平成17年度中間評価結果詳細(戦略的研究開発領域)

研究課題名: S-2
陸域生態系の活用・保全による温室効果ガスシンク・ソース制御技術の開発
-大気中温室効果ガス濃度の安定化に向けた中長期的方策-
研究代表者氏名:山田興一(成蹊大学)

1.研究概要

 陸域生態系の中でも特に技術開発後の温暖化抑制技術としてのポテンシャルが大きいと期待される、森林生態系、熱帯低湿地生態系、農業生態系について2テーマずつを設置し、シンク・ソース技術を開発することを目的とする。さらに、それぞれの研究成果情報を共有化・統合化し、開発された技術及び得られた知見を広範な地域へ適用した場合の温室効果ガス(GHG)削減量、環境への影響、コスト等に関する技術的側面からの評価を可能とするためのプラットホームを開発する。サブテーマはつぎの7つである。

1a:荒漠地でのシステム的植林による炭素固定量増大技術の開発に関する研究
1b:森林造成技術の高度化による熱帯林のCO2のシンク強化
2a:熱帯泥炭湿地のGHGソース制御・シンク強化技術開発
2b:東南アジア低湿地における温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究
3a:農業生態系におけるCH4、N2Oソース抑制技術の開発と評価
3b:東南アジア山岳地帯における移動耕作生態系管理法と炭素蓄積機能の改善に関する研究
4 :研究プロジェクトの統合的推進のためのプラットフォーム形成と情報共有化

2.研究の進捗状況

各サブテーマ(4を除く)とも、それぞれの生態系を対象として、GHGの主な発生要因と排出量の推定、またその削減技術の開発とその削減効果の定量的把握について、ほぼ当初の計画通りに調査研究が実施されている。なお、3b以外のサブテーマは、本研究課題の採択以前から研究蓄積があったので、その進捗状況はサブテーマによって異なっている。また、サブテーマ1aから3bまでの研究成果は、プロジェクト全体の最終目標の一つがCDMやJIへの適用であるので、サブテーマ4の課題で統合化されて横断的評価表として、削減効果ポテンシャルの推計結果が一覧できるようになっている。ただし、削減ポテンシャルの推定方法は、各サブテーマによって異なっており、まだ改良の途上にある。

3.今後の研究計画概要((1), (2), (3) はサブテーマ4の今後の研究計画から引用)

(1) プロジェクト全体の効率的運用の強化
(2) 各サブテーマの削減シナリオの明確化
(3) GHG削減対策の中での本プロジェクトの位置づけの明確化
(4) 地球環境政策オプションとして検討に耐える数種類の案の作成

4.委員の指摘および提言概要

 この提言内容は、次に記載する委員の個別コメント(平成16年度成果報告書および中間ヒアリング後のコメント)だけでなく、中間ヒアリング終了直前の評価委員同士での全体討論の内容も含めて、まとめたものである。
(1) 本プロジェクトは、戦略的研究開発領域なので、サブテーマ毎の研究成果だけでなく、プロジェクト全体として、統合化されてまとまった成果が求められている。また、当初から5ヶ年の研究期間が、前期3年間と後期2年間とに分けて与えられている。これらから、開始3年目の年度末までに、前期3年間の成果をふまえて、プロジェクト全体の研究目標の達成を最重点の一つにして、後期2年間の具体的な研究計画を、焦点をしぼって新たに作成することが求められているので、サブテーマ毎に至急作成されたい。
(2) 本プロジェクトは、GHGの抑制ポテンシャルの大きい個別分野における技術開発を図り、それらの成果の統合化を目指すものであり、その成果がポスト京都議定書にむけた温暖化抑制技術の論議に大きな影響を与える可能性があるので、大きな期待が寄せられている。現状では、ほとんどのサブテーマで順調に研究成果が得られていると判断されるが、研究の実施体制や方向性についていくつか改良すべき点が見られた。そこで、つぎの諸点について、早急に検討されたい。
(3) 本プロジェクトで開発される削減対策については、技術面からの可能性だけでなく、社会・経済面から技術の普及を可能にする条件をできるかぎりはっきりさせて、現地で受け入れられる現実的な提案として、あるいはCDMやJIとして、具体化する努力を期待する。
(4) JICAを始めとして、日本は海外での植林に長い経験と実績を有している。しかし、それらの長期的な成功例は極めて少ないのが現状である。それは、植林技術的問題よりは社会的条件あるいはその事業の継続体制の未整備によるところが大きいためである。サブテーマの1a、1b、2aなどで追求している、植林によるCO2シンク強化は重要であり、必要度はさらに高まるだろうが、ここで得られた科学的知見を実際の政策にどう反映し、生かしていくのか、また、プロジェクト終了後の長期的な継続体制や検証方法も具体的に検討することが望まれる。
(5) サブテーマの2aと2bとでは、どちらも対象が東南アジアの泥炭湿地でありながら、サブテーマ間の連携がみられずバラバラであり、しかも重複している研究内容があるので、強力なリーダーシップのもとに、早急に具体的な連携を計る必要がある。両サブテーマで実施されている泥炭湿地での炭素収支に関しては、共通な手法で推定する必要があるので、たとえば、2bの調査地域であるインドネシアの泥炭湿地林でも、2aがタイ南部で実施している調査手法で共通に、炭素収支を調査する、そして2bはエンパワーメントや修復技術のほうに研究の重点を移す、というような提案を早急に、リーダーが2aと2bのサブリーダーに提示し、双方が合意して今後の研究を進めるように指導されたい。
(6) サブテーマ3aは、農耕地および家畜を対象としたサブテーマであるが、調査内容や調査地域などがたくさんあり、GHG発生抑制技術の開発だけでなくデータベースの構築にも重点がおかれており、研究成果が総花的になる可能性が懸念される。また、これらの研究を、5年間を通して実施する計画のような印象を受ける。しかし、プロジェクト全体の達成目標に照らし合わせてみると、最重点課題である削減技術の開発とその削減ポテンシャルの推定は、広域にしかも一律に推定すべきではなく、まずは日本で実現可能な削減手法を確立させ、それらの検証とともに、さらに/あるいはアジアの一ヶ国に焦点をしぼり、その国での削減手法を開発・確立することと判断されるので、今後の研究計画を再検討するように、リーダーとサブリーダーとで、早急に相談していただきたい。また、開発された削減技術の現地での検証を含めた実現可能な計画案が提示できるように、研究内容を絞り込む必要がある。
(7) サブテーマ3bは、本プロジェクト以前から研究の蓄積があった他のサブテーマとは異なって、本プロジェクトで初めて開始した研究である。したがって、他のサブテーマと同列に取り扱うのではなく、削減対策技術の開発およびそのポテンシャルの計算よりもGHGの発生量やバイオマス量に関する現状把握の調査研究を優先するよう、リーダーは至急、3bのサブリーダーと相談し、研究成果の見直しおよび今後の研究計画の再検討を行うよう要請する。また、東南アジアの焼き畑農業を長期にわたって研究してきた専門家の協力を仰ぐことも、必要に応じて臨機応変に対応されたい。
(8) 考慮すべき重要な温室効果ガスが抜けているサブテーマがある(たとえば、1b、2a、2bのCH4、3aの炭素収支、3bのCH4とN2Oなど)で、可能であればそれらの検討を期待する。
(9) 平成16年度研究成果報告書の中で記載されている、査読のある学術誌への掲載論文については、中間ヒアリング時点での論文数が7つのサブテーマ全体で78件と報告されている。しかし、サブテーマによっては研究成果としてあげられている論文が当該サブテーマの成果と無関係のもの、あるいは、本地球環境研究推進費以前に実施されていた研究結果をまとめた論文なども、含まれている。そこでそれらを除外すると、本プロジェクトでの純粋な成果論文数は11編である(その他に特許出願済みが2件ある)。なお現状では、インパクトのある研究成果の公表も全体として十分とはいえないが、本プロジェクトは開始してからまだ2年半なので、現在は、調査研究の継続だけでなくデータ解析と論文執筆に集中している段階であると判断される。今後は、調査研究を絞って重点的に実施するとともに、論文執筆にも十分な時間を費やして、査読論文としてインパクトのある国内外の学術誌へ発表することを強く期待する。

5.評点
 総合評点:B
 必要性の観点(科学的意義等)             :b
 有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) :b
 効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性) :b
 サブテーマ1a:b
 サブテーマ1b:b
 サブテーマ2a:b
 サブテーマ2b:b
 サブテーマ3a:b
 サブテーマ3b:c
 サブテーマ4 :b

研究課題名: S-2-1a
荒漠地でのシステム植林による炭素固定量増大技術の開発に関する研究
研究代表者氏名:小島紀徳(成蹊大学)

1.研究概要

荒漠地(農地としての用途がないあるいは生産性の低い(半)乾燥地あるいは生産性の落ちた土地)を植林して、システム的大規模植林のための基盤・応用技術の開発による吸収源の拡大を目指した研究を、西オーストラリア州の2地域を対象として、実施する。これら2地域での具体的な目標は、少ない降雨量のもとでの広域での天水利用の最適化、広域水・塩移動の観点も含めた植林適地の選択、樹種選択手法、植林手法の確立による吸収源拡大の実証である。さらに、炭素固定のためのプラットフォーム構築を目的として、WEBへのシミュレータ実装とシミュレータ間のデータ連携を行なうためのフレームワークを作成することである。サブサブテーマ構成はつぎのとおり。
(1) 荒漠地でのシステム的植林のための水・塩・土壌制御技術の開発に関する研究
(2) 荒漠地でのシステム的植林のための環境適応型植林の開発に関する研究
(3) 荒漠地植林技術のプラットフォーム構築に関する研究

2.研究の進捗状況

西オーストラリア州レオノラ近郊の乾燥地(2003年以前から研究が行われている)と、塩害発生の危機に瀕している同州パース近郊の半乾燥地小麦地帯(2003年~)の2地域を調査対象として、つぎの調査研究を行なっている。
(1) 乾燥地での中域・広域水収支測定および広域水・塩移動解析モデルのパラメータ検証、レオノラ自然林サイトにおけるリター・土壌の炭素移動解析(コンパートメントモデルに炭素収支)、乾燥地における新規無機保水材としての焼成ボーギサイトの土壌改良効果、フラックス観測によるユーカリ林の炭素固定・水利用効率推定(NEPの推定方法)、半乾燥地へ技術展開するための、半乾燥地での実証植林地の選定、植林、測定方法の検討(5地点で土壌調査および4地点で植林を行い毎木調査と土壌水分のモニタリング)を、行っている。
(2) 荒漠地における耐乾性樹木の生理生態特性、樹木の特性から見た植栽好適樹種および植栽法の選択、荒漠地における植生バイオマスの広域変動技術の開発、を行っている。
(3) 光合成シミュレータの実装と樹木の生長予測、CDMで計上される純炭素固定量の見積もりの試算、荒漠地における森林成長に伴うCO2の吸収に対するプロセスベースのシミュレーションフレームワークの開発、を実施している。
 なお、乾燥地での調査研究はほぼ順調に進んでいるが、それに比べると、半乾燥地での本格的研究はやや遅れ気味である。

3.今後の研究計画

(1) 乾燥地:完了した水挙動予測の定量的評価法の適用範囲の拡大、樹種特性の整理と定量的樹種選択手法の確立、土壌改良法の低コスト化など。
(2) 半乾燥地:選定樹種の絞り込み、植栽法による根形状制御、水挙動の理解に基づく適正な植林規模の決定法の開発/確立。

4.委員の指摘および提言概要

乾燥地では研究成果が認められるが、本研究のハードパン破壊による植林効果の適用範囲を明らかにしていただきたい。また、半乾燥地への技術展開に関する研究計画については、内容を精査して絞り込み、十分な成果があがることを期待する。さらに、水収支は非常に重要であり、とくに半乾燥地での蒸発散バランスなどを含めた水挙動モデルの高精度化を期待する。なお、わずか1-2年の現地試験で得られた結果を、長期間を要する植林手法に有効かどうか具体的検証方法の検討も必要である。一方、ユーカリを植林対象としているが、生態系の持続性の観点から、他の自然植生にも注目して研究を進展させることが望まれる(乾燥地は、開発以前は、ユーカリとアカシアであったと報告されている)。

5.評点

総合評点:b

研究課題名: S-2-1b
森林造成技術の高度化による熱帯林のCO2シンク強化
研究代表者氏名:井出雄二(東京大学)

1.研究概要

熱帯天然林の減少を阻止しCO2シンク強化のためには、木材供給源を早急に人工林へ転換する必要がある。そこで、熱帯地域で植林可能であり、かつ、一定の生産量が期待できる樹種を対象に、より高度なCO2吸収を可能とする経済林を実現するため、産地選択や固体選抜により、成長量が大きくかつ材質の優れた種苗を獲得するとともに、両者の経済バランスが最大となるような森林育成技術を開発する。また、これらを用いた森林育成体系がCO2の吸収にどのような貢献をするかを評価する。サブサブテーマ構成はつぎのとおり。
(1) 産地選択および固体選抜による早生樹種苗の遺伝的強化
(2) 早生樹による森林育成技術の高度化

2.研究の進捗状況

(1) 新産地の導入を伴う実生採取林の造成と評価、材質および成長量を指標とした優良木の評価法の開発のため、熱帯マメ科早生樹のファルカタを対象樹種として、9産地のものを、インドネシアジャワ島東部に設置した実生採取林で調査を実施中。成長には、遺伝的な違いに基づく系統間差が発現しつつあることを確認した。また、暫定的な林分成長モデルを開発した。他の対象樹種であるグメリナについては、事前調査を実施中である。 (2) 育苗技術の高度化、DNAマーカーによる固体識別法の開発、最適育林法の開発とCO2吸収評価、を実施中。なお、前者の個体識別法の開発内容は、現在特許申請中のため、明記できない。後者では、施肥量と樹高成長(CO2吸収能の評価の一指標)との間には正の相関が認められたが、どこで頭打ちになるか、追試が必要との結果を得た。 なお、当初の研究計画はほぼ順調に達成されているが、グメリナの調査研究は遅れ気味であると判断される。

3.今後の研究計画の概要

(1) 上記の2つのサブテーマに関して、ファルカタを対象として開発してきた基本技術を確立させ、それらを、他の有用樹種の一つであるグメリナに応用し検証する。
(2) これらをもとに、熱帯林のCO2シンク強化となる熱帯早生樹の育成技術の高度化の基本技術を確立させる。

4.委員の指摘および提言概要

ファルカタを対象として順調に研究成果があがっている。なお生態系の持続性の観点から、他の自然植生にも注目して複数の樹種を対象として、ファルカタだけでなくグメリナも研究を開始しているが、ファルカタの成果をもとに内容を精査して絞り込み、研究期間内に十分な成果を上げることを期待する。また、遺伝的標識を導入した意味とその効果について、研究全体に占める役割をわかりやすく説明していただきたいとのコメントがあった。また、種子の移動による生態系への影響、特に遺伝的多様性の保全の観点からの影響評価、さらには、間伐や輪伐期等林業的運用についても検討を期待するとともに、施肥物質の環境影響への配慮、およびN2O排出量の把握が望まれる。

5.評点

総合評点:b

研究課題名: S-2-2a
熱帯泥炭湿地のGHGソース制御・シンク強化技術開発
研究代表者氏名:飯山賢治(東京大学)

1.研究概要

炭素シンクとして重要な役割を持つ、東南アジアの熱帯泥炭湿地は、近年、耕地拡大を目的とした開発の進行により、その大きな部分が乾地化し、逆に大規模な二酸化炭素のソースとなっている。本研究の目的は、タイ南部ナラチワ県の熱帯泥炭湿地をフィールドとして、可溶性有機物の動態の解明にもとづいた、土壌・水管理の最適化による二酸化炭素放出抑制技術と、森林再生による二酸化炭素固定能強化技術の開発を行なうと同時に、リグニンの変性・動態を実地で定量的に把握することにより、炭素循環のミッシング・シンクを解明することである。それにより、大気二酸化炭素濃度の安定のための熱帯泥炭湿地の最適な修復・管理手法を提示することが最終目標。サブサブテーマはつぎの3つである。
(1) 開発された熱帯泥炭湿地の土壌・水管理の最適化による二酸化炭素放出の抑制
(2) 開発された熱帯泥炭湿地の森林再生による二酸化炭素固定能の増強
(3) 熱帯泥炭湿地環境中の可溶性有機物の性状と挙動

2.研究の進捗状況

(1) 熱帯湿地林の炭素収支の推定、泥炭層の分布と厚さの測定、カラム実験による泥炭分解速度の測定と泥炭層からのCO2放出量のシミュレーションなどを実施した。
(2) 泥炭の消失速度の測定、水位の変化による泥炭土壌呼吸量の変化の測定、泥炭湿地の水収支、河川中の全有機炭素濃度の測定、泥炭湿地林からの有機物流出量の推定を行なった。
(3) 泥炭中の植物細胞壁構成成分の定量、泥炭湿地水中の可溶性有機物の定性分析(北海道美唄泥炭湿地)、植物細胞壁成分の超臨海水反応、メラルーカ二次林の現存量と呼吸量推定、環境造林樹種選抜試験、造林候補樹種の低酸素耐性などに関する調査研究を行った。
なお、CDMプロジェクトを実施した場合を想定して、火災が頻繁に発生する放棄地、およびオイルパームプランテーションがベースラインの場合の2ケースについて、CO2排出削減効果量を推定した。
 ほぼ当初の研究計画に沿った成果が得られているが、サブテーマ2がやや遅れ気味と判断される。

3.今後の研究計画の概要

(1) 有機物流出を含めた泥炭湿地生態系における炭素収支の評価を行う。
(2) 有機物流出が炭素のシンクとなることを証明する。
(3) 泥炭湿地生態系保全のために水管理システムの開発と造林技術の開発を行う。

4.委員の指摘および提言概要

タイの泥炭湿地での長期的な観測に基づき、優れた成果が上がっている。今後は、この成果が、インドネシアなど他の熱帯地域の泥炭湿地にも適用可能かどうかを検討していただきたい。また、生態系の持続性の観点から、メラルーカだけでなく、他の自然植生にも注目して複数の樹種を対象とした森林再生技術の検討を求める。なお、野火による泥炭地盤沈下は、泥炭消失だけでなく水分蒸発による影響も大きいので、野火による炭素消失量推定の再検討を求める。さらに、泥炭湿地で対象とすべき温室効果ガスとして、CH4の発生量についても検討していただきたい。一旦乾地化した泥炭地が、再湛水化により、どのように泥炭地化していくか、という回復/修復過程の調査研究が抜けているので、その調査研究が望まれる。
なお、本サブテーマとサブテーマ2bとの連携/協力関係については、本研究課題全体に対する委員の指摘および提言内容を参照して、早急に実施していただきたい。

5.評点

総合評点:b

研究課題名: S-2-2b
東南アジア低湿地における温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究
研究代表者氏名:小林繁男(京都大学)

1.研究概要

土地利用変化のために、大量の温室効果ガスを発生する東南アジアの熱帯低湿地において、淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林の維持機構と炭素固定機能を解明し、森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化を明らかにする。また、温暖化抑制を促す土地利用?湿地林の再生?のための地域社会エンパワーメントを促し、その結果を、低湿地の土地資源管理オプション、修復技術ならびに社会活性化の統合へとつなげるための研究を行なう。サブサブテーマはつぎの4つである。
(1) 淡水湿地林、泥炭湿地林、マングローブ林の維持機構と(地上部と地下部の)炭素固定機能の解明
(2) 森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化の解明
(3) 温暖化制御(地球環境保全)を促す土地利用(湿地林再生)のための地域社会エンパワーメント
(4) 低湿地の土地資源管理オプション、修復技術と社会活性化の統合

2.研究の進捗状況

(1) 湿地林の地上部炭素固定機能の測定を、ミクロネシアとマレー半島西岸のマングローブ天然林で行った。淡水湿地林と泥炭湿地林では、測定中あるいは測定に着手した。一方、湿地林の地下部炭素固定機能については、西表島とミクロネシアの淡水湿地林で測定し、インドネシアのスマトラ島では、泥炭湿地林およびそれが開発された低湿地において調査・分析を行った。
(2) スマトラ島の泥炭湿地林で、植生帯状分布と炭素蓄積量の水平分布、さまざまな植生タイプの住民にとっての価値と開発、森林からの土地利用転換に伴う泥炭量の変化を記述する基礎方程式と重要なパラメータを推定するためのデータ収集を行った。
(3) 土地利用別生産環境の評価を検討するため、スマトラ島およびカリマンタンの泥炭湿地林で、またこれまでの研究蓄積の厚いスマトラ島リアウ州インドラギリ・ヒリール県で、地域社会のエンパワーメントを念頭に実態調査を行った。さらに、4つの事例研究を通して、地域住民のエンパワーメントに資するより一般的な手法や方策を検討した。
(4) スマトラ島の泥炭湿地帯が農耕地に開発されたことにより、パイライトの集積と酸化が起こり、水質及び土壌に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。
 当初の研究計画に基づいて広範囲な内容と地域とで、調査研究が進められているが、やや発散気味である。

3.今後の研究計画概要

泥炭の分解を加速しない土地利用資源管理システムの開発/確立(具体的な研究計画はヒアリング時に明示されていない)。

4.委員の指摘および提言概要

東南アジアの熱帯地域での長期的な調査研究にもとづいて、サブサブテーマ3の地域住民のエンパワーメントに関する取り組みは、高く評価できる。しかし、広範な地域で調査研究を実施しているので、このままでは研究成果が総花的になる可能性を懸念する。また、サブサブテーマ1と2については、サブテーマ2aと内容が一部重複しており、また、炭素収支推定手法が異なっており、再検討すべきである。そこで、本サブテーマ2bとサブテーマ2aとの連携/協力関係については、本研究課題全体に対する委員の指摘および提言内容をもとに、リーダーと2aのサブリーダーと打ち合わせを行い、早急に研究計画の再検討を求める。なお、サブサブテーマ4では、修復のための水管理法や水田再生技術など具体的な技術対策をもとに、データを積み上げることにより、将来実行のある技術を確立する方向に焦点を絞る/修正することが望ましい。

5.評点

総合評点:b

研究課題名: S-2-3a
農業生態系におけるCH4、N2Oソース抑制技術の開発と評価
研究代表者氏名:八木一行(農業環境技術研究所)

1.研究概要

日本とアジア諸国の農耕地と畜産業における実効的なCH4,N2O発生制御技術の開発とその削減効果の広域予測評価を目的とする。そこで、日本の各地で、農耕地と畜産業における、現場で実用可能なCH4,N2O発生制御技術の開発試験を行い、それらの削減効果の定量評価を行なうとともに、日本で開発されたこれらのGHGソース制御技術の、アジア諸国での有効性の評価を行なう。一方、日本とアジア地域における農業生態系からのCH4, N2O発生に関するデータベースを構築し、それとGHGソース制御技術の定量評価結果から、日本とアジア地域における農業生態系からのCH4,N2O発生制御技術の削減効果に対する広域評価を行なう。サブサブテーマはつぎの2つである。
(1) わが国とアジア諸国の農耕地におけるCH4, N2Oソース抑制技術の開発と広域評価
(2) わが国とアジア諸国の畜産業に由来するCH4, N2Oソース抑制技術の開発と広域評価

2.研究の進捗状況

(1) わが国とアジア諸国の農耕地からの実効的CH4、N2Oソース制御技術の開発を目的として、日本の水田からのCH4発生制御と草地と野菜畑からのN2O発生制御について調査をおこない、インドネシアの農耕地および中国におけるCH4, N2O発生制御に関して現地調査を行なっている。わが国とアジア諸国の農耕地におけるCH4,N2Oソースデータベースの構築と削減効果の広域評価を目的として、CH4, N2Oソースデータベースの構築と統計モデルによる解析、水田からのCH4の発生量広域評価と発生評価、および流域複合生態系解析によるCH4, N2O削減効果の定量的評価、を行なっている。
(2) 反すう家畜由来CH4発生制御技術の開発とソースデータベースの構築および削減効果の評価を目的として、インドネシア、タイ、中国内蒙古で、水牛、乳牛を対象としてCH4発生量を把握した。また、畜産廃棄物由来CH4,N2O制御技術の開発とソースデータベースの構築および削減効果の評価を目的として、処理過程における単位家畜あたり窒素・有機物排出量の削減(飼養改善)、堆肥化過程からのN2O揮散抑制技術の開発(処理制御)、処理物の加工・修飾による土壌施用時の発生量削減(加工制御)、を行った。
これらから、当初の研究計画に基づいて、調査研究はほぼ順調に進んでいる。

3.今後の研究計画の概要

(1) 農耕地:N2O発生データベースの構築と解析、流域複合生態系解析手法の精緻化とその広域評価、プロセスモデル改良とその広域評価および削減ポテンシャルの広域予察マップの作成。
(2) 畜産業:反すう家畜由来のCH4については、東及び東南アジア地域からのCH4排出量の推定精度の向上とCH4発生量制御技術の開発と適用効果の評価。畜産廃棄物由来のCH4とN2Oについては、養豚の東アジアの飼料でアミノ酸利用性向上技術の確立と、堆肥化堆積物内からのアンモニア利用によるN2O揮散抑制とペレット堆肥の再検討。

4.委員の指摘および提言概要

具体性を持つ現地の貴重な測定データが得られており、これまでの研究成果は高く評価できる。しかし、調査地点や研究項目が多すぎて成果が総花的になるおそれがあるので、今後の研究計画は、本研究課題全体に対する委員の指摘および提言内容をもとに、リーダーと相談して早急に再検討していただきたい。また、2つのサブサブテーマともデータベースの構築をも重点にしているが、具体的にどのようなデータベースをどのようなプロセスで作成するのか(関係する国との共同作業を含めて)不明瞭である。そこで、本サブテーマでの最重点目標である発生抑制技術の開発とその削減ポテンシャル推定の達成にむけて、データベースの構築に関する研究を再検討することを期待する。さらに、サブサブテーマ2の今後の研究計画は、当初の計画とどこがどのように違うのか不明瞭であるので、今後のあらたな具体的な研究計画を再検討して早急に作成していただきたい。なお、2つのサブサブテーマとも、CH4とN2Oとを独立に調査しているが、それらのガスの相互関係(たとえば、トレードオフなど)も含めて対象地域で同時に測定して、総合的な削減ポテンシャルを推定することを検討されたい。開発した削減対策の実施と検証に関してはその地域や国の実情にあったもの(たとえば、生産形態などを考慮して)を提案する必要があるので、今後および後期2年間の研究では、対象地域をどこに絞って進めていくのかなど、重点課題の研究計画を明らかにしていただきたい。

5.評点

総合評点:b

研究課題名: S-2-3b
東南アジア山岳地帯における移動耕作生態系管理法と炭素蓄積機能の改善に関する研究
研究代表者氏名: 井上吉雄(農業環境技術研究所)

1.研究概要

本研究の目的は、東南アジアで広く行なわれている現在の焼畑農業を、持続的な食料生産機能と炭素シンク機能などの環境保全機能を併せ持った農耕地生態系に改変していくための技術開発を行うことである。そこで、典型的な焼畑移動耕作地帯であるラオス北部山岳地帯を調査研究対象地域とし、焼畑稲作の生産性支配要因を明らかにし、農民が適用可能な陸稲栽培をベースとした資源循環的輪作システムを開発するとともに、休閑期間における森林バイオマス成長過程を解明しモデル化する。そして、これらをリモセン・地理情報システム・モデリングなどの情報手法を用いて総合化し、土地利用・植被動態・炭素シンク/ソース容量の広域的長期的実態ならびに焼畑移動耕作生態系の管理方法変更に伴う、これらの変化を評価し予測する。サブサブテーマはつぎの3つである。
(1) リモートセンシング等による移動耕作生態系の変動と立地環境の解明
(2) 移動耕作生態系のシンク機能増強のための資源循環的輪作システムの開発・導入に関する検討
(3) 生態系管理法の変更に伴う土地被覆変化モデルの構築と炭素収支への影響評価

2.研究の進捗状況

(1) リモートセンシング等による移動耕作生態系の動態解明により、生態系―大気間炭素収支を広域的に評価し、気象資源の広域的分布特性及び生態系との関係を明らかにした。
(2) 焼き畑耕作における炭素動態を定量的に把握し、また、焼き畑陸稲の生産力向上に関する実験的検討を行った。
(3) ラオス北部山岳地帯で主要な植生タイプの判別を行い、焼き畑耕作後の休閑期間を考慮した固定調査プロットを設定し、熱帯竹類を中心としたバイオマス調査を行うとともに、炭素収支モデルの開発に着手した。
 リモートセンシングデータを用いた解析的研究は順調に進んでいるが、現地での調査研究は、やや遅れ気味と判断される。

3.今後の研究計画

(1) 代替シナリオの基軸となる生産性・持続性の高い生態系管理システムの開発
(2) 現地実測データの蓄積:土壌CO2フラックス、リター量、休閑バイオマス量など
(3) 広域的な土地利用・生態系変化・炭素収支評価システムの高精度化
(4) 上記で期待される科学・技術的ポテンシャルの社会経済的受容性の検討

4.委員の指摘および提言概要

本サブテーマは、本プロジェクト開始後、全く新たに調査研究を実施してきたが、リモセンデータなどの解析的研究で、良い成果が得られたと評価できる。しかし、バイオマス量と炭素蓄積量の推定方法、代替案の5-10年周期の妥当性、などに大きな疑問が見られる。そのような現状では、本プロジェクト全体として求められている削減ポテンシャルの推定は、この5年間では時期尚早と判断する。そこで、本研究課題全体に対する委員の指摘および提言内容をもとに、早急にリーダーと相談して、今後の研究計画を大幅に再検討することを求める。

5.評点

総合評点:c

研究課題名: S-2-4
研究プロジェクトの統合的推進のためのプラットフォーム形成と情報共有化
研究代表者氏名:山田興一(成蹊大学)

1.研究概要

本プロジェクトの効率的な遂行と成果の公開を進めることを目的として、荒漠地、熱帯低湿地生態系、農業生態系を対象とした6つの研究課題を通して開発中の、陸域生態系活用と保全によるGHGシンク・ソース制御技術の統合的プラットホームを作り、情報の共有化、統一的な評価システムの構築化をはかる。
申請時の研究計画では、とくに中心となるものは、1年目が荒漠地へのプラットフォーム構築へ向けたWEBへのシミュレータ実装などで、2年目は、プラットフォームの熱帯林への拡張とCO2以外のGHGの取り込み方法など。また、将来的には、汎用ツールの作成とそれを地球規模のものにする予定である。

2.研究の進捗状況

(1) CDMのプロジェクトデザインドキュメントの形式を参考に、各サブテーマの削減ポテンシャルを推計するとともにリーケージを算定して、GHG削減ポテンシャルを定量化し横断的評価法を作成した。それにさきだち、各サブテーマのGHG削減ポテンシャルの算定方法について、具体的に説明がなされている。
(2) 生態系シミュレータを利用したプラットフォーム構築は、サブテーマ1aの研究結果を例にとり、検討を進めた。
当初の研究計画にもとづき、他のサブテーマと共同で順調に削減ポテンシャルの推計は進んでいるが、シミュレータ作成は、まだ一部の生態系だけにとどまっている。

3.今後の研究計画概要

(1) 横断的評価法の高精度化の推進とその公開
(2) 各チームの研究成果による削減ポテンシャルの定量化に協力

4.委員の指摘および提言概要

今回採用されている削減ポテンシャルの横断的評価表は、コーディネーションの方法として有効であり、研究の進展とともに次々と改訂されるものであり、それらが各サブテーマの研究の進展を追跡するために役立っており、高く評価できる。しかし、横断的評価表の対象地面積は、世界やアジアなどを対象としているものがあるが、削減対策は個々の現地の実情にあったものでなければ、実施不可能であるので、対象地域の再検討を求める。また、削減ポテンシャルの具体的な推定手法(サブテーマ3aなど)が、不明確なものがあるので、スケーリングアップ手法の検討などを含めた十分な具体的説明を求める。
なお、「プラットフォーム」は、個々のサブテーマの研究の目的・意義、研究進捗状況と成果の透明性の開示などに役立つ重要なものなので、本研究全体の位置づけが具体的にわかるようにプラットフォームを形成していただきたい。

5.評点

総合評点:b