平成10年度実施課題中間評価結果一覧(詳細)

第1分野
<オゾン層の破壊、地球温暖化>

 
1. A-3 衛星利用大気遠隔計測データの利用実証に関する研究 (平成10~12年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 笹野泰弘

<研究概要>
本研究は、衛星利用大気遠隔計測データの利用有効性について実証することを目的としている。このため、環境庁が開発している太陽掩蔽法大気センサーによる温暖化関連物質などの測定・データ導出手法を改良することによって、ILAS-II及び後継センサーから得られるデータの解析手法的側面とデータの質的側面で、世界的水準を維持するための研究を行う。 また、これに必要な気体分光パラメータの実験的決定を行う。また、衛星搭載ライダーによる雲・エアロゾル(以下、雲等)の3次元観測データの利用について、衛星搭載ライダーの計測データから雲等の分布情報や光学的特性を導出するためのアルゴリズムを確立するとともに、衛星搭載ライダーによる雲等の観測データを気候モデルへ導入するための手法を確立する。また、有効なデータ利用のための衛星ライダーの運用および、観測データの処理システムの概念を確立する。さらに、ILAS、ILAS-II等で得られる観測データを利用した研究を推進するために、観測データの品質評価とこれらのデータを活用した高層大気環境の解析に関する研究等を実施する。

<目標の適切性>
・研究目標は、人工衛星搭載センサーによる地球大気の遠隔計測に必要となるデータ解析手法の開発であり、研究の必要性は高い。
・研究目標に沿って、各サブテーマはおおむね順調に進行していると評価されるが、太陽掩蔽法による温室効果ガス濃度の測定については、目標設定に一部不適切な部分があり、目標設定の再検討が必要である。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ間の連携はおおむね良好である。

<<総合コメント>>
・観測データの受信開始までにデータ解析手法を確立するために、今後も着実に研究を推進することが期待される。

2. B-1 気候・物質循環モデルによる気候変動の定量的評価に関する研究 (平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 神沢博

<研究概要>
本研究課題では、(1)人為起源エアロゾル、雲、地表水文過程などによってもたらされる気候変動の不確定性を明らかにすること、 (2)全球気候モデルの結果を、森林生態系など各種地表面の影響を取り入れつつ、地域スケールでの気候変動評価に翻訳すること、(3)気候変動と対流圏物質循環、森林生態系間の相互作用を含めた総合的なモデルの基礎を確立すること、の3点を主な目的とする。

<目標の適切性>
・ 研究目標は、大気中のエアロゾルなどに注目しており、ぜひとも実施しなければならない研究である。
・ 地域スケールにしぼった研究も大切である。

<成果の状況>
・研究成果は、全球気候モデルの長期積分のように確実な成果を出しており、また内容としても適切である。
・扱っている研究対象の問題が大きいので、地道な研究が必要である。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・森林・水循環の研究がモデルに組み込まれるまでには時間がかかるだろうが、先行的な研究として推進されているのが良い。
・研究体制は適切だが、研究方法、サブテーマ間の連携に若干の工夫の余地がある。

<<総合コメント>>
・モデルの整合性の検証等は、もう少し客観的な評価基準がほしいところである。
・スーパーコンピューターなど研究インフラが整備されているので、研究の進展は期待できる。
・物質循環モデルの中で、CO2など炭素を対象にする必要があるので、これに対する対応を考慮してほしい。

3. B-2 西シベリアにおける温室効果気体の収支推定と将来予測に関する研究
(平成9~11年度)
重点
○(課題代表者) 国立環境研究所 竹中明夫

<研究概要>
北半球の高緯度地域に広がるシベリアは、温暖化にともなう気温上昇が大きく、永久凍土上の脆弱な生態系への影響が大きいと予想される。また、面積が広大であり、そこでの温室効果気体の発生・吸収プロセスの変化は地球レベルでも大きな影響を持ち得る。さらに、経済システムの変化に伴う乱開発の影響も懸念される。IPCC第2次評価報告書では「高い温度変化が予想される高緯度地帯でのメタンについては正のフィードバックの可能性もあるが、定量化研究は不足している」と評価しているように、温室効果気体の規制戦略を検討する上で、この地域が地球環境に及ぼす影響を解明することは重要である。本研究では西シベリアに焦点を絞り、ここでのメタンや二酸化炭素の年収支の定量的な推定と将来の予測を行うことを最終目標とし、IGBP-NES(北ユーラシア研究)の主要グループとして研究を推進する。

<目標の適切性>
・ 研究目標は、対象が大きいこともあってか、ややポイントが絞りこめていない感があるので、そのような問題点を整理し、目標をさらに明確にした研究計画を立て、実行することが肝要である。
・ 多様な可能性を探った上で、より長期的な研究が望まれる。

<成果の状況>
・ シベリアでの温室効果ガス収支の推定という重要課題に取組み、外国しかも地理・気候的にも社会経済的にも野外観測の容易でない地域で、成果をあげてきた。
・ 各サブテーマそれぞれでは何らかの結果がでているが、全体として見ると最終的な評価モデルに至るには未だ距離があるように見える。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 西シベリアという研究地域を特化したためか、全体的にみるとやや散発的な計測となっているので、全体図が欲しいところである。
・各サブテーマ相互の連携を一層配慮しつつ、地上での実験的研究と航空機による研究の整合性を保つ必要性がある。
・ 個葉によるCO2固定、呼吸などの問題、大気のCO2の8.13C等の問題があるが、全体的な連携に一層の工夫が必要に思われる。

<<総合コメント>>
・ 将来のモデル化をどのように最少面積単位で行うのかを明確にして研究を進めるべきである。西シベリアという地域の範囲や地域特性をもっと活かすことができないか。
・ シベリア全土でどのような収支があるのかや、ミクロ(個別の計測のまとめ)とマクロ(統合的なモデル化)の整合性の検証、場所の統合性など、統合化の方向に計画してもらいたい。

4. B-12 海面上昇の影響の総合評価に関する研究 (平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 建設省国土地理院地理調査部 川口博行

<研究概要>
IPCCの第二次総合報告書によると、2100年には約50cmの海面水位の上昇が予測されている。アジア太平洋地域の国々では、沿岸域の詳細な地形、植生、土地利用、海岸施設等に関する地理情報は、未整備または非公開であることが多い。このため、海面上昇の影響を最も強く受ける地域であるにも関わらず、面的な影響の予測及び評価を困難にしている。本研究では、各種の地理的なデータが比較的得られ易いこと等からタイ国沿岸域を研究対象に選定した。研究の最終目標を、影響の総合評価ガイドライン(マニュアル)の作成及びタイ国におけるケーススタディでの個別の影響評価成果の統合化に置き、アジア太平洋地域の海面上昇の影響について適切な評価を行うための足がかりとすることを目的とする。

<目標の適切性>
・ 目標は明確であるが、対象が水没地域のみでは狭いので、もっと塩水の侵入など広範な研究に拡大すべき。
・ 影響分析の範囲が水没地域のみに限定されている感がある。

<成果の状況>
・ 温暖化によるアジア域の海面上昇の影響と適応に関して、所期の成果が得られている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・タイ現地大学との協力などがよく出来ているものの、全体として各サブテーマ間の連携を密にすべき。

<<総合コメント>>
・沿岸域の生物影響も考慮に入れた研究を実施し、マングローブ林を中心にして総合評価手法をまとめてほしい。
・今後、塩水が内陸部に侵入する地域の炭素固定と、それが農業や生活に及ぼす二次的影響の分析を含めた研究をすべきである。

5. B-16 地球温暖化抑制のためのCH4、N2Oの対策技術対策開発と評価に関する研究(平成7~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 稲森悠平

<研究概要>
 温室効果ガスとしてのCH4、N2Oは多岐にわたる各発生源毎に具体的な対策を講じる必要があり、各分野の対策技術が緊急に求められている。また、コスト・効率性・汎用性等を考慮した適切な評価が必要であり、かつそれぞれの技術に対する総合的な知見の集積が必要不可欠である。更にCOP3ではCO2のみならずCH4、N2Oが重要な削減対象に位置づけられ、削減目標策定においてバスケットアプローチを用いることとなったため、各分野における放出量の精度向上と削減技術の確立が緊急を有する課題となっている。これらの点を鑑み、ここではCH4、N2Oを対象とし、人為的制御が可能な効果的削減技術を開発するとともに各発生源における精度の高い放出量の把握を視野に入れ、我が国のみならず、東北アジア地域の開発途上国においても活用できる技術開発と評価に関する研究を推進することとする。

<目標の適切性>
・目標は明確であるが、対策技術とインベントリー精度向上との2つの目標を同時並行的に研究するものであり、多面的である一方で散漫な研究になりがちであるから、全体を見渡すことが重要。

<成果の状況>
・研究の国内的展開及び、東北アジア地域への研究の展開も適当である。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 基本的に研究体制は適切であるが、各セクター毎の個別の技術にも踏み込んだ研究体制でありインベントリーを網羅できるよう、さらなる総合化が望まれる。

<<総合コメント>>
・ 研究としてはまだ試行的な面が強く、一部の技術開発は十分な評価をして次段階に進むべき。
・IPCCインベントリータスクフォースが我が国に設置されたことから、今後はインベントリーの精度向上と精緻化に力点を置き、IPCCインベントリータスクフォースの活動にも貢献できるような研究とすることが重要である。

6. B-53 都市圏の資源・エネルギー循環と都市構造に係わる温暖化防止対策技術に関する研究(平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 東京大学工学系研究科 花木啓祐

<研究概要>
 都市では、多種多様な社会経済活動が営まれ、かつ高密度に集積しており、それらを支えるために大量のエネルギーが投入され、循環、代謝ののち廃棄されている。この膨大なエネルギーと資源のフローに起因する影響は多岐にわたり、地球温暖化への影響も大きい。また、世界的な人口集中と都市化傾向を鑑みるにその対応は緊急課題である。本研究では、以下のサブテーマの分野における都市活動あるいは都市構造を温暖化抑制の観点から変換していくための技術あるいは方策とその普及のための指針を明らかにする。

<目標の適切性>
・都市の環境について多面的に評価しようとしており、意欲的である。

<成果の状況>
・研究成果は得られつつあるが、研究内容がやや分散気味であり、全体としての成果に工夫の余地がある。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・総合的に取り組む方向は評価されるが、一地区を総合的にみて調査項目を分けていく方がより望ましい。

<<総合コメント>>
・ 研究プロジェクトの構造を常にチェックすることが肝要。
・ 研究の前提条件が限定的なため、それを緩めて他の可能性をも含めて検討し直す必要があるのではないか。
・ 全体としての整合性、特に動的な対応策を評価してコストパフォーマンス、実現可能性を具体的に示して、政策手段、経済的手段に寄与する知見を与えることが望ましい。
・ 評価手法・共通データ整備のフレームワークをうまく示す必要がある。
・ 研究内容が分散的である。もっと全体の統合を考えた内容にすべきである。

7. B-54 アジア太平洋地域における温暖化統合モデル(AIM)の適用と改良に関する途上国共同研究 (平成9~11年度)
途上国
○(課題代表者) 国立環境研究所 森田恒幸

<研究概要>
 本研究は、現在、地球環境研究の総合化の手段として注目を集めている「統合評価モデル」の開発と活用に関する研究である。この統合評価モデルは、広範囲に分散した科学的知見を大規模計算機モデルのプラットホームとして統合し、これらの知見を政策決定の過程に適正かつ体系的に反映しようとするものであり、地球温暖化対策の検討にとって不可欠のツールとして認識されるようになってきた。本研究で用いるAIMモデルは、わが国の代表的な統合評価モデルであり、世界的にもアジア太平洋地域に焦点をあてた唯一のモデルとして既に高い評価を得ている。AIMモデルを適用して、アジア太平洋地域における温暖化対策の必要性とその効果を総合的に評価するとともに、新たな政策ニーズに対応するためにモデルの更新、改良、拡張を図ることを目的とする。

<目標の適切性>
・ 時宜にあったテーマを選び、研究目標をよくフォローしている。

<成果の状況>
・ 国際協力及びIPCC排出シナリオ特別報告書、IPCC第3次評価報告書などへの国際貢献は高く評価され全体として非常によくやっている。国際的評価も高く、大変いいモデルが出来あがっている点で大変評価できる。
・ 途上国においても利用可能なモデルを開発して実際に試験してみる等、アジア太平洋地域の温暖化対策に
関する政策的・総合的研究として高く評価できる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 研究体制は適切である。
・ モデルの改善のためにも、各サブモデルの精度向上と総合的なリンクに力点を置くことが望まれる。
・ AIMモデルのvalidationとそのための体制の整備が必要であるように思える。

<<総合コメント>>
・ ステップを踏んで、途上国への研究技術の移転を地道に行うことが重要である。
・ 対象地域をスケールダウンして途上国に移転する場合の問題点の解明、対応に対する検討が必要。
・ 今後は、途上国のみならず、都道府県、市町村への一般化が重要である。一般化の受け皿の構築も重要であるので、そのための枠組みづくりも提案してほしい。

8. B-55 低環境負荷型都市交通手段に関する研究 (平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 近藤美則

<研究概要>
地球温暖化の主因物質とされる二酸化炭素の発生のうち、自動車寄与分は世界全体でみると約20%に及び、かつ年間約3%の割合で増加している。これらの発生の大半は都市内で生じており、その抑制のためには都市内交通手段の抜本的な見直しが必要である。このような観点から本研究では,近未来に実現可能性のある交通手段として、電気自動車及びハイブリッド車を中心的に、さらに鉄軌道系の交通システムを取り上げ、その技術の可能性、それらの技術を適用した場合の二酸化炭素排出削減効果、社会への適用の可能性について、総合的に研究することを目的としている。

<目標の適切性>
・ 都市システムとしての取扱いといったソフト面からのアプローチを強調した方がよいのではないか。
・ 個別の技術開発に終始することなく、都市圏の全体的な交通体系について斬新的な提言を試みている。

<成果の状況>
・ 所期の目標の成果が得られているが、その全体的なとりまとめにやや工夫の余地がある。
・ 電気自動車のCO2の削減効果について明確な成果を示すべきである。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ ハードとソフトの思想の統一が今後の課題である。ハードパスとソフトパスのどちらが主体なのかを再考してはどうか。
・ サブテーマ間の連携をさらに密にし、積極的に取り組むことが望まれる。

<<総合コメント>>
・ 環境面からみた交通体系のあり方についての方向を明確にすべき等、今後は長期具体的な対応策を提示する方向にまとめる必要がある。
・ 技術的進歩の著しい部分であり、斬新な研究対象に意欲的に取り組み、商業化レベルの技術も加味した研究が望ましい。
・ システムとしての評価の枠組をまとめておく必要がある。特に全体の交通体系としてまとめが必要。

9. B-56 二酸化炭素の海洋固定化に関する研究 (平成10~12年度)
一般
○(課題代表者) 運輸省船舶技術研究所機関動力部 波江貞弘

<研究概要>
 地球温暖化防止京都会議の結果をふまえ、温室効果ガス排出制限の観点から、発電所や地域エネルギーセンター等の集中発生源で二酸化炭素を分離回収し、処分場所として海洋中に貯留する方法は最も直接的かつ効果的な方策と考えられる。その際、二酸化炭素処理対策が海洋環境に及ぼす影響に関する評価技術の確立と技術的ブレイクスルーが極めて重要である。このような背景から本研究では、(1) 二酸化炭素の海洋処理法として、大量処理に適し影響範囲を最小限にとどめるとともに、海洋隔離期間を長く設定することが可能と考えられる深海底貯留法を、また、(2) 二酸化炭素の海洋への投入方式として、二酸化炭素ハイドレート粒子晶析法を取り上げる。深海底に貯留された液体二酸化炭素-海水界面上に現れるハイドレート膜の引張強度、溶解性などの基本的特性を陸上模擬装置により計測し把握するとともに、粒子晶析法における粒子形成プロセス、沈降粒子の挙動を解明することにより、海洋処理による環境負荷と大気中二酸化炭素抑制効果との比較評価を目的とする。

<目標の適切性>
・ 海洋固定化技術の開発のみならず、環境面からの多面的な総合評価・リスク評価が一層望まれる。
・ 海洋固定の開発技術としては、将来を見越して準備しておくべき一つの重要な方法・テーマである。

<成果の状況>
・ おおむね妥当な方向に研究を進められており、所期の成果は得られつつある。さらなる研究として、環境から見た影響の評価も必要と思われる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・ 先駆的な研究テーマについて、研究者どうしで連携のとれたものとなっている。
・ 今後は生態系への影響についても対象範囲を広げることが望まれる。

<<総合コメント>>
・ 海洋固定について、他の代替手段との比較分析がさらに必要ではないか。
・ 海洋固定が及ぼす海洋生物・生態系への影響についての評価方法についても考えてもらいたい。
・ 長期的なタイムスケールでの温暖化抑制技術開発の見通しに立ったうえでの研究が期待される。

 

第2分野


<酸性雨、海洋汚染>

10. C-3 東アジアにおける環境酸性雨原因物質排出制御手法の開発と環境への影響評価に関する研究 (平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 畠山史郎

<研究概要>
中国においては大量の石炭が消費されており、これに由来するSO2も年間1700万トンにも上る。SO2や酸性物質の影響は、自然環境のみならず市民の健康、文化財、人造建造物等にも及び、広く北東アジア全域にも影響を及ぼしている。本研究では、住民の健康被害や周辺の自然環境悪化が指摘されている重慶市を主なフィールドとして、民生用の石炭燃料からの脱硫手法としてのバイオブリケット技術の普及、低含硫ブリケット製造のための乾式選炭技術の開発及び中小ボイラーや民生用燃焼器具からの排出制御手法の開発を第一の目的とした。酸性雨原因物質制御手法が普及した際に環境に与える影響を解明するため、住民の健康影響、室内大気や都市大気への影響、植物影響、文化財や建造物を構成する材料への影響等の観点から環境影響を評価する研究を第二の目的とする。

<目標の適切性>
・研究目標の中では、バイオブリケット技術の開発と評価についてはよい目標設定がなされていたが、サブテーマ(2)の酸性雨原因物質排出抑制手法実施時の環境影響評価に関しては、より高次元の目標を設定すべきとの指摘があった。

<成果の状況>
・バイオブリケット技術と乾式選炭技術の開発については、よい成果が上がっていると考えられるが、今後、スムーズな技術移転を行い、中国国内での生産・普及につなげられるかどうかが課題である。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ(2)については、やや連携の悪い点が見られた。また「影響評価」を目標としながら、一定の影響ないし方向を示す研究となっておらず、クライテリアや評価が不明確であった。

<<総合コメント>>
・今後は、バイオブリケットのコスト低減、乾式選炭技術の精緻化、影響評価に関する手法の洗練を行い、技術移転のよい例となることを期待する。

11. D-2 東アジア海域における有害化学物質の動態解明に関する研究 (平成7~11年度)
重点
○(課題代表者) 国立環境研究所 功刀正行

<研究概要>
 人為起源の有害化学物質による海洋汚染の自然生態系への影響が問題となっており、その汚染の広がりが懸念されている。本研究では、この有害化学物質の海洋における時空間変動の把握、海水から底質への除去・蓄積過程、さらに蓄積された底質堆積物等から底魚類への生物濃縮・蓄積過程を明らかにすることにより、東アジア海域における有害化学物質の動態解明を行うとともに関連データベースを作成する。

<目標の適切性>
・本課題の研究の必要性は高く、研究目標の設定はおおむね適切であるが、さらにデータの集積を進める必要性がある。

<成果の状況>
・やや難易度の高い目標設定も含まれていたが、有害化学物質の挙動について興味深い研究成果が得られた。今後の研究の発展が期待される。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・研究体制についてはサブテーマ間相互の連携をもう少し強化し、プロジェクトとしての統一性を持たせる必要がある。

<<総合コメント>>
・これまでの研究成果を踏まえ、さらに適切な研究体制の整備を行い、データの収集・解析を推進していくことが課題である。

 

第3分野

<自然資源の保全>
(熱帯林の減少、生物多様性の減少、砂漠化、等)

12. F-2 アジア太平洋地域における湿地性渡り鳥の移動経路と生息環境の解析及び評価に関する研究 (平成11~12年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 田村正行

<研究概要>
 アジア・太平洋地域においては、近年、土地利用の改変や開発など人間活動の影響を受けて、森林と湿地の面積が急速に減少しつつある。森林と湿地の減少は、そこを生息地とする野生生物にとって生息環境の劣化を意味し、少なからぬ生物種が生息数の減少あるいは絶滅の危機に曝されている。このような背景のもとで、森林及び湿地を保全し生物多様性を維持するには、森林と湿地の分布及びその周辺の土地利用の実態を把握し、人間による森林と湿地の利用も視野に入れた持続的管理のあり方を探ることが急務である。本研究は、1)森林及び湿地の減少と劣化の実態を、文献・地図情報、現地調査、衛星データ等を用いて把握すること、2)森林・湿地面積の減少など野生生物の生息環境の悪化が、森林・湿地植生と野生生物との共生関係に与える影響を、現地調査、衛星無線追跡、地理情報システム等により解明すること、及び以上の結果を踏まえて、3)森林及び湿地の保全と生物多様性の維持に向けて提言をまとめること、を主要な目的とする。本研究は、アジア・太平洋地域の中でも特に、今後大規模な環境変化が予想される極東ロシアを重要な対象地域としている。

<目標の適切性>
・非常に適切である。さらに、将来的には何を明らかにしていくのか、評価の目標・視角・手順を明確にした上での研究発展が望まれる。

<成果の状況>
・渡り鳥の移動経路について、期待された結果が得られており、湿地生態系を「点」でなく、「面」で保護する必要性についての基礎的資料が得られつつある。
・おおよそ2年がけでルートは判明したが、加えて、営巣地・中継地・越冬地それぞれの環境特性をいかにして把握するか、環境特性として具体的に何に注目するのかを今後明確にしてくことが必要と考える。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・渡り鳥の異動経路の研究については適切であり、新しい手法はうまく働いている。ただし、できれば対象個体数を5-10倍に増加させる必要がある。
・中継地の一部が判明したばかりであるので仕方がない面もあるが、12年度には生息環境の解析について、大量のデータ解析をする必要があると思われる。
・サブテーマ間の連携の強化が望まれる。
・トリの各種ごとの生態的研究内容を加えることが望ましい。

<<総合コメント>>
・生息環境の解析と評価が今後の課題。人為活動の影響度合いも解析と評価に含めていく必要がある。
・営巣地と越冬地との間の中継地には多くの湿地があるにもかかわらず、何故当該地が選択されているのかを明らかにされたい。それによって、営巣地、中継地、越冬地の環境特性の中味がはっきりすると思われる。ツルやコウノトリのいない湿地が、何故利用されないのかを明らかにすることで逆に利用される理由が分かるのではないか。鳥がルートを決めて飛ぶ生理学的な仕組みにまで踏み込めば、環境要因の意味がはっきりする。

13. F-5 サンゴ礁における生物多様性構造の解明とその保全に関する研究(平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 農林水産省西海区水産研究所 澁谷拓郎

<研究概要>
サンゴ礁は海のオアシスと言われ様々な生物が生息し豊かな生態系を形成している。近年急激な開発と環境の悪化により地球的規模でサンゴ礁の衰退が起こっており、緊急に保全に取り組む必要がある。しかし、これらの生物群集相互の関わり合いや多様性構造の維持機構の知見は乏しい。そこで、本研究では①サンゴも含めた生物群集の相互関係・作用の解明。サンゴ-共生藻の遺伝的多様性の解明。②サンゴ群集周辺部砂地の生物群集の定性・定量的測定を基にしたサンゴ群集の健全度を判定するインデックスの作成。サンゴ礁の高い生物多様性維持機構の物質循環及び生物群集の相互作用からの解明。③規模の異なるスケールでサンゴ礁変動を的確に判定できるモニタリング手法の開発。水中で経年的なサンゴの立体構造の変化が記録可能なシステムの作成を行なう。

<目標の適切性>
・珊瑚礁の生物多様性は、珊瑚礁が作るマイクロハビタットがいかに多く出来て、生物がそこを選択するかにかかっており、狙いは妥当である。
・珊瑚礁の生物多様性維持を環境変動に対する生理的特性の変化と含めて研究するアプローチは適切である。

<成果の状況>
・成果は高く評価できる。また、沖縄先島諸島での調査研究で、昨年に発生した白化現象とその回復も含められている点も高く評価できる。
・長期的目標と研究期間内の達成目標を明確に整理して示し、個別の成果と一般化できる原則とに分けた成果のとりまとめを望む。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブ課題(2)-①のサンゴに与える水環境ストレスの効果判断に必要な対照区の設定に検討を要する。
・今後、異なるタイプの珊瑚礁の比較が必要。

<<総合コメント>>
・海水温、光条件、波浪等の物理的環境条件の変動影響を検討項目の中に追加すべき。特に"白化現象"とそれからの関係プロセスに力点をおいて。"保全"の戦略へのつながりを検討してもらいたい。
・地球環境として重要な生物を対象とする研究である。遺伝子DNAを指標としてサンゴの種を分けるにあたり、サンゴの類では、種を越えて変種するケースがあり、種の標識となりうる遺伝子の選定等、慎重な基礎研究が必要であろう。
・珊瑚礁の生物多様性維持問題に様々なアプローチから調整している点で評価でき、これを生かして、ブレーン・ストーミングを行うことによって、本研究においてブレーク・スルーを計れる点を明確にすることが有効であろう。

14. G-1 持続的土地利用のための砂漠防止技術適用に関する実証的研究 (平成10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 清水英幸

<研究概要>
 砂漠化は過放牧、乱伐、耕地や地下水の不適切な管理等を原因として、風食、水食、塩類集積等の様々な現象として現れ、乾燥、半乾燥及び乾性半湿潤地域の広い範囲で土地の生産性を著しく低下させている。このため、人口増加と食糧危機が危惧されている来世紀に向けて、環境を保全しつつ持続的な生産活動が行われるための土地利用計画手法の確立が緊急の課題となっている。そこで、本研究では中国及びオーストラリアの砂漠化進行地域を対象として、砂漠化を防止し修復するための対策技術を評価し、導入可能な対策技術を適用することによって、土地・経済条件に適合した土地利用配置を行うための計画手法の構築を図る。このため、主として放牧に起因する風食地域、並びに伐採及び耕作に起因する水食地域において、これまで行ってきた対策技術の適用効果の評価を基に、地域の自然的土地条件と農業経営に適した砂漠化防止対策の導入による持続可能な土地利用計画手法のあり方を検討する。また、塩類集積地域おいて、日本で開発した要素技術の実証試験の成果を基に、その技術を適切に導入するための体系化を図る。

<目標の適切性>
・本研究は調査だけでなく、実施・実験を基礎にしているが、土壌の脱塩、水分の供給を論ずるためには必要な基礎研究ではある。

<成果の状況>
・当初予期していなかった耐塩性種の傍に非耐塩性種が生育することの発見など新しい知見が得られている。
・風食、水食、熱帯乾燥と各サブテーマはそれぞれよく研究されている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・これまでの砂漠化防止についての研究をもっとレビューする必要がある。
・土地利用についての方策が研究の結果として出てきたが、実際に中国側はどう反応しているのか。中国、オーストラリア共に現地の研究者、研究機関との協力体制はどうなっているかを整理すべきである。

<<総合コメント>>
・サブテーマ(1)では、中国の砂漠化対策の経緯レビューを踏まえた上で、持続的土地利用計画のイメージ、従来の中国になかった本研究で初めて得られた"革新的"な防止技術体系を明確にして、中国NAPへの実質的貢献の可能性を検討してもらいたい。サブテーマ(2)では、鉱山荒廃地の修復には有効だとしても、他のタイプ、地域(例:アフリカなど)への適用可能性に疑問がある。特に農村総合発展計画の一環としての対策行動に対して貢献するための手順の検討など、対象地域の住民、行政組織との意見調整、要素技術の統合化、"社会化"の可能性の視点が欠けている。
・今後の長期的な研究の展開として、土地を利用しながら肥沃化する"体系化"の具体化、放牧のあり方についての考察を期待する。また、脱塩は可能ならば、栽培種を用いて行うのが効果的であることは既に分かっており、耐塩性栽培種をどのようにして見出すかが問題である。

15. G-3 砂漠研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究 (平成10年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 大政謙次

<研究概要>
(1)砂漠化研究の総合化:砂漠化防止対策を展開していく上で重要な位置づけにある以下の2点について、最先端の研究成果を取りまとめる。地域を限定した上で、その地域における一連の砂漠化プロセスを、背景となる自然環境条件と伝統的な土地利用システム、砂漠化の自然的・人為的要因、フィジカルな砂漠化プロセス、砂漠化の人間生活への影響、砂漠化対策とその効果、周辺住民等へ及ぼす副次的影響という流れで総合化し、可能な限り定量化しモデル化を図る。地域の固有性を越えて地球上で普遍的に見られる自然的又は社会経済的な砂漠化プロセスを抽出し、そのプロセスの定量的又は定性的なモデル化を図る。(2)砂漠化防止技術の体系化:既往の砂漠化防止プロジェクトのレビュー及び世界の砂漠化研究者へのアンケートにより以下の2点を明らかにする。対象地域の自然的条件や社会経済的条件に応じて、その地域で効率的かつ効果的な砂漠化防止プロジェクトを分析し、多様な砂漠化防止技術の体系化を図る。今後、最も短期間に開発され効果の大きい新たな砂漠化防止技術を明らかにする。

<成果の状況>
・ 課題の下に検討会開催、その内容に基づいて調査や総合化が行われるのであろうが、明確な成果が見受けられない。課題設定が大きすぎる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・現在の進行状態では技術開発までは難しく、焦点を絞るべきである。

<<総合コメント>>
・終了後10年以上経たプロジェクトの現地立入調査を文献レビューで得られた視点から行うなどして、目的の達成度を高める必要がある。
・あまりに多岐にわたり、収斂する先が見えない。もっと焦点をしぼるべき。たとえばCCDが期待するcommunity levelのBottom up approachに基づく対策行動に的を絞るなどの方向が考えられよう。
・既存ペーパーのレビュー以上の成果を得ようとするならば、現地調査等が必要になると思われる。

16. J-1 人工衛星データを利用した陸域生態系の三次元構造の計測とその動態評価に関する研究(平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 田村正行

<研究概要>
 植生の種組成やバイオマス分布など陸域生態系の空間構造は、地球規模での環境の状態を評価する上で最も基本的なパラメータの一つである。その変化は、熱帯林の減少や砂漠化、生物多様性の減少など地表面の変動に直接的に係わる問題においては勿論のこと、地球温暖化などのより広域的な地球規模での環境変動に対しても地表面での物質、エネルギー収支の変化を通じて大きな影響を及ぼす。このため、生態系の空間構造とその変化を全地球レベルで計測、評価することが地球環境問題に取り組むうえでの最も重要な課題の一つとなっている。しかしながら、局所レベルから全地球レベルまでを対象として、生態系の構造を計測し、その動態を評価することは現時点では極めて難しい。本研究は、陸域生態系の最も基本的な構成要素である植生の三次元構造を計測するための地上調査ならびにリモートセンシング手法を開発し、さらにその動態を評価するための構造変動モデルを開発することを目的とする。平成10年度からは、さらに、温暖化防止京都会議での討議に基づき、植生による温暖化ガスの吸収、放出の評価を行うために、基本的な生態系パラメータの計測について検討を行う。
このため、次のサブテーマにより研究を進める。(1)生態系の構造計測手法に関する研究(計測)(2)スケーリングによる広域生態系の構造評価手法に関する研究(スケーリング)(3)植物構造動態モデルによる植物群集変動の推定モデルの開発(モデリング)

<目標の適切性>
・熱帯林の調査に最も時間をとるのが、樹高の測定である。今後、この方面の研究成果が最も期待される。

<成果の状況>
・植生型の識別についてはリモートセンシングでも可能であるが、種の識別は地上観測が決め手となる。現在得られる生態型のデータが電磁波を使ってかなり得られている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・より密接なサブテーマ間の連携を求める。内外的における関係研究の徹底的レビューにより、何が先駆的、革新的研究であるかを明確にすることが必要である。

<<総合コメント>>
・貴重な技術開発である。多様性の高い森林の変動予測については、種の識別は地上観測等、結局地上での調査が必要となる。今後の発展を期待したい。
・生態系の3次元構造やその動態に関与するパラメータを計測する手法の開発は急務であり、今後の発展を期待して充分サポートすべきである。
・一部のサブテーマでは着実な前進が見られるが、サブテーマ(1)の①-4、(2)-②、(3)以外は、目新しい成果がない。
・サブテーマ(1)は構造計測手法の開発、(2)はその手法を使っての構造評価である。このテーマの場合、植物群体変動については既に基礎的な研究があり、高価な方法を使ってどの程度予測する必要があるのか適用の段階で慎重に検討されたい。

第4分野


<HDP、その他の地球環境問題等>

17. H-1 環境に関する知識、関心、認識およびその相互疎通に関する国際比較研究(平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 青柳みどり

<研究概要>
持続可能な社会の形成のためには、個人および企業等集団の意識改革が必要であることはいうまでもない。本提案課題は、市民を社会の基礎単位の個人、および経済活動の位置主体としての消費者および企業としてとらえ、それぞれの主体について厳密な無作為抽出による社会調査法による調査を実施することにより統計的に個人・消費者・企業の価値観、態度、行動を国際的な比較調査を通じてとらえることを目的とする。最近では国際的に協調した施策が求められており、その効果的導入のためにこうした研究に参加し、日本の特徴を把握していくことが必要である。

<目標の適切性>
・人文社会科学的研究として重要なテーマであり、研究目標として当初掲げられていた複数のプロジェクトを統合させる試みも成果をあげていると高く評価できる。

<成果の状況>
・研究成果についても、当初予想した結果が出ており概ね適切であると思われる。研究そのものに説得力があり、重要性も理解できる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・サブテーマ間の連携もとれており、研究計画及び研究体制も適切なものと思われる。

<<総合コメント>>
・日独、日オランダ等の比較による差が、いかなる政策・施策体系と関連し、今後の行政施策あるいは社会にどのように還元していけばよいかというな具体的な提言までつなげることを期待したい。
・その他、企業への調査をもう少し踏み込んで欲しい、主体の感情や習慣といったものを「科学的」な物差し以外のもので表すような工夫も忘れないで欲しいというような指摘があった。

18. H-2 アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ(QOL)、環境リスク認知・行動に関する研究 (平成9~11年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 兜真徳

<研究概要>
途上国では、活発な開発活動による環境劣化・汚染等の環境問題が顕在化しており、地域環境問題と地球環境問題の両面から「持続可能な開発 (sustainable development)」へのアプローチが模索されている。それら開発活動の活発化は生活水準向上へのデマンドと人口増を2大背景としており、村落レベルでは土地利用の拡大・自然破壊・土地の荒廃・生産性の低下などが、また、大都市レベルでは工業化・都市化による環境汚染及び二酸化炭素排出などの問題が大きい。本研究では、開発活動と環境問題の水準の異なる中国、インドネシア及びインド、開発水準の低いネパール、バングラデシュとパプアニューギニアの6カ国において、それぞれ代表的な中核都市と村落―地方都市系の住民を対象に、そこでの主たる環境健康リスクを評価すると同時に環境リスク認知・行動の実態を調査し、開発によってもたらされる環境問題あるいあは生活の豊かさの変化に伴う健康リスクとそれらに対する住民のリスク認知の変化を環境転換(environmental transition)の観点から整理すると同時に、環境政策や環境教育の在り方などについて、市町村・県・州・国のレベルで具体的に検討することを目的とする。

<成果の状況>
・当初の研究目標と比較し、かなり公衆衛生学的研究に近いものであるが、研究成果についてはある程度得られている。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・開発水準の尺度があまりはっきりしていないと思われる。開発水準をもう少し明確にし、QOLあるいは環境リスクとの関係をはっきりさせるようにすると、具体的解決策をはっきりさせるのに役立つと考えられる。
・研究体制を再検討し、もう少し広い視点(総合的な視点)からの研究、調査に努力し、政策提言的なものが示せればよいのではないか。

<<総合コメント>>
・環境リスクの定義がよく分からない。PhysicalなリスクとMentalなリスクを使い分け、特に後者については強化してもよいのではないか。
・「リスクの認知」というが、得られたデータのどこが認知とつながるのかが不明である。実際に行われた研究の結果から、逆に研究の到達目標と意味づけを検討した方がよいのではないか。

19. H-3 中国における土地利用長期変化のメカニズムとその影響に関する研究(平成10~12年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 大坪国順

<研究概要>
(1)中国の沿岸地域(特に華東地域)と北部、東北部地域に対象を絞り、二つの地域の何処でどのような土地利用変化が起こったか、それは何故か、を定量的に解析する。(2)二つの地域において中長期的にどのような持続性を阻む現象が起こるかを予測し、2kmメッシュのディジタル地図として表示する。(3)土壌荒廃、砂漠化等の環境破壊を回避し持続性のある土地利用を模索した場合のグローバルな食糧需給への影響を検討する。

<目標の適切性>
・研究目標は明確である。
・中国は地球環境そのものに大きな影響を与えるだけの国土の広さと人間活動を維持しており、その研究は地域を越えた重要性を地球環境変動に持っている。従って、この研究計画の目的とする中国の土地利用の変化をGIS手法で評価する試みは評価できる。

<成果の状況>
・研究成果についても当初想定していた結果がある程度得られていると思われる。

<手法・体制・連携等の妥当性>
・研究計画は明瞭である。

<<総合コメント>>
・このような陸域での変化が河川等を経由して海域の変動まで至る複合的なプロセスがこの地球環境研究の中でまとまっていくことを期待している。
・今後、地下水利用について、適切な制度的、政策的検討が行われることを期待する。

20. IR-1 持続可能な国際社会に向けた環境経済統合分析手法の開発に関する研究(平成10~12年度)
一般
○(課題代表者) 国立環境研究所 井上元

<研究概要>
 持続可能な発展において、環境保全と経済発展の両立は最も重要な要素であり、地球環境政策の世界共通の基本的目標である。その具体的目標の設定と達成方策の検討には、環境と経済を同じ枠組みの中で分析できる手法の開発が急務であることから、環境経済モデルと環境勘定を中心に、手法開発を進めてきた。これまで、日本をはじめとする先進国の問題を主な研究対象としてきたが、持続的な国際社会の実現には、発展途上国をはじめとする他国との関係にも視野を広げることが不可欠である。そこで、本課題では、これまでの成果の蓄積を基礎として、持続可能な発展の重要な鍵の一つと考えられる国際公共財や、発展途上国を含む多国間の経済の連関に関わる問題を中心にとりあげ、環境経済モデルおよび環境勘定の手法を適用することにより、環境と経済の統合に係る政策決定の支援に資する分析手法の開発を行う。

<目標の適切性>
・環境経済モデル及び環境勘定の手法を適用することにより、環境と経済の統合にかかる政策決定の支援に資する分析手法の開発を行うという研究目標は、時宜を得たテーマであると思われる。

<成果の状況>
・個々のサブテーマについての研究成果はある程度評価できるが、全体としてのまとまりに欠ける点がある。

<<総合コメント>>
・統合分析手法の統合の方向性が不明瞭であるため、当初の研究目標が達成できるのか検討が必要である。
統合の枠組、連携性を明らかにし、個別研究の体制を組み直すことが必要と考えれられる。