地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-1 気候変動の将来の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の過程のモデル化に関する研究
環境省国立環境研究所
(神沢 博)
A a b a b b (1)          
(研究概要)
 本研究課題では、(i) 人為起源対流圏エアロゾルと対流圏オゾンによる気候変化の不確定性を明らかにすること、(ii) 水蒸気、雲、地表水文過程などによってもたらされる気候変化・気候変動の不確定性を明らかにすること、(iii) 気候変化・気候変動と対流圏物質循環、森林生態系間のフィードバックを含めた総合的なモデルの基礎を確立すること、を主な目的とし、さらに、それらの知見を統合し、総合的な気候・物質循環モデルの開発改良とその応用を目指す。手法としては、数値モデルによる研究が中心となる。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆専門性が高い研究成果の多数生産のみならず、その内容を普及版としてリメイクした上で、一般へ広く公表した実績は極めて大といえる。
◆サブテーマ(1)、(2)に関しては、研究の統合化の方向がうかがえる。しかし、サブテーマ(3)を含めた研究の統合化は必ずしも十分とはいえない。本研究の価値は、大気、水循環、植生を含めた物質循環モデルの構築を通して気候変動を評することを目的としていることである。所期の目的達成のため、今後とも努力されることが期待される。
◆熱心に研究がなされ、科学的に興味の深い知見が得られている。しかし、各サブテーマの目標に照らせば、成果はいたって不十分である。モデル化の前に進めるべき基本的な研究があり、またモデラーはモデル実験から如何にして意味のある知見を抽出するかを真剣に考える必要があろう。
◆IPCC/TAR で、気候モデルの今後の課題とされた、エアロゾル、水循環、陸上生態系など、取り扱いが困難な物理過程の主要なものについての、極めて意義のある研究課題である。特に、水循環過程の一環としての、フラックス調節なしの大気・海洋結合や水蒸気の力学的輸送スキーム改良などをはじめとするモデルの改善と、それによる、梅雨や熱帯性降雨に関する知見等は大きな成果といえる。また、エアロゾルに関する知見なども、IPCC 第4次報告書に直接貢献できるものであり、全体として、本課題の今後の波及効果は大いに期待される。
◆全球気候モデルのパーツの研究が進んだことは高く評価できる。しかし本研究を実施したことにより、CCSR/NIES 全球気候モデルの全体のパフォーマンスがどれだけ向上したのかに関しての説明が欲しい。
◆極めて重要なテーマだが、同時に難しいテーマでもある。掲げた研究の目標達成にはまだかなりの道のりが予想される。従って今のところやむを得ない面もあるが、サブテーマ間で互いの研究がまだ充分かみ合っていない印象がある。はっきりした成果をあげるのは難しいとは思うが、科学的、社会的に重要なテーマであるので、今後の研究の進展に期待したい。
◆将来の統合モデル構築を目指した個別要素(エアロゾル影響、水循環過程、植生フィードバック)の研究として価値がある。但し、3つのサブテーマの間で方向にズレがあり、統合化に向けての道筋がやや不明。例えばサブ(3)の第1課題(森林の現地観測)の位置づけることは良く解らない。統合化モデル構築は重要な課題であり、本研究からそのロードマップが出て来ると良かった。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-3 アジアフラックスネットワークの確立による東アジア生態系の炭素固定量把握に関する研究 農水省農業環境技術研
(林 陽生)
B a b a b b (1)          
(研究概要)
 COP6以後のCO2排出規制値の確定作業では確度の高い科学的知見がますます重要になってきた。本研究は従来部分的に実施されてきた東アジア生態系におけるフラックス観測研究をネットワーク化し、可能な限り長期にわたってデータを確保するとともに、安定同位体比測定研究、モデル研究などと組み合わせて、東アジア生態系の炭素固定量を高精度で把握することを目的とする。
 各サイト毎に観測結果をデータベース化するとともに、政府間協議に利用可能なデータの蓄積を図り、データをネットワーク上で利用できるようにする。モデルによるデータ補完研究などを加えることにより、東アジア生態系の炭素固定量を高精度で把握する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆フラックス観測研究をネットワーク化し、そこから得られたデータをユーザーに公開できるよう技術開発できたことは意義深い。各種生態系における炭素固定量を広域的に把握できるよう手法開発できたことは大きな成果である。
◆東アジアモンスーン生態系のCO2 や水フラックスのデータベースが構築され、公開されたことは、今後の研究に資するところが大きいと評価される。多くのサイトで、CO2 フラックスの測定が行われたが、全体として事例研究にとどまっており、異なる生態系間での炭素固定量の比較や、それらのモデルによる総合的な解析が行われていないのは残念である。
◆サブテーマ(2)はサブ課題に対する成果は非常に高いが、全体のテーマであるアジアフラックスネットワークに対する貢献度が、いまひとつ不足のようにみえる。サブテーマ(4)は高い研究成果と思われるが、それぞれの森林における観測地点の代表性の議論が欠けている。 このようなデータを精度高く測定し、データベースを模索しても、東アジアという地域全体のモデルにつなげるとき議論ができないのではないか。課題名の中に「…適応策に関する研究」とあり、研究内容も適応策であるが、英訳で「…and adaptation」と訳すのは適切ではないのでは。 外国語で論文などに公表するときには注意されたい。
◆サブテーマ(1)に関しては、種々の生態系におけるCO2,CH4 エネルギー交換量の測定に関しては、各機関を通しての相互検定が必要不可欠である。特にデータベース構築のためには品質管理されたデータアーカイブが必要である。全体の総括が必要である。この種の総合研究の場合、毎回総括結果をモデル化もしくは模式化しておくことが不可欠。それは、次の研究の急速な発展を促す。
◆当課題の成果は、直接的には、社会・経済・行政的な価値にはつながりにくいかも知れないが、個々の成果が全体として評価でき、とくに東アジア生態系のモニタリング、および研究にとって、フラックス観測ネットワークの確立による今後の持続的な維持は重要な意義があると思われ、今後の波及効果を期待したい。
◆広大な地域の炭素収支を1観測点のデータから推定するのは、原理的に限界がある。将来は、高解像度のリモセン(いずれはアクティブレーザも含め)からの樹冠等の植生情報からモデルを用いて光合成蓄積量を推定するのが主流になると思われる。その意味で(4)のモデル研究を更に進めるとともに当面、問題の多い渦相関法の補正法の改善を続けることが必要と思われる。
◆観測という地道なテーマをまとめた非常に質の高いプロジェクトと評価します。各観測サイトで得られたデータの統一的比較(サブテーマ(1))、観測データに基づくモデル計算による統一的比較(サブテーマ(4))などが未完であり、今後の課題として残されているものの、各機関が有する試験地をつなぐ研究が始められた事は評価に値すると考える。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-12 海面上昇の総合的影響評価と適応策に関する研究
国土交通省国土地理院 
(中島 秀敏)
B b a b b b            
(研究概要)
 海面上昇が沿岸域に及ぼす種々の影響の大きさを事前に把握し、各々の地域がとるべき適応策を検討することは、世界的な関心事となっている地球環境問題を早急に解決するための研究課題のひとつである。このため、本研究はアジア・太平洋地域を対象に、
 1.海面上昇に対して最も脆弱な国や地域等の特定。
 2.アジア・太平洋地域に適した、海面上昇への適応策の開発、提案
を行い、今後の温暖化対策の推進に資することを目的とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆国際的な協力を得て、適応(対応)策まで踏み込んだことは評価できる。
◆困難な大テーマに対して、さまざまなアプローチを工夫している点を評価する。
◆ハザードマップは使い勝手がよくなければならない。現地でのフォローアップが更に必要ではないか。
"◆3年間の成果としては、発表されたものが少ない。特に(1)②、(3)①は極端に少ない。今後、1~2年の追跡調査が必要であろう。
(3)①は時間切れの感がある。さらに詳しく分析、研究すると成果が十二分に発揮できるであろう。課題名の中に「…適応策に関する研究」とあり、研究内容も適応策であるが、英訳の「…and adaptation」は適切ではないのでは。 外国語で論文などに公表するときには注意されたい。"
◆メコンデルタ、タイチャオプラヤ河口、インドネシア、さらにアジア太平洋地域の全般的な海面上昇に対する脆弱性マップが提示できたのは一定程度の成果であるが、精度を上げるためには結局詳細な現地調査(5万分の1の地形図)が必要となるということであると、科学的な発展性は高くないといわざるを得ない。ラフな形での行政的価値は認められるが、それ以上でないのが残念である。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-51 CH4,N2Oのインベントリーの精緻化と開発中核技術の内外への普及 環境省国立環境研究所
(稲森 悠平)
B b b b b b (1)
(6)
    (8)    
(研究概要)
 バスケットアプローチによる削減目標が設定されたことから各排出源からの排出量を示すインベントリーの充実化が極めて重要視されることとなり、IPCCではインベントリータスクフォースを設置し、その技術支援ユニット(TSU)を地球環境戦略研究機関に設置することとした。このTSUの活動に対して科学技術的裏付けを与える極めて緊急かつ重要な位置づけにあるのが、排出量推計精度の極めて低いCH4、N2Oである。CH4、N2Oは人間活動の幅広い分野から排出されており、各分野における対策技術とCH4、N2O排出の関係から管理条件、運転操作条件等の変化と連動して大量に排出されたり、排出量が抑制されたりする可能性の極めて高いことが解明されつつある。本研究ではこれらの点を鑑み、世界人口の約60%を占め、CH4、N2O排出の大きな潜在力を有していると考えられるアジア地域の開発途上国を視野に入れ、中核技術としての削減対策技術の開発と導入効果の評価を踏まえ、対費用効果の優れた技術の普及と連動した各人為排出源におけるインベントリーの精緻化と充実化を図る研究を推進することとする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆アジアを視野に入れたCH4,N2Oの人為発生源についての排出インベントリーの精緻化が進められたこと、および排出抑制技術がいくつか提案されている点が評価できる。
◆IPCC のインベントリープログラムに関する日本からの貢献は極めて重要であり、本課題は、なかでも不確実性の高い CH4,N2O に関して、アジア地域をカバーする実測データの解析とインベントリーの不確実性の取り扱いにまで踏みこんだ総合評価研究として高く評価できる。何れの研究も完結したわけではなく、この課題研究を契機として明らかとなった問題点に対して、引続き科学技術的な観点からのデータ集積と解析を通して、地球温暖化対策に対して多大な影響力を持つ IPCC の活動に日本発の情報を発信していくことが期待される。
◆CH4,N2O のインベントリーの精緻化については、発生源が多様で、しかも広域に亘っているだけに、より効率的な計測法等の開発が望まれる。抑制対策の普及のために行った検討とその結果は高く評価される。
◆サブテーマ(9)は予算額が多いにもかかわらず成果に乏しい。
◆個々の研究としては興味深いものがあるものの、全体としてより総合化した課題設定とすべきであった。公表論文等が少ないのではないか。
◆このサブテーマ(2)だけでひとつの研究プロジェクトとなりうるもので、今回の研究の位置づけをするレビューの充実が必要。
◆広範囲の現象を扱って、個別の研究成果は挙がっているようであるが、当初の目的であるインベントリーを求めるという点からは不十分な結果となっているのが残念である。ラフな形でもいいからアジア地域からのインベントリーの提示が急がれていると考えられる。何度かそのような注文をつけたが、結局は個別テーマの集合に終ってしまったことはもの足りないところがある。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-52 木質系バイオマス・エネルギーの利用技術及び供給可能量の評価に関する研究 
農水省森林総合研究所
(天野 正博)
B b b b b b (1)          
(研究概要)
 IPCC第2次報告書において、森林が永続的に地球温暖化の軽減に貢献できる方策として、バイオマスを近代エネルギー源として活用することが推奨された。また、京都議定書において各国が排出削減割当量の達成に吸収源の吸収量を利用する仕組みが取り入れられ、土地利用及び林業に関する特別報告書の3条4項「追加的項目」に関する章でもバイオマスのエネルギー利用の重要性が強調されている。そこで、我が国におけるバイオマス・エネルギー利用の可能性に関する科学的なデータを提供することを目的として、下記にあげた研究項目を実施する。
 1)森林および工場残材等を木質系バイオマス資源として活用する場合の供給可能量。
 2)東南アジアにおけるバイオマス生産林のCDMとしての実効性について評価。
 3)バイオマスエネルギー変換技術とシステムの評価。
 4)木質系バイオマス・エネルギーの供給システムについて技術面、経済面から評価。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆木質系バイオマスの供給可能量を全国レベル、地域レベル、製材工場レベルなど、異なったレベルで推定している点、および遠野市を対象に具体的に利用方法を検討している点は評価できる。バイオマス利用システムについて、分析が経済性に片寄っており、生産地からの輸送、ガス化等に必要なエネルギー消費とそれに伴う CO2 排出を考慮した、CO2 排出制効果をトータルとして評価すべきである。熱帯地域でのユーカリ植栽からのバイオマスを利用するシステムは土壌資源収奪的であり、長期的には環境破壊につながる場合のあることを考慮して分析すべきである。
◆地球温暖化対策技術の選択肢の一つとして、本課題の重要性は、 IPCC レポートの提案に鑑みても自明であるが、本研究以前に我が国の木質系バイオマス資源量の推定研究が行なわれていなかったことはいささか驚きである。本報告における科学技術的手法の妥当性は必ずしも定かではないが、国内外の地域を限定したポテンシャル推定結果はそれなりに評価できる。国内での地域行政と連携した実践的普及もさることながら、本研究成果が国際的なレベルで評価、認知されることが重要と考えられる。
◆木質系バイオマスのエネルギー利用技術について、具体的な場所を想定して、社会・経済的な条件も考慮しながら実現可能性のある方式を提案している。また、バイオマス供給量についても、実際的な推計方法を示唆していて、今後活用されるものと期待している。
◆政策的に重要な課題である温暖化対策における森林のバイオマスの位置付けに、一つの指標を与える成果である。
◆木質系バイオマスの資源としての価値を定量的に求めた成果は評価できる。但し、木質系バイオマスの資源価値を現実化するためには広い地域からバイオマスを集めてこなければならない。この集めるためのエネルギー消費についての推計が今後の課題であろう。
◆サブテーマ相互の関連性が不明瞭である。異なる地点で異なる評価研究が行われている。
◆サブテーマ(1)のポテンシャル評価は、我国の CO2 削減の重要な対象であるシンクの実現性を評価するためにもきわめて重要である。これを実際の取得可能データと適当な思考モデルにより定量的に推定する手法を具体的に提示したことは、高く評価される。今後、多様な地域に適用可能な一般化が必要と思われる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
B-55 交通需要の地域特性に適合した運輸部門の環境効率向上策とその普及促進策に関する研究
環境省国立環境研究所
(近藤 美則)
C c b b c c (1)     (4)    
(研究概要)
 日本の運輸部門からの二酸化炭素(CO2)排出量は、総排出量の2割を占め、一貫して増加を続けている。アジア諸国をはじめとする発展途上国においても、モータリゼーションの急進により運輸部門の排出が急増傾向にある。CO2排出量の削減目標達成には、運輸部門からの排出の8~9割を占める自動車からの排出削減が不可欠である。このためには、日本の優れたエネルギー効率の自動車技術や公共交通システム技術を交通需要の地域特性にあわせて内外に適用することが望まれる。排出削減目標の達成期限や国際的枠組み適用に関する検討状況を勘案すれば、短期間に効率の高い技術を内外で大量に普及促進のための社会・経済的支援策を併せて検討することが緊急課題と考えられる。
 そのため、まず石油燃料のほか、天然ガス、バイオマス・太陽エネルギーなどの代替エネルギー源と車両の駆動方式について、エネルギー供給まで遡った総合的効率の高い技術を見出し、中長期的な普及戦略の根拠を得る。つぎに、自動車の使用実態を反映した温室効果ガス排出量評価手法を確立し、排出比例型賦課制度の根拠データを提供するとともに、IPCCインベントリーガイドライン改訂に貢献する。また、公共交通システム(特にバス)の効率向上策の技術的検討を行うとともにその導入可能性、環境改善効果等を他の交通手段と比べつつ定量的に評価する。さらに、国内のほか発展途上国の大都市も含め、交通需要の地域特性の異なる類型ごとに、公共交通システム整備、高効率車への代替促進などの施策の費用対効果を明らかにする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆サブテーマ(1)は全体を統合した研究であるが、サブテーマ(2)(3)との関係が不明瞭である。(1)から(3)までの研究によって運輸部門の環境効率向上をどのようにしていったらよいのかを提案すべきである。サブテーマ(4)は他の研究とは大きく異なっており、体制とマネジメントに問題があったのではないか。
◆本研究の構造と目的、それに対応した成果がよく見えない。理由は、報告書先頭の総括部分が極めて分りにくい。サブテーマの相互関係とそれらが全体として何をどこまで達成したのか不明である。また、サブテーマがそれぞれ独立して各自の目的を追求した印象である。1つのまとまりのある研究になっているのか疑問である。元々の研究計画に、交通の LCA やバス導入政策からハードな電気自動車の計画、テストまで含むのは無理があったのではないか。研究マネージメントも弱かったように見える。サブ(3)で、学術誌への発表が査読なし1編なのは、不十分である。また、テーマの趣旨に対して、成果の政策的寄与・貢献が低い印象を受ける。
◆サブテーマ間の連携が不十分。全体テーマからみれば地域特性と公共交通システムとの適合についての理論的フレームを整理した上で、個別サブテーマの役割を明確にすると全体がわかり易かったのではないか。
◆運輸部門のエネルギー効率向上は重要なテーマである。ただ、単体効率よりは社会システムの問題になっているのではないかと思う。その真問題へのアプローチに不満が残る。
◆仮定上の計算が多いようで、定量的評価までにはまだ時間がかかりそうに思えるところは残念である。エネルギー効率とともにコストの問題も考えなければならないのであろうから、現実的には課題が多く残されているといえよう。
◆サブテーマ(1)のテーマは今後の長期的エネルギー資源、燃料選択を検討する際 重要な課題であり、適格な検討枠組のもとで、透明且つ信頼度の高い分析データを整備することはきわめて大切である。本研究はこの様な要件を満たしていると考えられる。又 サブテーマ(2)は現在我国が先行したハイブリッド車の効率を計測する具体的手法を検討するもので、今後の政策(補助金等)の根拠として社会的に必要の高いものである。但しかなり個別特有の課題であって、この研究自体、個別研究の寄せ集めという印象を免れない。サブテーマ(3)は類似研究が他にもあること、又 真に CO2 削減を目的とする物は、この様な既存技術の確認よりも、公共交通に現実の需要をシフトするための社会、経済的手段、或いはコスト分析による補助金等のあり方が必要という点で、本研究の趣旨には不十分と考えられる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
K-2 地球温暖化対策のための京都議定書における国際制度に関する政策的・法的研究
環境省国立環境研究所
(亀山 康子)
B
b b b b b (1)     (5)    
(研究概要)
 地球温暖化抑制を目的として1997年に採択された京都議定書では、先進国に2008年から2012年までの5年間における温室効果ガス排出量に関して数量目標が課された他、排出量取引、クリーン開発メカニズム(CDM)等新たな国際制度の設立が認められた。これらの諸制度は、各国内の温暖化対策のみならず、2013年以降の先進国の排出量目標の設定方法や途上国の参加方法等、今後の国際的取組みの枠組みそのものを大きく変える可能性があることから、これらの諸制度に対する主要国の政策決定について十分な分析を行っておく必要がある。
 本研究は、京都議定書で規定された国際制度の機能のあり方や効果を評価するために、排出量取引等の国際制度に対する日・米・欧の態度に影響を与えている要因について体系的な比較研究を行うことを目的とする。最終的には、上記の3国・地域に関し、京都議定書の国際制度に関する態度に影響を与えている国内外要因、及びその要因相互の関係について体系的な調査結果が期待される。また、京都議定書に係わる国際交渉を、現実の動向と、自然科学的知見、モデルの3方向から説明することにより、成果が相互に補完し合うことになる。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆京都議定書の意義 ・ 問題点、各国の吸収源対策のポテンシャルの評価など、国際的な温暖化対策にかかわる諸問題を見通しよく ゛可視化″ した点で高く評価できる。国際シンポの開催や参加など、研究成果をリアルタイムで発信した推進費の性格からして、どのような形の成果を評価すべきか考えてきたが、このようなシンポジウム/政策担当者との対話(委員会を含めて)やマスコミを通じた成果発信をもっと重視・推奨すべきではないか。このグループの活動で、推進費の果すべき役割の1つの方向が示唆されたのではないか。
◆交渉のバックグランドを明解に示している点は評価できる。
◆興味ある結果を得ている。
◆国際制度について欧州を中心にその実態を調査した内容となっており、成果からは研究目的である望ましい制度のあり方が読み取れない。サブテーマ(1)は調査を中心とした研究で、それと(4)と(5)との関係が明確でない。(4)と(5)の研究結果には、これからの制度設計に役立つ具体的な成果が見られない。(2)と(3)の研究は制度から乖離したものである。
◆京都議定書にからむ国際制度関連の研究テーマとしては、CDM や JI に的を絞ったサブテーマも含んでいた方がよかったと思われる。
◆議論の多い京都議定書に対する各国の事情対応の研究は、最終的な実施を巡って各国が活発に取引きしている現在、我国が有効且つ、有利な施策をとる上できわめて重要であり、本研究はやや部分的と思われるが、その目的を果たしたと思われる。但し、サブ(2)の位置付けはややあいまいである。具体的には成果があるが、全体との係わりが不明確である。緒言にかかれている通り、このプロセスは現在進行中であり、今後提言条件が変化していくので、今回の結果と同時に分析手法、基礎データ整備をかためて、将来必要な時点で、いつでも周囲条件にあわせた分析が可能な方策をとっておく必要がある。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
D-2 有害化学物質による地球規模の海洋汚染評価手法の構築に関する研究
環境省国立環境研究所
(功刀 正行)
B
b b b b b (1) (2)        
(研究概要)
 人為起源有害化学物質による地球規模での海洋汚染観測態勢および広汎な有害化学物質を対象とするために多成分・多元素同時分析手法を確立し、地球規模での海洋汚染状況を把握する。これらの観測結果をもとに、海洋汚染物質の起源、移動、分解過程などその行方や汚染動向を明らかにすることを目的とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆海洋汚染の計測システムを構築した意義は大きい。今後このシステムを活用して、海洋環境の保全にいかに貢献していくかが問われており、その期待も高い。今後、本課題参加者、環境省および現在別の研究課題として実施中のD-3が協力して、海洋環境のモニタリング活動を各国に呼びかけ、国際的なモニタリング体制を構築していくことを期待したい。
◆篤志観測船による海洋観測は、今後、増々重要になると考えられ、その意味から本プロジェクトの成果は高く評価される。今後はサンプリング時の汚染等の問題点を改善し、当該装置を用いたモニタリング、環境解析研究を推進して頂きたい。
◆困難な仕事でありながら、三年間でよくここまで結果が得られたということを高く評価したい。ただし、この研究は、今後、継続的に発展させ、各海域の海洋独自の動態(海流、海水の循環や海況変動)との対応の中で、海洋汚染の実態を明らかにしていくことが大切である。本研究は重要な研究であるため、今後とも、より一層の研究発展を期待したい。
◆優れていると評価される。とくに社会的価値の高さを評価したい。
◆国際航路の商船を利用した海洋観測システムは興味深い。3つのサブテーマの結果を総合的に評価することが重要である。
◆海洋横断商船を利用した海水のサンプリング技術と化学分析法の確立により、人為起源有害物質による広域的海洋汚染の実態を把握し、今後の広域的有害物質汚染対策の検討に不可欠な情報を提供した研究として高く評価できる。
◆本研究では高く評価できる要素と、そうでない要素とが混在しており、総合評価に当たってはその点をはっきりさせる必要がある。本研究で高く評価できるのはサブテーマ(1)において日本-ペルシャ湾間のタンカー及び日本-オーストラリア間の石炭コンテナ船に海洋汚染観測システムを搭載する実フィールドとの接点が確保できた点と、サブテーマ(2)においてこの観測システムを用いて外洋における有機スズの定量(産総研)、雌性ホルモン様活性物質の測定(静岡大学)が(著書らの記述によれば)初めてなされたことにあると言えよう。サブテーマ(2)の中の微量金属の分析(名古屋大学)は、これまでの多くの実績を踏まえており、データ的には最も信頼出来るが、これまで蓄積されてきたデータに新たな海域でのデータを付け加えた地球化学的研究の色彩が強く、環境研究の成果としての評価はそれほど高いとは言い難い。本研究の問題点は、研究代表者らのグループで一義的に測定対象としている有機塩素化合物、アルキルフェノールなどに対する分析手法の確立(国立環境研)が十分になされないまま、商船を用いた海洋汚染観測システムの構築とこれを用いた外洋での測定を研究課題として開始したことにある。サブテーマ(3)では固相抽出捕集剤による回収率実験の結果が報告されているが、溶脱の問題と高ブランクの問題が解決されず、実験室においてすら信頼出来る分析値が得られていない。当然のことながらフィールドでの測定値の信頼性は低く、濃度の絶対値はもちろん同族体間の相対値に対しても信頼性は担保されていない。サンプリングに多額の費用のかかるこの種の研究で、サブテーマ(1)と(3)を並列させたことに大きな問題があったのではないか。
◆研究代表者は、実験室レベルにおける回収・分析手法を確立した後に、本研究課題を提案するか、又は本課題において、商船を用いた海洋汚染観測システムの構築に絞って研究を進めるべきであったと思われ、そうすれば、本課題の総合評価はより高いものになっていたと思われる。サブテーマ(3)に関しては、報告書の記述もテクニカルノートのレベルで、記述がサイエンティフィックなものとなっていない。特にサブテーマ(3)の中の PAH などの光分解の研究は、従来なされている研究との位置づけも不明確であり、実験手法・条件設定もプリミティブである。蒸留水中に比べて海水中の光分解速度が速いという定性的な結果が得られているが、この種の光化学実験としては、吸収スペクトル、量子収率などへの言及もなく、単に化合物毎に分解速度の序列を並べただけであり、サイエンスとしてのスタンダードレベルに達していないのではないか。物質循環の立場から、光分解過程の重要性を主張するのであれば、観測研究テーマの一部としてよりも、別サブテーマとしてきちんと実施するべきである。また、論文数は見かけ上、多くなっているが、本テーマとは直接関係のない大学において成されてきた研究からの論文が数多く含まれているのではないか。本研究に限たことではないが、論文発表件数についても評価対象とする場合には、中身の吟味が必要であろう。
◆本研究課題の目的は、海洋における有機汚染物質を全球的に評価する手法を開発することである。その1つの有効な手段として商船を用いた観測システムを直実に改良を重ね、実用化のレベルまで完成させた点は高く評価できる。今後、自動化の率を高め、システムの信頼性を上げることで長期的なモニタリングの実現に繋げて欲しい。また、得られたデータは有機汚染物質の海洋での現状での広がりを明らかにするとともに、今後の汚染の広がりをモニターする上でも重要なものであるといえる。
◆可能なサンプリングおよび分析方法によって、海洋汚染の実状を把握して一応の結果を得ており、物質種や低濃度の計測への拡張及び観測密度という点で進歩があるといえる。しかし、成果報告書の総論で述べられているように、年毎の各種条件によって観測結果に変動がある。そうであるならば、この種の観測の今後の方向をどのようにするべきかの提言も、本研究の本来の目的として欲しかった。たとえば海水中汚染物質濃度を河口、港湾等で正確に測り、あとは海流と拡散を実用的に把握するのも環境科学的な面からは必要かもしれない。
◆本研究の必然性や社会的・行政的意義は高く、POPS 条約対応等わが国の国際貢献を内外に発信できる大きな波及効果を有したプロジェクトであったと評価できる。これだけの規模のモニタリング計画は世界でも例がなく、実施したこと自体評価に値するが、しかし一方で、得られた研究成果の科学的価値は国際基準にほど遠い。試料の捕集ろ材や溶出・分析技術等に関する事前の検討が不十分であったため、有害物質の測定精度に問題が認められ、世界的な通例と異なる研究結果が得られているなど、国際的に通用する質の高い科学的知見が乏しいのが残念である。本研究を引き継ぎ現在実施されている研究課題では、研究方法・技術を改善し、国際競争力のあるインパクトの大きな成果を期待したい。
◆研究目的で、「複数の外国航路船に試料捕集装置を含む観測機材を搭載することにより、有害化学物質による海洋汚染の解明に資する観測情報を取得、提供することを目的とした地球規模の高密度海洋観測態勢を構築する。また、広汎な有害化学物質を対象とするために、多成分・多元素人為起源の有害化学物質同時分析手法を確立し、地球規模での海洋汚染の状況を把握する。」と述べられているが、外国航路船に試料捕集処理装置を取り付けて、得られた試料を分析する部分に主眼がおかれていたようで、それ以外に必要な「地球規模の高密度海洋観測態勢を構築する」ための検討・配慮が感じられないのが残念である。また、得られた試料の分析結果も、汚染物質の分布論に走ってしまっていて、先の「高密度海洋観測態勢構築」につながるような議論が余り見えないのも残念である。にもかかわらず、サブテーマ(2)以外は研究成果が論文として発表されているものがほとんど無く、プロジェクト全体としては学界への新知見提供が乏しい状態になっているとしか判断できない。サブテーマ(3)では、この分野で世界をリードしている愛媛大学沿岸環境科学研究センターが分担研究していることになっているが、研究内容からは具体的な関与がはっきりと見えない。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
E-2 森林火災による自然資源への影響とその回復の評価に関する研究
農水省森林総合研究所
(阿部 恭久)
C
c b b c c (2) (3)   (1)    
(研究概要)
 熱帯地域、特にインドネシアでは焼き畑などに起因する森林火災が、森林のバイオマス・物質生産性ばかりでなく、森林に生息する多くの生物の種や個体数、遺伝的多様性などに多大な影響を及ぼしている。1997年にはエルニーニョの影響によると思われる記録的な異常乾季と、過去最大規模の森林火災が発生したが、基準となる火災前および回復期の生物種データなどが未整備であるため、生態系・生物多様性への影響評価が不可能であり、森林管理に重大な支障をきたしている。そこで、森林火災が森林生態系・生物多様性に及ぼす影響を評価するための具体的な指標を早急に策定し、生物多様性的観点からも健全性の高い森林を再生するために具体的指針を提示することが求められている。
 本研究では、①森林火災の全体的な影響をレビューし、衛星データなどによる影響地域の把握と経時変化の基盤的情報を整備し、②森林火災および非火災地域の生態系や生物多様性調査から火災被害の影響と回復過程における熱帯林生態系の構成樹種や森林依存性の代表的分類群の種や個体数の変動と生息域の変化を明らかにし、③森林火災に敏感で、その影響と回復を評価するための指標となり得、またモニタリングが容易な生物種や現象、その計測手法などを提案し、④火災後、植林など復旧作業を行った地域で調査を実施・解析することにより、生態系や生物多様性の観点から、火災被害森林の有効な回復方策などを提案する事を目的とする。さらに、⑤先駆的リモートセンシングによる計測情報との相関性を検討することにより、リモートセンシングによる生態系や生物多様性評価の可視化を可能にし、その精度の検証や客観性の向上を促進する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆森林火災の影響をリモートセンシングと現地調査によって調べあげた研究計画で、サブテーマ(2),(3)は質量ともに力作である。優れた成果をあげたといえる。
◆今後とも、異常乾燥による森林火災が多発する可能性があり、本研究の成果は、その際の回復を誘導するのに役立つはずである。健全性の高い熱帯林を誘導するための指針を、今後とも提案していただきたい。土壌のマイクロフロラを指標とした回復過程の追跡は特に興味深い。水分や有機分等の環境条件との関係を含め、長期間にわたるデータベースの蓄積を期待したい。
◆森林火災の生物多様性への影響という複雑な対象を小型哺乳類、カミキリムシ類、菌類などによって把握しようとした試みは評価できる。
◆熱帯多雨林域での蘚類、苔類、地衣類についての調査及びその指標化の研究は、これまでになかった分野の研究調査であり、高く評価したい。
◆興味深い成果が得られているが、重要なのは今後の回復課程である。環境省として、今後のフォローアップに配慮することが望まれる。現場での気象自記観測の項目に土壌水分を加えることが望ましかった。
◆世界的に大きな問題となったインドネシアの森林火災にスポットをあてたもので時宜にかなっており、有意義な研究だったと思われる。インドネシアの重度被害林、軽度被害林、無被害林に共同調査区を設け、生態系や生物多様性への影響について詳細な調査を行ったことも高く評価できる。ただし、成果報告書は、菌類やカミキリムシの種名などが数多く出てくるが、ごく一部の専門家以外には理解が困難であり、また全体として何が成果なのかについてあまり明確に記述されていない。一般の人にも理解できるように、成果について分かりやすく書くことはできないだろうか。サブ(3)の成果報告書の要旨部分に記載ミス(重度被害林(HD区)を(K区)と誤って記載している)があるなど、報告書の内容は十分精査して欲しい。
◆画像解析による森林状態の概括把握の方法や、腐生菌類やカミキリムシ類のインベントリー作製は高く評価できる。一方で、K,LD,HD等の地点を設けることは当然であるが、単にその状態をデータとして示すだけでなく、時系列として表わし、将来予測につなげて欲しかった。
◆生態系としての評価をするにはメンバーが少なく、専門性にも偏りがみられる。大きな問題だけに十分な研究体制で取り組んで欲しかった。
◆東カリマンタンの生物相に関する基礎データを集めた実績は評価できるが、この情報を今後どのように共有していくか、今後の゛成果の公表″を含めて追跡していく必要があると考えられる。
◆当初の目的とは別にインベントリーとして価値の高い資料であるが、当初の目的が達成されていないように思われる。哺乳類の標本数が多すぎる(1000頭)のではないか。成果の公表が期待されるが、現時点では活発とは言えない。
◆森林火災からの回復過程の追跡には、3年では時間が足りなかったといえる。
◆被災から3年後に開始した研究のため、初期過程復元の欠落が心配されたが、先行研究の広範なレビューによりこの欠点をカバーし、かつ本研究の重点課題を定めた点は評価される。ただし、全体の統括は充分ではない。森林生態系ないし自然資源の回復過程の時系列変化過程を提示した上での総括が十分でない。地衣類・蘚苔類・菌類・土壌動物相に着目して精査した意義は理解できるが、それらが森林生態系としての全体的な回復過程、つまり樹冠木相や下生え等も含めた生物群集の回復過程とどのような相互作用のもとで存在または回復してきたかについての説明を欠いているのではないか。サブテーマ(3)で土壌有機物層が比較的早く回復するとの記載があるが、有機物の供給源と集積のプロセスについての説明が欲しかった。指標生物の候補が抽出されたというレベルでは、物足りなく、十分な成果とはいえないのではないか。サブテーマ(2)と(3)の連携がなく、また(3)の成果は総括の中に十分に反映されていないと思われる。リモセンによるマッピング手法には新鮮味が乏しい。
◆多様性評価手法の開発の中で、微生物種の分類に分子遺伝学的手法を導入したことは新しい試みであろう。生物種多様性の評価の中でかなり多数の種の分類学的同定が行われているが、十分に正確な分類と考えてよいのか検討して欲しい。今回の結果は、東南アジア地域全体にあてはまるモデルと考えてよいかについても、明確にしていただきたかった。
◆蘚苔類、地衣類等のフローラに関しては、新たな知見が得られている。しかし、課題全体としてみると、新たな知見が少なく、また研究目的の達成度も高いとはいえない。また、研究成果の公表が不活発であり、今後の速やかな公表を望む。本研究の実施はインドネシア側の研究アクティビティーの向上には一定の寄与をしたと推察される。
◆全体として新味やブレークスルーがない。



地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
F-5 サンゴ礁生態系の攪乱と回復促進に関する研究
農水省水産総合研究センター
(澁野 拓郎)
B
b b b c c (1)
(1)
  (2)①    
(研究概要)
 サンゴ礁は、国家及びその地域に食糧生産、観光の場を提供するだけでなく、地球温暖化に伴う海面上昇問題とも関わる海岸線保護に利益をもたらす極めて重要なものであるが、近年世界的な規模での減少・衰退が起こっており、その保全は国際的にも重要な緊急課題となっている。サンゴ礁の保全及び管理の実施に際しては、その生態系に関する十分な科学的な情報や根拠に基づいて行うことが重要である。本課題ではサンゴ礁生態系の攪乱の現状の把握、サンゴを含むサンゴ礁生物群集からみた生態系保全のための指標の確立、多方面の研究分野からサンゴ礁生態系管理のための手法の探求から、サンゴ礁の攪乱の程度に応じた的確な環境管理とサンゴ礁生態系の回復促進のための施策への提言を行う。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆科学的価値とともに、社会的・行政的価値の高い優れた研究である。造礁サンゴの劣化が進行し、かつ再生・回復が困難な環境条件下に置かれていること明示した上で、それぞれの沿岸海域場の条件に適合した人工礁の設置など、人工回復技術を積極的に適応して、サンゴ礁生態系の回復・維持を図らなければならないことを説得力ある形で示している。ただし、サンゴの成長速度に対応して、水中画像記録方式/X線蛍光解析方式を使い分けているが、汎用性のある統一的なアーカイブ方式は検討されたのであろうか。また、褐虫藻の温度耐性変化の解明など、地球温暖化に起因するSST上昇条件下での、20-30年先を見通した長期的な保全・修復計画へ向けての展望が望まれるところである(ただし、これについては「今後の研究」に期待すべきかもしれない)。
◆短期間で全体としては比較的まとまった成果を出している。時間を要するテーマなので、今後の展開、成果の公表を注視したい。
◆サンゴの白化現象が世界的に大きな問題になっている中で、幅広い観点からサンゴ礁生態系のかく乱やその回復促進に迫った研究として高く評価できる。サンゴ礁魚類群集の維持の回復をはかろうとする時は、大型の人工礁よりも小型でも複雑な構造の人工礁が適切であることや、赤土が遺伝子レベルでサンゴに影響を及ぼすことを明らかにした点などは、限られた専門家以外の者にとっても分かりやすい成果と言える。石垣島など日本周辺をフィールドにした研究だが、この成果を、地球温暖化によるサンゴ礁への影響への対処を含め、国際的に役立てていくことが重要であろう。
◆本研究には、学術的にも応用的にも重要な発見があったといえる。ただし、この研究テーマは、前段階の研究からすでに6年以上続けられているものであり、その割にはあまりにもoriginal論文が少ない。研究代表者は、成果の積極的な発表に関して、指導性を発揮して欲しい。
◆研究調査が現実的、実際的であることに好感を覚える。この研究成果を基礎に、実際の自然保護活動が進展することを期待したい。
◆サンゴ礁を回復させるうえで重要な知見が得られている。個々の研究は優れているが、回復施策を目指した管理手法の提案という点では十分ではない。ただし、遺伝子の発現に着目したストレス状況の判別は新規性があり、赤土対策等の評価手法に発展させてほしい。
◆サンゴ礁生態系の回復促進を謳った研究計画であったが現状分析の記載にとどまったと思われる。しかし、サンゴ礁生態系研究は時空間に広がる変異の多様性、多大性から考えて、なお広範、長期にわたる研究が必要であり、そのための基礎を固めた、基盤となる研究手法を確立したという意義は認められる。サブテーマ(1)は基本的な知見としてデータベース的な意味があると考えられるのに対して、(2)はやってみたという程度の研究計画であったのではないか。研究全体としては一定の成果をあげたものの未完成であったといえ、実証的な研究については、将来に委ねるということであろう。
◆「撹乱・回復の評価とそれに基づく的確な管理手法の確立」という目的に対してみた場合、総合的な考察を通じた具体的な提案に資する研究成果、とはなっていないと思われる。断片的な知見の羅列にとどまっており、その中にはこのテーマとの関連性の十分な説明がわかりにくいもの(サブテーマ(1)④)や研究成果が学術誌に公表されていないものが含まれている。投入された研究費に比して、これが十分、有効に使われたとは言い難いのではないか。
◆報告書の付録として添付されている環境省自然局刊行の冊子案はよくできている。欲をいえば事業スケールで、この技術はどう展開できるのかの見通しがほしかった。
◆ほとんどのテーマが、目的を達成していないと思われる。また、成果の発表が極めて少ないといえる。
◆“生態系”とうたっているものの、生物相の記載が中心であり、生態系の無機環境要素についてのモニタリングが十分でないため、データの評価が困難となっている。水温、水位、その他環境要因のモニタリング変動と生物群の動態を関連づけるなどが必須であろう。
◆サンゴのストレス応答遺伝子を取上げた研究は新しい試みとして評価されるが、ストレスによって活性が変動した遺伝子30のうちの1つだけを分析した点に、この結果をどれほど一般化出来るかという問題が残ると思われる。限られた地点における環境中の諸成分の分析結果と、サンゴの生態的変化を結びつけようという手法は、グローバル又は広域的な環境問題を対象とする本研究経費の目的に合致するものなのかについて検討すべきであった。
◆サブ(2)①など調査結果の解析が不十分なものや、サブ(1)④など研究目的の達成までは遠いと言わざるを得ないものが含まれている。また、研究成果の公表が不活発であり、今後、速やかな成果の公表が望まれる。
◆なぜ西海岸について調査を行わなかったのかの説明がない。西側を調査することによって、珊瑚類や海草・海藻類の生育特性がはっきりしたのではないか。この研究は社会に向けての提言が必要であり、研究成果を大づかみして社会還元のための努力が望まれる。既に先行研究があるのかもしれないが、サンゴ着生誘導実験についても(基質を)サンゴ片だけでなく、非石灰石系の岩石、陸上の古い石灰石などでも行ってみるべきではなかったか。サンゴ類の管理の中にオニヒトデなどの捕食者の問題が入っておらず、最も大きい破壊要因を避けているのではないか。小さなことではあるが、報告書12頁上から13行の ゛格差″は゛較差″とすべき。
◆現実的な Rehabilitation が判然としない。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
H-1 アジアにおける環境をめぐる人々の消費者行動とその変容に関する国際比較研究
環境省国立環境研究所
(青柳 みどり)
B
c b b b c            
(研究概要)
 アジアにおける人々の生活水準の向上は、アジア各国のエネルギー消費の増大をはじめとするさまざまな資源消費の増大をもたらしている。しかし、人々の物質的な充足の欲求、快適性追求はしばしば指摘されるように環境への多大な負荷をもたらし、地球環境問題をはじめとする環境悪化の大きな原因となっている。本課題では、日本、中国をはじめとするアジア諸国の一般市民の消費行動を軸として、持続可能な消費の可能性をさぐるものである。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆こうした現地での実態(意識)調査は、集計データ自体が高い情報価値を持つことから、継続的な研究を望む。ただし、一つ疑問点を挙げるならば、日本における意識調査に見られるように、人々の環境意識(関心)の高さが、その時々の社会・経済状況によって大きく変動してしまうことを指摘していながら、他方で国際比較(日中、日独)において、単純かつ一般的な結論を導いているということであろう(技術への期待、企業イメージに関する国別相違など)。長期的な継続調査や対象地域の拡大、さらに方法論的発展によって、人々の意識の持続的変化と状況に依存した短期的変動の区別を含む、より重層的な知見の提供へと今後の進展を期待したい。
◆中国において近代的社会調査(サンプリング手法も含めて)を適用した例として評価できる。日本と中国の消費者の環境価値感の比較は、彼らの社会情報源に大きく依存している、とのことであるが、情報源への「信頼性」という観点からの分析が必要であろうと思われる。また、「中国・日本の消費者の比較研究」と「日本・独の企業の環境コミュニケーション」の両者の関連性がほとんど議論されていないのは残念である。
◆日本と中国の比較であるが、調査の困難さを考えるならば、十分に成果をあげえた研究と評価できる。次は、この成果をどのような政策、施策とつないでいくのかが重要である。企業と市民のコミュニケーションのあり方の新たな方向を示唆する点では、企業関係者及び市民、NPOへの情報発信が必要であり、行政担当者もこの研究を十分に理解する必要があると考えられる。
◆詳しくアンケート調査が行われ、分析もよくなされているが、テーマである消費者行動とその変容についての結果の部分が弱いように感じられる。調査結果が、他地域へも波及することを期待する。
◆膨大な人口を有する中国を対象とした意欲は評価できるが、全般的な普遍性に結論づけるのはやや問題があると思われる。ただし、継続してきたテーマの追求という点の価値を認めたい。最大の課題は、単なる自己満足の調査・研究ではなく(対外報告の少なさなど)政策につながるような成果を出していくことであろう。また報告書のまとめもやや雑な感がある。
◆社会システムに関する研究としては、明確な成果が得られている。消費者行動としての先導的あるいは提案的な部分を、いかに産みだしてゆくかが課題であることは、この研究の将来を考えた場合にも留意しておく必要がある。
◆中国の消費者調査はきわめて困難であることが予想され、データそのものの信頼度について保障できるかという問題はあるものの、調査を行ったことを評価したい。
◆アジアにおける環境をめぐる人々の消費行動…という表題だが、実際は中国と日本の比較が中心であり、表題とのずれがあり、違和感が残る。日本人の最重要問題についての意識調査では、環境問題について、97年が第2位だったものが、2002年には第9位になっており、日本人の環境問題への関心が、大幅に後退しているような印象をあたえる。このような質問設定はその年の事件に大きく影響を受ける傾向が強く、果たして妥当性があるのだろうか。
◆中国の実証研究、そして日中、日独の比較研究がどのように関連しているのか明らかでない。また、゛ガバナンス″という用語がキーワードとなって、各研究内容を統合するのではないかと推測されるが、この゛ガバナンス″という用語の使い方があいまいである。このような、意識に対する調査、基礎研究は重要であり、今後も継続的研究が必要であると思われる。しかし、研究をより発展させるためには何らかの基礎モデルが必要となるのではないか。
◆調査対象に対する構造把握、およびそれに基づいたアプローチ法について茫漠たるところが多々見られ、その帰結として研究結果が散漫となっていると考えられる。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
H-2 環境負荷低減のための産業転換促進手法に関する研究
環境省国立環境研究所
(森 保文)
B
c b b b c (1)          
(研究概要)
地球温暖化など様々な環境問題の解決に向けて、市民と行政のみならず産業における環境面での取り組みが緊急かつ重要であることは言うまでもない。本研究では、産業転換を促進すると考えられる手法として自主的管理、経済的誘導施策、法制度的措置を取り上げ、企業、自治体などに対するアンケート・ヒアリング調査、事例調査、統計データ、工学的予測に基づき、その現状と環境負荷管理に与える影響および改善点を実証または推定し、日本または地域における各手法の適用のあり方を明らかにする。なお本研究はIHDP(地球環境変動に関する人間次元国際プログラム)における産業転換(IT: Industrial Transformation)プロジェクトの一部をなしている。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆問題意識が明確であり、環境効率や環境影響評価など新しい課題の分析に大胆に取り組んでいる姿勢は評価できる。定量分析に力点を置き、結果が比較できるように工夫している点も評価できる。
◆全体としてはまとまりのよい研究であり、評価できる。ただし、これまでに検討されてきた内容を裏付けている、といった印象が強い。法制度措置に伴う産業転換の研究は、家電リサイクル法のみを対象としているとの感を与えるが、法制度の効果の分析について、法律学の専門家のアドバイスを受けた形跡が乏しく、内容が平板である。法律を所与の前提としてとらえるような分析、研究には限界があり、今後の研究展開を考える際には、さらなる配慮が求められる。
◆サブテーマ(1): この種の統計分析に一般的にいえることだが、ある程度直感的にも頷ける結果が導かれている。ただ、読者がより理解しやすく、また多少の検証や発展が可能なように、定性的データ等(外部圧力、社会的責任、…)の具体的な定量化について提示して欲しい。サブテーマ(2): 様々なシステム評価にこうしたモデル分析を適用することは、今後とも大いに期待するところである。ただし、この種の研究に時折見られることであるが、モデルの一般的定式化から即計算結果の提示をするというのは不親切のように思われる。公開可能であるかぎり、モデルへのインプットであるコスト・データ(算定方法も含めて;例えば、本研究で用いられている設備費用の平均費用への換算などは、時に結果を大きく左右する)を提供すれば、他の研究者にとっても、ある程度の検証が可能となり、さらなる議論の進展にも寄与すると思われる。サブテーマ(3): 当地の運送業者に料金を聞き、リサイクル材総量から概算した推定値と較べて、どの程度有用な情報を本研究がもたらしているのか疑問が残る。
◆環境負荷低減のための個別施策、①自主的管理 ②経済的誘導策 ③法制度措置等の実証的データに基づく分析が成されており、各々貴重なデータを提供している。ただし、上記の①~③を検証している対象が異なるため、本研究の結論の一つである各施策の補完性は、実証されているとはいえないと思われる。
◆実際に調査を行った上での具体的な研究であり、研究の目的も明確である。
◆地域リサイクル事業の類型化は社会、経済、行政的価値が高いと思われる。エコタウン事業への貢献に有効であろう。
◆サブテーマ(1)については、価値評価の定式化が極めて恣意的なように思われた。また、説明変数をどのように数量化しているのかが明らかではなく、説得性が低いと言わざるを得ない。サブテーマ(3)については、もう少しシステム(エコタウン内部の)の深い分析が必要であり、厳しい言い方をすれば、表面的な分析に終わったと評される。
◆サブテーマのバランス、継がりがなく、互いにバラバラの観を与える。
◆個々のサブテーマに関する研究のレベルは相当に高いことは認めるが、残念ながら、その総合性に欠く。このため、メインテーマとの関連性は希薄となっており、せめて「結論」部分で関連づけることが望まれる。
◆いくつかの関連研究が、この研究課題以外にも実施されているため、それらとの差別化、あるいは地球環境研究としての総合性の面から評価することになるが、他の個別研究に比して優れていると思われる点が少ないという印象を受けた。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
H-6 地下水利用に伴う広域的ヒ素汚染に対する地球環境保全のための環境計画に関する研究
厚労省国立医薬品食品研究所
(安藤 正典)
A
a a b b b (1) (2) (3)      
(研究概要)
多くの開発途上国では、人口増加や経済活性化の対策の一つとして農業への土地活用として地下水の利用が成されてきた。しかし、綿密な環境リスクアセスメントを行わずに短期的な社会経済を優先した結果として、地下水利用によるヒ素などの重金属汚染に伴うヒトへの影響と周辺環境の汚染が発生し、中国、モンゴル、タイ、チリ、インドネシア、インドあるいはバングラディシュ等で深刻な問題となっている。特に、インド、バングラディシュに跨る西ベンガル湾周辺では地下水汲み上げによる灌漑政策のため、未曾有のヒ素汚染による皮膚がん、肺がん、角化症、黒皮症などのヒ素中毒患者が多発し、生態系の変動をも引き起こし、広範囲な地域に跨るもので、新たな形態の地球環境汚染問題と捉えることができる。そこで、ヒ素汚染が深刻なインド・バングラディシュに跨る西ベンガル地域について我が国とインド及びバングラディシュの大学や研究所とで重金属汚染問題解決の方策を探る共同研究を実施する。この研究によって、地下水ヒ素汚染と健康影響の状況、地下水浄化あるいは生態系への影響を明らかにし、他の諸国等の地球規模でのヒ素汚染の問題解決の手法の開発に資する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆研究全体のコーディネーションが素晴らしい。東アジアの水のヒ素汚染は深刻な課題であり、本研究によって問題解決に向けて、光が見えてきたような気がする。本研究に、さらに政治経済学的な検討が加えられれば、具体的な施策に結びつくことが期待できる。
◆途上国における地下水のヒ素汚染の分析と除去手法の開発などは、地味な研究ではあるが途上国への社会貢献として評価できると思われる。
◆他の研究課題と比較して、サブテーマが共通目標に向けて配置され、よく統合されている印象を受けた。丹念な現地調査、ならびに実験を実施し、また国際的な議論も促進するなど、非常に有益な効果をもたらしていると評価できる。
◆大きな問題をかかえた、今後とりくまれるべきテーマについて、よく取りまとめられた研究であると評価でき、信頼できる研究といえる。ただし、継続的にワークショップが行われたことは評価できるものの、今後のネットワークづくりの成果につながっているかどうかについて、報告書からは読み取りにくいのが気にかかる。
◆個々のテーマの研究内容は高く評価できる。欲をいえば、メインテーマにサブテーマがどのように結びつくかの結論、総括の充実が必要と思われる。
◆地下水を灌漑用と飲用水と双方に利用しなければならないという、アジアの現状と健康影響の実態は明らかにされているものの、その防止策の政策科学的な検討(サブテーマ(4),(5),(6))は、充分に統合的かつ整合性のあるものとはなっていないと思われる。
◆地下水は、ヒ素だけでなく、様々な汚染物質を含んで移動するため、人間をはじめとするあらゆる生物に悪影響を与える可能性があり、本研究テーマは重要である。研究内容も具体的で、全体テーマに迫るものといえる。
◆緊急を要する問題であり、きわめてプラクティカルな解決法へのアプローチは高く評価できる。パイロットプラントによるヒ素除去実験をさらに拡大していく必要があろう。
◆メカニズムの観察と解明に中心を置いた研究であるが、対策中心の研究の方が本問題の解明度から見て、本研究資金による研究課題として適切であったのではないか。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H14時点)
総合評価
(A~E)
①研究成果の 科学的価値
②研究成果の社会・経済・行政的価値
③研究成果の波及効果及び発展性
④研究代表者のマネジメント
⑤課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
1 2 3 1 2 3
H12一般
(12~14)
*事後評価*
H-7 ゴールドラッシュ地域における環境管理、環境計画、およびリスクコミュニケーションに関する学際的研究
経産省産業技術総合研究所
(村尾 智)
C
b b b b c            
(研究概要)
 平成11年度に実施したFS-5により、グローバルな規模で環境に負荷を与え、特に水銀汚染の一因となっている金のスモールスケールマイニングについて、環境管理と計画の方法論を検討する。ローカルな具体的研究により金の小規模採掘と水銀汚染の実態を明らかにし、また、リスクコミュニケーションのあり方を模索する。さらに、グローバルな考察により、国家レベル、国際レベルにおける環境管理のあり方、環境計画の方法論を構築する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆Small Scale Mining は途上国では極めて重要な環境問題であり、本研究のような研究の発展が問題解決に寄与することを強く望む。研究のオーガニゼーションが良くできていて、全体的にバランスがとれている。この研究に Human Dimension が絡んでくると、もっと政策的に寄与することが可能となるであろう。
◆サブテーマ(4)の成果は、当初危惧されていた研究の成果への不安を解消させるものであったと評価でき、今後の展開が期待される。
◆地味な研究ではあるが、意義は十分にあると評価できる。ただし、環境管理マッピングがいかにも地質・鉱山的関心から描かれている印象があり、総合的視点に欠ける感が残る。リスク・コミュニケーションも入り口にとどまっている。
◆現地調査、円卓会議などを実施し、一定の成果を達成している。ただし、報告書の記述も含めて全般的に粗雑な印象を受ける。また、金鉱脈マップ(CD-ROM)作成は、仮に商業的価値を認めるならば、研究へのファンディングに疑問が残る。
◆取り上げた研究テーマに対しては、期待された成果が出ているように思われるが、科学的価値や波及効果については高い評価を与えることは難しい。
◆この種の研究では常に地元との関係や理解が問題となるが、リスクコミュニケーションの領域をもっと重視すべきであろうという感想をもった。
◆金鉱の採掘に伴う水銀等の有害物質による環境汚染の学際的研究であるが、問題の指摘に対し、対策の総合的な提示がやや弱いと思われる。
◆主要テーマとサブテーマとの関連性が稀薄であり、個々のサブテーマの「寄せ集め」との批判に十分に応えていないと思われる。
◆多くの参加チームによる研究プロジェクトではあるが、それらが学際的な研究として相互作用し、効果を上げたという点が認められないのが残念である。「リスクコミュニケーション」と研究テーマや目的に記述されているが、個々のサブテーマの研究が、この研究課題で取上げている「リスクコミュニケーション」のどのプロセスに寄与したのかが、本報告書からは見えてこない。