平成17年度中間評価結果詳細(延長の可否)

 

研究課題名: B-15
環礁州島からなる島嶼国の持続可能な国土の維持に関する研究
研究代表者氏名:茅根 創 (東京大学)

1.研究概要

  島嶼国,とくに環礁上の州島は標高が最大数mと低平で,利用可能な土地と資源が限られており,環境変動に対する脆弱性がきわめて高い.したがって、サンゴ礁の生物過程は地球温暖化の進行と州島の開発によって,また、人間の植生管理は島嶼国の経済システムの変容によって,いずれも崩壊の危機にある.本研究では,ミクロネシア,ポリネシア,メラネシアから代表的な環礁をそれぞれ1つ選び,環礁州島の地形と資源が,物理過程に加えて生態プロセスと人間の地域的知恵によってどのように形成・維持されてきたか,こうした自然-人間の相互作用が経済システムの変化に伴ってどのように変容してきたかを,地形・生態学,考古・民俗学,リモートセンシング・海岸工学の学際的共同研究によって明らかにする。それらをもとに、島嶼国の持続可能な国土と経済基盤の維持と環境変動に対する具体的方策を,島嶼国ネットワーク・現地の政策策定者に直接提案することによって,島嶼国の温暖化適応戦略策定に役立てる。サブテーマは次の3つである。
(1) 環礁州島の自然(地形-生態)プロセスに関する研究(地形・生態学)
(2) 環礁州島の人間居住-自然環境相互作用に関する研究(考古・民俗学)
(3) 環礁州島形成維持プロセスの統合モデルと変動予測,モニタリングに関する研究(リモートセンシング・海岸工学)

2.研究の達成状況

  課題の研究目標に向かって、各サブテーマ間でよく連携がとれており、成果が順調に得られている。開始後3年目前半までの、各サブテーマの研究成果は次のようである。
(1) 2地域(マーシャル諸島マジュロ環礁とツバル国のフナフチ環礁)での現地調査から、州島地形の基本的構成要素(海岸側からサンゴ礁礁原-ストームリッジ-中央凹地-ビーチリッジの順に配列)その形成過程(過去の高い海面期のサンゴ礁、暴浪時のサンゴ礁の打ち上げ、沿岸流による生物遺骸砂の堆積、という3つの過程)を明らかにし、生物による砂の生産とその移動、堆積過程を、一連の過程としてまとめた「環礁州島の地形モデル」を、初めて構築した。
(2) これらの環礁の調査から地形形成過程と人間居住との関係を明らかにして、地形安定化にこれまで果たしてきた、現地の人々の多層的な地形利用と伝統的植生・地形管理システムが、近代化にともない崩壊しており、それが地形維持システムの劣化、海面上昇に対する脆弱性を高めていることを明らかにした。
(3) 全球GISデータベースに基づく海域区分を行なうとともに、環礁州島の地形と土地利用を、GPS・空中写真測量とリモートセンシング(ランドサットETM+衛星データ)によってマッピングする技術を構築した。
 さらに当初の研究計画と照合すると、各サブテーマの年度の研究計画はほぼ達成されており、今後、平成17年度末には、概ね当初計画で想定した研究成果が得られるものと見込まれる。

3.延長された場合の研究計画概要

(1) これまでの3年間で構築した「西太平洋型・インド洋型の地形形成モデル」を他の型(赤道型、南東太平洋型)にも適用できるかを検証し、一般化した環礁州島地形モデルを作成する。
(2) 人為ストレスが、海面上昇に対する州島の脆弱性をどの程度高めているかを、生態系劣化による有孔虫生産量の減少、人工構築物やドレッジによる漂砂の阻害、そして海浜植生破壊による砂浜安定機能の喪失を、定量的に明らかにして、それらを地形モデルにとり込んで、海面上昇に対する州島地形の変化をより現実的に予測する。
(3) 地形と人間とのかかわりが島嶼ごとに違い(バリエーション)が認められたので、そのようなバリエーションがどのような条件によって規定されるかを明らかにし、地形-人間居住関係および伝統的管理システムとその崩壊についての仮説を一般化する。
これらの開発されたモデルなどを、マーシャル諸島共和国で検討されている海岸管理計画策定案に組み込む作業を、現地の担当者とともに行い、その地域の環境保全計画を具体的に支援する。

4.委員の指摘および提言概要

(1) これまでの研究成果
環礁州島形成の生態的・物理的なモデルを開発し、またその地形形成過程と人間居住との関係を明らかにし、人間居住の急激な近代化が地形維持システムの劣化や海面上昇に対する脆弱性を高めていることを明らかにしたことは、非常に高く評価できる。また、審査付き発表論文も、6編報告されている。
(2) 延長申請研究計画
3年間の成果の延長線上でぜひとも明らかにすべき課題として、人間活動が有孔虫生産の低下にかかわってきたメカニズムを解明して有孔虫生産を回復させる具体的手法、また、海面上昇が実際に起きた場合の具体的な対応策などがあるので、これらを検討して海岸管理計画策定案のなかに組み込みことを期待する。
なお、これまでに得られた大きな研究成果と比較すると、提案された今後2年間の研究計画は、やや定性的で、研究内容の質的な発展が不十分・不明確である。そこで、これらの指摘事項をふまえて、次年度の研究計画申請時までに、さらに質的に改善された研究計画を提出していただきたい。

5.評点
 総合評点:A
 必要性の観点(科学的意義等)         :b
 有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) :b
 効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):b

研究課題名: B-62
2013年以降の地球温暖化対策促進に向けた国際合意のための方法に関する研究
研究代表者氏名:亀山康子(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、京都議定書が排出抑制義務を明示している2008-2012年以後の将来の気候変動関連の国際制度のあり方について、特に政策的観点から分析を行い、いくつかのオプションの形で提案を行うことを目的とする。
サブテーマ構成はつぎの通り。
(1)地球温暖化対策の促進を目的とした国際制度に関する研究
(2)2013年以降の地球温暖化対策に対する国の意思決定に関する研究
(3)農村地域における炭素収支の定量的評価と費用対効果に関する研究

2.研究の達成状況

平成16年度までの研究は概ね計画通りの進捗と見られるが、内容が多岐に亘っているので、最終年度(17年度)には、最終達成目標に添った提案等の形で結果を提示することが望まれる。
サブテーマ1においては、前年度に得られた基礎的知見に基づき、将来枠組みについて検討した。具体的には、将来枠組み提案の前提条件設定のための3つのシナリオの作成、EU域内排出量取引制度の分析、科学的不確実性と予防原則/予防的アプローチに関する検討、2013年以降の中長期的な国際制度提案に関する検討、将来枠組みにおける適応策の検討を行った。
サブテーマ2においては、欧州諸国における意志決定過程の調査、米国における意志決定過程の調査、ロシアの動向の調査を行った。また、EU排出量取引制度がCDMおよびJI市場に与える影響とその問題点について検討した。更に、京都議定書第一約束期間後の国際的取り組みのあり方について公開シンポジウムを開催した。
サブテーマ3においては、農耕地における炭素収支を定量的に把握する方法の開発をおこない、畜産における温室効果ガスの排出・吸収量推定法について検討した。また、途上国農村地域からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその費用負担に関する検討を行った。

3.延長された場合の研究計画概要

 具体的な研究計画内容が提示されていない。

4.委員の指摘および提言概要

将来の地球温暖化対策促進に向けた国際合意に関する研究として、行政的にも学術的にも期待は大きい。2013年以降の枠組みについて強いインパクトを与える成果が要請される。今回の説明では、延長の部分の具体性が乏しいせいもあり、結果的に延長はならなかったが、将来の政策決定への貢献の要請は相当高いといえる。
サブテーマ1については、それぞれのシナリオ、レジームについて国際合意形成がどうとりやすいかの評価をつける必要がある。また、京都議定書の3つのメカニズムが、どのように機能し、第二約束期間へ向けてどうか変わるべきか、新メカニズムの可能性について、などの検討も行う必要がある。
サブテーマ2においては、米国等だけでなく、中国、インド、小島嶼国、途上国など立場の異なる国についての動向分析も必要である。
サブテーマ3については、全体における位置づけが不明なのでより明確にしてほしい。

5.評点(延長計画は具体的内容が提示されていないため、実績のみの評価)

 総合評点: B
 必要性の観点(科学的意義等)         : b
 有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) : a
 効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性): b

研究課題名: C-7
東アジアにおける酸性・酸化性物質の植生影響評価とクリティカルレベル構築に関する研究
研究代表者氏名:河野吉久(財団法人 電力中央研究所 環境科学研究所)

1.研究概要

本研究では、日本をはじめとする東アジアの植生に対する大気汚染の影響の防止・軽減に資することを目指して、汚染物の濃度・接触時間と植物の反応との関係を明らかにすることにより、植物の種の感受性を考慮した酸性・酸化性物質のクリティカルレベルの暫定値を構築・提案する。これは植生面から大気汚染物質の排出削減の必要性を判断する基礎情報となることが期待される。また東アジアで大気汚染物モニタリング技術が遅れている地域が多いことを考慮し、指標植物を用いて大気質を簡易に評価する手法を開発し、普及のための諸条件を検討する。さらに、東アジアを対象として、汚染物濃度、沈着量およびクリティカルレベルの広域マッピングを行うことにより、大気質と影響との関連性を定量的・視覚的に表現して、植生影響への効果的な対策に貢献することを図る。
・サブテーマ構成
(1) 酸性・酸化性物質に対する植物の感受性評価に関する研究
(2) 簡易な植生影響評価手法の構築に関する研究
(3) クリティカルレベルの暫定値算出とマッピングに関する研究

2.研究の達成状況

・ 酸性・酸化性物質に対する複合処理実験の結果、例えば、温暖地方の優占種であるスダジイは O3 と窒素の複合負荷により生長が相乗的に阻害されるのに対して、冷温帯~亜寒帯に分布するカラマツでは生長阻害が相殺されることが判り、クリティカルレベルを設定するためには、単独要因を検討するだけでなく、複数の主要因を複合的に加味しなければならないことが明らかとなった。 また、スギ、アカマツなどの6種について、個体乾物生長における O3 または SO2 感受性の樹種間差異を左右する生理化学的指標を検索し、光合成速度や Rubisco 濃度・活性が有効であるとの結果を得た。
・ハツカダイコンとタアサイを指標用植物として、国内3地点、国外(タイおよびベトナム)4 地点に配置した小型 OTC を用いてO3 暴露量と成長量の関係を調べた。その結果、鮮明な結果を得るためには個別地点毎の解析が必要であることが判った。また海外においては、OTC 内の温度の影響が大きいこと、播種から発芽までの初期栽培管理が重要であること、などの課題を抽出できた。
・東アジアにおける SO2 濃度分布の推定 - 2001 年 3 月~ 2003 年 3 月の 13 ヶ月について東アジア全域の SO2 濃度分布を推計し、モデルの性能について国際的な比較をした結果、本研究で用いたモデルの予測精度は比較的高いことが明らかとなった。
・東アジアにおける降水中の主要な化学成分と酸の湿性沈着量 - 硝酸とアンモニウムに加えて、硫酸とカルシウムを含めた陸域と海域の湿性沈着量の分布を調べ、東アジア北西部から南東に下るにしたがって降水 pH が低下する傾向を明らかにした。
・複雑な地形条件下で酸化性物質の影響を評価するため、沈着モデルを新たに考案し、丹沢山地と剣山山頂部を対象とする風況・物質輸送シミュレーションを行った。その結果、衰退地点付近に分布する樹木は強風と同時にバックグラウンド O3 の影響を受けやすいことが明らかになった。
・わが国の大気質と森林衰退との関連性評価:ア)大気質とスギ衰退との関連性評価- 75~01 年の AOT40(Ox) の分布図を地球統計学的手法により作成し、関東地方を中心としたスギ衰退調査結果と比較し、AOT40(Ox) が植生影響評価の指標として有効であるとの結論を得た。 イ)クリティカルレベル暫定値のマッピング試案の作成 - 感受性の高い群落の分布域における AOT40(Ox) の平均値をマッピングし、クリティカルレベル暫定値に対する過剰域を抽出した。このマッピングは、潜在的影響が発現しやすい状況を可視的に提示するもので、今後森林の実態との整合性を調べることにより環境政策への提言等に活用し得る可能性を持っている。

3.委員の指摘および提言概要

・簡易法はマニュアル化して、東アジア諸国に応用できる手法として確立することが望ましい。
・オゾンのクリティカルレベルは、AOT40 に基づく評価がヨーロッパで提唱され、検討も進んでいるので、ヨーロッパとの比較が今後進むべき方向の一つであろう。
・遺伝子レベルの研究も将来検討することが望ましい。

4.評点

 総合評点:B
 必要性の観点(科学的意義等)         :b
 有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) :b
 効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):b