平成17年度中間評価結果詳細(地球環境問題対応型研究領域)

 

研究課題名: A-10
衛星観測データを利用した極域オゾン層破壊の機構解明に関する研究
研究代表者氏名: 中島英彰(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、主にILAS-IIやILAS等わが国の衛星センサーによって得られたデータ、および海外の衛星センサーによって得られたデータを包括的に用いて、極域オゾン層変動の定量的把握とその変動を引き起こす物理・化学的メカニズムの解明を目的とする。
サブテーマの構成は次の通り。
ILAS/ILAS-II観測スペクトルデータからの大気パラメータ導出手法の高度化に関する研究
地上・気球・他衛星データ等を利用した衛星データ検証に関する研究
ILAS/ILAS-II等衛星データを用いた極域オゾン破壊機構解明に関する研究
化学輸送モデルを用いた極域オゾン破壊に関する研究

2.研究の進捗状況

全体的に計画通りの進捗状況といえる。
サブテーマ1では、エアロゾル吸収のベースライン曲線からの推定、中間赤外領域を用いたリトリーバルの高度化その性能評価、ガス濃度プロファイルの誤差評価、可視領域からの気温・気圧データのリトリーバルを行った結果、ガス・エアロゾル等の「より尤もらしい」同時推定が可能となった。
サブテーマ2では、ILAS-IIと同期観測の他データを用いて「検証解析」を行った。具体的には、米国アラスカで運用されているフーリエ型赤外分光計(FTIR)観測とオゾン・硝酸データの比較、ドイツの低軌道衛星(LEO)によるGPS掩蔽(えんぺい)観測結果である高精度高分解能の温度データとの比較などを行った。これによりILAS等の可視域データ解釈での注意すべきエアロゾル粒径範囲が明らかになった。
サブテーマ3では、データの信頼性を確認したILAS-IIデータを用いて、南極上空で大規模なオゾン破壊が脱窒と関連して生じることを明らかにした。
サブテーマ4では、ILASの観測データが存在する1997年について、化学輸送モデルと時間閾値解析法を用いて極渦大気の輸送量の解析を行った。

3.委員の指摘および提言概要

ILAS及びILAS-IIと限定された期間における観測データからオゾン層破壊機構の解明を行う研究として、学術的成果ならびに地球環境政策への貢献の見込み、ともに一定の評価が与えられる。各サブテーマとも概ねすぐれた成果が期待されており、IPCC報告書のサイエンスセクションへの貢献も期待される。しかし、サブテーマ間の関連についてより明確にすることが望ましい。また、衛星データは重要であるが、本研究を持ってこの取り組みに決着をつけてほしいとの意見があった。
サブテーマ1については、ガス濃度等導出の解析モデルに残された課題について、利用法を工夫することで対応しているが、モデル改善の可能性、利用法の妥当性について十分な検討を望みたい。
サブテーマ2(衛星データの質の検証)については、その成果はサブテーマ1への寄与が主眼となるはずであるが、最終的に検証データとしてどのように寄与するかをより明確にされたい。
サブテーマ3,4については、新たな手法により注目すべき成果が得られていると評価される。特にサブテーマ3は、極域でのオゾン破壊機構解明に優れた成果を期待する。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4:  

研究課題名: B-2
温室効果ガス観測衛星データの解析手法高度化とその利用に関する研究
研究代表者氏名: 横田達也(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、雲・エアロゾルがある場合の衛星観測データを有効に活用して、地上の二酸化炭素の収支を推定する方法の確立を目指すものである。
サブテーマ構成は次の通り。
温室効果ガスの遠隔計測における巻雲・エアロゾルの影響研究
衛星観測データからのカラム量導出のための解析手法の高度化研究
二酸化炭素収支分布推定のためのデータ同化手法の開発

2.研究の進捗状況

サブテーマ1では、「衛星搭載類似センサー」の地上モデル(BBM)を用いて、地上観測と航空機観測とを行い分光データを取得した。BBMを航空機に搭載した観測はわが国初であり、大きな成果と考えられる。しかしながら航空機により取得したデータはS/N比が十分でなく、解析により二酸化炭素濃度の導出までに至らなかった点はやや計画より遅れている。これは本研究の枠外で作成されたBBMに起因するもので不可抗力ともいえる。 サブテーマ2では、薄い雲(巻雲)が地上10km付近に存在する場合に、2.0μm帯の水蒸気吸収の飽和領域の観測データから巻雲の放射(パスラディアンス)情報が得られることを用いて、各種物理量の逐次推定法を開発した。また、巻雲の初期推定高度に若干の誤差があっても二酸化炭素のカラム量を0.2%の推定誤差で検出することができるとのシミュレーション結果を得た。これは、計画どおりの進捗状況である。 サブテーマ3では、衛星観測濃度データと大気輸送モデルを結合する4次元同化システムのアルゴリズムの検討を計画通り進めた。また、データ誤差がガスの収支推定に及ぼす影響の研究を計画より先行して進めた。

3 .委員の指摘および提言概要

本研究は、衛星データから温暖化効果ガスのソース・シンクの地域ごとの定量的特定をめざすGOSATプロジェクト推進のために不可欠であり、学術的成果、行政的波及効果に概ね高い評価と期待が与えられる。一部を除いてほぼ計画どおりに進められていると評価される。しかし、サブテーマ間の連携が明確でない部分があり、サブテーマの出力と入力をより明確にすることが望ましい。
サブテーマ1については、地上・航空機観測から得られたデータにより、手法の有効性が示されているとする意見があるが、BBMの性能不足のために、成果が出遅れているので、今後の早めの成果を期待したい。
サブテーマ2については、衛星データから温室効果ガスのカラム量を導出する高精度の逐次推定法が得られており、高い評価が与えられた。
サブテーマ3については、データ同化手法による成果を評価する意見があった。しかし、GOSATの最終出口(成果)を決める上で重要なサブテーマなので、できるだけ早めにend-to-endフローを作成してほしい。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: B-12
極端な気象現象を含む高解像度気候変化シナリオを用いた温暖化影響評価研究
研究代表者氏名:江守正多(国立環境研究所)

1.研究概要

本研究は、極値現象を含む気候変化シナリオを用いて温暖化評価を試み、その有効性と不確実性を検討することで、全球規模の温暖化影響評価の精度向上を図ることを目的とする。サブテーマの構成は次の通りである。
影響評価に必要な気候モデルの極値再現性の検証と入力データの検討に関する研究
極値現象を含む気候変化シナリオを用いた温暖化影響評価に関する研究
影響評価において重要な極値現象変化のメカニズム解明と不確実性の検討に関する研究

2.研究の進捗状況

サブテーマ1では、高解像度の大気モデルにより得られた結果と、従来の中解像度のそれを比較し、高解像度モデルが、強い降水頻度、強度およびその空間分布をより現実的に表現することが明らかにされた。一方で、積雲対流過程のモデル化の仮定により強い日降水の再現性は大きく変わることもわかった。当初の平成16年度計画であった大気モデルの検討より進めて大気海洋結合モデルについての検討に入っている。また、環境影響研究のための入力データの作成は計画通り行われている。
サブテーマ2では、降水の影響評価の手法を検討し、水資源評価(渇水持続曲線)や農業影響(農産物潜在生産性推計)について、高解像度モデルで提供される日単位気候を用いた場合と月単位気候を用いた場合の差について比較をした。予定通りの進捗といえる。
サブテーマ3では、平成16年度として計画した大気モデルによる極値現象変化の解析を終了したので、年次計画に先行して大気海洋結合モデルの解析、極値現象のメカニズムと不確実の研究に取り掛かった。

3.委員の指摘および提言概要

全体として良い成果が得られつつあり、学術的成果、地球環境政策への貢献に高い評価が与えられる。進捗状況も計画以上である。各サブテーマの成果についても高い評価が与えられる。ただ、一部の研究成果の根拠が報告の記述からは読みとれないとの指摘があった。
サブテーマ1については、温暖化予測モデルとしては世界最高解像度の大気海洋結合モデルの活用により、20世紀の気候再現実験と、将来の気候予測結果を行い、種々の極端な現象に関する予測などを通じて温暖化影響評価研究に大きく貢献しているとの評価である。
サブテーマ2については、影響評価に日単位の気候情報を用いることの重要性を示した点は今後の進展に大きな意義があるとの評価である。
サブテーマ3は、極値現象メカニズムの解明に、特に高い評価が与えられている。
なお、研究全体に関し、解像度の問題ではないが、モデル自体が複雑で非線形な実際の現象をどこまで正確に表現しているかについて検討し将来の研究の指針となるよう求める意見もあった。

4.評点

総合評点: A    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  

研究課題名: D-4
大型船舶のバラスト水・船体付着により越境移動する海洋生物がもたらす生態系撹乱の動態把握とリスク管理に関する研究
研究代表者氏名: 川井浩史(神戸大学 内海域環境教育研究センター 教授)

1.研究概要

 タンカーや石炭・鉱石運搬船などの大型船舶が積載するバラスト水は全世界で年間約 120 億トン余りが移動すると見積もられており、それに伴って海洋生物が長距離輸送されて貨物積み込み港付近の生態系を乱すことが世界的に問題となりつつある。また船舶の船体にはさまざまな生物が付着して、バラスト水と同様越境移動の原因となっている。本研究は代表的移動生物を世界各地で採取して遺伝子解析等の手法により拡散経路を明らかにすること、また大型船舶のバラストタンク内生物の生存状態および船体表面における生物付着状態を継続的に調査すること、などにより越境移動の実態を明らかにするとともに、その予防・軽減に向けての指針を得ることを目指すものである。
サブテーマ構成
 (1) バラスト水・船体付着により越境移動した生物群集の起源、拡散経路および動態の解析に関する研究
 (2) バラスト水・船体付着生物群集遷移の把握および管理に関する研究

2.研究の進捗状況

サブテーマ (1)
・北アジア海域から欧州、オセアニア、南北アメリカへ移動したと言われているワカメを国内外で採取、ダイレクトシークエンスと SSCP 法を併用して遺伝子型による分類を行い、世界各地の集団の移入経路を推定した。また、オセアニア原産で日本へ移入され、さらに日本から韓国、ヨーロッパへの二次拡散が示唆されているコウロエンカワヒバリガイについても同様の解析を進めている。
・日本-オーストラリア間を航行する石炭運搬船においてバラスト水を定期的に採取し、動物プランクトン個体数を定量し、また海藻類の胞子または発芽体の存在を培養により確認した。冬季には航海終了時まで動物プランクトンの生存が確認された。
・大陸間航路の石炭運搬船を対象に、停泊時潜水作業またはドック内で船体表面を調査し、各部に付着している海藻類(アオサなど)および動物類を採集、形態に基づいて分類するとともに、海藻類の一部については分子系統学的解析により原産地を推定した。また、船体部位による付着程度の違いも明らかにした。

サブテーマ (2)
・日本とオーストラリア間を航行する石炭運搬船において、バラストタンク内の上部および下部の水を採取し、植物プランクトン、原生動物、細菌類について航行期間中の消長やリバラストの効果を調べた。同時にフローサイトメトリーや DGGE 法の有効性を明らかにした。また、バラスト水の環境特性(水温、pH、溶存酸素量、クロロフィル量など)の連続モニタリング、重金属濃度分析などによりバラストタンク内生物の生存に影響する要因についてのデータを得た。
・連続暗条件での植物プランクトンの耐性を調べるため、明条件(コントロール)と連続暗条件で培養実験を行い、14日の連続暗条件下で生存する種を確認した。またリバラストの効果を見るため、暗→明の移行条件における培養も行った。

3.委員の指摘および提言概要

サブテーマ (1) におけるワカメ各地集団の遺伝的多様性解析は生物の越境移動の実態を把握する上で価値あるデータが得られている点で高い評価を与えることができるが、学術誌上で早急に論文発表をすること。また船体付着生物の調査は、オーストラリア原産でこれまで日本での分布が報告されていない種を見出すなどの成果が得られたことは高く評価できる。
サブテーマ (2) におけるバラストタンク内生物調査 については下記のとおり。
(i) 手法について:この研究では、顕微鏡-ビデオカメラシステム、セディメントチャンバー、フローサイトメーター、DGGE 法による遺伝子レベルでの解析、などの手法が用いられている。これらの手法で得られる知見と生物の越境移動可能性との関連を明確にすること。
(ii) 対象種について:原核生物は一般に分裂速度が速く、環境適応性の獲得も速やかなので越境移動生物という観点で最初の対象種として適当ではない;最初のフェーズでは真核生物を対象に変更した方がよいと考える。
(iii) 培養実験:培養できる種は海洋生物の中のごく限られた一部に過ぎないので、実験の意義付けをはっきりすること。
(iv) バラストタンク内環境特性の調査 ― 調査項目の妥当性に疑問。たとえば、重金属を分析する意義を明確にすること。
(v) サブ(2)の構成:バラストタンク内生物調査、バラストタンク内環境特性測定、培養試験に加えて国際条約関連の情報収集も行われたが、これら4つの研究項目を総合する視点が乏しく寄せ集め的な印象が否めない。
全体として今後の課題:3年間の研究で、沿岸生態系への影響評価やバラスト水・船体付着管理への提言を実現できるか疑問であり、拡散している研究については重点化を図ることが必要と考える。また、国際的な問題となるので、確定的なデータを出すような努力が必要であろう。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
 

研究課題名: F-3
侵入種生態リスクの評価手法と対策に関する研究
研究代表者氏名: 五箇公一((独)国立環境研究所)

1.研究概要

本来の生息地以外に生物種が人為的要因によって運ばれ、分布拡大する生物学的侵入は、生物多様性を脅かす要因として国際的に問題視されている。こうした脅威に対して国際自然保護連合(IUCN)が2000年に「生物学的侵入による生物多様性減少を阻止するためのガイドライン」を策定するなど、国際的な取り組みが進められている。本研究では法律対応として侵入種リスク評価手法の開発・検討を行う。また、寄生生物等の随伴侵入を重点的に調査するとともに、生態学的・病理学的情報を収集してデータベース化し、その対策を検討する。また、沖縄・奄美地方の侵入種問題に対しても駆除および防止のためのシステムの構築を検討し、迅速な対応と侵入種対策の具体的方針を示す。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)侵入種生態リスクの評価手法の開発に関する研究
(2)随伴侵入生物の生態影響に関する研究
(3)沖縄・奄美地方における侵入種影響および駆除対策に関する研究

2.研究の進捗状況

サブテーマ1の研究では侵略性が特に高い18種の植物種を特定した。また、哺乳類ではアライグマについて、生態的特性や分布を調べた結果、在来種への捕食や競合関係が明らかになり、細菌の感染や寄生虫の発見など生態リスクが判明した。さらに、両生類、爬虫類、魚類、昆虫類の生態リスク評価のための分布状態の調査を行い、外来生物の侵略性や影響地域を推定するシミュレーションモデルの開発も行った。 サブテーマ2ではペット用甲虫類、魚類餌用幼虫などについての持込寄生虫について調査を行った結果、魚類に病害や死亡が確認された。輸入爬虫類ではウイルス、真菌、細菌、原虫類が採集され、死因の原因のいくつかはこれらによるものと判明した。 サブテーマ3では奄美大島におけるマングースの効率的駆除手法の開発や沖縄地域でのノネコの動態調査を行った。また、マングースが日本脳炎の中間宿主であることが明らかになった。奄美大島でのアンケート調査から、住民が外来種に対して問題意識が高いことがわかった。

3.委員の指摘および提言概要

研究目的、手法、組織、進捗状況等については概ね高い評価が得られた。特に、外来生物法の施行に当たっての貢献は大きく、時宜を得た研究であるといえる。相対的には科学的見地からの評価以上に、地球環境政策上(生物多様性の保全)の見地から高い評価を与えることができる課題である。 サブテーマ1については、対象種については政策的に必要な生物がカバーされていないとする意見がある一方、対象が広すぎるという意見もあるが、概ね平均を上回る評価点が与えられている。
 サブテーマ2については、新しい分野であることから成果の判断が難しいとする意見がある。今後の発展が期待されるが、目標を絞るべしとの意見もあるが、評価点は平均以上である。
 サブテーマ3については、本研究課題における実用化研究分野であることから、マングースの具体的駆除手法、低コスト駆除方法の提示が望まれる。また、早く駆除手法を実用化して駆除を行って欲しいとの意見もあった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  

研究課題名: G-2
北東アジアにおける砂漠化アセスメントおよび早期警戒体制(EWS)構築のためのパイロットスタディ
研究代表者氏名:武内和彦(東京大学)

1.研究概要

砂漠化の早期警戒態勢(EWS)は気象、植生、土壌、人為的圧力等の指標から、数年単位で土地の脆弱性を評価し、砂漠化進行に対処するための重要な情報や手法を提供するシステムである。しかし、これまで運用段階に達したものは存在しない。また、砂漠化対処条約の科学技術委員会においても、締約国にEWSのパイロットスタディを実施するように求めており、日本もこれまでEWSアドホックパネル等に支援を行ってきた。本研究では、砂漠化EWSの構築とそれに関連しながらも個別に議論されてきた砂漠化の基準・指標・砂漠化モニタリング・アセスメント等を統合することにより、砂漠化対策オプションとその費用対効果を評価しうるシステムの構築を目的としている。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)統合モデルを用いた砂漠化EWSの構築
(2)砂漠化指標の長期的モニタリングのための観測手法の標準化
(3)土壌・植生・水文解析による土地脆弱性の評価

2.研究の進捗状況

サブテーマ1では、統合化の核となる長期トレンドアセスメントとシナリオアセスメントに分割し、前者では砂漠化指標、プロセス、立地条件などから砂漠化評価モデルを構築し、広域スケールの砂漠化の評価を過去から現在まで数十年にわたり行った。後者では人為的圧力が生態系に及ぼす影響を評価する生態系プロセスモデルの構築、防止技術の費用、生態系に与える影響を評価するモデル、総合的に砂漠化対処の効果を出すための数理計画モデルを開発し統合化する。
サブテーマ2では砂漠化プロセスを正確に把握するために、気候、植生量、植生型、土壌に関する指標の観測と観測手法の開発を行った。
サブテーマ3ではフィールド調査から、放牧圧の異なる場所での砂漠化に関連する指標の調査、砂漠化プロセスの解析、不可逆的退行をもたらす基準の設定を行うと同時に、実験室での発芽・成長実験より植物間の競争と遷移について明らかにした。

3.委員の指摘および提言概要

 パイロットスタディとしての研究枠組みは明確であり、全体的に順調に研究が実施されている。良くまとまっている研究として評価している。これまで、真の統合化モデルが無いため、本研究を通して統合化に向けた研究手法を確立してほしい。立地条件の異なった植生変化、生態遷移、生態モデルのための調査ではある程度の成果が認められた、という意見があった。一方、統合化するに当たり、各サブテーマ間の連携が必要であると同時に、個別的な解析結果をどのような手法で統合化するか明確でない部分がある。地球観測システム、危機管理体制、支援国際機関と連携したEWSの形態や現地住民とのつながりも視野に入れた実用的なEWSの構築を望むという意見もあった。また、評価点に関して、総合評価ではA評価もあればC評価もあったが、行政関係者からは概ね高い評価を得た。
サブテーマ1については、研究対象地域として、既に砂漠化している場所を選んでいるが、これが砂漠化に対処するEWSの構築につながるか明らかでない。また、良質な農耕地や草原などが人為的に砂漠化した場合も同じEWSでよいのか明らかにしてほしいという意見があった。
サブテーマ2については、リモートセンシングの研究で大きな進展が見られた。特に、マイクロ波による土壌水分の研究は高い評価を得た。
サブテーマ3については、放牧圧の研究については高い評価を与えることができるが、放牧圧の研究で、植物も被食に対して適応するがこれに関する研究も行ってほしい。しかし、このテーマは現地調査を主体とする研究なので、研究1年目の成果では研究評価は難しい面があるという意見もあった。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
 

研究課題名: H-7
中長期的な地球温暖化防止の国際制度を規律する法原則に関する研究
研究代表者氏名:大塚 直(早稲田大学 法学部)

1.研究概要

地球温暖化防止のための国際交渉が、2013年以降の中長期的な制度構築の段階に移りつつあり、わが国がこの分野においてリーダーシップをとるためにも、中長期的な国際制度の設計に関する研究が必要である。
 本研究は、持続可能な発展原則、共通だが差異ある責任原則、原因者負担原則、応能負担原則などの原則の機能と限界を検討するため、第一に、それらの原則の国際社会における位置づけ、第二に、主要国におけるそれらの原則に関する認識及び各国法制度における制度設計に有効な法原則の存在するかについて明らかにする。その上で、これら法原則から国際制度に関する諸提案の合意可能性という観点からの評価を与え、制度案についての提案、国際制度の枠組み案の提示を行う。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)地球温暖化防止に関連する国際法原則の内容と射程に関する検討
(2)主要国における地球温暖化防止に関連する法原則に関する検討

2.研究の進捗状況

 サブテーマ1では、国連気候変動枠組条約3条に定められた5つの原則について、その起草過程における交渉の内容から、これらの原則の法的地位を明らかにした。また、各原則(予防原則、共通だが差異ある責任原則)についてその成り立ち、適用条件、適用事例、課題等を示すとともに、これまでに提示されている国際制度の17の提案における法原則の位置づけを検討した。また、気候変動以外に参考となる国際制度として、自然保護条約における法原則について検討した。
 サブテーマ2では、EU、フランス、イギリス、アメリカ、日本、インド、中国について、環境に関わる国際法原則の位置づけを明らかにするものであるが、平成16年度は「原因者負担原則」に焦点をあててこれを行った。

3.委員の指摘および提言概要

 政策への貢献が期待される時宜を得た研究であり、豊富な課題分析がなされているという点で評価される。一方、協同研究による統合的成果への道筋を明らかにし、研究体制や各々の成果を研究全体の方向(各国それぞれの法解釈がどのように国際的枠組みにつながるかという視点)と確実に合致させることが必要である。また、研究を踏まえて施策提言を目指すことも求められている。
 個別の課題として、サブテーマ1では、異なった性格のリスクに対応した制度化の内容の追求、予防原則がRisk Assessment無しに受け入れられる理由の明確化、客観的な法原則の存在を明らかにする作業等が上げられている。
 サブテーマ2では、各国の比較において共通の検討項目を設定して比較評価をすることの必要性が指摘される。例えば、原因者負担原則が問われる類似事例について各国の対応を比較するなどである。また、国際的な環境管理制度として酸性雨の事例の検討をするなど、具体的な例示を行って法曹界以外の人にわかりやすくすることも求められる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
 

研究課題名: H-9
物質フローモデルに基づく持続可能な生産・消費の達成度評価手法に関する研究
研究代表者氏名:森口 祐一((独)国立環境研究所 社会環境システム研究領域資源管理研究室)

1.研究概要

 循環型社会形成推進基本計画が「資源生産性」に関する数値目標を盛り込んだことを契機にして、日本は「物質フロー分析・資源生産性」分野について国際的なリーダーシップを発揮しつつある。こうした中、本研究では、環境勘定とくに物質フロー分析(MFA)手法を発展させ、持続可能な生産・消費に係る評価手法・指標を開発するとともに、主要産業への適用や国際比較によりその有効性を確認することを目的とする。特に、一国の生産・消費活動が他国での生産を通じて引き起こす環境への負荷など、地域間での連携や波及を通じた間接的な課題を重視し、「見かけ」だけでなく「隠れた」問題を含む手法の開発を目指す。サブテーマ構成は下記のとおり。
(1)マルチスケール物質フローモデルの構築と政策評価への摘要に関する研究
(2)地域、産業間物質フローによる環境影響の評価手法に関する研究
(3)物質フローの国際連関と国際比較分析に関する研究
(4)隠れた物質フローの算定に関する研究

2.研究の進捗状況

 サブテーマ1では、国際研究集会(ConAccount2004)への参加及び国内ワークショップの開催を行い、物質フローを記述する諸手法の連携可能性について知見を得るとともに、これらによる最新情報を反映させて「マルチスケール物質フローモデル」の基本設計を行った。これは、マクロ(国民全体)からミクロ(企業や製品)の各スケールについて適用可能なモデルであり、単地域表と多地域表の2つがある。第一段階の試作として、化石燃料等4つの資源について日本を主地域とする多地域表の作成を行った。また、廃棄物産業連関表を用いて、技術変化が物質フロー変化を解して環境にもたらす影響を記述する分析モジュールを構築し、新リサイクル技術によるCO2誘発削減量の算出等を行った。
 サブテーマ2では、主な工業の物質(鉄、セメント、プラスチック)の流れについて、①素材生産、②消費財生産、③消費、④物質フローについて情報収集したところ、生産、消費等については県別の量を得ることができたが、物質フローについては16年度はデータを得ることができなかった。
 サブテーマ3では、アジア太平洋地域の10カ国を対象とし、1985、1990、1995年の3時点について、産業連関表を用いて、環境負荷の発生量(CO2排出量、エネルギー消費量、土地資源使用量)及びその相互依存関係を明らかにし、物質フローにおける中国の存在の拡大等を明らかにした。また、欧州等の事例により、エコロジカルフットプリントの政策評価等への活用可能性を示唆した。
 サブテーマ4では、隠れた物質フローに関連する評価手法として、7つの手法を取り上げて整理し、TMRを中心に他の手法を総合的に用いていくべきことを示すとともに、戦略性や環境製品として将来需要の点から「戦略物質」を取り上げ、既存研究による物質フローとTMRの把握状況をマッピングした。さらに、戦略物質資源として、ガリウム、インジウム、パラジウム、白金、レアアースの物質フローを調査した。

3.委員の指摘および提言概要

 種々の方法論の応用、新しい手法の開発、関連データの整備等がなされ、今後の成果が期待される研究である。幅広い課題でもあり、今後1年半の達成目標を明確にして研究を進める必要がある。
 課題としては、政策的応用可能性を明らかにし、ここで提案されている評価手法や概念が従来のものに比べて優れている点を示す必要がある。また、物質フロー等の情報の国際的な利用可能性や簡易法も課題である。
 また、「サブテーマ間の相互連関が良い」との評価がある一方、「サブテーマ間の連関が不明瞭」との意見もある。特にサブテーマ3の中の「エコロジカルフットプリント」、サブテーマ4の「隠れた物質フロー」について指摘されている。サブテーマの連携と役割分担及び全体像への位置づけについて、専門家以外にもわかりやすい提示(例えば図示と説明文)が望まれる。

4.評点

総合評点:    
  必要性の観点(科学的意義等) :
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):
  効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):
  サブテーマ1:  
  サブテーマ2:  
  サブテーマ3:  
  サブテーマ4: