平成11年度終了課題事後評価結果一覧(詳細)

第1分野

<オゾン層の破壊、地球温暖化>

1. B-01
気候・物質循環モデルによる気候変動の定量的評価に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 神沢 博

研究概要

  本研究は、(1)人為起源エアロゾル、雲、地表水文過程等によってもたらされる気候変動の不確定性の解明、(2)全球気候モデルの結果を森林生態系など各種地表面の影響を取り入れつつ、地域スケールでの気候変動評価への翻訳、(3)気候変動と対流圏物質循環、森林生態系間の相互作用を含めた総合的なモデルの基礎の確立を主な目的とする。

課題全体の総合評価

  • 世界的に話題となっている気候変動に関するテーマに積極的に取り組み、適切な研究協力を行うことにより豊富な研究成果をあげていることから、全体として本研究による成果は高く評価できる。
  • 特に、エアロゾルの全球評価・地域規模の気候変動研究における進展がみられた。

その他

  • テーマの性格上、仕方がないが、各サブテーマが断片的である。個々のテーマは重要であるが、全体のつながりが不明確。又モデルの評価(現実の現象との差の要因分析等)が報告書ではわかりにくい。
  • 将来の温度変化に違いが見られるが、モデルとしては評価できる。国内外の他のモデルグループとの交流、結果の比較を行って、予測結果のくい違いの程度を縮める努力をすべきである。
  • IPCCは現在この種の研究をすべて採用しているが、現実には統一条件のクロスチェック等が必要であり、その上で地域条件の特性分析に行くべきと思われる。

2. B-12
海面上昇の影響の総合評価に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 建設省国土地理院 川口 博行

研究概要

  IPCCの第二次総合報告書によると、2100年には約50cmの海面水位の上昇が予測されている。アジア太平洋地域の国々では、沿岸域の詳細な地形、植生、土地利用、海岸施設等に関する地理情報は、未整備または非公開であることが多い。このため、海面上昇の影響を最も強く受ける地域であるにも関わらず、面的な影響の予測及び評価を困難にしている。
 本研究では、各種の地理的なデータが比較的得られ易いこと等からタイ国沿岸域を研究対象に選定した。研究の最終目標を、影響の総合評価ガイドライン(マニュアル)の作成及びタイ国におけるケーススタディでの個別の影響評価成果の統合化に置き、アジア太平洋地域の海面上昇の影響について適切な評価を行うための足がかりとすることを目的とする。

課題全体の総合評価

  • 対象としているアジア太平洋地域は、地球温暖化による多大な影響がでることが予測されているが、この分野での研究が不足しており、その意味で本研究による成果は高く評価できる。
  • 特に、脆弱性評価手法の開発は、世界的にもみても評価できるものである。

その他

  • タイ国のみを対象としてガイドライン等一般化を行っているが、少くとも日本のようにデータの完備した所を共に対象として、一般性、その妥当性をクロスチェックする必要があると思われる。他の地域への通用性等を検討する必要がある。
  • 目的は非常に重要であり、その為汎用性、手法の通用可能性を強化した検討が必要と思われる。

3. B-16
地球温暖化抑制のためのCH4、N20の対策技術開発と評価に関する研究(平成 7 年度~ 11 年度)
重点
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 稲森 悠平

研究概要

  温室効果ガスとしてのCH、NOは多岐にわたる各発生源毎に具体的な対策を講じる必要があり、各分野の対策技術が緊急に求められている。また、コスト・効率性・汎用性等を考慮した適切な評価が必要であり、かつそれぞれの技術に対する総合的な知見の集積が必要不可欠である。更にCOP3ではCOのみならずCH、NOが重要な削減対象に位置づけられ、削減目標策定においてバスケットアプローチを用いることとなったため、各分野における放出量の精度向上と削減技術の確立が緊急を有する課題となっている。これらの点を鑑み、ここではCH、NOを対象とし、人為的制御が可能な効果的削減技術を開発するとともに各発生源における精度の高い放出量の把握を視野に入れ、我が国のみならず、東北アジア地域の開発途上国においても活用できる技術開発と評価に関する研究を推進することとする。

課題全体の総合評価

  • 国際的にもニーズの高い分野の研究を積極的に行い、研究成果もよく整理されていることから、全体としては高く評価できる。
  • ただし、研究成果の学術誌への公表が少ないサブテーマグループがあることから、国際的な学術雑誌等への成果の公表等を積極的に行うべきである。

その他

  • 個別技術の検討の他、ポテンシャル評価が特に重要と考えられるが、その部分の成果が報告書では不明確。最も重要な目的であり、結果を明確にする必要がある。
  • かなり結果の出尽くした研究がいくつかある。
  • 今後の見積り等に必要であり、統合的評価手法を(もし報告書の程度の成果であるなら)更につめる必要がある。
  • 国際貢献としては今後の問題であり、具体的な提案がほしい。

4. B-53
都市圏の資源・エネルギー循環と都市構造に係わる温暖化防止に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 花木 啓祐

研究概要

  都市では、多種多様な社会経済活動が営まれ、かつ高密度に集積しており、それらを支えるために大量のエネルギーが投入され、循環、代謝ののち廃棄されている。この膨大なエネルギーと資源のフローに起因する影響は多岐にわたり、地球温暖化への影響も大きい。また、世界的な人口集中と都市化傾向を鑑みるにその対応は緊急課題である。本研究では、以下のサブテーマの分野における都市活動あるいは都市構造を温暖化抑制の観点から変換していくための技術あるいは方策とその普及のための指針を明らかにする。

(1) 都市内分散型エネルギー需給技術の温暖化抑制効果と都市環境影響に関する研究
(2) 廃棄物リサイクルにともなう温室効果ガスの排出制御技術に関する研究
(3) 都市気候モデルによる建築及び市街地の熱特性評価に関する研究

課題全体の総合評価

  • 研究計画がよく練られ、研究のスコープの中では、定量的な見通しまで得られており、全体として本研究による成果は高く評価できる。
  • ただし、問題を限定し過ぎた感があり、実際への応用がどの程度可能か疑問が残る。より複雑、広範な問題へ進む際の足がかりとして価値がありそう。
  • 類似の研究が多いので、まず現状のsurveyと本研究成果との比較等検討結果の自己評価、結果の統合的評価(多様な手法に対して、全体として最適な組合せ、優先順位の検討等)が必要。

その他

  • 都市域のエネルギー収支全体をとらえ、その中でこの研究がどの部分を扱うかを明確にして研究を進めるべきであった。
  • これは出発点における問題点であるが、従来の都市気候学の成果を充分に消化していない点が惜しい。
  • 一部の研究は対等に結びつき、行政的利用度が高い。
  • 具体的な検討であり、その信頼性評価が欲しい。又ポテンシャル評価が不足な部分もあるので、統合的政策へ資する検討があるとよい。
  • 国際的な研究協力を、この研究が終わってからでも、至急やってほしい。

5. B-54
アジア太平洋地域における温暖化対策統合評価モデル(AIM)の適用と改良に関する途上国等共同研究(平成 9 年度~ 11 年度)
途上国
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 森田 恒幸

研究概要

 本研究は、現在、地球環境研究の総合化の手段として注目を集めている「統合評価モデル」の開発と活用に関する研究である。この統合評価モデルは、広範囲に分散した科学的知見を大規模計算機モデルのプラットホームとして統合し、これらの知見を政策決定の過程に適正かつ体系的に反映しようとするものであり、地球温暖化対策の検討にとって不可欠のツールとして認識されるようになってきた。本研究で用いるAIMモデルは、わが国の代表的な統合評価モデルであり、世界的にもアジア太平洋地域に焦点をあてた唯一のモデルとして既に高い評価を得ている。AIMモデルを適用して、アジア太平洋地域における温暖化対策の必要性とその効果を総合的に評価するとともに、新たな政策ニーズに対応するためにモデルの更新、改良、拡張を図ることを目的とする。

課題全体の総合評価

  • AIMモデルは、この分野での日本の最先端のモデルであり、3期9年間の豊富な研究実績を背景に政策への貢献度も高く、国際的ネットワーク作りも高く評価できる。また、IPCC等、国際的、国内的に高い評価を得ていることから、本研究による成果は極めて高く評価できる。
  • ただし、不明確な要素の多いモデルのため、モデル構造、データ等の信頼性に関する検討、評価、分析が必要であり、この辺のモデル構造分析が報告書では不明確。類似の他の作業との整合性チェック、総量チェック等を理解しやすい形で示す必要がある。

その他

  • 影響評価を行う際はそのモデルの信頼性がきわめて重要であり、他の研究成果との整合性チェック及び更なる改良が必要である。

6. B-55
低環境負荷型都市交通手段に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 近藤 義則

研究概要

 地球温暖化の主因物質とされる二酸化炭素の発生のうち、自動車寄与分は世界全体でみると約20%に及び、かつ年間約3%の割合で増加している。これらの発生の大半は都市内で生じており、その抑制のためには都市内交通手段の抜本的な見直しが必要である。
  このような観点から本研究では,近未来に実現可能性のある交通手段として、電気自動車及びハイブリッド車を中心的に、さらに鉄軌道系の交通システムを取り上げ,その技術の可能性、それらの技術を適用した場合の二酸化炭素排出削減効果、社会への適用の可能性について、総合的に研究することを目的としている。

課題全体の総合評価

  • 個別技術の研究を全体的に評価する部分が必要。ややランダムに個別技術を扱っている嫌いがある。又最近の話題となっている燃料電池車の技術、統合評価等、本来国で行うことの適したテーマが欠落している。
  • 都市交通手段を通じてCOを削減に対して具体的な政策提言などが乏しい。

その他

  • ①個別技術、要素 ②道路系の対策 ③交通体系全体の対策⇒それぞれのレベルでどの程度達成できるか示してほしい。
  • 交通対策は重要であるが、EV(電気自動車)にあまり重みがありすぎ、全体的対応が一部にとどまっているのは残念である。
  • 国内的、国際的にきわめて重要課題であって、政策決定に直結した評価、技術に焦点をあわせた研究が更に必要である。

 

第2分野


<酸性雨、海洋汚染>

7. C-03
東アジアにおける酸性雨原因物質排出制御手法の開発と環境への影響評価に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
途上国
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 畠山 史郎

研究概要

 中国においては大量の石炭が消費されており、これに由来するSO2も年間1700万トンにも上る。SO2や酸性物質の影響は、自然環境のみならず市民の健康、文化財、人造建造物等にも及び、広く北東アジア全域にも影響を及ぼしている。本研究では、住民の健康被害や周辺の自然環境悪化が指摘されている重慶市を主なフィールドとして、民生用の石炭燃料からの脱硫手法としてのバイオブリケット技術の普及、低含硫ブリケット製造のための乾式選炭技術の開発及び中小ボイラーや民生用燃焼器具からの排出制御手法の開発を第一の目的とした。酸性雨原因物質制御手法が普及した際に環境に与える影響を解明するため、住民の健康影響、室内大気や都市大気への影響、植物影響、文化財や建造物を構成する材料への影響等の観点から環境影響を評価する研究を第二の目的とする。

課題全体の総合評価

  • 途上国の経済発展及び技術開発状況を適切に把握し、途上国援助を意識した研究であり、結果の実用化により今後の現実的な対策の実施にも貢献が期待され、また、本研究による新たな成果も得られていることから、本研究による成果は極めて高く評価できる。
  • 今後の課題として、共同研究事業化に係る日中双方の努力の必要性、科学的学術的な研究意義の向上等があげられる。

8. D-02
東アジア海域における有害化学物質の動態解明に関する研究(平成 10 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 功刀 正行

研究概要

 人為起源の有害化学物質による海洋汚染の自然生態系への影響が問題となっており、その汚染の広がりが懸念されている。本研究では、この有害化学物質の海洋における時空間変動の把握、海水から底質への除去・蓄積過程、さらに蓄積された底質堆積物等から底魚類への生物濃縮・蓄積過程を明らかにすることにより、東アジア海域における有害化学物質の動態解明を行うとともに関連データベースを作成する。

課題全体の総合評価

  • 東アジア域でのデータベースを構築する意義は世界的にも高く、時宜を得ており、また、重要な現象を見出し、着実に研究を進めていることから、本研究による成果は高く評価できる。
  • ただし、瀬戸内海の研究結果について東シナ海での結果との比較が行われているが、比較のみでは東シナ海についての理解には役立たつかが不明であり、瀬戸内海の研究を推進費で実施することに十分な説明が無ければ、不適切である。

その他の評価

  • 動態解明に必要な海水の動きの理解が進んでいない。D-1の数値シミュレーション及び実測の結果及び他の研究成果をデータの解釈に利用すべきである。
  • それぞれの研究チームのさらなる相互交流が必要である。
  • 本研究の主な成果は技術開発であり、今後はこの技術を利用してより広域的な汚染状況や汚染の原因、影響の調査・研究へと発展させる必要がある。

 

第3分野

<自然資源の保全>
(熱帯林の減少、生物多様性の減少、砂漠化、等)

9. F-05
サンゴ礁における生物多様性構造の解明とその保全に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 農水省西海区水産研究所 渋野 拓郎

研究概要

 サンゴ礁は海のオアシスと言われ様々な生物が生息し豊かな生態系を形成している。近年急激な開発と環境の悪化により地球的規模でサンゴ礁の衰退が起こっており、緊急に保全に取り組む必要がある。しかし、これらの生物群集相互の関わり合いや多様性構造の維持機構の知見は乏しい。そこで、本研究では①サンゴも含めた生物群集の相互関係・作用の解明。サンゴ-共生藻の遺伝的多様性の解明。②サンゴ群集周辺部砂地の生物群集の定性・定量的測定を基にしたサンゴ群集の健全度を判定するインデックスの作成。サンゴ礁の高い生物多様性維持機構の物質循環及び生物群集の相互作用からの解明。③規模の異なるスケールでサンゴ礁変動を的確に判定できるモニタリング手法の開発。水中で経年的なサンゴの立体構造の変化が記録可能なシステムの作成を行う。

課題全体の総合評価

  • これまでやや断片的であった、サンゴ、サンゴ礁についての調査研究を、総合的、生態学的な見地からまとめられている。今後のサンゴ礁生態系の維持に大きな意味を持っており、本研究による成果は高く評価できる。
  • 特に、(1)-①サンゴ礁域における生物群集多様性構造の解明、②造礁サンゴ群集の多様性構造の解明に関するサブテーマの成果及び、(3)-③水中画像アーカイブによるサンゴ礁の生物多様性維持機構の解明に関する研究については優れた成果が得られているが、(1)-③遺伝的解析及び(3)-①の衛星画像分析については他のサブテーマとのさらなる連携が求められる。

その他

  • (1)サンゴ礁の生物相とその組成員の相互関係、(2)サンゴ礁と環境との関係、(3)モニタリングと研究体制とその分担がはっきりしていて分かりやすい。
  • GCRMN( Global Coral Reef Monitoring Network (NOAA/USGS))などグローバルなMonitoring Networkへの実質的な貢献をなすための基礎がほぼ出来たと思われる。今後、代表海域での定点観測調査によるフォローアップ、海外の研究ネットワークとの連携や、英文での発表を行えば国際的貢献も期待できる。
  • (1)~(3)のサブテーマがうまく考えられているが、より具体的な提言が望まれる。

10. J-01
人工衛星データを利用した陸域生態系の3次元構造の計測とその動態評価に関する研究(平成 9 年度~ 11 年度)
先駆的
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 田村 正行

研究概要

 植生の種組成やバイオマス分布など陸域生態系の空間構造は、地球規模での環境の状態を評価する上で最も基本的なパラメータの一つである。その変化は、熱帯林の減少や砂漠化、生物多様性の減少など地表面の変動に直接的に係わる問題においては勿論のこと、地球温暖化などのより広域的な地球規模での環境変動に対しても地表面での物質、エネルギー収支の変化を通じて大きな影響を及ぼす。このため、生態系の空間構造とその変化を全地球レベルで計測、評価することが地球環境問題に取り組むうえでの最も重要な課題の一つとなっている。しかしながら、局所レベルから全地球レベルまでを対象として、生態系の構造を計測し、その動態を評価することは現時点では極めて難しい。本研究は、陸域生態系の最も基本的な構成要素である植生の三次元構造を計測するための地上調査ならびにリモートセンシング手法を開発し、さらにその動態を評価するための構造変動モデルを開発することを目的とする。平成10年度からは、さらに、温暖化防止京都会議での討議に基づき、植生による温暖化ガスの吸収、放出の評価を行うために、基本的な生態系パラメータの計測について検討を行う。このため、以下のサブテーマにより研究を進める。

(1) 生態系の構造計測手法に関する研究(計測)
(2) スケーリングによる広域生態系の構造評価手法に関する研究(スケーリング)
(3) 植物構造動態モデルによる植物群集変動の推定モデルの開発(モデリング)

課題全体の総合評価

  • 地球環境の動態・変動を適確かつ、具体的に表現する陸上生物群集の動態を地球規模で捉える方法を示しており、今後の発展次第では、例えば温暖化の吸収源の炭素ストックの変化の推定等に活用できる可能性がある。全体として、本研究による成果は高く評価できる。
  • (1)人工衛星データを利用しての生態系構造計測手法の開発、(2)スケーリングによる広域生態系の構造評価の中でも、特に(2)②の、WAV2の植物活性評価に対する有用性と放射伝達を用いたインバーションについては充分な研究成果を挙げているが、森林の二酸化炭素吸収能の評価にはなお研究を重ねる必要がある。
  • 衛星データ、空中データなどで大規模森林のBiomassを推定する方法が確立されると、地球環境を知る上での有効な方法になるが、地上でのデータとの比較できる場所を選定することによって、植生の空間構造に留まらず、生理的特性もより正確に把握できるようになることが望まれる。

その他

  • 衛星画像データ分析の方法論について適切なアプローチが展開されている。
  • GIS情報の適切な利用とその展開は将来性のある研究課題であるが、サブテーマ間の連携がやや乏しいので、何がどこまで実用化できるか、目的と手法を絞ったより具体的な提案が望まれる。
  • 画像データと実際の植生との信頼性の高い対比の方法論は国際的にも貢献しうる成果である。
 

第4分野


<HDP、その他の地球環境問題等>

11. H-01
環境に関する知識、関心、認識およびその相互疎通に関する国際比較研究(平成 9 年度~ 11 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 青柳 みどり

研究概要

 持続可能な社会の形成のためには、個人および企業等集団の意識改革が必要であることはいうまでもない。本提案課題は、市民を社会の基礎単位の個人、および経済活動の位置主体としての消費者および企業としてとらえ、それぞれの主体について厳密な無作為抽出による社会調査法による調査を実施することにより統計的に個人・消費者・企業の価値観、態度、行動を国際的な比較調査を通じてとらえることを目的とする。

課題全体の総合評価

  • 今後の地球環境問題への国内の取り組みにあたっても、ソフト面からのアプローチは重要。欧州、アジアを含めて、横断的に比較検討を行うための素材の収集という意味では、意義のある研究であった。
  • ただし、常識的(直感的)に考えられていたことを裏付けたという側面もあり、この成果を今後どう活かすのか、科学的、政策的にどのように利用すれば有用なのか見えにくい。
  • また、多くのデータを収集したことは、大変な苦労であったことであり、多くの知見を提供したことは評価できる。しかし、研究の成果の羅列にとどまっている面がある。例えば、「個人・企業が、どのような社会・経済的環境に置かれ、どういう環境知識をもち、それによってどのような価値観を持つに至ったか(どんな価値観グループが形成されたか)を明らかにした上で、環境知識とか価値観によって、どのような環境への態度、行動が生まれたか」といった分析要素間の因果関係を明らかにしていくことが必要であろう。

その他

  • 異なった調査対象グループの相互接触をもっとうまく使うべきであったのではないか。
  • 研究サブテーマと研究体制の関係が明確でない。
  • 報告書には目次等、全体構成がわかる資料をつけるべきである。
  • GOESの研究に引きずられたという印象は否めない。

12. H-02
アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ(QOL)、環境リスク認知・行動に関する研究(平成 10 年度~ 12 年度)
一般
研究代表者名 環境庁国立環境研究所 兜 真徳

研究概要

 途上国では、活発な開発活動による環境劣化・汚染等の環境問題が顕在化しており、地域環境問題と地球環境問題の両面から「持続可能な開発 (sustainable development)」へのアプローチが模索されている。それら開発活動の活発化は生活水準向上へのデマンドと人口増を2大背景としており、村落レベルでは土地利用の拡大・自然破壊・土地の荒廃・生産性の低下などが、また、大都市レベルでは工業化・都市化による環境汚染及び二酸化炭素排出などの問題が大きい。本研究では、開発活動と環境問題の水準の異なる中国、インドネシア及びインド、開発水準の低いネパール、バングラデシュとパプアニューギニアの6カ国において、それぞれ代表的な中核都市と村落―地方都市系の住民を対象に、そこでの主たる環境健康リスクを評価すると同時に環境リスク認知・行動の実態を調査し、開発によってもたらされる環境問題あるいは生活の豊かさの変化に伴う健康リスクとそれらに対する住民のリスク認知の変化を環境転換(environmental transition)の観点から整理すると同時に、環境政策や環境教育の在り方などについて、市町村・県・州・国のレベルで具体的に検討することを目的とする。

課題全体の総合評価

  • 従来からの通説を、より科学的につめ、一定の成果をおさめたと考えられる。個々の研究は優れており、本研究による成果は高く評価できる。
  • ただし、テーマと研究体制の不一致がつきまとい、"リスク認知・行動"というキーワードと"リスクコミュニケーション"というキーワード、"リスクマネジメント"というキーワードが、政策科学の観点、関心事とは異なる意味で使われたきらいがある。
  • また、都市部と農村部の研究が、それぞれ社会・経済的、文化的環境の異なる国で行われているため、今後は同一国内において、都市部と農村部の比較研究を行うことも検討すべきである。

その他

  • オリジナルな調査(特に各都市別の意識調査)は評価できる。
  • 個々のパーツとしての研究には、それなりの意義と成果をあげており、各国の地域研究に貢献するところは大きい。ただし、個々の研究が全体テーマの掲げる課題に十分対応したものであったかどうかについては、疑問な部分もある。