を考慮した農業生態系のリスクに関する研究

2.研究の達成状況

概ね当初示した研究終了時の達成目標に近いと考えられる。しかし、適応策については、その想定される効果・妥当性もふくめてより具体的に提示する必要があったであろう。
サブテーマ1では、IPCCの提供する気候シナリオと気象庁による共通気候シナリオを用いて、日単位の気候を利用可能にした。また、温暖化の日本の植生帯の変化予測モデルを開発した。さらに生態系を対象とした適応策を取りまとめた。
サブテーマ2では、共通シナリオに基づいてわが国の高山帯生態系におよぼす地球温暖化の影響を予測し、脆弱な種の具体例を明らかにした。また、登山者による人為的な要因で温暖化による植生変化を助長する例としてオオバコを示し、温暖化による影響に人的影響が加わらないようにする適応策を示した。
サブテーマ3では、寒温帯植生の積雪変動に対する脆弱性を検討し、さらに、亜熱帯・暖温帯・冷温帯の脆弱性と適応策について検討した。さらに、アジアの熱帯林生態系への影響・脆弱性を評価した。人工林生態系としては、我国を例に脆弱性と適応策を検討した。
サブテーマ4では、過去の降水量解析とGCMによる予測から、中国北部・東北部の乾燥傾向が強まること等から、温暖化時の農作物生産環境に対するリスクと脆弱性を明らかにした。また、アジアにおける稲作に大きく影響することを示した。

3.委員の指摘

総合評価(研究費規模に照らした研究成果の評価)では、「期待通り」とする意見と、「不満が残る」とする意見とに分かれた。また、課題の管理に改善の必要性を感じる意見が複数あった。特に、個々のサブテーマで興味深い成果が上がったとしても、成果の統合化が十分でなく地球環境政策へ何を提言するのかが理解しがたいこと、プロジェクト研究としてのリーダー、サブリーダーの効率的な研究推進が必要だったこと等の意見があった。また、成果については、肯定的な評価がある一方で、本研究により提示された適応策はほとんど新味がなく、しかもあいまいな記述にとどまっているとの指摘や、全体としては成果にまとまりがなく計画段階での参画者による検討が十分でなかったのではないか、との意見もあった。
サブテーマ1は、一定の評価がある一方で、提示された適応策とサブテーマ2~4で行われたこととの関連が理解できないとの意見があった。また、生態系の脆弱性のモデルと指標に改善を求める意見があった。
サブテーマ2では、評価する委員がある一方で、サブテーマとしての課題への貢献に疑義を呈する委員が複数あった。また、高山生態系の脆弱性の原因を温度効果のみに求めることへの疑義も呈された。
サブテーマ3と4は、個別課題としては概ね高い評価を得た。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: B-54
アジア太平洋地域統合モデル(AIM)を基盤とした気候・経済発展統合政策の評価手法に関する途上国等共同研究
研究代表者氏名:甲斐沼美紀子(国立環境研究所)

1.研究概要

気候変動枠組条約の目標である気候安定化を達成するには、先進国のみならず発展途上国を含めて今後一世紀にわたって温室効果ガスの一層の削減対策が求められる。今後気候安定化政策を検討する上で、地域環境政策あるいは経済発展政策との統合政策を検討してゆくことは、アジアの途上国のみならず、わが国を含めた先進国工業国でも大きな課題となっている。本研究では、アジア地域の発展途上国の研究機関と協力して地域レベルの温室効果ガス削減および適応方策について検討する。サブテーマの構成は次の通り。
持続的発展に向けた地域詳細研究とモデルの普及
統合評価モデル開発および統合政策評価フレームの構築に関する研究
政策シナリオおよび国際比較に関する研究
新排出シナリオに基づく新しい気候変動シナリオの推計に関する研究

2.研究の達成状況

多岐にわたる研究活動により、全体として概ね達成目標に到達している。また、IPCCなどへの分析結果の提供や、国内の行政報告書の作成など多くの政策的寄与をなしてきた。
サブテーマ1では、アジア太平洋地域統合モデル(AIM)の地域詳細モデルを適用してアジア地域の温室効果ガス削減政策や環境政策との統合政策を評価した。日本については、種々のシナリオについて温暖化対策税やそのときの経済状態を評価した結果、2010年において1990年比2%減を達成するために必要な補助金額や炭素税を推計した。中国およびインドにおけるCDMの有効性と持続的発展への効果について推計した。
サブテーマ2では、発展途上国において削減対策を推進するためのインセンティブを明らかにする統合評価モデルを開発し、気候変動政策、地域的な環境対策、経済影響を踏まえた統合的な検討を可能にした。これらのモデルを基礎に発展途上国を対象にトレーニングワークショップを行った。
サブテーマ3では、IPCCで議論されているSERESシナリオおよび気候安定化シナリオなどいくつかのシナリオで検討されているエネルギー政策シナリオを検討しアジア太平洋地域への温暖化の影響を評価した。また、IPCCの第四次評価報告書作成に貢献するため、市場優先、政策優先、安全優先、持続可能性優先などの各シナリオについてCO2排出量を推計した。
サブテーマ4では、排出シナリオとして与えられているエアロゾルが地球温暖化に及ぼす効果を各種シナリオについて検討した。また、IPCCの第四次評価報告書作成に向け、21世紀のエアロゾルシナリオ実験を行った。

3.委員の指摘

研究費規模と研究成果に照らして概ね期待通りの成果をあげたと評価される。地球環境政策への貢献も高い評価が与えられる。
各サブテーマとも概ね優れた成果が期待される。中国、インドのシナリオ分析を評価する意見がある。AIMモデルによる分析が着実に進められており、政策決定への実践的活用が期待される。
なお、このようなモデルを政策に用いる場合の信頼性の観点から、社会的因果関係を近似的に定式化するモデル分析の前提条件の妥当性など、結果の限界と妥当性についてさらに検討を進めることが望ましいとの意見があった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: B-61
市町村における温室効果ガス排出量推計および温暖化防止政策立案手法に関する研究
研究代表者氏名:中口毅博 ((NPO法人)環境自治体会議環境政策研究所)

1.研究概要

  京都議定書の目標達成のための総合的な対策は国レベルで行う必要があるが、個別の具体的対策は地域レベルで推進する必要がある。しかし、市町村レベルで政策実施の前提となる温室効果ガスの排出量推計を行っている自治体はきわめて少数である。これは市町村レベルでは、排出量推計のための統計データが乏しく推計手法が確立されていないためである。そこで本研究では、市町村単位の温室効果ガス排出量を既存統計データから推計する手法を開発した上で、排出要因の分析や排出実態に基づく市町村の地域類型化を行い、温暖化対策の類型別体系的整理やその効果を推計する。サブテーマは次の3つである。
(1) 市町村における民生部門等の温室効果ガス排出量推計手法の開発および要因分析
(2) 市町村における運輸部門温室効果ガス排出量推計手法の開発および要因分析
(3) 市町村における温暖化対策の類型別体系的整理および政策手段の効果推計

2.研究の達成状況

 (1) 一般家庭および事業所のエネルギー消費構造をアンケート調査により把握し、既存統計との関係解析結果をもとに、民生部門からのCO2排出量推計モデルを作成し、市町村別の2000年における排出量を推計し、さらに2010年における排出量将来予測値を推計した。それらの結果と人口規模との関係を中心に要因解析を行い、民生部門からのCO2排出量の特徴を明らかにした。
(2) 道路交通センサス自動車起終点調査データに基づいて、全国の市町村について、自動車CO2排出量を求めるとともに、センサス交通量および燃料販売量に基づく推計を別途行い、その地域特性を明らかにした。また、排出量推計結果と社会・人口等の統計との連関分析を行い、市町村別の一人あたりのCO2排出量の特徴を秋からにした。鉄道に起因する市町村別CO2排出量の推計も行った。
(3) 2001年の自治体調査結果に基づき、34種類の温暖化対策の実施パターンを数量化III類で分析し、3つの軸で類型化できることがわかった。また、温暖化対策と市町村の人口・産業・土地利用・自然特性との関係を解析し、CO2排出要因を明らかにした。さらに、民生部門家庭、業務それぞれについて具体的な温暖化対策の効果を定量的に把握して評価を行った。
  これらから、本研究課題では、当初計画で想定された研究成果がほぼ達成された。

3.委員の指摘および提言概要

 市町村レベルでの地球温暖化対策は重要であり、民生部門および運輸部門について、全国の市町村レベルでのCO2排出量の推計手法とそれに基づく排出量が推定され、データベースが構築されたこと、また、それらにより温暖化対策の類型別体系的整理ができたことは、高く評価できる。なお、既存統計データをもとに確率統計的手法だけでCO2排出量を推計されているので、地域特有の条件は考慮されていない。そこで、今後は、これらのデータベースと推計手法を公表した後、各自治体が地域固有の各種条件を考慮してそれらを検証および改訂する作業を行い、各市町村レベルでさらにきめ細かくより良いCO2排出量推計をする必要がある。また、それらの改訂データを、再び全国データベースにフィードバックするシステムを制度化することも、今後重要である。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: C-1
北半球における越境大気汚染の解明に関する国際共同研究
研究代表者氏名:村野健太郎(独立行政法人 国立環境研究所 大気圏環境研究領域)

1.研究概要

 先進国の工業活動の大半は北半球の2つの大陸 ― ユーラシア大陸および北米大陸 ― の上で進行しつつあり、そこでは国境を越える規模の大気汚染の拡大が認められている。欧州と北米では大陸間の大気汚染に取り組む体制作りがとられているが、欧州から東アジアにまたがる地域での対応は遅れている。そこで、下記事項を終了時の達成目標として本研究を行う。
サブテーマ (1) 東シベリアおよび沿海州地域の大気環境評価に関する研究
  東シベリアおよび沿海州地域における観測によりこの地域の大気汚染状況の特徴を明らかにし、さらに鉛安定同位体比の測定などに基づいて、欧州からアジア、内陸アジアから日本を含む東アジアへの汚染物輸送に関する知見を得る。
サブテーマ (2) 次世代型ソース・リセプターマトリックスの精緻化と検証に関する研究
  1) 揮発性炭化水素およびアンモニアについて 2000 年ベースの発生量マップを作成し、また重金属の初期発生源データの開発を行う。
2) 中国・韓国・日本間の越境大気汚染の定量化に対する行政ニーズが高いことを考慮し、これら3国を対象として、多物質を取り入れ評価地域を細分化した次世代型ソース・リセプターマトリックスを作成する。
3) 「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク (EANET)」で得られた降水データをモデルで解析することにより EANET の活動に寄与する。

2.研究目標の達成状況

サブテーマ(1)
02~04 年の3年間にわたる観測によりこの地域における大気および降水汚染の基本的特徴を明らかにした上で、汚染物輸送に関して次のような結果を得た:積雪の鉛同位体比は日本における観測結果とよく一致し、冬季にこの地域と日本の大気環境が密接に関連していることが確認された。さらに、流跡線解析から、冬季の流跡線は長く、東シベリアモンディおよび北海道利尻における二酸化硫黄高濃度の関連が示唆された。一方、晩夏の流跡線は非常に短く、ローカルな条件が支配的になるものと推定された。本研究の結果は、東シベリア-沿海州地域で初めて得られた信頼性の高い大気汚染物質観測データであり、東アジア酸性雨モニタリングネットワークの中で大きな面積を占めるロシアの大気環境把握の第一段階として、同ネットワークデータの解析にも生かせるものである。
サブテーマ(2)
1) 中国が東アジアで突出した排出国であることを考えて、省毎に異なる種々の条件を考慮に入れて推計の精緻化を図り、また、わが国におけるシミュレーション精度を向上させるため、野焼きや自動車のコールドスタートなどを含めた新たな排出モデルを試みた。これらの開発・改良を含めて 2000 年排出量データベースによる年間排出フラックスのマップを作成した。
2) 物質輸送モデル (HYPACT) による計算の際に、地域気象 (RAMS) モデルで計算された 時間空間分解能の高いデータを活用して気象水象パラメーターを精緻化し、さらにオリジナル HYPACT には含まれない反応・沈着過程を取り入れて、東アジアにおける酸性沈着量のソース・リセプター解析を行った。この解析の結果、東アジア各地の発生源から日本に輸送されて沈着する硫黄や窒素の地域別寄与率等が得られた。
3)「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」で得られた降水データをエアロゾルの変質や雲物理過程を取り込んだモデルで解析する研究の一環として、三宅島火山による環境変化について数値計算を行った。その結果、噴火で発生する硫酸による降水 pH の直接的な低下だけでなく、硝酸や塩酸ガス濃度の増加がもたらす間接的環境酸性化についても定量的な評価が得られた。

3.委員の指摘および提言概要

総体的に見て、当初目標がほぼ達成され、期待通りの成果が得られたと考える。特に、サブテーマ (1) で得られた東シベリアおよび沿海州地域での観測データはこれまでの例が少なく価値が高いので、早急に学術誌に発表することが望まれる。
 一方、サブテーマ (1) における観測、サブテーマ (2)-1), (2)-2) の排出量推計・ソース・リセプター解析及び(2)-3) のモデル計算、が相互の関連なくそれぞれ寄せ集め的に行われた印象を受ける。相互に関連させる視点に欠けたことが残念であるが、可能であれば今後これらの成果の統合を検討されたい。また、サブテーマ (2)-2), (2)-3) で使用したモデルの精確さ自体を対象とする詳しい検討を行うことも期待する。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
 

研究課題名: C-2
酸性汚染物質の陸水の水質と生物に与える影響の実態解明に関する研究
研究代表者氏名:佐竹研一(立正大学 地球環境科学部)

1.研究概要

 大気中に排出された酸性汚染物が、陸水の水質と水生生物にどのような影響を与えるかについての実態を解明するための研究であり、終了時の達成目標は次のとおりである。
サブテーマ (1) 酸性汚染物質の渓流河川水の水質に与える影響の実態解明
1) 酸性雨越境汚染の懸念される日本のバックグラウンド地域、日本海沿岸地域における窒素
を含む酸性汚染物質の負荷の渓流河川水への影響とその要因の解明
2) 都市近郊汚染地域における「窒素飽和現象」の実態とその要因の解明
3) 過去数十年から現在にいたる窒素汚染の時系列変化(窒素負荷の増大)の解明
サブテーマ (2) 渓流河川の水質の魚類の分布行動に与える影響の実態解明
1) 野外生態系における河川酸性化がサケ科魚類に与える影響評価
2) 渓流河川水のpH、段階別酸中和能、サケ科魚類を指標とする酸性化危惧度評価指標の作成
サブテーマ (3) 酸性汚染物質の低緩衝能集水域への沈着検証手法の開発と応用についての研究
新潟県三面川集水域に飛来する酸性大気汚染物質の起源と歴史的変遷の解明

2.研究目標の達成状況

サブテーマ(1)
1) 新潟県三面川水系を対象として渓流水質を分析し、降水 pHなどとの関係を調べた。その結果、pH 5.03 の雨が降ると河川水 pHは 0.3~0.7 低下すること、融雪期には一部の河川水で pH が6 以下になることなどを明らかにした。また、河川水のイオン組成と採水地点の地質との関係を調べ、河床岩石の種類と溶存 Al、Ca、Mg、Na、K 濃度との関係を明らかにした。
2) 過去に酸性汚染物が最も多く負荷されてきたと想定される関東山地(西関東水系)において、土壌中 NO3 の鉛直分布と渓流水の NO3 濃度との関係などを調べた。その結果、硫黄はほとんどが土壌層に捕捉されているのに対して、窒素は塩基とともに渓流に流出し河川水中の NO3 濃度を高めている(「窒素飽和」と呼べる状況)ものの、関東の地質には豊富な Caや Mg が含まれるので pH の低下はないことが判明した。また、酸性汚染物負荷は少ないが、冷涼で植生が北欧に似ている北海道北部の森林において、NH4NO3 を散布する実験を行なった結果、散布された窒素の 90% が森林流域内に保持されるなど、窒素動態を明らかにするデータを得た。
 サブテーマ(2)
1) 河川の酸性化が魚類の行動や分布に及ぼす影響についての知見を得るため、河川水の pH とイワナの遡上行動との関係や、自然酸性河川におけるイワナ、水生昆虫などの生息分布を調べ、イワナは pH 6 以下で遡上行動が著しく阻害され、また 自然酸性河川でもpH 6.14 以下の水域には生息しないことが判った。さらにイワナの血液中 Na+ 濃度を指標とする耐酸性試験により、生息河川の酸緩衝能との関係を明らかにした。
 サブテーマ(3)
新潟県村上市において沈着フィルター試料、入皮、杉樹皮中の鉛同位体比を測定し、冬季に大陸から汚染物質が飛来することを明確に裏付けるデータを得た。

3.委員の指摘および提言

本研究課題については、地球環境研究としての問題意識、成果の位置づけが不明確であったとの印象を受ける。3つの地域での研究がバラバラに行われた感じで、相互に関連させる考察が十分なされていない。
個別のサブテーマを見ると、
三面川水系の調査は事例研究の段階で終わっていて、研究成果が日本の各地の渓流の酸性雨影響評価にどの程度利用できるか不明であり、3年間の研究成果としてはやや不満が残る。
  一方、西関東水系で進められた研究は、森林の窒素負荷度と渓流水への硝酸リークの関係を、森林土壌の窒素富化状態を把握することを通じて定量的に解析しており、今後の硝酸リークのメカニズムを解明した点で高く評価される。
北海道で進めた窒素施肥の実験は実証的であるが、機構解析がないことが不満であり、イワナに関する調査・実験では、遡上行動への影響、生息分布への影響、耐酸性実験の結果を結びつける総合的議論が欲しかった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3: d  

研究課題名: C-3
東アジアにおける民生用燃料からの酸性雨原因物質排出対策技術の開発と様々な環境への影響評価とその手法に関する研究
研究代表者氏名:畠山史郎(独立行政法人 国立環境研究所 大気圏環境研究領域大気反応研究室)

1.研究概要

 石炭は中国のエネルギー源の約75%を占め、その需要はさらに増加する傾向にある。地方の中小炭鉱には適切な石炭クリーン化技術がないため、採炭される高硫黄低品位石炭は未処理のまま市場に流通し、その結果中国各地、とくに西南地区および東北地区の都市部では、大気汚染や雨水の酸性化が進み、それらによる生態系の破壊、農林業の経済的損失、建造物の腐食、健康被害等が発生している。このような状況に対処するため、下記の目標を設定して本研究を行う。
サブテーマ (1) 乾式選炭技術の開発・実用化に関する研究
低品位炭から低コストで脱灰・脱硫することができる乾式選炭の実用化を目指して技術的研究を行う。
サブテーマ (2) バイオブリケット (BB) 技術の民間移転と普及方策に関する研究
 低品位炭や廃棄石炭を環境負荷の少ない条件で利用する方法であるバイオブリケット(BB)化を促進するため、
1) BB化による硫黄固定率および粉塵低減率の評価、
2) 廃棄バイオマスを用いる環境調和型BB 技術の開発、
3) BB 燃焼灰の有効利用可能性の検討、
4) BB使用による健康改善状況の調査、などを行う。
サブテーマ(3) 低公害燃料の開発に関する先導的研究
 バイオマスを原料とするディーゼル燃料(BDF)製造法を開発することにより、ディーゼル車からの二酸化炭素や発がん性物質排出の削減を目指す。

2.研究目標の達成状況

サブテーマ(1)
石炭及び灰分の電気特性や、選炭特性に対する水分の影響など、効率的選炭システム構築に有用な基礎データが得られた。本研究では、重慶市南桐炭鉱の石炭にターゲットを絞り、選炭システム実用化に向けた各種データ収集に取り組んだ。
 サブテーマ(2)
1) 低品位炭、廃棄炭 BB について、実機燃焼試験により硫黄固定率を評価し、さらにコスト計算に基づいて、BB 普及によるSO2 や粉塵の排出量削減効果を予測した。
2) BB調製の際のバイオマスとして、ヨシ、ガマ、ホテイアオイなどの水生植物を用いると、燃焼灰中にリン、カリウムが残存し、酸性土壌改良材として利用可能性が高くなることを確認した。
3) 人工的に酸性化した土壌に燃焼灰を添加し、人口酸性雨を給水源とするハツカダイコンの栽培試験を行った。その結果、燃焼灰による酸性土壌の中和効果や植物生長促進効果を確認した。
4) 重慶近郊の南川市、遼寧省鞍山市において健康影響調査を行った結果、DNA 損傷の軽減、抗酸化機能の亢進、鼻咽喉系急性炎症症状の減少など BB 使用の効果がが有意に認められた。
サブテーマ(3)
バイオディーゼル燃料開発 - 超音波反応場を用いる BDF 製造プロセスを検討し、BDF を用いたバス運行試験により粒子状物質および多環芳香族炭化水素の排出が減少することを明らかにした。

3.委員の指摘および提言

乾式選炭を実用化するための技術的検討、およびBB を普及させるための周辺技術の開発と普及効果の評価など、いずれも当初の目標がほぼ達成されたと判断できる。この研究の成果が十分に中国側に伝わって生かされ、実用化が進むかどうかが今後の課題である。中国語メディアへの発表も必要であろう。
 なお、酸性雨への対策としては、コストや効果を考慮して乾式選炭技術と BB 技術を総合的に捉える視点が欲しかった。サブテーマ (2) では材料暴露調査や送電鉄塔からの亜鉛溶出評価も行われている。これらや、上記 6) のバイオディーゼル燃料の開発は、それ自体重要な問題ではあるが、この研究の他の部分との関連や位置づけが不明確で異質なものの混在という印象が残る。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  

研究課題名: C-6
流域の物質循環調査に基づいた酸性雨による生態系の酸性化及び富栄養化の評価手法に関する研究
研究代表者氏名:新藤純子(農業環境技術研究所 地球環境部生態システム研究グループ 物質循環ユニット)

1.研究概要

  東アジアでは経済発展に伴ってSO2 や NOx などの酸性物質排出が今後も増加すると考えられている。とくに排出源対策が困難な NOx 排出量の増加は著しく、IPCC は今世紀末までに現在の5倍弱まで増加すると予測している。またこの地域では人口も当分の間増加する傾向にあり、農業起源のアンモニア発生も急増が予想される。窒素や硫黄は生元素であり、大気からの負荷は植物や土壌微生物の代謝機構に取り込まれ生態系内を循環し、その影響が顕在化するか否かは、窒素や硫黄の生態系内での循環量と蓄積量およびそれらの安定性に依存する。このような状況を考慮し、下記事項を達成目標として本研究を行う。
サブテーマ (1) 貧栄養流域における酸性物質の動態と収支の推定
   わが国の貧栄養流域、富栄養流域における酸性物質の収支を定量的に示し、大気からの酸性物質の寄与を明らかにする。
サブテーマ (2) 流域における窒素、硫黄の循環プロセスの解明
   硫黄と窒素の循環プロセスを解明し、土壌、植生、気象条件などの特性と酸性物質の生成・消失プロセスとの関係を明らかにする。
サブテーマ (3) 植生-土壌プロセスに基づく流域スケールの物質循環モデルの開発
   窒素、硫黄の内部循環や酸の消長を定量化した流域物質循環モデルを開発し、生態系の酸性雨に対する感受性や、将来の負荷量の変化による酸性化・富栄養化の推移を予測し、被害の未然防止のためのモニタリングや効果的な発生源対策のための基礎情報を提供する。

2.研究目標の達成状況

サブテーマ(1)
貧栄養流域である乗鞍岳東斜面および北海道白旗山において物質循環調査を行い、すでに得られている富栄養流域における調査結果と比較して特徴を明らかにした。さらに全国渓流水調査を実施して、日本の森林流域における渓流水化学組成の実態を明らかにした。これらに基づいて酸性物質負荷と流出を支配する要因を解析した。
サブテーマ(2)
多摩丘陵、秩父において、土壌、植物体、落葉などを採取・分析し、大気からの窒素の長期的な負荷が植物-土壌間循環量を大きくし、渓流への硝酸イオン流出や一酸化二窒素の発生を促進していることを明らかにした。また、関東および中部地方の森林の土壌試料を用いて、日本の土壌が大量の有機体硫黄を蓄積していることを示し、その蓄積プロセスを解明した。
サブテーマ(3)
サブテーマ (2) からの知見を基に、できるだけ少数の過程とパラメーターにより大気、植物、土壌の間の炭素、窒素のフローをモデル化した。基本モデルをさらに簡略化して広域モデルを作成し、全国スケールで窒素流出量を推定した。推定結果はサブテーマ (1) で実施した全国渓流水調査による NO3- 濃度分布と比較的よく一致した。

3.委員の指摘および提言

各サブテーマとも、原因物質の動態および対象系内における循環という2つの立場から着実な研究が進められて新しい知見が得られており、またサブテーマ間の連携もとられていて、全体として流域系における窒素、リン、硫黄の動態と人間活動の影響を把握する構成になっている。総合的に見てレベルの高い成果があがったものと評価できる。ただし、サブテーマ (3)-2) 「東アジアの食糧生産による窒素負荷量の推移」はこの研究の主題との直結するものでなく、不必要であったと判断される。  今後、東アジア酸性雨モニタリングネットワークへ貢献するための手法の検討が期待される。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: D-1
陸域由来の環境負荷変動に対する東シナ海の物質循環応答に関する研究
研究代表者氏名:渡辺正孝(国立環境研究所 水土壌圏環境研究領域)

1.研究概要

  著しい経済成長を続ける中国において、特に長江流域の農業発展および工業生産拡大は急速で、農薬・肥料の使用量、重金属類・有害化学物質等の排出量が増大している。それらの汚染・汚濁物質は長江河口域・東シナ海へ流入しており、海洋環境への影響が危惧される。また今後の長江流域の土地利用変化、三峡ダムの完成は当該海域に流入する淡水量、流砂量、栄養塩類、農薬等有害化学物質の汚染・汚濁負荷の質・量についてさらに大きな変化を与えると考えられる。このような状況に対処するため、①今後の長江流域の開発に伴って予想される河川経由の淡水・土砂・汚濁負荷供給変動に対する東シナ海の海洋生態系を介しての物質循環変動についての影響を評価するとともに、②個別に行われている IGBP の土地利用変化研究やシナリオ研究との連携により、将来の中国での経済開発にともなう海洋環境への影響を予測する。
サブテーマ(1)長江河口・東シナ海陸棚域へ供給される環境負荷物質の海洋生態系を介した循環に関する研究
サブテーマ(2) 東シナ海陸棚域の堆積物による過去50年間の長江経由土砂供給量の長期変動に関する研究
サブテーマ(3) 東シナ海の海洋環境予測統合モデルの開発に関する研究

2.研究目標の達成状況

 長江流域起源の環境負荷が長江河口域、東シナ海の物質循環、海洋生態系機能ならびに生物多様性に与える影響の評価・予測手法の開発について以下の成果を得た。
サブテーマ1)
長江河口および東シナ海陸棚域における航海調査により、長江河川水および河川中浮遊懸濁物と外洋水混合により生ずる物理・化学的海洋環境の動的な変化、環境負荷物質の化学的特性・存在形態の変化、それらの輸送と海洋生態系構造および生物生産に及ぼす影響を把握した。
サブテーマ2)
長江の河口海岸域から東シナ海で採取した堆積物柱状試料により、過去50年間の陸域由来物質の供給量変動と沿岸環境の変化を把握した。
サブテーマ3)
  長江流域由来の汚濁負荷流出量の推定手法を開発し、東シナ海の海洋生態系を通しての物質循環変動予測を行うことが可能な流動モデル・生態系物質循環モデルを開発した。これらのモデルを用いて、将来の中国での経済開発にともなう土地利用変化、水需要変化、汚濁負荷変化等の予測シナリオにより、海洋環境への影響予測が可能となった。
  本研究で得られた知見は中国政府の環境政策や日中韓環境大臣会合における主要課題検討の際の科学的知見として用いられており、東アジアの海洋環境保全施策に資することができたと考えられる。

3.委員の指摘および提言概要

国際的共有資源である東シナ海の物質循環を精緻に解析した成果は、環境管理システム構築のための基礎情報として有効利用され、我が国だけでなく近隣諸国の行政判断に資する貢献が期待できる。ただしこの成果が中国の環境政策に実際に反映されるかどうかについてははっきりした道筋が見えない。我が国の貢献が中国側に十分認識されるような努力が必要であったと考える。
また、本研究は三峡ダム建設の影響の事前調査に相当する。今後事後の調査が実施され建設の影響評価に結びつけることも期待したい。さらに、長江からのシリカ供給不足は、地球環境研究総合推進費の別課題「グローバル水循環系のリン・窒素負荷増大とシリカ減少による海洋環境変質に関する研究」と密接に関わるので、今後相互に結果を検討する機会を設け、共同で論文を作成することも考慮されたい。
  なお、サブテーマ(1)「長江河口・東シナ海陸棚域へ供給される環境負荷物質の海洋生態系を介した循環に関する研究」において、陸から供給される負荷物質の輸送・分布状況を詳しく把握した成果は評価できるが、それに比べると海洋生態系を介した循環についての検討が十分とは言えない。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: D-3
グローバル水循環系のリン・窒素負荷増大とシリカ減少による海洋環境変質に関する研究
研究代表者氏名:原島 省( 国立環境研究所 水土壌圏環境研究領域 海洋環境研究室)

1.研究概要

  近年全世界の大規模ダムの数は 36,000 を越え、それらの総貯留量は自然状態の河川貯留量の700 % 近くに達したといわれている。ダム建設に伴う停滞水域の増加は、人間活動拡大による N、P の負荷増大とあいまって陸水珪藻類の増加をもたらした。陸水珪藻類は、自然の風化溶出により供給される溶存シリカ(DSi)を吸収し生物態シリカ(BSi)として沈降・堆積させるため、海域に流下する DSi が減少し、DSi を必要とする珪藻類(無害)よりもそれを必要としない非珪藻類(有害赤潮を引き起こす種を含む)が有利な状況を引き起こす。これは従来の負荷型海洋汚染と異なり、海洋生態系に必須の物質の陸からの供給が人為影響により欠損するという点でまったく新しいタイプの環境影響である。このような現象の例はヨーロッパで指摘されたものの、地球環境上で重要なアジア域における知見は不足している。そこで、下記事項を終了時の達成目標として本研究を行う。
1) いくつかの特性的な水系(琵琶湖-淀川-瀬戸内海 (BYS 水系)、ダム湖-信濃川水系、アジア大河川系)において、系統的な観測および既存データの解析を行い、シリカが欠損する過程とそれが歴史的にどのように進行してきたかを明らかにする。
2) シリカ欠損が沿岸海域の生態系にどのような影響を与えるかを、培養実験と海洋生態系モデルにより明らかにする。
3) 上記 1), 2) の結果を、水系ごとにリン・窒素負荷とシリカ欠損を表現する比較的簡略なモデルに集約し、これを多様な水系に適用することにより地球規模の水環境施策に資する基礎資料および手法とする。

2.研究目標の達成状況

サブテーマ(1)
課題全体の結果の総合解析から、N、Pが負荷されしかも水の滞留時間が長い停滞水域は、シリカのシンクとなっていることが確定されたさらに、大阪湾における定点観測などに基づいて、シリカ欠損は停滞陸水域のみでなく、海域のうち大阪湾奥のように陸からの直接的な N と Pの負荷が大きい領域でも起こること(すなわち2段階の欠損過程)を示した。シリカ欠損の海域影響については、従来の仮説、すなわち N:P:Si の元素比だけの議論では説明できず、「河口隣接域」を他の海域と区別して扱うことや、珪藻類が DSi 枯渇で沈降するなどの詳細な過程を議論に含める必要があることがわかった。
本研究で推定されたメカニズムは、世界のほかの水系の報告例にも整合する点が多く、またヨーロッパ等に比べて本来自然のシリカ補給率が比較的大きい日本の水系でも珪藻赤潮/鞭毛藻赤潮に対する Si 欠損の影響が検知されたことから、この仮説のグローバルな重要性を示すことができた。
また、高度成長期以前を含む河川水質データの発掘・電子化およびフェリー観測による瀬戸内海表層栄養塩データセットの整備を行った。両データセットとも、シリカ欠損のみでなく広範な環境変動解析に供することが可能である。さらに、UNEP-NOWPAP/3-WG2 への国別レポート中の Research Activity の項にシリカ欠損過程の記述を含め、国際環境行政への提言とした。
サブテーマ(2)
 陸水域を対象とした観測から、大ダム湖と想定した琵琶湖ではシリカ欠損が顕著であるが、
                                                             信濃川水系の中小ダムでは顕著でないことが明らかとなった。さらに BYS 水系におけるシリカシンク過程を、タンクモデルを用いた比較的簡略なモデルで整理した。
サブテーマ(3)
 珪藻・渦鞭毛藻の混合培養実験と海洋生態系モデルから、Si が枯渇すると珪藻よりも渦鞭毛藻の割合が大きくなることを示した。

3.委員の指摘および提言概要

 この課題の主要テーマは、主にヨーロッパで主張されたシリカ仮説が、条件の異なるわが国でも成立するかどうかを検証することであり、組織的な研究によりかなりはっきりとした結論を得たことは高く評価できる。しかし、その成果を総合して他海域に汎用化できる論理やモデルを構築し、課題タイトルに現れている「グローバル水循環系」と結びつける、という段階には達していない。また、サブテーマ(2)-3)のモデル化は既往の発表が少ないので、本研究の結果を速やかにまとめて論文とすることが望まれる。
なお、地球環境研究総合推進費の他の課題「陸域由来の環境負荷変動に対する東シナ海の物質循環応答に関する研究」で長江における DSi フラックスの検討が行われていたので、当該課題の研究者と成果情報を交換されたい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: E-3
荒廃熱帯林のランドスケープレベルでのリハビリテーションに関する研究
研究代表者氏名:小林繁男(京都大学)

1.研究概要

荒廃した熱帯林や断片化している森林域を修復するには、これらの生態系のランドスケープレベルでの修復技術の開発が必要である。このため、タイ、マレーシア、インドネシアにある既存のリハビリテーションサイトと新たに設定した試験地において、持続的な熱帯林の管理について研究を実施した。サブテーマの構成は下記のとおり。
(1)伐採跡地、二次林、荒廃潅木林など荒廃林地の修復技術の開発と種多様性の評価
(2)プランテーションや荒廃草地などのナチュラルフォレストコリドー導入に関する立地管理方法の開発
(3)森林修復管理オプションの社会経済的適応可能性の評価と住民参加による土地資源管理プログラムに関する研究
(4)地域の環境保全のための修復技術の統合に関する研究

2.研究達成状況

サブテーマ1の研究では、荒廃熱帯林を修復するには遷移初期の先駆性樹種を利用することが重要であり、環境変化に伴う根の増大が実生の成長や生残りの制限要因となっていること、また、カミキリムシは種数や個体数が適度に天然林や荒廃林に分布するため、生物多様性評価の指標生物として最適であることがわかった。さらに、自然林と伐採林の水利機能を評価するための水文観測を行い、蒸発散量などを把握した。
サブテーマ2では、熱帯樹種は裸地植栽には不向きで、鳥や小動物の食用となる熱帯樹種植林はよい結果を得た。また、育苗ポットを大きくすると活着率が高まった。焼畑などの荒廃地では多樹種を用いた森林修復を試みた。
サブテーマ3では、森林修復のための社会経済的知見を得ると共に、住民参加型土地資源管理プログラムの準備を行った。
サブテーマ4では、熱帯林修復に関するアンケート調査から地域住民の意識調査を行い、森林修復のコンパートメントモデルを構築し、タイの熱帯林地域に適用した。

3.委員の指摘および提言概要

 個々のサブテーマでは一定の成果が認められるが、研究対象地域が異なり、研究計画管理が不十分なため、課題全体として統一性に欠け、取りまとめ結果が不明確である。サブテーマ間の相互交流が無いため、成果もまちまちである。これまでの研究の引用・分析が不十分であり長期の目的である土地資源利用計画策定の視点が不明確である。この研究の成果として、森林のリハビリは如何にあるべきかを提案してほしかった。
 サブテーマ1の①については、平成15年度と16年度の研究がまったく違い、別のテーマとするべきだった。②はリハビリテーションと関係ないテーマである。また、カミキリムシがなぜ生物多様性評価の指標生物として最適なのか不明確である。
 サブテーマ2については、研究成果が良くまとまっている。特に、根鉢を大きくとる植林は重要な知見であり、継続調査が望まれる。ただし、コリドーについての説明と位置づけが不明確である。
 サブテーマ3に対しては、実践的枠組みは良く整理されているが、整理にとどまり、今後の方向が明確でない。また、固有樹種と原生林構成種との関連性を明らかにしてほしかった。
 サブテーマ4については、アイディアは評価できるが具体的な場を対象として運用、検証、最適解を求めることなどが必要であるが、本来の目的である修復技術の統合がされていない。データベース化については成果が見えないと同時に、記述にカタカナ用語が多すぎ日本語への置き換えも検討してほしい。また、英語の記述も世界で通用している用語にするべきだ。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: F-6
アジアオセアニア地域における生物多様性の減少解決のための世界分類学イニシアティブに関する研究
研究代表者氏名:志村純子(国立環境研究所)

1.研究概要

生物多様性条約締約国会議では「世界分類学イニシアティブ(GTI)」の作業計画を採択され、GTIプロジェクトとして地域レベルに拡大可能な分類学キャパシティー構築方法の調査研究が求められているものの、アジアオセアニア地域では生物種の分類・同定に必要な分類学の知識が不足している。本研究ではタイ、インドネシアにおいて、この地に適したGTIの実施方法、政策決定に必要な生物種情報や分類学の構築を行った。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)GTI地域プログラムの基本プロジェクト開発における分類学的側面に関する研究
(2)GTI地域プログラム実施における生物多様性情報共有化と利用に関する研究

2.研究達成状況

(1)では、タイ、インドネシアの島嶼を対象に、生物多様性条約締約国決議にもとづき、植物、海洋無脊椎動物、沿岸性動物、微細藻類、細菌について、現地研究者とともに標本を保存し、種の同定・記載、標本ならびに分類学情報をデータベースへ格納するために必要な分類学研究者の育成などを行った。また、データベースを利用したフィールドガイド等、GTI推進に必要な情報資源の構築方法を確立した。さらに、生息生物種の生物地理学的解析を行うためのソフトウェア、持続可能なデータベース維持管理手法を確立した。
(2)ではGTIに必要な分類学の手法と分類学情報の基盤を構築するためにアジアオセアニア地域GTIサーバを設置し、分類学者ディレクトリ、博物館標本情報データベース等を構築し、公開した。また、本システムを利用しやすくするためのツールの設計と開発を行った。さらに、収集データから分布図を作成するための手法の開発を行い、日本地域をテストケースとして分布図の作成を行った。

3.委員の指摘および提言概要

 地味な研究だが、生物多様性を保全するための重要な研究テーマである。タイ、インドネシアなどで優れた成果をあげた。何らかの形でこの研究の継続を期待する。一方、サブテーマ間のつながりが不明確であるとともに、今後の研究に寄与する拠点形成に関する評価、データベースの更新などの見通しが不明確である。調査対象としている地域や分類群が限定されており、また、参画研究者の個人的な関心・興味の研究のような気がするという意見もあった。
 サブテーマ1については、現地調査による新種発見、データベースの構築、現地研究者との協力、技術移転等については評価できるが、データベースをもっと広範な分類群に適用すべきだった。GTIに関しては、手を広げすぎたようで、GTI実施のための方策や政策決定に必要とされる生物種情報の構築など具体的成果が少ないという評価であった。
 サブテーマ2については、分類群により研究機関や研究者数に偏りがあり、これがバランスの取れたGTIデータベース構築の妨げとなるが、どのように対処するか明らかでない。また、インターネットによる標本情報および原記載論文へのアクセスが困難なことは本研究の障害となるがその対処方法が示されていない。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  

研究課題名: H-10
環境負荷の軽減及び最適配分を実現する大都市近郊農村連携経済社会の制度設計と実施方策に関する研究
研究代表者氏名:大澤 正治(愛知大学)

1.研究概要

 本研究は、地方分権化や発展途上国における都市問題の発生を背景とし、環境と経済のバランスの観点から、都市と農村を合わせた地域すなわち「大都市近郊連携経済社会」において、物質や貨幣等の多様な要素の循環の構造を明らかにするものである。そのため、静岡-愛知-長野の3県にまたがる三遠南信地域について、都市側と農村側の双方の視点からデータを収集/解析して「都市農村連携モデル」を構築した。また、発展途上国の都市公害問題の解決や温室効果ガスの一つであるメタンの発生抑制に貢献するため、インドネシア・JABODETABEK地域においてデータ収集・解析を行った。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)都市農村連携における都市部の機能、環境負荷に関する研究
(2)都市農村連携における農村部の機能、環境負荷に関する研究
(3)都市と農村連携の相互性に関する研究
(4)発展途上国都市公害問題への適用に関する研究

2.研究達成状況

 サブテーマ1では、都市と農村の関係や地方分権の考え方を整理し、飯田市の「地方自治政府構想」について事例研究を行った。また、三遠南信地域の都市機能を理解するため、統計データを用いて地域全体及び各市町村の特性を把握した。さらに、重力モデルにより市町村間の人口移動を整理し、地域内の中心都市(豊橋、浜松、飯田)への従属圏を求めた。また、都市と農村を含む地域における環境保全や自然エネルギー及び廃棄物エネルギー利用について把握、分析した。
 サブテーマ2では、都市農村連携による新たな農業生産のあり方への影響を明らかにするとともに、エネルギー作物生産や森林のCO2吸収と地域でのエネルギー消費やCO2排出の比率を明らかにした。また、農村における水や有機物の物質循環を明らかにし、施肥による窒素利用やメタン発酵による発電の可能性調査、及びバイオマス変換に関する新規技術による改善効果の解析を行った。さらに、家畜糞尿の排泄から処理までの過程で発生する環境負荷ガスについて測定を行うとともに、有機農法を慣行農法で酪農及び採卵におけるCO2発生量の比較を行った。
 サブテーマ3では、15の地区において生産される7種の財の量を、投入される7種の財の量、5種の土地利用の面積、雇用数によって記述するレオンチェフ型の生産関数を構築し、地域間の交通費を考慮して全社会余剰を求めた。これを環境税の税率及び土地利用方針を変えて実施し、さらに地域別に実施した。これにより、休耕農地の活用、環境税の適切な配分、最適な物流体系による環境負荷と費用の最小化の重要性等が認識された。
 サブテーマ4では、東南アジアの4カ国について環境問題の概要を把握し、今後、自治体による国際協力への期待を示すとともに課題を提起した。また、インドネシアのJABODETABEK地域(ジャカルタ及びその周辺)において、地域の概要及び水質汚濁、大気汚染、固形廃棄物の状況を調査した。また、インドネシアの水田及び畑地からのCO2及びメタンの発生、溶脱水及び流出水の硝酸態窒素濃度等の測定を行うとともに、農村での物質循環の可能性を見るため、有機質肥料/化学肥料等の施肥方法による収穫量の違いを測定した。また、ジャカルタにおける廃棄物処理の現状について情報収集/整理を行った。

3.委員の指摘および提言概要

 タイトルによれば制度設計を示すべき研究と考えられるがこの点に踏み込んだ研究となっていない。また、サブテーマ1、2では地域データを収集・整理し、サブテーマ3でモデル化するという研究の構成であるが、地域データの収集・整理が細かく行われている一方、モデルは非常に単純である。そのため、現実にあてはまる実証性、他の地域に応用できる一般性等が十分でないと考えられる。
 サブテーマ4については、日本のモデルがそのまま適用できるわけでもなく、今回の研究においても他のテーマとの関連が希薄となっている。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4: d  

研究課題名: H-11
京都議定書の目標達成に向けた各種施策(排出権取引、環境税、自主協定等)の効果実証に関する計量経済学的研究
研究代表者氏名:日引 聡(国立環境研究所)

1.研究概要

 京都議定書の目標達成のための施策のうち、環境税や規制的手段は、実際の運用にあたり柔軟に税率や規制値を変更することが困難なため、継続的な環境負荷低減のインセンティブを企業や事業所に与える施策のあり方を検討する必要がある。また、自主的アプローチについては、企業の取り組みインセンティブは何か、大きなインセンティブを持つ企業のタイプ、その有効性等について分析の必要がある。さらに、排出権取引について、既存事例を分析し効率的な制度のあり方を検討する必要がある。本研究はこのような問題意識に基づき、次の3つのサブテーマにより構成する。
(1)環境税が企業行動に及ぼす効果に関する計量経済学的研究
(2)企業の自主的行動による環境負荷低減効果に関する計量経済学的研究
(3)排出権制度の有効性に関する計量経済学的研究

2.研究達成状況

 サブテーマ1では、製造業の事業所を対象としたアンケート調査(回答数1499)を分析し、「近年の生産量あたりの環境負荷増減」を被説明変数、「EMP(対象企業の環境マネジメント実施状況を表す変数)」「11の政策要因」「2つの利害関係者圧力」を説明変数として回帰分析し、「EMP」「立入調査回数」「銀行等借入先からの圧力」等の影響が大きく、政策要因のうち立入調査回数以外(環境規制、課税等)の影響が少ないこと等を明らかにした。
 サブテーマ2では、同じアンケートによりEMPを被説明変数として回帰分析し、環境マネジメントを促進する要因として、行政による導入促進策、銀行や株主等の圧力、同業他社の状況、対象市場の広がりや国際性、経営成績、自然資源の使用による環境負荷、環境事故リスク等があることを明らかにした。また、ISO14001認証取得ダミーを被説明変数とした回帰分析により、利益や企業規模、輸出高や研究開発投資の大きい企業ほど取得の傾向が強いが業種による差も見られることを明らかにした。さらに、東証一部上場企業についてトービンのq(企業価値を企業の有形資産の代替価値で割ったもの)を、ISO14001取得ダミーを含む多数の説明変数で回帰分析し、ISO14001の取得は企業の評価を引き上げていることを示した。
 サブテーマ3では、排出権取引制度の一例として、長年の実績のあるアメリカのSOx排出承認証制度について、個々の発電所による「排出権を買って安い高硫黄石炭を利用する」か「排出権を買わず高い低硫黄石炭を利用する」の意思決定をモデル化した。ここで、公益事業委員会の規制や地元石炭保護の規制のある場合とない場合のシミュレーションを行い、規制によってSOx排出削減のコストが増加していることを確認した。また、余った排出権を将来に繰り越すことを可能とする「バンキング」は、空間的な排出権取引に比べれば小さいが、無視できないほどの費用削減をもたらすこと、規制導入初期の「ボーナス制度」が公害防除投資の早期化に寄与することを確認した。

3.委員の指摘および提言概要

 実態データの収集と分析により、企業行動を環境配慮型にするための指針が得られたと評価される。全般的な改善点として、全体を統一的に捉えることのできる理論的核を示すこと、海外も含め成果発表を積極的に行うことが求められる。
 サブテーマ1については、「環境マネジメントは継続的な環境改善効果があるが、環境税や規制的手段は継続的な環境改善につながりにくい」という命題は興味深いが、特にこの後半については短絡的に結論づけられるものではなく今後も研究の必要がある。サブテーマ2については、米国との比較が行われているが、できれば欧州との比較も欲しかったところである。サブテーマ3については、SOxの排出権制度の研究は既に研究が進んでおり新味が薄く、むしろ日本への排出権取引制度の導入に関する検討が必要との意見があった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
 

研究課題名: H-12
景観の変化から探る世界の水辺環境の長期的トレンドに関する環境社会学的研究
研究代表者氏名:嘉田 由紀子(京都精華大学)

1.研究概要

 本研究は、急速に変容しつつある世界各地の淡水資源の価値を、水辺景観の変遷に埋め込まれた生態文化的価値評価という環境社会学的手法から明らかにし、新たな政策手段を提案する。
 既存の淡水資源の保全手法は、淡水を物質資源として把握する工学的で制度的な資源管理手法が狩猟であり、地域の生態的な環境価値や文化的価値は見落とされてきた。これに対して本研究は、人間の意識や主体性発揮、人間行動の動機付けの条件をふまえたローカルスタンダードとグローバルスタンダードの融合的な政策手法の開発を目指す。サブテーマは次の3つ。
(1)水辺環境の古写真収集とディープインタビューによる比較分析手法の開発に関する研究
(2)水辺環境編成のアーカイブ作成と公開手法に関する研究
(3)多様な水文化主体間の環境コミュニケーションの育成手法に関する研究

2.研究達成状況

 サブテーマ1は、日本(琵琶湖・淀川水系)、中国(北京、太湖)、ネパール(カトマンズ盆地)、スイス(レマン湖)、フランス(セーヌ川)、イギリス(湖水地方)、マラウイ(マラウイ湖)、ケニア(ナイロビ川)、グアテマラ(アティトラン湖)、アメリカ合衆国(メンドータ湖)の10か国において、「水・人間の生態文化的関係システム」を過去50~100年間の水辺景観の古写真分析及びディープインタビュー(被調査者に写真等を提示して、環境意識と生活行動動機に奥深く入り込むことを可能とする聞き取り調査手法)により把握した。
 サブテーマ2については、収集した写真を整理・公開するためのデータベース手法を開発するとともに、「今昔写真で見る世界の湖沼の100年」として滋賀県立琵琶湖博物館のwebサイト(http://www.lbm.go.jp)に成果の一部を公開した。
 サブテーマ3については、多様な水文化を担う主体間での環境コミュニケーション促進のために、今昔写真を活用することにより、社会文化的効果があることを確認した。

3.委員の指摘および提言概要

  古写真を利用したディープインタビューという手法は興味深く、貴重なデータなので一般公開してはとの意見もある。また、これによる分析枠組み(ローカルとグローバル、し尿親和文化とし尿忌避文化など)、景観保全をめぐる社会的管理の母体の今後のトレンドを示した点、3つのサブテーマの連携等も評価されている。ただし、分析や提案、政策へのつながりが弱い、政策指針づくりに役立つようにしてほしい、古写真が存在しない場合が多い発展途上国では実施困難等の指摘がある。
  なお、滋賀県立琵琶湖博物館のwebサイトにデータベースの一部が公開されているが、「地球環境研究総合推進費」により調査を実施した旨サイトに記載することが、研究費配分を受けた場合における研究成果公表のルールと考える。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3: