平成10年度終了課題事後評価結果一覧(詳細)

第1分野
<オゾン層の破壊、地球温暖化>

 
1. A-1 衛星データ等を活用したオゾン層破壊機構の解明及びモデル化に関する研究
(平成8~10年度)
重点
○(課題代表者) 国立環境研究所 中根 英昭

<研究概要>
 極渦の変動とオゾン層破壊、その結果としての中高緯度域のオゾン減少の機構を解明すると共に、平成10年度に実施される第3回欧州オゾン層集中観測(THESEO)等の国際共同研究に対応した研究を実施することを本研究の目的とした。

<成果の状況>
・ 研究成果は、北半球オゾン層破壊の機構、極渦を中心に、極渦内外でPSC生成やオゾン減少機構の関係等を多面的に研究が進められ、着実に成果が得られている。世界的なオゾン研究の中でもユニークな位置を占め、興味深い成果を上げている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 研究体制については、サブテーマ間の連携、国際的な研究との連携もおおむね有機的に行われている。ただし、極渦研究の進展のためには気象研究者とのさらなる連携が必要であった。

<<総合コメント>>
・ 研究目標の大枠の中で具体的ないくつかの目標に絞って研究が進められていた。
・ 現在の観測をモデル化、そして予測へと発展させる上での方法論の開発と研究が今後必要。

2. A-2 臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 鷲田 伸明

<研究概要>
 オゾン層保護のために、CFC、ハロン等既存規制物質に加えてHCFC、臭化メチル等新規規制物質の規制の方策が検討・合意された(モントリオール議定書締約国会議1995年12月)。現在の国際的規制の動向から、CFC、ハロン等に関しては今後回収、処理技術の開発が重要であり、HCFC、臭化メチルに関しては、大気中での分布や蓄積量等の動態把握と、代替技術、代替品の開発が重要となる。臭化メチルは海洋での自然発生源を有するため、自然及び人為起源発生量の峻別・評価が必要である。以上の状況を踏まえ本研究は臭化メチルに関しては大気中の分布・反応・起源に関する研究と土壌薫蒸による大気中への放出量の推定と放出抑制や代替技術の開発を、CFCやハロンを含むハロゲン化合物に関しては回収、分解処理及び代替品の開発技術の研究を集約的に行うことを目的として2つのサブテーマと8つのサブサブテーマからなる研究を行った。

<目標の適切性>
・ 研究目標については、おおむね必要性が高く、重要なものが設定されていると認められる。しかし、臭化メチル規制スケジュールと照らし、研究スケジュールについてもっと考慮がなされるべきであった。

<成果の状況>
・ 研究成果については、総じて行政貢献、産業界への貢献は高いと評価される。しかし、規制スケジュールとの整合性、測定手法開発の成果、代替技術の選択などに問題点が散見された。排出抑制策、代替品の実用化の方向を具体化できていない点が残念である。

<<総合コメント>>
・ 総合的には、臭化メチルの規制に先立って研究されるべき課題であった。臭化メチル規制の今後に有効な指針となることを期待する。

3. A-4 紫外線の増加が人に及ぼす影響に関する疫学的視点を中心とした研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立がんセンター 山口 直人

<研究概要>
 紫外線、特にUV-B領域はオゾンホールの拡大とともに増加し、ヒトの健康に及ぼす悪影響が懸念されている。UV-Bの生体影響としては、皮膚がん、白内障及び他の眼科的疾患の増加、免疫機構の低下による感染症の増加等が知られている。皮膚がんについては、オーストラリア、ニュージーランド、米国等で既に紫外線の増加にともなう増加が確認されているが、日本をはじめとするアジア地域では、未だ満足するデータは得られておらず、国際的にも日本人をはじめとする黄色人種のデータが必要とされている。本研究は、紫外線の健康影響として、皮膚がん、白内障等の眼科的疾患の増加、免疫機能の低下による感染症の増加等に着目して、その実態を把握するため、紫外線の強度の異なる日本の各地において検診等の疫学調査を継続して実施し、実態の把握と予防法の研究を行った。

<目標の適切性>
・ 研究目標が疫学的手法による人体への紫外線影響の解析を中心とし、系統だった整理が遂行されたことは行政的にも価値が高い。動物実験のテーマ設定については、疫学研究との連携が意識されることが望ましかった。

<成果の状況>
・動物実験のサブテーマでは、所期の成果は得られている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・疫学研究テーマ間での連携にやや不十分な点があった。

<<総合コメント>>
・ 疫学的な研究の成果を上げるためには、今後紫外線データの整備などにより、暴露量との関係などで詳細な解析評価が重要となる。現時点では、要因分析の未熟な課題も見受けられる。今後は、UV-Bと人体影響についての定量的な解析研究の進展が望まれる。

4. A-5 紫外線増加が生態系に及ぼす影響に関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 農業環境技術研究所 田口 哲

<研究概要>
 フロンガスによるオゾン層破壊の問題はすでに1974年に指摘されて以来、紫外線増加が与える影響は様々な生物で研究されるようになったが、またその科学的証拠の蓄積はたかだか20年足らずである。しかもそれらのほとんどは室内実験の成果である。そのほとんどの研究は個々の個体群(種あるいは品種)に対する研究であって、それぞれの個体群が形成する全体の生態系に対する紫外線の研究はほとんど行われていない。また野外実験も限られた種または品種で行われたものであったが、室内実験と野外実験での結果には紫外線の影響に差が出た。この違いは今後紫外線増加による影響を予測する上で大変重要な問題となっている。そこで野外実験を主体とした陸上生態系と海洋生態系での紫外線増加が及ぼす影響を解明することを目的とした。陸上生態系には森林・樹木、野生植物を自然群集に、作物・野菜・花卉を人工群集に実験対象植物として選んだ。一方海洋生態系では低次生産者で最も重要な位置を占める植物プランクトンを選んだ。

<目標の適切性>
・本分野の研究はオゾン層問題の核心であり重要であるが、UV-Bの生態への影響は、70年代から米国でもかなりの研究が行われており、問題点を整理して、焦点を絞らなくてはとりとめない結果に終わる。この点で、研究目標の設定の際の検討が不足している点は否めない。

<成果の状況>
・研究成果については、成果に乏しいサブテーマもいくつか見られる一方、高い成果を出しているサブテーマもある。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・さらなるサブテーマ間の連携の必要性があった。

<<総合コメント>>
・UV-Bの影響のうち何に重点を置くかという、課題全体としての検討の必要性があった。
・ 紫外線の生態影響の研究は、今後も継続されるべき研究分野であるが、UV-Bの影響に関し何を指標にするかを明確にして研究テーマの有機的な連携を図り、ポイントを絞り込むことが重要である。

5. B-6 陸域生態系の二酸化炭素動態の評価と予測・モデリングに関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 農業環境技術研究所 袴田 共之

<研究概要>
 IPCC95年報告書においても依然として不明部分が多いとされている陸域の二酸化炭素動態について、自然生態系、人為生態系を中心に解明し、そのプロセスを実験データに基づくモデリングを通して説明できるよう試みた。特に土壌の役割を重視し、炭素の土壌への長寿命固定(シーケストレーション)の可能性を定量的に検討して、それらを、グローバル・プロセスの一環として解明した。

<目標の適切性>
・二酸化炭素動態のモデル収支という明確な目標が設定されており良好である。

<成果の状況>
・熱帯林における収支モデルの完成など、効果的にうまくまとまっている。また、部分的な研究として、国際的、行政的、科学的にも貢献している。さらに、統合化の方法論をもっと明確にすればより良い成果が見込まれよう。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ間の連携のもと、収支モデルの作成にむけて統合されている。モデル化は到達点にまだ遠いので、さらなる研究が必要。
・多生態系に共通したプロセスと個有なプロセスとの区分を明らかにした上で、研究を展開することが肝要である。
・大きな研究領域の範囲を含んでいるので、サブテーマを全体としてつなぐ研究体制を作ることが必要。又、各サブテーマは最終まとめにむけてパラメータを出すような方向でのサブテーマ間の連携のため、各研究内容を再検討してほしい。

<<総合コメント>>
・ 陸上生態系の炭素収支に関する一連のプロジェクトに最も進歩の大きい研究である。
・ 問題が整理され、より良くコーディネートされている。国際的なシンポジウム、会合を通じた研究成果の交流も活発で、是非今後も努力を継続させて欲しい。
・ シンクの問題については米国などが大掛かりに取組んでいるのに比べるとまだまだ充分とはいえない。実験と現地での観測を丁寧に行い、その知見に基づいてアジア地域及び全球レベルの炭素循環につなげようとしていることが評価できる。
・こうした組織的研究の成果や、それに加わった研究者がIPCCの第3次評価報告書全体として、個別の計測と全体との整合性の関係が不明確、データの分散、範囲等の考察がほしい。
・ 陸上生態系の調査はスポットごとに特性が違うことを十分データ使用時の注意とするべきである。
・ 全体として、発表論文数が少ない。

6. B-7 北太平洋の海洋表層過程による二酸化炭素の吸収と生物生産に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 野尻 幸宏

<研究概要>
 地球規模炭素循環のキープロセスである海洋と大気の二酸化炭素交換量を決める海洋表層の二酸化炭素が計測されてきた。海水/大気の二酸化炭素濃度(分圧)差と気象要素から、その海域の二酸化炭素吸収量が算定できる。しかし、季節変化を完全にカバーする観測の欠如から、二酸化炭素吸収量推定の不確定性が生じ、炭素循環モデルの問題となっている。本研究では、海水中二酸化炭素分圧測定の高度化を図り、測定方法間誤差を解明し、海洋の二酸化炭素観測データベース化するためのデータ整合化の研究を行った。さらに、従来からの蓄積のある各国の観測船による北太平洋域の二酸化炭素分圧データと、定期船による高頻度の高緯度北太平洋観測データを使って、北太平洋全域の二酸化炭素分圧分布をモデル化し、その分布モデルから、海洋の二酸化炭素吸収・放出量を解明した。

<目標の適切性>
・実施可能な無理のない目標を立てた研究となっており良好である。

<成果の状況>
・ 北太平洋について長期にわたる全面的な観測で成果をあげている。国際的、行政的、科学的貢献が大きく、国内外における研究推進に貢献している。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 海洋観測が中心であり、それにむけて計測とモデルがうまく組み合わさっている。
・ 研究体制は適切に構成されている。

<<総合コメント>>
・ 観測手段(船舶)の関係で北太平洋北部が中心となり、解決すべき問題に応えきるには充分でない。
・ 研究成果を論文として公表することが肝要である。
・ 海洋のCO2吸収は複雑かつ重要な課題なので、計測技術の向上、定期的測定方法の工夫、データの蓄積などが進んだことは評価できる。一方で海洋全体のCO2吸収能はどの程度あるのか、それに対して対象海洋(北太平洋)はどの程度寄与しているのか、といった大きな問に答えて欲しい。そのためには他の海域、あるいは世界的なデータ蓄積がどの程度進んでいるのかといったレビューの課題を組み込んだ方がよい。

7. B-8 地球温暖化に係わる対流圏オゾンと大気微量成分の変動プロセスに関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 鷲田 伸明

<研究概要>
 反応性微量気体の代表である対流圏のオゾン(O3)は温暖化に対して将来大きなインパクトを与える可能性の高い気体として今後の研究の重要性が指摘されている。対流圏オゾンには成層圏からの輸送混入によるものと、CO、NOx、NMHCなど多くの短寿命の前駆体から生成する光化学反応起源のものがある。本研究は対流圏オゾンの地域分布、高度分布、日変化、季節変動などの濃度測定とその解析、関連する他の微量成分の測定、化学反応、対流圏モデルなどにより成層圏および光化学起源の対流圏オゾンの実態を総合的に把握し、最終的には1994年のIPCC報告で0.2~0.6Wm-2と評価されている温室効果の精度向上および将来予測に貢献することを目的とした4つのサブテーマからなる研究となった。

<目標の適切性>
・対流圏オゾンは見落とされがちな重要な要素であり、化学的及び物理的側面からの研究が組み合わされて研究が実施されている。

<成果の状況>
・アジア域を中心にしたオゾンの挙動・実態について、一応の結論を得ることができている。
・ 対流圏オゾンに目標を絞った研究計画を立ててから、順調に研究が進んでいる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ間の連携があり、研究体制として最適。効率よく成果があがったと思われる。

<<総合コメント>>
・ 本研究プロジェクトだけでなく、国内外の関連研究の中で有効な研究成果をあげ、全体として対流圏オゾンの自然の生成、消滅過程と循環、それへの人間活動の影響が一昔前に比べて随分と良く分かるようになってきた。
・ 内分泌系は医学的には研究し易い対象なのに、ほとんど研究がされていないので、今後の研究課題である。

8. B-10 地球温暖化によるアジア太平洋社会集団に対する影響と適応に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 安藤 満

<研究概要>
 アジア太平洋域は生態学的視点から変化に富む一方、先進国と途上国が同時に存在し、環境衛生学的視点からも多様な社会が存在する。温暖化による疾病及び死亡への直接影響並びに動物媒介性感染症の拡大を予測するため、この研究においてはアジア太平洋域を対象に熱帯域から温帯域の途上国と先進国において調査研究を実施した。

<目標の適切性>
・ 温暖化による健康影響は重要な課題である。
・ アジアの途上国での健康影響を調査するという意欲的な研究である。

<成果の状況>
・ 限られた地域での事例研究が中心となっているので、より広範な地域を対象とした総合的な研究が期待される。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 3年間というの研究期間を一層十分に活用することが重要である。
・ 「タイの病院死亡統計」については、単なる人口論に終わらないよう、工夫した考察が欲しいところである。

<<総合コメント>>
・ 今後は適応策の検討が必要。価値の高い研究がでてきていると評価する。
・ アジア太平洋地域の途上国では温暖化影響と、他の社会要因、環境問題の影響が重なった健康影響への関心が高い。今後、対策・適応策を含めた研究を進めて欲しい。
・ 得られた重要な成果と残された課題を整理してほしい。テーマからすると域内途上国の脆弱性について検討すべきであり、日本にとどまらず、広範な対象にすべきである。
・ 途上国におけるインフラの不整備など適応能力を考慮した研究にすすんでほしい。

9. B-11 温暖化の社会・経済影響の評価と検出に関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 原沢 英夫

<研究概要>
 温暖化の影響に関しては、IPCC報告をはじめ種々の研究成果が集積されつつあるが、予測される影響が市民生活に具体的にどのように表れるかについての知見は不足しており、IPCC報告書でも具体的な記述は少ない。一方、1994、1995年の夏は日本の観測史上最高の猛暑を記録し、2~3℃の気温上昇がみられ、各地で渇水が生じるとともに市民生活に種々の影響を与えた。本研究は、1994年及び1995年の夏の猛暑の実態を気象データを基に解析するとともに、主として社会・経済活動に与えた影響及び取られた対応について広範に情報を収集し、猛暑(温度上昇)とその影響の因果関係を明らかにした。併せて、最近のわが国における温暖化影響に関する研究の知見を分野毎に体系的にレビューし、和文・英文報告を作成して公表した。そしてこれらの知見をもとに、温暖化の影響とその検出に資する分野別指標の選択と体系化を行い、指標を用いた影響の検出のためのモニタリングシステムのあり方について検討を加えた。

<目標の適切性>
・ 温暖化影響の検出と予測に関してIPCC第3次評価報告書に直接的に貢献できる内容の研究となっており、国際的にも重要な研究テーマである。
・ 温暖化の影響の検出は条約交渉や社会的認識などの点からみても非常に重要な課題である。

<成果の状況>
・ 温暖化事例を収集することに力点が置かれすぎたきらいはあるものの、検出の難しい要素について工夫した調査やマッピングがなされつつある。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 温暖化事例については、学際的に調査を行うことが重要であり、研究体制をさらに幅広くして知見を結集することが肝要と思われる。

<<総合コメント>>
・ 社会的・経済的影響の評価が今後必要。温暖化の検出のみならず、その社会的、経済的影響の基準をもう少し明確にまとめてほしい。特に、経済的影響の評価基準について言及してほしい。
・ 温暖化の影響を検出する上で、もっと民間情報の活用が望まれる。今後のさらなる研究に期待するところ大である。
・ 年毎の気候・気象の変動が大きいので、緩やかな変化の検出が難しい。社会・経済活動のダイナミックな変動の中に温暖化の影響が埋もれてしまうなど難しい面が多いため、「検出」の方法論などを含めて、有効なアプローチを考えて欲しい。

10. B-51 温室効果ガスの人為的な排出源・吸収源に関する研究 (平成8~10年度)
重点
○(課題代表者) 国立環境研究所 西岡 秀三

<研究概要>
気候変動枠組条約締約国は条約に基づき自国のGHG(温室効果ガス)の排出と吸収の目録を条約事務局に提出する責務を有することから、排出・吸収に係る各分野における定量的評価解析を行うことが必要とされている。また、第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)においてはCO2、CH4、N2O、HFC、PFC、SF6を削減対象ガスとする削減目標が設定された。今後、削減目標達成に向けたアクションプランの作成には各GHGの精度の高い排出量・吸収量推定が極めて重要であり、IPCCでは排出・吸収目録の作成ガイドラインの改定作業を進めている。本研究ではこのような状況を鑑みCO2、CH4、N2O、HFC、PFC、SF6について今後の政策決定に足る、精度の高い排出量・吸収量推定を行うための従来の知見の整理と新たな情報収集を行い、過去のトレンド及び今回の排出量・吸収量推定を踏まえ、新たな各種の政策・処置の効果を組み込んだ将来予測を行うに資する解析評価を行った。

<目標の適切性>
・ 京都議定書で定められた温室効果ガスの排出削減目標にも深く関わる排出源・吸収源に関して、先端的な研究をしようとしており、まことに時宜を得た研究である。今後の国際的議論の進展に応じて、臨機応変な研究を推進することが重要である。
・ 特に、数量的な評価をケーススタディーをまじえながら行うことも必要と考えられる。

<成果の状況>
・ 温室効果ガスの排出、吸収源について非常に幅の広い成果が出されている。今後のさらなる研究の進展に 
期待する。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 研究体制は良好である。
・ 各部門の排出・吸収量を算定するための手法を提案できるよう、今後の詳細な研究が望まれる。
・ 広範な研究領域であるので、研究の方向性や手法、対象地域などのまとまりをつける工夫が必要と思われる。

<<総合コメント>>
・ 今後のテーマの設定としては、温室効果ガスの種類毎、あるいは対象地域をしぼって、まとまりをつけた方が有効ではないか。
・ 研究成果に関する論文発表が少ない。

11. B-52 アジア太平洋地域における地球温暖化の局地植生への影響とその保全に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 大政 謙次

<研究概要>
 地球温暖化は、局地気象に様々な影響を及ぼし、植生を脆弱化する。このことは、植生の炭酸ガス吸収源としての機能を低下させるのみでなく、多様な生物の生息場所が喪失することを意味する。特に、炭酸ガスの固定能の大きい森林、脆弱化しやすい高山や乾燥地等の植生では大きな問題となる。しかし、この脆弱化の程度は地域によって異なると考えられ、また、環境変動による生態系の応答が複雑なために、脆弱化のプロセスは必ずしも明確になっていない。一方、温暖化の指標として、植生の脆弱化や生理生態学的な変化を利用した評価法の確立が望まれている。特に、開花や紅葉、生殖成長(作物収量を含む)等の生物季節の変化は、指標として有望であるが、環境変化の指標としてどの程度適用できるかは明確にされていない。そこで、本研究では、アジア太平洋地域において地球温暖化に伴う植生の脆弱化が問題となる地域を選定し、その地域特有の局地環境の変動が、植生の脆弱化の問題にどう影響するかを明らかにするとともに、植生保全に関する知見を得ることを目的とした。また、エルニーニョ等に伴う局地環境の変化が生物季節や作物収量に与える影響を統計的に解析し、その気候変動に対する指標性を明らかにした。

<目標の適切性>
・ 温暖化に対して脆弱と考えられる局地植生を対象として、意欲的な研究が実施されている。

<成果の状況>
・ 個別の高山地帯での事例調査となっているきらいがあるものの、これまでにはない成果が具体的に見えつつあり、温暖化影響の今後の検出にとっても重要な成果が得られているといえよう。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・複数の共同研究者どうしで横に連携した研究が進められている。

<<総合コメント>>
・ さらなる長期的な研究が望ましい。 自然環境の保全との関係、影響分析としても対応可能。今後、動態モデルを中心にした研究を進めてほしい。
・ 全体として最後のまとめにさらなる明確化が必要。
・ 成果として得られた植生モデルは、ある特定の環境では有効のように判断できるが、今後は環境の影響を組み込み、一般化が必要と思われる。
・ こうした重要な成果やそれを担っている研究者の方々がIPCC第3次評価報告書をはじめ、国際的なフォーラムに積極的に参加されるように期待したい。

 

第2分野


<酸性雨、海洋汚染>

12. C-1 東アジアにおける環境酸性化物質の物質収支解明のための大気・土壌総合化モデルと国際共同観測に関する研究 (平成8~10年度)
重点
○(課題代表者) 国立環境研究所 村野 健太郎

<研究概要>
東アジア地域で大気汚染物質の放出量を把握し、環境酸性化物質の生成過程、輸送沈着過程、影響過程を総合化し、物質収支解明のための大気・土壌総合化モデルの開発を進めた。このモデルの検証、あるいは物質収支の把握のためには日本国内のみならず韓国、中国を含む領域での乾性沈着量の測定を含む国際共同航空機観測、国際共同地上観測を行った。

<目標の適切性>
・個々の研究目標は必要性が高く、適切である。大気と土壌の統合化は若干、現時点での目標としては高すぎた面もある。

<成果の状況>
・優れた成果を上げている課題が多く、全体として高く評価される。

<<総合コメント>>
・越境大気汚染の実態解明に向け、今後の発展が期待される。

13. C-2 酸性・汚染物質の環境-生命系に与える影響に関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 佐竹 研一

<研究概要>
 自然生態系では、生物を中心として土壌、水及び大気の間で物質代謝が行われており、酸性物質は生物の生存を支える環境要因に大きな影響を及ぼす。本研究では酸性雨とその被害の関係を明確にするため、生物とその環境について特に酸性・汚染物質の環境-生命系影響という観点からその影響機構の解析を行った。また、酸性化に伴って変化する生態系の特色を知るために、自然酸性環境についても解析を行った。更に、生態系に必要な生物地球化学的研究手法の検討開発を基礎にして、酸性雨被害の懸念される生態系、典型的な酸性環境に分布する生物種及びこれらの生態系における物質代謝(イオウ代謝、窒素代謝、金属元素の代謝等)について研究し、酸性物質が環境-生命系へ与える影響を解明した。

<目標の適切性>
・ 酸性雨の影響を解明する重要性の高い研究分野であり、個々の研究目標としてはほぼ適切であるが、やや総花的である。課題全体としての目標設定も同時に行う必要があったのではないか。

<成果の状況>
・研究成果としては、環境中アルミニウムの化学形態決定等の成果が得られている。

<<総合コメント>>
・今後は、課題としての目標を設定し、さらに影響研究としての焦点を絞ることが重要である。

14. D-1 渤海・東シナ海における有害化学物質の動態解明に関する研究 (平成8~10年度)
途上国
○(課題代表者) 国立環境研究所 渡辺 正孝

<研究概要>
渤海・東シナ海は代表的な大陸棚であり、生物生産・生物種多様性が高い海域である。長江を中心とした流域の開発(水資源開発、エネルギー開発等の増大、土地利用形態の変化、工業化さらには沿岸域への人口集中等)により、河川を通じて流入する流砂、栄養塩類及び有害化学物質等の陸域からの環境負荷の量・質的変化が海洋生態系機能及び生物種多様性に大きな影響を与えることが危惧されている。本研究においては、河川由来の環境負荷が長江河口域における海洋生態系の機能及び多様性に与える影響の評価手法確立に資することを目的とした。(1)河川から溶存・懸濁の両形態で流入する汚濁物質負荷量を栄養塩・有機炭素を主な対象として把握。また、河口域での藻類を中心とする浮遊生態系優占種、炭素現存量等の計測を行い、現場海域での炭素等の物質循環過程(流入、生産、沈降等)の把握手法を開発。簡易セディメントトラップを用いて捕捉した沈降粒子の化学組成分析により沈降・分解・捕食過程等を解析。堆積物柱状試料を用い、陸起源物質の過去約100年間の堆積速度変化、供給源変化を解明。(2)隔離実験生態系を用いて汚濁負荷が海洋表層の生態系及び物質循環フラックスに与える影響の評価手法を開発。バクテリア、ピコプランクトン等の微生物生態系の現存量・多様性を定量的に把握するための分子生物学的手法を開発。有害金属元素(銅、カドミウム等)の個々の存在形態が微生物活性に与える影響の評価手法を開発。(3)隔離生態系実験結果、及び海洋観測結果等を用い、物質循環に基づく海洋生態系モデルの構築・検証とそれによる評価手法を開発。熱塩循環流、潮汐、風の影響を考慮した3次元流動モデルを用いて、河川流入の影響等、流動解析の実施。植生を考慮した陸域起源汚濁負荷強度の変動計測手法及び海域への汚濁負荷予測手法を開発。

<目標の適切性>
・ 研究目標はおおむね適切であった。

<成果の状況>
・ 中国との共同研究を軌道に乗せて、長江から東シナ海への物質流入の実態を明らかにした意義は大きい。ただ、課題の範囲をやや広げすぎており、まとまりきれていない感がある。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 東シナ海の海水の動きなども今後解析に加味していくべきである。

<<総合コメント>>
・ 今後は、長江からの環境負荷と海洋生態系の応答についての解析・評価手法の確立及び三峡ダムの影響予測が重点となる。

15. D-3 アジア大陸隣接海域帯の生態系変動の検知と陸域影響抽出に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 原島 省

<研究概要>
 アジア大陸の人口増加と経済的発展により、隣接海域の環境が影響を受けつつあり、この影響による生態系の変動を検知する必要がある。この海域では、モンスーン等による時間的変動要因も大きいため、広域の環境変動を、年サイクル、経年変動の2つの時間スパンの時系列としてとらえる必要がある。本研究課題ではこれまでに蓄積を行ってきたフェリー等のVOS(ボランティア観測船)によるモニタリング手法と衛星データ利用手法をアジア大陸隣接海域に適用し、陸域影響を抽出した。特に、海域に対する(N,P)/Si負荷比の長期変化によって、植物プランクトンの優占種がケイ藻から非ケイ藻へとシフトするかの解析を行った。さらに、このような手法に基づいて、今後のアジア隣接海域帯の環境変動評価・管理体制を構築することを目標とした。

<目標の適切性>
・ 研究目標としておおむね適切である。海洋汚染分野では珍しい仮説検証型の研究となっており、その成功例である。

<<総合コメント>>
・研究成果としては、民間船舶のVOSによる観測で仮説を支持する知見が得られてきており、研究プラットフォームの有効性も示された。ただし、仮説の実証までには、観測船やブイなども併用し、さらなるデータの蓄積が必要である。衛星画像による解析法でも、ある程度の手法的有効性が示された。さらなる洗練を期待したい。今後は、海洋保全のため対策提言に向けた研究の方向性を打ち出すことが重要である。

 

第3分野

<自然資源の保全>
(熱帯林の減少、生物多様性の減少、砂漠化、等)

16. E-1 熱帯環境林保護のための指標策定に関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 奥田 敏統

<研究概要>
熱帯林の減少による地球環境の変化、野生生物種の消滅等が危惧されており、早生樹種による熱帯林再生が行われている。しかし、単一種や外来種の導入による森林再生は生物多様性の視点から見て、さらには、森林を含めた地域の保全、森林資源の安定供給という観点から見ても、天然林の代替林にはなりえない。こうしたことから、近年地域種を用いた森林再生が試みられるようになったが、個々の種の生態的特性、地域種を含む森林群落内での種間の相互作用、reproductionの様式など不明な点が多く、コストを抑えつつ持続的に森林経営が出来るまでのモデルプランの策定までには至っていないのが現状である。そこで、本課題では、森林群落のもつ潜在的な持続性、個々の種の生理生態的特性、reproduction様式推定のための構成種の遺伝的多様性についての調査・研究を行い、熱帯林を持続的に管理するための指針を提唱することを目指した。

<目標の適切性>
・何のための指標作りか目標設定がはっきりしないので、指標の策定という課題と具体的な研究内容にずれが見られる。

<成果の状況>
・サブテーマ個々の研究成果の価値は高く評価できるが、研究目標である保護のための指標策定をまで至っておらず、課題全体としての成果・結論となっていない。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ間の連携が可能な状態まで、各研究が進展しておらず、計画・サブテーマ間の連携が不充分。

<<総合コメント>>
・マラヤで採用されてきたselective cuttingやmalayan unifarm systemなどの施策性や施策試験地での調査成果等、過去の業績、調査成果に対する適切な評価がなされないまま研究体制を構築した感がある。将来的に成果を国際的に展開していくためには、共同研究のカウンタパートとの関係が良好というだけでは不十分と考える。
・研究成果を森林の維持・管理にどのように役立てるのか先が見えず、指標の評価システムの検討が欠けており、課題を遂行していくためのブレーンストーミングが求められる。
・森林の持続的維持管理のために、撹乱からの森林の回復過程の動態を知るためには、今後、長期の継続観測が必要である。

17. E-2 熱帯環境保全林における野生生物の多様性と持続的管理のための指標に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 森林総合研究所 三浦 慎悟

<研究概要>
熱帯林は地球上で最も生物多様性に富んだ地域であると同時に、現在最も生物多様性が急速に減少している地域である。熱帯林の生物多様性を維持・保全するための方策を打ち立てることは重要な責務であるが、この地域で新たに生物多様性保存のために大規模な保護区を設定することは現実として困難である。こういった理由から、多様性の高い自然林を核とし、様々なタイプの二次林を組み合わせ、地域として生物多様性を持続する方策を模索することが必要である。本研究は、主に択伐林、二次林及びギャップにおける群集組成、動態及び生物間相互作用を重点的に把握し、これまでに得られてきた自然林での成果と知見を比較することによって、生物多様性の維持及び保全の手法を確立することを目的とした。

<目標の適切性>
・「指標の解明」という課題への挑戦は評価できるが、具体的な研究内容との関連について、充分議論した上での総合的な研究目標の設定が求められる。

<成果の状況>
・個々のサブテーマ研究内容・成果については、熱帯林に生息する哺乳類等の基礎的資料の蓄積、動物生態をとらえる研究方法の確立、植生種と捕食動物種の関係が明らかになった点等で高く評価できる。
・課題全体のテーマである「指標」に関し、課題全体としての成果の総合性についてみると不足している感がある。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・指標化をはかるためにどのような情報をどのように組み合わせるか等、課題全体を取りまとめる観点からの議論、連携が必要であった。

<<総合コメント>>
・サブテーマ①、②について、10年後、20年後等に調査を実施し、回復に至る時間を測定する必要がある。
・研究成果の公表を活発に行っており評価できる。

18. E-3 熱帯林の環境保全機能の評価に関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 森林総合研究所 谷 誠

<研究概要>
現在、熱帯林の減少が進行しており、それが有する大気・水・土壌に対する保全作用が失われてゆくことが危惧されている。これに対処するためには、熱帯林における微気候やエネルギー・物質の輸送、雨水や土砂の流出、土壌動物や微生物の土壌形成における機能などについての基礎的な情報を必要とする。またこれを基に、森林に対する攪乱がどの程度環境保全機能に影響を及ぼしているのかを予測することが、緊急に求められている。そこで本課題においては、タワーなど基本設備のある熱帯降雨林試験地において、エネルギー・物質の交換量や土壌水分に関する観測を長期継続的に実施した。また、微気象、土壌形成、土壌構造の調査を、攪乱の程度の異なる森林で行い、攪乱の生じた熱帯林の土壌回復可能性、環境保全機能の攪乱による減少程度などを予測した。

<目標の適切性>
・サブテーマごとの研究目標については具体的であり、環境保全機能がどれを指しているかが明確である点等評価できる。

<成果の状況>
・サブテーマ個々の目的と成果との関係がはっきりしており、全体の2/3程度は、所期の目的を達成しており、熱帯雨林のデータが少なかった分野での基礎的データセットとしての貢献は良程度の評価ができる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・個別のサブテーマにおける研究体制は良いが、全体としてみた場合、サブテーマ間の関係が不明確等、サブテーマ間の連携に問題があった。

<<総合コメント>>
・動態研究が不充分な面がある。今後、伐採前・伐採後の観測によって、その動態研究が飛躍的に発展することを期待している。
・東南アジア熱帯林における気象及びCO2の観測は極めて重要であり、より長期的な継続観測が必要である。
・全体として、厳しい評価であるのは、熱帯林の環境保全機能という研究テーマの困難さが大きく関係している。集中的な議論を通じテーマを絞ることで、有効に人材を活用していくことが必要である。

19. F-1野生生物集団の絶滅プロセスに関する研究 (平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 椿 宜高

<研究概要>
小集団は(1) 個体数の偶然変動の影響、(2) 気象などの環境変動の影響、(3) 遺伝的均一化の影響、(4) 寄生、病気、捕食者などの他種の影響、などに対して大集団よりもずっと敏感だと考えられている。しかし、これらの指摘はごく一般的なものにすぎず、どの要因がどの程度重要なのか、調査の進んでいる例は世界的に見てもごくわずかである。また、少集団に分割された個体群(メタ個体群)は、たがいに交流することによってこれらの影響を低減している可能性があるが、その効果については世界的な論争の中にある。これらの問題を解決し、野生生物保全施策への科学的提言を行うことをこの研究の目標とした。

<目標の適切性>
・環境による集団変化と遺伝的変動の関連を求めるという目標は重要である。また、絶滅の過程を、環境変動・生態的要因・遺伝子などの内的要因に分けて検討されており、目標設定も適切であった。

<成果の状況>
・絶滅確率と遺伝的多様性の関係が単純に表せないこと等の期待された成果が得られており、全体として成功課題と評価できる。また、全体として発表論文も質・量ともに高い。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・目的を絞って分析が行われているなど、研究目標を設定後の研究計画・方法等、概ね適切であり、サブテーマ間の連携もうまくいっていると評価できる。
・研究手法として、全体をまとめてシュミレーションを行うことは極めて有効な方法である。

<<総合コメント>>
・サブテーマ(4)-②について、塩基配列を決定したことが最小集団とどう関係するのかが次の検討課題として残されている。
・大きな新しい知見が得られ、達成度も高く、学問的に大きな貢献をなしたが、これを社会にどう還元できるか、政策への利用が将来の課題といえる。
・環境変化と遺伝的変動との関係を解明することは重要な課題であり、理論的モデルをより適切な自然集団の変動に当てはめ、その有効性を確かめることが今後期待される。
・サブテーマ(1)について、FA値の遺伝性及び遺伝機構を明らかにすれば説得力が大きくなるとの指摘があった。

20. F-4 生物多様性保全の観点からみたアジア地域における保護地域の設定、評価に関する研究(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 奥田 敏統

<研究概要>
アジア地域における生物の多様性が急速に失われているため、当該地域の生物多様性の保全は緊急な課題となっている。生物多様性保全を目指した保護区設定には、本来ならば動植物の生息域をポイントごとにマップ化するのが理想であるが、多くの絶滅危惧種を抱え、熱帯林などの生息環境が近年著しく減少していることを考えると、まず、これまでに得られている地理情報や野生生物の繁殖条件などのデータを元に野生生物の潜在的な生息環境の割り出しをおこない、保護区の選定作業を行うことのほうが現実的である。本研究ではこのような背景を踏まえて、パイロット地区における地理情報システム(GIS)を用いた野生生物保護候補地の選定システムの開発を目指し、同時に、これらの地区を含む地域の野生生物保護区情報を標準化したデータベースとして整備することを目的とした。

<目標の適切性>
・個別の研究目標そのものは明確であり適切であるが、タイトル・全体目標と取りまとめ成果にギャップがある。

<成果の状況>
・GISの有効性の検討など、保護地域の設定に係わる資料収集が進んだことは、評価できる。個別の設定目標は、概ね期待された成果はあげたといえる。
・標題にある「保護地域の設定・評価」が、どのようになされなけらばならないのか報告書で触れられておらず、「生物多様性評価手法の開発」とあるが、どういう評価が開発されたのか不明確。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・手法的に、限られた地点で得られたデータを基にしたモデルはどれだけ広くあてはめれれるか疑問が残る。
・今回のデータベース作成に現地の既存のデータを使っているが、その信頼性の確認が求められる。

<<総合コメント>>
・どのような情報をそろえることによってゴールに向かうのかという点の議論が充分でなく、目標を達成に向けた本研究の担当者・分担者間でのブレーンストーミングが必要であった。
・現地に対してどのような国際貢献となったか示すことが求められる。
・自然林と二次林を動物が選択する生物学的な機構を明らかにする必要があろう。今回の観察結果だけからは、環境保全に関する明確な方策は考えにくい。

21. G-2 中央アジア塩類集積土壌の回復技術の確立に関する研究 (平成8~10年度)
途上国
○(課題代表者) 国際農林水産業研究センター 松井 重雄

<研究概要>
耕地の土壌に塩類が過度に集積して生産力が著しく低下する塩類集積土壌問題(塩害)は、乾燥地・半乾燥地に常に発生している問題で、歴史的には巨大な文明を破壊した主要な要因と見なされている。最近、旧ソ連邦における情報が明らかになるにつれ、中央アジアの農業開発に伴うアラル海周辺の環境破壊が地球規模の環境問題として注目されるようになってきた。この間の調査により、塩害は水を多量の灌漑に用い、土壌の透水が悪く地下水位が高くなった部分に集中して現れ、一旦塩害が発生すると発芽障害等により作物生産力が著しく低下する。塩類集積土壌の回復には灌漑水による土壌中の塩類の流去が最も確実な方法であるが、そのために多量の水を用い、結果的に他の場所の塩類集積を助長する状況にある。今後、より有効な水及び土壌管理技術を発展させるためには水利用を最小化するための効率的灌漑技術及び水管理制度の開発を前提に、土壌塩類除去のための土壌改良技術の開発、土壌改良と生産性向上のための有効植物の開発及び新しい輪作体系の確立を行う必要があり、研究を実施した。

<目標の適切性>
・砂漠地帯の最重要課題の塩類集積の問題を解明しようとする現代的なテーマであり必要性は高いが、達成目標の設定に問題があった。事業プロジェクト型の研究課題であり、課題設定時の慎重さ、議論の必要性が指摘される。

<成果の状況>
・土壌中の塩分の移動が詳しく調査されていて、栽培種を育てるための基礎データとして貴重である。
・中央アジアの塩類集積についての情報が得られた点は評価できるが、回復技術の確立まで設定した目標までは至っておらず、全体としての成果達成度は低い。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・目標設定、研究計画と研究体制・経費とのギャップが大きく、問題が大きい。

<<総合コメント>>
・海外における設備投資を含んだ事業プロジェクト型の研究課題は、長期的な継続と腰を落ち着けた研究体制が不可欠であり、国際情勢の変動という要因もあったが、推進費におけるこのようなタイプの研究課題の遂行の難しさを浮き彫りとした課題であった。
・問題点として、計画設定の甘さと人材不足等が上げられる。最終報告のとりまとめが不充分。今後、引き続き得られたデータを整理して問題点を抽出し、国際協力による今後の対策プロジェクトなどへの次のステップへつながるよう成果の活用努力をしてもらいたい。

 

第4分野


<HDP、その他の地球環境問題等>

22. H-4 アジア地域における人間活動による広域環境変化と経済発展の相互影響に関する研究
(平成8~10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 原沢 英夫

<研究概要>
アジア地域の発展途上国では、人口増加や経済活動の拡大は森林減少、自然植生の破壊、大規模な土地改変など広域的な環境変化を引き起こし、地域社会の疲弊や経済発展の基盤となる環境資源の劣化を招く一方、地球の温暖化に代表される地球規模での環境変動を助長している。本研究は、まず、発展途上国では、急激な経済活動の拡大に伴う人間活動の変化が一次産業など人間活動の基盤となる環境資源の持続不可能な利用や森林やバイオマスなどの再生可能資源の不適切な管理の要因となっているとの観点から、人間活動に伴う広域的な環境変化、さらにそれらが地域の人間居住や地域の社会・経済へ及ぼす影響を同定するとともに、これらの人間活動-環境変化の相互影響が地球の温暖化に代表される地球環境問題を引き起こす点を考慮した人間活動-環境変化・温暖化-社会・経済影響を評価するモデルを構築した。このモデルをアジア地域に適用することにより、発展途上国が温暖化を防止するとともに、持続可能な発展を実現するためにとるべき環境保全施策についての提言を行った。研究は、(1)発展途上国における一次産業を中心とした人間活動の変化と環境変化・温暖化の相互作用の解明、(2)人間活動と環境変化を評価・予測するための人間活動-環境変化・温暖化-社会・経済影響モデルの開発と適用、(3)一次産業経済モデルによる持続可能な一次産業生産の方策に関する検討の3つの観点から実施した。

<目標の適切性>
・人間活動―環境変化・温暖化―社会・経済影響を評価するモデルを構築し、持続可能な発展を実現するためにとるべき環境保全施策についての提言を行うという当初の研究目標はおもしろいが、研究成果との間にやや乖離があると思われる。

<成果の状況>
・研究成果は全体としてみると多少問題があるが、個別具体的には成果が認められる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・研究目標に即した研究体制がとられていないため、全体目標とサブテーマの関連性が不十分な点がある。

<<総合コメント>>
・テーマが大きすぎ、対象国が多いため、焦点が絞られていない。調査対象国を限定して課題設定することが必要。今後地域分割したモデルへの展開が期待される。また、研究成果についても努めて公表するようにしてほしい。